土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
ISSN-L : 2185-6540
77 巻, 5 号
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土木計画学研究・論文集 第39巻(特集)
  • 出村 嘉史
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_1-I_8
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近代は,社会基盤施設の管理体制におけるそれまでの均衡が崩れ,連携を模索しながら次第に新しい均衡へ至ったプロセスといえる.岐稲エリアの水系基盤は,河川改修から土地改良事業へ至り,それらを基盤とする近代下水道システムの構築に至るまで,およそ 20 年にわたって柔軟に形成されてきた.これら一連のシステム形成の過程で,既存の視野を越えたビジョンが度々技術者により提示され,それがテクニカルに可能であると信じられた.完成まで描き込んだプランは初期に否定され,修正・拡充を許すようなプランの立て方が実行可能性を担保した.その視野を保ちつつ,柔軟に実システムが構築されたといえる.そして,近代に各組織の分掌が明確化したものの,プロジェクトを共有しながら,協働を可能にする人的ネットワークに支えられていたことが示された.

  • 瀬木 俊輔
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_9-I_19
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,消費者の買い物利便性と企業の在庫管理という視点から,円滑な都市内物流を支えるインフラの価値について議論する.まず,在庫管理という視点から,都市内物流を支えるインフラが,小売企業の施設配置戦略や,消費者の利便性と密接な関係を持つことを説明する.そのうえで,インフラ整備による都市内物流の円滑化は,都市近郊への物流センターの立地を促す効果や,都市内の商店数を増やし,消費者の買い物利便性を改善する効果を持つことを議論する.

  • 石倉 智樹, 山本 和樹
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_21-I_28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,多地域経済モデルを経済システムの構造モデルとして見なし,導出された地域間交易額の誘導形を利用して,わが国の地域間交易における交易障壁を推定した.具体的には,地域間産業連関表から得られる部門別地域間交易額データを用い,交易障壁を操作変数として,多地域応用一般均衡モデルにおけるキャリブレーション手順を適用することで,理論モデルと整合的な交易障壁が内生的に推定される.また,本手法を多時点の地域間交易データに対して適用し,交易障壁の時間的推移と,都市間交通整備プロジェクトの関連について考察した.

  • 川崎 直哉, 室町 泰徳
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_29-I_38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    2050 年のカーボンニュートラル達成に向け,電気自動車(EV)や再生可能エネルギーが推進されている.本研究では,茨城県つくば市を対象として,EV と定置用蓄電システムの充放電制御を活用し,電源として太陽光発電(PV)を大量導入することによる都市のゼロエミッション化の実現性を検討した.その結果,PV のみで全てのエネルギーを賄う場合,既存のシステムの 2 倍以上の費用がかかり,費用面に大きな課題があることが明らかとなった.一方,任意量のカーボンニュートラル電力の買電や余剰電力の売電が可能であれば,既存のシステムと同水準の価格とすることが可能であることがわかった.また,PV 設備導入費用や買電単価が総費用に高い影響力を持つため,これらの低価格化が都市のゼロエミッション化の進展には重要であることが示唆された.

  • 森山 真稔
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_39-I_46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    PFIに関する経済学的研究の知見は我が国のPFIの政策,実務の双方に示唆を加えるものであり,特に近年その重要性が増している.このような背景を受け,本稿は我が国のPFIを分析対象とした経済学的研究の論点整理と展望を目指し,これらの研究の包括的レビューを行った.レビューの結果,(1) 理論研究は契約理論をベースに発展してきており,諸外国の著名な先行研究と整合的な結果を得ていること,(2) 実証研究は我が国のPFI事業の入札に関するデータを用いて競争入札に関する理論や契約理論の検証を行っており,これらの理論を支持するような結果が得られていること,の2点が明らかになった.その一方で,実証研究は主にデータの制約から分析内容が限定されており,この分野の研究のさらなる発展に向けては課題が残るといえる.

  • 北村 幸定, 白柳 博章
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_47-I_55
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    日本では,地区の最大震度を表したハザードマップが,各自治体において作成・公表されているが,木造住宅密集地区の細街路を対象として,地震時にどの道路がどの程度の確率で車両通行不可となるか,といったミクロな脆弱性診断はほとんどなされていない.そこで本研究では,地震時において木造建物・非木造建物・電柱の倒壊等により道路の車両通行ができなくなる確率を定量的に表した指標として「震度別車両通行確率」の提案・算出を行なった.その結果,大阪府寝屋川市における木造住宅密集地区の細街路において.車両非通行確率が80%以上となる道路延長の割合は,震度6強の場合25.8%であったものが,震度7の場合は60.8%となった.そして,建物の耐震化・不燃化や土地区画整理事業,無電柱化等といった地区の強靭化施策の制度について概説した.

  • 藤田 翔乃, 畑山 満則
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_57-I_68
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    災害時,自治体は被害認定調査を行い被災者に罹災証明書を交付する.罹災証明書は支援策の判断材料として活用されるため,自治体は迅速かつ正確に発行しなければならない.しかし,過去の地震災害では被害認定調査に多くの時間を要しており,円滑な被災者支援を妨げていた.加えて現在の屋根調査では,屋根全てを見渡すことができず正確に屋根調査を行えていない.そこで本研究は被害認定調査の迅速化と正確化を目的として,航空写真から画像認識を用いて,屋根の損傷率を自動で算出するシステムを開発した.このシステムの推測結果を危機管理課の職員に評価を行ってもらい有効性の確認をした.その結果,80.00%の屋根画像データが地上から調査した場合以上の精度であり,今後は責任を確保できるようなシステムの利用方法が必要であることがわかった.

  • 坂口 浩昭, 上田 湧雅, 池田 隆太郎, 柴田 久
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_69-I_82
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では全国市区町村の一般道路を主対象とした2段階のアンケート調査を実施し,道路維持管理の現状と課題を把握したうえで,対応策のひとつとなる道路利用者連携に向けた方策と留意点を考察した.その結果1) 無計画な修繕や場当たり的維持管理の現状が把握され,点検マニュアルの整備と道路損傷箇所の早期発見や職員のみでは目の届かない情報収集等に関する道路利用者連携の有効性が示唆された.また2) 道路利用者連携に向けた方策として,巡回点検計画の策定と担い手不足補完に向けた情報の明確化,新技術活用に向けた意識啓発策の重要性が把握された.さらに3) 今後求められる道路利用者の関与レベル設定の留意点とともに,道路利用者からの情報の信頼性担保に寄与する担い手育成に向けたやり取りおよび触れ合いの場提供の重要性を示唆した.

  • 吉岡 大誠, 力石 真, 藤原 章正
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_83-I_93
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,地域通貨取引を消費者と店舗の2つの主体が相互に影響する両面市場と見なし,消費者と店舗に働く主体間/主体内相互作用を考慮した消費者換金行動モデル,店舗加盟行動モデルを構築し,広島県の4つの市を対象とした実証分析を通じて,それぞれの相互作用が消費者の換金行動と店舗の加盟行動に及ぼす影響を定量的に示す.実証分析の結果,主体間相互作用が消費者の換金行動,店舗の加盟行動の両方に有意な影響を及ぼすこと,消費者に正の主体内相互作用の存在が確認されたこと,消費者の主体内相互作用の強度は消費者自身の地域愛着の程度に依存することが示唆された.また,地域通貨事業の効率性を評価するシミュレーションを行った結果,運営主体は店舗へ一定額の補助金を出すことで地域通貨事業の効率性を改善できることが示唆された.

  • 織田澤 利守, 足立 理子, 佐藤 啓輔, 小池 淳司
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_95-I_105
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    我が国の高速道路ネットワークは戦後の復興期より着実に整備が進められ,現在に至るまで社会の発展と経済成長に大きく寄与してきた.最初の高速道路が開通して以来 50 年余りが経過した現時点において,これまでの高速道路政策を振り返り,客観的に事後評価を行うことは重要な課題である.本研究では,我が国における高速道路ネットワーク整備が地方部の都市雇用圏に及ぼしてきた影響を実証的に明らかにする.具体的には,一般均衡型の都市間交易モデルを用いて地価とマーケットアクセスの関係式を導出し,高速道路ネットワークが地価に及ばす因果効果を推定する.

  • 北倉 大地, 小林 俊一, 中山 晶一朗, 山口 裕通
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_107-I_115
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    著者らは大規模地震等の災害時における道路ネットワークの接続性評価に関心がある.大規模地震による被害予測を事前に詳細に行うことは不可能である.また道路が不通になる原因もさまざまである.したがって被災確率や通行可能確率等のデータを用いた接続性評価にはおのずと限界がある.そのため,道路網の形・トポロジーと各リンクの距離のみを用いた接続性評価にも意義があると考える.ここでは2 節点OD 間の経路数に着目し,2 ノードを根とする木構造を組合わせた有向ネットワークで近似することで,OD を結ぶ単調なパスの総数を簡単に計算する手法を提案した.

  • 山田 歩, 武藤 慎一, 相馬 一義
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_117-I_125
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,近年激甚化する豪雨による土砂災害リスクや洪水災害リスクの抑止のため,健全な森林管理を実施することで向上するグリーンインフラ機能と災害抑止効果の計測を山梨県を対象に行った.具体的には,現状で放置林となっている林地において森林管理がなされたことによる表面侵食防止効果と表層崩壊防止効果を計測した.前者は,USLE方式により森林管理の有無による侵食土砂量変化を算出し,後者は樹木根系が表層土を斜面につなぎとめる作用から求められる斜面安全率変化を算出した.その結果,間伐等の森林管理が適切に行われるとすれば,表層崩壊発生頻度は減少し,侵食土砂量は年平均33万トンの削減に至ることが示された.またそれらを代替法を用いて貨幣評価をすると約73億円の便益になることが示された.

  • 藤田 雄介, 山口 裕通, 中山 晶一朗
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_127-I_136
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,需要の季節変動の大きさが,最適な都市間旅客交通モードの効率的な組み合わせに対する影響の把握を試みた.具体的には,需要の季節変動を組み込んだ最適な組み合わせを算出する問題を混合整数線形計画問題として定式化し,数値解析から影響を明らかにした.その結果,季節変動の大小によって,最適な組み合わせは異りうることとその方向性を明らかにした.さらに,ネットワーク上の補完関係・旅行者の異質性・競合による市場原理による効率化といった要因を扱わないモデルであっても,旅行者数が時間的に異なる条件では,航空と鉄道という競合する複数の交通モードが存在することが最も効率的になりうることがわかった.このことから,需要の季節変動も加味した,長距離旅客交通のネットワーク設計方策を検討する必要がある.

  • 西脇 文哉, 畑山 満則
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_137-I_147
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    過去に発生した大規模な災害では,緊急支援物資が被災者のもとにタイムリーに届かなかった事例が度々報告されている.この問題に対して様々な解決策が検討,実施されてきたが,未だに課題が残る問題である.本研究では,阪神・淡路大震災,東日本大震災,熊本地震の三つに着目し,それぞれで指摘された緊急物資支援の問題と解決策がどのような変遷をたどったかレビューを行った.その結果,多くの問題が阪神・淡路大震災から指摘され続けているものだとわかった.依然として残されている問題を解決するためには,これまで災害時物流ではあまり考慮されていない平常時の商習慣における観点を取り入れ,それぞれの責任者を明確にする必要がある.

  • 後藤 治樹, 山本 俊行, 伊藤 秀行
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_149-I_159
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    南海トラフ地震の発生に際して国が実施を計画している避難者への「プッシュ型支援」について,名古屋市での実行可能性と効率性を検討した.物資の積み替え時間などを仮定した上で地域内輸送拠点(二次拠点)の利用の有無や組み合わせによる輸送時間の増減の検討を行った結果,広域物資輸送拠点(一次拠点)から二次拠点への輸送の集約によって輸送の所要時間を短縮でき,二次拠点を利用する場合でもその総所要時間を利用しない場合に近づけられることがわかった.さらに,地震災害による道路ネットワークのランダムな寸断をデータ上で再現した上での輸送の到達率に関する検討を実施した上で,そのような道路ネットワーク被災時における地域内の基幹的な道路ネットワークの優先的な復旧が到達率を改善させることを示した.

  • 水流 風馬, 鈴木 温, 井倉 祐樹, 青木 俊明
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_161-I_171
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年,我が国では集中豪雨や地震などの自然災害が頻発している.そこで,国土交通省は2020年2月に立地適正化計画に関する法律を改定し,居住誘導区域内に災害ハザードエリアが含まれる場合,新規立地抑制や移転促進等を新たに追加した.そのため,居住地の災害ハザードエリア毎に居住継続意識構造を分析することは,移転促進や災害対策などの施策を立案する上で有用であると考えられる.分析の結果,土砂災害警戒区域及び洪水浸水想定区域では地縁に対する評価が,津波浸水想定区域では生活の質に対する評価が最も居住継続に影響を与えることが明らかとなった.

  • 後藤 海周, 奥村 航太, 浅田 拓海, 有村 幹治
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_173-I_180
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    2019 年 2 月 21 日に北海道胆振地方中東部地震の最大余震が発災した際,札幌市都心部においては公共交通の復旧を待つ人々が溢れ返った.積雪寒冷地においては冬期の発災シナリオを含めて発災タイミングの違いを考慮した帰宅困難者数の推定が緊急時の避難体制を構築するうえで必要不可欠である.従来,帰宅困難者数の推計に関しては,国勢調査とパーソントリップ調査を用いた事例が多く報告されている.しかし,各時間や遠方からの滞在人口を考慮し,各メッシュ単位における帰宅手段や活動目的別の分析はみられなかった.そこで本研究では,札幌市において PT 調査,携帯電話位置情報データ(モバイル空間統計)および各避難所や面積を用いて帰宅困難者数の推計を行い,帰宅困難者数の空間分布を可視化した.

  • 塚本 満朗, 高木 朗義
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_181-I_191
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年頻発する豪雨災害では様々な要因により人的被害が発生しており,住民避難の促進に関する課題に対して依然として取り組む必要がある.本研究では,機械学習モデルを用いて住民避難選択行動モデルを構築し,eXplainable AI (XAI)という技術を用いて住民避難選択行動の要因を分析した.具体的には,平成30年7月豪雨時の岐阜県と西日本の調査データ,令和元年台風 19 号の東日本の調査データに対して XAI の PI 分析および PD 分析により,避難/非避難および避難場所選択に影響をもたらす要因を明らかにした.

  • 川原 裕美子, 武藤 慎一, 西田 継, 伊藤 友里, 小林 優花
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_193-I_202
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    水道インフラの老朽化が進み,特に人口減少と高齢化が進む過疎地域での小規模水道の維持管理が課題となっている.今のところ,都市域の水道ネットワークである集中型水供給システムを広域化することによる対応が検討されているものの,多大な時間と費用のかかることが問題とされる.一方,近年の技術開発によって小規模で独立的な分散型水供給システムによる給水も可能になりつつある.そこで,そのいずれが効率的かを判断するため,将来人口予測結果から給水区別の水需要量を推計した上で,それぞれの水供給システムを導入する場合の費用負担分析を行った.その結果,集中型は管路整備に多大な費用負担が生じること,分散型では現在の上水道と同水準の費用負担に抑えるとした場合の施設整備に充当可能な費用の目安を示すことができた.

  • 吉田 護, 柿本 竜治
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_203-I_211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,豪雨災害の脅威が迫った時間帯が住民の避難行動に与えた影響を統計的因果推論の枠組みに従って分析した.具体的には,平成30年7月豪雨の脅威にさらされた住民へのアンケート調査データを用いて,住民の避難行動を「立ち退き避難」と「屋内安全確保」に分類し,時間帯による避難行動の違いを検証した.結果として,日中は夜間と比較して,車による「立ち退き避難」が増加していることが明らかとなった.また,「屋内安全確保」と立ち退き避難時の車利用の可能性によって住民の避難行動は変化しており,特に,平屋住まいの方は,0-6時と比較して,18-24時であっても「立ち退き避難」を実施する傾向が明らかとなった.

  • 遠山 航輝, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_213-I_223
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年我が国では,政治的論争はいくつかあるものの大規模な「政治運動」は起きていないことが,他の先進諸国と比べた顕著な特徴であると言える.これは「政治的無関心」の問題であるだけでなく,日本人が政治に対して抱いている「忌避感」の問題だとも言われるが,この忌避感についてはこれまで学術的な解明は不十分な状況にある.本研究ではこの忌避感を日本人が政治に対して持っている「恐怖・軽蔑感」と捉え,これに「対立忌避傾向」「大衆性」「非ニヒリスト度」が影響を与えているという仮説を設定し,検証を行った.その結果,「対立忌避傾向」や「大衆性」の下位因子である「自己閉塞性」および「傲慢性」が高い人ほど「政治恐怖・軽蔑度」が高くなること,「非ニヒリスト度」が高い人ほど「政治恐怖・軽蔑度」が低くなることが示された.

  • 川端 祐一郎, 鈴木 舜也, 藤井 聡
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_225-I_241
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    交通インフラ投資と税率変動についての一体的な将来予測を可能とし,かつより正確な税収評価が可能なモデルを構築すべく,交通インフラの整備によってもたらされる効果を総合的に評価できるモデルシステムであるMasRACを改善した.税率を外生的に操作可能とするため,消費税,法人税,所得税の基幹3税を内生化し,それらの経済・財政への波及経路を構築した.また,構築したモデルを用いて,消費税率,法人税率を外生的に操作した際の主要変数の挙動を確認し,消費に対する影響を考察した.その結果,消費税の減税は消費の増加を強く促し,法人税の増税は消費税と比較して劣るものの,消費の増加に波及する可能性が示唆された.

  • 紀伊 雅敦, 玉置 哲也, 梶谷 義雄, 鈴木 達也
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_243-I_252
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    建築物の生産性は都市の密度や形状,住環境に大きく影響する.一部の土地利用モデルでは,都市政策の市街地密度への影響分析が可能だが,建築床の生産性の考察は不十分である.建築コストの実証研究では,文献により想定するモデルが異なり,建物階数が建設費に与える影響は必ずしも明確ではない.本研究では,土地利用モデルでの活用を念頭に,日本の建築着工統計の個票データに基づき,建物階数を考慮した床生産関数を推計した.その結果,床面積当たりの建設単価は高層ほど高いことが推計された.また,推計した関数を開発者モデルに適用し,観測される床地代,建物高さ,建築面積から,都道府県別の建設資本費用,土地地代を推計した.その結果,推計モデルは一定の妥当性を有することと,モデルで未考慮の制約が検証結果に影響する可能性を示した.

  • Marjorie QUIAOIT, Hideki FURUYA
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_253-I_268
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    Travel-related websites are considered an important part of tourism nowadays since they not only provide non-biased reviews of a destination or establishment for potential tourists, they are also used by tourism managers to understand the needs, wants and expectations of the market to further improve their offerings. However, only a number of researches have been conducted with regards to the latter. This research analyzes travelers’ comments and feedback about their Philippine trip to gauge the country’s performance as a tourism destination. A total of 1,717 travel reviews and blogs were gathered from three travel-related websites and analyzed using machine learning techniques such as Sentiment Analysis, Word2Vec Analysis, and Cluster Analysis. The findings revealed that reviews written about the Philippines are mostly positive, but it also points out the tourism components that tourists did not like and must be improved. Furthermore, proposed applications of the Word2Vec output for tourism promotion and development are presented and implications of the research findings in Philippine tourism are discussed.

  • 岩本 一将, 大石 智弘
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_269-I_278
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,地域の課題解決に寄与し,供用開始後に多くの人々に利用されている公共空間の整備事例としてロッテルダム市のWaterplein Benthempleinに着目し,事業実施のプロセスを分析することで,庁内の実施体制と地域住民との合意形成手法を明らかにした.研究手法として,文献調査に加えて事業の担当部局と設計者へのヒアリング調査を実施した.分析の結果,以下3点が本事例における特徴であることを把握した.1)部局間連携を前提としたプロジェクトチームを構築し,計画・設計から竣工までに一貫して関与した.2)ビエンナーレを開催することで質の高い事業計画のもとで官民連携を促進させた.3)空間設計と直接的に結びつく住民WSの手法が展開されており,事業目的に合致し,かつ地域住民の意見も汲み入れた設計を実現した.

  • 相馬 大, 兵藤 哲朗
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_279-I_290
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    観光庁は 2007 年より宿泊旅行統計を実施している.同調査は宿泊施設に直接,宿泊者数やその国籍などを問う公的な統計であり,特に近年のインバウンドの激増時期をタイムリーに捉えた調査として高い価値を有する.本研究は,宿泊旅行統計の個票を用いて,施設の住所情報を geocoding し,3 次メッシュ(約 1km四方)の空間情報を紐付けた『マスターデータ』を作成した.これにより,高い空間精度を利した各種の分析が可能となり,かつ,公開されている集計表では把握できない,多重にわたるクロス分析も容易に実現できた.本研究では,その事例として,単純な宿泊者数推移や,北陸新幹線の施設タイプ別の開業効果の推計,12 年間の宿泊者国内重心位置の変遷,宿泊施設に関する不均衡分析など,マスターデータの特長を活かした分析結果を紹介している.

  • 中川 嵩章, 真田 純子
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_291-I_302
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,大阪北港株式会社設立期の経営地開発計画とその背景について,文献調査に基づき,以下の知見を得た.1) 住友家は,島家や藤田家も併せて会社を設立することで,統一した方針で経営地を開発する狙いがあったと考えられる.2) 年代としては,民間企業である大阪北港株式会社の経営地開発計画が先行して,その後に大阪市の法定都市計画が決定したが,両者には幹線道路沿いの商業や運河及び公園の位置といった類似点がみられた.この関係をもたらした要因として,住友家の代表者らが大阪市臨時港湾調査会に参加し,官民協力の開発方針が合意に達していたことや,経営地計画当初から行政側の人物も関与していたことなどが明らかになった.これらの人物関係を総合すると,正蓮寺川両岸一帯の開発は行政側の考えも内包していたと考えられる.

  • 有田 建哉, 寺部 慎太郎, 柳沼 秀樹, 田中 皓介
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_303-I_312
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年,地方都市において都市の郊外化や衰退による都市機能の低下が問題視されており,地方の活性化を図るための手段として,観光産業が見直されている.しかし,観光により地方の活性化を実現させた事例は,寺社仏閣等の観光資源を元々保有する地域に多く,特別な観光資源を持たない地域での観光客誘致が困難な状況にある.そこで,地域の衰退に悩む地方自治体は,新たな観光資源の創出を目指して,「B 級ご当地グルメ」で観光客の誘致を呼びかけている.本研究では,B 級ご当地グルメが来訪者誘致に与える影響を定量的に示すことを目的とした.モバイル空間統計の情報を用い,グルメイベント後に来訪者数が増えるかどうかを確認した.その結果グルメの効果や,他の変数が来訪者数に与える影響を明らかにした.

  • 白柳 洋俊, 村上 悠斗, 倉内 慎也, 坪田 隆宏
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_313-I_320
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    無意図的なレベルで実行される注意の偏りが選好の形成に影響を及ぼすことが指摘されている.そこで本研究では,店舗ファサードを対象に店舗ファサード画像に対する無意図的な注意の偏りが当該画像の選好判断に影響を及ぼすとの仮説を措定し,同仮説を実験参加者に交互提示される2つの店舗ファサード画像の好ましさについての判断を要請する二者択一強制選好判断課題に基づき検証した.実験の結果,店舗ファサード画像に対して無意図的な注意が偏る程,注意の偏りが生じた店舗ファサード画像を好ましいと判断する傾向を有する,すなわち仮説を支持する結果が得られた.特に,その注意の偏り効果は,2つの店舗ファサード画像が同種の選好度を有する提示条件において発現することを明らかにした.

  • 落合 正行, 岡田 智秀, 初本 みなみ
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_321-I_331
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,わが国の港湾において機能転換が求められる遊休港湾の再生手法として,港湾の既存ストックである港湾倉庫を転用し活用する「倉庫リノベーション」に着目し,その促進方策を提示することを目的としている.本稿では,港湾を核とした「みなとまちづくり」を促進する「みなとオアシス」に登録された港湾のうち,「倉庫リノベーション」がみられた16港を対象に,「みなとオアシス」エリア内のリノベーション倉庫の活用特性を捉えるとともに,港湾ごとに関わる法制度として都市計画法と港湾法の2法からリノベ ーション倉庫の活用に与える影響を明らかにした.

  • 滝澤 恭平, 池田 正, 吉原 哲, 横田 樹広
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_333-I_344
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,都市部の小流域において,地域住民協働型のグリーンインフラ導入による地域ビジョンを策定するための検討手法の知見を示すことを研究目的とする.横浜市帷子川支流中堀川における住民との検討において,小流域区分,表流水の流向の把握,土地利用分水と雨水流出量およびその変遷の推定,下水道の位置や浸水ハザードマップ,市民の要望を整理したインタレストマップ作成を行い,地域におけるグリーンインフラ導入ビジョンとアクション箇所を示した.その結果,地域の小流域スケールの水循環と地域課題を重ね合わせる可視化手法,表流水の把握を通した小流域の環境デザイン,住民の関心が高いインタレストに焦点化した目標設定の検証プロセスが,グリーンインフラの協働型計画プロセスにおいて重要であることを考察した.

  • 藤原 昇汰, 鈴木 春菜
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_345-I_357
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    地域活性化は「地域の活力」の増大を一つの課題として進められてきたが,その内容は十分に検討されていると言い難い.「地域の活力」は住民の心理的側面に影響すると考えられる.本研究では主観的「地域の活力(Subjective Regional Vitality:SRV)」に地域イメージが与える影響と心理的側面への効果,それらに対して外出とメディア利用が与える影響について検討した.アンケート調査データによる分析では 5 つの地域イメージの因子が抽出され SRV への影響がみられた.SRV の効果として地域愛着やコミュニティ意識等,心理的側面へ正の影響がみられた.メディア利用が多い場合,地域イメージが曖昧で地方部において SRV を低くイメージする結果が得られた.また,外出とメディア利用の傾向により地域イメージの SRV への影響とその効果に差異がみられた.

  • 西脇 千瀬, 奥村 誠, 平野 勝也
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_359-I_373
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    昭和 8(1933)年の三陸津波後,国や研究者から現代の考え方と共通するような,複数の対策を組み合わせた総合的な津波対策の提案がなされた.そのうち最も推奨された住宅の高台移転は,被災後間もなく多くの地域で実施されたのに対して,その他の対策は予算化までに時間がかかり,限定的な実施にとどまった.本研究では,地元新聞記事,宮城県及び国の公文書等を用いて,高台移転とそれ以外の対策が予算化される経緯を追い,時間や実施範囲に差異が生じた原因を検討した.その結果,津波対策の予算化には,被災以前からの検討,効果の実証,地域振興という3点が影響を与えていたことを明らかにした.

  • 橋本 成仁, 今村 陽子, 海野 遥香, 堀 裕典
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_375-I_383
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年,家と職場以外の第3の居場所とされる「サードプレイス」という概念が浸透してきている.サードプレイスは,1989年に孤独感やコミュニティの欠如の低減のためにその必要性が提唱された.既存研究ではサードプレイスを持つことと幸福感に関連性があることを示したものはあるが,サードプレイスを持つ人の特徴や移動手段,どのようなサードプレイスが幸福感と関連するかについては明らかとなっていない.本研究では,サードプレイスを持つ人の特徴,どのようなサードプレイスが主観的幸福感と関連性があるのかを明らかにすることを目的とした.結果として,健康や友人・家族関係,余暇に満足している人や,外出を好む人がサードプレイスを持つことが示された.また,職場から訪れているサードプレイスを持つ人が主観的幸福感が高いことが示された.

  • 董 学温, 奥嶋 政嗣, 渡辺 公次郎
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_385-I_394
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,地方都市における行政サービス施設を対象として,住民側の観点から効率性と公平性の両面から評価して,施設配置の方向性を見出すことを目的とする.効率性は,施設までの移動時間と施設での待ち時間を合わせた所要時間で評価する.一方,公平性については,所要時間の最大偏差およびジニ係数の 2 指標により評価する.徳島市に適用した結果として,効率性は郊外部において低いこと,公平性は最大偏差のみでは不平等さを測定できない面があることを明確にした.一支所廃止の影響として,支所規模に応じて効率性の減少傾向があり,近隣に施設がある支所廃止では公平性低下は大きくないことがわかった.効率性重視と公平性重視では支所廃止の順位付けが異なり,中心部周辺の全支所廃止は,両面での大幅な低下に留意が必要であることを示した.

  • 木村 優介, 金井 俊祐
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_395-I_405
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,居住地周辺の街路の特性に着目し,それを既存のWalkability Index (WI)の地理的環境変数とともに分析することで,目的別の歩行活動に寄与する環境要因と,目的に応じた分析枠組みを明らかにする.構造特性と沿道特性により街路を分類し,日常と余暇の歩行時間に対して複数のモデルの回帰分析を行うことで,以下の成果を得た.(1) 日常歩行では既存のWIよりも大きな影響を示す街路特性があり,余暇歩行では街路特性のみで有意な結果が得られた.街路特性同士の組み合わせや,WIとの合成化を図ることで,よりオッズ比の大きな環境変数を構成できる可能性がある.(2) 日常歩行に対しては中央値により二値化した歩行活動量を用いる単一のモデルで分析できるが,余暇歩行においては歩行の有無と歩行量の多寡を分けてモデルを設定する必要がある.

  • 鈴木 温, 平沼 克, 古田 稜
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_407-I_416
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    現在,我が国では,1970 年代前後に開発された住宅団地の多くで,高齢化や人口減少が進行しており,商業施設の撤退や公共サービスレベルの低下等の生活の質の低下が生じている.また,それらの問題が相互に影響しあい,負のスパイラルが進行している.そこで,本研究では,負のスパイラルを解消し,団地の再生を図るための施策を評価するため,商業施設立地を内生化した世帯マイクロシミュレーションモデルを開発し,愛知県瀬戸市の住宅団地に適用した.その結果,商業施設の立地誘導施策だけでは,立地が持続せず,交通施策や住宅施策等と併せ複合的に実施することにより,持続的な効果が得られることを示した.

  • 鈴木 雄, 日野 智, 北澤 匠
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_417-I_429
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,高齢者の内面的特性に着目した.本研究で扱う内面的特性は高齢者の各種活動への参加を阻害すると考えられる心理的要因のことである.これらの高齢者の内面的特性は「人と関わる意識の弱さ」,「諦めの強さ」,「自発的行動の無さ」,「周りへの流されやすさ」,「人に頼れない意識の強さ」,「人見知りの強さ」の6要因であることを示した.高齢者の内面的特性に対し車やバスといった交通手段が影響していることや,内面的特性が趣味活動の頻度等を低下させる構造について示した.さらに,高齢者の活動参加を促進するために必要な施策や施設利用について,高齢者の内面的特性の種類による違いを示し,内面的特性を有している高齢者に対して,積極的に活動への参加の勧誘,高齢者の性格や健康状態を受け入れることが重要であることを示した.

  • 中居 楓子, 内生蔵 達也, 大窪 和明
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_431-I_447
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,津波リスクの低減と平常時の生活利便性を同時に考える最適居住地域配置モデルを提案し,両者を両立させる居住地域配置とトレードオフ構造を論じる.本モデルでは,津波リスクとインフラ維持費,交通時間の各費用を単独で考えたときに達成可能な最小値を低減ポテンシャルとし,それらの達成度が最適となるように土地の開発有無,人口,トリップ生成量を計画する.本モデルを高知県黒潮町に適用した結果,低減ポテンシャルの達成度を高めるためには居住地を集約する必要があることが示された.また,各目的の重要度に関する感度分析の結果,津波リスクを重視するとその他の費用が増えるというトレ ードオフが見られた.一方で,インフラ維持費と交通時間との間にはトレードオフは見られず,合意形成における譲歩可能な範囲も明らかになった.

  • ヴァンソン藤井 由実 , 本田 豊, 中川 大, 金山 洋一, 村尾 俊道
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_449-I_467
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    フランスの地方都市では歩行者専用空間の整備が進み,「歩ける中心市街地の賑わいの創出」に成功している.本研究では,道路空間の再配分と都市空間の再編成を経て,車に占拠された中心市街地を見事に再活性化させた経緯を,導入した公共交通手段,公共空間整備の内容と共に整理する.特に,道路空間の再配分を伴った都市空間の再編が,なぜフランスで可能であったのかその背景と要因を明らかにする.そして「歩ける都市・Walkable City」の実現を可能にした,環境保全と福祉を重視する国の法整備や,都市空間再編成政策を実行する主体である自治体の在り方を示す.また,自動車利用の利便性を無視せず,車道を削り歩行者と自転車専用道を増設する新しい都市空間再編成を受け入れてきた,フランス国民の意識の変化や大きな社会の流れを考察する.

  • 小林 秀佑, 中西 航, 堀越 光, 高山 雄貴
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_469-I_481
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    土地利用モデルのパラメータは,実用上の問題により,いくつかの段階に分けて推定・キャリブレートされることが主流になっている.しかし,理論的には一括で推定すべきパラメータを段階的に設定していることから,推定手法の信頼性は定かではない.そこで,本研究ではベイズ推定アプローチによりパラメータを一括で推定することを試みた.具体的には,設定したモデルに対して,パラメータ推定,変数選択,現況再現性の確認,反実仮想実験という土地利用モデルの計量分析における一連の手続きを行った.さらに,推定結果や従来手法との比較から,土地利用モデルのパラメータ推定法としてベイズ推定を用いることの優位性や将来性が示唆された.

  • 菊原 綾乃, 阿部 貴弘
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_483-I_499
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年,かわまちづくり支援制度やミズベリングプロジェクトの例に見るように,まちづくりの一環として水辺空間の再整備・活用が活発化している.都市河川においても,河川区域の土地を占用し,まちづくりに活用する事例が増えつつある.一方,近世の我が国では現在と比べ多様かつ日常的な水辺利用が行われていた.そこで本研究では,近世以来,様々な水辺利用が行われてきた神田川及び日本橋川を対象に,水辺と後背地まちの関係の再構築に向けた示唆を得るべく,水辺空間利用の事例とその変化の過程に着目し,それら変化の要因と要因の特徴を明らかにした.その結果,水辺空間利用の変化および要因について地域によって特徴があることを捉えた.

  • 中村 一樹, 大矢 周平, 田間 元博
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_501-I_509
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    近年は健康への関心が高まり様々な都市で歩行促進が進められているが,居住地の歩行環境が必ずしも良いとは限らず,その再整備は車依存都市ほど難しい.一方,日常生活では居住地以外の場所での活動時間も長く,歩行に適した環境は幅広く存在し得る.このような点を踏まえ,車依存都市の主な活動地である大型ショッピングモールでは,モールウォーキングという健康歩行の取り組みも始まっている.そこで本研究では,活動地として大型商業施設のショッピングモールを対象とし,居住地と活動地における歩行環境と歩行意識の関係を分析する.歩行に影響を与える幅広い要因について,モール来訪者にアンケート調査を行い,モールの歩行意欲と居住地の歩行環境の関係を分析した.この結果,居住地の歩行環境がモールの歩行意欲に影響することを明らかにした.

  • 浅田 拓海, 布広 祥平, 佐々木 博, 城本 政一, 亀山 修一
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_511-I_519
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    北海道では,救急搬送に60分以上を要する地域が多く,さらに,車両振動に注意が必要となる路面損傷箇所が広く分布する.本研究では,道内の三次救急搬送路線を対象に,救急車プローブ調査と路面性状調査を実施し,路面損傷が救急車の走行速度に与える影響を統計モデルにより分析し,複数の舗装修繕シナリオにおける搬送時間を推計した.まず,速度低下には,信号交差点などの道路構造に加えて,ひび割れ率,IRI,低温ひび割れ本数などの路面性状も影響することを明らかにした.搬送時間の推計では,低温ひび割れが1本以上ある100m区間を簡易補修すると現状から約2分短縮でき,また,高水準な路面管理を行う場合に比べ,損傷度が1.5倍増加する場合には,約4分以上の到着遅れが生じる可能性が示唆された.

  • 川崎 洋輔, 梅田 祥吾, 桑原 雅夫, 熊倉 大起, 大畑 長, 田中 淳, 吉川 真央, 鈴木 裕介
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_521-I_534
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,プローブ軌跡データと車両感知器を融合した交通状態推定手法を提案する.首都高速道路では,車両感知器を密に配置しているため,きめ細かな交通流が把握できる.しかし,全ての車両感知器を維持管理するには,コスト面で課題がある.一方,大量のプローブデータが,取得されており,活用法が模索されている.今後は,プローブデータを活用することで,現状の車両感知器を減らし,合理化を図ることが望ましい.よって,本研究では,車両感知器を間引いた状態を想定し,variational theory (VT)による交通状態推定手法を提案する.モデル検証の結果,交通管制の観点から,fundamental diagram (FD)をキ ャリブレーションすることで,VTは,現状の車両感知器と同程度の精度を担保することが確認された.

  • 中西 賢也, 吉田 純土, 森尾 淳, 石井 良治
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_535-I_547
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    最近,「まちなか」への注目が高まっているが,まちなかの賑わいを評価するにあたり,最も普及していると思われるデータが「歩行者通行量」である.近年の情報通信技術等の進展により,一定の条件はあるものの歩行者通行量についても比較的安価に大量のデータを取得できるようになってきている.本研究では,歩行者通行量を計測する機器としてレーザ ースキャナに着目し,歩行者に対する計測可能距離などレーザースキャナの基本的な計測性能について分析するとともに,実際のまちなかでの計測により道路幅員や通行量の大小がレーザースキャナによる計測に与える影響を評価した.また,従来の人手による計測やビデオ映像による計測の結果とも比較した.その結果,一定の条件下であれば,人手による計測と同程度の精度で計測できることが明らかになった.

  • 西垣 友貴, Jan-Dirk SCHMÖCKER , 山田 忠史, 中尾 聡史
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_549-I_563
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    観光の活発化に伴う混雑による,観光客や住民の不満が広がっている.しかし,経済効果を考慮すると,観光を発展させつつ問題を解決することが必要である.それに向けて,ビッグデータが注目されているが,種類ごとに長所と短所を持つと指摘されている.本研究では,複数のビッグデータを活用し,観光者数の推計を試みた.具体的には,メッシュ人口に基づく京都市の観光者数を,GPSやその他データを用いて,重回帰分析と階層線形モデルにより推計した.重回帰分析でも良好な結果が得られたが,月変動を考慮した階層線形モデルの方が良好な結果が得られた.本研究の結果,一日あたりの来訪エリア数に基づく, GPSデータの抽出が有効であるという知見や,観光エリア以外も対象とする時,GPS以外のデータの活用が有効であるという知見が得られた.

  • 岡田 将範, Shreyas PRADHAN , 氏原 岳人
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_565-I_572
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究では超小型モビリティ(MEV)実証実験を対象に,MEV の利用パターンに基づく低炭素性を評価する.モニター 34 名に MEV を 1 ヶ月間貸し出し,日常的に利用してもらった行動データを用いて, MEV 導入に伴う CO2 排出量を推計するとともに,MEV 導入前後における利用者の利用パターンの変化に基づき CO2 排出量の増減可能性を検証する.その結果,ガソリン車(GV)と比べて MEV を利用した場合の方が環境負荷を低減する可能性が高いことが示された.また,MEV貸出期間において,CO2 排出量の減少タイプのモニターが 79%であった.一方で,MEV を利用した新規行動の発生及び移動に伴う CO2 を排出しない交通手段(徒歩・自転車)から MEV への転換の発生等による CO2 排出量の増加タイプのモニタ ーが18%確認された.

  • 大橋 幸子, 野田 和秀, 平川 貴志, 小林 寛
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_573-I_581
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,交通そのものを制限する方法以外での道路における通過交通対策に着目し,通過交通に関する道路状況・交通状況の特徴を分析し,効果的と考えられる適用方法を示すものである.研究では,ETC2.0プローブ情報を用いて,複数のエリアを対象に,通過交通の発生に影響が大きいと考えられた旅行時間,経路の長さ,旅行速度を調査したところ,「エリア内通過に時間的優位がないケース」「エリア内通過が時間的優位であるものの,近道でないケース」「エリア内通過が時間的優位かつ近道であるものの,速度が低いケース」「エリア内通過が時間的優位かつ近道で,速度も高いケース」に分類でき,それぞれの特徴と効果的と考えられる対策を導いた.

  • 早内 玄, 有吉 亮, 齋藤 義信, 小熊 祐子, 中村 翔, 中村 文彦
    2022 年 77 巻 5 号 p. I_583-I_593
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/18
    ジャーナル フリー

    移動に伴う身体負荷は健康との相互関係が想定され,健康寿命延伸などの社会的機運のなか,今後の交通計画における不可欠な要素と考えられる.交通,健康の各分野に先行研究が確認される一方,対象とする疾患や説明する移動関連指標の関係について,系譜や課題が示されていなかった.本研究では,移動と健康との関係を扱った先行研究について,着目する健康関連指標,移動関連指標およびその組合せの観点から整理を行い,移動,健康双方の観点による今後の研究に向けた課題と展望を明らかにする.移動関連指標,健康関連指標ともに複数の研究で共通して採用される指標と独自に採用される指標に大別されること,顕在化した移動や健康状態のほかに意識や意向に関する指標も重要となりうる一方,標準化された測定手法の適用における課題などが示された.

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