児童青年精神医学とその近接領域
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57 巻 , 2 号
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特集 乳幼児精神医学
  • 野邑 健二
    2016 年 57 巻 2 号 p. 225-233
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    乳幼児精神医学は,周産期から3歳ぐらいを対象として,主に乳幼児と親との間の関係性の障害を扱う精神医学である。精神医学に限らず,多領域が関連して研究・臨床が行われている。子ども側,親側,双方に要因がある場合が認められるが,多くの場合は,子どもと親との間で相互に影響を与え合って,病態を形成している。診断は,DSM-5やICD-10などでは適応が難しい状態もあり,乳幼児用の診断基準(DC:0-3R)なども用いられている。親子の関係性の障害に影響する要因として,母親から乳幼児への母親自身の養育体験の投影,乳幼児の愛着形成とそのパターンが挙げられる。乳幼児への精神療法には短期危機介入,発達ガイダンス,親-乳幼児精神療法があり,状況に合わせて用いられている。臨床現場では,児童精神科医療の他に,心理相談室,周産期医療,母子保健行政などでも実践が行われている。

  • 才野 均
    2016 年 57 巻 2 号 p. 234-243
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    近年,自閉スペクトラム症(ASD)への支援では,乳幼児期の神経発達の可塑性を措定し,児の環境との相互作用をより適応したパターンへと変化させることを通じて,社会認知にかかわる神経回路のより定型的な発達とASD症状の減少をもたらすことが目指されるようになってきている。本論文では,乳幼児期に対人反応性の異常を呈したASDリスクをもつ乳幼児と家族への,筆者の精神医学的支援の実際について紹介した。家族とともに児の注意の方向や興味に合わせて遊びながら,家族の育児への不安や悲しみを支持的に傾聴し寄り添っていくうちに,児の安心感や社会的刺激への関心と,家族の育児への自信が強くなり,親子相互作用が改善されていく様子が観察された。今後,ASDリスクをもつ乳幼児と家族への支援についての研究と地域療育システムの整備がさらに進んでいくことが望まれる。

  • 青木 豊
    2016 年 57 巻 2 号 p. 244-253
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,乳幼児期に「神経症」が存在しうるとすれば,どのような状態が臨床的な有用性をもって仮定できるかを探求することである。その過程で,乳幼児期の精神病理の把握の困難さを示すことも1つの目的とする。そのため,まず神経症と幼児神経症概念について振り返り,次に乳幼児期の「神経症状態」を仮定する。同状態は,精神障害とその時点および後の発達のリスク状態を含む。その成立要件は,第1により軽症病理の状態か,あるいは後の軽症の病理のリスク状態であること,第2に病因論として,心因が重要な役割を果たすこと,第3に関係性特異性があってもその状態を含んで良いことの3条件である。最後に,これら状態のより具体的な候補を挙げる。

  • 斉藤 まなぶ, 吉田 恵心, 髙柳 伸哉, 安田 小響, 足立 匡基, 大里 絢子, 中村 和彦
    2016 年 57 巻 2 号 p. 254-260
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    近年,自閉スペクトラム症(ASD)の有病率の増加が注目され,ASDの病態解明や早期診断,早期介入についての研究が世界的に盛んに行われている。ここでは,ASDを中心とした発達障害の,国内外において推奨される早期診断について文献を通じて整理し,わが国における5歳児健診の現状と課題について考察する。海外の研究では,疫学調査やバイオマーカーが多数報告される一方で,ASDには後になって診断基準を満たさなくなる中間表現型が存在することが報告されており診断面での課題である。わが国では1965年に制定された母子保健法に基づく乳幼児健診が広く普及しているが,法定健診による乳幼児健診では,注意欠如・多動性障害(ADHD)や特異的学習障害(Specific Learning Disorder),知的障害を伴わないASDなどでは発見が困難である。このため,国の政策に発達障害の早期発見,介入に向けた取り組みが盛り込まれ,地方自治体による5歳児健診の実施が推奨されている。しかし,5歳児健診は1歳半や3歳児健診のような法定健診ではなく全地域の実施には至っていないこと,また実施されている地域においても評価が標準化されていないことなど多くの課題がある。さらなる科学的な検証が必要である。科学的な解明により,ASDをはじめとする発達障害に対する認識や具体的な支援は今後変化していくであろう。乳幼児健診が歴史的に乳幼児死亡の減少に貢献したように,ASDを中心とした発達障害の早期診断,早期支援への貢献が期待される。

  • 山下 洋
    2016 年 57 巻 2 号 p. 261-272
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    母子関係が子どもの心身の発達過程に与える影響の大きさは数十年にわたる発達早期の情緒発達に関連する臨床研究の成果により実証され,母子の関係性は乳幼児精神保健の重要なターゲットとなっている。近年の周産期医学と発達脳科学の橋渡し研究は母親の脳機能の妊娠,出産,子育て期を通じた可塑性とストレスや精神疾患による変化,さらに母子への治療的介入による回復過程をあきらかにしている。

    DC 0-3R(Zero to Three)など発達早期のこころの問題の包括的な診断手続きも開発され,関係性障害は多軸診断の重要な要素として乳幼児精神保健の臨床的フォーミュレーションの中に位置づけられるようになった。母子関係の問題には母親側の問題としてボンディング障害,周産期の精神疾患,特に心的外傷後ストレス障害があり,乳児側の要因として神経発達のリスクや難しい気質,過剰な泣きや哺育障害などがある。これらの問題に対し母子二人組みや家族を対象として,相互作用や愛着表象に働きかける精神療法的介入が数多く開発されている。発達早期の乳幼児-親精神療法の有効性の検証には縦断的研究が必要であり,さまざまな子育て支援の実践からの知見が蓄積されている。

  • 亀岡 智美
    2016 年 57 巻 2 号 p. 273-282
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    一般に乳幼児は,危機的状況でアタッチメント対象に接近し安心感を得ようとする。しかし,家庭内虐待の場合,本来はアタッチメントの対象となるべき主たる養育者から虐待される,あるいは,主たる養育者が無力で子どもを守れないなどのため,子どもは,虐待行為によるトラウマ(心的外傷)を受けるとともに,守られるべきアタッチメント対象をも失うという二重苦を体験することになる。被虐待体験によって,アタッチメント形成が障害された子どもには,感情を適切に表出し制御する能力がうまく育たず,暴力的な問題行動やひきこもりが増える傾向が認められている。そして,将来にわたる対人関係全般に問題が生じることが少なくない。一方,被虐待体験による安全感や信頼感の喪失が,その後のアタッチメントの修復を阻害する要因となる場合も多い。最近の報告では,養育者の感受性を高める介入がアタッチメントの修復に最も有効であり,期間限定で焦点化した,目的が明確な介入が有効であったとされている。トラウマの観点からみると,虐待を受けた乳幼児のPTSD 診断は容易ではないが,侵入症状や再演,それらの引き金となる想起刺激,不安や恐怖の般化,非機能的な認知などの表出のされ方をよく知り,アタッチメントとトラウマの両面から子どもをケアすることが重要である。

原著
  • 本間 博彰, 奥山 真紀子, 藤原 武男, 江津 秀恵
    2016 年 57 巻 2 号 p. 283-297
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    【研究の背景】本研究は巨大な自然災害が幼児の精神面に及ぼす影響を調べたものである。2011年3月11日に発生した東日本大震災は,Magnitude 9の地震とそれに引き続いて発生した巨大津波による歴史的な災害を引き越し,18,000名を超える死者と行方不明者および38万人を超える仮設住宅生活を余儀なくされた被災者を出した。子どもについては,700名を超える犠牲者に加えて,250名の孤児と1500名を超える遺児が発生した。多くの教訓を内包したこの度の東日本大震災に限らず,わが国は世界で最も自然災害の多発する国のひとつである。【研究方法と対象】本研究は,東日本大震災の際に数次にわたる連続した心的外傷体験に曝露し生命的危機の中を生き延びた保育所の幼児71名に対して保育所および進学先の学校と連携してケアと3年間の経過観察を行い,研究の条件の整った32名についてPTSDおよびTraumaと関連する精神疾患(以下PTSD関連疾患と称する)の実態と臨床経過を調査したものである。【結果】幼児期の子どもにおいてもPTSD関連疾患の発生率が高いことや,子どもは多彩な症状を示すことが明らかとなった。PTSDの主要症状の再体験症状や過覚醒症状が子どもにも広く認められていたが,注目すべきは意識の狭窄症状を示す感情鈍麻(Numbing)や解離(Dissociation)が最も多く出現していたことであった。また災害発生時の親の付き添いの有無や家族的問題がPTSDの発現や悪化および遷延化の要因の一つとなることが示唆された。【考察】幼児期の子どものPTSD関連疾患の発生頻度は決して低くはなく,かつ感情鈍麻や解離などの症状は初期の支援者や養育者に見逃されやすく,被災地のメンタルへルス従事者にあらためて注意を喚起する必要がある。幼児はPTSD関連疾患の受傷のみならずその後の心のケアにおいても親の影響を受けることからPTSDの悪化としてのComplex PTSDなどに対する予防的な視点も不可欠となる。

研究資料
  • 境 玲子, 飯田 美紀
    2016 年 57 巻 2 号 p. 298-309
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    皮膚は個人と社会との境界であり,皮膚と精神の状態は相互に影響することが知られる。DSM-5改訂では,抜毛や皮膚むしり・爪噛み行動など身体を対象とする反復行動を総称する“Body-focused repetitive behaviors (BFRB)”(身体集中反復行動)との用語が記載された。皮膚症状を伴うBFRBの多くは精神医学的問題を有するものの,精神科を受診する例は少ない上,精神症状の治療は容易ではない。精神症状と反復行動の持続から,創部の感染や瘢痕を生じる例もあり,皮膚科では治療的対応が問題とされてきた。

    DSM-5改訂ではBFRBにおける強迫性が重視され,DSM-IVでは衝動制御障害に分類されていた抜毛症(hair-pulling disorder, trichotillomania)が「強迫症および関連症群(obsessive-compulsive and related disorders: 以下OCRDs)」へ再分類された。また,新たに病名として採用された皮膚むしり症(skin-picking disorder, excoriation disorder)と身体集中反復行動症(body-focused repetitive behavior disorder)もOCRDsに分類された。BFRBをOCRDsに含めた今回の改編は,皮膚科と精神科の臨床的接点を検討する精神皮膚科学(psychosomatic dermatology, psychodermatology)の重要性を示す。

    本稿ではBFRBの観点から,抜毛症,皮膚むしり症,皮膚の掻破行動とアトピー性皮膚炎の関連について検討した。また,抜毛とアトピー性皮膚炎を有する自験例の精神医学的特徴を検討し,児童精神科での治療,皮膚科との連携について考察した。

  • 岡田 香織, 柴田 由己, 能島 頼子, 小島 里美, 福元 理英, 野邑 健二
    2016 年 57 巻 2 号 p. 310-322
    発行日: 2016/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)は児童の適応と精神的健康状態を測る尺度で,世界中で広く利用されている。しかしわが国では,教師版の研究や臨床評価との関連を見た研究はあまりない。

    われわれは小学1年生307名を対象とし,保護者および教師にSDQへの回答を依頼した。加えて教師に児童についての聞き取り調査を行い,心理的・社会的機能をChildren’s Global AssessmentScale(CGAS)を用いて評価した。これらを用いて,教師評定SDQと保護者評定SDQおよびCGASとの関連を検討した。

    276名より回答が得られた。その結果,保護者評定SDQと教師評定SDQでは,全般的困難度(Total Difficulties Score,以下TDS)と多動・不注意では中程度の相関が認められた。ただ,平均値や分布が異なるため,保護者と教師で別の基準を設ける必要が認められた。

    CGASによる評価の結果,適応困難児は8.0%であった。CGASと,教師評定SDQにおけるTDS,行為面,多動・不注意との間に比較的強い相関が認められ,学校場面で行為面や多動・不注意の問題が多く認められる児童ほど適応困難に至りやすいことが示唆された。

    CGASの臨床評価をもとに,教師評定SDQによる適応困難児の判別を検討した結果,12点をカットオフ値とすると感度が0.86,特異度が0.87となり,教師評定SDQは教師が適応困難を感じている児童を抽出する上で有用であると考えられた。

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