受光態勢は多くの作物において収量性に重大な影響を与えることが知られており,作物育種における育種目標の一つとなっている.チャ品種において,受光態勢にきわめて大きな影響を与える立葉形質に着目し,葉身傾斜角度と収量性との関連性について検討した.現在日本のチャの栽培面積の約3/4を占める栄養系品種「やぶきた」は日本の在来のチャの中では最も葉身傾斜角度の大きいグループに属していた.また,歴史的に見ると,近代品種はそれ以前の品種と比べて葉身傾斜角度が大きい傾向にあった.さらに葉身傾斜角度は1)保存園中の品種・系統,2)育成系統群,3)保存中の遺伝資源のいずれの集団においても,収量性との関連が認められた.葉身傾斜角度はさらに推定上部可視葉面積と高い正の相関を示すことが確認された.いずれの結果も立葉形質は日本のチャ育種においても,受光態勢を改善し光合成量を増大させることで多収化に寄与していることを強く示唆する結果であった.チャ育種において最大の育種目標は製茶品質であり,製茶品質は遊離アミノ酸濃度や窒素濃度との関係が強い.このため光合成量の増加は「窒素の希釈」による製茶品質の低下に繋がることも危惧される.立葉化等による光合成量の増加とともに,光合成で得たエネルギーを窒素の吸収同化に振り向ける能力の向上も同時に進めてゆく必要があろう.
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