胚乳澱粉に結合するワキシー(Wx)蛋白質のうち,Wx-A1およびWx-B1蛋白質を二重に欠失するコムギ品種関東107号の種子をメタンスルホン酸エチル(EMS)処理することによって得たモチ性突然変異系統,K107Wx1およびK107Wx2,は,関東107号に由来する機能のない2種のWx対立遺伝子,Wx-A1bおよびWx-B1b,とともに,EMSによる突然変異で誘発された機能のないWx-D1対立遺伝子をもつことが推定されていたが,この対立遺伝子と品種Bai Huoに由来する機能のないWx-D1b対立遺伝子との関係は明らかになっていなかった。そこで,この二つのモチ性突然変異系統とBai Huo/関東107号の交配に由来し,機能のない3種のWx対立遺伝子,Wx-A1b,Wx-B1bおよびWx-D1b,をもつことが明らかなモチ性系統,Wx-3およびWx-4,とを交配し,後代検定を行なった。その結果,F
1種子は全てモチ性の胚乳をもつことを認めたが,F
2世代ではウルチ性の胚乳をもつ種子の分離が認められた(Tab1e 1)。また,ウルチ性胚乳をもつF
2種子は,F
3種子における胚乳のウルチ・モチ性の分離(Table 2)から,ヘテロ接合型であることが判明した。これらの結果から,モチ性突然変異系統は,Wx-D1遺伝子座にWx-D1bとは構造の異なる機能のない対立遺伝子をもつことが明らかになった。そして,Wx-D1bをもつモチ性系統との交雑においては,遺伝子内組換えによりウルチ性の胚乳をもつF
2種子が生じたと推定できた。この機能のない新しい対立遺伝子を,Wx-D1dと命名する。Wx-D1遺伝子座内における機能のない2種のモチ性対立遺伝子,Wx-D1bおよび,Wx-D1d,間の組換え頻度は,トウモロコシのWx遺伝子座内における種々のモチ性対立遺伝子間の組換え頻度(O-125×lO
-5)の範囲内にあった。なお,電気泳動法によって,K107Wx1/Wx-4の交配に由来するウルチ性のF
4種子から調製した胚乳澱粉は,関東107号由来のWx-D1蛋白質と移動度が同等な蛋白質を含むことを確認した。
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