日本細菌学雑誌
Online ISSN : 1882-4110
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66 巻, 4 号
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平成23年浅川賞受賞論文
  • 山本 友子
    原稿種別: 平成23年浅川賞受賞論文
    2011 年 66 巻 4 号 p. 517-529
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/28
    ジャーナル フリー
    生物は生育環境の急変(ストレス)に当たり,影響を最小限にくいとめ,引き続いて起こる類似のストレスに対する防御機構(ストレス応答)を進化の過程で獲得してきた。病原体が感染宿主内で遭遇する最も過酷なストレスはマクロファージ内にあると考え,マクロファージ殺菌機構に抵抗して増殖するいわゆる細胞内寄生性細菌は食細胞内でストレス応答を発動し,産生されたストレス蛋白質が細菌の病原因子となるであろうと推論した。この仮説の実証から始まってストレス蛋白質による細菌病原性制御機構の研究を続け,ストレス蛋白質のLon,ClpXP,DnaK/DnaJがサルモネラの病原性に必須な役割を果たしていることを見出した。特にこれらのストレス蛋白質によるSalmonella Pathogenicity Island1(SPI1)とFlagellar regulonの発現制御の分子機構を明らかにした。さらに,マクロファージ細胞死と炎症性サイトカイン誘導におけるSPI1の役割について研究を進め,感染初期におけるSPI1遺伝子発現制御の意義を明らかにした。又,サルモネラ感染マクロファージでCaspase-8が誘導されることを見出し,この誘導に関わる新規エフェクターを同定した。さらに,バイオインフォマティクスを導入してサルモネラエフェクターの網羅的探索研究を進めた。細菌の病原戦略にストレス応答を組み込むことは新たな概念であり,研究の背景,仮説の実証,その後のサルモネラ病原性研究の展開等,筆者の研究の歴史を追ってまとめた。
平成23年小林六造記念賞受賞論文
  • 松本 壮吉
    原稿種別: 平成23年小林六造記念賞受賞論文
    2011 年 66 巻 4 号 p. 531-537
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/28
    ジャーナル フリー
    結核菌は,飛沫核感染によって,肺を侵入門戸としてヒトに感染する。感染者の約5%が速やかに結核を発症するが,多くの場合(感染者の約95%),無症候感染が成立する。ヒト型結核菌は,ヒトに特化した寄生病原体であり,感染成立後,免疫系は菌を生体から駆逐することができない。現在,無症候感染者は人類の1/3にのぼると推定されている。結核菌をはじめ,ヒトに寄生する病原性抗酸菌は遅発育性である。さらに潜伏感染菌の多くは,増殖を停止しているが死滅しない休眠状態に移行する。遅発育性や休眠現象は,疾患の慢性化や宿主―菌双方の長期生存につながる病原性抗酸菌に特徴的な形質である。一方,無症候結核菌感染者の5-10%で感染菌の再増殖,すなわち内因性再燃が生じる。成人肺結核の多くがこの機序で発症し,現在,年間約100万人以上の命が失われている。このように結核の無症候化(潜在化)と発症は,結核菌自身の増殖と密接にリンクする。以上の背景のもと,結核菌の病原性解析のベースとなる,抗酸菌の宿主ベクター系の構築とその応用を図るとともに,菌の増殖制御メカニズムを解析し,結核菌の生体内増殖を促進する宿主分子や,菌自身の遅発育性や休眠現象に関わる増殖抑止蛋白質を同定した。
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