児童青年精神医学とその近接領域
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58 巻, 5 号
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第57回日本児童青年精神医学会総会特集(Ⅱ)
テーマ:児童青年精神医学のこれから
シンポジウム1:ADHDの併存症の診断と治療
シンポジウム2:ライフサイクルから考える児童精神医学─他の専門領域との連携─
シンポジウム3:自閉スペクトラム症の早期療育の現在
シンポジウム4:子どもに対する薬物療法の功罪
シンポジウム5:性的虐待の被害児童を支援する─福祉・医療がするべきこと─
シンポジウム6:災害後の「子どもの心のケア」に不可欠な視点─中長期の多層的観点から見えるもの─
原著
  • 船曳 康子, 村井 俊哉
    2017 年 58 巻 5 号 p. 713-729
    発行日: 2017/11/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    目的:Achenbach System of Empirically Based Assessment(ASEBA)の原本に従い,Child Behavior Checklist for Ages 1½-5(CBCL/1½-5)およびCaregiver-Teacher Report Form(C-TRF)の日本語版の標準値作成を試みた。

    方法:CBCL/1½-5では1,422人(男児699人:女児723人)の素点をもとに,「情緒反応」,「不安/抑うつ」,「引きこもり」,「身体愁訴」,「睡眠の問題」,「注意の問題」,「攻撃的行動」の症状群尺度で,C-TRFは337人(男児150人:女児187人)の素点をもとに,「睡眠の問題」以外の症状群尺度で,それぞれの内向尺度,外向尺度および全問題尺度でT得点を算出した。信頼性と妥当性は,Cronbachのα係数と各尺度間の相関および確認的因子分析で適合度を検討した。CBCL/1½-5では,性と年齢の影響を見るため重回帰分析を行った。

    結果および考察:CBCL/1½-5はα係数の全体平均は.73で,C-TRFは.72となり,どちらも内的整合性は良好で,尺度間の相互相関は全て正で有意で,確認的因子分析では,C-TRFの外向尺度以外は,適合度指標に問題は見られなかった。重回帰分析では,男児の方が「情緒反応」,「引きこもり」,「注意の問題」,「攻撃的行動」に有意な影響を与え,年齢群では,低年齢群が「睡眠の問題」,「注意の問題」,「攻撃的行動」に,高年齢群が「不安/抑うつ」と「引きこもり」に有意な影響を与えていた。

    結語:ASEBAは国際的な実績を持ち,様々な歴史的文化的背景の国々と比較することが可能である。日本の標準値を作成することで,国際比較を通し,我が国の就学前児の行動評価に貢献すると考えられた。

  • 船曳 康子, 村井 俊哉
    2017 年 58 巻 5 号 p. 730-741
    発行日: 2017/11/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    目的:ASEBA(Achenbach System of Empirically Based Assessment)の原本に倣い,11歳から18歳までの本人によるYSR(Youth Self-Repot)の行動チェックリストについて,日本語版による標準値作成を試みた。

    方法:参加者889人(男児440人:女児449人)を男女別に分けて,素点をもとに,「不安/抑うつ」,「引きこもり/抑うつ」,「身体愁訴」,「社会性の問題」,「思考の問題」,「注意の問題」,「規則違反的行動」,「攻撃的行動」,内向尺度,外向尺度および全問題尺度のT得点を算出した。信頼性および妥当性の検討は,Cronbachのα係数,尺度の相互相関およびASSQ(The high-functioning Autism Spectrum Screening Questionnaire)を用いた。さらに症状群への男女の影響について重回帰分析を用いて検討した。

    結果および考察:尺度全体でのα係数は.81で,内的整合性は良好であった。尺度間の相互相関は全て正で有意であり,ASSQとも正の有意な相関を示しており,尺度としての妥当性に問題は認めなかった。また,重回帰分析の結果からは,男児が,「注意の問題」と「規則違反的行動」および「攻撃的行動」において問題を生じる傾向があった。

研究資料
  • 武井 明, 鈴木 太郎, 土井 朋代, 土井 準, 富岡 健, 廣田 亜佳音, 泉 将吾, 目良 和彦
    2017 年 58 巻 5 号 p. 742-756
    発行日: 2017/11/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    高機能の自閉症スペクトラム障害(ASD)患者が成人後に示す就労状況については十分検討されていない。そこで,今回われわれは,児童青年期から経過観察できた高機能のASD患者が示す成人後の就労状況を明らかにするための調査を行った。対象は18歳以下で当科を初診した高機能のASD患者のうちで,成人後も通院を継続している56例(男性21例,女性35例)である。調査時の平均年齢は24.1歳で,経過観察期間は平均9.3年であった。DSM-IV-TRによる診断では自閉性障害8例(14.3%),アスペルガー障害19例(33.9%),特定不能の広汎性発達障害が29例(51.8%)であった。最終学歴は高校卒業以上が39例(69.6%)を占めていた。併存症状は初診時に56例全てに認められ,最も多かったのは不登校で48例(85.7%)であった。一方,成人後の併存症状は32例(57.1%)に認められ,最も多かったのはひきこもりで15例(26.8%)であった。成人後の就労状況では,就労している者が15例(26.8%)(正規雇用は5.4%),就労支援事業所などに通所している者が17例(30.4%),無職者が24例(42.8%)であった。また,就労している者では併存症状を有している者が有意に少なかった。以上の結果から,成人後まで通院を継続しているASD患者では,知能が高くても正規雇用され自立した生活を送ることのできる者はきわめて少ないことが明らかになった。また,併存症状の有無が転帰に影響を与える可能性が示唆された。したがって,通院を継続している高機能のASD患者に対しては,青年期以降も切れ間のない継続した支援が成人期まで必要であると考えられた。

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