コンクリート, 土や岩などの材料は, 圧縮荷重の作用下で, ひずみ軟化挙動を示すことはよく知られている. たとえば, コンクリートの円柱供試体の圧縮試験での応力・ひずみ曲線は約0.25%のひずみを越えたところから圧壊の始まる約0.35%の間で降下領域をもっている. このようなひずみ軟化挙動は物理的な不安定現象であるから, ひずみ軟化材料から成る構造物の応力および変形解析では, 解の安定性や唯一性の問題にしばしば遭遇する.
たとえば, 有限要素変位解析法における最終段階での方程式は次のように表わされる.
P=
Ku…(1) ここに,
Pは規定された節点力または節点変位,
uは未知の節点力または節点変位,
Kは全体剛性行列である.
Kは構造形状と材料特性によって決まる行列であるから, ひずみ軟化特性にも影響を受ける. もし,
Kが正値 (positive definite) である場合は, 式 (1) の未知量
uは次式で唯一に決定できる.
u=
K-1P…(2)
しかし,
Kが正値でない場合には, 式 (2) はもはや安定なつり合い解を与えない. すなわち, この場合は, 全体系のひずみエネルギーを与える関数が凸性を失い, 式 (2) の解が系のポテンシャルエネルギーを最小にする点に対応していないからである.
弾塑性・ひずみ軟化ばりのマトリックス変位法による曲げ解析においては, 節点力増分と節点変位増分の間に式 (1) と類似した関係が成立する. 本論文は, モーメントと曲率の間に軟化挙動を有するはりに対して, 軟化の程度と
Kの特性との関係および対応する安定なつり合い解の決定法について述べたものである.
最初に, たわみ増分の制御のもとでのひずみエネルギーの最小化原理について述べた. 次に, はりの曲げ問題に対して, 塑性軟化ヒンジ (回転角の増加につれてモーメントが減少する特性をもつヒンジ) を導入し, マトリックス変位法による上述の最小化原理の定式化を試みた. 得られた式中の未知量は塑性軟化ヒンジでの回転角増分, 分割された各要素の材端変位増分および荷重増分である. ラグランジュの未定係数法により自由変数である材端変位増分を消去し, 制約不等式をもつ回転角増分のみを変数にした問題に変換すると次の形を得る.
minimize
dW=-
dLAtΔθ+Δθ
tDΔθsubject to Δθ≧0}…(3)
ここに, Δθは塑性軟化ヒンジの回転角,
dLはたわみ増分を与えるパラメーター,
A,
Dは軟化率を含む係数行列である.
式 (3) の問題の解の決定には, 次の3つの場合に対して, それぞれ異なった取扱いが必要である.
(1)
Dが正値 (positive definite) の場合式 (3) は標準的な2次計画法 (Quadratic Programming) の問題になり, 周知の手法で唯一解が求められる.
(2)
Dが共正値 (copositive) の場合
dWは凸関数でないが, 領域Δθ≧0では下に有界であるので, 式 (3) は解をもつ.
(3) Dが正値でも共正値でもない場合dWは下に有界でない. したがって, 式 (3) は解をもたない. すなわち, この場合は, 一部の塑性軟化ヒンジがひずみエネルギーを解放し, モーメントに抵抗しないヒンジになって, 不安定な系は新しい安定系に移行する. したがって, 一定のたわみのもとで, 荷重および曲げモーメント分布に飛移が起こる.
2径間連続ばりの簡単な問題を通して上記の3つのケースに対する解の決定法を示し, 数値計算例により, 各ケースに対する荷重とたわみおよび曲げモーメントの関係を示した.
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