土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
71 巻, 5 号
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地球環境研究論文集 第23巻
  • Chao-Wen WANG , 吉見 和紘, 辛島 史嗣, 山田 正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     従来型の河川計画では,洪水外力として設定する基本高水位や計画洪水位は,決定論的にただひとつの値が決められ,それに基づいて計画が立案される.一方で,我々が認識しうる水文諸量には観測精度や観測誤差,人の認識限界といった不確実な要素が内包し,確率論的な要素を含む.また,洪水防御施設の一つである堤防も空間的に土質材料は不確実性を持つ.本研究では,外力(水位)の不確実性は確率過程論に基づいて降雨の不確実性から算出し,耐力(堤防)の不確実性は粘着力と内部摩擦角の不均一性を確率分布として考慮することで,堤防の信頼性評価を行った.この結果は,河川計画に対して確率過程論的な考え方の導入可能性を示し,他のリスクとの相互比較を可能とする理論的枠組を示したものである.
  • 小関 博司, 萬矢 敦啓, 工藤 俊, 岩見 洋一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_7-I_15
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究では,洪水中の河床高と粗度係数の変化が流量値の算定に及ぼす影響を検討した.既往の流量観測手法においては,洪水時の土砂水理現象が不明確であることから,これらの変化を無視する場合が多い.一方,近年発達した観測技術により,洪水時の複雑な流体現象が徐々に報告されてきている.そこで,二河川におけるADCP等の観測結果と,Manningの断面平均流速公式を基にしたSlope-area methodによる流量値を比較した.その結果,今回観測された洪水における流量算定では,河床高と粗度係数の変化が打ち消しあうような作用が起きていることが明らかになった.その一方で,Slope-area methodの適用範囲は,少なくとも岸・黒木の小規模河床波理論から構築されるτ*-τ*’関係上に限られることが分かった.
  • Intan SUPRABA, Tomohito J. YAMADA
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_17-I_22
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     Improving the accuracy of peak runoff height estimation for flood risk reduction purpose is one of the research targets in hydrology. Peak runoff height is generally simulated by hydrological models deterministically. A recent study suggested that the rainfall-runoff system can be expressed as a stochastic differential equation by adopting the Fokker-Planck equation in association with rainfall pattern. The objective of this study is to estimate the uncertainty of peak runoff height by considering uncertainty of effective rainfall through the water holding capacity in addition to the uncertainty of rainfall pattern. Results show that the uncertainty of peak runoff height increase with the increment of uncertainty associated with rainfall pattern, whereas uncertainty of water holding capacity needs to be considered in the quantification of the uncertainty of peak runoff height.
  • Vladimir MOYA QUIROGA, Shuichi KURE, Keiko UDO, Akira MANO
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_23-I_28
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     River floods are natural disasters that affect millions of people every year. In addition, vast areas of floodplains used for cattle farming are inundated annually, and animals often drown. Depending on the floodplain characteristics, the floods can last for several days or even months. Even if the water depth is not sufficient to drown cattle, the long exposure to flood water may cause diseases. Thus, it is important to define safe zones and to identify safe routes for cattle to reach such zones.
     This study proposes flood evacuation zones for cattle in the Llanuras de Mojos (in the Bolivian Amazonia), based on the results of a two-dimensional flood simulation using a flood inundation model. Flood simulations provided the daily variation in the extent and depth of flooding. These results enabled flood hazard zones to be defined for cattle on different days. It was found that the left margin of the Mamore River was the most hazardous zone, with flood depths that were likely to drown cattle. The best evacuation route was identified as the right bank of the Mamore River located on the northern edge of the city of Trinidad.
  • Idham Riyando MOE, Shuichi KURE, Mohammad FARID, Keiko UDO, So KAZAMA, ...
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_29-I_35
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     Floods in Indonesia are considered to be one of the major natural disasters. Jakarta City in Indonesia has experienced many floods in the past, such as those in 1996, 2002, 2007 and 2013. In this paper several problems causing the floods in Jakarta were discussed and a flood inundation model was applied to the 2007 and 2013 flood events. Also, a counter measure to increase the flood flow carrying capacity of the Ciliwung River was evaluated by a numerical simulation. As a result of analysis, it was found that the applied flood inundation model relatively well reproduced the flood inundation situation in Jakarta. Further, the counter measure that increased the flood flow capacity of the target sections by 150% was found to reduce the flood inundation volume by nearly 15%. However, considering the fact that there are still many areas remaining inundated, it would also be needed to investigate the effects of other rivers and several other factors contributing to flooding in Jakarta.
  • 道谷 健太郎, 手計 太一, 呉 修一, Pongsthakorn SUVANPIMOL
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_37-I_46
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,開発途上国を対象とした,科学的根拠に基づき,簡便な大規模貯水池の最適運用法の開発である.2011年に史上最悪の洪水被害に見舞われたタイ国Chao Phraya川流域では,政府が新たな流域マネジメント方法を検討している.
     本研究では,過去の貯水池流入実績データに基づいた新たな最適運用ルールカーブの作成法を開発し,それを用いた簡便な貯水池運用方法を提案した.また本研究では,2つの大規模ダム貯水池に対して,運用開始から2015年2月までの流入量,蒸発量データのみを用いて本提案運用法の検証を行った.その結果,提案運用法は全ての期間において,放流量を下流域の洪水・渇水のリスクの高まらない範囲に維持しながら貯水量の安定的な運用を達成した.また渇水年においても,乾期の放流量を十分に確保することが可能になった.
  • 手計 太一, 道谷 健太郎, 下坂 将史, 吉谷 純一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_47-I_54
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,大規模ダム貯水池が下流の河川流況に与える影響を明らかにすることである.本研究では,タイ国の約1/3の面積を占め,社会経済的に最も重要なChao Phraya川流域を対象とした.本対象流域には,Bhumibolダム貯水池(最大貯水容量135億m3)とSirikitダム貯水池(最大貯水容量105億m3)があり,下流の治水,利水,環境を担っている.
     Chao Phraya川流域を対象として,1次元不定流計算により,Bhumibolダム貯水池とSirikitダム貯水池からの放流量変動が下流の流況に与える影響について数値実験を行った.その結果,両大規模ダム貯水池からの放流量変動は,300~400 km程度までその周波数特性が保存されることがわかった.
  • 山田 朋人, 和智 光貴, 鈴木 英一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     1910年に開始された第1期拓殖計画において泥炭土層に広く覆われる石狩川流域の湿地の地下水位を90cm低下させ,農地や住宅地に改良することを目標としていた.本研究の目的は,第1期拓殖計画開始から約100年を経た現在,同流域ではどの程度地下水低下がなされたのか地盤沈下情報を用いて定量化することにある.研究対象として,過去に沼や湿地であり現在は水田等に利用されている地域を選定した.本研究が提案する地下水位変化の推定手法は泥炭地において地盤沈下予測に使用されている式を基にしたものである.得られた地下水位変化量は著者らが実施した現地観測結果と同程度の値を示すことを示した.
  • 辻本 真希, 神谷 大介, 赤松 良久, 宮良 工, 乾 隆帝
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     自然再生事業の第一段階は,各河川の目標と現状の乖離を問題として認識することであり,目標となる姿として外来種数が少なく,在来種数が多い過去の河川の姿があげられる.しかし,地方中小河川においては過去の河川のデータを収集することは難しく,実現可能な目標設定をすることが困難である.そのため,河川本来の姿を形成すると考えられる地形と地質の情報を用いて河川を類型化することにより各河川の特徴を明らかにした.その上で同一類型にも関わらず外来種数が多い河川等の特徴について,水質,河川構造物数を比較し,外来種数が多い河川の特徴を明らかにした.この結果,水質が悪いだけでなく,下流急勾配になる河川の下流域に横断工作物を設置することは外来魚種にとって好適な生息環境を作り上げることに寄与することを示した.
  • 奥山 忠裕
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_67-I_78
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     環境質の非利用価値の計測は,事業の実行の判断に影響を与える重要な項目である.この非利用価値は表明選好データを用いて計測されることが多いものの,バイアスの問題から,計測された値には,非利用価値以外の価値,たとえば利用価値が含まれる可能性がある.本研究では,表明選好データと顕示選好データを用い,非利用価値の評価値から利用価値を分離する方法を検討した.推計には,北海道の湿原に対する訪問行動および生物の種類の増加に対する支払意志額のデータを用いた.結果として,表明選好データのみから計測された約339円/年の非利用価値の内,約146円分が利用価値,約193円分が非利用価値である可能性が示唆された.
  • 杉原 幸樹, 平井 康幸
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_79-I_86
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     天塩川に接続するサロベツ川・パンケ沼は国内ヤマトシジミ漁場の北限であるが,漁獲量は減少を続け,資源保全が急務となっている.しかし,漁獲減少要因は不明な点が多く,有効な対策を模索中である.
     本研究は水理構造を明らかにし,生息環境との関係を検討した.まずサロベツ川の複数点で連続的な流量観測を行い,水収支を検討した.その結果,サロベツ川は流出が卓越して塩水遡上が抑制されることがわかった.またパンケ沼は淡水供給が優先し,夏期以降は塩分の希釈が進行することが分かった.
     パンケ沼への塩分供給を考慮すると,サロベツ川の流量が重要である.1980年から河川流量が増加傾向にあり,それにともない漁獲量が減少傾向を示していた.流量増加は雨量強度に依存しており,近30年間の降雨状況の変化が主要因であると推察された.
  • 矢野 雅昭, 渡邊 康玄, 杉原 幸樹, 平井 康幸
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_87-I_94
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     河床微地形,礫厚,周辺地下水位が浸透流,シロザケ産卵環境に及ぼす影響を明らかにするため,横断測量,浸透流速調査,産卵床調査を行った.また,現地河床地形上の河川水位分布,礫厚および周辺地下水位を考慮した浸透流計算も行った.その結果,礫厚が薄い個所では湧水が少なく,確認された産卵床も少なかった.一方で,礫厚が厚く,周辺地下水位が河川水位よりも高い個所では,地下水が河床内に流入し,河床微地形由来の浸透流と伴に河床面から湧出し,産卵床も確認された.この個所で周辺地下水位が河川水位よりも低い条件を検討すると,伏流水が河道外に流出し,湧水が減少した.礫厚が厚く河床微地形由来の浸透流があり,周辺地下水が流入できる条件は様々な浸透路長の浸透流が混在することから,産卵環境として良好であると考えられた.
  • 手計 太一, 北 隆平, 南 優平
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_95-I_101
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,黒部川扇状地扇端部における自噴井の塩水化の実態とそのメカニズムの解明である.著者らは,黒部市生地地区にある観光でも著名な「清水庵の清水」という自噴井の長期・継続的な水質調査を実施してきた.その結果,本研究対象井戸は最近10年間に急激に塩水化が進行していることがわかった.塩化物イオン濃度の最高値は157 mg/Lに達しており,このまま塩水化が進行すると,飲料水としての利用が難しくなる.富山湾の潮位は統計的有意に上昇傾向であり,電気伝導度(EC)と富山湾の潮位の季節変化は良く一致していた.塩水化の原因は,黒部川扇状地全域における地下水位の低下,富山湾潮位の上昇が考えられる.
  • 笹川 幸寛, 手計 太一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_103-I_110
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     富山県射水市新湊を流れる庄川右支川の一つである内川は,1968年の富山新港の開港によって上流・下流ともに富山湾に接続した.また,中流でも富山湾に接続しているため,河川水,潮位の両者による流動がとても複雑である.さらに,朝9時から夕方5時まで,環境改善のためのポンプ排水が行われており,流況をさらに複雑化させている.著者らは2010年から継続的に,ADCPを用いた流速観測を実施している.その結果,明瞭な塩水楔が観測されているとともに,塩水楔の直前で全層にわたって逆流する現象を捉えている.本稿では,この全層逆流現象についての観測結果を報告する.
  • 北 隆平, 手計 太一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_111-I_116
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     富山県の黒部川扇状地では,地下水は古くから様々な用途で利用されており,地域住民にとっては欠かせない資源である.本扇状地の沿岸部の一部で地下水の塩水化が確認されており,その原因はわかっておらず,また観測や測定の不足な点もあるため,地下水環境を適切に管理している状況とは言えないのが現状である.本論文の目的は,黒部川扇状地の地下水流動系を明らかにするとともに,地下水環境の現状と長期変化を明らかにすることである.2012年,2013年,黒部川扇状地を対象に地下水位と水質の集中観測を実施した.その結果,黒部川扇状地には3つの異なる地下水流動系が推定された.また,1990年と2002年に実施された地下水環境調査と比較した結果,主要な地下水流動系,水質ともに全域的な傾向の大きな変化は認められなかった.以上から,黒部川扇状地の地下水環境は過去23年間で大きな変化はなかったと考えられる.
  • 川本 圭彦, 梅田 信, 大山 秀格, 小池 亮, 森本 達男, 小熊 久美子, 荒巻 俊也, 滝沢 智
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_117-I_126
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     将来の温暖化による水道水源ダム湖の富栄養化と,水道事業への影響および適応策の効果を全国的に評価することを目的として,2つの排出シナリオに基づき,全国の37評価対象ダム湖の年平均表層Chl-α濃度の現在と将来の値を推定した.さらに,対象ダムから取水する54水道事業体を抽出し,取水量などの情報に基づき,ダム湖の水質変化による影響人口を地域別に算出した.その結果,現在から2100年にかけて水源ダム湖のChl-α濃度が増加し,給水人口に占める影響人口の割合が高まるが,影響人口は2050年代にピークを迎え,その後は人口減少の影響により減少することが推定された.水道事業における適応策として,ダム湖に曝気循環施設を導入することで,影響人口と高度浄水処理導入費用を低減できることが示された.
  • 梅田 信, 桑原 亮
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_127-I_134
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究では,国内にある33の水道水源ダムを対象として,温暖化や流域環境(集水域人口変化)による将来(今世紀中)における水質への影響を検討した.予測手法は,筆者らによる既往検討成果も活かしつつ,鉛直一次元解析(湖内水温モデルと湖内水質モデル)および流域負荷の統計的モデルの3つを組み合わせたものとして構築した.その結果,ダム湖における植物プランクトンの増殖に関しては,将来の気温上昇よりも,人口減少による流域からの栄養塩負荷減少の影響が大きく,現存量が低下する傾向が高いことが予測された.しかし,現在の流域人口が比較的小さいダムが多い北日本においては,今世期末に温暖化で水質悪化の可能性が示唆される結果も得られた.
  • 竹下 博之, 岡 和孝, 松岡 巌
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_135-I_142
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     ASEAN各国において,低炭素交通政策に関する長期行動計画の実施により削減されるCO2排出量を評価するためのツールを開発した.このツールは,ASEAN各国における長期行動計画提案を目的とした研究プロジェクトの一環として開発したものであるが,将来的には現地の行政官・研究者等に提供し,独自の長期行動計画を構築するために活用されることを想定して,開発を行った.
     ツールには,車両の燃費や各種燃費の排出係数等の各種データの他,複数の政策パッケージとそれらの導入効果がプリセットとして格納されており,ユーザーは自国に適した政策パッケージを選択し,その導入開始年や導入効果が最大になるまでの期間を選択することで,容易にCO2排出量削減効果を評価することが可能である.
  • 馬場 健司, 河合 裕子, 小杉 素子, 田中 充
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_143-I_151
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究は,気候変動による影響が深刻かつ喫緊の課題とされる農業分野における適応策への理解や受容性の向上に資する基礎的な知見を得るため,インターネットでの質問紙調査データの分析により,農村に居住する市民や農業従事者の適応策に対する選好や関与意向の規定因を明らかにした.得られた主な結果は以下のとおりである.第1に,気候変動を自身にとってのリスクと捉える人は約6割であり,局地的な大雨等の風水害,生活全般への被害を中心に実感を持っている.第2に,適応策として順応や防護が半数前後の人々から選好され,7割を超える人々が自助による関与を肯定的に捉えている.第3に,これらの選好や関与意向には気候変動リスク認知が,この認知には被害経験と社会関係資本が影響を及ぼしている.
  • 藤森 真一郎, 増井 利彦, 松岡 譲, 戴 瀚程
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_153-I_164
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     これまで統合評価モデルは主として世界を対象とした中長期的な緩和策の分析に用いられてきた.しかし,その予測精度は明らかにされてこなかった.本研究は統合評価モデルの一つであるAIM/ CGE(Asia-Pacific Integrated Model/ Computable General Equilibrium)モデルを用いて過去のエネルギー消費量の推計を行った.将来推計と同様にGDP,人口,エネルギー技術などの外生条件を与え,エネルギー消費量を統計値と比較し解析を行った.その結果,以下の3つの示唆を得た.第一に,世界合計といった地域集約的な情報は再現性が高く,例えば一次エネルギー供給量の統計値との乖離は10%程度であったが,地域別の情報には再現性の低いものが存在し,特に低所得国でその傾向が見られた.第二に,過去に遡るほど一次エネルギー供給,最終エネルギー消費の再現性は低下した.第三に,エネルギー源で見ると石油,天然ガスの再現性が,部門で見ると交通部門の再現性が他と比べると低く,モデル改良の余地があると考えられた.
  • HAK Mao, Tomoko HASEGAWA, Yuzuru MATSUOKA
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_165-I_176
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     Cambodia had changed from a net carbon sink in 1994 to a net emitter in 2000 where the highest contributor of GHG emissions was land use change and forestry (51%), followed by agriculture (45%), energy (4%), and waste (less than 1%). However, Cambodia has not formulated a concrete plan for GHG mitigation in the Agriculture, Forestry and Other Land-Use (AFOLU) sector. Therefore, it is an appropriate time to propose a scenario to assess GHG emissions and mitigation potential for this sector in Cambodia. This study applies AFOLU Bottom-up Model (AFOLU-B) to estimate GHG emissions and mitigation potential based on assumed socioeconomic indicators and on ongoing policies for the AFOLU sector through taking several constraints under mitigation cost and measures into account. The results yield that GHG emissions will change from a net carbon sink (0.94MtCO2eq.) in 2010 to a net emitter (13.98MtCO2eq.) in this sector in 2050. In the agricultural sector, the most effective mitigation measures are applied with the cost of less than 10US$/tCO2eq.; rice cultivation contributes the biggest share (87%), while in the land use change and forestry sector, the most plausible mitigation measures are applied with the cost of less than 50US$/tCO2eq.; reduced impact logging generates the largest mitigation potentials (99%) because of limited available land to apply plantations in the future. These findings are expected to provide insights for decision-makers to formulate climate change mitigation policy for the AFOLU sector.
  • 北野 慈和, 山田 朋人
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_177-I_182
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     中緯度地域の極端現象の一因である大気ブロッキングの発生頻度は,太平洋域では将来気候において北東にシフトすることが先行研究により示唆された.本研究ではこの北東シフトに着目し,ブロッキングの発生位置の変化が,日本周辺での極端現象にどのような影響を与えるかを第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)の計算結果を用いて考察する.オホーツク海付近でブロッキングが発生した場合,日本周辺域に極端に低温の日が発生しやすい傾向があるが,この地域のブロッキングは将来減少する.日本周辺域の極端に低温な日は,将来気候においては広範囲に起きやすくなる傾向があり,一方で頻度は減少する.この頻度の減少と,オホーツク海付近でのブロッキング発生頻度の現象との関係を示した.
  • 峠 嘉哉, 田中 賢治, 中北 英一
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_183-I_188
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     アラル海の縮小に象徴される深刻な渇水問題が発生しているアラル海流域では,水資源量や灌漑水需要量に対する気候変動の影響を事前に定量的に推定することが適正な水利用計画へ向けた科学的根拠として重要である.本研究では,陸域水循環モデルにA1Bシナリオに基づくMRI-AGCM3.2Sの出力値を入力することで,気候変動による水資源量と灌漑水需要量への影響について定量的に推定した.MRI-AGCM3.2Sの結果では,流域全体で降水量の増加と気温上昇が推定されている.陸域水循環モデルで解析した結果,降水量の増加分だけ蒸発散量が増加するため水資源量がほぼ変化しない一方,特に乾燥域において灌漑水需要量が気温上昇に伴って増加するため,当流域における水不足状況がより深刻化する可能性が示された.
  • 竹内 大輝, 山田 朋人, Yadu N. Pokhrel
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_189-I_196
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     灌漑農業を中心とする地下水や河川水の利用といった人間活動は地球水循環に作用し,大気循環への影響も考えられる.これまで人間活動の影響を考慮した陸域の水循環についての検討は行われているが,大気場も含めた地球水循環の議論も不可欠である.そこで,本研究では近年開発された灌漑用水や地下水汲み上げを考慮した陸面過程モデルに大気大循環モデルを結合させることによって人間活動が大気場を含む地球水循環にどのような影響を与えているのか検討を行った.この結果,大気場を含めた地球水循環シミュレーションにおいてもオガララ帯水層の地下水位の低下が再現された.そして,灌漑用水要求量が大きいパキスタン・インドを含む南アジアにおいて蒸発散量が増加し,その東側の地域において降水量の増加が見られた.
  • 西原 照雅, 渡邉 和好
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_197-I_203
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     IPCC第5次評価報告書の統合評価報告書では,地球温暖化には疑う余地がないことが示されている.北海道のような積雪寒冷地では,水資源を積雪に依存していることから,気候変動により渇水のリスクが増大する可能性があるため,気候変動による影響の評価が急務である.
     そこで本研究では,札幌市に水道用水を供給している定山渓ダムを対象に,気象庁の気候変動モデルデータNHRCM5を用いて,気候変動の影響に関して考察した.結果,将来気候においては,積雪・融雪量の年々変動幅が大きくなり十分な貯水を確保できない年が出現しやすくなる可能性があること,融雪後期のダムの貯水位が高い時期に強雨が発生する可能性が高まることが示された.
  • Xuanming SU, Kiyoshi TAKAHASHI, Shinichiro FUJIMORI, Tomoko HASEGAWA, ...
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_205-I_216
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     This study proposes a procedure to extend The Dynamic Integrated Climate-Economy model 2013R (DICE2013R) to enable the simulation of a new framework for climate change studies (Shared Socioeconomic Pathways (SSP)), and tentatively assesses long-term climate stabilization targets, considering the possible range of climate sensitivity. The results show that if a higher than actual climate sensitivity is assumed in the planning stage, a greater reduction in industrial CO2 emissions will be required to achieve the 2°C target, and thus the climate change costs are also larger. In contrast, with a lower than actual climate sensitivity assumption, a lesser reduction in industrial CO2 emissions will be required. Climate change researchers and policymakers need to balance the designation of climate policy and the uncertainty with respect to climate sensitivity, to avoid potential losses when climate change policy is implemented. The study also identified the mitigation and adaptation challenge levels, as defined in the SSP framework.
  • 永淵 修, 横田 久里子, 中澤 暦, 金谷 整一, 手塚 賢至, 森本 光彦
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_217-I_225
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     屋久島において、2009年5月8日から10日の高濃度オキシダント観測時に粒子状物質を採取し、長距離越境輸送大気の評価のためにこれらの起源解析を行った。オキシダントの日変動は、明確な日中高濃度、夜間低濃度の変動という一般的なものと汚染気塊の進入時に高濃度になる場合があり、今回の高濃度オキシダントは、大陸で発生したオキシダント生成物質が屋久島に輸送される間に光化学反応で生成したものと考えられた。一方、粒子状物質については、NO3-、nss-SO42-と微量金属間の関係をみるとPM2.5-10では相関は認められなかったが、PM1.0-2.5と1μm>PMの微小粒子では相関が認められた。さらにFeとAlの関係をみるとPM2.5-10では強い相関が認められ、その比も0.6で大陸のダストと一致しており、PM2.5-10の画分は大陸自然起源主体、PM1.0-2.5および1μm>PMの微小粒子は人為由来と示唆された。
  • 坂内 俊暁, 村尾 直人, 山形 定, 山口 高志, 深澤 達矢
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_227-I_233
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     我が国の都市におけるPM2.5汚染は、大陸から長距離輸送されてきた微小粒子(越境汚染)と都市内で排出・生成した微小粒子(都市汚染)が混合している状態であり、それぞれの寄与を把握することは、都市大気の改善に取り組む上で重要である。本研究では、微小粒子の光学特性に着目し、その指標であるSSA(単一散乱アルベド)、B/N比(吸収係数/粒子個数比)を用いて、札幌市を例に、実測から都市・越境汚染の寄与を評価する手法の開発を試みた。その結果、観測期間中(2014年6月~12月)の札幌の都市大気は、常時70%以上が越境汚染に支配されていたことが示唆され、また越境汚染割合は、夏季に減少し、秋季に上昇するという季節変動が得られた。この評価手法を用いることで、都市大気汚染へのより適切な対策の選択が可能になると期待される。
  • 馬場 健司, 鬼頭 未沙子, 高津 宏明, 松浦 正浩
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_235-I_246
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究では,インターネットを用いたオンライン実験により,木質バイオマスの利活用について,上流(供給)から下流(需要)までのステークホルダー34人が,3回の専門知の提供を受けながら2週間をかけて熟議を行った.得られた知見は以下のとおりである.1) 総論としての木質バイオマス利活用に対する賛否については,熟議を経て賛成が若干増加した.2) 今後の関与意向については,中間・需要側では,現在以上の負担や手間をかけてもよいという層と協力できないと回答した層に分かれ,供給側では,コストが増えることは許容できないが採算がとれるなら協力するという姿勢が増えている.3) 本実験の効果については,多数の参加者が意見をうまく表明できたと考え,自主的な情報収集や参加者間での相互作用が起きている.
  • 豊田 康嗣, 佐藤 隆宏, 石井 孝, 新井 涼允
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_247-I_255
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     小水力発電は温室効果ガスを排出しない純国産自然エネルギー発電である一方,我が国には発電に適した地点が多く残されている.その主な理由として観測流量の不備と発電単価評価の困難さが挙げられる.本研究では流出解析モデルにより流況の計算を行い,小水力発電に必要な落差および発電設備等の導入コストの評価から発電単価を計算できる評価システムを構築した.岐阜県の亀尾島川をケーススタディーとして,流出解析モデルの再現性を確認するとともに,発電単価が最安となる取水口・発電所位置の探知ならびに,取水口と発電所の位置を固定した際に取水口として既設砂防堰堤を利用した場合と取水口を新設した場合の発電単価の比較を行った.
  • 鈴木 章弘, 山田 朋人
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_257-I_262
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     X-band Multi-Parameter(X-MP)レーダは高い時空間解像度で降雨強度を推定可能であり,地上雨量計やこれまでに全国に配備されているレーダによる降雨データとともに降雨流出モデルへの入力値として高い利用可能性を有する.一方,X-MPレーダの降雨強度の観測精度はレーダサイトから約30kmを境に減少傾向にある.本研究はレーダサイトから遠方の地域におけるレーダ降雨強度の精度向上を目的とし,X-MPレーダと地上雨量計による降雨強度の関係を分析したところ,降雨強度とレーダからの距離によってレーダ降雨と地上雨量計には系統的な降雨検知の時間差が存在することを確認した.さらにレーダ降雨に降雨検知時間差を考慮することで地上でのレーダ降雨強度の推定を行ったところ,1分値及び10分値雨量ともにレーダによる降雨推定の精度を向上させるとの結果が得られた.
  • 小林 彩佳, 山田 朋人, 竹内 大輝
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_263-I_268
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     2011年にタイのチャオプラヤー川流域において大洪水が発生した.同年は年平均2~3個に対して5個の台風が東南アジア地域に到達しており,その影響で平年の1.6倍の降雨量が同流域にもたらされた.タイ国を含む東南アジア地域の水文気象場は,太平洋とインド洋の影響を受けていることが指摘されている.本研究は海面水温と東南アジア地域における降水量及び同地域への台風到達数の関係を明らかにすることが目的である.太平洋とインド洋の海面水温の空間分布特性から対象とする64年間を5つのグループに分類した.2011年を含むグループでは,両海洋の海面水温は全体的に高く,北西太平洋で発生した台風のうち東南アジア地域への到達率は5つのグループで最も高く,その割合は平年の1.4倍程度多いことがわかった.
  • 手計 太一, 道谷 健太郎, 下坂 将史, スヴァンピモル ポンサコーン
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_269-I_276
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     大規模な河川流域は時空間的に偏った様々な水問題を抱えているため,流域一体の管理が極めて重要である.本研究の目的は多雨と少雨の両方の時空間偏在性を明らかにする.本稿では,タイ国中央部に位置するChao Phraya川流域を対象として,45年間の日雨量データを利用する.Chao Phraya川流域を58のサブ流域に分割し,873箇所の雨量観測所のデータから流域平均雨量を算出した.この雨量データを基に,流域の多雨と少雨のポテンシャルを議論する.
     本研究の結果,多雨と少雨のポテンシャルの局所的な地域特性を得ることができた.また,特に少雨の傾向が極めて強いことがわかった.当該流域には長期の雨量データが揃っているので,水災害リスクの評価のためには,確率的概念だけに依らず,過去の雨量データを丁寧に分析する必要である.
  • 永田 喜大, 吉見 和紘, 永島 健, 山田 正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     近年, 地球温暖化に伴う気候変動の影響により降雨規模, 降雨形態の変化が指摘されている. また, それに伴って日本では, 台風や豪雨による洪水や土砂災害のリスクが増大している. 平成26年8月20日には広島県で大規模な土砂災害が起こった. こうした災害から被害を軽減させるためには, 降雨現象の特性を正確に把握することが必要であり, 台風や集中豪雨など突発的, 短い時間スケールの気象現象がどのように変化するかが非常に重要である. また, 降雨時系列の乱れた成分の時定数を求める事は流出現象の不確実性を評価するのに極めて重要である. そのため, 降雨強度などの短期的な特性についても解明を行う必要がある. そこで本研究では, XRAINと時間分解能の高い雨量計のデータを用いて1分間降雨強度の時間的周期変動の特性の把握を目的として研究を行った.
  • 銭 潮潮 , 山田 正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     気候変動計算や気象予報の数値計算が広く行われており,地球上の水や大気循環の底面境界である接地境界層の境界条件としてMonin-Obukhovの対数分布と線形型を組み合わせた(Log+Linear則)風速分布を用いることが多い.しかし,Monin-Obukhovの安定度スケールは代数式であるために,数値計算に用いるには不向きである.また,大気が不安定のときに混合長の長さスケールが負になり,物理的な解釈が非常に困難である.さらに,不安定の時に現れる混合層の鉛直スケールは必ずアプリオリに与える必要がある.本研究ではこれらの問題点を解決すべく,安定度を考慮したより物理的に厳密な混合距離に関する新たな微分方程式を提案した.既存の代数式安定度スケールによる風速分布及び実測の風速分布との比較より,提案する新たな接地境界層の安定度スケールに関する微分方程式の適用性を検証した.
  • 一瀬 輪子, 北野 慈和, 山田 朋人, 渡部 靖憲, 泉 典洋
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     中緯度地域における大気の振る舞いは,偏西風の蛇行及び高低気圧の移動によって大きく影響を受け,これは傾圧不安定波として解釈される.代表的な傾圧不安定波の室内実験手法としてFultzやHideが提唱した回転水槽実験が挙げられるが,本研究では底面から温度差を与える条件にて実験を行った.この条件では,地球における極域の流れの観察が可能であり,また傾圧不安定波の蛇行の振幅も制限されない.この手法を用いて実験を行ったところ,波数4-6程度の波動が観察され,流れ場は時間とともに動的に変化した.水槽の中心付近の渦度と東西(周方向)流速との間には,時間とともに同期する関係が見られた.
  • 井上 浩太, 鈴木 絢美, 川越 清樹
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_295-I_303
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     気候変動による将来の積雪分布を見積もる基礎データを整備するため,日本海に接する流域の積雪深とイオン組成と日本海海水の関係を求めた.この関係を定量化し,現在の気候に対する局所的な地域,および年単位のタイムスケールの変化に着目した積雪の特徴が明らかにされた.結果として以下の(1)から(3)の結論を得た.(1) 日本海沿岸流域の積雪深は,日本海の表面海水温度と気団の勢力,頻度に影響を受けて変化する地域を多く含み,降雪短期イベントの発生に依存して年単位の積雪の大小が分かれる可能性を明らかにした.(2) 積雪のイオン組成に基づくCL-/Na+濃度比より,平常的な積雪の場合,海水起源の積雪は,河川急変する流域の地形に依存した分布をなす可能性が明らかにされた.(3) 沿岸から距離の離れた流域奥部の多積雪地域に関して,地域固有的な積雪過程が存在する可能性を明らかにした.
  • 綿貫 翔, 山田 正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_305-I_310
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本論文では,熱帯夜の時間帯を午後6時から翌午後6時までと定義し,その時間帯における最低気温(平均値)と気象庁の統計データや既往の研究で用いられている日最低気温(瞬間値)との比較を行った.また,定義した時間帯における最低気温をとる時間帯やその回数などを全国12地点で調べた.
     その結果,定義した時間帯における最低気温(平均値)と日最低気温(瞬間値)の比較では,既往の研究で行われている熱帯夜日と同日の最低気温よりも熱帯夜日と翌日の日最低気温の方が相関が高くなることがわかった.また,定義した時間帯における最低気温は午前4時から午前6時であることがわかった.
  • 古賀 達也, 河村 明, 天口 英雄, 田内 裕人
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_311-I_317
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本論文では土地利用種別毎の浸透特性と土壌水分量の違いによる蒸発散量を表現できる蒸発散モデルを,高度に都市化が進展した神田川上流域に適用し,推定された蒸発散量を神田川流域における実測値と比較することによりその妥当性を検証するとともに,対象流域での気温および土地利用の違いが蒸発散量および地物表面温度の空間分布に及ぼす影響について評価した.実流域への適用にあたっては,東京都内で密に観測が行われているMETROSデータから作成した気温分布を土地利用種別地物毎に与え、日単位計算による地物毎の蒸発散量および地表面温度を推定した.その結果,気温により異なる土地利用種別毎の潜熱,顕熱および蒸発散量を推定できることを確認し,空間的な蒸発散量の違いおよび地物表面温度の空間分布について把握することができた.
  • 内田 裕貴, 青山 定敬, 朝香 智仁, 野中 崇志, 杉村 俊郎
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_319-I_324
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     新世代静止気象衛星「ひまわり8号」が打ち上げられた.従来より大幅な観測機能の向上が図られ、観測波長帯数の増加と高頻度観測が実現している.Landsat/TMと同様な可視、近赤外、熱赤外域で地球表面からの反射、放射強度を観測した画像データからは、地上分解能は劣るものの土地被覆情報と地球表面温度情報を対比して調査することができる. 土地被覆毎の温度変化に着目すると人工的な構造物で覆われた領域の温度変化が著しいことが確かめられる. 首都圏を例として、「ひまわり8号」から得られた人工構造物を示す土地被覆域と温度情報をLandsatと比較して検証した. その結果衛星は期待通りの性能を発揮しており、都市の熱環境を監視、評価することが可能であると思われる.
  • 時政 真依子, 大西 直希, 中嶌 一憲
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_325-I_336
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究は兵庫県41市町の平成10年度から平成24年度までのパネルデータを用いて,兵庫県におけるごみ袋有料化がごみ減量に寄与し,かつ社会厚生の観点から望ましい政策であるかどうかを明らかにすることを目的とする.本研究の結果から得られた主な知見は,1)ごみ1kgあたりのごみ袋価格が1%上昇することによって,1人あたりの生活系可燃ごみが0.076%減少すること,2)兵庫県のごみ袋有料化を行っている18市町すべてにおいて,ごみ袋有料化導入前後の社会的余剰の変化が正値(608万円から3,079万円)であること,3)兵庫県のごみ袋有料化を行っている18市町のうち14市町において,社会的余剰の変化分は現状のごみ袋価格下より最適ごみ袋価格下の方が大きいことである.
  • 小松 郁也, 村上 一真
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_337-I_345
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     住民の河川保全活動への参加と継続意図の規定要因を,質問票調査データを用いた共分散構造分析により明らかにするとともに,アダプト・プログラム参画団体への所属有無による,参加と継続意図の規定要因の違いを,多母集団同時分析により検証した.結果,参加には愛着と費用便益評価が同程度の影響力,継続意図には愛着よりも費用便益評価が強い影響力を持っていることを明らかにした.また,アダプト・プログラム参画団体に所属している人は,所属していない人と比較して,継続意図に対して費用便益評価がより強い影響力を持っていることを明らかにした.
  • 寺村 友里, 村上 一真
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_347-I_355
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     大学生の日常生活における環境配慮行動の規定因を明らかにするモデルを構築し,大学内の環境への取り組み(大学での環境の授業,大学の環境への取り組み,学内の環境団体の環境への取り組み)が,大学生の環境配慮行動(環境配慮商品の購入,不要なものを買わない,節電)に与える影響を,2つの大学への質問票調査データを用いた共分散構造分析により明らかにするとともに,大学の違いによるそれら影響の差異を多母集団同時分析により明らかにした.結果,大学での環境の授業は間接的に学生の環境配慮行動を促進していること,滋賀県立大学での環境団体の取り組みは,広島修道大学に比べて学生の環境配慮行動に強い影響を与えていることなどが明らかになった.
  • 森田 紘圭, 石田 千香, 大西 暁生, 川原 志郎, 井村 秀文, 加藤 博和
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_357-I_368
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     現在,東日本大震災を契機とした電力需給のひっ迫や分散型エネルギーシステムへの関心から,ピーク時間をはじめとした時間帯別の電力料金を変動させることで特定の時間帯の電力需要をコントロールするデマンドレスポンス(DR)の導入が進んでいる.本研究は,電力料金の変化と居住者の行動変化の関係をアンケート調査から明らかにするとともに,生活スケジュールモデルを用いてDR制度の導入による都市圏内の夏季エネルギー消費量変化を推計することを目的とする.アンケート調査の結果,1)電力料金が高くなるほどピーク時間帯における外出が増加すること,2)短期的な省エネ行動の促進だけでなく,設備や機器の買い替え・導入など中長期的な行動変化が促進される可能性があることが示唆された.また,アンケート調査の結果を踏まえて名古屋都市圏でDRによるエネルギー消費量削減効果の検証を行った.その結果,3)DRはピーク時間帯のエネルギー消費量の削減効果は大きいものの,日全体での消費量はかえって増加する危険性もはらんでいること,4)単独世帯が多い都心部においては効果が小さくなる可能性があること,が示唆された.
  • 大西 暁生, 佐藤 嘉展, 佐尾 博志
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_369-I_382
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本研究では,2050年までのセクター別(農業用水,工業用水,生活用水)の水需要を推計するシミュレーションモデルを構築するとともに,アメダスと超高解像度全球大気モデル並びに「日本の水資源」に記載されている年間の水資源賦存量を用いることによって将来の水資源賦存量を都道府県ごとに推計した.水需要モデルは,統計書類や地理情報システムのデータを用いて構築されており,将来の社会経済の状況や節水対策等をシナリオとして扱うことができる.ここでは,人口動態や経済の成長の度合い,また耕地面積の変化や水道の普及率,さらには工業部門における回収率や業種構造等の対策や水使用原単位の推移をもとに,各セクターの用水量を推計した.そして,最終的には水供給可能量にあたる水資源賦存量との関係をギャップとして把握することによって,各都道府県において水不足が起きる可能性があるのかどうか,また水不足が起きた場合の適切な水利用のあり方を検討した.
  • 河瀬 玲奈, 松岡 譲
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_383-I_391
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     財の貿易に関するシナリオおよび鉄鋼消費の見通しやスクラップ余剰を生産決定因子とする製鋼法選択シナリオなどを設定することで,世界の生産動向に複数の想定をおき,その条件下で日本の鉄鋼生産量が取り得る幅について,製鋼法別に2012年から2050年までの期間について推計を行った.
     その結果,最大値をとるのはスクラップを国内で最大限消費することを想定するシナリオであり,電炉鋼の増加により2035年に1.49億トンになった後,2050年には1.20億にまで減少する.最小値をとるのは電炉生産における技術進歩を想定し,かつ,鉄鋼の需給バランスを取るように生産調整を行うシナリオであり,2050年にむけて徐々に減少し4,400万となった.
  • 童 宇超, 綿貫 翔, 山田 正
    2015 年 71 巻 5 号 p. I_393-I_398
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/23
    ジャーナル フリー
     本論文は屋根雪による被害を防止する屋根散水システムに注目した.このシステムは雪が屋根の表面に積もる前に散水することで,積雪を防止するものである.散水水温が低下した原因を解明し,最適散水条件を探すことで,最終的に屋根散水システムを実用化することを目指している.
     実験結果より,散水中,屋根全体の表面温度が一定になってからの屋根表面温度は散水水温と強い線形関係があることがわかった.流量の違いによる屋根表面温度と散水水温との関係は,大差ないこともわかった.また,散水の過程では,熱損失を考え,伝熱工学に一般的に使われる計算式を用い,散水水温低下の計算を行った.
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