土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
68 巻, 7 号
選択された号の論文の86件中51~86を表示しています
環境工学研究論文集 第49巻
  • 松本 和晃, 神子 直之, 清水 聡行
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_453-III_461
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     持続可能な社会の構築のために促進が求められる環境配慮行動は,行動の特性によって規定因やその影響の強さが異なる可能性がある.本研究は,行動の特性による規定因やその影響の差異を明らかにすることにより,効果的な環境配慮行動促進策の検討に資することを目的とした.環境配慮行動の実施度やその規定因に関するアンケート調査を行い,回答データを用いて共分散構造分析を実施した結果,社会性の低い行動では便益費用評価が,社会性の高い行動では社会規範評価が行動に与える影響が大きいことが明らかとなった.電気に関する行動では先行研究と異なる結果が得られたが,これには社会情勢が影響していると考えられる.
  • 大塚 佳臣, 栗栖 聖, 窪田 亜矢, 中谷 隼
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_463-III_470
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     荒川流域をモデルに,都市部の水源として量的に最も利用ポテンシャルが高い下水処理水を,河川環境改善用途で利用することに対する住民の受容性の評価を行った.その結果,利用に賛成する人の割合は全体としては78.9%に達したと同時に,下水処理水の水質に対する信頼性は高いことがわかった.処理水利用の賛成率は,居住地周辺の自然環境および河川環境の評価が低い人で高く,処理水導入により,これらの環境が改善することを望んでおり,特に生き物の生息場所の維持に対する期待が高いことが明らかになった.実際に導入を検討するにあたっては,水質改善がもたらす二次的な効果に着目することが重要であると考えられた.
  • 石本 知子, 伊藤 禎彦
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_471-III_482
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     近年,市民の水道離れが問題となっている.本研究では,市民の水道水に対する意識構造を明らかにすることを目的に,ライフスタイル・社会変化に起因する要因も含めた市民の水道水に対する評価に影響する各種要因について,因子分析と共分散構造分析を用いて検討した.その結果,飲用水としての満足度にはおいしさに対する満足度が,おいしさに対する満足度に対しては,カルキ臭に対する不安と安全性に対する満足度が寄与していることを明らかにした.また,ライフスタイル・社会変化に起因すると考えられる要因の影響は小さく,水道事業者が適切な対応策を講じることにより,市民の水道水に対する満足度は改善しうることを示した.
  • 大谷 壮介, 上月 康則, 倉田 健悟, 仲井 薫史
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_483-III_492
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     本研究は炭素・窒素安定同位体比を用いて,2つの河口干潟における堆積有機物の起源と底生生物群集の餌資源を明らかにすることを目的に研究を行った.干潟全体の堆積物の炭素安定同位体比は河口干潟上流のヨシ周辺では低く,河口干潟下流では高い地点が分布しており,河口干潟下流における堆積物の陸起源有機物の割合は干潟上流側より低い値を示した.底生生物の生息していた堆積物は陸起源有機物の割合が高かったが,底生生物は陸起源有機物を餌資源として利用していなかった.また,底質環境が異なっていても底生生物群集はMPOMと底生珪藻を摂餌・同化しており,底生生物群集は生息場の底質環境の違いに対応している一方で,利用可能な餌資源の違いにはほとんど対応していないことが示唆された.
  • 藤林 恵, 野村 宗弘, 許 暁光, 李 先寧, 相川 良雄, 西村 修
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_493-III_498
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     アオコの発生が問題となっている中国江蘇省太湖において,陸上起源有機物(陸上植物)と内部生産された有機物(藍藻類)が底質有機炭素にどの程度寄与しているのか,また,底生動物および細菌にどの程度利用されているのか,安定同位体比を用いて解析した.その結果,太湖の底質有機物は4地点の平均で陸上植物が66.6%,藍藻が33.4%であり,通年藍藻が大発生している現状にもかかわらず,藍藻の寄与率の方が小さかった.さらに底生動物は主に藍藻を同化していること,底質中の細菌は主に藍藻を同化していることが明らかになった.このような細菌や底生動物による利用性の高さが,陸上植物に比べて藍藻由来の有機物の底質有機物に対する寄与を小さくしていると考えられた.
  • 関根 雅彦, 神野 有世, 天日 美薫, 山本 浩一, 今井 剛, 樋口 隆哉
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_499-III_505
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     河口域の細泥化が各地で生態系を変容させているが,細泥の起源が明らかでなく,有効な対策が立てられないことが多い.山口湾および流入河川,流域の水田の底質土砂中の希土類元素14種を定量分析し,各元素を粒径・種類(工業系/非工業系)で分画した含有量・組成比を説明変数としてクラスタ分析を行うことで,干潟泥の起源の推定の可否を検討した.その結果,本流域では,希土類元素は細粒分に多く含まれていること,希土類元素の起源は河川にあると推測されること,粒径・種類で分画した希土類含有量・組成比により河口域に堆積した土砂の起源である流域を推定できることが示された.
  • 西澤 貴樹, 加藤 雅彦, 堀 晶子, 佐藤 健
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_507-III_515
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     濃尾平野南西部の第1礫層地下水で水道水質基準を超えて検出されるヒ素について,平野南西部の海津市の堆積物及び地下水中にヒ素が検出されない平野北西部の養老町の堆積物を用いて,水,フミン酸溶液及び硝酸カルシウム溶液でのヒ素の抽出試験を行い溶出メカニズムを考察した.
     その結果,海津市の第1礫層上位の濃尾層堆積物中の酸化鉄に吸着しているヒ素が,第1礫層地下水へのヒ素溶出に影響を与えていると考えられた.また,DOCとの競合による堆積物からのヒ素の脱離,或いはDOCとの溶存有機物複合態の形成によるヒ素溶出促進によって濃尾層からのヒ素溶出が定常的に生じ,地下水へヒ素が溶出すると考えられた.また,海津市の地下水中のカルシウムイオン濃度が低いことも地下水中のヒ素濃度が高い要因のひとつと推察された.
  • 本山 亜友里, 川上 智規, S. K. Weragoda , 奥川 光治, 芹川 裕加, 袋布 昌幹, 高松 さおり
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_517-III_523
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     スリランカAnuradhapura地区では,飲用,調理用としている井戸水にフッ素が含まれ,住民にフッ素の過剰摂取により生じる斑状歯がみられる.また腎臓病などの健康被害も報告されており,フッ素との関係が疑われている.そこでフッ素汚染実態把握のため2010年~2012年にAnuradhapura地区を含む8地区,計263サンプルを分析した結果,最大で約7mg/lの井戸が存在し3地区で平均値がスリランカの飲料水基準値を超過した.高濃度の井戸付近には,低濃度の井戸が存在する例もあった.この場合濃度に応じ用途を分けることで健康被害を軽減できる.一方近隣に低濃度の井戸が存在しない場合,フッ素濃度低減策を講ずる必要があり,その1つとして鳥骨炭の利用を検討した.鳥骨炭製造に際し最適炭化温度は600℃であった.
  • 今岡 亮, 藤井 学, 吉村 千洋
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_525-III_533
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     植物プランクトンへの鉄供給プロセスの観点から,本研究では腐植物質の化学的性質が鉄との錯形成に及ぼす影響について調べた.pH 8において競合リガンド法により,様々な起源をもつ標準腐植物質と鉄の錯形成を調べ,錯化容量と条件付き安定度定数について多様な値が得られた.これら錯形成パラメータと元素分析・13C-NMR・酸塩基滴定から得られた腐植物質の構成元素比・炭素種割合・官能基量との関係を調べた結果,芳香族炭素割合と錯化容量には有意な正の相関がみられ,芳香族領域にある官能基が主な鉄結合部位であることが推測された.さらに,安定度定数は硫黄や窒素含有量と弱いが有意な正の相関があり,スルホン基やアミノ基を含む腐植物質は鉄と高い親和性を有する可能性が示唆された.
  • 伊藤 紘晃, 藤井 学, 真砂 佳史, 渡部 徹, 大村 達夫
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_535-III_543
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     フルボ酸第二鉄錯体とシデロフォア(desferrioxamine B)のリガンド交換反応に及ぼすpHおよびイオン強度の影響をpH 6.0から9.0,塩化ナトリウム濃度0.01 Mから0.7 Mの範囲で調べた.反応速度を観察した結果,pH 8.0以上において,pHが高いほどリガンド交換反応速度定数が大きくなることが明らかとなった.またpH 8.0以下においては,リガンド交換反応速度定数は少なくともオーダー単位では変化しないことが示された.イオン強度に関しては,リガンド交換反応速度定数への有意な影響は見られなかった.これらの結果は,特に沿岸域や海域,アオコが生じた淡水湖等のpHが8.0を超える水域において,pHがリガンド交換反応速度定数へ及ぼすことを示している.
  • 堀内 将人, 齋藤 知一, 森 俊介
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_545-III_555
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     愛知県で唯一かつ日本最古のアンチモン鉱山である津具鉱山跡地周辺において表層土壌を採取し,アンチモン溶出量,含有量,および全量濃度を測定することで,アンチモン汚染の程度と汚染範囲を評価した.その結果,アンチモンによる高濃度汚染地域は製錬工場跡地周辺に限定されており,民家の建つ地域や信玄坑付近の汚染度は高くないことがわかった.一方,地域で産出する鉱物や輝安鉱(Sb2S3)に不純物として含まれるヒ素と鉛が,アンチモン以上に高濃度に土壌を汚染していることがわかった.河川水に関しては,堰堤部において,アンチモンの指針値およびヒ素の基準値を超過する濃度が検出された.土壌中のアンチモンの存在形態については,これまでの汚染土壌調査と同様,3価よりも5価のアンチモンが支配的であることを示した.
  • 増田 周平, 京野 貴文, 李 玉友, 西村 修
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_557-III_563
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     下水処理場の水処理プロセス由来のGHGs算定方法について,IPCCの算定法,我が国の算定法,N2Oの直接発生・N2Oの間接発生・溶存態N2Oの放出・CH4の直接発生を含めた方法,の異なる算定法の違いが結果に及ぼす影響について検討した.その結果,同一のデータに基づく計算であっても,我が国の算定方法では,国際的な算定法に比べてGHGs発生量は低く算定された.また,IPCC法,手引き法,mix法およびD-mix法の各手法を用いて,GHGs発生量を計算した場合の発生量の差は,N2Oの間接発生を含める点の違いによるところが大きく,N2Oの間接発生がGHGs算定において量的に重要な因子であることが示唆された.また,処理水の溶存態N2Oは,N2Oの直接発生量と同程度であり,N2Oの潜在的な発生源である可能性が示唆された.
  • 佐野 慈, 増田 周平, 李 玉友, 西村 修, 原田 秀樹
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_565-III_573
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,下水処理場における温室効果ガス排出特性を評価し,排出量低減対策を考察した.処理方式の異なる3箇所の下水処理場について季節毎に温室効果ガス排出量の実測調査を行い,各処理場における温室効果ガス排出係数を算定した.その結果,各処理場において電力消費に伴う温室効果ガス,汚泥焼却に伴うN2O及び下水処理過程におけるCH4が主要な排出源であった.また,処理方式や季節により現地におけるCH4,N2Oの排出特性は異なり,下水処理過程におけるCH4排出係数に水温との相関が見られるのに対し,下水処理過程におけるN2O排出は硝化・脱窒の有無や水温との相関,放流水による間接排出など複雑な要因が関わり,区分化の必要性が示唆された.さらに,調査結果を基に下水処理場における効率的な温室効果ガス低減対策について考察を行った.
  • 高野 保英
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_575-III_583
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
    著者の要望により、下記の論文を撤回します。



    高野保英:係留型気球を用いた小型サンプラーによる浮遊粒子状物質(SPM)個数濃度鉛 直分布計測, 土木学会論文集G(環境) , Vol.68, No. 7, pp. III_575-III_583, 2012. 著者の撤回要望の理由: 論文において使用された浮遊粒子状物質(SPM)の定義に誤りが あるため。

    以上
  • 玉井 昌宏, 太田 晋一
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_585-III_593
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     大阪平野東側と南側に位置する生駒山地と金剛山地において形成され,平野東部地域に流入する大阪平野東部冷気流の発生条件と夜間気温に及ぼす影響について検討した.アメダス八尾の風向データの一日単位の変動時系列をパターン化したうえで,各日の風向変動パターンを目的変数とし,地衡風ベクトルと日積算全天日射量を説明変数とした非線形判別分析を行った.説明変数の分布から各パターンの発生条件を検討するとともに,アメダス大阪と八尾の夜間気温差を分析することにより,東部冷気流の夜間ヒートアイランド現象に及ぼす影響を明らかにした.その結果,地衡風ベクトルの東西方向成分と南北方向成分がともに5m/s程度で,相対的に日積算全天日射量が大きい条件下で冷気流は発生しやすいこと,この冷気流が大阪平野中心部と東部地域との気温差を増加させるものの,平野中心部のヒートアイランド現象の緩和には貢献しないことがわかった.
  • 中村 将一郎, 田村 英輔, 谷川 大輔, 長野 晃弘, 山口 隆司
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_595-III_601
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     VOC(Volatile Organic Compounds)は, 大気中で気体状となる有機化合物であり, 人体や環境に悪影響を与える浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因物質の一つとして知られている. これらの対策として改正大気汚染防止法が施行され, 低濃度VOCの商品開発やVOC処理装置の導入が進められている. そこで, 本研究室が廃水処理装置として開発したDHS (Down-flow Hanging Sponge)リアクターのVOCガス処理への適応性を評価するため, VOCの1種であるトルエンガスを用いて連続処理実験を行った. 本実験範囲でのDHSリアクターの限界負荷は約13 g-C・m-3・hr-1であり, トルエンガス除去率は80%を達成した. この結果から, DHSリアクターはガス処理へ適応可能であることが明らかになった.
  • 糠澤 桂, 風間 聡, 渡辺 幸三
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_603-III_610
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     宮城県名取川流域において,HSI(Habitat Suitability Index)から算出された種多様性(HSI種多様性)と2006年における現地調査により得られた4種水生昆虫の遺伝的多様性の関係性を評価した.HSIモデルは地理データ(土地利用,勾配など),分布型流出モデルから算出した水理情報を基に6種水生生物に関して構築したものを使用した.結果として,ウルマーシマトビケラの3種遺伝的多様性指標がHSI種多様性と有意な正の相関を示した.HSI種多様性が高い場所においては水生生物の生息ポテンシャルが高いと考えられる.このため,対象種の移入・定着が容易になるに従い遺伝子流動性が高まり,結果として遺伝的多様性が増加したと推測される.
  • 八重樫 咲子, 渡辺 幸三, 高橋 真司, 永峯 賢人, 大村 達夫
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_611-III_616
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     河川水生昆虫モンカゲロウ(Ephemera strigata)を対象生物として,河川内に見られる瀬,淵,ワンド等のハビタット間の環境異質性が,適応放散で形成される遺伝的多様性に与える影響を評価した.宮城県名取川水系の11地点の7区分のハビタットから採取した220個体をAFLP法で319遺伝子座をジェノタイピングし,その中から9の環境選択遺伝子座を遺伝シミュレーションで検索した.また,調査地点のハビタット地形形状を高精度GPSのProMark3を用いてマッピングした.9つの環境選択遺伝子座とハビタットの関係を解析した結果,2つの環境選択遺伝子座の対立遺伝子頻度と遺伝的多様性が地点内の止水性ハビタット(ワンド,タマリ,トロ)の面積割合と正の相関を示し,これら遺伝子座とハビタット構造の連関が推定された.この結果は,河川内において止水性ハビタットを保全する河川管理が,水生生物の遺伝的多様性の保全に繋がることを示唆している.
  • 水谷 沙織, 田中 周平, 藤井 滋穂, 山﨑 永文, 池田 大介, 國政 瑛大, 鎌田 正篤, 西川 博章
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_617-III_625
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     Shannon指数などの多様度指数による評価では,在来種と既存の生態系を脅かす恐れのある外来種が区別されていない.本研究では絶滅の恐れのある植物の評価を高くし,外来種の評価を低くする新たな植生評価手法の提案と,琵琶湖沿岸のヨシ植栽事業への評価手法の適用を目的とした.琵琶湖沿岸の132の抽水植物群落において2008~2010年に植生調査,2008~2011年に地盤高測量を実施した.調査結果に本評価手法を適用し得られた知見を以下に記す.1)種の重要性を考慮した新しい植生評価手法を示した.2)ヨシ植栽区画で確認された種の数は琵琶湖沿岸に生育する種の39%(150/383種)であった.3)地盤高が連続的に変化する自生群落では,地盤高が水平に造成されたヨシ植栽区画よりも多くの種が確認された.
  • 荻野 修大, 藤林 恵, 長田 祐輝, 相川 良雄, 西村 修
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_627-III_633
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     化合物の安定同位体比は食物網解析のためのツールとして期待されているが,餌と動物間の必須脂肪酸の同位体分別がどの程度生じるか未解明である.そこで本研究では必須脂肪酸の炭素安定同位体比の濃縮係数を算出するために,ゼブラフィッシュDanio rerioを用いて100日間の飼育実験を行った.その結果ゼブラフィッシュの20:4n-6を除く必須脂肪酸-炭素安定同位体比は餌の値に漸近していき,濃縮係数は0‰とみなすことができた.20:4n-6は他の必須脂肪酸と比較して個体毎のばらつきが大きく,これは体内での必須脂肪酸の代謝が関与しているためと考えられた.必須脂肪酸-炭素安定同位体比の濃縮係数は0‰であることが明らかとなり,必須脂肪酸の炭素安定同位体比は餌源の解析に適していると考えられた.
  • 林 秀明, 村上 和仁, 小濱 暁子
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_635-III_640
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     バイオマニピュレーションは生態工学を活用した環境修復手法の一つとして近年注目されている.しかし,生物利用に伴う外来種による生態系の侵略,既存の生態系の崩壊という生態学的リスクが指摘されている.水圏生態系におけるこれらのリスク評価を行うため,高い再現性と系の安定性が特徴であるマイクロコズムを用いて個体数変動(構造パラメータ)とP/R比(機能パラメータ)から,マイクロコズム内において食物連鎖の上位に位置する生物種の導入が生態系に及ぼす影響を解析検討した.その結果,最上位捕食者であるAeolosoma hemprichiを導入した場合に生態機能を破壊することなく植物プランクトンの減少が確認された.このことから最上位捕食者の導入がバイオマニピュレーションに有効であると考えられた.
  • 中村 怜奈, 小橋川 直哉, 小坂 浩司, 久本 祐資, 越後 信哉, 浅見 真理, 秋葉 道宏
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_641-III_650
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     カルキ臭の主要な原因物質の一つであるトリクロラミンについて,原水中での生成能を評価するとともに,トリクロラミン生成への共存物質の影響について評価した.15原水のトリクロラミン生成能は6~140μg Cl2/Lの範囲であった.一般水質項目との関係について検討したところ,アンモニア態窒素濃度と関連性が認められた.また,アンモニア態窒素濃度が同じ場合,アンモニウム水溶液中のトリクロラミン生成能の方が原水中よりも大きい値であった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に天然有機物(NOM)が共存した場合,トリクロラミン生成能は低下したことから,NOMにはトリクロラミンの生成を低下させる影響があることがわかった.対象としたNOMのうち,ポニー湖フルボ酸はトリクロラミン前駆物質でもあった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に臭化物イオンが共存した場合,トリクロラミン生成能は低下した.一方,NOM共存下で臭化物イオンを添加した場合,アンモニウム水溶液ではその影響は認められなかった.グリシン水溶液の場合,50 μg/Lまでは影響しなかったが,200 μg/Lではトリクロラミン生成能が若干低下した.原水に臭化物イオンを添加した場合,トリクロラミン生成能は影響を受けなかった.
  • 和田 安弘, 山本 智弘, 岡本 雅美, 江種 伸之, 平田 健正
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_651-III_661
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     和歌山市滝畑浄水場では,2003年8月の給水開始当初より原水水質由来のトリハロメタンが問題となっていた.そこで,場内配水池での曝気処理によるトリハロメタン濃度の低減効果を検討した.その結果,トリハロメタン濃度は通気量が多いほど指数関数的に減少することが確認できた.一方,曝気処理では浄水中に残存する有機物を除去できないため,配水系統内における濃度の再度上昇が避けられず,給水末端でトリハロメタン濃度を管理することが求められる.そこで,配水系統におけるトリハロメタン濃度を予測する式を導出した.予測式を用いたモデル解析により,滝畑浄水場の配水系統内では十分安全な給水が可能であることが示された.
  • 徳原 俊介, 村上 道夫, 小坂 浩司, 小熊 久美子, 酒井 宏治, 滝沢 智
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_663-III_672
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     N-ニトロソアミン類は消毒副生成物として知られており,N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)とN-ニトロソモルホリン(NMOR)はともにその一種で,それぞれ発がん性が指摘されているが,土壌中における吸脱着や微生物分解に関する知見は限られている.本研究では,水試料と土壌試料を好気条件で混合,振とうさせ,NDMAとNMOR,及びそれらの前駆物質の土壌粒子への吸着,さらには土壌中の微生物による分解の有無を実験的に明らかにすることを目的とした.その結果,NDMAやNMOR及びその前駆物質は土壌から水試料へ溶出すること,NDMAは土壌中の微生物により分解され易くNMORは分解されにくいこと,NDMA前駆物質の一部は容易に除去されるが残存する物質も存在することなどが明らかになった.
  • 久本 祐資, 越後 信哉, 伊藤 禎彦
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_673-III_679
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     我が国の浄水処理過程では塩素処理が行われているが,塩素消毒により発生するカルキ臭が水道水離れを引き起こす原因となっている.遊離アミノ酸は塩素処理によりカルキ臭原因物質に変換される.しかし結合アミノ酸については塩素処理,酸化処理での挙動は明らかになっていない.そこで本研究では,ジペプチドの塩素処理後の臭気強度と臭気物質について調査し,酸化処理における遊離アミノ酸と結合アミノ酸の挙動を検討した.ジペプチドの塩素処理に由来する臭気はジペプチド濃度が高くなるにつれて臭気強度が高くなるが,カルキ臭原因物質のトリクロラミンはジペプチドから生成されないことを示した.さらに酸化処理により結合アミノ酸は減少するが,遊離アミノ酸が増加する場合があることを示した.
  • 細井 由彦, 増田 貴則, 赤尾 聡史, 灘 英樹, 高田 大資
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_681-III_690
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     人口減少が進む小規模下水道事業の持続的経営についてとりあげた.人口の減少が著しい場合には,一般に検討されている現施設の長寿命化が,必ずしもLCCの低減につながるとは限らない.現施設を長寿命化することにより,より人口減少に対応した新施設を建設することができる反面,過大な現施設を長期にわたり使用するデメリットもある.またLCCそのものだけではなく,人口減少による負担者の減少も考慮する必要がある.このような点をケーススタディをもとに具体的に検討し,長寿命化は人口減少社会においては費用負担者が減少するために必ずしも得策とはなり得ず,検討事例の場合には長寿命化を行わずに一部に浄化槽を取り入れた施設更新が適切であること等の結果を示した.
  • 吉岡 佐, 栗栖 聖, 花木 啓祐
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_691-III_702
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     江戸城外濠におけるアオコの発生などによる悪臭,景観への影響を改善するために,水質改善シナリオを設定し,その効果の検討とコスト評価を行った.まず,改善シナリオを設定するにあたり,水質改善事業の事例,技術,対象地域の水資源,水収支,流入負荷の把握を行った.これらを元に,目標を達成出来ると考えられるシナリオを設定し,生態系モデルを用いた水質シミュレーションによりその効果を推定した.その結果,夏期におけるアオコの増殖を抑えるための最低導水量として9,461 m3/日を得た.また,各シナリオのライフサイクルコストを算出し,外濠グラウンド付近にサテライト処理場を設置するシナリオにおいて,2.0×102(百万円/年)と最も低いコストとなることを明らかにした.
  • 田中 宏幸, 下池 季樹, 三村 卓, 松川 一宏, 佐鳥 静夫, 野口 政明, 蛯名 明
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_703-III_714
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     日本で今後,顕在化の懸念される土壌汚染によるブラウンフィールド問題の解決に向けて,土壌汚染サイトの有効な利用方法に関する住民の意識調査を行った.調査方法は便宜的抽出によるインターネット調査で,定性的な評価と,取り組むべき課題を検討した.得られた結果としては,土壌汚染が存在している状況での土地利用について半数以上が容認しており,その形態には,駐車場,倉庫,事務所が多く,住宅は少なかった.また,土壌汚染のリスク認識は十分ではないことや,海外のリスク管理型を導入した土壌汚染施策を知っている層ではリスクコミュニケーションによる土壌汚染問題の解決についての否定的印象が相対的に少ないことから,土壌汚染のリスクについての啓蒙活動の取り組みには再考を要すると考える.
  • 牛尾 浩史, 栗栖 聖, 平松 あい, 花木 啓祐
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_715-III_726
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     震災及びその後の津波の影響により生じた電力不足の状況において,環境配慮型行動の実施度およびその理由について,関東地方,大阪市,広島市を対象に調査を実施し,理由に基づく類型化を行うと共に,個人属性およびパーソナリティとの関連性を評価した.震災後に節電関連商品は広く購入されており,女性・高年齢ほど環境配慮型商品の購入度は高く,東京・大阪といった大都市部で低いことが分かった.さらに,行動実施・商品購入理由に基づき回答者は7グループに分類された.環境意識の高い回答群はほぼ全ての行動,商品について高い実施度・購入度を示したが,経済性を重視する回答群や習慣に基づいて環境配慮行動を取る回答者群については,行動により実施度の高低が分かれた.行動実施度・商品購入度の低い回答群には,単身・住居形態により実行不可能である回答群とそうでない回答群がいることが分かった.
  • 通事 善則, 久城 圭, 住田 哲章
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_727-III_732
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     亜熱帯性気候に属し固有の自然が残る西表島には,東アジアをはじめとした周辺諸国からゴミが漂着する.本研究ではペットボトルを指標とし,西表島に到達するゴミの漂着実態を海流,海岸の方位角,ペットボトル生産地の判読及び風向により検討した.その結果,ゴミの漂着が西表島の北岸では風向に強く依存し,南岸では風向及び海流の影響を受けていることを明らかにした.本研究で得られた知見は,西表島だけでなく他の地域でも効率的な漂着ゴミ対策の実施に資することができると考えられる.
  • 駒井 俊也, 原田 英典, 藤井 滋穂, Nguyen Pham Hong Lien , Huynh Trung Hai
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_733-III_739
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,同流域の有機系廃棄物の農業循環性に着目し,農業でのリン収支モデルを構築した。同時に,流域内の300世帯に対し有機系廃棄物管理の実態調査を行い,その調査結果と既往データをモデルに適用することで,流域内の各行政区において1980年から2010年までの農地のリン収支を求めた。
     その結果,1980年から2010年にかけて流域全体での有機系廃棄物の発生量は16,395 t-P/yearから44,363 t-P/yearへ急激に増加していることが示された。また2010年の未利用有機系廃棄物発生量は21,663 t-P/year,化学肥料使用量は26,536 t-P/yearと推計された。同流域においては,発生する有機系廃棄物を流域内で農業用栄養塩資源として受入れることが潜在的に可能であると言える。
  • Pham Huong GIANG, Hidenori HARADA, Shigeo FUJII, Nguyen Pham Hong LIEN ...
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_741-III_749
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     ベトナムの首都,ハノイは急速な近代化に直面し,廃棄物および廃水の管理が不適切に行われている.本研究では,都市郊外の集落における廃棄物・排水管理が水環境に及ぼす影響を,窒素・リンフローの観点から推定することを目的とした.調査対象地として,ハノイ市南部に位置するTrai集落を選定した.まず,廃棄物・排水管理に着目した窒素・リンのマテリアルフローモデルを構築した.厨芥類,廃水,人屎尿および家畜糞尿と,化学肥料の消費に関する戸別訪問によるアンケート調査を行った後,集落に対してモデルを適用した.その結果,水田への栄養塩類の投入量が最も大きく,その内の窒素で40%,リンで65%は化学肥料由来であった.排水および廃棄物の利用は広く実践されていたが,家畜由来液状廃棄物が100%の割合で魚の養魚池に直接放流されていたことは,この地域における最も深刻な問題として指摘された.同時に,養魚池は排水が公共水域に直接排出される前に,一時的にそれを受け入れる役割を果たしていた.2010年における水域への総栄養塩類負荷量は窒素で185.9 kg-N/ha/年,リンで12.3 kg-P/ha/年であり,水田からの負荷が窒素の70%,養魚池からの負荷がリンの60%を占めていた.
  • 西田 修三, 川住 亮太, 中谷 祐介, 村上 雄大
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_751-III_760
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     大阪湾においては,水質総量規制等により海域の水質は大きく改善されたが,停滞性が強く陸域負荷の流入が集中する湾奥部では未だに水質と底質の改善が進まず,赤潮や青潮の発生がみられる.本研究では,大阪湾に流入する陸域負荷の変遷と現況を定量的に明らかにするため,出水時を含めた河川水質調査を実施するとともに,統計資料の収集・分析と合流式下水道越流水(CSO)の調査も実施した.その結果過去30年の間にCOD,リンともに流入負荷が半減した.一方,2005年度には人口が集中する寝屋川・大阪市内河川流域からは年間総負荷量の約40%に及ぶ栄養塩負荷が流入し,湾奥部の水質悪化の要因となっていた.また,出水時の河川負荷増大とともにCSOによるNH4-N負荷の流入も大きなインパクトを与えていた.
  • 西田 渉, 岩尾 良太朗
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_761-III_767
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     降雨の流出に伴って水域に流入する汚濁負荷量を評価するために,集中型の汚濁負荷流出モデルを構築し,諫早湾干拓調整池への流入河川を対象にモデルの適用性を検討した.このモデルでは,雨水流出量は流出関数法によって評価されており,また,汚濁負荷量については,比流量のべき乗形式で評価することを基本とし,ファーストフラッシュと流出負荷量の流量に対する二価性による増減割合を累積比流出負荷量の関数として表現した.計算対象の汚濁物質として実測値においてCODや栄養塩類との相関が高かった浮遊懸濁物質(SS)を取り上げている.計算結果と実測値との比較から,本モデルによって降雨の流出期間中の洪水流量や,SSの流出負荷量の時間変化を概ね再現可能であることが示された.
  • 助川 由宇, 横田 久里子, 井上 隆信, 大久保 陽子, 松本 嘉孝
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_769-III_773
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     内湾や湖沼の栄養塩濃度は依然として減少していない.非特定汚染源からの負荷が大きいとされているものの,その負荷量寄与の実態が不明である.本研究では畑地群単独からの栄養塩の流出負荷特性を河川調査より求め,得られたデータより比負荷量算定を行った.調査期間である5月~9月の期間は三河湾での赤潮発生時期であり, 年間降水量の7割を占めていた.環境省が示す畑地の原単位は,窒素比負荷量6.58 kg/km2/day,リン比負荷量0.09 kg/km2/dayであり,リン比負荷量は窒素比負荷量の約1/70であり,リンの割合が低い.本調査で降雨時調査により算定した窒素比負荷量は2.94×103kg/km2,リン比負荷量1.0×103kg/km2であり,リン比負荷量が窒素比負荷量の約1/3と,リンの割合が非常に高くなることが明らかになった.
  • 川村 裕紀, 海老瀬 潜一
    2012 年 68 巻 7 号 p. III_775-III_785
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/15
    ジャーナル フリー
     近畿の主要水道水源の淀川上流側の桂川・宇治川・木津川の三川で、灌漑期を含む約5ヶ月間に3日に1度の高頻度定時調査を実施した。農薬の濃度ならびに流出負荷量を算定し、調査河川ごとに総農薬方式による評価や農薬推定施用量と作付水田面積から各農薬成分の流出率を検討した。調査対象の農薬は26種類で、各河川ともブロモブチド、シメトリンおよびピロキロンの高頻度かつ長期間の流出が認められた。総農薬方式による検出指標値評価では各河川とも基準値を上回ることがなかった。また流出率の調査では、ブロモブチドやシメトリンは10%以内の流出率であり、ジメタメトリンが高い流出率を示す傾向にあった。
feedback
Top