土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
76 巻, 1 号
選択された号の論文の40件中1~40を表示しています
特集(令和元年風水害報告特別企画)
  • 横木 裕宗, 内田 龍彦, 赤松 良久, 瀬戸 心太, 音田 慎一郎, 山田 朋人, 西村 聡, 手計 太一, 藤山 知加子, 榊原 弘之, ...
    2020 年 76 巻 1 号 p. 153-158
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年は,関東甲信地方,東北地方などでは台風19号(Hagibis)による記録的な豪雨などの災害の他,令和元年8月佐賀県豪雨災害および台風15号による千葉県を中心とした風雨災害など多くの風水害を受けた.これらの災害は複合要因により広域に甚大な被害をもたらす災害が連続して生じる危険性も浮き彫りにした.災害の多い我が国において,災害調査データを取り纏め,情報発信することは土木学会の使命のひとつである.そこで,土木学会論文集では,災害情報を共有・発信し,防災に関する技術および学術分野の進展に資するために令和元年風水害に関する特集を企画した.

特集(令和元年風水害報告特別企画) 和文論文
  • 田中 智大, 小林 敬汰, 立川 康人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 159-165
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     全国一級水系109流域で構築した降雨流出モデルとd4PDF降雨データを用いて令和元年台風19号による洪水流量と氾濫水系数の再現期間およびその将来変化を推定した.鳴瀬川と阿武隈川を対象に同洪水の再現期間を推定した結果,過去実験ではそれぞれ534年と123年,4度上昇実験では32年〜100年と16年〜58年となった.東北・関東・甲信越地方の31水系を対象に,年最大洪水ピーク流量が同じ年に計画高水流量を超える同一年氾濫水系数を計算した.台風19号で直轄区間での破堤が発生した6水系以上が氾濫する再現期間は過去実験で400年,4度上昇実験では20〜30年となり,同一年の広域氾濫確率も増加することがわかった.中には,台風19号と同様の経路を通って13水系の氾濫をもたらした事例もあり,水蒸気量の増加による広域氾濫リスクの増加が示唆された.

  • 劉 ウェン, 丸山 喜久
    2020 年 76 巻 1 号 p. 166-176
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年房総半島台風と命名された2019年台風15号は,非常に強い勢力を保ったまま9月9日に千葉県千葉市に上陸した.千葉県内では7万棟以上の住家が一部損壊以上の被害を受けた.そこで本研究では,国際航業(株)と朝日航洋(株)がそれぞれ9月19~20日,9月27~28日に撮影した航空写真を用いて,千葉県房総半島の建物の屋根損傷部に覆われたブルーシートを抽出した.一部地域で目視判読を行い,それを検証用データとしてブルーシートの自動抽出方法を提案した.なお,国際航業と朝日航洋が撮影した航空写真の撮影条件が異なるため,両者には異なる自動抽出方法を使用した.最後に,ブルーシートの面積と屋根投影面積によって算出したブルーシート被覆率を最大瞬間風速と比較し,最大瞬間風速による屋根のブルーシート被覆率の予測関数を構築した.

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , 岡本 祐佳, Kwanchai PAKOKSUNG
    2020 年 76 巻 1 号 p. 177-188
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年台風第19号洪水により宮城県丸森町は堤防決壊を伴う河川の氾濫により甚大な被害を受けた.本研究では,まず現地調査により同町における破堤の特徴を検討した.その結果,多くの決壊箇所は堤内地からの越流水により生じたことが明らかになった.そこで,数値シミュレーションにより決壊箇所についてその水理的特徴を検討し,より上流部の破堤部から氾濫した外水が堤内地から河川に戻る際に堤防を決壊させており,また,堤防が決壊した場所では氾濫継続時間と最大越流水深がある条件を満たしていることが判明した.また,その発生場所は支川の合流部,堤防と橋梁取り付け道路の交差部,河川堤防の山付部などであり,鋭角隅角部という共通する地形的特性を有する箇所において氾濫水の集中が生じて破堤に至ったと推測された.

  • 北 真人, 銭 潮潮, 此島 健男子, 中安 正晃, 辻本 哲郎
    2020 年 76 巻 1 号 p. 189-201
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風は東日本を中心に多量の降雨をもたらした.その中で,首都圏に位置する荒川下流域では氾濫危険水位付近にまで水位が上昇した.さらに大規模な降雨が発生した場合,下流での氾濫発生も懸念され,避難行動の基礎資料としてより雨量を増加させたデータが必要となる.本研究では,WRFを用いた海面水温操作による降水量の変化とその影響分析の結果と併せて,再現性の結果について報告する.その結果,ピーク時刻や雨量に差異があるものの全体的な降雨波形については再現していた.そして,海面水温の増減に対応して降水量も増減することを確認した.この理由として,気圧場の変化に伴う台風経路の変化や水蒸気フラックスの増減に加え,荒川流域上流域の地形効果が要因であることが分かった.

  • 柴田 直弥, 増田 有真, 森田 紘圭, 中村 晋一郎
    2020 年 76 巻 1 号 p. 202-211
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     土地利用規制は,氾濫原内の暴露量そのものを低減させる根本的な水害対策の一つであるが,その実際の軽減効果や運用的な課題については十分に明らかになっていない.本研究では,令和元年東日本台風による千曲川堤防の決壊によって深刻な被害が発生した長野県長野市長沼地区を対象に市街化調整区域における浸水被害の特徴を建物立地の変遷や治水地形の関係から分析を行い,日本における規制誘導の課題について考察を行った.建物ポイントデータを用いた分析により,区域区分による開発抑制の水害リスク拡大防止の役割が確認されたが,開発許可制度による集落内での住家の新築や用途地域の指定や社会インフラの整備に伴う事業所等の開発によって,浸水リスクの高いエリアへの建物の進出もあり,運用上の課題も示された.

  • 野原 大督, 角 哲也
    2020 年 76 巻 1 号 p. 212-222
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     2019年10月12日に伊豆半島に上陸した令和元年台風第19号は,東日本を中心とした広い範囲に豪雨をもたらし,各地でダムの洪水調節操作が実施された.本稿では,当該出水における東日本のダム洪水調節操作の状況について概観し,大規模出水時におけるダム洪水調節の効果や課題について検討する.次に,記録的な豪雨となった相模川水系のダム洪水調節の状況と効果について詳しく分析する.さらに,大規模洪水時のダム貯水池の高度運用の方策として,事前放流に着目した上で,本出水における現業の中期アンサンブル気象予報による降雨予測状況と精度に関する分析を行い,事前放流への利用可能性を考察する.

  • 松本 健作, 高田 昇一, 中島 亨也, 辻 和也, 藤坂 浩史
    2020 年 76 巻 1 号 p. 223-232
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風による利根川水系秋山川の破堤・氾濫被害について,発生直後の現地調査により被災状況を把握した.顕著な越流痕跡が確認された区間及び被災を激甚化させた2個所の破堤は,いずれも河幅減少区間であり,且つ両破堤部については共に橋梁の上流側袂部において発生した.特に比較的大規模な破堤となった赤坂町の海陸橋右岸における破堤では,河道湾曲の外岸側であること,河道流下方向に対する橋桁設置角度等の破堤リスクが複合的に作用して発生した可能性がある.被災住民へのヒアリングから両破堤の発生時刻が特定でき,それら諸条件を考慮した数値解析から佐野市街地における激甚な被災が秋山川からの越流・破堤による氾濫水のみでなく,近傍の菊沢川等からの越流水による影響を受けた複合的要因によるものである可能性が示唆された.

  • 小山 直紀, 及川 雄真, 山田 正
    2020 年 76 巻 1 号 p. 233-242
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     本論文は,令和元年東日本台風(令和元年台風第19号)を対象に利根川上流域のダム群による八斗島地点の治水効果を検討したものである.ダム群の治水効果を検証するため,対象地点においてダムがある場合とない場合によるピーク水位の比較を行った.その結果より,ダム群の洪水調節によって対象地点において最大0.9m程度の水位低減効果があった.さらに,ダム群の中で最も治水効果の大きかったダムは八ッ場ダムで治水効果の約60%を占めており,最大で約0.6mの水位低減効果があったことがわかった.また,八ッ場ダムは令和元年10月1日から試験湛水中であったため,貯水池に余裕があり,洪水の約100%をダム貯水池で貯めこんだが,規則通りの洪水調節を行った場合においても,ほとんど同様の治水効果が得られることがわかった.

  • 田中 規夫, 五十嵐 善哉, 末永 博
    2020 年 76 巻 1 号 p. 243-252
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風の出水で,荒川扇状地河道では大量の植生流失が生じ,一部は下流側砂礫州の樹林帯にトラップされ,樹林帯端部には流木ダムが形成された.流木ダムは偏流を発生させ,洪水の伝搬特性を変化させる.植生流失やトラップに伴う抵抗変化を現地調査によりモデル化し,今次出水を解析した.砂礫州上では浮遊物トラップにより局所的に流速が低減するものの,破壊・流失に伴う抵抗減による加速域も存在するため,全体的には洪水前の樹林化状態で破壊を考慮しない場合よりも加速域は増加していた.浮遊物トラップのモデル化によって,樹林帯遮蔽域における樹木流失の精度が向上した.河岸における最大水位から川幅の広い荒川において流木トラップの影響は少ないが,トラップに伴う河道内貯留効果によりピーク流出量は10m3/s程度低減した.

  • 矢野 真一郎, 正垣 貴大, 矢藤 壮真, 津末 明義, Yiwen WU , 笠間 清伸
    2020 年 76 巻 1 号 p. 253-263
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風により宮城県丸森町筆甫において日降水量558mmを記録する大雨が発生した.この大雨により,同町を流れる阿武隈川支川の内川・五福谷川・新川流域で大規模な土砂・流木災害が発生した.今次台風による土砂・流木災害について現地調査を実施し,被災状況の確認を行った.加えて,発生要因の分析を行うために,平成29年7月九州北部豪雨による大規模土砂・流木災害に対して最適化されたロジスティックモデルを適用した.さらに,今次災害に最適化したモデルの構築も試みた.その結果,素因である地質条件が今次災害の甚大化の主要な要因であること,ならびに近年で最大規模の流木災害をもたらした29年豪雨に匹敵する規模の土砂・流木災害が今次台風により丸森町で引き起こされたことが明らかとなった.

  • 小森 大輔, Vempi Satriya Adi HENDRAWAN , 市塲 昭裕, 山田 慶太郎, 合田 明弘
    2020 年 76 巻 1 号 p. 264-273
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年台風19号により甚大な被害が生じた岩手県沿岸域における発災メカニズムを考察した.岩手県沿岸域における今次災害は主に短時間豪雨による土石流や内水氾濫であった.1976-2005年および1989-2018年の各30ヶ年を統計期間として,それぞれ推定された年最大1時間降水量の10年確率降水量は,対象5地点にて1989-2018年の方が8-24%大きくなった.1976-2005年の10年確率降水量と今次災害の最大3時間降水量の差は,普代村・宮古市・岩泉町小本地区にて50mmを上回り,短時間豪雨により大規模な内水氾濫が発生する状況であったことが確認された.一方,釜石市では大きな溢水量は推定されず,土石流による下水道の堰止まりや津波堤防が被害拡大の一因であることが確認された.

  • 久保田 博貴, 鈴木 高二朗
    2020 年 76 巻 1 号 p. 274-283
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     2019年台風15号(Faxai)は強い勢力を保ったまま関東地方に襲来し,横浜市の本牧ふ頭や福浦地区で護岸の倒壊や越波による浸水被害が生じた.台風による被災メカニズムを明らかにすることは今後の護岸整備のために重要であることから,本研究では,福浦の護岸を対象に実験及び数値シミュレーションにより被災メカニズムを検討した.福浦地区の護岸はパラペットが護岸法線よりも背後に位置する後退パラペット型の護岸であり,護岸法線から飛び出した水塊がパラペットに衝突して非常に大きな波圧が作用し,パラペットが倒壊したことが分かった.また,パラペットが倒壊しなかった箇所での越波量は少なかったのに対し,パラペットが倒壊して高さが1m低くなった箇所では越波流量が約4.5倍増加していたことが分かった.

  • 五十嵐 善哉, 田中 規夫
    2020 年 76 巻 1 号 p. 284-294
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風は東日本の広い範囲で観測史上1位の降水量を記録し,荒川水系だけで7箇所の堤防が決壊した.今後の河道管理では,下流へのリスク移動も含めた議論が必要である.そのためには河川と氾濫原の間での氾濫と氾濫戻りを把握する必要がある.その第一段階として荒川水系都幾川の堤防決壊時刻が堤内地氾濫量等に与える影響を検討した.

     決壊時刻変化による野本の水位変化から,都幾川越辺川合流部付近の決壊は,越水後徐々に堤体が洗掘されたと考えられる.また,決壊時刻による氾濫量の変化から,都幾川の距離標6.5KP左岸の堤防決壊は10月12日の22時以降と考えられる.埼玉県管理区間の都幾川の距離標1.4KP右岸は,その下流の霞堤開口部からの浸水もあるため,堤防決壊有無は堤内地の氾濫量にほとんど影響しなかった.

  • Yikai CHAI, Yoshiya TOUGE, Ke SHI, So KAZAMA
    2020 年 76 巻 1 号 p. 295-303
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     In recent years, to mitigate the flood disaster caused by the increasing intensity and frequency of torrential rain events, some places have adjusted the retention of the paddy field by installing the runoff control device called paddy field dam. In comparison with other flood control facilities, the installation cost is much lower mainly for drainage control devices at the drain outlet of the paddy field, while the expected effect is significant since paddy fields are widely distributed in Japan. Therefore, this research aims to evaluate the potential flood mitigation effect of the paddy field dam for typhoon 19th in October 2019 in the Naruse River basin using the Rainfall-Runoff-Inundation model. To consider the potential effect of all paddy fields inside the basin, a simple one-dimensional paddy field dam model was developed, which can be applied for the whole basin. Moreover, the scenario analysis was conducted for different heights of free-drain and proportion of application. In conclusion, the paddy field could store about 90 million m3 water in whole paddy fields in the basin using 15 cm height of free-drain, and it significantly mitigated flood in the downstream of the Naruse River basin.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 平田 真二, 佐山 敬洋
    2020 年 76 巻 1 号 p. 304-314
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年台風第19号によって,関東地方の主要な一級河川の一つである那珂川では,昭和61年8月水害以降,最も多くの浸水被害が発生した.本研究では,破堤や越流の被害が集中したセグメント区間と浸水被害の大きかった地域の現地調査を行った.また,那珂川流域全体を対象とした流出解析と,那珂川の一部区間における氾濫解析を実施した.その結果,支川の藤井川と田野川近辺では平均1.9mの浸水が広範囲に発生し,排水能力が不十分であったため4日間浸水が続いたことが分かった.また,那珂川本川と藤井川の水位変動や氾濫流の痕跡から,藤井川では背水の影響を受けていたことが推察された.さらに,那珂川流域の流出解析と氾濫解析を組み合わせた再現シミュレーションは,現地調査で得られた浸水深をよく再現し,藤井川における背水も確認できた.

  • 八木 郁哉, 内田 龍彦, 河原 能久
    2020 年 76 巻 1 号 p. 404-413
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     2019年10月12日から13日に日本列島に上陸した令和元年台風によって,千曲川では河岸侵食により河川沿いの幹線道路や橋梁などで甚大な被害を受けた.被害軽減対策のためには大規模洪水時において河岸侵食危険箇所の予測手法を確立することが喫緊の課題である.本研究では,湾曲部二次流,横断構造物下流の高速流部,構造物周辺の三次元流れ,および水面変動など河岸侵食を引き起こす要因となる流れ部で大きくなる乱れエネルギーに着目する.令和元年台風で河岸侵食被害が発生した千曲川及び平成30年7月豪雨で河岸侵食が発生した三篠川,瀬野川の3つの河川で,準三次元洪水流解析を行い,洪水時の三次元流れ特性と乱れエネルギーを調べた.その結果河岸侵食が発生した箇所のいずれも局所的に乱れエネルギーが極大値を取ることが分かった.

  • 星野 剛, 岡地 寛季, 竹原 由, 山田 朋人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 414-423
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     本研究は甚大な被害を引き起こした令和元年台風19号(令和元年東日本台風,以下,台風19号)の降雨の特徴を台風の経路と降雨量の関係から分析した.過去の台風,台風19号のアンサンブル予報実験,大量アンサンブル気候データを用いた分析を実施し,それぞれ台風の経路と降雨量の関係,数日スケールの予測からの台風19号の潜在的な降雨量,降雨量の温暖化の進行の影響を評価した.過去の台風事例を用いた分析から台風19号が東にずれた際に多くの地点で降雨量が増大していた可能性が示唆された.また,温暖化進行後の気候では台風の経路によらず降雨量は増大傾向にあり,秩父観測点では台風19号と類似の経路から東西方向に2度ずれたとしても従来の気候と同程度の降雨量となる傾向が示された.

  • 中居 楓子, 中村 晋一郎, 竹之内 健介
    2020 年 76 巻 1 号 p. 424-436
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,令和元年東日本台風による千曲川の洪水氾濫で被害を受けた長野市長沼と豊野の2地区を対象に,避難促進/抑制要因として知られる「事前の防災活動」と「被災経験」の質的な内容に着目し,避難行動との関連を明らかにした.文献調査と関西テレビ報道センターのヒアリング調査の結果から,避難に影響を与えた要因には両地区で差があり,その差の背景として,長沼は避難を判断する具体的な基準を決めていたこと,豊野は複数の水害経験と治水対策への参加により内水氾濫への理解を形成してきたことがわかった.また,両地区共に組織の中で「普段と違う状況とはどういう状況か」への共通認識を形成し,それを実際の行動に移すレベルまで計画を落とし込んでいたという共通点があった.

特集(令和元年風水害報告特別企画) 和文報告
  • 小浪 尊宏, 古賀 博久, 川面 顕彦, 松芳 健一, 井田 直人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 315-322
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年10月12日から13日にかけて,広範囲で記録的な大雨をもたらした令和元年東日本台風(台風第19号)により,阿武隈川上流域においても,極端に早い水位上昇と高い水位の長い継続という特徴を持つ洪水を引き起こし,流域の国・県管理堤防における計31箇所の破堤など,多くの被災が生じた.本稿では,それらの被災状況及び国土交通省の対応の概略を整理した上で,洪水予報その他の情報提供活動と関係市町村における避難勧告等の発令状況等について整理及び分析を行い,洪水予報を含む洪水時の情報提供活動,特に「ホットライン」や「リエゾン」を通じた非定型の情報提供及びその効果について,実態を踏まえた今後のあり方について検討を行ったものである.

  • 徳永 雅彦, 中野 晋
    2020 年 76 巻 1 号 p. 323-328
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     本報告では,2019年(令和元年)台風第19号で一級河川利根川水系秋山川の堤防が2箇所で決壊するなどにより,多くの家屋浸水が発生した栃木県佐野市を対象として,佐野市役所に聞き取り調査を行い,豪雨時の被害の発生状況や避難情報の発令,避難の呼びかけ,住民の避難状況などを検証した.

     佐野市役所では台風の接近を予想し,明るい時間帯に避難を完了させるよう早めに避難所を開設し,避難情報の発信などに取り組んでいた.しかし,住民の多くは強い雨が降り出した後,また,浸水が始まってから避難をしている.このため,迅速で安全な避難行動を促進するには,住民の防災リテラシーを高める取り組みが重要である.

  • 川越 清樹, 鈴木 皓達, 阿部 翼
    2020 年 76 巻 1 号 p. 329-345
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年台風第19号により日本列島北東部に甚大な降雨が認められ,各地に甚大な被害を与えた.特に福島県では,全国の約24~49%の占拠率を示す最大級の被害が集中した.被害の中でも突出した特徴をもつ死者32人,堤防決壊50ヵ所の被害には,今後の極大降雨に対する災害防止策を計画する上で対応すべき課題が示されている.

     本稿では,甚大な被害の認められた福島県の災害特徴を,現地調査,分析した結果に基づいて報告するとともに,被害に対する考察を整理した.今後の災害防止策の計画への活用をふまえて,本稿の記載により甚大な被災状況のアーカイブ情報を整備することに取り組んだ.

  • 飯村 耕介, 池田 裕一
    2020 年 76 巻 1 号 p. 346-351
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     2019年10月6日に発生した台風19号は12日に伊豆半島に上陸後,関東地方を通過し,東日本の広い範囲で大雨,暴風,高波,高潮をもたらした.栃木県においても河川の氾濫をはじめ,多くの被害が生じた.本研究では栃木県を流れる那珂川水系荒川の藤田橋下流から新荒川橋までの決壊地点に着目し,現地調査と数値シミュレーションによる被害状況の把握,氾濫流の流況と氾濫流が決壊に与えた影響について検討した.

     決壊地点を中心とした現地調査と氾濫解析により上流側の決壊による氾濫と,その下流における氾濫流の逆越流による決壊やその対岸への影響について明らかにした.

  • 重枝 未玲, 秋山 壽一郎, Adelaida Castillo DURAN , 金屋 諒, 桂 佑樹
    2020 年 76 巻 1 号 p. 352-359
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     本報告は,令和元年台風第19号を対象に,被害が生じた河川流域の豪雨,洪水氾濫状況,破堤した河川等を調査・整理し,豪雨や洪水氾濫の特徴を検討したものである.本検討から,(1)県管理河川では,豪雨域での流下能力不足や本川水位の上昇に伴う流下能力の低下により氾濫が生じたこと,(2)国直轄管理河川では,上流域の豪雨により比較的雨量の少ない地域で河道内水位が上昇し破堤氾濫が生じたこと,(3)地形特性によっては,氾濫水を流下させて河道へ戻そうとする氾濫原と氾濫水を一時的に溜め込む氾濫原があったこと,(4)関東地方で破堤が発生した地域は,氾濫平野で土地利用の多くは田畑であり,氾濫水が貯留される地形であったことから,遊水地的な役割を果たした可能性があること,などの特徴が確認された.

  • 田代 喬
    2020 年 76 巻 1 号 p. 360-369
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風は,多くの地域で電気,ガス,水道などのライフラインの途絶をもたらした.本報では,特に被害の大きかった千曲川沿川地域における電気・ガス事業に着目し,行政機関や当該事業者の公開情報を収集・整理することにより発災・復旧過程を明らかにし,途絶被害の実態と要因を分析する.長野県内では,千曲川の洪水ピーク時(2019年10月13日未明)にいずれも最大供給停止戸数(電気:約6.4万戸,都市ガス:約900戸)を示し,洪水氾濫地域では,地上供給施設(電気:変電所,電柱・電線,ガス:整圧所,橋梁添架管)の機能損傷による被害の拡大・長期化が明らかになった.さらに発災・復旧過程の考察から,途絶被害を軽減するためには,個別施設の予防・順応的対策に加え,供給システムを通じた被害伝播を防ぐ対応の重要性が示唆された.

  • 藤本 哲生, 栗林 健太郎, 棚谷 南海彦, 黒田 修一
    2020 年 76 巻 1 号 p. 370-384
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,2019年台風第19号等による豪雨で決壊した宮城県,福島県,栃木県のため池を対象としてため池の諸元や降雨状況を整理したうえで現地調査および室内土質試験を実施し,堤体の被害状況や決壊箇所の特徴,堤体材料の物理的性質を調べた.その結果,ため池の決壊は付属構造物の周辺で多く発生していること,決壊した堤体は砂分を多く含む砂質土で構築されたものが多いことを明らかにした.また,現地調査結果をもとに5箇所のため池の決壊要因を推定した.その結果,表面遮水型の2箇所のため池では遮水シートの敷設長の不足,均一型の3箇所のため池では崩壊履歴,下流面のすべり破壊による堤体横断面の縮小およびパイピングによる堤体表面の沈下が決壊の発生要因であると推定した.

  • 榎本 忠夫, 佐藤 雄紀
    2020 年 76 巻 1 号 p. 385-397
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

     2019年10月12日に日本に上陸した台風19号(令和元年東日本台風)は,関東甲信地方や東北地方に甚大な被害をもたらした.著者らは,茨城県内の堤防決壊箇所を対象に,災害発生後の約2ヶ月間に4回,約7ヶ月後に1回,合計5回の調査を行った.その結果,茨城県内における堤防決壊は越流による裏法面もしくは表法面の侵食が主原因であったと推察された.決壊箇所周辺における噴砂や漏水等の痕跡は確認できなかった.また,堤防天端が舗装されており両法面とも護岸ブロックで覆われていても,越流に起因する侵食・洗掘により決壊する場合があることが示された.決壊箇所近傍の堤体表層から採取した土材料は,そのほとんどが細粒分含有率20%未満の非塑性・低塑性の砂質土もしくは礫質土であった.

特集(令和元年風水害報告特別企画) 和文ノート
和文論文
  • 道奥 康治
    2020 年 76 巻 1 号 p. 10-29
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

     一次元解析により石積み堰における水位・流量の理論解が得られ,低水から高水に至るまでの範囲で出現する全ての流況が類型化された.(a) 水位が全区間にわたって堰より高く保たれ越流する場合(完全越流: Regime-S)から,(b) 上流区間では水位が堰より高いが堰区間の中央で流れが堰体に伏没する場合(部分越流: Regime-P),そして(c) 水位が堰より低く流れが堰体を伏流する場合(非越流: Regime-E)の全流況を対象に水面形や流量の理論解が実験値と比較され,本理論の妥当性が検証された.各regimeに対応する「水位 H-流量 Q」関係が統一的に整理され,6種類の流況が堰諸元と水理量によってH-Q図上に分類・表示された.

  • 西口 亮太, 田方 俊輔, 陰山 建太郎, 泉 典洋, 関根 正人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 30-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/20
    ジャーナル フリー

     気象予測のデータ同化手法として予測精度向上に貢献している随伴変数法を用いて,河川流解析における計算条件の逆解析を示した.一次元不定流を対象に随伴方程式・感度を導出し,数値計算方法を示した上で実河川における適用性を検証した.多点水位情報を用いたデータ同化により任意地点の流量を推定可能であることを示し,水位計の基数によって精度が変化することを確認した.また,河道網を対象とした場合も同様に同化精度が高いことを示した.さらに,それを初期値とした予測計算により,2時間先までの高精度な予測水位が得られた.次に,その手法を河道形状の最適化に適用した.水位を堤防高以下とする河道形状について,河床掘削と河道拡幅の2ケースの最適化を行い,1回の計算で最適形状を決定可能であることを示した.

  • 太田 一行, 後藤 孝臣, 本多 毅
    2020 年 76 巻 1 号 p. 42-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,ダムの底部排砂管からの粘着性土の排砂に関する3次元濁質流動・河床変動解析を行った.まず,現地観測との比較により,解析モデルの妥当性検証を行った.排砂管直上流の局所洗掘形状および流下濁度が解析で妥当に再現されることが示された.そして,排砂時の洗掘速度について,排砂管を全開とした直後に比べて一定時間経過後に洗掘速度がより大きくなる現象が明らかになった.本研究で構築した解析モデルおよび得られた知見は,粘着性土の排砂の継続時間およびタイミングを考える上で極めて有用と考えられる.

  • 村岡 和満, 朝位 孝二
    2020 年 76 巻 1 号 p. 53-69
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     水災害に対し世界で最も脆弱な国土を有しているバングラデシュと周辺のベンガル地域において,降水量,河川水位の時系列変化傾向と,エルニーニョおよびインド洋ダイポールに関する指数SOI,DMIとの相関・因果関係について,統計学的解析手法を使って分析した.1985~2016の32年間の月降水量は,バングラデシュの中部~北部地域で減少傾向で,特に中部で有意であること,南部~南東部で変化無し,または上昇傾向であることがわかった.32年間の月降水量の変化の傾きは,116年間のそれよりも大きいこと,さらに,Cross-Waveletコヒーレンス,VAR-LiNGAMの解析結果から,降水量はSOIよりもDMIとの相関が強いこと,また,DMI,SOIから降水量に対して因果関係も存在していることが明らかになった.

  • 黒田 望, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2020 年 76 巻 1 号 p. 70-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     本論文では,平成30年7月豪雨において浸水被害を受けた企業から得たアンケート回答結果を基に,資産被害に関するフラジリティ曲線を推計した.フラジリティ曲線は,地震動等の外力に対する構造物の損傷や企業の操業能力への影響の大きさを確率論的に分析するための手法であり,災害被害想定の基本モデルとなるが,水害時の資産被害率については推計事例が存在しない.本研究において推計したフラジリティ曲線の被害率や被害額の期待値は,確定的な評価手法である治水経済調査マニュアル(案)の同指標よりもやや過小評価となった.本結果は,企業の水害対策やBCPの進展を反映している可能性もあり,評価モデルを継続的に更新しながらその妥当性を検証していくことが重要である.

  • 河野 誉仁, 赤松 良久, 乾 隆帝
    2020 年 76 巻 1 号 p. 81-97
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー

     近年,多発する河川氾濫への治水対策として,我が国の多くの河川で河床掘削が計画・実施されている.河床掘削は河川生物の生息環境を大きく改変するため,河川生態系を構成する主要な生物の成長や生息分布へ与える影響を予測する必要がある.本研究ではそのような予測が可能な河川生態系モデルを開発し,高津川における河床掘削が河川生態系に及ぼす影響を検討した.新たに開発した河川生態系モデルは流れ,水温,生物量に関して十分な再現性が得られた.また,河床掘削の影響で水深,流速,水温分布が変化し,それに応答して河川生物の生物量及び生息分布が変化することが予測された.しかし,計算区間全体の生物量でみると,付着性藻類は計算期間内の最大で12.7%,底生動物は最大で26.3%増加し,魚類は2%程度の変化率に留まることが予測された.

  • 高木 秀治, 飯島 正顕, 田村 彩乃, 渡部 徹
    2020 年 76 巻 1 号 p. 98-106
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

     農作物のブランド化や6次産業化による付加価値の高い加工品の生産等,農業を基盤とした新たな社会経済システムの構築が進められている中,水害による農作物への直接被害及びその波及被害の発生は社会経済の持続的な発展と安定を脅かすものであり,こうした農業被害を適切に治水事業評価に反映することが重要である.本研究では,ブランド化された農作物評価額の設定方法ならびに6次産業に対する経済波及被害の定量的な算定方法を立案することで,昨今の農業事情を考慮した今後の治水事業の経済評価手法を提案した.この手法をモデル河川へ適用して試算した結果,総被害額は約1.2倍となり,治水事業の経済的妥当性の評価結果に無視できない影響を及ぼしうることが示唆された.

  • 加藤 大輔, 篠原 瑞生, 永野 隆士, 加藤 雅也, 坪木 和久, 田中 智大, 立川 康人, 中北 英一
    2020 年 76 巻 1 号 p. 107-117
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/20
    ジャーナル フリー

     ベトナム・紅河を対象に,d4PDFの降水データを,分布型キネマティックウェーブモデル1K-DHMを介して流量に変換し,年最大流量の確率分布を得ることで,極値流量の将来変化を推定した.また,年最大流量の上位シナリオを対象に,最大クラスの洪水の要因となる極端降水をもたらす気象環境場の変化を推定した.主要な結果として以下を得た.1)d4PDFは洪水をもたらす年最大15日雨量をよく再現した.2)極値流量の確率分布の比較では,再現期間10年以上で過去実験による算出値と4℃上昇実験による算出値の顕著な違いが確認された.3)将来気候下では,湿潤大気における不安定度が増加し,このような大気場で鉛直積算された水蒸気フラックスの収束がより大きくなることで,より激しい降水をもたらす可能性がある.

  • 岡本 隆明, 松本 知将, 大石 哲也, 山上 路生, 岡崎 拓海
    2020 年 76 巻 1 号 p. 118-128
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

     河床における大粒径の礫間には流砂だけではなく種子も捕捉され,礫床河川の樹林化の一因となることが指摘されている.そのため礫間での乱流による粒子捕捉メカニズムを解明することは河川管理や水工学上において重要である.そこで本論文では,礫河床をモデル化した半球粗度流れを対象として実験を行い,乱流構造と浮遊種子の挙動について検討した.半球粗度に高吸水性ポリマーを用いて粗度層内部の流れ場をPIV計測し,これまで計測が困難であった粗度内部の平均流および乱流構造の解明を試みた.また,種子投入実験ではトラッキング追跡した種子の軌跡とPIV計測結果を比較し,粗度近傍の流れ場が種子の輸送メカニズムに与える影響,粗度層内部で捕捉された種子が乱流構造によって流出するメカニズムについても考察した.

  • 金子 凌, 仲吉 信人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 129-139
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     降水量の定量的な予測は,治水,利水の観点から重要である.本研究では,ディープラーニングアーキテクチャの一つであるLSTM(Long short-term memory)を用いモデルを構築し,九州地方のAMeDAS観測点114点のデータを学習させ,各点の1時間後の降水量予測を行った.本モデルは,多くの点において,3つの精度指標(二乗平均平方根誤差,スレットスコア,降水の立ち上がり捕捉率)で,持続予報や気象庁MesoScale Modelを上回るか同程度の精度であった.この予測精度は明確な空間偏差があり,風上側に観測点が存在しない北西・西・南西の海岸付近で内陸部や東側よりも精度が低下した.また,学習に重要な気象因子が降水量のみだったことから,降水の移流パターンを学習し予測していることが示唆された.

  • 小林 敬汰, 田中 智大, 篠原 瑞生, 立川 康人
    2020 年 76 巻 1 号 p. 140-152
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     d4PDFを用いて全国一級水系109河川の極値流量の将来変化を定量的に分析することを目的とし,すべての水系で主要なダムの操作を考慮し,既往洪水を再現する降雨流出モデルを構築した.次に,気象庁解析雨量を用いたd4PDF年最大雨量のバイアス補正手法を新たに提案した.その結果,d4PDF過去実験を用いて算定した計画規模の流量は計画高水流量と整合した.4度上昇実験での極値流量は全水系で増加し,その増加傾向は北海道地方と東北地方,九州地方の太平洋側および関東地方で顕著であった.また,大淀川を対象にした分析の結果,過去実験で再現期間1,000年相当の洪水流量は4度上昇実験では再現期間100年程度となり,それ以上の規模の洪水が発生した場合,貯留量が早期に満水となり洪水ピークの低減効果が減じられる可能性を見出した.

和文報告
  • 斎藤 健志, 渡部 直喜, 川邉 洋
    2020 年 76 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

     佐渡島の植生が異なる隣接した林地・草地流域で,降水量と流出量の観測,渓流水採取と水質分析を行い,二流域の流出・水質特性を明らかにした.流出特性として,林地の降雨に対する応答性は,草地に比べて緩やかであり,ピーク時の流出量も低く,降雨後の流出量逓減もより緩慢であった.流出量と主要溶存イオン濃度の関係は,両流域でCa2+やMg2+,Na+,HCO3-濃度に加え,EC(電気伝導度)が流出量の増加に伴い,減少する傾向が確認された.水質成分の流出量増加に伴う濃度減少の大きさは,草地に比較し,林地で明らかに小さかった.このことは,草地よりも林地で,降水成分は時間をかけて流出することと整合的であり,林地では,降雨時に基底流出水中に多く含まれるCa2+やMg2+などの水質成分が,草地に比べて希釈効果を受けにくいことが推察された.

feedback
Top