土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
77 巻, 7 号
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環境工学研究論文集 第58巻
  • 高橋 真司, 菊池 凛, 笹本 誠, 石川 奈緒, 伊藤 歩
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_1-III_10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究では農畜産業が盛んな岩手県軽米地域を流れる雪谷川と瀬月内川を対象に底生動物と有機物の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を用いて,流域内の人為的な栄養塩負荷が河川生態系に及ぼす影響を評価した.δ13C・δ15Nの結果から,瀬月内川上流を除く地点で人為的な栄養塩負荷の影響が推察された.δ13Cによる餌起源推定の結果,付着藻類が底生動物の主な餌資源として利用され,付着藻類のδ15Nと各摂食機能群のδ15Nとの関係から,調査河川では付着藻類を基盤とする食物網が構築されていることが示唆された.したがって,人為的な栄養塩負荷の影響は付着藻類や付着藻類由来の微粒状有機物を介して底生動物へ伝播し,この影響はダム湖の富栄養化を介してダム下流まで波及していることが推察された.

  • 山口 武志, 井原 賢, 山下 尚之, 林 東範, 田村 太一, 牧野 樹生, 田中 宏明
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_11-III_20
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     流域に大都市がある桂川において,合流式下水道のB下水処理場を対象として,降雨時での下水処理場放流水及び放流先河川水に含まれる衛生微生物(E. coli, GII-NoV, PMMoV)の存在実態を調査した.また,非降雨時に調査した先行研究と,降雨による衛生微生物負荷量の上昇の程度を検討した.降雨により増加する流入下水の一部が簡易処理のみで,生物処理水に混入することで,下水処理場放流水の微生物負荷量の増大を引き起こすこと,その結果,河川水の衛生微生物濃度も上昇することが明らかになった.しかし,下水処理場放流点の上下流の河川地点での収支からは,対象としたB下水処理場の放流水以外の排出源からの衛生微生物の寄与が多く,この原因追及が今後必要である.

  • 北村 友一, 阿部 翔太, 厚朴 大祐, 山下 洋正
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_21-III_32
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究では,下水処理水の魚類繁殖に関係する水質・生体影響マーカーの推定のため,二次処理水,担体処理水を曝露水としたメダカの成長試験,成長したメダカ肝臓中内在性代謝物のターゲットスクリーニングおよび成長したメダカの産卵試験を行った.合わせて曝露水の一般水質分析と飛行時間型質量分析計による化学物質のノンターゲット分析を行い,成長,産卵の観察項目および内在性代謝物と水質項目を統計学的手法で解析した.産卵実験において,二次処理水曝露区で受精卵数,受精率の低下が見られた.雌魚は雄魚よりも代謝物質の変化が大きく,特に, Phosphocreatineは二次処理水曝露区で高くなった.生体影響と水質との解析から,受精卵数はNH4-N,LC-QTOF/MS 分析から抽出されたm/z 362.1523の特性を有する化学物質と,受精率はEx:345nm/Em:430nmの蛍光強度とm/z 517.0774との相関が高かった.

  • 鈴木 諒太, 國實 誉治, 荒井 康裕, 小泉 明, 藤川 和久, 大森 栄治, 関田 匡延, 田中 卓也, 大槻 尚敬, 薄木 克弥, 福 ...
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_33-III_40
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究では,水道管として埋設されている鋳鉄管とダクタイル鋳鉄管の孔食に着目し,経過年数および埋設地盤との関係について分析を試みた.分析には,東京23区内を対象として1987年から実施された約7,000件の埋設管の管体調査データを用いた.本分析の結果,埋設地盤の腐食性の強度を示す孔食度係数(𝑘)を地盤分類毎に定量化し,管体調査の結果をもとに,腐食性の弱い地盤Iと強い地盤IIが東京23区内の西部と東部に区分されることを実証した.また,地盤腐食性と孔食深さに関する傾向やポリエチレンスリーブの防食効果についても明らかにした.さらに,鋳鉄管はダクタイル鋳鉄管に比べ,孔食の進行が速いことをグラフによって可視化することができた.これらの新たな知見は,対象地域における管路更新計画の有用な情報になると考える.

  • 國實 誉治, 小泉 明, 荒井 康裕, 平松 立之介, 藤川 和久, 大森 栄治, 関田 匡延, 近藤 楽
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_41-III_49
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究は,配水管網での基幹管路である配水本管の管路更新計画に着目した.配水本管の更新は工事規模や断水の影響が大きく,技術面やコスト面でも大きな負担を伴う計画である.更に,今後は水需要量の減少が予測されている.先行研究では水需要の経年変化を考慮した配水本管の更新優先度評価手法が新たに提案された.しかし,配水管網は地形や都市開発の変遷などの条件により多種多様の形状や特徴を有するため,他の管網モデルにも適用可能な汎用性が求められる.そこで,特徴の異なる配水区域モデルとして亀戸配水区域を対象として更新優先度評価手法により新たな更新シナリオを設け,長期水需要変動を考慮した配水本管の更新シナリオについて安定供給面と費用面に着目した比較分析を行い,本評価手法の汎用性について明らかにした.

  • 増田 貴則, 堤 晴彩, 浅見 真理
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_51-III_59
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     給水人口100人以下の水供給システムを利用・管理している集落を対象に,集落役員が点検や清掃などの管理作業に対して感じている負担感や作業負担の重い項目について整理し,実作業量を把握することを目的とした質問紙調査を行った.加えて,集落外の団体との維持管理作業における連携・協力状況,民間団体からの支援に関する利用意向を把握することを目的とした質問紙調査を行った.

     回答結果より,集落外の団体と連携・協力をして維持管理作業を行っている集落は20%弱にすぎず,施設の維持管理に負担感を抱えていることが把握できた.また,維持管理において負担の重い作業項目・作業頻度や作業に要する時間,外部団体からの支援に対するニーズや集落が支援を利用したいと思う価格帯について把握することができた.

  • 中野 和典, 鈴木 援, 谷口 崇至
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_61-III_69
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     パイロットスケールの多段型人工湿地に機能性ろ材を用いた区画を設け,砂のみの区画と比較することで機能性ろ材が人工湿地の下水浄化性能に及ぼす効果を検証した.好気処理に適した鉛直流条件では,砂のみの区画でも90.2%のBOD除去率が得られ,ゼオライトを組み合わせた区画では99.9%のNH4+-N除去率が達成できた.多段型人工湿地に水平流を導入して嫌気処理を強化したハイブリッド条件では,すべての区画で全窒素除去率は45%前後となり,ろ材による差異はわずかであった.リン除去率は砂のみの区画において鉛直流条件では21.6%であったが,ハイブリッド条件ではマイナスに転じた.これに対しケイ酸カルシウムを組み合わせた区画では,ハイブリッド条件でも除去性能は低下せず,リン除去率18.2%を維持することができた.

  • 大友 渉平, 柴田 悟, 李 玉友, 高階 史章, 宮田 直幸, 増田 周平
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_71-III_82
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     機械式撹拌を行う無終端水路の生物反応槽において,高度窒素除去と亜酸化窒素(N2O)生成抑制を可能にする運転方法を明らかにすることを目的に,実処理場において異なる撹拌方法を設定して実証試験を行い,環境条件とN2Oの動態を解析した.その結果,撹拌方法の違いにより,溶存酸素(DO)およびN2Oの濃度は時空間的に異なった.無酸素エリアと適切なDO濃度の好気エリアを同時に形成する撹拌方法では,74%の無機態窒素除去率と,0.31%の低いN2O排出係数を達成した.N2Oの生成は,流入下水量,DOおよび有機物の影響を強く受け,N2Oの抑制には適切な無酸素エリアの形成と有機物の供給によるN2O還元の促進が重要と考えられた.以上をふまえ,実処理場のN2O発生量を最小化する撹拌方法の最適化について考察した.

  • 小林 大晟, 奥村 颯吾, 斎藤 晴天, 石川 奈緒, 笹本 誠, 伊藤 歩
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_83-III_91
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     家畜へ投与された抗菌剤の一部は排泄物中に排出される.そのため抗菌剤が畜産廃水と共に周辺の水環境に流出し,水域生態系に悪影響を及ぼす可能性がある.本研究では,イライトまたはゼオライトを主要粘土鉱物とする2種類の鉱物試料(Y-illite, M-Zeolite)との接触による溶液中及び養豚廃水中に添加した3種類の抗菌剤の除去処理試験を行った.さらに処理水の安全性について,藻類R.subcapitataを用いた短期毒性試験により検討した.その結果,M-Zeoliteの方がY-illiteよりも抗菌剤の除去速度が速いことが示された.また,タイロシンは吸着だけでなく分解も生じる可能性が示唆された.さらに,実際の養豚廃水を用いた除去試験より,人工湿地の後段 にゼオライトでの接触処理を取り入れることで,より効率的に抗菌剤が除去できることを明らかにした.

  • 渡邊 真也, 小熊 久美子
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_93-III_102
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     バイオフィルムは,微生物が様々なストレス環境下で棲息するために産生する細胞外高分子物質を主成分とし,給配水システムでは水質劣化や配管腐食などの問題を引き起こす.紫外線照射は浄水処理において消毒技術として利用されており,細菌にとって自己の生存を脅かすストレス要因に他ならない.本研究では,細菌への紫外線照射がバイオフィルムの形成に及ぼす影響を評価した.実験は,紫外線を照射した緑膿菌液と非照射の緑膿菌液を異なる比率(照射菌液の体積比率として100, 50, 10, 1, 0%)で混合し,マイクロタイタープレートで培養してバイオフィルムを成長させて行った.バイオフィルム形成量をクリスタルバイオレット染色法で定量すると共に,培養液中の菌の代謝活性をATP法で測定した.照射菌液100%の試料中のATPは6時間以内に97%減となり,バイオフィルムはその後に成長が見られた.また,照射菌液100%の試料は,0%試料に比較してバイオフィルムの成長速度が2倍以上と推定された.これらの結果から,照射菌液中に生残した細菌のバイオフィルムの産生を,紫外線照射で不活化された細菌が促進している可能性が示唆された.

  • 阿部 天磨, 佐藤 幹子, 矢口 淳一, 李 玉友, 久保田 健吾
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_103-III_109
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     下水汚泥を処理する嫌気性消化汚泥の微生物群集構造解析において,初沈汚泥や余剰汚泥由来の残存死細胞のDNAが問題となる.本研究では,細胞膜の損傷を生死の判断基準とするpropidium monoazide (PMA)-PCR法を用いて,残存死細胞由来のDNAを除去し,高温嫌気性消化槽において生きている微生物の群集構造解析を行った.その結果,従来の抽出DNAを用いる解析では,微生物の種数や多様性を過大評価していると考えられた.死細胞として残存している微生物は主としてAlphaproteobacteria,Gammaproteobacteria(主としてBetaproteobacteriales),Actinobacteriaであった.PMA-PCR法によって明らかにされた高温消化汚泥の微生物群集構造では,相対存在率上位15OTUが全体の8割以上を占め,中温消化汚泥に比べて特定の系統群の働きが重要である事が本手法においても確認された.

  • 今井 剛, 前野 純一, 福島 聖人, 安井 美智, 鈴木 祐麻, 佐久間 啓, 人見 隆
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_111-III_120
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,硫化水素の発生抑制実験と電子放出菌の分子生物学的手法による菌叢解析を通して,導電性コンクリートを用いた電子伝達経路の提供による硫化水素の発生抑制に生物学的酸化が寄与していることの根拠を示すことである.硫化水素の発生抑制効果を示した導電性コンクリート供試体の経日的な菌叢変化をPCR-DGGE法および次世代シーケンサーによるメタゲノム解析により把握した結果,どちらの解析手法からもアノード電極の極近傍で電子放出菌(Geobacter sp.とPelobacter sp.)の集積が確認された.さらに次世代シーケンサーによる定量解析から,特にGeobacter sp.が多く集積していることが明らかになった.以上の結果から,導電性コンクリートを用いることで電子放出菌が集積し,嫌気的環境にありながらも水表面近傍の酸素を電子受容体として用いて硫化水素を生物学的に酸化できることが示された.

  • Shane Htet Ko, Hiroshi SAKAI
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_121-III_128
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     Public water supply services in Yangon started in 1842 since British colonial period, however the practice of drinking tap water is uncommon until this moment with public distrust on water supply infrastructure. Yangon city development committee is upgrading the tap water system in accordance with greater Yangon water supply improvement project. At the same time, they are looking for the solutions to improve public acceptance of tap water. Trust is generally assumed to be an essential precondition for improving the consumer’s acceptance of goods. This study aims to provide insight into relationship between trust in water authority and public risk perception on consuming tap water and the mediating demographic factors of this relationship using the questionnaire. It is conducted in central business district area, the heart of Yangon, with the highest population density in which to understand demographic transition in Yangon city. According to our findings, public risk perception on drinking tap water was greatly influenced by level of trust in water authority. In addition, some demographic variables such as gender and family size also had significant impacts on public risk perception on drinking tap water.

  • Tiasti Wening Purwandari, Shinobu KAZAMA, Satoshi TAKIZAWA
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_129-III_140
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     Water supply systems on small islands are fragile and prone to water shortages. Although the Indonesian Government provided assistance to build sea water reverse-osmosis (SWRO) systems on small islands to alleviate water shortages, the inhabitants also have other water sources. Therefore, this study aimed to delineate the inhabitants’ preference and consumption of various water sources, including the SWRO systems, and to find factors affecting water consumption to propose the sustainable operation and management of the SWRO systems. The three islands, namely Belakang Padang Island (BPI), Tanakeke Island (TKI) and Nusa Lembongan Island (NLI), have almost the same SWRO systems with different capacities. In BPI, high pressure pumps (HPP) were broken occasionally, reducing the production capacity significantly. Meanwhile, in TKI and NLI, the SWROs were operated intermittently due to solar power failure and small SWRO water consumption in the rainy season (TKI), and distribution pipe breakage (NLI). The SWRO water consumption by the customers varied significantly: 12, 46, and 110 litters-percapita-per-day (LPCD) on TKI, BPI and NLI, respectively. SWRO water consumption in the dry season was much higher than that in the rainy season when the customers can use rain water. The water consumption of the SWRO systems was also influenced by the operational stability of the SWRO systems, household income levels, and the water tariff levels. About 67% of the surveyed households spent more than 4% of their income for getting water. Since the SWRO systems cannot produce sufficient amounts of water to meet the dry season demand, many customers buy water from other sources that are more expensive than the SWRO water. Therefore, reliable and stable operation of the SWRO systems would lessen the customers’ burden of expenditure for getting water.

  • Minhsuan Chen, Kazuyuki Oshita, Masaki Takaoka
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_141-III_150
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     The co-incineration of sewage sludge and municipal solid waste (MSW) as a sewage sludge treatment method has a possibility to decrease lifecycle cost, energy consumption and greenhouse gas (GHG) emission. This study aims to clarify the feasibility on co-incineration of sewage sludge and MSW in Taiwan. This study assumes that sewage sludge is transported to MSWI by vehicles for co-incineration. First, we collected information on WWTPs and MSWIs in Taiwan and established a database using Google My Map. Second, we set the necessary conditions through literature and questionnaires for co-incineration: (1) Operating ratio less than 90%, (2) Mixing ratio less than 3% (dewatered sludge) and 1% (dried sludge), and (3) Distance between WWTP and MSWI is within 30 km. Third, four scenarios (dried sludge or dewatered sludge) were conceived and obtained the possible combination by screening out through necessary conditions. All four scenarios have 39 combinations for co-incineration. Regardless of whether the sludge is dewatered or dried in WWTP, the co-incinerable amount of sludge is the same on a dry basis which accounts for 89.7% of the national sludge generation. Since the amount of sludge in Taiwan is much less than that of MSW, the operating and mixing ratio does not affect the potential of co-incineration. The most critical factors affecting co-incineration are the distance between WWTP and MSWI. The dried sludge can reduce GHG emissions from transportation and incineration, and the generated electricity can also offset GHG emissions. However, the energy consumption of the drying process in the WWTP causes a large amount of GHG emissions than other processes. From the perspective of GHG emissions, dewatered sludge (S1) is the best scenario for co-incineration with MSW. If the drying equipment is installed in MSWI instead of WWTP, the energy required for sludge drying process can be provided from the waste heat of incineration.

  • 赤尾 聡史, 岩崎 貴大
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_151-III_160
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     農業地域で大量に発生する作物残渣を,破砕と水洗いにより養液栽培の培地とする検討を行った.ここでは,ナス茎葉を粗破砕し,水洗いの後ミニトマト栽培の培地とした.水洗いの効果を確認するため,微細化したナス茎葉に対して溶媒抽出を行った.抽出液を用いたミニトマト発芽試験では,水抽出液が最大の阻害をもたらした.また,阻害をもたらす物質は,70℃乾燥によりその効果を減じることができた.ミニトマト栽培(n = 3)では,比較系であるロックウールと比べると低調な成長となった.ただし,1株は比較系と同等の乾燥重量(栽培後)を示した.粗破砕ナス茎葉の培地の課題解決を図るため,基本的な物理・化学特性の把握を行った.同培地は,一般的な有機培地と比べてpHとEC値が高く,保水性も改善の余地があることを確認した.

  • 山内 正仁, 原田 隆大, 山田 真義, 潟 龍平, 黒田 恭平, 片平 智仁, 碇 智, 山口 隆司
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_161-III_168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究では,下水汚泥肥料およびマッシュルーム廃菌床を鹿児島県霧島市の茶園に3年間施用し,これらの資材の利用可能性を検討した.その結果,下水汚泥肥料を茶園に施肥すると従来の有機質肥料(菜種油粕)よりも増収が見込まれ,特に菜種油粕の50%を下水汚泥肥料に置換した試験区で総収量は最大となった.また下水汚泥肥料中の重金属が茶葉品質へ影響を及ぼすことはなかった.さらに茶園土壌の地力維持のためにマッシュルーム廃菌床を用いたが,茶葉の収量,品質に影響はなく,廃菌床を茶栽培へ利用できることがわかった.また,下水汚泥肥料を12kgN/10a/年施肥することで,肥料費を慣行施肥区の約15%削減でき,かつ地域で発生する脱水汚泥の約88.5%を地域の茶園で利用できる可能性が示唆された.

  • 松山 裕城, 浦川 修司, 酢谷 大輔, 佐々木 俊郎, Dung Viet PHAM , Luc Duc PHUNG , 有地 裕之, 渡 ...
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_169-III_178
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     都市下水処理水の灌漑で栽培されたタンパク質含有率の高い飼料用米を用いて,肥育後期豚の飼育試験を行った.トウモロコシ(エネルギー源)と大豆粕(タンパク質源)を主体とする一般的な配合飼料に対して,この高タンパク米でトウモロコシを置き換える一方で大豆粕の割合を低減した配合飼料を試験に用いた.その結果,下水処理水栽培米を給与すると枝肉成績のうち枝肉歩留が有意に上昇し,枝肉の格付でも上物の割合が高くなった.肉質についても慣行的に生産した豚肉と遜色がなかった.鶴岡浄化センターをモデルとして,下水処理水を近隣の水田に灌漑し,収穫された高タンパク米を養豚に用いる事業計画について経済評価を行ったところ,下水道事業としての年350万円の投資は,稲作農家と畜産農家の年間収益を合計で534万円(水田活用の直接交付金を含む)増やす効果があった.

  • 八十島 誠, 友野 卓哉, 醍醐 ふみ, 嶽盛 公昭, 井原 賢, 本多 了, 端 昭彦, 田中 宏明
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_179-III_190
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     本研究では,感染者の排泄物に由来する陽性反応の利用が容易な個別施設を対象に,トイレ排水を排除するマンホールでの下水疫学調査でSARS-CoV-2の回収・検出を通じて感染者の早期発見を目的としたパッシブサンプラー(PoP-CoVサンプラー)を開発し,有効性を検証した.SARS-CoV-2中等症感染者が入院する病院施設と軽症者等宿泊療養施設での検証実験の結果,PoP-CoVサンプラーにはSARS-CoV-2が残存しており,マンホール調査での有効性が確認された.またPoP-CoVサンプラーでのCt値はグラブサンプルより最大7.0低かった.本法の社会実装を想定し,111名が勤務する事業場施設で調査を行ったところ,下水から陽性反応が得られた.陽性反応の原因として無症候性感染者からの排泄は否定出来ないものの,下水疫学によって1名の症候性感染者を陽性確定日の4~5日前に発見できる可能性が示唆された.

  • 安藤 良徳, 北島 正章
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_191-III_197
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     下水中に含まれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を定期的にモニタリングする下水疫学調査は,感染流行の動向を集団レベルで把握できる手法として期待されているが,下水中のSARS-CoV-2の感染性に関する懸念が調査の普及を妨げる要因の一つになっている.本研究では,下水中SARS-CoV-2の感染性調査への適用に向け,VeroE6-TMPRSS2細胞を用いたウイルス培養に基づくSARS-CoV-2感染性評価法を確立した.この方法を用いて下水中の感染性ウイルスとウイルスRNAの量的関係を解析することで,PCR法によるSARS-CoV-2 RNA実測値に基づく感染性SARS-CoV-2粒子量の推定が可能になると期待される.

  • 森 祐哉, 西山 正晃, 澁木 理央, 馬場 啓聡, 金森 肇, 渡部 徹
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_199-III_207
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     宮城県仙台市の都市下水処理場の流入下水と協力病院の排水からESBL産生菌を分離し,分離菌株について,腸内細菌科細菌の菌種同定とESBL産生遺伝子の検出を行うことで,その特徴付けを行った.1年間のモニタリングで,都市下水と病院排水からESBL産生菌をそれぞれ594株と102株単離した.Escherichia coliAeromonas属,Klebsiella属を中心に,計10種類の菌種が同定され,それらの耐性菌からは全16種類のESBL産生遺伝子(bla)が検出された.検出されたblaの類型をすると,Class Aが最も多く,その中でもblaCTX-M group-9の検出率が両地点ともに最も高かった(都市下水:51.9%,病院排水:35.6%).Class Aのblaを保有し,かつカルバペネム系抗菌薬も分解できるClass Bの両遺伝子を保有するESBL産生菌も都市下水と病院排水から検出された.日本ではほとんど分離報告のない海外型カルバペネマーゼと呼ばれるblaKPCblaOXA-1も検出され,ESBL産生菌の市中での蔓延状況の深刻さが浮き彫りとなった.

  • 澤田 竜希, 風間 しのぶ, 小熊 久美子, 滝沢 智
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_209-III_220
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
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     海水淡水化は,渇水に影響されず安定した水供給が可能な技術であるが,設置・運転管理の費用や技術の要求水準が高く,開発途上国における有効性の評価は定まっていない.そこで本研究は,世界の人口10万人以上の都市について,インターネット上の約75,000サイトから,web scrapingの手法を用いて世界の淡水化施設情報を収集し,データベースを作成した.その結果,稼働中157,計画中27,建設中1都市の合計185都市の情報が得られた.さらに,このデータベースを用いて世界銀行の1,386の国別指標から,海水淡水化施設の設置に適した都市に関わる4つの指標を選定した.これらの指標をもとに,今後,海水淡水化施設の設置可能性の高い開発途上国の都市人口を推計したところ,24ヶ国で約5,400万人と推計された.これらの結果から,本研究で用いたweb scraping手法の有効性が確認された.

  • 福嶋 俊貴, 西村 文武
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_221-III_230
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     下水処理場シミュレータを利用し,モデル地域を対象に広域化・共同化による下水処理場の資源・エネルギー循環拠点化について省エネ・創エネやリン回収の観点から総合的に評価した.汚水処理施設の連携では,下水道接続と設定した農業集落排水処理施設の効果が大きかった.A処理場合計発電量19,430kWh/日のうち農業集落排水由来が16%を占め,発電量は3割ほど増加していた.B処理場には3つの処理場のリンが集約されており,リン回収量は159kg/日と,B処理場単独の94kg/日の1.7倍となり,流域処理場間も含めた広域化・共同化が有効であると考えられた.エネルギー循環拠点としての総合評価では,B処理場を3つの処理場のエネルギー拠点と考えると消化ガスの処理場連携の効果が大きく自給率は82%となった.さらに,汚水処理施設との連携では発電量が19,200kWh/日まで増加し,自給率104%と電力自立が可能であると計算された.

  • 柏岡 美咲, 鈴木 遥介, 寺﨑 寛章, 福原 輝幸, 谷口 晴紀, 安本 晃央
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_231-III_240
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     本研究ではライニング地中熱交換器(LBHE)を用いた流量制御型地中熱ヒートポンプシステムを兵庫県加東市の事業所に導入し,流量制御時における本システムの地中循環流量やヒートポンプ一次側出口水温などを調べ,制御の効率化に資する知見を得ることを目的として冷房実証実験を行った.実験に際して,まず従来のLBHEの施工方法を改善した.次に冷房実験を行い,流量制御下の運転状況を調べ,空冷式ヒートポンプシステムから本システムへと更新した場合の省エネ効果を検討した.その結果,いずれの実験日においてもヒートポンプ一次側出口水温は概ね設定温度に維持されていた.また空冷式ヒートポンプシステムの消費電力量を試算した結果,本システムの消費電力量は更新前に比べて28.4~45.5%削減されることが分かった.

  • 持田 史佳, 中村 由行, 井上 徹教, 比嘉 紘士, 鈴木 崇之
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_241-III_250
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     三河湾などの富栄養化した海域では,夏期底層水中が無酸素化し,堆積物表層での硫酸還元作用により硫化物が底層水中へ溶出し,青潮等の環境問題につながる.堆積物の環境改善手法として,自然現象であるアイアンカーテン(鉄との反応による硫化物の除去)から着想を得た堆積物への鉄資材添加が考案されているものの,その定量評価には至っていない.そこで本研究では,鉄資材添加による硫化物溶出抑制効果の定量評価を目的に,硫黄循環過程に着目した堆積物モデルを開発し,硫化物溶出実験の再現計算を行った.その結果,三河湾現地コアを用いた溶出試験結果をモデルで再現することが可能となり,現地堆積物への鉄資材添加の効果を定量的に評価することが可能となった.

  • 上原 悠太郎, 栗栖 太, 春日 郁朗, 古米 弘明
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_251-III_260
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     LC/MSによるノンターゲット分析では試料前処理法として固相抽出がよく採用されるが,固相抽出では試料やカートリッジによって回収率に大きな差があることが知られている.そこで本研究では,東京都神田川の河川水を対象として固相抽出4種と凍結乾燥,試料大容量直接注入について,DOC回収率と質量分析で検出されたDOMコンポーネント数の観点から網羅的分析に適した手法を検討した.DOC回収率が82~92%と固相抽出より高く,検出コンポーネント数が最多だった凍結乾燥が単一の手法として最も優れていると判断した.各試料前処理法で回収される有機物のLCによる保持時間の分布には明確な差があり,コンポーネントの半数以上は単一の手法でのみ検出されたことから,複数の手法の併用によって様々な物性の有機物をより網羅的に検出できる可能性が示された.

  • 小坂 浩司, 施 昊, 松本 創, 越後 信哉, 伊藤 禎彦
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_261-III_268
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     30種の含窒素化合物の塩素処理後のカルキ臭生成特性を検討した.評価は,臭気強度,トリクロラミン(NCl3),全揮発性窒素(TPN)で行った.全対象物質からカルキ臭は生成し,アミン類やNH2-を有する物質は広くカルキ臭前駆物質であることが示された.8物質の臭気強度はアンモニア(NH3)よりも高く,NCl3やTPNの結果から,これら物質のカルキ臭原因物質は,NCl3以外の物質と推察された.低級アルキルアミンでは,第一級アミンが第二,三級アミンより臭気強度が高かった.臭化物イオンが共存する場合,NH3の塩素処理後のNCl3は低下したが,臭気強度は臭化物イオンとNH3の濃度比が0.25mol/molまででは明確には変わらず,0.5mol/molでは低下し,NCl3以外の物質の寄与が考えられた.

  • 片岡 弘貴, 田中 周平, 岡本 萌巴美, 雪岡 聖, 生田 久美子, 高田 秀重
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_269-III_275
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     近年,環境中におけるマイクロプラスチック(MPs)の生成挙動について研究が進められている.これまで海底や砂浜に関する研究が進められたが,路上に関する研究は限られている.本研究では,路上におけるプラスチック製品からのMPsの生成挙動を明らかにすることを主目的とし,路上を模擬したマイクロプラスチックの生成実験を考案した.1×1cmにカットした3種類のレジ袋と3種類のストローに0, 144, 288, 576, 1152時間の5条件で紫外線(波長302nm)を照射し,0, 5, 10, 50, 200, 400回の6条件の足踏作用を加えMPsを生成させた.その結果,粒径20µm以上のMPsがレジ袋から3,900~5,710個,ストローから3~1,930個生成した.粒径20µm未満のMPsが1×1cm四方のレジ袋から面積比にて37~40%,個数にて約147万~162万個生成したと推察し,路上においてもMPsの生成が起きている可能性を示した.

  • 池上 麻衣子, 福谷 哲, 島田 洋子, 高橋 知之, 佐藤 州, 米田 稔
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_277-III_284
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     土壌中のCsは大部分が固定態として存在しているが,森林土壌のような有機物を多く含む土壌はCsを固定する能力が小さい場合もある.本研究では,森林土壌中の放射性Csの鉛直分布を求め,森林土壌特性が放射性Csの存在形態に与える影響について検討した.深い層になると強熱減量,CECは減少し,RIPは増加した.土壌中Cs-137濃度の鉛直分布を求めた結果,表層から6cmまでの深さで9割のCs-137が存在していた.交換態Cs-137濃度は深さとともに減少したが,深さごとに求めた交換態の割合は深くなるにつれて大きくなった.大部分のCs-137は固定されているが,一部は溶存有機物などの有機物によって固定を阻害されたり,有機コロイドによる移動促進により,交換態として存在している可能性が考えられる.

  • 酒井 宏治, 石山 勇輝, 小泉 明, 横山 勝英, 酒井 健治, 小林 貢, 黒木 直也
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_285-III_292
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     多摩川上流の小河内貯水池流域には,東京都水道局が管理する水道水源林と,民間で所有する民有林が広がっている.ダムを管理する上で大きな懸案事項であるダムの堆砂に対して,民有林では手入れ不足による土砂流出が懸念される一方で,水道水源林には土砂流出防止機能による効果が期待されている.本研究では,水源管理事務所の定期水質調査のデータを基にした長期時系列データを活用し,影響度の大きな事象を抽出した分析を行うことを試みた.具体的には,長期時系列データの散布図の評価に極座標系を用いた新たな評価方法を導入し,データを評価することを試みた.考案した評価指標による分析を行った結果,流量比濁度の割合θの振る舞いから長期的な水道水源林の効果と土砂流出防止に影響を与える森林の状態について,傾斜角度,立木密度,下層植生などが及ぼすと思われる効果を明らかにした.

  • 山村 寛, 石井 崇晃, 小野 一樹, 市川 学, 清塚 雅彦
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_293-III_301
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     塩素注入量は,現在,高度な技術を持つ職員が経験に基づいて注入量を決定しているが,大量のベテラン職員の退職と職員数の減少などから,経験に依存しない,新しい塩素注入量管理手法が求められている.本研究では,浄水場が保有する残留塩素濃度の時系列データに着目し,時系列の濃度変化の傾向を学習することで,数時間先の残留塩素濃度を推測できる予測モデルの構築を目的とした.具体的には,長期短期記憶ネットワーク(LSTM)アルゴリズムにより,3時間,6時間,12時間,24時間先の残留塩素濃度予測モデルの構築を試みた他,モデルの構築に必要最小限のデータ量を検討した.

     モデル構築にあたって最適なブロックは24時間であり,誤差目標値±0.025以下に収めるには,予測時間を6時間以下にする必要があることが判明した.また,モデル構築に必要最小限のデータ量は4月~7月の4か月間の残留塩素濃度低減量であることがわかった.以上より残留塩素濃度の1時間間隔の時系列データが4ヶ月分準備できれば,6時間先の残留塩素濃度をLSTMにより予測できることがわかった.

  • 石井 崇晃, 山村 寛, 根本 雄一
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_303-III_310
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     近年,荒川水系においてカビ臭物質である2-メチルイソボルネオール(2-MIB)を生成する藻類の生息が確認されており,カビ臭物質の除去を目的として粉末活性炭の添加がされている.しかしカビ臭物質濃度の測定は難易度が高く,多くの浄水場では経験的に粉末活性炭を添加している.本研究では,浄水場の保有する大量のデータを利用して,FFANN(Feed Forward Artificial Neural Network)とLSTM(Long Short-term Memory)によりカビ臭物質濃度を短期予測するモデルの開発をした.FFANNでは現時刻の基本的な水質項目からカビ臭物質濃度を推定することができた.また,LSTMでは現時刻までのカビ臭物質濃度を含む水質から,3時間後のカビ臭物質濃度の短期予測ができた.このことから,FFANNより得られたカビ臭物質濃度をLSTMに入力することで,粉末活性炭の制御が可能であると示唆された.

  • 中西 智宏, 亀子 雄大, 周 心恰, 小坂 浩司, 伊藤 禎彦, 藤井 宏明
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_311-III_319
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     浄水中に残存する微粒子は配水管内に蓄積し,やがて突発的な流況変化によって再懸濁されて水道水の着色障害を引き起こす.本研究はこれを制御するための浄水中微粒子濃度の目標レベルを推定することを目的とした.まず実験によって流況変化時の蓄積物の剥離過程をモデル化した.また,水道水の性状に関する官能試験を行い,「水道利用者によって濁りが感知される濁度」と「水道局への苦情が発生する濁度」を推定した.これらを踏まえ,実管網における微粒子蓄積量に応じた着色危険度を表す「着色ポテンシャルスコア」という指標を算定した.現状の浄水中微粒子濃度(10μg/L)では着色危険度の高い管路は存在しないことが示された.微粒子濃度が約17μg/L以上になると許容スコアを超過する管路が出現したことから,これが浄水中微粒子濃度の制御目標と考えられた.

  • 小野 順也, 永井 梨奈, 冨永 勘太, 羽深 昭, 木村 克輝
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_321-III_328
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     膜を用いた浄水処理には従来の処理と比較して様々な利点がある一方で,膜ファウリングが大きな問題となる.近年の研究においてバイオポリマーと総称される高分子量親水性有機物が膜ファウリングの発生に強く関与することが示唆されている.本研究では特徴の異なる複数の原水よりバイオポリマーを回収・精製し,これらが発生させる膜ファウリングの差異について検討した.バイオポリマー濃度を統一して実施した膜ろ過試験では原水毎に膜ファウリング発生速度が明らかに異なっており,原水が異なるとバイオポリマーの特性が変化することが示された.バイオポリマー特性の差異はLC-OCDを用いた分子量分布測定,赤外スペクトル分析においても明白であり,バイオポリマーの大半が多糖類より構成される場合には不可逆的ファウリングの発生をより深刻にする可能性が示された.消散監視機能付き水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)による分析では興味深い結果が得られた.QCM-D分析において膜材質ポリマーであるPVDFとの高い親和性が示されたバイオポリマーが高い膜ファウリングポテンシャルを有していた.また,バイオポリマーの粘弾性がファウリングの可逆性を説明する可能性が示唆された.今後QCM-Dを用いた分析データを充実させていくことで,膜ファウリングが発生しにくい膜材質を適切に選定できる可能性がある.

  • 平野 雅己, 橋本 崇史, 藤村 一良, 片山 浩之, 滝沢 智
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_329-III_338
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     膜ろ過浄水施設では,ファウリングによる流束の低下を解消するため,定期的な薬品洗浄が行われている.本研究では,加速劣化試験の劣化再現性を評価するため,薬品洗浄に広く用いられている次亜塩素酸ナトリウム水溶液に中空糸膜を浸漬する加速劣化試験により劣化を模擬し,実際の浄水施設で用いられた中空糸膜の劣化状況と比較した.走査型電子顕微鏡を用いて膜表面の構造の観察,透水能や微粒子阻止性能の測定,細孔径分布の測定を行い,各膜の劣化状況を評価した.使用済み膜と同等の薬品負荷(Ct値)を与えた加速劣化膜では阻止性能の低下傾向が類似していた.一方で,使用済み膜と加速劣化膜では膜表面の構造,細孔径分布が異なっており,加速劣化試験では物理的な構造を模擬できない可能性があることが分かった.

  • 伊藤 結衣, 杉山 徹, 高橋 威胤, 羽深 昭, 木村 克輝
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_339-III_345
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     都市下水中の有機物と栄養塩(リン,窒素)は重要な資源である.都市下水から有機物を回収する方法の一つに下水直接膜ろ過(Direct Membrane Filtration, DMF)があり,流入下水中有機物の75-80%を安定して濃縮回収することができる.これまでに報告されているDMF検討例のほとんどで栄養塩の回収は行われず,処理水(膜透過水)に栄養塩が残存していた.本研究ではDMF前段においてリン吸着性能を付与した微生物担体を用いたリン吸着を,DMF後段においてイオン交換による膜透過水中アンモニアイオンの吸着を試みた.実下水を用いた実験で,リンに関しては75%,アンモニアイオンに関しては80%を回収できることが示された.アンモニアイオンの回収については,ナノろ過を導入して共存多価イオンの影響を排除することで,さらに回収率を高められることを確認できた.

  • 足立 響, 日高 平, 西村 文武, 坪田 潤
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_347-III_357
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     再生可能エネルギー由来の水素ガスの利用技術として,下水処理場の嫌気性消化槽に水素ガスを供給し,バイオガス中の二酸化炭素と反応させてメタンに変換することで都市ガス等として活用するバイオメタネーションが期待されている.水素分圧増加に伴う嫌気性消化反応への阻害影響として懸念される水素供給が,有機酸蓄積に及ぼす影響を調査した.有機物負荷率0.75gVS/(L・d)で7日毎に基質を投入する連続式実験にて,基質投入時の水素供給速度が26NL/(L・d)の時,有機酸が蓄積した.一方水素供給速度18NL/(L・d)以下の条件では,有機酸の顕著な蓄積は確認されなかった.微生物の遺伝子解析では,嫌気性消化汚泥への水素供給に伴い水素を資化するメタン生成古細菌の検出比が増加し,有機酸蓄積時には酢酸を資化するメタン生成古細菌がほとんど見られなかった.

  • 三崎 岳郎, 胡 嘯然, 戸苅 丈仁, 西脇 ゆり, 池本 良子
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_359-III_365
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     小規模な下水処理場では,発生した余剰汚泥を濃縮,脱水して場外搬出している事例が多く,メタン発酵を普及させるためには,脱水汚泥の集約が有効である.本研究では,8カ所の下水処理場から排出される脱水汚泥のメタン生成ポテンシャル(Biochemical Methane Potential:BMP)の調査を行った結果,小規模な処理場では,夏季にBMPが低下することが明らかとなった.また,余剰汚泥のBMPは,脱水によって著しく増加したが,その増加割合に,処理場や脱水方式による違いは認められず,明確な季節変動はなかった.細胞外高分子物質(EPS)の測定を行った結果,脱水後にEPS含有量が増加したことから,凝集,脱水工程により,細胞の一部が溶出し,BMPが増加したと考えられた.これは,脱水がメタン発酵の前処理として有効であり,脱水汚泥の集約によるメタン発酵の有効性を示すものである.

  • 丹野 淳, 佐川 剛史, 久保田 健吾, 李 玉友
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_367-III_373
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     バイオマス活用基本計画やFIT法の施行により,メタン発酵施設数は年々増加している.スケールメリットの観点から,大規模型施設の導入がほとんどであり,小規模型施設は事業化に向けた更なる知見が必要である.そこで本研究では,福島県いわき市で稼働している省エネルギー型小規模メタン発酵施設を対象に,稼働状況および物質・エネルギー収支を明らかにした.その結果,現在の受入量は設計受入量の27%程度であり,長い水理学的滞留時間で稼働していた.さらに,新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大に伴う受入量の減少及び受入食品廃棄物の性状変化により,有機物分解率が低下している結果となった.エネルギー収支解析では,受入量が日あたり0.8トン程度で,電力自給率が約113%となり,エネルギー的に自立できるメタン発酵施設であることが明らかとなった.

  • 下田 渉, 小川 絵莉子, 石川 奈緒, 笹本 誠, 芝﨑 祐二, 伊藤 歩
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_375-III_383
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     下水消化汚泥からの有害重金属類の低減手法の開発を目指し,繊維状キレート剤を封入したナイロンメッシュバッグを用いた酸性模擬廃水および汚泥中の溶解性重金属の吸着と脱着に及ぼすpHの影響を検討した.メッシュバッグを介してもキレート剤によって模擬廃水中の重金属を吸着できた.pH 1の希硫酸によって繊維状キレート剤に吸着した重金属を脱着できた.pHを2に調整して汚泥から溶出させた重金属を対象とした場合,メッシュバッグによる吸着に適したpHは,Cd,Cr,NiおよびZnで4,Pbで3,Cuで2.5であった.溶出した重金属の一部はpHの上昇によって汚泥浮遊物に再吸着するが,金属によってはキレート剤の存在によって再吸着が抑制された。汚泥中の主要金属は,Niを除いて微量重金属のキレート剤への吸着を妨げなかった.

  • 水谷 聡, 陳 家盛, 相原 咲季
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_385-III_392
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     製鋼スラグの混練による底質中の重金属類の溶出抑制効果を検討した.市販の粘土に金属類(Ca,Cd,Cr,Cu,Mn,Zn)の標準溶液を添加して作成した模擬底質と,それに転炉系製鋼スラグを混練して安定化処理を行った安定化底質に対して64日間の拡散溶出試験を行い,溶出挙動を比較した.含有量に対する累積溶出率で判断すると,いずれの元素も,製鋼スラグの混練により溶出率は大幅に低下した.また拡散に支配されたと判断される範囲のデータに基づいて,模擬底質と安定化底質中のCa,Cd,Cr(VI),Cu,Mn,Znの有効拡散係数をそれぞれ算出して比較したところ,安定化底質では模擬底質中と比べて約1/25,1/261,1/4.7,1/(1.3×107)以下,1/2619,1/(1.8×107)以下になっていた.

  • 幸田 直也, 貫上 佳則, 有吉 欽吾, 下岸 徹也, 田仲 弘幸
    2021 年 77 巻 7 号 p. III_393-III_401
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

     下水処理場の汚泥焼却設備への付着物による閉塞現象の発生機構の解明と予防対策の構築のため,下水汚泥中の無機成分の組成と融点および溶融物量との関係について,示差熱分析によって検討した.閉塞現象が発生している下水処理場の汚泥には,年間を通じて860℃前後の融点を示す物質の存在が確認され,冬季には融点が汚泥燃焼温度以下の800℃近くまで低下したことから,低融点化合物の存在が閉塞現象の発生に大きく関与していることがわかった.そして,汚泥中P2O5含有量が大きくなるほど融点は低下し,溶融物量は増加する傾向があったため,Pは閉塞現象を促進する元素であるとわかった.また,実下水汚泥の焼成物に試薬を段階的に添加した模擬試料に対する示差熱分析結果から,Mg, Al, CaおよびSiの含有量が高く,Na含有量が少ないほど閉塞現象が発生しにくいと推測された.

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