病原菌がどのように感染症を引き起こすのか理解することは, 予防法の確立や治療法の開発に欠くことができない。しかし推し進めてみれば, それは宿主と病原菌の非常に複雑な相互作用からなることに気づかされる。我々の研究対象である食中毒原因菌, 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)もまた, 汚染した魚介類から経口的に人に感染した結果として, 炎症性の下痢を引き起こすことが知られている。大阪で発見されてから約70年, これまでいくつもの病原因子が特定されたが, ここ数年, 我々は腸炎ビブリオの持つ3型分泌装置のひとつ(T3SS2)が本菌の下痢原性に非常に重要であることを明らかにしてきた。さらに近年, 2つのT3SS2エフェクター(VopOおよびVopV)を我々は新たに発見し, それらが宿主細胞に異常なアクチン骨格の再構成を誘導することを明らかにした。本稿では, それら新規エフェクターの生物活性および, 動物モデルを用いた下痢誘導活性への意義について得られた知見を述べたい。
大腸菌はO血清群を指標として細分類され, 特に病原性大腸菌の調査や研究においては, 分離株の優先すべき特徴としてO血清群の判定が行われる。O血清群の多様性はO抗原合成遺伝子群の多様性と関連しており, それぞれのO抗原合成遺伝子群に特徴的な塩基配列はO血清群の判定に利用できる。我々はこれまでに定められているO1からO187までのすべてのO血清群におけるO抗原合成遺伝子群の配列を決定し, 保存性と特異性の両面における特徴を明らかにした。さらにその解析結果を基に, O血清群を網羅的に判定できる2つの遺伝学的な手法を開発した。一つはPCRを基礎とするマルチプレックスPCR法(E. coli O-genotyping PCR)で, もう一つはwzx/wzyとwzm/wztの配列セットを用いたBLAST検索による方法(SerotypeFinder)である。いずれの方法で得られる結果も表現型に準じており, 今後, 大腸菌における調査や研究において幅広い利用が期待される。