児童青年精神医学とその近接領域
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57 巻 , 5 号
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特集 子ども虐待とケア
  • 田中 究
    2016 年 57 巻 5 号 p. 705-718
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    近代になって子ども虐待は民間福祉機関や個人によって気付かれ, 子どもの保護が始められ, それを公的機関, 司法が支援してきた。しかし, そのことで市民社会からは見えにくくなっていた。Kempら(1962)の「殴打された子の症候群(Battered Child Syndrome)」の報告は, 子ども虐待対応の枠組みを, 福祉モデルから医療モデルに変化させた。こうして, 子ども虐待は再発見されたのである。虐待された子どもの現す特異な行動は, 心的トラウマの症状として診断され, 社会病理ばかりではなく養育者の精神病理が虐待の要因として捉えられるようになった。その上で, 子どもの心的トラウマを評価し, 治療することの知見や研究が積み重ねられ, 治療技法が考案されている。さらに, 基本的なアタッチメントへの理解がすすみ, アタッチメントの再構築についても議論されるようになった。こうした治療的な関与には医療だけではなく, 福祉, 保健, 教育, 司法がそれぞれ相補的な役割を果たし, 協働していくことが一層重要である。

  • 友田 明美
    2016 年 57 巻 5 号 p. 719-729
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    小児期のマルトリートメント(不適切な養育)経験は高頻度に精神疾患の発症を招き, 脳の器質的・機能的な変化を伴うことがわかってきた。たとえば, 暴言虐待による聴覚野容積の拡大や両親のDV目撃による視覚野容積の縮小をもたらし, うつ病や PTSD, 認知機能の低下を引き起こす。他の被虐待経験によるヒトの脳に与える影響も明らかになってきた。単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが, より多くのタイプの虐待を一度に受けるともっと古い皮質である大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす。さらに反応性アタッチメント障害を持つ青少年たちには線条体におけるドパミン機能異常が明らかになってきた。不適切な養育体験と子どもの依存リスクが脳科学的にも密接に関連している可能性が示唆される。

  • 髙岡 昂太
    2016 年 57 巻 5 号 p. 730-737
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    本稿は, 性虐待の定義, 性虐待をめぐる多職種・多機関ネットワーク, 専門職が知っておくべき最低限の知見, そしてグローバルスタンダードとなった性虐待の多職種・多機関連携を行うためのChild Advocacy Center(CAC)モデルを検討する。介入と支援を一箇所で展開するCACが機能するには10個の認定基準があり, ①医療-福祉-司法の多職種・多機関連携(Multi-Disciplinary Team), ②文化的多様性と問題への対応力, ③司法面接, ④被害者支援とアドボケイト, ⑤全身医学的評価, ⑥メンタルヘルス支援, ⑦チーム全員での事例検討会, ⑧ケースの追跡調査, ⑨組織的な能力(研修など), ⑩子どもを最優先にした設定がある。今後日本においても性虐待をめぐるネットワークを進化させるために, 医療-福祉-司法のMDT構築を促進する仕組みが必要である。

  • 亀岡 智美
    2016 年 57 巻 5 号 p. 738-747
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    近年, 虐待された子どもたちを, トラウマの視点から評価しケアすることの重要性が, 国際的にも強調されている。Trauma-focused cognitive behavioral therapyは, 被虐待児のトラウマへの第一選択治療として推奨され, 国際的に最も効果が検証されている認知行動療法である。わが国における実施可能性も検討され, 報告されている。本稿では, わが国での実施症例を提示することによって, プログラムの概要を紹介するとともに, 被虐待児ケアにおけるPTSD評価とトラウマ治療の重要性について考察した。

  • 浅野 恭子, 亀岡 智美, 田中 英三郎
    2016 年 57 巻 5 号 p. 748-757
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    いまや施設は被虐待体験のある子どもが大半をしめるという状況になっているが, 子どもが示すさまざまなトラウマ症状が理解できないため, 支援者も子ども自身も無力感と孤立無援感を強める事態となっている。本稿では, 児童福祉システムにトラウマインフォームド・ケアを取り入れるため, 大阪府児童相談所が継続的に取り組んできた児童心理司研修の実践とその成果を検証するためのアンケート調査の結果を報告する。継続研修により, 児童心理司の意識と行動に有意な変化が見られたことから, 子どもにとって安全で持続可能な支援システム構築のためには, 段階的な児童心理司育成と継続的研修が必要と考えられる。

  • 藤林 武史
    2016 年 57 巻 5 号 p. 758-768
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    虐待環境から分離した後, 社会的養護環境が回復を促す基本的な要素として, 暴力被害を受けることのない安心安全の環境, 養育者との継続的なアタッチメント, 家庭の保障が重要である。しかし, 現在の日本の社会的養護は, 大規模施設を中心とした施設ケアが大きな割合を占めている。大規模施設では子ども間暴力が発生しやすく, 養育者とのアタッチメント形成も困難である。里親養育は未だ発展途上であり, 特別養子縁組は法制度上の制限があり十分機能していない。2016年5月に成立した改正児童福祉法においては, 家庭養育原則が明記された。これを受けて, 里親養育や養子縁組, 小規模施設ケアが地域の中で増えていくことが期待できる。そのためには, 児童精神科医や心理士等による専門的な支援は, 地域ベースで拡大していくことが必要である。そして, これらの専門家からの支援には, 被虐待児童へのケアにとどまらず, 里親や養親, 小規模施設職員をエンパワメントし自信が回復できるような助言やサポートが期待される。

  • 犬塚 峰子
    2016 年 57 巻 5 号 p. 769-782
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    虐待で分離となるのは児童相談所が扱ったケースの7%程度という現状があり, 虐待を受けた子どもたちの多くは, 家族とともに地域で暮らしている。地域で中~軽度の虐待の問題を抱える親と子どもに対する支援が始まりつつあるが, 人手や有効な支援や治療プログラムが不足している状況であり, 今後の虐待対策の課題の一つとなっている。

    虐待の支援の目的は, 子どもが虐待の有害な影響から回復し, 自尊感情を獲得して健全な発達を遂げられるようにすることである。その目的に向かって, 親の虐待的な養育行動を変化させ, 家庭が子どもの心身の成長を培う土壌となるように, 家族支援が行われる。親だけでなく子どもや親子へのケアも併せて必要となることが少くない。

    親の孤立を和らげ, 生活上のストレスを軽減させ, 家族のストレングスと主体性を引出す中で虐待が軽減していくが, それだけでは虐待問題が解決に向かわないことをしばしば経験する。特に被虐待歴を有している親の場合は, 適切な養育を身につけ親子関係を再構築するには治療的・教育的ケアが重要な役割を担っている。米国で有効性が実証され最近日本に導入された, 親と子どもと双方を対象としている治療プログラムAF-CBT(Alternatives for Families: A Cognitive Behavior Therapy)を紹介し, 虐待問題を抱えている家族の治療に有効と思われる構成要素(安全プラン, 心理教育, 感情調節, 思考の再構成, ペアレントトレーニング, 虐待行為の責任の明確化と謝罪など)について詳しく述べた。

症例研究
  • 本多 奈美, 小林 奈津子, 菊地 紗耶, 工藤 亜子
    2016 年 57 巻 5 号 p. 783-807
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    我が子が病の終末期に至ることは, 親にとって想像を絶するような体験であろう。この状況において, 医療者が親の苦痛を軽くすることは容易ではない。終末期の子どもを持つ親を前にした時, 医療者にできることはあるのだろうか。本稿では, このような状況にあったある母へのかかわりを報告した。

    母Aの息子Bは, 胎児期に腹壁破裂と診断された。出生時は腹壁から脱出した腸管が壊死し, 超低出生体重に伴うさまざまな症状がみられた。治療を開始したが, 状態は悪化した。Bが生後7カ月時, Aは筆者のもとを訪れた。

    Aは看護師であり, 気丈にBの看病をしていたが, 語られる内容は苦悩に満ちていた。筆者は圧倒され言葉を失いながらAの心情を聞き続けた。不安を軽くしたいと考えたが, Aは話をすると落ち着くと語り, 筆者はAが語りを必要としていることに気づいた。以降, 筆者は, Aの語りを聴き, 沈黙を共にすることを続けた。これは, 痛みを痛みとして受けとめる体験であった。

    その約1カ月後, Aと夫は, 危篤状態のBを連れて帰ることを決意し, 自宅で父母と親族とでBを看取った。Aの苦悩と哀しみは深く, その後も筆者はかかわりを続けた。

    本例へのかかわりにおいては, 一定の枠組みを持ちながらも柔軟に対応すること, 精神医学的アセスメント, 受動的かつ能動的に語りを聴きながらAを含めたその場を安定させること, 沈黙, Aへの注意と関心を保つことに意義があったものと思われた。

  • 早田 聡宏, 東 晃子, 中村 みゆき, 中西 大介, 西田 寿美
    2016 年 57 巻 5 号 p. 808-828
    発行日: 2016/11/01
    公開日: 2017/05/17
    ジャーナル フリー

    学習障害(LD)は学力習得の困難以外に, 学校および日常生活における自己評価の低下, 自信喪失を生じ, 不登校や社会不適応へつながる可能性も考えられる。本症例では, 小学1年の初診時, 注意欠如・多動性障害の診断とともにLDの存在が疑われた児が, 交通事故による治療中断期間を経て, 思春期の年齢において学校不適応をきたした。そして, 母子密着もあり不登校が約3年間と長期化したことを契機に当園への入院治療を導入した。

    本児への18カ月間の入院治療の中で, LD診断確定とともに徐々に社会性を獲得し, 自己評価の向上もみられた。さらに, 長期不登校が改善し高校進学へとつながり, その後も順調に社会生活を送れている。入院当初の本児および両親の不安や葛藤を傾聴しながら関係を構築していくことが重要であり, 信頼関係を築けた結果, 治療の方針も定まったと考えられた。

    通院や通所による支援では治療が限定されるが, スタッフとの信頼関係の下, あすなろ学園の入院プログラムに沿った学習および生活の両面を把握しながらの多職種の連携によって, より効果的な治療および家族支援ができたと考えられた。

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