日本細菌学雑誌
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69 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
平成26年浅川賞受賞論文
  • ―個体レベルの解析―
    中根 明夫
    2014 年 69 巻 3 号 p. 479-489
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    病原性細菌と宿主防御機構は, 両者の攻防の中でお互いの進化を遂げてきた。両者の相互作用を解明するためには個体レベルの研究が必須と考え, 細胞内寄生性細菌であるリステリア(Listeria monocytogenes)と細胞外増殖性細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染系を用いて, 両者の攻防をさまざまな側面から解析してきた。その中で, 感染防御におけるサイトカインの役割の解明, 肥満や糖尿病における宿主感染防御の減弱メカニズムの解明, ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)ファミリー分子を用いた黄色ブドウ球菌ワクチンの開発, SEA の催吐メカニズムの解明について, 筆者の個体レベルの研究の歴史としてまとめた。
平成26年小林六造記念賞受賞論文
  • 垣内 力
    2014 年 69 巻 3 号 p. 491-501
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    黄色ブドウ球菌は表在性膿瘍, 肺炎, 食中毒, 髄膜炎など様々な疾患をヒトに対して引き起こす病原性細菌である。特に, 幅広い抗生物質に対して耐性を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は医療現場において問題になっている。本研究において私たちは, 黄色ブドウ球菌の病原性のふたつの新しい評価系を確立し, 黄色ブドウ球菌の新規の病原性制御因子の同定を行った。まず, 昆虫であるカイコを黄色ブドウ球菌の感染モデル動物として用いる方法を確立し, カイコに対する殺傷能力を指標として, 新規の病原性制御因子を複数同定した。これらの因子の一部は細菌細胞内においてRNA との相互作用に関わることが明らかとなった。次に, 黄色ブドウ球菌が軟寒天培地の表面を広がる現象(コロニースプレッディング)を見出し, この能力の違いを指標としてMRSA の病原性の評価を行った。近年, 高病原性株として問題となっている市中感染型MRSA は, 従来の医療関連MRSA に比べて, 高いコロニースプレッディング能力を示した。さらに, これらの菌株のコロニースプレッディング能力の違いが, 染色体カセット上の特定の遺伝子の有無によって導かれていることを明らかにした。この遺伝子の転写産物は機能性RNA として黄色ブドウ球菌の病原性遺伝子のマスターレギュレーターの翻訳を抑制することにより, コロニースプレッディングと毒素産生を抑制し, 動物に対する病原性を抑制することが明らかとなった。
  • 永井 宏樹
    2014 年 69 巻 3 号 p. 503-511
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    レジオネラは自然界では自由生活性アメーバを自然宿主とする, ありふれた細胞内寄生性細菌でありながら, 一旦ヒトに感染すると肺胞マクロファージに感染・増殖し, 最終的に重篤な肺炎を引き起こす。レジオネラの非常に広範囲の真核細胞中で生存・増殖できる能力を担うのは, レジオネラ全タンパク質の約一割を占めるエフェクタータンパク質群およびこれを輸送するIV 型分泌系である。本稿では我々の研究を中心に, レジオネラと真核細胞の相互作用の分子基盤について概説する。
総説
  • 瀬戸 真太郎, 永田 年, 堀井 俊伸, 小出 幸夫
    2014 年 69 巻 3 号 p. 513-525
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    結核菌は細胞内寄生性細菌であり, 貪食されたマクロファージ内で増殖することができる。結核菌の細胞内増殖能はファゴリソソーム形成を阻害することによって獲得している。一方で, 感染結核菌の排除には, 細胞質タンパク質分解機構であるオートファジー誘導が関与しているといわれている。これまで, 結核菌による細胞内増殖機構を解明するため, 結核菌感染マクロファージにおける小胞輸送について数多くの報告がなされている。本稿では, 増殖ニッチである結核菌ファゴソームがどのような宿主因子で形成されているのかを明らかにする結核菌ファゴソームの分子解剖について解説することで, 結核菌ファゴソームの実像に迫りたい。
  • 中村 修一
    2014 年 69 巻 3 号 p. 527-538
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    スピロヘータは, 細胞内にべん毛を隠し持ち, 螺旋状の菌体をくねらせながら泳ぐ。様々な病気を引き起こす病原体としても重要であるが, その奇抜なルックスと動きは, 細菌学者のみならず, 幅広い分野の研究者たちを古くから魅了してきた。べん毛をスクリュープロペラのように使って泳ぐ外べん毛細菌と異なり, 細胞のダイナミックな変形を利用して流体中を進むというユニークなスピロヘータの運動メカニズムを解明すべく, 現在でも様々な工夫を凝らした計測実験や理論研究が行われている。本総説では, Borrelia, Treponema, Brachyspira といった様々なスピロヘータの形態と運動について, 互いに比較しながら, その特徴をまとめる。また, 私たちのグループが最近解析を進めているLeptospira の運動メカニズムについて, 最新の研究成果を交えながら詳しく解説する。
微生物学の進歩
  • 安倍 裕順, 相川 知宏, 中鉢 淳, 宮腰 昌利, 丸山 史人
    2014 年 69 巻 3 号 p. 539-546
    発行日: 2014/08/29
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    病原菌の遺伝子発現に関する研究は宿主環境を模倣したin vitro の解析を中心に行われ, 新規病原性遺伝子の発見や遺伝子発現制御ネットワークの詳細を明らかにしてきた。さらに, 近年のゲノム解析技術の進歩により病原菌感染時に特異的な網羅的遺伝子発現解析が可能になった。現在, 免疫応答や常在菌叢の変化など感染経過に伴う宿主環境の変化に病原菌がどのように応答し, 感染成立に必要な病原性遺伝子の発現はどう行われるのか, 病原菌による感染成立の全体像を正確に理解する研究が精力的に進められている。そこで, 本稿では感染環境中での病原菌の遺伝子発現に注目した最新の研究やこれを進めるうえで有用な成果を紹介する。
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