土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
81 巻, 17 号
特集号(海岸工学)
選択された号の論文の164件中1~50を表示しています
特集号(海岸工学)論文
  • 石原 史隆, 木原 直人, 鈴木 和磨
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17001
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     最大津波水位の確率論的評価において地震発生に係わる不確実性を網羅的に考慮するには,大規模なパラメータスタディを実施する必要がある.そのため,個々のパラメータでの津波シミュレーションの計算コスト削減が望まれる.本研究では,津波シミュレーションの一部を補完・代替する手法として,断層パラメータと発生位置から沿岸水位を推定する深層学習(DL)モデルを構築した.仮想的な海底地形上を伝播する津波を対象に,断層パラメータが異なる2592ケースの津波シミュレーションを実施し,DLモデル構築のための基礎データを作成した.この基礎データを用いて構築されたDLモデルのハイパーパラメータの適切な最適化により,津波シミュレーション結果の補完手法として十分な精度と安定性を確保することが可能であることが確認された.

  • 朱家 佑弥, 小池 信昭
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17002
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     逐次型データ同化アンサンブルカルマンフィルタ・スムーザーを用いた予測では,観測点が多すぎるとかえって精度が悪化する場合もあり,どのように観測点を選択すれば予測精度が向上するか明らかにする必要がある.沖合観測点での予測が良ければ沿岸部でも予測精度が向上するという考え方で観測点の選択を行った.つまり,沖合観測点での地震発生から5分間の観測波形とデータ同化波形をRMSE・相関係数Rを用いて比較し,波形の一致度が悪い観測点は取り除いた.南海トラフの歴史地震と海底地すべりの同時発生の2ケースで検証した結果,DONET観測点での波形比較でRMSE0.14m以上となる観測点を除去した5分間のデータ同化で,沿岸部22地点での60分間時間波形のRMSEの平均値は0.06m・0.13m減少し,波形一致度に基づく観測点選択による精度向上が確認できた.

  • 小池 信昭
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17003
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     従来の逐次型データ同化アンサンブルカルマンスムーザーによる津波予測では,過去の地震の初期波源をアンサンブルとして用いてきた.本研究では,リアルタイム地震情報として地震発生直後にわかるマグニチュードと震央から地震の相似則によって求められる初期波源に摂動を起こして複数のアンサンブルを設定した.経験的情報のみ・リアルタイム情報のみ・両方の情報を考慮と3パターンのアンサンブル設定で,南海トラフのDONET観測点で地震発生から5分間のデータ同化を行い沿岸部18地点の予測を行った.1946年南海地震・1944年東南海地震・内閣府ケース3による津波で検証を行った結果,3ケースとも両方の情報による初期波源のアンサンブル設定の予測精度が一番良く,60分間時間波形のRMSEの18地点平均値で0.11m・0.25m・0.40m,従来よりも精度が向上した.

  • 松冨 英夫, 鎌滝 孝信, 有川 太郎, 今井 健太郎
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17004
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     2024年能登半島地震による半島北岸の津波が(1)道路損壊による現地調査の困難,(2)隆起海岸の防潮効果,(3)津波と波浪の痕跡高が同程度による両者識別の困難などでよく判っていない.本研究は半島北岸の津波把握を目的とする.そのため,航空写真などから津波痕跡と判断される地点を特定し,痕跡高を現地測量した.これを痕跡高既知地点でも行い,本手法の有効性を確認した.次に一様斜面域において岸沖方向に一様な海岸隆起による静的津波初期モデルを提案し,浅水理論に基づく理論解析を通して,静的上昇した水域の水は沖へ出るだけで,陸岸で波打たないことを示し,この現象を輪島港での実映像などで確認した.これらは半島北岸の津波の主体は他所からであることを示唆している.津波初期水位上昇量把握のため半島北岸での白化上端位(隆起量)分布も現地測量した.

  • 犬飼 直之, 永原 優衣
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17006
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     令和6年能登半島地震により発生した津波は新潟県沿岸域へ到達したが,直江津港などの各港で津波が観測された.津波到達時には港外よりも港内で位相差や波高増大の共振現象が生じた.本研究では能登半島地震による新潟県内の港湾の津波挙動特性を把握すると共に,既往津波の周期を調査し新潟県内の港湾で津波に共振する条件を把握した.まず津波が観測された港内外のデータから周期及び津波高を算出した.次に計算式より各港湾の3次モードまでの固有周期及び増幅率を算出した.更に数値実験で津波到達時の港内の水位変動状況を把握すると共に,周期を変動させ,各港の固有周期及び増幅率を算出した.最後に既往津波の震源域と新潟県沿岸域到達時の周期の関係を把握し,新潟県の各港が最も共振する津波発生場所や周期を把握すると共に解決策を考察した.

  • 渡部 靖憲, 宮崎 一聡
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17008
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     本研究は,新たに開発したモーメント直接求積モデルと乱流モデルからなる連成モデルを粒径分布をもつ粒子群の沈降拡散過程に適用し,粒子数密度,粒子速度,流速並びに渦構造の時間変化の特徴を議論するものである.沈降粒子群は,粒子運動とそれに誘導される流体運動によって生成された渦輪に捕捉され側方に広がりながらキノコ状の密度分布形状へと発達する.初期粒子体積率が小さいケースでは,沈降と共に分級化が進み,粒径分布が時空間的に変化する.渦輪の円周方向に配列した交互交代渦列が渦輪の回転に巻き込まれ,沈降過程を通して鉛直方向に伸張された3次元渦構造が発達し,粒子密度分布に大きな影響を与える.

  • 清水 裕真, 五十里 洋行, 後藤 仁志
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17010
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     山体崩壊津波や地すべり津波に代表される固相の水中突入による造波現象は,固相と液相の相互作用を伴い,固相の液相侵入に誘起される界面変形によって造波される.著者らは,界面の大変形問題を効果的に扱える粒子法型連成手法(MPS-DEM法)を開発し,粒子群水中突入波浪伝搬の2次元数値シミュレーションに成功したが,実際の地すべり津波は3次元的な現象であるため,モデルの3次元化が課題であった.そこで本研究では,同手法の3次元化を実施し,固相の水中突入による造波現象の再現性を確認した.基礎計算として,既往の直方体粒子群崩壊による造波実験および粒子群の斜面滑動突入による造波実験を対象に数値計算を実施した.計算結果から,2次元計算の場合と同様に,見かけ体積補正モデルの適用が再現性の鍵を握ることが確認された.また,提案するMPS-DEM法が3次元計算の場合においても良好な計算精度を示すことが明らかとなった.

  • 皆見 怜央, 豊田 将也, 福井 信気, 加藤 茂, 宮下 卓也, 森 信人, 金 洙列
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17013
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     愛知県濃尾平野を対象に,津波と河川流量の平水および豊水流量を考慮した河口域の複合浸水の計算モデル検証および,海面上昇が浸水特性に与える影響を評価した.想定津波として内閣府中央防災会議による断層モデル11ケースを用いた.モデルにおける津波到達時刻の誤差は最大8分であり,湾奥における6地点の平均津波高の誤差はいずれも1m以内であった.将来気候条件として,SSP2-4.5シナリオの2050年における海面上昇(0.2/0.5m)が浸水特性に与える影響を評価した.その結果,河川流量の違い(平水および豊水)はほとんど浸水特性に影響しなかった.しかし,海面上昇を考慮した場合では,浸水面積が最大51%,平均浸水深は最大41%増加した.さらに,満潮時の津波と海面上昇が重畳する場合は,満潮および海面上昇を考慮しなかった場合よりも浸水面積は約3.2倍に増加することがわかった.

  • 紺野 矩彦, 村上 智一, 秀島 栄三, 小笠原 敏記
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17014
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     濃尾平野などの海抜ゼロメートル地帯では,人為的な排水を必要とすることから,浸水が長期にわたることが懸念される.また,地球温暖化による高潮浸水のリスク増加が指摘されており,将来気候下での高潮による浸水継続時間を評価する必要がある.本研究では,的確な浸水継続時間を予測するため,排水による局地的な水位低下を質量保存則に考慮した浸水計算を行う.愛知県日光川周辺を対象として将来気候下での可能最大級高潮を想定した浸水計算を行い,従来手法と本手法による排水処理の違いが浸水継続時間に与える影響とその妥当性を検討する.日光川右岸では,浸水の解消に,従来手法では12日,本手法では20日近く要することが明らかになった.これは,浸水面積の減少に依存した従来手法が排水による水位低下を過大に評価したためと考えられる.

  • 小杉 淳悟, 柿沼 太郎
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17015
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     河川を遡上する津波は,陸上を遡上する津波に比べて伝播速度が大きく,遡上距離が長くなり,内陸部まで浸水被害を発生させる可能性がある.そこで,本研究では,河川流を考慮した河川津波の3次元数値解析を実施し,河川流の流速が,河川津波の津波高さや,沿川地域の浸水面積等に与える影響を比較検討した.一様断面を有する河道が海域に接続された単純地形を対象とし,河川流を生成して定常状態が得られて後,海域から津波を入射した.そして,河川津波の最大水位,伝播速度や浸水面積等を算出した.その結果,ここで設定した条件に対して,河川流の流速が大きいほど,河川津波の最大水位が増加し,伝播速度が低減した.また,浸水面積に関して,河川流の流速が大きいほど浸水域が広がるが,その領域は,河口付近に限定された.

  • 白 皓東, 米山 望
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17016
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     自然災害に起因する産業事故Natechの一つに,地震によって事業所から河川に流出した化学物質が,津波の遡上によって拡散し,二次的な被害を引き起こす現象がある.本研究では,既往研究に基づいて,密度流および津波遡上の影響を考慮した平面二次元・三次元ハイブリッド数値解析を実施し,水平・鉛直方向において化学物質の分布を可視化し,流出された化学物質の密度および流出位置の違いが拡散挙動に及ぼす影響を評価した.

     その結果,密度が高いほど密度流の効果が強まり,化学物質は下層へ拡散しやすく,河床地形の影響を強く受けることが明らかとなった.また,流出位置にかかわらず,化学物質は上流右岸に集中する傾向が示された.さらに,津波来襲後のハザードマップを作成し,浄水施設への影響評価の高度化に資する知見を得た.

  • 橋本 貴之, 本田 隆英, 織田 幸伸
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17017
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     2011年東日本大震災においてヘドロや底泥を巻き込んだ黒い津波が確認され,津波荷重に及ぼす影響を検討するには,黒い津波の発生メカニズムの解明が必要となる.本研究では,津波による底泥の巻き上げ特性に着目して,粒径が数mの底泥模型を用いた移動床実験を実施し,流れによる流下方向の圧力勾配と底泥含水比の鉛直分布から浸食厚を整理した.また,底泥模型の降伏せん断応力との比較から,流れによる底泥の破壊限界の推定を行った.その結果,底泥の破壊限界は,津波外力である流れの底面せん断応力と底泥の抵抗力である降伏せん断応力の関係から推定可能であることが明らかとなった.さらに,流れの底面せん断応力が大きいほど底泥は顕著に浸食する結果が得られ,津波作用下における底泥浸食厚に関する推定式を提案した.

  • 後藤 友亮, 鶴田 修己, 千田 優, 鈴木 高二朗, 國方 康史, 山野 俊介
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17019
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     巨大津波の来襲時には防波堤の堤頭部周辺で大規模な洗掘が生じ得る.消波ブロック被覆堤では,そうした洗掘を起因とする消波工の不安定性とそれによる堤体滑動の可能性が既往の研究で報告されているが,その効果的な対策方法は未確立である.本研究では,被害の起点となる海底地盤とマウンドの洗掘を直接防ぐため,マウンドから砂地盤へ広範囲に直接設置した被覆ブロックの安定性及び洗掘対策効果を,大規模実験を通して検証した.高重量の被覆ブロックを用いた実験の結果,砂地盤の非被覆領域に発生する洗掘孔の中心へブロックが面的に滑動・誘引される被災メカニズムが明らかとなった.そのため,洗掘孔の最深部まで連続的に被覆する事で,洗掘抑制効果が急激に高まる事を示し,非被覆領域の洗掘孔と関連させたブロックの効果的な設置範囲を検討した.

  • 梅村 凜, 大西 左海, 片山 裕之, 三浦 成久, 鈴木 崇之
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17021
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     着床式洋上風力発電モノパイル基礎の洗掘対策として,袋型根固材やフィルター層の設置が検討されているが,維持管理や撤去の観点から長期的な効果の検証が必要である.また,移動床実験では,模型縮尺に合わせて粒径を小さくした底質が,地形変化や地盤物性に影響を及ぼすことが懸念される.本研究では,細粒砂(d50 = 0.05mm)を用いた波・流れ共存場の移動床実験により対策工の長期安定性を確認した.また,取得データから模型縮尺や底質粒径が洗掘現象へ及ぼす影響について検討した.その結果,袋型根固材の上端が地盤面まで沈下すると洗掘が緩和され袋型根固材が安定し,その場合ではフィルター層の有無による洗掘現象の違いは見られなかった.また,底質粒径が小さい場合は,外力が大きいと粘性地盤のような侵食地形を示すことに留意する必要がある.

  • 片山 裕之, 梅村 凜, 三浦 成久
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17022
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     Sumerら(1992, 2001a)の無次元最大洗掘深の研究を援用し,最近、洋上風力モノパイル基礎局所洗掘の研究が多く行われている.Sumerらによると最大洗掘深はKC数や波流れ無次元流速Ucwによって表されるが,内在する実験条件,特に底質粒径,実験縮尺,モノパイル径などの影響も実際にはあると考えられる.

     そこで,前述のSumerらの他,最近の洋上風力を対象とした洗掘実験に関する国内外の論文をレビューした.実験は,実験縮尺1/9~1/130,底質粒径0.06~0.58 mm,モノパイル径1~130cmと広範囲の条件で行われており,波・流れによる無次元最大洗掘深は,Sumerら(2001a)がKC数との相関を示しているが,多くの実験で無次元最大洗掘深が大きい範囲でSumerら(2001a)のKC数が過大評価となる可能性が示唆された.

  • 辻本 剛三
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17024
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     自然界における流動は,より効率的に流れるように地形を変化させるというコンストラクタル法則に基づいて,遡上帯におけるuprush時とdownrush時の漂砂量が動的平衡状態にあると仮定し,底質粒径と前浜勾配の関係式を理論的に導出した.この式に既存の遡上高とセットアップ高の算定式を適用して導出された簡略式を波高,surf similarity parameter,波長の関数で統一的に表示した.現地の前浜勾配や底質粒径に直接関与した波浪等の特定は困難であるため,波高・前浜勾配結合確率密度関数を新たに提案し,前浜勾配や底質粒径の推定を行った.

     確率密度関数による前浜勾配の期待値は波高の増大と共に減少する現地と同じ特徴を示し,分散値も同様に小さくなった.前浜勾配の期待値は波浪が特定できる実験値と良好に対応したが,現地観測値は波浪の特定が課題である.前浜勾配の期待値から推定した底質粒径は事前粒径の影響が顕著であり,細粒子から細粒子の変化の対応は良好であるが,粗粒子から細粒子の変化の説明は今後の課題である.

  • 田﨑 拓海, 原田 英治, 後藤 仁志
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17025
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     海浜内部の水位は前浜の漂砂過程に影響するため,これまで遡上波と海浜内部の間で生じる浸透・滲出流と前浜漂砂の関係が整理されてきた.浸透流の影響は漂砂素過程を追跡した数値解析によっても検討されたが,海浜内部の不飽和帯の水分保持状態は無視され,サクションにより生じる付着力の漂砂過程への影響は十分には明らかにされていない.

     本研究では,粒子法固液混相流モデルに液架橋力モデルを組み込み,飽和−不飽和浸透流解析と結合する.不飽和帯を考慮した前浜漂砂素過程の二次元解析から,不飽和帯が遡上距離および漂砂量に及ぼす影響を検討する.遡上波による汀線更新に海浜の水分保持状態が影響し得ることを示し,また,サクションに起因する砂要素間の付着力により強化された要素間結合が,遡上波先端部の漂砂量を低減させることを示す.

  • NICOLAS Eko Saputra , 重松 孝昌, 辻本 剛三
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17026
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     水流による土砂の輸送は,土砂を含む流体の密度あるいは土砂濃度の輸送方程式を解くことによって推定されることが多い.しかし,拡散係数のチューニングによって実現象の再現性を確保しようとするなど,必ずしも物理的メカニズムに即した計算手法とは言えない側面がある.一方,土砂に作用する流体力に基づいた土砂輸送モデルの提案も散見されるが,低濃度を仮定した流体から土砂粒子への一方向(one-way)モデルが多い.個々の粒子に作用する流体力を計算するような離散体モデルもあるが,計算負荷が極めて大きいなどの課題を有している.

     本研究では,このような土砂輸送問題に対して,土砂体積率や流体力を考慮した混合体モデルの適用性について検討するものである.モデルの適用性はダムブレーク流れを対象とした検証を行っている.

  • 岩佐 明直, 加藤 茂, 豊田 将也
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17027
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     干潟の保全や縮小,消失への対策を考える際には,局所的な土砂動態の解明も重要である.本研究では,約20時間の現地観測(流速,水位,濁度,水中カメラ)で得られた観測結果と現地土砂試料の粒度分析結果を用いた浮遊砂移動量の推定を行った.水中カメラ画像では観測期間中,砂漣は一方向に移動する一方で,浮遊砂は往復運動を繰り返し,瞬間的には砂漣移動方向とは逆方向にも大量の砂移動が発生していることが確認された.また,現地試料の粒度分析結果を参考に粒度区分毎の砂移動を判定し,総浮遊砂移動量を推定したところ,実施した2回の観測で1回目は5.90g/m,2回目は-51.51g/mと算出された.瞬間的な浮遊砂の移動方向が砂漣の移動方向と異なるだけでなく,海象条件によっては観測期間全体での移動量も砂漣の移動方向とは異なる可能性が確認された.

  • 宇多 高明
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17028
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     フィリピンでは,汀線上に海岸道路を造って交通渋滞を解消し,高潮対策を行う手法が採用されているが,これにより緩衝帯としての前浜の消失が進んでいる.また,各地で沿岸漂砂阻止による海浜変形も著しい.この種の問題について調べるために,2024年8月,Luzon島南部のAlbay Gulf沿岸に流入する4河川の河口付近,およびSan Roque海岸で現地調査を行った.この結果,上記の河口ではいずれも突堤伸長による南向きの沿岸漂砂阻止による汀線後退が著しかった.また,南部のSan Roque海岸は,汀線への法線に対し左回り(北側)から波が入射する条件を有するが,その汀線に海岸道路が造られたため,漂砂の阻止と砂浜の消失が進み,結果的に道路護岸からの越波が著しくなり,長い区間を消波工で防護せざるを得ない状況となっていた.問題の解決には,根本的意味からの政策の修正が必要と考えられる.

  • 宇多 高明, 露木 靖, 原田 太輔, 五十嵐 竜行, 水野 静
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17029
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     沼川第二放水路を対象として,フラッシュ放流時の流況,洪水時における放水路付近での水位変化,東端の1号水路上流端のゲートを開放または閉鎖した条件下での,波による函体内堆砂状況を現地実験により調べた.吐口前面での堆積状況については,近傍の2地点に定点カメラを設置し,10分間隔のタイムラプス写真により観察した.函体上流端のゲートを閉めた状態では,波のうちあげ時,函体吐口前に湛水池が残されたことから,函体内への砂礫の侵入を防止できることが分かった.一方,ゲート開放状態では,吐口前面の湛水池は砂で埋まったものの,現地実験時の作用波高が約2mとそれほど高くなかったため,与えられた潮位波浪条件では吐口の閉塞は免れた.波高がさらに増大した場合の函体内堆積については課題として残された.

  • 五島 渚, 武若 聡
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17032
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     日本の砂浜の侵食が進行しており,将来の海面上昇でさらに加速することが懸念されている.効果的な対策を考える際にはこれまでの汀線変化の把握が不可欠であり,全国の砂浜を定期的にモニタリングする手法が求められる.本研究では,日本の砂浜海岸(806海岸,総延長約4,800km)を対象にオープン衛星画像から過去から今日の汀線位置を自動取得するシステムを構築した.Google Earth Engineと連動して衛星シーンの検索,汀線抽出を行うCoastSatに砂浜海岸の位置情報を与え,全国の汀線データを自動取得した.オープン衛星データの蓄積が始まった1980年代と2024年の汀線変化を調べ,前進・後退の動向を既報と比較した結果,傾向は概ね一致し妥当性が確認された.

  • 船木 陽翔, 宇多 高明, 野志 保仁
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17033
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     中津干潟に流入する舞手川河口には,絶滅危惧種カブトガニの産卵地があり,また河口の後背湿地は中津干潟に棲息する多様な生物の棲息地であることから,環境保全上重要な場所となっている.この河口を対象として,河口の安定化のために行われた河口導流堤の建設後の汀線変化と,その背後の砂丘地の変遷を空中写真に基づいて調べた.また,2024年4月には,河口周辺の干潟および砂州のUAV測量を行うとともに,RTK-GNSSによる砂州の縦断測量と底質採取を行った.これらに基づき,干潟上から運ばれた砂が干潟縁辺部に堆積することを促進しつつ,河口部の海浜と植生帯,およびカブトガニ産卵地を広げる手法について述べた.

  • 宇多 高明, 長谷川 準三, 渡邊 一政, 小野 能康, 横田 拓也, 五十嵐 竜行
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17034
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     菱沼海岸地区(以下,菱沼海岸)では従来型養浜に代わり,指定区域(designated area)での連続養浜(サンドエンジン養浜)により砂浜の回復を進める手法が採用され,これによる養浜工事が2024年より開始された.この方法に関する既往検討は,モデル計算により行われたものであり,実際にサンドエンジン養浜を実施した場合の実測地形変化によるモデルの検証は行われていなかった.菱沼海岸では実際にサンドエンジン養浜が行われたことから,Narrow Multi-Beam(NMB)測量,UAV映像による斜め写真などに基づいてその効果を解析するとともに,実測データに対してBGモデルの適用を行った.その上で,養浜材の粒径を変化させた場合の養浜効果の相違について計算により検討し,サンドエンジン養浜の効果について調べた.

  • 鵜﨑 賢一, 宇田川 明人, 井上 大貴, 関根 丈, 池畑 義人
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17035
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     RRIモデルと著者らによるgRSM,WDM-POMを連結し,山地・河川流域と沿岸域の広域土砂動態モデルを構築した.さらに構築モデルを山国川・中津干潟に適用し,2017年出水時の現地観測データを用いて妥当性検証を行った上で,2012年水害時の土砂動態の推定を行なった.そして,d4PDFデータを基に将来的なハイエトグラフを推定し,ハイドログラフを計算して干潟の土砂動態の将来予測計算を行った.まだ実測データの取り込みによる定量的な高精度化は行っていないが,現段階でも定性的には妥当性検証がなされ,2012年出水でもある程度の泥質化が生じていたことが推察された.将来予測計算においても,2012・17年水害時と類似した泥質濃度と含泥率の空間分布が認められ,河口東側において泥質の高濃度域が形成された.

  • 鵜﨑 賢一, 井上 大貴, 宇田川 明人
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17036
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     沿岸域の土砂動態計算において河川からの土砂供給は重要な境界条件であるが,河口域は複雑な流動場である為,数値計算においては河口に境界設定をせずに,非感潮域まで境界を上げることが効率的であると考えられる.本論文では,著者らが開発してきたWDM-POMを用い,単純地形ながら2017年の山国川水害時の境界条件を用いた数値計算によって,河川境界の位置による土砂動態の差異について検討を行った.その結果,非感潮域境界計算では,水害規模の出水時では全面流出であるものの流量が低下すると塩水楔の侵入が認められた.また,水表面での淡水・濁水流出には大きな差異はなかったが,中層以深では河道内外で大きな差異が認められ,非感潮域まで河川境界を上げるか,河川・沿岸域を一体的に解くことが重要であることがわかった.

  • 宇多 高明, 柴田 直紀, 大井戸 志朗, 山下 さくら, 花田 昌幸
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17037
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     空中写真をもとに東部遠州灘海岸の砂浜面積の変化について調べた.解析の結果,2010~2024年には天竜川河口~福田漁港間(区域I)と福田漁港~菊川河口付近(区域II)では,海浜面積がそれぞれ9.3万m2,8.9万m2減少したことが分かった.これに漂砂の移動高12mを乗じ,14年で除すと,区域I, IIでの土砂量の減少割合は7.9万m3/yr,7.6万m3/yrとなり,合計15.5万m3/yrの速度で土砂量が減少したことが分かった.区域Iの海浜面積の減少は,天竜川からの供給土砂量が減少し,東向きの沿岸漂砂とのバランスが失われたためと考えられる.一方,区域IIでは沿岸漂砂バランスが失われたことに加え,内陸へ向かう飛砂により土砂損失が起きた.さらに調査区域東端の区域IIIでは,1962~2010年に海浜面積が50.1万m2減少したため,海浜砂が枯渇状態となり,飛砂損失も起こり得ない状態となった.

  • 新見 将輝, 楠原 啓右, 市川 真吾, 宇多 高明
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17038
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     アフリカ大陸西端にはDakarの半島があり,その南東側にはフック状汀線が伸びる.半島先端より南東38kmのNdayaneでは港湾建設が予定され,影響予測の必要性が生じた.そこで現況条件を調べるために,衛星画像による汀線変化の解析と現地調査等を行った.調査地はNdayaneと,その北西23kmのRufisque,南22kmのSalyである.Rufisqueでは波は汀線への法線に対し乾季には右回りから,雨季にはやや左回りから入射していたが,波浪の強弱に応じた岸沖漂砂による汀線変化が顕著であった.Ndayaneでは沿岸漂砂による季節的汀線変動が認められたが,南向き沿岸漂砂がやや卓越していた.一方,Salyでは南向きの沿岸漂砂が卓越していた.以上より,Ndayane周辺では波向の季節変動による汀線変動はあるが,防波堤建設による影響は大きくないと判断された.

  • 渡邊 国広, 滝本 隆也, 宮地 憲一
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17040
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     高知海岸南国工区では離岸堤群の建設によって汀線付近は安定化したが,物部川からの土砂供給を回復させた場合の効果発現に要する時間は不明であるため,土砂の輸送実態を把握する目的で深浅測量の各測線における海浜断面積の時系列変化を調査した.その結果,当該海岸では沖合へのバーの形成とバーの岸向き移動が繰り返されており,バー岸側のトラフに土砂が堆積する傾向にあることがわかった.また,土砂輸送が汀線付近と沖合で異なり,汀線付近については,後川放水路を始めとする4本の放水路によって漂砂下手への輸送が抑制されている.沖合については,第二放水路西側に顕著な堆積が見られ,高知新港東側の約1.6kmの範囲においても緩やかな堆積傾向にあるものの,東沢放水路を挟んで約1.6kmの範囲では断面積の減少が見られることが明らかになった.

  • 堤 雄大, 荒木 進歩
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17041
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     津波により石油貯蔵タンクが破壊されると,広域に津波火災を発生させうる.津波による石油貯蔵タンクの挙動は,内部に流体が存在する構造物と,構造物外部の領域の流体の相互作用による.本研究の目的は,このような複数の流体挙動と衝突を伴う構造物の運動を同時に解析可能な手法を確立することである.

     数値流体解析(CFD)ソフトウェアのOpenFOAMと物理エンジンソフトウェアのBulletを統合し,流体構造連成解析(FSI)モデルの開発を行った.OpenFOAMでは重合格子法を埋め込み境界法を用いて改良し,衝突近傍の流体挙動を適切に解析可能とした.また,Bulletではタンク内部の流体による影響を質量分布の変化として与えるよう改良した.これによりタンクの挙動を正確かつ安定に計算することができる.

  • 髙本 昌幸, 米山 望
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17042
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     構造物に津波が作用する最中に,余震動の発生が考えられる.しかし,現行の設計基準では,これらの重畳作用を考慮していない.この複合作用に対する設計手法はいくつか提案されているが,解析手法は現時点で確立されていない.そこで本研究は,流体剛体連成解析手法にポーラスボディモデルを導入し,地震動の作用を考慮した手法により,津波と余震動の重畳現象に適用可能か検討した.その結果,津波の越流の有無に関わらず,津波と余震動の重畳時の作用力の最大値は,設計値と同程度のため,本解析手法は,地震と津波の重畳現象に対して,構造物に作用する力や変位量を定量的に評価可能と考えられる.また,津波と余震動の重畳時の作用力は,各作用が単独で作用する場合の作用力の和で表現できることが解析的に確認された.

  • 山田 康介, 上田 伊吹, 安田 誠宏
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17043
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     東日本大震災では,津波により海岸堤防裏法尻の地盤が洗掘され,堤防が破堤し,浸水被害が拡大した.津波による海岸堤防の被災過程を解明できれば,海岸堤防の粘り強さの強化に繋がる.本研究では,オープンソース流体解析コードDualSPHysicsを用い,堤体を移動床として海岸堤防の被災過程の再現計算を行った.計算の結果,津波による洗掘で基礎工が支持力を失い,堤体と被覆工が一体となって滑動した.それに伴って,法面に隙間が生じ,津波によって被覆工が引き剝がれた.しかし,すべての被覆工が押し流されず,最大洗掘深も実験の半分程度に留まり,被覆工の離脱過程や洗掘過程に対して課題が残った.

  • 後藤 航大, 遠藤 徹
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17044
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     現地踏査による干潟の生物相調査は労働コストの観点から,多地点かつ頻度の高い観測が困難である.本研究は,干潟における生態系構造の頂点に位置する鳥類に着目し,鳥類の飛来状況から干潟環境を簡易的にモニタリングする手法の可能性について検討した.大阪南港野鳥園人工干潟の複数地点と近木川人工ワンドで定点カメラを用いて鳥類の飛来状況を撮影するとともにベントスや底質環境の調査を季節別に実施した.ディープラーニングによる鳥の自動検出モデルを構築し,定点撮影画像から鳥類の種類・飛来数・位置情報を取得した後,鳥類の飛来状況とベントスの分布および底質性状と冠水状況の関係を整理し,決定木解析により鳥類が飛来する環境条件が明らかとなった.これにより鳥類の飛来状況から干潟環境を簡易的にモニタリングできる可能性が示唆された.

  • 吉田 光寿, 渡辺 謙太, 棚谷 灯子, 茂木 博匡, 伴野 雅之, 桑江 朝比呂
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17045
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     日本のGHGインベントリでは,藻場によるCO2吸収量の正確な算定が求められている.そのためには,全国規模での藻場の現存量を高精度,広範囲かつ十分なデータ密度で計測・解析することが求められる.しかし,従来手法の潜水調査では広域計測が困難であり、また衛星画像・空撮画像解析では現存量の把握は困難である.本研究では,グリーンレーザースキャナを搭載した長時間飛行可能なハイブリッド型UAVを用いて,北海道コムケ湖の全域(約256ha)の点群データを取得し,藻場の現存量を推定した.取得データをノイズ除去し,水面,植生,海底面にラベル付けした上で,複数の空間解像度(1–50m)において,被度を考慮した空間体積を算出し,実測湿重量と比較した.その結果,空間体積と湿重量に正の相関が認められ(20mでR2=0.85),湖全体の湿重量を高精度に推定できた.

  • 日比野 忠史, 西内 大智, 木下 裕貴, 前迫 優輔
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17046
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     海水中の電極電位は海水のバルクのORPを示す.海水中の還元物質(Red)が電極に接すると電極表面の酸化反応が電極電位を低下させる.Redの酸化はDOを消費するため,電位低下は貧酸素状態を表す.電極電位の連続測定Redの遡上現象や生物生息場の貧酸素化過程を把握でき,カーボン電極電位は生物活動に応答し,生物生息環境の評価が可能である.本研究では干潟遡上水の反応電位の示す化学的特性とDO,塩分,水温変動の関係から干潮域の物理的,生物的現象を結び付けるため,水質測定装置を干潟護岸上に設置し電極,DO計,塩分水温計による数ヶ月間のモニタリングを実施した.この結果,金属電極は海水ORP,カーボン電極は電極吸着生物の活性を表すことを確認し,干潟での水質は潮汐の影響が支配的要因であることを明らかにした.

  • 安田 誠宏, 上久保 颯大, 松下 紘資, 大熊 康平, 西村 博一
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17049
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     各種消波ブロックの安定性が異なることは周知の事実だが,越波低減効果の違いについては考慮されておらず,合田の越波流量算定図が用いられている.EurOtopでは各消波ブロックのラフネスファクターγffを用いて越波流量を求める方法が提案されている.本研究では,著者らの一連の研究と同じ波浪条件で越波実験を行い,γfを求めた.その結果,同じブロックであっても海底勾配や消波工の断面形状が異なるとγfに差が生じることがわかり,EurOtopのγf算定式ではブロックの越波低減効果を十分に表せないことがわかった.そこで,同じブロックだが被覆形式や天端幅,層厚など断面形状が異なる実験結果に対し,層厚面積を用いた補正を適用した.その結果,補正後のγfはほぼ一致し,ブロックの性能を統一的に評価できる可能性が示された.

  • 和田 咲里菜, 石川 仁憲, 小峯 力
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17053
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
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     離岸流は日本の海岸での溺水事故の自然要因として48%を占めており,空間的,時間的に変化する離岸流を認識することは難しいと言われている.本研究では,対象海岸,発生場所,気象海象条件や視点が異なる8ケース,4タイプの離岸流に対し,Virtual Reality(VR)と視線解析を用いて,離岸流タイプ別の認識能力や知識有無による認識の違いを定量的に明らかにした.その結果,波が静穏時に発生するCalm Ripや突堤付近に発生するFixed Ripの認知度は低く,認識し難い.波高が低い場合のFlash Rip(断続的,突発的に発生)は認識し難い.恒常的に発生するPermanent Ripでは,離岸流を俯瞰できる視点が認識し易い.離岸流の知識を有する者でも,Calm RipやFixed Ripを認識することは難しく,Flash RipやPermanent Ripに対しても,必ずしも自信をもってより早く認識できるとは限らないこと等がわかった.

  • 松本 浩幸, 荒木 英一郎, 西田 周平, 有吉 慶介, 町田 祐弥
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17054
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     2024年に南海トラフの海底に2台の圧力計を設置した.圧力計は,「地震・津波観測監視システム(DONET)」に接続して,海底地殻変動観測点として連続観測を実施している.海底圧力計の長期観測における課題のひとつに機器ドリフト(時間とともに出力値が校正値からずれる現象)がある.本研究では,現場観測データを解析して圧力計の長期安定性を考察した.潮汐解析の結果,圧力計の機器ドリフトは指数関数と線形関数の足し合わせで近似でき,線形成分については1日あたり−0.0066cmと+0.0236cmと推定された.圧力計は,事前に重錘形圧力天びんから20MPaを20日間連続加圧して,機器ドリフトを評価した.室内実験による機器ドリフトは現場観測と比べて2∼20倍程度過大評価されたが,機器ドリフトが変化する方向は調和的なことから,室内実験が機器ドリフトの予測に有効なことを示唆する.

  • 藤田 直也, 石川 仁憲, 島田 良, 和田 咲里菜
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17055
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     離岸流事故を防ぐため,AIによる離岸流検知システムが5つの海水浴場で稼働しており,各海水浴場では離岸流事故が大幅に減少している.一方,システムで通知される情報は,画角が固定された定点カメラの撮影画像であり,利用者が離岸流の発生場所を空間的に認識することが難しいという課題があった.そこで,AIが検知した離岸流エリアを可視化するARアプリケーションを開発した.本研究は,鎌倉市中央・材木座海岸を対象に,隣接海岸で構築したAIモデルの適応性を確認した後,AR表示の精度検証として,画像データからGPS座標への変換精度,ARで表示される離岸流エリア位置の精度を調べた.その結果,座標変換誤差は4.1m,AR表示位置の誤差は9.9mであり,AI検知とAR表示の離岸流エリアの中心点の誤差は最大約14mとなり,現地海岸で発生する幅20~30mの離岸流に対して妥当と考えられた.

  • 冨井 天夢, 西山 哲, 吉田 圭介, 冨井 隆春, 佐野 ひかる
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17057
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,グリーンレーザ光を照射するスキャナを搭載したUAVについて,浚渫土砂処分場の工事におけるモニタリングへ適用することを検討した実験の考察をまとめたものである.実験により,レーザ光の受光感度を増すことにより,グリーンレーザ光の測深能力は向上するが,その一方で飛行高度を低くするとノイズの影響で測深能力および測量精度を低下させることにつながることが明らかになった.また長時間航行可能なUAVを使った高密度な航路による測量を実施することで,浅い箇所のデータ欠損を防ぎ,さらに測深能力の向上を図ることができることも明らかにした.これらの知見に基づいてUAVを使った測量を実施し,干潟造成候補地の施工管理における3次元データの活用法を示すことができた.

  • 大西 左海, 出口 博之, 片山 裕之, 佐藤 愼司, 村井 亮介
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17058
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     土佐湾に面した高知県安芸漁港では,台風来襲時に沖防波堤において数10m規模の波の打上げが生じることが知られている.本研究では,漁協建屋内に設置した固定カメラによる連続撮影を実施・継続中であり,暴浪時を含む撮影映像から,打上げ高の時空間分布の把握を行う手法について検討した.その結果,2024年台風10号来襲時には,沖防波堤天端から発生した最大約40mに達する打上げ現象と,1時間に最大約80回の10m以上の打上げが観測された.撮影した打上げ映像を用いて画像解析による検討を行った結果,コマ画像間の輝度差を基に二値化する従来手法により,打上げ高の時空間分布を概ね把握できることを確認した.一方,空と海の境界が不明瞭な暴浪時における打上げ水塊の輪郭は同手法によって捉えることが難しく,映像の目視確認による補正が必要であった.

  • 白井 知輝, 伴野 雅之, 有川 太郎
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17060
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     現地測量の代替として,衛星画像の汀線モニタリングへの活用が望まれる.本検討では,衛星画像からの汀線自動検出ツールCoastSat(Vos et al., 2019)を用いて,1984~2024年における茨城県波崎海岸の汀線位置の推定とその解析を実施した.HORSにおける現地測量値との比較の結果,CoastSatによる汀線位置推定のRMSEは11.3mであった.また,4ヶ月平均した汀線位置のRMSEは6.77m,1年平均では4.66mで,季節変動から長期トレンドまで幅広い時間スケールの汀線変動を検出可能であることが示唆された.実際,波崎海岸全体に対する解析からは,本海岸の主要な汀線変動特性を捉えることができた.以上から,波崎海岸における長期汀線モニタリングに対するCoastSatの利用可能性が示され,今後,他海岸に対しても適用が期待される.

  • 柿沼 太郎, 中島 熊一郎
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17061
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     日本では,少子高齢化による物流の2024年問題等が起き始めているにも関わらず,港湾の荷役設備の進展が国際的に見て遅れている.港湾の発展と活性化は,海岸・港湾工学の重要なテーマの一つである.そこで,本研究では,日本の自動荷役分野の取組を示してから,ACT(自動化コンテナターミナル)の設置ポテンシャルを評価する手法を提案した.クレーンや搬送車が自動化されたACTでは,運用効率が飛躍的に向上し,労働力不足の課題解消が期待される.ACT設置ポテンシャルの評価項目を各港湾の需要と供給,地理的条件,経済効果及び陸側交通条件の四つとし,地方港湾の鹿児島港及び志布志港と,大都市近傍の名古屋港及び東京港を例に,具体的な評価を試みた.本手法は,物流以外の様々な港湾機能の評価にも応用できるであろう.

  • 平山 克也, 横瀬 介人, 濱野 有貴
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17063
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     離島への人や物資の輸送に欠かせない離島航路を支える離島港湾では,常時波浪に対し十分な静穏度の確保が求められる.ここで,静穏度を定量評価する荷役稼働率は不特定多数の船舶の寄港を前提に算定されるが,寄港船舶が限定される離島港湾ではこの前提が成り立ち難い.そこで,真に求められる離島港湾の整備水準としての静穏度を定量的に把握するために,本研究では港外で定義される航行限界波高を導入して荒天時に離島航路が運休する回数を荷役稼働率の算定対象から除外し,寄港船舶を対象とした条件付き荷役稼働率を算定する手法を新たに提案した.

     この値が100%未満では港内波高を低減する外郭施設等の整備または荷役限界波高の緩和,100%では運休回数を削減できる対象船舶の航行性能の向上,等による荷役稼働率や就航率の改善が想定される.

  • 足立 友輝, 安田 誠宏, 森 信人, 馬場 康之, 加藤 茂, Cahyo Nur Rahmat NUGROHO , Raden Indr ...
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17064
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     定点カメラを用いた自然海岸の汀線計測は継続的かつ安価である.インドネシアのバリ島において,観光資源であるビーチの侵食が大きな問題となっている.越波等の沿岸災害軽減にも影響する砂浜の侵食を防ぐためには,地形変化のモニタリングが不可欠であり,定点カメラを用いた観測手法の一般化は重要である.定点カメラを用いて汀線抽出を行った既往研究はあるが,汀線に船などが存在するフィールド画像に対して汀線の自動検出を行った研究はない.本研究では,バリ島北部海岸に定点カメラを設置し,様々な太陽光,気象,外的影響下で撮影された画像を対象に,輝度分布,色相を考慮したエッジ検出をもとに汀線の自動認識を行うアルゴリズムを開発した.検証の結果,一部の条件を除き,汀線の自動認識を十分な精度で行えることを示すことができた.

  • 水谷 夏樹, 片岡 佑斗, 山口 航汰
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17066
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,UAVを用いた波浪とその直上の風速の現地観測を行ったものである.琵琶湖東岸の沖合200m,水深約3~4mの地点において12~28kmの長い吹走距離を伝播・発達した波浪に対し,UAVに風速計を取り付け各高度でホバリングさせて平均風速の鉛直分布を求めた.また,UAV直下を撮影した動画から水面輝度の時間変化のスペクトル解析を行い,輝度のピーク周波数より有義波周期を求めた.平均風速の鉛直分布から求めた摩擦速度,粗度高さは既往の観測結果と概ね一致し,摩擦速度と有義波周期からTobaの3/2乗則を介して求めた有義波高は,SMB法による推算値と妥当な一致を示した.現地観測によって有義波周期とともに風速の鉛直分布が得られることで,浅海域における風波の発達や減衰に関する理解が一層進むものと期待できる.

  • 岡田 知也, 秋山 吉寛, 内藤 了二, 玉上 和範, 吉原 哲, 松浦 崇裕, 天野 俊
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17070
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,温暖化対策への貢献と豊かな海の実現を目指したブルーインフラの拡大に向けて,生物共生型護岸整備に係わるCO2収支および環境価値の定量化を試みた.既存の2つの生物共生型護岸を対象として,工事に伴うCO2排出量,低炭素材料・燃料の活用によるCO2排出削量を算定した.また気候変動を考慮した海藻等の将来の生育状況のシナリオを作成し,施工後50年間のCO2吸収量を推定した.その結果,海草・海藻の生育を促進することにより,生物共生型港湾構造物の工事に伴うCO2排出量(削減後)のオフセット費用をブルーカーボン生態系が有する環境価値が上回ることが示された.

  • 内藤 了二, 管原 庄吾, 秋山 吉寛, 有田 駿, 西村 恵美, 井上 徹教, 玉上 和範, 岡田 知也
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17071
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     温室効果ガスの削減対策として浚渫土砂を造成干潟の基盤材として封じ込めることが検討されている.しかし,潮下帯の炭素貯留に関する研究例は少ない.本研究は,潮下帯に着目し,大島干潟および阪南2区人工干潟(浅場部)において,浚渫土砂中の炭素残存率とメタン生成について検討した.その結果,潮下帯の浚渫土砂層の炭素残存率の平均値は,大島干潟(覆砂有り)では77.4±3.8%から84.7±2.2%であり,潮下帯の炭素残存率は潮間帯よりも高かった.阪南2区人工干潟(浅場部)では,65.2±3.2%から79.9±3.6%であり,覆砂施工を実施した阪南2区人工干潟(干潟部)と比べて低かった.また,両造成干潟の浚渫土砂層は還元状態であったが,硫酸イオンが間隙水に存在していたためメタンの生成量は軽微であった.

  • 仁木 将人, 中束 明佳, 加藤 茂, 奥井 万葉, 石川 望海, 和田 直也
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17072
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     瀬戸内海や三河湾では,貧栄養化によるノリの色落ちや水産物の漁獲量減少が問題となっている.本研究では,東幡豆漁港の近くの砂質干潟を対象に,稲などの肥料として登録されている一般廃棄物由来の溶融スラグ等を活用した施肥材を埋設し,水質や底質への影響を検討した.また,同地点にアサリ採苗袋を設置し,施肥による稚貝の定着率や成長への影響を検討した.その結果,溶融スラグに牛糞と籾殻を混ぜた施肥材を設置した地点の間隙水は,設置3ヶ月後であっても窒素,リンともに高い値を示した.溶融スラグのみで施肥を行った地点の間隙水は窒素に関しては変化が見られないが,リンやケイ酸に関して濃度が上昇した.また,直上水は上げ潮の時間に高くなる傾向が見られた.底質中のクロロフィルaは設置後1~2ヶ月の夏季に施肥地点で高い値を示した.

  • 長山 昭夫, 櫻井 堅太郎, 井﨑 丈, 木元 一星
    2025 年81 巻17 号 論文ID: 25-17073
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/04
    ジャーナル 認証あり

     2021年10月,小笠原諸島近海の海底火山噴火に伴う軽石が沖縄・奄美群島の沿岸に漂着し,地域経済に影響を与えた.本研究では,波の遡上域における軽石の移動および堆積挙動について,大型水槽を用いた模型実験およびSPH法による数値計算を通じて定量的な検討を行った.模型実験では,複数物体追跡MOT手法を用いて軽石の軌跡を解析し,底面地形変動と移動速度・滞留位置との関係をt検定により評価した.その結果,凹部では凸部に比べて移動速度が有意に低下し,遡上個数は約5倍,最大遡上距離は約0.83倍であることが確認された.さらに,SPH法による再現計算では,軽石の個数が移動特性に影響を与えることが示された.

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