土木学会論文集B1(水工学)
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水工学論文集第67巻
  • 谷口 健司, 田中 慎也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     我が国では,一級河川の主要区間の計画規模は1/100から1/200であるのに対して,主要区間以外ではそれを下回る計画規模が採用されることが多く,大規模洪水発生時には本川に比べて計画規模の小さい支川からの氾濫の危険度が高い.一方,洪水浸水想定区域図においては支川氾濫は考慮されておらず,大雨発生時の水災害リスクを適切に表現できていない可能性がある.本研究では,石川県の一級河川梯川を対象として,支川である八丁川からの氾濫を表現した氾濫解析モデルを構築し,大規模洪水発生時の浸水状況について検討した.梯川と八丁川の両河川での破堤氾濫を仮定した解析結果では,最大浸水深の変化は限定的であった.一方,浸水継続時間については,梯川単独破堤の時に比べて広範囲での浸水が9時間以上にわたって長期化する結果となった.

  • 山口 渓太郎, 谷口 健司
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     石川県の一級河川梯川において,気候変動を想定した降雨に基づく氾濫解析を実施し,要避難地域を特定したのち,洪水氾濫発生時の時間帯別要避難者数を算定した.また,夏季休暇期間や大雨発生日など通常時とは異なる人口分布が想定される期間や,将来起こり得る人口減少下での水災害リスクの高い地域から低リスク地域への移転が生じた際の都市構造変化下での避難者数を算定した.時間帯別避難者数は,日中の中心市街地では在住人口に比べて2000人以上増加するエリアがみられた.夏季休暇期間には要避難者数が顕著に増加するエリアがあり,域外からの訪問者数を考慮した避難計画の必要性が示された.人口減少下で低リスク地域への移転が進んだ場合,地域全体で1000人程度避難者数が減少し,水災害対策としての移転促進策の重要性が示された.

  • 遊佐 望海, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴い発生が予想されるスーパー台風により洪水と暴風の同時生起リスクが懸念されるが,河川洪水流の水理に対する風応力影響に関する知見は皆無に等しい.本研究では,暴風条件下における河川洪水流の水理特性に関する基礎的知見を得ることを目的とする.そのため,長さ30kmの一様断面を有する矩形開水路における洪水流に対して,定常・一様な風向・風速を変えた数値実験を実施した.その結果,順風(逆風)時では,風応力作用後,速やかに主流方向流速が増加(減少)し,極大値を経てから減少(増加)し,定常状態へ移行していた.また,風応力に対して,流速の方が水深(水位)よりも応答が早く,これには運動量の鉛直混合を示す鉛直渦動粘性係数による拡散距離が関係していることが示唆された.

  • 渡辺 悠斗, 石塚 正秀, 溝渕 佳希, 藤澤 一仁, 岡崎 慎一郎, 吉田 秀典, 金田 義行
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     内水氾濫と外水氾濫が同時に発生する複合水害について,香川県高松市の二級河川御坊川を対象とし,下水道を考慮して,1000年確率降雨の条件で重畳氾濫シミュレーションを行った.その結果,下水道を考慮した場合でも重畳氾濫時に浸水範囲が最も広くなる結果が得られた.また,下水道を考慮することで,未考慮時よりも浸水深は低下したが,流速が速くなる場所があることが分かった.また,重畳氾濫の場合,内水氾濫と外水氾濫の浸水範囲を単純に足し合わせた面積よりも広い範囲が浸水する結果が示された.

  • 伊藤 理愛, 池内 幸司
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     外水位の上昇によって水門が閉鎖され、堤内地の降雨が排水されなくなることで生じる湛水型内水氾濫の被害を評価する手法を構築し、東京都世田谷区の下野毛排水樋管を対象に分析を行った。気候変動により雨量が1.13倍〜1.15倍に増加した場合、床上浸水面積は1.22倍〜1.27倍に拡大することが判明した。複数の降雨パターンを代入して比較すると、今世紀末には1/200規模の降雨時に、最大で2.9mの浸水が発生した。現在の1/100および1/150の降雨による被害は、今世紀末には1/50まで高頻度化することも明らかになった。さらに、水門の閉鎖が長期化することで、社会的な影響が一層深刻になることが示された。

  • 江口 翔紀, 大中 臨, 赤松 良久
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年,豪雨災害が頻発する中で土石流を起因とする複合災害の被害が多く報告されている.本研究では,山口県内の鉄道沿線の171か所を対象に土石流シミュレーションを実施し,土石流が鉄道や河川に流入する複合災害の発生リスクを土砂堆積厚として評価した.その結果,土石流警戒区域外に土石流が流出する危険性,および山麓に線路が位置する箇所や土石流が長距離流動後に線路へ到達する箇所で鉄道被害の発生リスクが高いことが示された.また,シミュレーションから定量評価した複合災害発生リスクと相関のある地形特性を用いた統計モデルの構築により,複合災害発生リスクが評価可能であることが示唆された.

  • 大原 美保, 南雲 直子, 新屋 孝文
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     災害に対する強靭な地域社会の実現には,「致命的な被害を負わない強さ・速やかに回復するしなやかさ・減災のための緊急行動・よりよい復興」という4つの要素が重要である.平成30年(2018年)7月豪雨災害は,西日本の広域に渡る浸水・土砂災害を引き起こし,事業所の建屋・設備等の直接被害や,停電,断水や道路閉塞等により間接被害をもたらした.本研究は,「速やかに回復するしなやかさ」の実態把握を目的として,広島県・岡山県内の事業所を対象としたアンケート調査に基づき,被災状況に応じた本社,支社・支店,生産拠点の営業再開や生産活動の回復の推移を分析し,営業再開曲線や生産活動回復曲線の作成を行った.また,回復曲線に影響を与える要因の把握やそれらによる回復曲線の差異の把握を行った.

  • 大屋 祐太, 宮本 真希, 山田 朋人
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     北海道周辺域における夏季の線状降水帯の発生数の顕著な年は,7, 8月平均の環境場と海面水温により特徴付けられることが先行研究において指摘されている.本研究では,水平5km解像度のレーダアメダス解析雨量から線状かつ停滞性を有する降雨イベントを線状降水帯と定義し,現在気候と将来予測気候の双方の数千年相当の情報量を有するd4PDFの降雨データに適用した.過去実験,2度上昇実験,4度上昇実験のそれぞれにおいて基準を満たす線状降水帯の多発年は,太平洋高気圧の張り出しが強く北海道周辺において南西からの暖湿空気が卓越する一方,寡少年においてはオホーツク海高気圧の張り出しが強く北海道周辺において南西からの暖湿空気の流入が少ない観測事実と一致することがわかった.

  • 若月 泰孝, 小林 香澄, 阿部 紫織, 今田 由紀子
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴い,豪雨災害リスクの増大が懸念される.令和元年東日本台風では,東日本各地で河川氾濫が発生した.本研究では,高解像度大気モデル実験によって令和元年東日本台風の降水を再現し,良好な再現性を確認した.疑似温暖化法を用いて地球温暖化した将来(1.1℃と3.4℃の気温上昇),同規模同経路で台風が襲来した場合の降水量の変化を調べ,水蒸気の増加効果とほぼ同程度の降水量増加が見積もられた.次に,茨城県内で発生した河川氾濫をRRIモデルで再現し,その気候変化応答も調査した.その結果,ピーク流量増加,ピーク水位の上昇,最大浸水深の上昇と浸水域の拡大が予測された.特に,1.1℃と3.4℃気温上昇する場合で,水害への影響の大きな違いが見られた.

  • 木戸 理歩, 井上 卓也, 鳩野 美佐子, 山野井 一輝
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う豪雨の増加は,土砂流出量を増加させる可能性がある.そこで,気候変動が流出土砂量に与える影響を評価するため,土砂生産・供給・輸送の統合モデルに降雨量,地形データ,粒度分布を入力して流量と流出土砂量を計算し,北海道十勝川水系ペケレベツ川の上流部において気候変動による降雨量,流量,流出土砂量の変化を分析した.降雨量には大量アンサンブル気候予測データであるd4PDFの過去実験と4℃上昇実験を用いた.すると,降雨量,流量,流出土砂量はいずれも増加し,特に確率年100年の降雨量の増加率は1.7倍であったのに対し,流出土砂量は6.7倍に大きく増加した.その理由として流量増加による渓床から生産される土砂の増加,斜面崩壊の増加による土砂生産の増加が考えられる.

  • 川井 翼, 中津川 誠
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,気候変動下における急流河川を対象に,流量の時系列的変化と河床変動の時空間的変化に応じた侵食危険度の分析を目的とした.研究対象とした豊平川は,札幌都市部を流れる急流河川であるため,高速流によって侵食が起きやすい条件を有する.本研究では気候の不確実性を考慮するため,d4PDF降雨データを用いて流出計算を行った.次に河床変動計算を行い,河床変動及び侵食危険度の時系列的変化を推算した.最後に,降雨空間分布のクラスター分析を行い,大きな被害をもたらすことが予測される降雨空間分布を分析した.結果として,流出の特性により時空間的に異なる河床変動が発生し,堤防法尻部の侵食危険度の大きさが変化することが示された.また,豊平川中流部に降雨が集中した場合,侵食危険度が大きくなりやすいことが示唆された.

  • 田坂 彰英, 田中 賢治, 田中 茂信
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     気象研究所のRCP8.5シナリオに沿った気候モデルMRI-AGCM3.2Sの150年連続ランを用いて,日本の水資源量の長期変化を予測した.本研究では,日単位の水需給量を比較することで,気候変動による降雨の時空間分布の変化や連続した無降水・少雨の増加の影響により,将来気候下で,日本のどの地域で水資源量が逼迫するのかを評価した.その結果,特に水資源量の逼迫が予測される地域は十勝平野周辺と千葉県から福島県にかけての太平洋側,松本盆地周辺,大阪府周辺,瀬戸内海沿岸,そして九州沖縄地方であることが明らかになった.さらに,東北地方日本海側や九州地方では,年水資源賦存量(降水量-蒸発散量)は増加するものの,増加する時期の水需給バランスによっては増加分の水資源を利用できず,むしろ水資源の利用が逼迫する地域が確認された.

  • 野原 大督, 佐藤 嘉展, 角 哲也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     地球温暖化の進行により,我が国では北海道の一部地域を除く多くの豪雪地域で将来の降雪・積雪の減少が予測されている.融雪水が重要な水資源である地域での水資源管理が今後難しくなることが懸念される.こうした豪雪地域での将来の水資源管理への気候変動の影響を明らかにするため,本研究では,北陸地方に位置する手取川流域手取川ダムを対象に,気象研究所MRI-AGCM3.2SによるRCP8.5シナリオでのSSTマルチモデル平均を用いた150年間の連続気候実験(シングルラン)のデータを用いて,ダム貯水池の利水・発電運用の将来変化と影響の評価を行った.その結果,特に21世紀後半に,降雪・積雪・融雪過程や夏季以降の流況の変化が大きくなり,夏季のダム貯水量の低下や4~5月の水力発電量の低下,年間発電量がかなり小さくなる頻度の増加といった変化が生じ得ることが,一可能性として示された.

  • 廣木 亮哉, Do Ngoc KHANH , Alvin C. G. VARQUEZ , 神田 学
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     地球温暖化やヒートアイランド現象によってもたらされる健康へのリスクが懸念されている.健康リスクを適切に評価するためには,熱的快適性の観点から評価することが重要である.本研究は,熱的快適性指標の1つであるUniversal Thermal Climate Index(UTCI)を用いて1980年から2020年までの日本全国の熱的快適性の長期変化傾向と,UTCIと熱中症患者数の関係を評価した.UTCIの長期変化傾向に関して,140地点中109地点で上昇傾向が検出された.また,地球温暖化やヒートアイランド現象,都市化による気温・MRTの上昇と風速の減少は熱的快適性の悪化を助長させることを示した.UTCIと熱中症患者数の関係に関しては,熱中症患者数が急増するUTCIの閾値が都市ごとに異なることを明らかにした.

  • 小山 直紀, 並河 奎伍, 山田 正
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,複数流域において同時氾濫が発生する可能性について,関東地方を例に大規模アンサンブル気候予測データであるd4PDF(5km, SI-CAT)を使用し検討を行った.計画雨量を超えたイベントを氾濫が発生しうる降雨イベントと定義し,基準とする流域において年最大3日(2日)雨量が発生した期間における他流域との比較を行った.その結果,将来気候下において,年最大降雨量を発生させる降雨イベントは,隣接する距離の近い流域で顕著となるが,関東地方全体においても増加する傾向があり,複数流域において同時氾濫が発生する可能性が高まることを示した.

  • 片寄 陸, 中津川 誠, 石川 達也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,多雪地域である北海道において,気候変動の不確実性に基づき,降雨と融雪を考慮した通年の斜面災害危険度の推定を目的とする.対象とした中山峠,日勝峠は北海道の交通の要所となっており,斜面災害などによる通行止めが発生した場合は物流などに甚大な影響が及ぶ.本研究では,中山峠,日勝峠における斜面災害危険度の推定のため,d4PDFの降雨と気温のアンサンブルデータを使用した.対象地域の地形・地質・地盤条件に加え,降雨・融雪といった水文条件を考慮し,d4PDFに適切な補正を行うことで実態に近い危険度評価を行った.結果として,気候変動の影響による水文環境の変化により斜面災害の発生頻度が大幅に増加し,地域特性に応じて積雪・融雪期の増加が顕著な個所と,夏期の増加が顕著な個所のあることが示された.

  • Ying-Hsin WU, Eiichi NAKAKITA, Akihiko YAMAJI
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     We propose a new approach to physically quantify the change of snake line patterns with the application of Clausius-Clapeyron scaling law. The key of the proposed approach is to establish the physically based linkage among air temperature change on ground surface, precipitation intensity, and corresponding snake line pattern of certain percentiles of rainfall events. We used 99th and 50th percentiles for representing extreme and general precipitation conditions. With the long-term observation at Kobe meteorological observatory, we successfully verified the applicability of the proposed approach. The climate projections of 5km NHRCM were then analyzed to examine the future change of Clausius-Clapeyron scaling in the Japanese archipelago. It is also revealed the change of snake line patterns under climate change influences.

  • 吉川 沙耶花, 渡辺 恵, 鼎 信次郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     人為的な気候変動に伴い,将来の極端降水量にどのような変化が起こるかは,依然として重要な課題である.極端降水は大気中の可降水量に比例することが既に提唱されており,クラウジウス・クラペイロン(CC)の関係(7%/℃)に従う可能性がある.本研究では,d4PDF過去及び将来1.5℃・2℃・4℃昇温実験を用いて日本における時間スケールの異なる極端降水の頻度変化率においてCCスケーリングが適応可能か解析を試みた.その結果,過去期間に関しては,降水時間にかかわらずCC理論値の範囲内となることが分かった.将来期間に関しては,気温が上昇するにつれ,CC理論値を下回る傾向がみえてきた.しかし,4℃昇温実験の1時間降水かつ最も極端な降水について,九州北西部・中国西部・北陸・関東・東北・北海道地方において頻度変化の増加率はCC理論値の範囲内にとどまることが明らかとなった.

  • 小澤 宙樹, 仲吉 信人, 中山 拓己, 小野村 史穂
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,記録的な豪雨をもたらした2021年8月の停滞前線による大雨の事例に対し,将来の水蒸気差分を2つの異なる手法で取り扱う疑似温暖化実験を行い,水蒸気の取扱いが雨量の将来変化に与える影響を調査した.1つ目の手法は,現在と将来で相対湿度を固定し気温上昇分のみで水蒸気量の変化を加味する手法であり,もう1つは比湿の将来変化を反映し相対湿度を修正する手法とした.現状再現計算と比べると,いずれの疑似温暖化実験においても積算降水量が小さくなり,とりわけ相対湿度を修正したケースで顕著な傾向が見られた.要因として降水が起こる前に大気が安定化したことが確認されており,疑似温暖化実験における水蒸気変化の取扱いが雨量の将来変化に与える影響が大きいことが確認された.

  • 和田 光将, 丸谷 靖幸, 渡部 哲史, 矢野 真一郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     観測データが乏しい流域(例えば観測期間が20年未満)では,一般的に観測値として再解析データが利用される.しかし再解析データは,データ同化が適用されているものの,空間解像度が粗く,地形の効果に伴う気象現象の再現性に課題があり,観測値との間にバイアスを持つ.既往の研究では,再解析データに対する統計的補正手法が提案されている.ただし,検討は降水量のみに留まっている.そこで本研究では,降水量以外の水文解析に必要な気象要素(気温,大気圧,全天日射量,湿度,風速)を対象に,水文気象観測データが乏しい流域において適用可能な統計的補正手法の構築を試みた.その結果,既往の研究で提案されている統計的補正手法は降水量以外の変数にも適用可能であり,観測値に準ずる水文気象データを高精度に作成できる可能性が確認された.

  • 丸谷 靖幸, 宮本 昇平, 安藤 胤帆, 伊島 美咲, 渡部 哲史, 矢野 真一郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     既往の多くの研究では,気候変動影響評価において,気候予測値(気候モデル)はアンサンブル実験結果により不確実性を考慮している.ただし,予測洪水によって変化すると考えられる流出モデルなどの影響評価モデルのパラメータの幅による予測値の幅(不確実性)が考慮されていない.そこで本研究では,可能流出モデル(取り得ると想定されるパラメータを用いた流出モデル)へd4PDFの出力値を入力値とした気候変動影響評価を行うことで,気候モデルだけではなく流出モデルの不確実性が将来予測へ与える影響を評価する.その結果,洪水や低水流量の発生頻度などにおいて,最適モデルのみでは確認することが出来ず見落としてしまう恐れのある変化傾向を予測できる可能性が確認された.

  • 潘 是均, 古谷 崚, 吉田 圭介, 山下 泰司, 小島 崇, 白神 義章
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     河川を遡上する稚アユの個体数の把握はアユの資源量調査において重要である.しかし,現在は水中カメラ画像を長時間かけて目視確認することにより計数を行っている.本研究では岡山県吉井川の鴨越堰の魚道出口に設置した水中カメラの画像を利用してデータセットを作成し,物体検出の深層学習アルゴリズムであるYOLOv5を用いることで,遡上する稚アユの検出モデルを作成した.モデルによる検出の結果,アユのデータ数の増加にともない精度が向上したが,アユと誤判定されやすい対象物へのラベリングでは,データ数が少数の場合は精度が低下した.本研究のモデルにより,目視計数をすべき画像枚数は従来の1 %弱に抑えられ,また,モデルで画像を判別する場合,約2か月分の画像処理で,従来の手法より所要時間が約90時間短縮されると試算された.

  • Shijun PAN, Keisuke YOSHIDA, Afia S. BONEY, Satoshi NISHIYAMA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     In recent years, the dumping of garbage in rivers has become a common occurrence and has gradually started to affect the normal flow of river channels, which has added lots of work to the river patrol staff. Facing these problems, river authorities urgently need a reasonable and better cost-performance method, that can be adopted on a large scale to support the staff in investigating the garbage within the rivers. Although object detection using Artificial Intelligence has its advantages, it has not been widely applied in the riverine environment using drone. This study attempts to detect garbage in the Asahi River, Japan using two object detection models. By using a large amount of PET images collected from the Internet as training dataset and experimenting with a variety of model-related parameters (i.e., Batch size, Epochs), this study achieved high-accuracy results in recognition of the garbage in the study site. Conclusively, the additional dataset of PET for training, with the similar GSD as test dataset, can improve the Recall value. Nevertheless, without combining with Original dataset collected from the study site, it is difficult to detect the PET using additional dataset only. Thus, combination of Original and additional dataset is a relatively better method to improve the Recall value of detecting PET.

  • 木村 延明, 皆川 裕樹, 福重 雄大, 馬場 大地
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     低平地の効率的な用排水管理のために,迅速に予測可能な水位予測モデルとして深層学習(DNN)を用いる試みがあるものの,観測データが少ない場合に,予測精度が低いことが知られている.そこで,機械学習の1種であるサポートベクター回帰(SVR)を用いて,少ないデータでも予測精度の良い水位予測モデルを構築し,DNNを比較モデルとして,データ量の大きさを対象にモデル予測精度の検証を行った.入力データは,2つの異なる地区で収集された雨量と水位とし,季節変動のサイクル数が少ないものを短期ケース,長いものを長期ケースとして分類する.短期ケースの場合,SVRの6時間先までの予測結果は,DNNよりも6~28%の精度の改善が見られた.一方長期ケースでは,両モデル共にほぼ同程度の予測精度であった.また,急激な水位変化ではSVRの予測精度の低下が見られた.

  • Sunmin KIM, Kento TAKAMI, Yasuto TACHIKAWA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     Input variable selection is one of the most challenging tasks for modelers when building a hydrological model using artificial neural networks (ANNs). The conventional method of input variable selection for ANN considers the linear correlation of each variable with the prediction target variable. However, this conventional approach can potentially limit the ability of ANN models. This study surveys the sensitivity of input variable selection methods in ANN performance to obtain an idea to save our time and concerns related to input variable selection. We prepared three ANN models with different input variable selection methods and two regression models as well. Comparing the results from these five models, which are for hourly-based water stage prediction at the Hirakata station, indicates that ANN provides satisfactory prediction accuracy without a careful input variable selection process. And, there is a possibility that ANN performs poorly if the variable selection process eliminates the necessary data.

  • 山田 嵩, 阿部 真己, 滝口 大樹, 柿沼 孝治
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     融雪期における高精度なダム流入量予測は防災・水利用の観点から極めて重要である.現在,水文分野においてもAIの活用が進められており,河川水位やダム流入量予測に関する研究が実施されている.本研究では,深層学習を用いて1時間単位の融雪期のダム流入量予測を行った.その結果,24時間先予測までは高い再現性があったが24時間先予測以降からは再現性が低下する結果となった.そのため,実務上利用可能な予測は24時間先までが限界と考えられる.また,正規化処理・標準化処理の影響よりも,中間層数の方が精度に与える影響は大きかった.

  • 曽田 康秀, 成 岱蔚, 小島 崇, 渡邊 明英, 若松 聡, 錦織 俊之
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     中小規模出水に対するダム流入量予測では,貯水位変化方式により得られるダム流入量データの振動の影響が大きくなる.深層学習予測モデルの一つである再帰型ニューラルネット(RNN)は,対象とする降雨イベント以前の流域状態を表現するのが困難である.その二点に対し,本研究では非定常な信号の周波数解析に有効なWavelet変換を用いて,出水期でのダム流入量データのノイズ除去を行った.また,流域の事前状態の影響を表現するため,エンコーダをRNNと連結するダム流入量予測モデルを構築した.最後にエンコーダ付きRNNと多層パーセプトロン(MLP)との24時間後の予測の精度の比較および検証を行った.

  • 蟹江 盛仁, 辻倉 裕喜, 武田 英祐, 佐々木 海人, 長谷川 敦, 金子 拓史, 高木 晃人, 川部 らら
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     激甚化・頻発化する洪水に対する防災・減災に向け,ダムの高度操作の必要性が増している.本検討では,ダム操作支援を目的として,深層学習モデルを搭載した丸山ダム流入量予測システムを構築した.深層学習モデルの構築では,ダム流入量に対し相関の高い入力項目を選定し,予測精度への影響が大きいハイパーパラメータを最適化することで,モデルの精度向上を図った.

     深層学習では,学習データが限られる低頻度洪水や未経験洪水に対する精度確保が課題となる.そのため,流出解析モデルを併用し,深層学習モデルの適用限界を超える範囲には流出解析モデルの予測で代替する機能を構築して,システム運用時の精度確保を実現した.また,システム導入後に発生した洪水を対象として追加学習する機能を構築し,継続的なモデル精度の向上を可能とした.

  • 新井 章珣, 中村 要介, 黒澤 祥一, 丸谷 靖幸, 小出 啓史, 川口 浩
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     昨今の土木分野の人手不足問題や社会情勢の変化により,インフラ分野のDXが注目を浴びている.その中でも施設点検や水防災分野ではAIが多岐に亘り利用され始めている.AIをインフラ分野に用いた例は増えているものの,AIを洪水予測分野で利用する手法は未だに確立されていない.そこで本研究では,山梨県の富士川水系塩川に位置する塩川ダムを対象に深層学習(DNN)を用いたダム流入量予測モデルを構築し,そのDNNモデルの再現性を評価するため,貯留関数法やRRIモデルの流出計算結果と比較した.その結果,塩川ダムにおけるDNNモデルは,他の流出モデルを上回る再現性と安定した推定が可能であった.以上より,塩川ダムの流入量予測においてDNNモデルは洪水規模を問わず有効な予測手法の一つであることが確認された.

  • 一言 正之, 荒木 健, 箱石 健太, 遠藤 優斗
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     深層学習を用いたダム流入量予測において,学習データの拡張による予測精度向上を試み,複数の流域での適用性検証を行った.提案手法では,一定の降雨が降り続けるような定常状態を仮定し,流域への総降雨量とダム流入量が等しくなる(流出係数が1.0となる)ような理論的な仮想出水のデータセットを拡張データとする.ケーススタディとして,寺内ダム,宮ヶ瀬ダム,野村ダム,金山ダムの4ダム流域において,近年の大規模出水に対するデータ拡張手法の適用性検証を行った.各ダムいずれにおいても,データ拡張を適用した場合での予測精度の向上が確認された.またテスト対象出水が過去の学習対象出水に比べあまりに大きい場合は,再現性の向上に限界が見られた.

  • 太田 皓陽, 柏田 仁, 伊藤 毅彦, 二瓶 泰雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,パラメータ依存度の小さい河川流モデルの開発を目的として,1D-2Dハイブリッド型河川流モデルと一次元計算用のデータ同化手法を融合して,高精度・低負荷な河川流計算法を開発した.本モデルでは,平面二次元解析並みの計算精度を確保しつつ,一次元解析と同程度の計算負荷や粗度係数同定の容易さを確保できるため,本手法は汎用性の高い河川流計算法となり得る.本モデルの有効性を検証するために,令和元年東日本台風における荒川上流域の洪水流に本モデルを適用した.その結果,粗度係数の推定値は,従来の1D計算法では0.013~0.13m-1/3sであったが,本モデルでは0.020~0.062m-1/3sとなり,推定範囲が1/3~1/2程度減少し精度が上昇した.また,本モデルのピーク水位は平面二次元計算と同程度の精度を保ちつつ,計算時間を75.1~84.2%低減することに成功し,本モデルの有効性が示された.

  • 重枝 未玲, 伊藤 翔吾, 濱田 信吾, 戸田 祐嗣, 椿 涼太, 内田 龍彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,河道特性と安定河道縦・横断面形状から,大局的に河岸や護岸の被災リスクを推定する手法を構築したまず,①現況河道データ,②河道平面・縦横断形状に基づく最深河床高,③安定河道式による安定河床位と川幅,④動的平衡河床縦断形を用いた,⑤現況河道の護岸被災リスクポテンシャルの1次元推定法を構築した.次に,同手法を彦山川へ適用した.その結果,(1)河岸や護岸の多くは,河道特性により安定状態にはなく,川幅が拡幅する傾向のある横断面で被災していること,(2)河岸・護岸の被災区間は,同手法の評価で被災リスクポテンシャルが高い区間に含まれること,(3)過去の横断面データで被災リスクの評価が高い区間は,その後の出水の被災発生区間と一致していること,などが確認された.

  • 小林 大祐, 内田 龍彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     段落ち下流湾曲部における流れ構造を,実験や3次元数値計算より考察し,種々の跳水によって異なる河岸侵食危険性を明らかにした.直線・蛇行水路における実験結果との比較から,標準k-εモデルを用いたRANS方程式による3次元計算によって,段落ち下流湾曲部における水深を良好に再現することを示した.蛇行水路における横断面流速分布の計算結果より,潜り噴流と波状跳水では湾曲部における流速分布が異なり,波状跳水では潜り噴流と比べ,湾曲部において強い二次流が発生することを明らかにした.これは,段落ちがない場合と比べ,流速の鉛直分布の勾配が大きくなり,遠心力の鉛直勾配も大きくなるためと考えられる.よって,段落ち下流湾曲部において波状跳水が発生する場合,強い二次流が発生するため外岸沿いの河岸侵食危険度が高まる可能性を示した.

  • 三好 学, 田村 隆雄, 安藝 浩資, 中村 栗生
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,床上浸水の評価を目指したリアルタイム内水氾濫予測についての方法の開発途中経過を整理したものである.この方法は,事前準備フェイズにおいて予め力学モデルを用いて計算しておいた浸水深分布を保存しておき,実時間運用フェイズではそれら浸水深分布を任意降雨波形に応じて呼び出すことにより,実時間運用フェイズにおいて計算負荷の少なく,計算時間を短縮する方法を提案し,床上浸水の評価を目指す.提案方法の検証として,従来の平面二次元不定流計算での氾濫解析結果と,提案方法による結果を比較した.提案方法は湛水量の時間変化を算定することはできるものの,任意時刻の浸水深を把握することはできない.しかし提案方法は,浸水が発生してから解消されるまで計算すると,従来の方法と同等の最大浸水深分布と床上浸水発生箇所を得ることができると考えられた.

  • 吉川 泰弘, 横山 洋, 平田 智道, 阿部 孝章
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,アイスジャム発生前に現れる解氷時期の推定手法の開発である.解氷時期に氷板厚が減少するため,氷板厚の計算式の精度向上を試みた.積雪・融雪・降雨を考慮した氷板厚計算式は,計算値の精度が高いことを示し,支配的なパラメーターは計算上の最小水温であることが分かった.解氷時期を推定する指標として,氷板厚の変動加速度PBを提案した.6つの入力値を用いる実用的な解氷時期推定手法を開発した.本手法は,アイスジャム発生付近でPBのピークが現れており,安全側で解氷時期を推定した.本手法においては,全面結氷時の氷板厚も重要なパラメーターであることが分かった.

  • 関谷 宏紀, 中村 恭志
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     河川での水難事故多発箇所である堰状構造物(ローヘッドダム)における流れへの転落事故を想定し,堰越流の3次元流動計算と,人体各部位への流体力と浮力を考慮し落水者の姿勢変化と運動を計算した.堰の上・下流水深を変化させ流動様式の異なる流れを再現し,人体は救命胴衣着用を想定してモデル化した.溺水原因とされる鉛直循環流は,従来注目されていたsubmerged jumpに加えwave jumpでも生じ,水面に加え河床付近にも形成された.submerged jumpの鉛直循環流への捕捉は長時間になる傾向があった.wave jumpでの捕捉は短時間となるが,submerged jumpよりも人体が激しく煽られた.この場合,たとえ救命胴衣を着用していても水面上に浮き続けることができないケースも確認された.

  • 松本 健作, 小堀 圭祐, 居波 智也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     地下水観測孔内部におけるストレーナの影響による観測誤差の定量評価についてDarcy-Brinkman式に基づく数値解析により検討した.流体領域と多孔質領域の境界における透水係数を調和平均法で取り扱うことで全領域を統一的に安定して解析できることが確認できた.また,13%開口率保孔管の場合,孔中心における流速に対して,±10%誤差を含む領域として側壁から18mmであることなどを定量的に示した.

  • 石川 忠晴, 名本 伸介
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     全球的気候変動による豪雨規模の増加に備えるために,氾濫の軽減と遊水機能保全のバランスを考えた築堤計画が望まれている.河川上中流部の谷底平野で築堤が進むと「閉鎖性氾濫原」が多数出現し,氾濫原が元来有する遊水機能が喪失する.そこで本研究では,85kmという長大な谷底平野を有する北上川を対象に閉鎖性氾濫原の特徴を調べるとともに,超過洪水時のみに機能する遊水地群として利用する方法を提案した.続いて現行の第一期河川整備計画で想定されている治水安全度1/90の河道において1/150の計画高水が発生した場合の状況を数値シミュレーションで検討した.その結果,5km程度の区間長の閉鎖性氾濫原での洪水ピーク部分の溢水でピーク流量を2~6%程度低減できる可能性のあることが示された.

  • 赤穂 良輔, 石川 忠晴
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     堤防整備は河川氾濫の防止・軽減に貢献する一方で,氾濫原を分断して閉鎖的区域を作る.堤防決壊が生じた際に閉鎖性氾濫原では浸水が長期化することから,気候変動による豪雨災害増加に備えて氾濫水の早期排除のための計画が必要になると考えられる.そこで本研究では,2015年鬼怒川左岸堤防決壊により長期間の浸水が発生した閉鎖性氾濫原を対象に,逆サイホンによる自然排水効果を数値シミュレーションで検討した.その結果,同水害での浸水期間を大幅に短縮できることがわかった.また,越流堤と逆サイホンを組み合わせた超過洪水用流水型遊水地を想定して数値シミュレーションを行ったところ,河道計画流量の20%増しの超過洪水においても,集落のある自然堤防に冠水せず,下流氾濫原への洪水ピークを大幅に減じる可能性のあることが示された.

  • 伊藤 毅彦, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     千葉県における流域治水対策として,広域に分布する谷津地形を活用した洪水調節が挙げられる.本研究では,一宮川流域を対象とした流域治水モデルの構築を行うべく,格子解像度の異なる水文地形データを用いた流出解析を行い,谷津を有する河川流域の計算精度を検証した.その結果,150m解像度のピーク流量は30m解像度の64%となり,計算結果が大きく異なるという結果が得られた.これは,格子解像度が粗いと谷津特有の局所的な標高の高低差が平滑化されることにより,流量フラックスを過小評価し,結果として河道への流出量を過小評価することが示された.以上より,谷津を有する流域での数値モデリングにおいて,地形データを高解像度で反映する必要があることを示した.

  • 青木 慧, 池内 幸司
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動の影響により増加する大規模な洪水の被害を防止・軽減するために,流域におけるさらなる流出抑制対策が必要とされている.本研究では,そのような対策の一環として車道での透水性舗装の導入に着目し,その洪水調節効果を分析した.既往研究では対象流域・降雨の規模が小さく,雨水の地中への浸透による地下水位の上昇や,地中における水平方向の浸透,舗装内部に貯留された雨水の排水は考慮されてこなかった.本研究では,大規模な流域・降雨を対象とした透水性舗装の洪水調節効果を分析するために,これらの要素を考慮した流出解析手法を構築した.新たな手法による解析により,透水性舗装の導入が将来降雨に対しても一定の洪水調節効果を発揮しうること,その効果は地下水位の状況により異なることが明らかになった.

  • 鹿児島 昂大, Shakila KAYUM , 皆川 朋子
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,熊本県白川水系黒川流域を対象に,機能分離型田んぼダム導入による本川への流出抑制及び浸水軽減効果,水田地区ごとの流出抑制の特徴をシミュレーションにより推定した.その結果,水田1,687ha(流域水田の32%)に田んぼダムを導入した場合,10年,30年,50年確率に対しては50mmの流出孔が最も本川への流出抑制効果を発揮し,50年確率降雨に対してピーク流量を33.7m³/s(5%),浸水域を54ha(7.1%)低減させる効果があると評価された.また,各水田地区における流出抑制効果は,地形勾配,背水の有無が関与し,背水がなく地形勾配が大きいほど1ha当たりのピークカット量は大きいと推定された.

  • 赤穗 良輔, 池尻 悠人, 前野 詩朗
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年頻発化している超過洪水に対し,氾濫を許容した流域治水対策の検討が進められている.中小河川を対象とした具体的な流域治水対策を検討するためには,高精度な浸水域の予測および流域治水対策効果の定量的な評価方法の確立が重要となる.本研究では,高梁川水系軽部川流域を対象に,ポンプ排水量の抑制と田んぼのあぜ道のかさ上げによる貯留量の増加を組み合わせた流域治水対策の効果について包括型洪水氾濫解析モデルを用いた数値実験より検討を行った.その結果,令和3年8月豪雨と同程度の降雨条件下において,ポンプ排水流量を50%に低減した場合,あぜ道を30cmかさ上げすることで,浸水範囲を同程度に抑制可能であることが明らかとなった.

  • 嶋 尭希, 宮津 進, 佐藤 一浩, 小泉 慶雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究ではスマート田んぼダムの浸水被害軽減効果を評価することを目的に,宮城県大崎市米袋排水機場流域の解析モデルを構築し,複数の降雨シナリオで排水シミュレーションを行なった.その結果,スマート田んぼダムの排水基準水位を超過しない降雨の時には,全ての降雨を貯留しても畦畔を越流しないため,従来の田んぼダムに比べて高い浸水被害軽減効果を発揮することが示された.一方で,排水基準水位を超過する降雨の場合,超過した時点で田んぼダム非実施水田の流出量と変わらなくなるため,従来の田んぼダムより浸水被害軽減効果が低減することが示された.また,降雨ピークが後方に移動するにつれ,貯留ポケットが喪失し,浸水被害軽減効果が低減することが示された.

  • 池本 敦哉, 風間 聡, 吉田 武郎, 柳原 駿太, 峠 嘉哉
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     ため池の潜在的な治水効果を把握するために,日本全国を対象に,ため池の最大貯水容量を貯める場合の洪水氾濫計算を行った.また,治水経済調査マニュアル(案)による年期待被害額を計算した.その結果,洪水氾濫による日本全体の被害額を1.0~3.0%程度軽減するポテンシャルをため池が有することが示唆された.年期待被害額軽減率の高い県は順に,香川県,兵庫県,奈良県,広島県,滋賀県であった.一方,関東地方のほとんどの県は,ため池の治水効果の低い可能性があることが示唆された.洪水流量の再現期間に応じて被害額軽減率が変化する県が見られ,再現期間に応じたため池の活用が示唆された.

  • 溝上 哲平, 大串 浩一郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     令和元年,令和3年と立て続けに佐賀県六角川水系流域では豪雨災害に見舞われた.特に六角川本川中流部左岸側や支川武雄川左岸側において甚大な内水氾濫被害を受けた.この地域では従来のような河道整備だけでは解決が難しい内水域が広く分布するという特徴がある.そのため,本研究ではその解決策の一つとして流域の貯留施設を検討した.当該流域の低平地部に農地が広がっていることや,山地部に農業用ため池が複数存在していることに着目し,洪水氾濫解析により,貯留施設としての内水調整池やため池を考慮した治水対策の検討を行った.その結果,当該流域では,令和元年8月佐賀豪雨規模の場合,内水調整池とため池は降り始めの浸水深を低減する効果があることや,当該流域内でも立地条件により効果に差があることを明らかにした.

  • 上田 翔, 鈴木 日彩, 井上 隆, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年の豪雨災害の激甚化に伴い,河川橋梁の流失が多発している.その要因は超過洪水の発生や橋桁への流木捕捉の影響が考えられる.本研究では,小型橋桁模型を使用した橋桁流失実験と3次元流況解析を行い,流木捕捉が橋桁への流体力特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.ここでは,R2年7月豪雨で被害を受けた球磨川・西瀬橋をモデルにした模型実験とその再現計算を行った.その結果,橋桁への流木捕捉により,わずかな流量増加でも橋桁への流体力は急激に増加することが示された.また,流木捕捉量が大きいほど橋桁に作用する流体力は増加し,それには投影面積の増加が最も寄与している.三次元流況解析により,流木捕捉時の橋桁周辺における特徴的な流況特性を把握した.

  • 佐々木 達生, 横谷 祐樹, 本橋 英樹
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年台風や集中豪雨等の気象擾乱激甚化に伴い,河川の洪水被害が増加し,橋梁の流出被害が続いている.流出した橋梁の被害分析と被害予測から,橋梁流出への抜本的な対策検討が必須の状況である.本研究は,洪水時における橋梁周辺の流況,浸水橋梁の流出メカニズムを解明することを目的として,令和2年7月豪雨で流出被害を受けた橋梁を対象に,河道形状,河床地形,橋梁構造をモデル化した3次元流体解析により,橋梁に作用する流体力および周囲の流速分布を推定し,流出被害の分析を行った.3次元橋梁モデルに作用する流体力と周囲の流速分布の特徴から,橋梁流出のメカニズムは概ね推定できた.

  • 加藤 一夫, サムナー 圭希, 千葉 喜一, 井上 卓也, 清水 康行
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年各地で異常豪雨に伴う河川災害が頻発し,山地崩壊等で流出した流木群によって被害を増大させている.流木対策の多くは渓流砂防として実施されているが,今後豪雨外力の増大により,扇状地河道においても効率的に流木を除去することは防災上重要である.河川区域を対象とした明確な設計基準やガイドラインは設定されていないため,河川湾曲部に設置する流木捕捉施設の流入部の形状を効率的に設計することを念頭に,流木追跡モデルを曲率の異なる湾曲水路に適用し,流木の捕捉機能の効果を検討した.その結果,河道曲率に応じた流入部形状と捕捉率の関係を明らかにし効率的な施設設計が可能になった.

  • 山﨑 彩花, 増永 英治, 内山 雄介, 辻 一洋, 山崎 秀勝
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     浅海域に建設された構造物が海洋物理環境に与える影響を評価することを目的とし,3次元水理モデルを用いて成層状態を考慮した数値実験を行った.構造物の配置の違いによる影響を比較するために,直径500mの円柱状構造物を1本設置した場合,流れに対し水平または垂直に2本並べて設置した場合の3種類の配置を用いた.外力として定常流とM2潮汐振動流をそれぞれ与え,外力条件毎に評価した.渦運動は定常流では構造物を複数設置した場合に強められ,配置による違いは小さかった.振動流では構造物を水平に並べて設置した場合に最も渦運動が強められていた.鉛直混合は外力条件によらず構造物を流れに対し垂直に並べて設置した場合に最も促進されていた.本研究の結果から,構造物の配置や数が海洋物理環境に影響を及ぼすことが示唆された.

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