自殖性作物における3つの異なるタイプの育種法、すなわち交配育種法、突然変異育種法ならびにこれら2者の組合せ育種法の相対的な効率に関するいくつかの知見を、理論的に導き出した諸式によって得た。交配育種法とは、育種素材として選ばれた2つの親間の交配に由来する後代集団に対して選抜を行なう方法であり、突然変異育種法とはそのうちの一方の親に突然変異処理を行ないその後代集団に選抜を行なう方法である。また、組合せ育種法は、両親のF
1個体に突然変異処理を行ない以下同様にする方法である。なお、理論式を導き出すにあたっては、関与するすべての遺伝子座間に連鎖がないことを仮定した。結論は次のごとくである。(1)一般に、突然変異育種法は、育種素材のある限られた遺伝子座あるいは形質のみを改良し他の大部分の遺伝子座あるいは形質は元のままの状態で保持したい場合に有効である。(2)このような場合、突然変異育種法の他の育種法に対する相対効率は、育種上留意すべき遺伝子座あるいは形質の数が多いほど大きいと考えられる。(3)ある素材親のものでの突然変異育種法の交配育種法に対する相対効率は、優良遺伝子から劣悪遺伝子への人為突然変異率(m
1)にはほとんど影響されず、主に劣悪遺伝子から優良遺伝子への人為突然変異率(m
2)によって決まる。一方、組合せ育種法の交配育種法に対する相対効率は、これら両突然変異率の値そのものではなく、これらの比によってのみ決まる。(4)突然変異育種法が組合せ育種法よりも有利であるための条件はそれが交配育種法より有利であるための条件とほぼ等しい。(5)組合せ育種法が交配育種法より有利であるための条件は、上記m
1およびm
2の大きさがあまり違わないかあるいは後者が前者より大きい場合には、突然変異育種法の交配育種法に対する条件よりもかなりゆるやかである。しかし、組合せ育種法の交配育種法に対する相対効率自体は、どのような素材親のもとでもあまり大きくない。(6)突然変異育種法においては、選抜開始期を4世代以上遅らせることはそれ程有利ではない。
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