育種学雑誌
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48 巻, 1 号
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  • 木原 誠, 高橋 進, 船附 秀行, 伊藤 一敏
    1998 年 48 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    これまでオオムギでは,プロトプラストに由来する植物体およびその後代の培養変異に関する報告はなされていない。そこで本研究では,オオムギプロトプラスト由来植物体の後代を用いて,農業形質に関する培養変異の調査を行った。品種IgriとDissaのプロトプラストより得られた植物体再生当代(Pt1世代)の種子を播種し,幼苗期における形態異常を調査したが,半数以上が正常な形態を示した(Tab1e 2)。これらのPt2個体を圃場にて育成し,農業形質を調査した(Table 3)。その結果,コントロールの植物体に比べ,稈長・穂長は短くなり,出穂期は遅くなる傾向がみられた。また,Pt1世代では低かった稔性(Tab1e 1)は,Pt2世代では回復していた。さらにPt3世代の農業形質を調査したが,Pt2世代と同様の傾向がみられた。これらの結果から,オオムギプロトプラスト再生系より得られた植物体中に,特定の農業形質に影響を与える培養変異が生じていることが示唆された。プロトプラストを用いて作出された形質転換オオムギを育種プログラムに組み込む場合,本実験において観察されたこれらの培養変異が何らかの障害になる可能性があるので,できる限り培養変異の発生を抑制するプロトプラスト培養系を確立する必要があると考えられる。
  • S. M. Mahbubur Rahman, 島田 武彦, 山本 俊哉, 米本 仁巳, 吉田 雅夫
    1998 年 48 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    チェリモヤは中南米原産の亜熱帯果樹で,果皮の形態により,5つのタイプに分類されているが遺伝的特性についてはまだ不明な点が多い。本研究は和歌山県果樹園芸試験場で栽培されている19品種を供試し(Table 1),AFLP法によって遺伝的多様性を検討した。AFLP分析では1つのプライマーの組合せあたり平均10-47の範囲に分布する33個の再現性のある増幅されたバンドが示された。増幅されたバンドの大きさは全てのプライマーの組合せにおいて50-450bpの間に位置した。30%以上(88/264)のバンドが品種間で多型を示した。最も有効なプライマーの組合せ(E-AGT/M-8)では21の多型を示すバンドが見られ,合計88の多型バンドが認められた(Fig.1)。これによりチェリモヤ品種間に大きな遺伝的多様性のあることが確認された。AFLPにより作成された系統樹図(Fig.2)は19品種すべてを区別することができ,それらの類縁関係を推定できた。その類似度はO.33-O.95の範囲にあった(Table 2)。最小値は‘フィノ・デ・ヘテ'と‘オット'または‘サルモン'との間,最大値は‘ベイズ'と‘ベイオット'との間でみられた。以上の試験結果は,たとえ形態学的分類と一致しなくても,AFLPはチェリモヤ品種の系統進化を識別するうえでよい答を与えてくれた。AFLPはチェリモヤ品種間の系統学的な類縁関係を再検討するのに有効な手段であると考える。
  • 木坂 広明, 亀谷 寿昭
    1998 年 48 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    オオムギとニンジンのプロトプラスト融合により3個体(no.1, no.2, no.3)の体細胞雑種を作出した(Kisakaら,1997)本研究では,これらの体細胞雑種植物より誘導したカルスを用いて,雑種カルスの耐寒性及び耐塩性について調査し,オオムギの持つ耐寒性及び耐塩性が細胞融合によって体細胞雑種に導入されたか否か検討した。体細胞雑種カルス,no.2はニンジンや他の体細胞雑種カルスよりも高い耐寒性を示した。さらに,no.2は,NaClやKClに対してもオオムギと同様な耐性を,no.3は,オオムギとニンジンの中間的な耐性を示した。しかし,no.1においては,ニンジン同様にNaC1及びKClに対して耐性を示さなかった。体細胞雑種カルスno.2及びno.3は,ニンジンよりもベタイン含量が高く,また,NaClで処理するとオオムギ同様にベタイン含量が増加した。体細胞雑種及び両親のカルスは,ベタインを補った培地上で培養した結果,旺盛な生育を示したが,生育阻害量のNaC1とベタインを加えた培地上では,NaC1による成長阻害は回避されなかった。以上の結果より,体細胞雑種カルスno.2の耐寒性及び耐塩性は,細胞融合によってオオムギより導入された可能性が示唆された。
  • 森下 敏和, 石黒 浩二, 佐藤 哲生
    1998 年 48 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    ソバ属植物のルチン分解酵素活性の核磁気共鳴(NMR)法による検出について検討した。まず標準としてルチンとケルセチンのプロトンNMRシグナルについて測定を行った。ルチンとケルセチンのシグナルを効率よく取得するために,溶媒であるDMS0と水の大きなNMRシグナルを抑制するため二重照射を行った。その結果,これらのフラボノイド骨格のプロトンシグナルの位置が異なっていることが明らかになった。次に,ソバ粉に酢酸緩衝液(pH5.0)を加えて得た抽出液を粗酵素液とし,DMS0に溶解したルチン溶液に添加し,標準と同様の溶媒系にして,この二重照射NMR法によってソバ数品種の酵素活性を測定した。酵素活性はルチンからケルセチンヘのNMRシグナルの変化として検出が可能であることを明らかにした。すなわち,普通ソバの抽出液を添加した場合にはNMRシグナルに変化は認められなかったが,タッタンソバの抽出液を添加した場合にはルチンからケルセチンヘのNMRシグナルの変化が認められた。このように,NMR法は複数溶媒系を用いた酵素活性の検出に有用であること,また育種におけるスクリーニングの手法として用いることが可能であることを明らかにした。
  • 福山 利範, 山路 聖哉, 中村 晴彦
    1998 年 48 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    雲形病は世界各地に発生するオオムギの主要病害であり,わが国でも日本海沿岸地域でその被害が顕著である。本病に対しては,抵抗性品種の育成が最も効果的である。我々は,すでに1315品種の中から新潟の病原菌に抵抗性を示す17品種を選抜した(Fukuyama and Takeda 1992)。これら抵抗性遺伝資源を育種に利用する場合,雲形病菌の病原性の変異程度を明らかにすることが前提となる。本報告では,北陸地域から多数の菌株を分離し,判別品種に対する幼苗接種試験の結果から,それらの病原性分化と17抵抗性品種の有効性を検討した。1992,93,95年の3カ年で得られた合計38菌株を14判別品種に接種したところ,きわめて多様な病原性分化が認められた(Tab1e 3)。すなわち,38菌株は36の型に分別され,同一地区で採取した菌株間でも判別品種への反応が異なっていた。抵抗性反応についてクラスター分析を行ったところ,南部(福井,石川,富山)の菌株は北部(山形,新潟)のものより寄生範囲の広いことが伺われた(Fig.2)。この結果から,本菌の病原性は遺伝子対遺伝子説に基づく特異的遺伝子の他に,複数遺伝子が相加的あるいは相補的に作用する可能性も示唆された。抵抗性遺伝資源については,14判別品種の内,Brier,Turk,0sirisがいずれの菌株にも高度抵抗性を示したが,既知の抵抗性遺伝子では説明できず,北陸菌株に対する未知の遺伝子の存在が示唆された。一方,17抵抗性品種に32菌株を接種したところ(Table 4),Turkey 22(0UT008),Turkey 208(OUT070),Carre 26(OUB024)の3品種がいずれに対しても高度抵抗性を有し,遺伝資源として有望と考えられた。しかし,Turkey 91(OUT031),Ethiopia 402(0UE134)およびAddis Ababa 4(0UE233)は17以上の菌株に罹病性を示し,北陸地域ではほとんど無効であることが明らかとなった。最近,「ミノリムギ」のみが栽培されている北陸地域になぜ多様な病原性が分化しているのかを解明すること,また多数の菌株に抵抗性を有する品種の遺伝子を明らかにすることが,今後の抵抗性育種に重要であると考えられた。
  • 貝森 のぞみ, 千田 峰生, 石川 隆二, 赤田 辰治, 原田 竹雄, 新開 稔
    1998 年 48 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    性的に交雑不可能なマメ科植物アルファルファ(Medicago sativa L.品種Rangelander)とバーズフット・トレフォイル(Lotus corniculatus L.品種Viking)の非対称融合雑種の育成を行った。アルファルファのプロトプラストには400GyのX線を照射し,バーズフット・トレフォイルには10mMヨードアセトアミドを処理し,ポリエチレングリコール法で融合を行い,改良KM8p培地(Kao and Michayluk 1975)でアガロース-ビーズ法とナース培養法を組み合わせて培養した。生じたコロニーは4mg/lのNAAと2.5mg/lのカイネチンを含むM-1N培地で培養し,155個のカルスを得た。これらカルスを1ヵ月培養後アミノペプチダーゼ,エステラーゼ,グルタメイトデバイドロゲテーゼおよびカタラーゼの4種のアイソザイム分析を行った結果,155カルス中17カルスが雑種性を示した。これらの雑種性カルスの多くは4つのアイソザイムで両親のバンドを合わせ持っていた。また同じアイソザイムで,あるカルスはアルファルファのみ,また他のカルスではバーズフット・トレフォイルのバンドのみを持つ場合があった。さらに,同じカルスで,あるアイソザイムではアルファルファのみ,他のアイソザイムではバーズフット・トレフォイルのバンドのみを持つ場合があることが明らかになった。このことは培養初期には両親の染色体あるいは染色体断片が任意に消失することを示している。しかし,さらに1ヵ月間カルスを培養したところ,ほとんどがバーズフット・トレフォイルのバンドパターンを示し,同じく再生したシュートの全てがバーズフット・トレフォイルのバンドパターンを示した。このことはカルス内でバーズフット・トレフォイルのみのゲノムを持つ細胞が優位に選抜されたことを意味する。培養初期のカルスからの再生シュートは奇形のものが多く,長期培養後は正常なバーズフット・トレフォイルの形態のものが多く出現した。これは長期培養によってアルファルファの染色体または染色体断片が消失した結果によると推定される。また,カルスのサザンプロット解析の結果,共にバーズフット・トレフォイルの核を持つが,あるカルスはアルファルファの,また他のカルスはバーズフット・トレフォイルの葉緑体ゲノムを持っていることが明らかになった。
  • 村井 耕二
    1998 年 48 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    Aegilops crassa 細胞質により引き起こされる,日長感応性細胞質雄性不稔(PCMS)を利用した,雑種コムギ育成のための「二系法」が提案されている(Murai and Tsunewaki 1993.1995)。つまり,PCMS系統は短日条件下(14.5時間以下)では可稔であるため,自殖により維持・種子増殖が可能であり,長日条件下(15時間以上)では不稔となるため,稔性回復系統との他殖により,F1種子生産が可能となる。本報では,この「二系法」の実用性を検討するため,長日条件の得られる北海道端野町での春播栽培により,FI種子を生産し,短日条件の兵庫県加西市で雑種コムギの農業形質の調査を行った。F1種子の生産には,PCMS系統としてAe. crassa 細胞質を導入した農林26号,シラサギコムギ,ジュンレイコムギを,花粉親として稔性回復遺伝子を持つユタカコムギ,ニチリンコムギ,ダンテコムギを用いた。F1種子生産試験の結果,PCMS系統の結実率は14-33%で,F1純度47~88%の9組み合わせのF1種子19~55g/m2を採種することができた(Fig.1,Table 1)。結実率は花粉親によって異なり,PCMS系統よりも長稈の花粉親を用いた場合,高い結実率が得られる傾向にあった。F1種子にはしわ粒や穂発芽粒が混入し,リットル重の減少,発芽率の低下が認められた(Table 2,Fig.2)。F1純度が65%以上のF1雑種4系統について,農業形質の調査を行った。その結果,4系統のF1雑種は全て,両親系統より一穂小穂数が多く,千粒重が大きく,多収であった(Table 3)。最良雑種コムギでは中間親に対して40%,優良親に対して37%の収量ヘテロシスが得られたことから,本システムの実用性が示唆された。また,雑種コムギが両親と比較してリットル重が大きい傾向にあることは,Ae. crassa細胞質を持つ雑種コムギ子実の外観品質が両親より劣っていないことを示している(Fig.3)。
  • 張 林, 服部 一三
    1998 年 48 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    イネガルスからの再分化能には大きな品種間差異があり,培養条件の変更だけでは再分化の効率を高めることが困難であり,種々の生物工学的技術を用いた育種プログラムの適用が難しい場合も多い。いくつかの作物では,高再分化能を発現する主働遺伝子の存在が確かめられ,交配によってこれらの遺伝子を導入し,再分化能の向上が図られた例もある。本実験では高再分化能を示す品種上州を,低再分化能品種の森田早生,農林1号と交配したF1,F2及びF1に低再分化能親を戻し交雑したB1F1,B1F2を用いて,上州の持つ高再分化能の遺伝様式を明らかにすることを試みた。成熟種子を無機塩類および有機化合物をともに1/2濃度にしたMS培地に,3mg/l2,4-D,5g/l yeast extract,30g/l蔗糖,11g/l寒天を添加したカルス誘導培地に置床した。この培地上で形成されたカルスを,無機塩類および有機化合物ともに1/4濃度にされたMSとN6の混合培地に,2.5mg/l NAA,8mg/l kinetin,30g/l蔗糖,3g/l gelriteを添加した再分化培地上に移植した。このような方法での培養を行ったところ,上州では2回の実験で91.67%および89.33%のカルスからシュートの形成が認められ,低再分化能親の森田早生と農林1号では各々僅かに2.33%および3.67%のカルスからシュートされたのみであった。再分化能および低再分化能親のF1は再分化能親と同じ様な高い再分化率を示し,正逆交配の結果も同様であった(Table 1)。F2およびB1F1集団では再分化能に関して二つの異なった型が認められ(Fig.1とFig.2),高再分化能のグループと低再分化能のグループが,各々13:3および1:1の分離比に適合する分離を示した(Table 2)。B1F1を自殖して得られたB1F2系統では高および低再分化能を分離する系統と,分離せずに低再分化能を示す系統が認められ,これらの系統は3:1の理論比に適合した(Table 3)。この結果は上州の持つ高再分化能は,連鎖関係にない,1個の優性遺伝子と1個の劣性遺伝子に支配されていることを示している。筆者らは前報(Zhang and Hattori,1996)でイネ品種愛国と選一に高再分化能を示す1個の優性遺伝子の存在を報告しているが,対立性検定によって,上州と愛国の持つ優性遺伝子が同じであることを明らかにした。この結果から,高再分化能には少なくとも2個の主導遺伝子が関与していることが考えられる。
  • 飯田 修一, 宮原 研三, 西尾 剛
    1998 年 48 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    イネ(品種コシヒカリ)の種子蛋白質形質の突然変異体のスクリーニングにおいて,α-グロブリンを欠失する2つの突然変異系統とα-グロブリンが少ない2つの突然変翼系統が選抜できた。α-グロブリン欠失の特性は単一の劣性遺伝子によって支配されていることが分かった。α-グロブリンのcDNAをプローブとしたノーザン分析で,α-グロブリン欠失系統においてはα-グロブリン遺伝子が発現していないことが示された。これらの系統の突然変異遺伝子はα-グロブリン遺伝子そのものと考えられ,glb-1(t)と名付けた。突然変異体とインディカ品種KasalathとのF2のRFLP分析によって,glb-1(t)は第5染色体上のマーカーC246とXNpb366の間にあり,C246から15.4cM,XNpb366から30.8cMの距離に位置することが分かった。α-グロブリンを欠失する系統はリジン含量が高いことが期待されたが,原品種との比較において差がなかった。この突然変異系統の育種における利用の可能性を論じた。
  • 一谷 勝之, 奥本 裕, 谷坂 隆俊
    1998 年 48 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    出穂性は,イネ品種の地域適応性や生産性を左右する重要な農業形質であり,これに関与する遺伝子がこれまでに多数見出されてきた.その中で,感光性遺伝子座のE1座およびSe-1座は,日本型のイネ品種の出穂性の分化に関わる重要な遺伝子座であることが明らかにされている。一方,インド型品種Kasalathと日本型品種との交雑後代を用いたイネの分子遺伝学的解析は近年著しく進展し,出穂性に関しては,5種類のQTL(量的形質遺伝子座:Hd-1~Hd-5)が見出されている(Yano et al.1995)。本研究では,E1座およびSe-1座に関する各種検定系統とKasalath間の交雑F1およびF2を用いて,Kasalathのこれら2感光性遺伝子座に関する遺伝子型を分析した。次いで,E1座およびSe-1座と上記QTLsとの異同を考察した。その結果,KasalathはSe-1座に不感光性遺伝子Se-1eをもつこと,一方E1座にはE1よりもやや作用力の強い感光性遺伝子E1k(t)(仮称)をもつことが明らかになった。また,E1座はRc(種皮褐色性)座と組換え価5.2±2.9%で連鎖すると推定された。本実験と上記出穂期QTLsに関する結果から,E1座およびSe-1座は,それぞれ,Hd-4座およびHd-1座と同じであることが明らかになった。
  • 相井 城太郎, 長野 美緒, / , 足立 泰二, Taiji Adachi
    1998 年 48 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    普通ソバ(Fagopyrum esculentum)は,ヘテロスタイリーに起因する自家不和合性植物である。一方,その近縁野生種(F. homotropicum)は自家和合性植物であり花の形態はホモスタイルである。これらの間で得られた種間雑種は,ホモスタイリーに基づく自家和合性を示すことが知られている。遺伝分析の結果,ホモスタイルは,ヘテロスタイルに対して優性かつ単一の遺伝子で支配されていることが明らかとなり,この遺伝子をHo遺伝子と命名した。F2181個体からホモスタイルとヘテロスタイルの表現型に基づいてバルクしたDNAサンプルを調製し,それを鋳型にRAPD分析を行った。供試した396のランダムプライマーのうち11のプライマーで,両サンプル間に多型を検出することができた。これらのプライマーを用いて詳細な調査を行ったところ,8つのプライマーの多型断片は偽陽性であることが判明した。残り3つのプライマーで増幅された多型断片を,それぞれOPB141250,0PP81000,0PQ7800と名付けた(F1g.1)。これら3つのRAPDマーカーを用いて連鎖解析を行ったところ,Ho遺伝子と連鎖していることが示された(Fig.2)。連鎖分析の結果,すべてのRAPDマーカーは,Ho遺伝子に対して同じ向きに座乗していることが判明した(Fig.3)。特に0PB141250は,Ho遺伝子からわずかO.6cMの位置にあることが示された。
  • 間 竜太郎, 柴田 道夫
    1998 年 48 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    前報(育雑45:71-74)で報告した,トレニア品種‘クラウンミックス'にneomycin phosphotransferaseII遺伝子,β-glucuronidase(GUS)遺伝子そしてhygromycin phosphotransferase遺伝子を導入した形質転換体の後代植物において,生育ステージにより制御されたGUS遺伝子の不活化現象が観察されたので報告する。ある形質転換体(R0-1;前報におけるtransformant-1)の後代植物において,発芽から4~5週間後のGUS活性を測定したところ,GUS遺伝子座が対になったホモ接合体の方が1つのままであるヘミ接合体よりもかえって低い活性を示すという興味深い結果が得られた(Table 1,Fig.1,2)。ホモ接合体とヘミ接合体におけるGUS活性レベルが,生長する過程でどのように変動するかを確かめるため,発芽後,生育ステージ別に活性レベルを測定した(Table 2)。発芽後5日目と12日目においては,ホモ接合体のほうがヘミ接合体よりも約2倍高い活性を示した。しかし,ホモ接合体では,19日目には12日目に比べて1/10から1/100程度の著しく低いレベルを示し,その後も低い活性のままであった。一方,ヘミ接合体では,54日目まではほとんどの個体が高い活性を示し,その後低い活性レベルになった。ノーザンブロッティングの結果,GUS活性レベルの低下はmRNAレベルの低下と相関があることが示された(Fig.5)。このように,ホモ接合体ではヘミ接合体よりも早い生育段階で急激な活性の低下が観察された.当初,発芽から4~5週間後の植物を用いてGUS活性の測定を行ったため,ホモ接合体がヘミ接合体よりも低い活性レベルを示す結果が得られたが,それは不活化が生じるステージが両者の間で異なることに起因することが示された。特定の遺伝子のmRNAの量がある限度に達するとその遺伝子は不活化されるというモデルが提唱されているが,この結果を同モデルにより解釈すれば,より活性の高いホモ接合体のほうがより短期間で限界点に達して不活化が生じたものと考えられた。
  • Amaury-M. Arzate Fernandez, 谷坂 隆俊, 中崎 鉄也, 池橋 宏
    1998 年 48 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    ユリ属植物の遠縁交雑では,雑種胚は形成されるものの,その後の発育が制限されることが多く,雑種植物の育成はきわめて困難な場合が多い.本研究では,近年,Lilium属の遠縁交雑雑種胚の救済に効果が知られている子房輪切り培養を用いて,従来,不親和性交雑と考えられていたLilium × elegance と L. Iongiflorumの雑種植物の作出を試みた。母本のL.× eleganceの花柱を切断して受粉した後,5,10,15,20,25,30,35,40および45日目にそれぞれ子房を輪切りにして外植片とし,それらをMurashige and Skoog(MS)改変培地に置いた。MS改変培地は,MS基本培地から硝酸アンモニウムを除き,6%ショ糖,50mg/l酵母抽出物および0.25%gelriteを添加したものとした(pH6.3)。また,植物ホルモンはいっさい添加しなかった。胚の発芽は受粉後35日目に培養を開始した処理区(35DAP)でのみ観察され,他の処理区では全く観察されなかった。また,35DAPにおける発芽率は2.5%であった。発芽胚を,培養開始後1~3ヵ月に,1.5%ショ糖,0.25%gelriteおよびO.2%活性炭素粉を添加した1/2濃度のMS改変培地(pH5.8,植物ホルモン無添加)に移したところ,最終的に(7~8カ月後),再分化植物を7個体獲得することができた。これら個体の雑種性を核型,アイソザイムおよびPCR分析によって調査したところ,いずれもL.× elegance と L. Iongiflorum間の雑種であることが明らかになった。以上の結果とこれまでの事例を基に,子房輪切り培養は従来困難であったLilium属の遠縁交雑雑種の作出に有効な方法であると結論した。
  • 乙部 千雅子, 安井 健, 柳沢 貴司, 吉田 久
    1998 年 48 巻 1 号 p. 93-94
    発行日: 1998/03/01
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    六倍体のコムギでもち性のものはこれまで存在しなかったが,最近日本で相次いで作出に成功した。それらのもち性は作出由来が異なり,谷系H1881と谷系H1884は西海168号と谷系A6099の交配組合せ,盛系C-D1478と盛系C-D1479は関東107号と白火の交配組合せから生じ,K107Wx1とK107Wx2は関東107号にメタンスルホン酸エチルを処理した人為突然変異によって生じた。作出されたもち性系統はいずれもWx蛋白質を欠失しているが,それぞれのもち性遺伝子が同じ遺伝子座にあるのか異なる遺伝子座にあるのかは不明である。そこでもち性とうるち性間およびもち性系統間で交配を行い,花粉分析による対立性検定を行った。まず,もち性コムギ(谷系H1881)とうるち性コムギ(農林61号:Wx蛋白質3個もち通常のアミロース含量;関東107号:Wx蛋白質1個もち低アミロース含量)の間で交配を行い,F1個体の花粉をヨウ素ヨウ化カリウム溶液で染色してもち・うるち性の判定を行った結果,花粉の分離比がWx蛋白質の数から推定される期待値(7:1及び1:1)に適合することが確認された(Table 1)。次に谷系H1881と谷系H1884を由来の異なるもち性系統(盛系C-D1478,盛系C-D1479,K107Wx1,K107Wx2)と交配し,F1個体の花粉を集めて同様な分析を行った結果,すべての組合せでもち性花粉のみが観察された(Table 2)。したがってこれらの系統のもち性遺伝子は同じ遺伝子座に座乗する対立遺伝子であると推察された。しかしながら,これらの対立遺伝子における遺伝子内の構造的な差異については明らかではない。
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