児童青年精神医学とその近接領域
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59 巻, 5 号
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特集 児童精神科領域におけるトランジション
  • ─総論として─
    田中 恭子
    2018 年 59 巻 5 号 p. 551-561
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    移行期医療とは,小児ケアモデルから成人ケアモデルに切り替えていくプロセス(過程)の医療ならびにその関連支援を指す。移行の目標は,青年期患者の自己管理能力を最大限に引き出す支援を行い,個々の患者が自らに適切な医療を活用することである。このためには,小児患者がその成長に伴い,自らの健康情報や健康管理スキルを身に付け,成人ケアモデルに対する心構えを習得し,ケアを中断することなく新しい医療提供者に移行できるよう支援する必要がある。成人移行支援には,患者の自律(自立)支援と医療体制整備の2つの大きな課題があり,これら双方が両輪として機能することで,初めて適切な移行期医療が促進される。自律(自立)支援とは,小児患者が成長する過程においてヘルスリテラシーを獲得し,自らの医療について自己決定できる自律した患者となるための支援を指し,小児科診療全般において患者の人格の成熟度に合わせた年齢相応の対応が求められる。また,診療における自律(自立)支援は,地域における自立支援と連携して展開されることが期待されている。

    本稿ではまずは疾患を問わず,患者に最善の医療を提供するために必要な知識と心構えを記したうえであらためて患者の最善の利益の追求という視点から移行期医療を考えたい。

  • 石﨑 優子
    2018 年 59 巻 5 号 p. 562-565
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    小児期発症の慢性疾患患者の成人移行期の医療が話題となっている。米国では1980年代からこのような成人患者の小児中心型医療から成人中心型医療への移行(health care transition,トランジション)が取り上げられるようになり,日本ではこのような患者の医療を小児科,成人科のいずれが担当するのかが1990年代から注目されるようになり,2010年以降,日本小児科学会が提言を述べ,厚生労働省の事業が始まった。一方小児科学会の分科会や看護の領域でも移行期の医療のあり方が検討され,小児期発症慢性疾患患者の円滑な移行に際して移行支援プログラムの作成の試みが始まった。現在,日本小児科学会はこのような移行期患者の医療は成人科への転科を伴うとは限らず,担当する医療者が変わらずに患者を小児から大人としての取り組みへ移行される場合も含むと述べている。しかしながら,これらは小児期発症の身体の慢性疾患に対する取り組みであり,児童青年精神科疾患は必ずしもこれに同じとは限らない。今後児童青年期精神疾患の小児から成人にかかる移行に対するあり方が,その疾患の特性と医療事情に合わせて検討されることが望まれる。

  • 横田 圭司, 千田 若菜, 飯利 千恵子, 斉藤 由美
    2018 年 59 巻 5 号 p. 566-576
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    知的障害と発達障害のトランジションについて述べるために,成人期の適応に強い影響を及ぼし得る,愛着の問題,教育の枠組み,自閉症スペクトラム障害 (ASD) における過剰適応の問題を中心に,学齢期から成人期における医療の役割を論じた。それぞれに特徴的な精神症状がみられ,これら精神症状が認められたケースを中心に,学齢期の早期に精神科医療へ移行することが望ましいと考えられた。ただし,現実的には知的障害や発達障害の対応に精通した精神科医は多くはなく,移行の時期は地域の医療資源に左右されざるを得ないと結論付けられた。学齢期以降の精神症状が成人以降の精神疾患に関連することもあるため,児童精神科医や小児科医と成人期を担う精神科医とが症例検討などを通して精神症状を共有することは,トランジションを円滑に進めるだけではなく,精神疾患の予防に寄与する可能性がある。

  • 小野 善郎
    2018 年 59 巻 5 号 p. 577-587
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    子どもから大人への移行期は,身体的にも社会的にも大きく変化することで精神保健や社会適応のリスクが高く,特に支援ニーズが高い時期であるが,社会的養護からの自立は家族や親族による支援がないだけでなく,貧困や児童虐待などの逆境体験の影響もあり,とりわけ支援ニーズが高い。現在では社会的養護児童の高校進学が一般的になったが,大学進学率は12.4%と低く,高校卒業後に就職するのが標準的な進路となっており,一般家庭の子どもよりも早期かつ短期的な移行が求められている。移行期の支援ニーズが高いにもかかわらず,15歳から20歳にかけては児童福祉や児童精神科医療には支援の実質的な空白がある。多様なニーズに対応するためには必然的に多分野の連携が必要になるが,事実上の義務教育となっている高校教育は15歳から18歳までの移行支援の場として合理性と優位性があり,社会的養護からの移行支援にも役立つことが期待されている。思春期の移行支援は現在の症状の緩和だけにとどまらず,成人後の社会適応や健康にも大きな影響を与えるものであることからも,なお一層の充実が求められる。

  • 髙橋 脩
    2018 年 59 巻 5 号 p. 588-596
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    発達障害のある人の児童期から成人期への移行支援は直面している重要な課題である。本論文では発達障害のある人,とりわけ自閉症のある人の成人期への移行に関する課題のうち,主として社会福祉制度に関連した諸課題と支援のあり方について検討した。障害のある人への支援は,本人の自己実現を前提にQuality of Lifeの高い暮らしの実現が目標であり,何よりも本人主体でその意思と選択を尊重することが重要である。具体的課題としては,進学,就労,障害基礎年金,障害者手帳,余暇活動等があるが,何れについても,保護者や支援者は本人意思を尊重し,一人一人のニーズと特性に即して支援を提供する必要がある。

研究資料
  • ─テキストマイニングによる投稿内容の分析を中心とした探索的検討─
    二宮 有輝, 松本 真理子
    2018 年 59 巻 5 号 p. 597-613
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】日本の大学生を対象にSNSの活動データを収集し,抑うつ症状を伴う青年におけるSNS上の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】Twitterを利用している大学生158名(男性94名,女性63名,不明1名,平均年齢18.89,SD=0.90,有効回答率73.8%)を分析対象として,抑うつ得点に基づき,正常群(57名),軽度群(75名),中程度以上群(26名)に群分けした。各参加者のTwitterから1カ月分の活動データを収集し,群間の差異を検討した。

    【結果および考察】Twitter活動データについて群間の差異を検討した結果,正常群に比して,軽度群および中程度以上群の方が午前中のオリジナルツイート(独り言)の割合が高くなる傾向が認められた。午前中のオリジナルツイート1,919件を対象にテキストマイニングを用い,対応分析により抑うつ群変数と抽出語との関連を検討した結果,「現実生活の多忙さ」と「現実生活からの逃避」の2成分が得られた。また,対応分析の布置図から,軽度群では学業などの現実生活の多忙さが表現されやすく,中程度以上群では学業からの逃避態度や,躁的な防衛と考えられる特徴がTwitter上に表現されやすいことが示された。今後は午前中のツイートだけでなく,対象とする投稿の範囲を広げ,本研究で得られた示唆が投稿全体に認められるのかどうかを検討する必要があるだろう。

  • 眞野 祥子, 宇野 宏幸, 堀内 史枝, 西本 佳世子, 髙宮 静男
    2018 年 59 巻 5 号 p. 614-630
    発行日: 2018/11/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はADHD児の母親のマターナル・アタッチメント(MA)の特徴を明らかにすることである。ADHDと診断された学童の母親と通常学級に在籍する定型発達児の母親,各115名を対象とした。MAに関する質問項目を作成し,同じ質問項目で「現実」と「理想」のMAを尋ねた。ADHD群の「現実」の質問項目について因子分析を行った結果,「対児感情」「子どもの理解(理解)」「子どもに対するあたたかい態度(態度)」の3因子を抽出した。2群の「現実」「理想」3因子得点を群内・群間比較した結果,2群とも「現実」より「理想」の方が有意に高く「理想」は満点に近い程度を示し,「現実」はADHD群の方が有意に低かった。対象者ごとに「理想」から「現実」の値を引いて得点差を求め,群と因子を要因とした二元配置分散分析を行った結果,対照群と比較してADHD群の得点差が有意に大きい一方で,因子間での主効果は認められなかった。交互作用が有意であったので各群において因子間の多重比較を行った結果,対照群では「理解」「態度」が「対児感情」より得点差が有意に大きかった。対照的にADHD群では「対児感情」「態度」と比較して「理解」の得点差が最も小さかった。ADHD児の母親は障害理解を含め子どものことは理解しているが,子どもに肯定的感情を抱き,あたたかい態度で接したいのに,現実はそれができていないという認識でいることが考えられた。

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