育種学雑誌
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9 巻, 4 号
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  • 野口 弥吉
    1959 年 9 巻 4 号 p. 205-211
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    水稲の催芽種子を高温または低温で処理した場合,出穂が早まつたという報告もあるが,それを否定した結果も出ていて,その効果は確認されていない。そこで正確な実験によつてその点を明かにしようとした。、(1)低温処理出穂期を異にする16品種を用い,催芽種子を10日乃至80日間平均温度2~5℃.で低温処理した後,栽培して出穂期並びに出穂までの主稈出葉数を調べたが,何れの場合も全く処理の効果は認められなかつた。なお,養分の関係を考慮した実験でも,低温処理は出穂期を変えることはなかつた。(2)高温処理出穂期の異る6品種の催芽種子を平均27~30℃.の高温に20日,30日,45日間保つた後栽培して出穂期並びに止葉迄の主稈葉数を調べた。高温処理した場合は,むしろその期間だけ出穂期が遅れ,何れも葉数はふえた。従つて,水稲の幼穂形成に対する温度の影響は小麦の場合とことなるもののようである。
  • 水島 宇三郎, 近藤 晃
    1959 年 9 巻 4 号 p. 212-218
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    インド稲の1品種Surjamkhiと農林1号との間のF1は完全稔実性で僅かの程度の花粉不稔性を示すが,F2以後に不規則な部分不稔個体の分離がみられる。この報告ではこの雑種で観察された不稔性とは直接には関係ないとみられる花青素による〓先着色の異常分離を報告し,両品種間に染色体構造の差異を示唆した。Surjamkhiの〓先色は暗紫で農林1号のそれは赤色である。両者の〓先色に関する遺伝子型はそれぞれCBSpAおよびCBSpaと決定された。両者の間のF1の〓先色は暗紫で,F2では暗紫:赤=3:1の分離が当然期待されたが,事実はこれに反してF2全個体数の約30%の〓先無色個体出現がみられた。〓先無色個体の出現機構について考察が行われ,出理頻度の高いこと,F3系統で更に異常な分離が観察されたこと,F3無色個体の既知遺伝型の分析品種との交雑結果等から,関係遺伝子の劣性突然変異によるとは考えられないと結論され,成熟分裂に異常性を与えぬ程度の微小な包含逆位や潜性転座等による遺伝子座のずれが示唆されたが,決定的な結論は次の報告にもちこされた。
  • 福井 重郎, 後藤 虎男
    1959 年 9 巻 4 号 p. 219-226
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    結実日数の短,中,長の大豆品種,黄莢(IIa),農林2号(IIb),岩手2号(IIc)を材料とし短日及び高温が子実の発達過程に及ぼす影響の品種間差異を内部形態的に調べた結果,次の様た事が明らかにされた。1.自然区に於ける子実の発達段階の進み方は,黄莢,農林2号,岩手2号の順におくれ,子葉が出来始めるのはそれぞれ10日目,15日目,25目目であり,胚の形態的完成はそれぞれ30日目,35目目,50日目であった。2.短日条件によつて各品種とも結実日数が短縮されるが,子実の発達過程の上からは,胚発達の初期及び結実後期の2つの段階が特に短縮され,品種間では黄莢,農林2号,岩手2号の順に短縮の程度が大きかつた。3.高温による子実発達段階促進の程度は短日に比べて小さかつた。4.自然区に於ける子実の長さ及び莢の伸長は胚の発達過程と同様に,黄莢,農林2号,岩手2号の順に遅くなつた。子実の長さ及び莢の伸長は矩日及び高温によつて促進されたが,その促進の程度は概して黄莢,農林2号,岩手2号の順に大であつた。
  • 川瀬 恒男, 村田 伸夫, 山根 国男
    1959 年 9 巻 4 号 p. 227-236
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    1.水稲の出穂期を支配するE3,E4およびE5遺伝子に関する7種類の固定系統について,種々の日長処理を行い,E3,E4およびE5遺伝子出穂期に対する支配ヰ機構を究明した。2.各遺伝子型の日長感応性獲得期は播種後35~40日で,遺伝子型によつて多少の早晩があり,E3.E4およびE5遺伝fがその早晩性にわずかながら関係しているものと推定される。3.日長感応性獲得後,E3,E4およびE5遺伝子の日長に対する反応は,12~13時間日長条件下ではほとんど発現しないが,14時間以上の日長条件下においてその特異性を発現する。4.これら3遺伝子の日長に対する反応の程度の強さには,E3,E5くE4なる関係があり、この関係はageの大小に、立つて変らない。5.7種類の遺伝子型の自然日長条件下における幼穂分化期は限界日長によって決定される。しかして,E3,E4およびE5遺伝子は幼穂分化のための限界日長を短縮させる働きを有し、E4遺伝子はE3,E5遺伝子よりもその働きが強い。6.E3,E4およびE5遺伝子を多く有する遺伝子型ほど,また日長時間が長くなるほど出穂日がおくれる。これは日長処理後幼穂分化まで日数,および幼穂分化後川穂まで日数の増加による。出穂に対する短日処理の効果はageが進むほど増加する。7.以上の結果から,E3,E4およびE5遺伝子の出穂期に対する立配機構について考察を行つた。
  • 角田 重三郎
    1959 年 9 巻 4 号 p. 237-244
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    葉面積並びに葉面当りの同化能力に差がなくても,同化系の様相が異なると他物の物賃生産量が異なることは既に早くB0RSEN JENSENらにより指摘された。本報は多収品極の同化系を表題に示した個々の葉の3属性により解析しようと試みたものである。(1)個々の葉の形態(a)英の面積重量比率:甘藷大豆,稲を通じて少肥向品種は面積重量比率の大なる葉いわば“薄い葉"を持つように選抜されて来ている。葉の面積重量比率は葉面積比率(前報)を左右している主要因の一つで,これが大であると植物の生育が促進される。しかし多肥条件では“薄い葉"を持つことは徒に葉の重なり合い程度を強化するばかりで有利でなく,“厚い葉"を持つた方が光が有効に利用される。(b)葉面のの大きさと形:多肥条件で葉が茂り合うとき1葉面積を比較的小とした方が全葉に均等に光を分配する上に有利であり、多肥向品種の多くが小型の葉を持つのは1つにはこのためであろう。一方また葉面の大小やや形は上記の葉の面積重量比率などの重要特性とかなり密接な相関関係を持つ。(2)稲品種間には葉面の傾斜角度について差異が見られた。少肥向品種は“薄い菓"をさらに水平的に保つて少肥条件下不足しがちな葉量を以て可及的多くの光を受け止める態勢をとつている。一方多肥向品種は葉を直立的に保つ傾向を持つが,この態勢は多量に形成される葉に平等に光を配分するのに有利である。ただし多量の葉を機能良く保持する今1つの道として上に述べた“厚い葉"を持つ道があることに注意しなければならない。(3)“直立的は葉"を持つことと“厚い葉"を持つこととの重要な相違点は,葉を傾斜させても生育初期における分散光受光量およびガス交換表面積に変化がないのに対し,菓を厚くすると直射光受光量と伴つてこれらも同時に減少し初期化生育速度の低下が著しいことである。多肥向ではあるが比較的疎植に適する稲品種が,直立的のしかし比較的薄い葉を持つているのはこのためと考えられる。相当の裁植密度で極多肥栽培を行う場合の品種としては以上つの方途を併用することが有利と考えられ事実稲の極多肥密植向品種は直立的の厚い葉を持つ。(4)稲,廿藷,大豆通じて,少肥向品種は個体として“疎散型の葉配置"をとり,多肥向品種は“密集型の葉配置"をとつている。疎散型の葉配置をとれば少くとも生育初期にはすべての葉が良く光を受けることができて生育が促進されるだろう。これが少肥向品種がこの型の葉配置を示す理由と考えられる。一方、多肥条件で葉が良く茂る場合には,個体群の受光量は個体としての葉配置の如何に殆んど関係がなくなり,この場合には個体として密集型の葉配置をとつた方が以下の理由により有利と考えられる。(a)葉の配置は個体内の葉同志の方が個体間の葉同志より良く規整されている。(b)葉が混み合つた条件に適応した葉を発達させることができる。(C)茎および葉柄,葉鞘,中骨などを量的に節減しうる。(d)個体と個体との間に“同化系の谷間"が形成され,混み合つた葉に均等に光とガスを分配するのに役立つ。(5)葉緑体~同化細胞~同化組織の水準での同化系の様相が葉緑体の形態,向き,配置の3者によつてよく把握しうるように,菓~個体~個体群の水準での同化系の様相は葉の形態,向き,配置の3者により表わせるように見える。さらに,(a)“厚い小型の葉"と“直立的な葉位置"と“密集型の葉位置"を組合せた同化系と,(b)“薄い大型の葉"と“水平的な葉位置"と“疎散型の葉配置"を組合せた同化系が存在する。前者は典型的多肥向品種の同化系であつて,この態勢は土地面積当り同化組織が潤沢に形成される場合にすべての葉にすべての同化組織に可能な限り平等に光を分配するのに理想的のものである。後者は典型的少肥向品種の同化系で,土地面積当り少量しか同化組織が形成されない時に植物の利用しうる光線量を可及的増加するのに理想的である。
  • 藤井 太朗, 村松 清二
    1959 年 9 巻 4 号 p. 245-252
    発行日: 1959/12/20
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    植物の放射線感受性は本質的には遺伝子組成によつて決定されるが,倍数性や生理状態によつても変化することが知られている。筆者らは甜菜,ダイコン,イネ,コムギ,タバコなどを用い.発芽率,草丈,生存率などについて倍数性と放射線感受性との関係を調べた。甜菜,ダイコン,レンゲ,トウガラシ,スイカの同質四倍体はそれらの二倍体よりも著るしい抵抗性を示した。異質倍数体で野生イネでは倍数性と感受性との関係は明らかでなかつたが,栽培種に最も近い2xのO.sativa f.spontaneaが最も抵抗性であつた。コムギの倍数休では2xが最も感受性が高かつたが,4xと6xの間では明らかな差が見られなかつた。さらにタバコではn=9~24の染色体数を異にした数種を用いて実験を行つた結果,アメリカ種では染色体数の最も多い N.rusica, N.tabacum が最も抵抗性であつたが,反対にオーストラリア種では染色体数の最も多い N.Debeneyi が最も感受性が高かつた。この結果同質四倍体は二倍体に比べて明らかに抵抗性を示すが、異質倍数体ではそのゲノム遺伝子構成が異なるため,感受性との間に平行関係が現われない場合が生じるものであろう。
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