土木学会論文集D
Online ISSN : 1880-6058
ISSN-L : 1880-6058
64 巻, 2 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
和文論文
  • 羽鳥 剛史, 鄭 蝦榮, 小林 潔司
    2008 年 64 巻 2 号 p. 148-167
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     本研究では,第3者委員会の実施が,住民のプロジェクト計画に対する信頼形成に及ぼす影響を分析する.その際,第3者委員会の役割として,1)プロジェクト評価情報の集約,2)プロジェクト計画に対する住民の信頼形成,という2つの役割に着目する.その際,公開の場で実施される第3者委員会を,2つのコミュニケーションモデルを統合した連結ゲームとして定式化する.具体的には,行政と第3者委員,行政と住民のコミュニケーション関係を主観的ゲームとして記述する.その結果,連結ゲームでは,委員の戦略的発言により,非効率的なコミュニケーション均衡が実現する可能性があることを指摘する.さらに,第3者委員会の公開制度が有する問題点を克服するための方策について理論的に考察する.
  • 中嶋 伸恵, 田中 尚人, 秋山 孝正
    2008 年 64 巻 2 号 p. 168-178
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     本研究では,水のまちとして地域固有の景観を有してきた郡上八幡を対象に,地域コミュニティの維持要因及びローカルルールの役割について明らかにした.文献資料及び現地踏査により,水辺空間の成立過程と特徴を整理し,地域コミュニティに支持されてきた水辺の共同空間を抽出した.さらに,水辺利用及びローカルルールの実態に関するヒアリング調査に基づき,地域コミュニティの変化について事例分析を行った.研究の結果,地域コミュニティの維持要因として,水辺空間に対する「行動の規範」と地域コミュニティに対する「組織の枠組み」という2種類のローカルルールによって,地域コミュニティが環境の変化に応じるプロセスが必要であった.また,地域コミュニティの一員である個人により「行動の規範」が実践される必要があることが分かった.
  • 鈴木 春菜, 藤井 聡
    2008 年 64 巻 2 号 p. 179-189
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     良質な地域風土を志すことは土木事業に課された重要な使命であり,我々はその努力と共に,事業によってもたらされる地域風土の変化が地域愛着をはじめとした人々の「地域への関わり」にどのように影響するかについても常に検討していく必要がある.以上の背景から本研究では,パネル調査で得られた結果を基に,風土への接触量の変化が地域への感情に与える影響についてその醸成期間を考慮して検証した.その結果,地域への感情はその種類によって醸成期間に差があることを示した.さらに地域風土への接触が,長期的には「地域愛着」のような醸成に時間を要する感情にも影響を与える可能性があること,「寺社」や「公園」との「接触」がその醸成を助長する可能性があることを確認した.
  • 鈴木 春菜, 藤井 聡
    2008 年 64 巻 2 号 p. 190-200
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     人々の当該地域に対する地域愛着(place attachment)は,まちづくりや景観保全,地域防災,地域のコミュニティ維持などにおいて重要な役割を担う心的要因であることがかねてより指摘されている.一方,日常生活様式が地域愛着に影響を及ぼしている可能性が指摘されているが,その検証が十分になされているとは言い難い.本研究では,都市計画・土木計画にも依存して変化し得る消費行動に着目し,消費行動によって地域風土との接触に差異が生じ,地域愛着の醸成に影響が及ぼされるとの仮説を措定した.心理調査を実施し,分析を行った結果,消費行動が買い物中のコミュニケーションや居住する地域への愛着の程度に影響を及ぼし,買い物中の地域との接触の程度が多い人ほど地域への愛着が高いことを示した.
  • 井料 隆雅, 長尾 大, 朝倉 康夫
    2008 年 64 巻 2 号 p. 201-217
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     交通ネットワークの幾何構造は交通システムの機能を決定する重要な要因であり,効果的な交通ネットワークの構築のためには適切な幾何構造の特徴を知ることが不可欠である.本研究では「交通ネットワークにより人は行動範囲をどれだけ広げるのか」を尺度とした交通ネットワーク構造の理論的評価のための方法論を提示する.本研究では新たに構築した非効用型時間配分モデルによって交通ネットワーク上での人の目的地選択行動を記述し,行動範囲の広さを示す「訪問率」という指標の計算方法を提案した.訪問率を用いて交通ネットワークの機能評価を行った結果,各目的地への旅行時間が不偏に分布することが好ましいことが示された.この結果を用い,リンク整備が機能低下を招くケースの存在と,スケールフリー性を持つ交通ネットワークの優位性を示した.
  • −柿野沢地区の道普請を事例として−
    田中 尚人, 轟 修, 中嶋 伸恵, 多和田 雅保
    2008 年 64 巻 2 号 p. 218-227
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/21
    ジャーナル フリー
     景観法の施行を受け,地域の歴史や文化,風土が重要視される時代となった.本研究では,高齢化や過疎の問題を抱え衰退の危機にある中山間地を対象に,地域に対するインフラストラクチャーの適切なデザインやマネジメントを考える.具体的には,長野県飯田市下久堅柿野沢地区において実施されてきた道普請を事例に,セルフビルドの環境づくりが地域にもたらすソーシャルキャピタルを実証する.研究の結果,地域住民は自ら住まう環境を自分たちの手で構築,管理することにより,適切な環境改変のローカルルールが継承され,変化する社会情勢に対応したコミュニティが維持されてきたことが分かった.地域コミュニティによって愛着を持って整備されてきた道というインフラストラクチャーは,地域景観の基盤となり,統合化された環境認識の基盤となっている.
  • 服部 進, 三浦 悟, 黒沼 出
    2008 年 64 巻 2 号 p. 228-238
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/20
    ジャーナル フリー
     斜面を写真計測して初期変位が起きた位置と大きさを効率よく検知するための仮説検定の式を導いた.斜面上に設置したターゲットを2回の時間のエポックで撮影し,変位したかを1点ずつ統計的に仮説検定する.Baardaの大誤差検知の方法であるデータスヌーピング法を適用して検定の式を導いた.2回のエポックの写真座標を同時調整し,各点の空間座標に変位のパラメータを与えることで当てはめ精度が向上したときに変位が発生したと判断する.写真座標の調整計算はフリーネットワークで行った.さらにモデル実験で方法の有効性を検証した.1m×0.5mの模型に設置したターゲット群の一部を50μm変位させ,この点が検知できることを示した.
  • 佐藤 慎太郎, 赤松 隆
    2008 年 64 巻 2 号 p. 239-251
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/20
    ジャーナル フリー
     我国における若年労働人口の減少を補うために,労働者間の知識・技術の伝達とその高度化の必要性が指摘されている.労働者間の学習効果と,それにより達成される知識・技術の伝達は,労働者の空間的配分パターンに大きく依存する.本稿では,労働者間の学習メカニズムを考慮した都市経済システムモデル(Core-Periphery model )を構築し,若年労働人口の減少が都市システムの人口配分パターンに与える影響を理論的に解析した.その結果,若年労働人口の減少によって,都市システム全体の人口集積が進むこと,及び,それによってシステム全体の学習効果が高まり,知識・技術水準の高度化が期待できることが明らかになった.さらに,ある都市において若年労働者のみを誘致する政策は,その都市をかえって衰退状態に導く可能性があることがわかった.
  • 三輪 富生, 山本 俊行, 竹下 知範, 森川 高行
    2008 年 64 巻 2 号 p. 252-265
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/20
    ジャーナル フリー
     プローブカーデータは,利用上の制約が少ないことや情報収集エリアが広いことなど,多くの利点を有する.しかし,プローブカーは交通量に関する情報を提供しない上,その情報は車両間にばらつきが存在し,またリンクごとに得られるサンプル数が異なる.本研究では,このようなプローブカーデータの情報のばらつきを考慮した上で,観測速度情報を用いてOD交通量の推定を試みる.具体的には,観測された速度とk-v曲線より,各リンク上のプローブカー通過時刻における交通量をベイズ理論により推定する手法を示す.さらに,推定された交通量および信頼性指標を用いて動的OD交通量の推定を行う.結果として,プローブカー情報の信頼性を考慮して推定されたOD交通量は,それを考慮しない場合より精度が向上することが示された.
  • 神山 藍, 出村 嘉史, 川崎 雅史, 樋口 忠彦
    2008 年 64 巻 2 号 p. 266-278
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/20
    ジャーナル フリー
     本研究は,京都の北山に位置する大文字山,衣笠山,朱山,大内山を対象として,それらの山容景観を「見え方」と「見方」という観点から考察した.「見え方」に関しては,任意の視点から山容が判断できるように,山の見え方が共通する領域を把握した.そして,それらの領域内における歴史的な山の見方,その見方がされた視点場,及び視点場からの見え方を明らかにした.その結果,山を霊山,神体山,眺める対象とする見方が把握でき,これらの見方がされた視点場は山容が顕著に現れる領域に分布することがわかった.つまり,山容が顕著に見える場所には,先人が山容景観に価値を見出してきた見方があり,そこから見える山容景観は文化的価値のある景観と言える.このような山容景観を文化資産として認識し,視点場と共に保全していくことは重要である.
  • −全盲者・重度弱視者を対象として−
    柳原 崇男, 三星 昭宏
    2008 年 64 巻 2 号 p. 285-298
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/20
    ジャーナル フリー
     本研究は,全盲者および重度弱視者を対象として,視覚障害者の方向感覚を測定し,視覚障害者用移動支援システムの開発や評価などにおいて,被験者を分類し,評価を行うことを検討した.まず,方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S)により,これまでの歩行実験などではなく,簡易な質問紙で方向感覚から歩行能力を測定できることを示した.そして,歩行者音声案内システム社会実験において,方向感覚から歩行能力の高い群と低い群に分類し,評価結果を示した.その結果,方向感覚から被験者を分類し,その評価の有効性を示すことができた.
  • 小林 潔司, 松島 格也, 菱田 憲輔
    2008 年 64 巻 2 号 p. 299-318
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/20
    ジャーナル フリー
     予約システムは供給制約のあるサービスを申し込み順に家計に割り当てるメカニズムである.本研究では,予約システムの経済便益として,1)家計が将来時点におけるサービス購入オプションを確保する便益と,2)大きな効用を持つ家計に優先的にサービスを割り当てる顕示メカニズムとしての便益に着目する.その上で,単一もしくは複数のサービスが供給される独占市場を対象とした市場均衡モデルを定式化し,予約システムの導入がもたらす経済便益を評価する.その結果,予約システムの導入により企業利潤,社会的厚生は増加するが,家計の経済厚生が逆に減少することを明らかにする.その上で,家計の経済厚生低下を抑止するためには,キャンセル料金の規制が必要となることを示す.
和文ノート
  • 羽鳥 剛史, 藤井 聡, 水野 絵夢
    2008 年 64 巻 2 号 p. 279-284
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/20
    ジャーナル フリー
     本研究では,土木の趣旨に関する事実情報を提供することによって,人々の土木事業に対する賛否意識が肯定的な方向に変容するという仮説を措定し,その仮説を検証するための実証実験を実施した.その際,土木の趣旨についての簡易メッセージを記載したパンフレットを作成するとともに,実験調査を通じて,パンフレットを配布することによって,人々の土木事業に対する賛否意識がどのように変わるかについて分析した.その結果,本研究の仮説が支持され,土木事業の目的や意義に関する簡易メッセージを提供することによって,人々の土木事業に対する理解が一定程度深まり,土木事業に対する賛成意向が向上し得ることが示された.
  • 外井 哲志, 大塚 康司
    2008 年 64 巻 2 号 p. 319-324
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/20
    ジャーナル フリー
     道路案内標識で表示される地名を運転者が情報として十分に利用するためには,案内標識の情報を記載した地図を用いて自らが経路と地名の関係を事前に学習しておく必要がある.また,この地図を利用することで,案内標識が設置された経路を選定するなど,地図と連携した案内標識の積極的活用が可能になる.本研究では,こうした観点からシミュレータを用いた室内実験によって,案内標識情報を記載した地図を用いた事前学習の効果を分析した.その結果,地図を用いた事前学習により,地名情報の利用が増加し,予定経路どおりに走行できる割合が向上するばかりでなく,予定経路以外の経路を走行する距離,心理的負担が軽減することが明らかとなった.
feedback
Top