育種学研究
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4 巻, 4 号
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原著論文
  • 島田 尚典, 河野 雄飛, 高田 吉丈, 境 哲文, 島田 信二
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2002 年 4 巻 4 号 p. 185-191
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/03/28
    ジャーナル フリー
    1998, 1999年の2ヵ年にわたり, 耐倒伏性が異なる東北地方のダイズ5品種を供試して, ころび型倒伏に対する耐倒伏性の簡易評価法を検討した. 地上部自重モーメント=地上部生重×重心高, および, 押倒し抵抗モーメント=押倒し抵抗×押高さを7月中旬∼8月中旬にかけて調査した. 地上部自重モーメント/押倒し抵抗モーメント(以下, “押倒しモーメント比”)は, 耐倒伏性が強い品種の方が弱い品種より小さい値となり, 圃場栽培での倒伏程度と正の相関が認められた. 相関係数は調査時期が遅いほど高い傾向があったが, 8月下旬になると倒伏し始める個体が多くなる可能性が高いため, 調査適期は8月上∼中旬と判断した. また, 1999年に東北地方の在来種や刈和野試験地での育成系統21点について押倒しモーメント比を調査し, 大小各4位までの品種·系統を選んで, 2000年に倒伏しやすい水田転換畑で栽培した. その結果, 押倒しモーメント比が大きい群の倒伏程度が明らかに大きかった. 以上より, 押倒しモーメント比をダイズのころび型倒伏指数とし, この指数を調査することにより, 成熟期における倒伏の有無にかかわらず, 確実に耐倒伏性を評価することが可能である. ころび型倒伏指数を算出するためには, 地上部生重および重心高を調査するために地上部を切り取る必要があり, 調査個体から種子を得ることはできない. 立毛のまま調査可能で, 地上部自重モーメントに代用できる計量形質を検討した結果, 主茎長×主茎第一節間の太さ(長径)と地上部自重モーメントの間に高い正の相関が認められた. 従って, 調査した個体から次代の種子を採る必要がある場合には, 地上部自重モーメントの代わりに主茎長×主茎第一節間の太さ(長径)を用いて, ころび型倒伏指数を算出することが可能である.
  • 池田 奈実子, 朴 龍求
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2002 年 4 巻 4 号 p. 193-200
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/03/28
    ジャーナル フリー
    形態的特性から, 韓国産チャ在来種の集団間差を明らかにするとともに, これまでの調査結果と比較して, 韓国産チャ在来種と日本在来種との類縁関係を明らかにした. 材料は, 1993年に韓国南部の6ヶ所の寺及び1ヶ所の農家の茶園から種子で採取し, 日本へ導入した. 農林水産省野菜·茶業試験場内の圃場へ定植して, 植物遺伝資源特性調査マニュアルにしたがって調査を行った. クラスター分析の結果, Hyoi chun myenの農家の集団は, 6ヶ所の寺から採取した集団との距離が大きかった. 6ヶ所の寺から採取した集団は, 成葉が細長く, 雌ずいが雄ずいより長いL型が多く, 雌ずいにくびれがある系統の頻度が高く, 日本在来種とは形態的に異なっていた. 農家から採取した集団は, 成葉は丸く, 雌ずいが雄ずいより短いS型や雌ずいと雄ずいの長さが同じM型が多く, 形態的には日本在来種に類似していて, 1920年代以降に日本から持ち込まれたチャに由来すると推定された. 韓国在来種の中には, 斑入りの系統が1系統あったが, こうろの形質を示した系統はなかった.
  • 大潟 直樹, 田中 征勝
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2002 年 4 巻 4 号 p. 201-208
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/03/28
    ジャーナル フリー
    テンサイ(Beta vulgaris L.)の単胚性一代雑種品種において単胚果実と混在する複胚珠および二胚果実は, 間引き作業が要求される劣悪な果実形質である. 本実験では, 単胚系統における複胚珠および二胚果実の遺伝様式を解明するために, 自殖系統内の複胚珠率および二胚率の頻度分布を調査するとともに両形質について高, 中および低方向の個体選抜実験を行った. また,これらの個体選抜系統を用いた系統間交配実験によるF2分離世代の複胚珠率の頻度分布を調査した. その結果, 母集団の複胚珠率は広く連続的な分布を示し, 選抜した後代は各選抜方向に固定された. また, 高および低方向選抜の世代平均値による複胚珠率の遺伝率は0.55であった. 系統間交配によるF2集団における複胚珠率の分離様式は, 中間親を中心とした連続的な分布を示し, F2集団間の複胚珠率の平均値ならびに分散は統計的に有意に異なった. これらのことから, テンサイ単胚系統における複胚珠果実の出現が量的遺伝子により支配され, 個体選抜により遺伝的に異なる複胚珠率を固定できることが判明した. 二胚率に関しては, 母集団の変異が複胚珠率より低く, 低方向へのみ個体選抜効果が認められ, その遺伝率は0.43であった. このため, 二胚果実の出現が量的遺伝子により支配されていることが示唆された.
  • 丸橋 亘, 小林 真理美
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2002 年 4 巻 4 号 p. 209-214
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/03/28
    ジャーナル フリー
    Nicotiana debneyi Domin.×N. tabacum L. cv. Hicks-2の雑種実生は, 生殖的隔離機構の1つである雑種致死性を示して枯死する. 本研究ではこの雑種実生の致死過程について, 細胞の形態的および生化学的特徴の変化を検証することで, アポトーシスが進行していることを証明しようとするものである. 28°Cで育成した雑種実生の葉から調整したプロトプラストでは, 蛍光顕微鏡を用いた核染色でクロマチンの凝縮と核の断片化が致死症状の進行に伴って観察されるようになった. また, 雑種実生から調整した核をフローサイトメトリー分析したところ, 根では茎葉よりも早い時期にG1期のピークの減衰とサブG1における新しいピークの出現が始まっており, それに遅れて茎葉でも同じ症状が見られるようになることが分かった. DNAのアガロースゲル分析では, 早くも発芽後10日目の雑種実生の根でヌクレオソーム単位でのDNAの切断を意味するラダー像が確認された. これらの症状は細胞死の1形態であるアポトーシスに特徴的な症状であり, 本雑種実生の致死過程にはアポトーシスが発現していることがわかった.
  • 田中 淳一, 太田 (目徳)さくら
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2002 年 4 巻 4 号 p. 215-222
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/03/28
    ジャーナル フリー
    チャの正逆交雑に由来するF1集団(54個体に由来する栄養系)から, 種子親からのみ遺伝するRAPD(以下, 母性遺伝RAPD)を検出した. 1040のランダムプライマーから18, e-RAPD検出中に見出した1, 計19の母性遺伝RAPDを得た. 親子関係の明らかな品種·系統·種間雑種間において母性遺伝を確認するとともに, 母性遺伝の安定性とマーカーとしての再現性を確認した. 検出した母性遺伝RAPDのPCR産物はそれ以外のRAPD PCR産物と比較して分子量が大きい傾向が認められた. これは母性遺伝RAPDがミトコンドリアや葉緑体の1細胞あたりのコピー数の多いDNAが増幅した結果であろう. 5の母性遺伝RAPDをクローン化し塩基配列を決定した. そのうち, 1クローンがアラビドプシスのミトコンドリアゲノム上の配列と高いホモロジーがあったが, 他の4クローンは既知の配列との高いホモロジーは認められなかった. 一般的に高等植物の葉緑体ゲノムはミトコンドリアゲノムと比べて保守的であり, 既にその全配列がいくつかの植物で決定されている. 一方, ミトコンドリアゲノムは葉緑体ゲノムよりサイズが大きく, かつ多型性に富むことから, 高いホモロジーが確認された以外の母性遺伝RAPDもミトコンドリアゲノム由来である可能性が高い. 育種においては, 細胞質の各形質への影響に留意しながら, 耐病性等の観点から, 細胞質の多様性を確保しておくことが望まれる. 母性遺伝RAPDは検出が容易であり, 育種において, 細胞質の多様性確保のための有力な手段である. また, チャの種子は1g内外で高等植物の種子としては大きく, かつ有毒なサポニンを多量に含有するため動物による移動も考えにくい. 従って, 自然状態における細胞質の拡散は非常に限定される. このためチャの細胞質DNAは集団の起源を考察する上で染色体DNA以上に有用であり, 検出が容易な母性遺伝RAPDの利用価値は大きい.
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