必須脂肪酸は動物の生存に不可欠な栄養素であり,水圏生態系では藻類によって生産された必須脂肪酸が動物に利用されている.しかし,藻類による生産が十分には期待できない環境でも水生動物が生息する事例が見られる.そこで,本研究では原生動物による必須脂肪酸合成の可能性に着目し,繊毛虫の
Cyclidium sp.と
Glaucoma sp.を対象として,必須脂肪酸を含まない細菌
Alcaligenes faecalisを餌として1ヶ月間培養した.その結果,これらの原生動物が細菌のみを餌としながら増殖・世代交代を重ね,
Glaucoma sp.はリノール酸を,
Cyclidium sp.はリノレン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸を合成可能であることが明らかとなった.藻類の生産が不足するような生態系では原生動物が必須脂肪酸の供給源になり食物網を支える役割を果たしている可能性が示唆された.
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