わが国は財政制約から新規のインフラ投資が困難な状況の中で,従来に増して複雑で対応が難しい社会基盤計画の時代を迎えている.プロジェクトの減少や長期化が起きており,若手技術者のプロジェクト実現経験の減少は,大きな負のスパイラルを描いて,技術力を低下させていく可能性が高い.困難な状況に上手に適応し,それを遂行するレジリエンス能力を備えた若手人材を多く輩出することが重要かつ必須と考える.本稿では困難なプロジェクトを乗り越えてきた 6 名の先人を題材に,幼少期からのオーラルヒストリーを得て,土木技術者に必要なレジリエンス能力と能力形成過程を考察した.
著者らは,地盤工学の観点から福島第一原子力発電所の廃止措置に対し,技術開発および人材育成の観点から貢献することを目的として「廃炉地盤工学」を提唱している.「廃炉地盤工学」の下,国が提示する当該発電所廃止措置の中長期ロードマップを踏まえ,当面重要と考える地盤工学的研究の一例として放射線遮蔽実験の内容を紹介する.また,これに加えて,廃炉地盤工学の主要3テーマである,1) 長期間の地下水環境・作業環境評価と予測,2) 土・地盤の放射線遮蔽特性評価,3) 原子炉建屋デコミッショニングに関する技術開発に向けた「地盤力学」,「地盤環境学」,「地盤材料学」および「地盤施工学」の4項目で整理し,それに基づきカリキュラムを試作し廃止措置に貢献できる人材の育成方針を論じる.
本研究の目的は,日本の地域社会のなかで人びとが語り継いできた妖怪を,防災減災における知的資源として捉え,その利活用方法を提案することである.妖怪伝承のなかには,地震や津波,洪水,水難事故といった災害と関連するものが多数存在する.そのなかでは,妖怪の働きが,災害の誘発要因,災害の予兆前兆,災害状況の説明,災害の回避方策,災害履歴の伝達,という5つの類型で語られる.リスクの伝達装置としての妖怪伝承の構造をふまえ,社会実験として,子どもたちが新たな妖怪を考え出す作業を通じて,地域の多様な危険を認識し,その対策を検討する「妖怪安全ワークショップ」を展開した.その成果として,子どもたちが経験したことのないような大規模自然災害のリスクも適切に把握し,危険を回避するための方法を導き出すことができた.
鋼橋の維持管理において,適正な点検を実施するためには,その知識と技能が要求される.しかし,現状の学習法は継続的な知識の積上げと実務経験に委ねられる部分が多く,点検技能を効率的,且つ確実に向上させる学習法が必要となる.本研究では,代表的な劣化現象である鋼材腐食に焦点をあて,実橋梁で生じた腐食を3DCGにて可視化し,鋼橋の腐食と点検をデスク上にて擬似体験できる腐食点検学習システムを開発した.本学習システムは,腐食部位にあらゆる角度から自由にアプローチでき,パソコン画面上で,腐食特性や点検技能を効率良く,且つ実践的に習得できることである.アンケート結果より,各橋梁の実腐食データで3DCG化され,自由な可動を特徴とする本学習システムは,腐食点検技能の習得に有効であるとの一定の評価が得られた.
本報告においては,地域と連携した一連の農業体験活動に関するアンケート調査を実施し,農業高校の生徒の視点から評価することにより,高校と地域の連携による教育課程のあり方に関する知見を得た.農業体験活動に関するアンケート調査を実施した結果,田植え,稲刈り,おむすびの販売,市民との交流の評価が高いことが明らかになった.分析の結果,稲刈りと新米の試食が総合評価に大きな影響を与えていると考えられる.また,農業体験活動に参加することにより,学校の学習への意欲が高まり,農業や公園,環境へ興味が高まり意識・意欲が高まる可能性を見出した.特に,自らの成果を味わうことができる新米の試食は,稲刈りと比較すると総合評価に与える影響が大きいことがわかった.
近年,建設業界では人材確保と育成が急務と言われており,i-Constructionの推進による建設業における生産性向上と魅力ある建設現場を目指す等,様々な取り組みが進められている.本校は土木科を単科で,1クラス40名,3学年を有する工業高等学校であり,土木関係企業からの求人数が土木科就職希望生徒数を大きく上回っている.しかし,今後高校入学する生徒数の減少が予測されており,本校土木科でも将来の若年技術者となるべく生徒の確保が課題となっている.生徒の確保には社会における土木の重要性を伝えることが肝要であるが,本校土木科では,生徒にまず「土木はおもしろい」と興味を持たせることが出発点であり,そのためにはSTEM教育モデルが有効であると考える.本報告ではこの視点からの本校土木科の取り組みを述べる.
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