育種学雑誌
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40 巻, 1 号
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  • / 重永 昌二, Shoji SHIGENAGA
    1990 年 40 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    本研究はライコムギに出現する分枝穂の型と出現頻度が,遺伝的背景や播種時期の違いによりどのように影響されるかを明らかにしようとしたものである.八倍体ライコムギ!系統と六倍体ライコムギ11品種・系統(Table1)を,5回の異なる播種期により栽培し,その結果出現した分枝穂の種類と頻度を調査した(Table2).分枝穂の種類は,穂軸分枝による分枝穂と小穂軸異常による分枝小穂に大別され,前者にはHay-fork形分枝穂,Y-fork形分枝穂,および止葉節分枝穂が見られた(Fig.1).また後者では出現部位を穂の基部,中央部,および先端部に分けて記録したが,基部に出現する分枝小穂の頻度が高く(Table2う,バナナ形双生小穂,対面双生小穂,密生分枝小穂,輪生小穂,角穂分枝小穂等の分枝小穂が出現した(Fig.1).分枝穂の多くは正常穂よつも一穏当たり小穂数および小花数が優り,着粒数が優っていたものは4品種・系統,劣っていたものは3品種であった(Table3).分枝穂の播種期別出現頻度は9月10日播種の場合が最も高く,2月13日および10月13日播種がこれに次ぎ,11月23日,12月24日播種の場合は低かった(Table2).9月播種の場合は幼穂形成期の日平均気温が約5℃の低温になること,2月および10月播種の場合もほぼ同程度の低温に幼穂形成期が遭遇すること(Fig.2)が分枝穂出現頻度を高くする原因の一つと考えられる.分枝穂の出現頻度は品種や系統により異なり,八倍体系統は六倍体系統よりもその頻度が高かった.また六倍体の4品種にはどの播種期の場合も分枝穂が出現しなかった.これらのことから,ライコムギには幼穂形成期の低温に遭遇することによって分枝穂を形成し易い遺伝的背景をもつものと,それをもたないものとが存在するように考えられた.しかし染色体構成や細胞質の違いと分枝穂の型および出現頻度との間には明瞭な関係は見いだせなかった.
  • 大場 伸哉, 菊池 文雄, 丸山 清明
    1990 年 40 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    中国のイネ品種倭脚南特が示す半矮性と脱粒易に関する遺伝子分析を行った.実験には,わが国の水稲品種農林29号と,その遺伝的背景に倭脚南特および台中在来1号の半矮性遺伝子をそれぞれ導入した半矮性準同質遺伝子系統SC-AJNTおよびSC-TN1を用いた.SC-AJNTは脱粒易を示したが,農林29号とSC-TN1はともに脱粒難であった.また,SC-TN1は低脚烏尖の半矮性遺伝子sd-1を持つことが明らかにされている系統である. SC-AJNTと農林29号を交雑した結果,矮脚南特の示す半矮性は単一劣性の半矮性遺伝子に支配されることがわかった.次に,SC-AJNTと半矮性遺伝子sdー1を持つSC-TN1とを交雑したところ,その雑種はすべて半矮性を示し,矮脚南特は半矮性遺伝子sd-1を持つことが明らかになった.脱粒性に関しては,SC-AJNTと農林29号,SC-AJNTとSC-TN1の雑種から,SC-AJNTの脱粒易は矮脚南特に由来する単一劣性の脱粒性遺伝子に支配されることが明らかになった.また,SC-AJNTと農林29号の雑種F2,BC1集団における脱粒性と稈長の分離比から,矮脚南特に由来する脱粒性遺伝子は半矮性遺伝子sd-1と13.7±4.6%の組換価で連鎖することがわかった.
  • 菅 洋
    1990 年 40 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    多くの遺伝的要因が,特定物質の代謝や酵素活性に影響を与える.それらの中で遺伝子突然変異や染色体組成の変化は植物の生活型に影響する主要な要因である.多くの物質の中で生長物質は,植物の生活型に直接影響するので特に興味深い.イネ育種においては,半矮性遺伝子の導入が大きな成功を修めている.矮性形質は,体内のジベレリン代謝や生成に関連があることが知られている.倍数性は植物の生長パターンを変える要因の一つであるが,ジベレリン含量との関連は研究されていない. 現在イネではd-1からd-57(木下1984)までの矮性遺伝子がリスト・アップされているが,相互関係の整理は必ずしも終っていない.これらの遺伝子が一時的に登録されているもののうち,異なった矮性遺伝子記号を有し,かつ今までジベレリンについて未調査の13系統および既調査の1系統について,体内ジベレリン含量を調査し,すでに調査した矮性系統と比較検討した.同時に遺伝子の同定されていない6系統についても調査した. 同質四倍体は初期生育が遅延し,出穂開花がおくれることなどが知られているので,同時に体内ジベレリン含量との関連をさぐるため親の二倍体品種と比較した. 酸性酢酸エチル分画のジベレリン含量を,薄層クロマトグラフィあるいはぺ一パークロマトグラフィで分離後,矮性イネ品種短銀坊主を用いる生物検定法(点滴法あるいは浸漬法)により算出し,生体100g当りのGA3相当量で表わした.
  • 村井 正之, 新橋 登, 楠谷 彰人, 広瀬 昌平, 高牟礼 逸朗, 木下 俊郎
    1990 年 40 巻 1 号 p. 33-45
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    ユーカラ矮性とふ系71号は,それぞれエチレンイミンとγ線によって誘発された劣性の矮性突然変異であり,ともに強い耐倒伏性を有する.本研究では,これらに関与する遺伝子の同定を行った.また,これらの矮性の気温などの環境要因に対する反応を調べた.実験には,ユーカラ矮性の北海道品種しおかりを反復親とした同質遺伝子系統(矮性遺伝子名によりd-12系統と略称),しおかり,ならびに,ふ系71号とその原品種のフジミノリを用いた. それぞれの反復親もしくは原品種とのF1およびF2により,両者が単因子劣性の矮性遺伝子に支配されていることが確認された(Fig.1-(1),(2)).両矮性系統間のF2は,左右対称的な単項分布を示し,且つ,しおかりやフジミノリより明らかに短稈であった(Fig.1-(3),(4)).F1と交雑親の稈長の平均値は,d-12系統ふ系71号F1であった.F2のほとんどの個体は,d-12系統とF1の間に分布した.従って,これらの矮性遺伝子は,全く同一もしくは同一座の遺伝子とみなされた.
  • 山下 浩, 佐藤 光, 大村 武
    1990 年 40 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネの光合成能力に関与する重要な形質の一つである気孔開度に関して,突然変異系統における遺伝的変異の存在および遺伝様式は明らかにされていない. 本研究では,突然変異系統を用い,気孔開度に関する遺伝的変異の存在,気孔開度と光合成能力に密接に関与する形質の一つである気孔伝導度の関係および気孔開度に関する遺伝様式を明らかにする目的で実験を行なった.まず,水稲品種「全南風」から誘発した突然変異89系統を供試し,気孔開度に関して晴天の日の午前中に浸潤法を用いて測定を行ない,気孔開度を1~6に分類したところ,幼穂分化期では原品種の全南風は2前後であり,一方,突然変異系統では1~5に分布し,明らかな系統間差異が認められ,気孔開度が5.0ときわめて大きい系統(CM1787)を見いだした(図1).また,幼穂分化期の気孔開度と出穂期の気孔開度の間には相関が認められた(r=0.65***,図2).さらに,突然変異20系統では,気孔開度と気孔伝導度の間に相関が認められた(r=0.73***,図3).CM1718の気孔開度の大きい特性に関しては単一の劣性遺伝子支配であった(図4).以上のことから,気孔開度が大きい系統を育成することが可能なだけでなく,その遺伝は少数の遺伝子支配である場合もあり,気孔開度は光合成能力の遺伝的向上のための有用な目標となりうることが明らかとなった.
  • 山末 祐二, 谷坂 隆俊, 草薙 得一
    1990 年 40 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    湛水条件下でヒエ属水田雑草種子が発芽するために重要なアルコール脱水素酵素(ADH)の種子多型について京都府および滋賀県の様々な生育地より採種した約200個体のヒエ属水田,畑地雑草を調査した.これらのヒエ属雑草の種子では5つのADHザイモグラム(A3, A1A2A3, A3A4A5, A1A3A5, A1A2A3A4A5)が検出され,個体内変異はなく,種・変種で1つのザイモグラムに集中する傾向があった.すなわち,タイヌビエ(Echinochloa oryzicola,水田雑草)は48中42個体がA1A2A3,ヒメダイヌビエ(E. crus-galli var. formosensis,水田雑草)は19中14個体がA1A2A3A4A5,また,ヒメイヌビエ(E. crus-galli var. praticola,畑地雑草)は60中52個体がA3であった.しかし,水田および畑地に広く分布し,形態的にも著しい変異をもつイヌビエ(E. crus-galli var. crus-galli)はADHザイモグラムにおいても変異が大であった.
  • 斎尾 乾二郎, 林 武司
    1990 年 40 巻 1 号 p. 63-75
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    計量形質の遺伝率や遺伝相関係数などの遺伝パラメータの推定において,従来の方法(ここでは古典的推定という)によって得られる推定量は標本誤差が大きく,しばしばその値がパラメータのもつ固有の範囲(遺伝率では[0,1],遺伝相関係数では[-1.1])を越えてしまうなどの問題点がある.これらの問題点を解消するために,事前の情報をとりいれるベイズ推定を導入した.推定すべきパラメータに関する事前情報は,その固有の範囲の上で定義される事前分布にとりこまれ,得られたデータと組み合わされパラメータの事後分布が与えられる.しかし事後分布は他のパラメータ,表現型平均や表現型分散,共分散などにも依存している.これらのパラメータに関しては,最尤法やモーメント法など従来の方法によって得られる推定量が,良い統計的性質を備えていることが知られている.よって表現型平均や表現型分散,共分散などのパラメータはそれらの古典的推定量で置き換えて事後分布を構成し,推定すべき各遺伝パラメータの事後分布にもとずく期待値を数値積分によって求め,ベイズ推定量を得ることにした.このようにして古典的推定量と組み合わせてベイズ推定量を得る方法を,我々は“ハイブリッドベイズ推定"と呼びその推定量を“ハイブリッドベイズ推定量"と名付けた.本論文ではハイブリッドベイズ推定量の統計的性質をモンテカルロシミュレーションにより半兄弟モデルについて調べ,古典的推定量,および古典的推定量でその値が固有の範囲を越えたものはその境界の値にした修正された古典的推定量との比較を行なった.遺伝率だけを推定する一形質に着目した場合と遺伝率と遺伝相関係数の推定を同時に行なう二形質に着目した場合について調べた.一形質の場合,事前分布として遺伝率が固有の範囲内にその値をとる,という事以外には利用できる事前情報がないとき[0,1]上の一様分布を,それ以外にも專前情報があるときにはそれを反映させたべー夕分布を用いた.いずれの場合もハイブリッドベイズ推定量は,その値が固有の範囲内にあり,不適当な事前分布を用いた場合を除いて,他の二つの推定量に比べ平均二乗誤差が小さいなどの望ましい性質を備えていることが示された(Table 1.2).また二形質の場合,事前分布としての遺伝率については[0,1]上の,遺伝相関係数については[-1,1]上の一様分布をそれぞれ用いた.遺伝率については一形質の場合と同様の結果がえられ,遺伝相関係数についてはハイブリッドベイズ推定量のもつ望ましい性質がより顕著に示された(Table 3,4).つまり古典的推定量は推定不能の場合があり,かつ可能な場合も著しく固有の範囲を逸脱することがあるのに対しハイブリッドベイズ推定量はつねに推定可能であり,平均二乗誤差が小さくその値は常に固有の範囲内にあった.
  • 小川 紹文, 山元 剛, KHUSH Gurdev S., 苗 東花
    1990 年 40 巻 1 号 p. 77-90
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    イネ白葉枯病は広く世界の稲作国に分布するイネの最重要病害で,特にアジア各国においてその被害が著しい.本病の防除手段としては抵抗性品種の利用が最も効果的である.イネ白葉枯病については,これまで主として日本とIRRI(国際稲研究所)で別個に研究が進められていたが,判別品種・菌糸ともに共通のものが使われていないため,双方で見出された抵抗性遺伝子の間の異同については不明であり,研究成果の相互比較・検討が直接的には行えない状態であった.したがってイネ白葉枯病抵抗性遺伝子の各々を一つずつもつ準同質遺伝子系統を育成し,これを共通的な基盤として,病原性の分化の研究ならびに抵抗性遺伝子の同定とその育種的活用を推進する必要があった.これらの観点から,日本農林水産省とIRRIは本病抵抗性に関する共同研究を1982年に開始した. まずIRRIで広く用いられている剪葉接種法が抵抗性品種の遺伝分析に有効かどうかを明らかにし,共同研究実施上の共通の研究手法を確立しようとした.つぎに,共同研究下で日本の判別品種の中国45号とジャワNo.14の抵抗性を日本・フィリピン産白葉枯病菌レースを供試して分析した. 日本で剪葉接種法を用いて早稲愛国群およびジャワ群品種を分析した結果,観察による抵抗性・感受性個体の判別結果と両者の実測病斑長とは一致した.このことから,剪葉接種法は抵抗性の遺伝分析にも有効であると結論された.この分析の過程で,上記品種群のうち中国45号,Zenith,姫系16号,Ortiglia,ZenithG713,Amareriyo,X-46,および中系314は早稲愛国3号と同じ遺伝子,Xa-3をもつが,X-43はXa-3と異なる主働遺伝子をもつこと,アキシノモチと中新120号は量的抵抗性遺伝子によってその抵抗性が支配されていることを明らかにした.
  • 武田 和義
    1990 年 40 巻 1 号 p. 91-101
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    オオムギ5組合せのF2からF4集団を供試し,開花期の穂に非かび病菌を人工接種して耐病性を量的に評価し,その選抜反応と親子相関から耐病性の遺伝率を推定した.選抜反応から推定された遺伝率はF2→F3で0.25程度,F3→F4で0.32程度,親子相関から推定された遺伝率はF3→F4で0.46ないし0.51であった.条性遺伝子v/Vは耐病性に副次的効果を及ぼし,六条型は二条型よりも耐病性が弱かった.
  • 谷坂 隆俊, 富田 因則, 山縣 弘忠
    1990 年 40 巻 1 号 p. 103-117
    発行日: 1990/03/01
    公開日: 2008/04/18
    ジャーナル フリー
    水稲品種コシヒカリ種子のガンマ線照射で得られた,原品種より約30%短稈の半矮性突然変異系 統北陸100号および原品種より約40%短稈でかつ約10日早生の半矮性突然変異系統関東79号の半矮性に関する遺伝子分析を行った.分析にはコシヒカリ×北陸100号,コシヒカリ×関東79号および北陸100号×関東79号のF1,F2およびF3を用い,各組合せともF、では223~334個体,F3では無作為に選んだ100個体の個体刑次代100系統を供試した.北陸100号の半矮性は劣性突然変異で生じた1個の半矮性遺伝子sd(t)(仮称)に支配されていること,ただしこの半矮性は,コシヒカリが持つ配偶子致死遺伝子lt(仮称)が突然変異によって致死作用のない遺伝子ltm(仮称)に変異したために発現し得たものであることが判明した.関東79号の半矮性は劣性突然変異で生じた1個の早生遺伝子ehe(仮称)の多面作用によるものであり,この遺伝子eheと上記配偶子致死遺伝子lt間に相互作用は存在しないことが判明した.またeheは上記sd(t)およびltとは互いに非対立でかつ独立遺伝することが明らかになった.これらの結果は,北陸100号の半矮性遺伝子を配偶子致死遺伝子ltを持つ品種・系統に導入しようとする場合には,交雑後代の個体数を多くする必要があること,また半矮性化と同時に早生化を図りたい場合には,関東79号を交配母本として用いるのが適当であることを示している.北陸100号で検出した半矮性遺伝子sd(t)は、稈形質以外の農業形質に影響を及ぼさないこ と,配偶子致死遺伝子ltと相互に作用し合うこと,並びに同一座の3遺伝子d-47,sd-1およびd-49(t)と座を異にすることから,既知の半矮性ないし矮性遺伝子とは異なる遺伝子と考えられる.そこでこの遺伝子にd-60の記号を与えた.
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