植物の根は,作物の栽培上大変重要な器官であるにもかかわらず,その遺伝学的研究は少ないのが現状である.本研究では,イネ内在性レトロトランスポゾン
Tos17の挿入変異系統群であるミュータントパネルを用いて,根の形態に関わる遺伝子の単離を目的として実験を行った.最初に,イネ品種日本晴由来のミュータントパネルのR
1世代5,568系統を水耕栽培し,幼苗期に根突然変異体を分離する系統をスクリーニングした.続いて,後代検定で根突然変異系統と確認された56系統について,
Tos17をプローブとするゲノミックサザン分析による表現型との連鎖解析を行った.その結果,
Tos17でタグされた根突然変異系統が1系統(NC6949)獲得された.詳細な形態観察により,この突然変異体は少冠根,少側根,矮性,細葉及び不稔の表現型を示すことが明らかとなった.この突然変異系統では,第1染色体短腕上に座乗するputative alliinase遺伝子の第3エキソンに
Tos17が挿入されていることが明らかとなった.我々はこの遺伝子を
OsAll1(
Oryza sativa alliinase 1)と名付けた.相補性検定により,
OsAll1のゲノム配列全長を導入した形質転換イネでは,
osall1突然変異体で観察されたすべての形態異常が回復したことから,これらの形態異常は
OsAll1遺伝子の破壊に起因していることが示唆される.一方,イネゲノムには
OsAll1遺伝子を含め4個のalliinase様遺伝子が存在する.カルス,葉及び根におけるこれらの遺伝子の発現様式を解析した結果,これらは独自の発現様式を示すことが明らかとなった.これらの結果から,
OsAll1は進化の過程で他のalliinase様遺伝子と機能的に分化したことが推察された.
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