栽培稲Oryza sativaおよびそれ以外の種をふくむ多数の稲系統について、葉光合成率の差を観察した。葉面積当りの光合成率(P
A)は葉面積当りの窒素含量と正に相関していた。この関係は窒素含量が遺伝的原因によって変った場合も環境によって変った場合も成り立っていた。Oryza officinalisとその近縁種のminutaおよびeichingeriは、栽培稲Oryza sativaに比べて、一般に葉面積当り窒素含量が低く、それに伴って葉面積当り光合成率(P
A)も低かった。これは遺伝子型による差の一例とみることができよう。葉面積当りの光合成率(P
A)の葉面積当り窒素含量に対する回帰は曲線的で、sativaの栽培品種について、2次回帰としての推定が試みられた。この推定によると、本研究で観察されたsativaの栽培品種の最高葉面積当り窒素含量においても、なおP
Aは最高期待値に達していない。それ故、育種(あるいは栽培法の改良)によって、さらに葉面積当り窒素含量を高めれば、なお高いP
Aを実現することができるだろう。葉の単位窒素当りの光合成率(P
N)は葉面積当り窒素含量と負相関の関係を示した。ある植物集団の保持しうる葉窒素の全量に限りがある場合には、葉面積当り窒素含量を増加することは必ずしも植物の生長にとって有利ではない。その上、葉面積当り窒素含量がちがう葉にみられるP
Aの差異は、高照度下においては顕著であるが、低照度下では明らかでない。それ故、葉面積当り窒素含量の高い“厚い葉”を持つことは、葉面積の広い“薄い葉”を持つことに比べて、窒素供給のレベルや日照レベルの低い場合には必ずしも有利でない。officinalisやその近縁種の低い葉面積当り窒素含量は低照度の生育地に対する適応の結果と見られる。葉面積当り光合成率(P
A)の差が、同じ葉面積当り窒素含量を持つ材料の間においても認められた。出穂後に観察された止葉の全部ではないが多数の葉がその葉窒素含量の割には、低い光合成率を示した。人為4倍体の葉も、その葉窒素含量の割には低い光合成率を示した。一方、glaberrimaやbreviligulataの葉は、それらの窒素含量の割には、高い光合成率を示した。これらの結果は、葉窒素含量以外の要因も稲の葉の光合成率の差異に関与していることを示すものである。
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