胚乳澱粉中にアミロースを含まないモチ性パンコムギ系統が作出されているが,これらの系統の大部分は,胚乳澱粉に結合するワキシー(Wx)蛋白質のうち,Wx-A1およびWx-B1蛋白質を二重に欠失する関東107号等とWx一D1蛋白質を欠失する品種Bai Huo(白火)との交配により得られている。アミロースの有無以外の形質の状態が原系統とほとんど等しいモチ性系統を得るために,関東107号の種子を突然変異原であるメタンスルホン酸エチル(EMS)で処理し,そのM
2種子からモチ性突然変異体を見いだし,その後代の胚乳澱粉の特性等を検討した。関東107号の乾燥種子約2,OOO粒をO.5%EMS/7%エタノール200mlで4時間処理し,水洗後,バーミキュライトに播種して生育させた。EMS処理種子2,000粒からM
2種子を稔実したM
1植物1,872個体が生育し,M
2種子10,634粒が得られた。M
2種子のうち4,000粒の胚乳の切片を作り,ヨウ素/ヨウ化カリウム溶液で染色した結果,2粒が赤褐色に染色されたため,モチ性であることが示唆された。これら2粒のM
2種子の胚側の半粒を播種してポットで生育させ,178粒および107粒のM
3種子を得た。これらのM
3種子の胚乳はヨウ素溶液で全て赤褐色に染色された。そこで,各M
2植物由来のM
3種子5粒ずつを播種し,M
4種子を得。各M
3植物由来のそれぞれ12粒のM
4種子は全てモチ性であった。これらの結果からモチ性は固定されていると判断し,これら二つの系統をK107Wx1およびK107Wx2と命名した。また,M
3世代の10個体を圃場で生育させ,出穂日および成熟期における農業特性を調査したところ,原品種の関東107号と比べ,これらの系統の出穂日は2-5日遅く,K107Wx2の千粒重が小さい以外,稗長,穂長,草型,穎色および粒色においては,関東107号と差が認められなかった(Tab1e 1)。M
3種子から調製した胚乳澱粉のアミロース含量は0.9%であり,示差走査熱量測定においてもアミロース脂質複合体の融解に由来する吸熱ピークは認められなかった(Fig.1)。また,M
4種子の胚乳澱粉から蛋白質を抽出し,電気泳動法によってワキシ-蛋白質の有無を調べた結果,胚乳澱粉にはWx蛋白質は認められなかった(Fig 2)。これらの結果は,パンコムギにおいても,一種類のWx蛋白質のみが発現している場合には,突然変異原処理がモチ性系統の作出に有効であることを示している。
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