送電用鉄塔部材の鋼管割込み継手には,渦励振による疲労き裂が発生する場合がある.しかし,各地の風環境や部材の諸元に応じて,汎用的に累積疲労損傷比を評価する手法は存在しない.そこで,数値気象モデルによる風速頻度分布と応答解析による公称応力範囲頻度分布を用いた疲労評価法を提案し,鋼管部材の屋外応力計測や過去のき裂発生事例との比較によって妥当性を検証した.また,様々な風条件と部材条件に対して疲労評価を実施した結果,累積疲労損傷比が高くなる部材の細長比はある範囲に限定されることや,累積疲労損傷比と径厚比に相関があることを明らかにした.さらに,累積疲労損傷比が1以上となる細長比と径厚比の条件は,鉄塔位置や部材支持条件などの情報から推定できることを示した.
本研究は,完全溶込みとせずにすみ肉溶接された面外ガセット溶接継手のまわし溶接部を対象に,止端とルート双方の疲労強度評価のための局部応力(ノッチ応力)を簡易に推定する方法を検討したものである.具体的には,まず既往の疲労試験結果を整理し,ノッチ応力により止端とルート双方の疲労強度を統一的に評価可能か,ノッチ応力の大小関係からき裂起点部位の特定が可能かを確認した.次に,ノッチ応力を部材や溶接形状の寸法,応力勾配から簡易に推定する方法を提案した.また,ルートのノッチ応力の推定に関しては,参照応力に基づく推定方法も提案した.最後に,実橋を対象とした全橋モデルの有限要素解析を実施し,提案した推定方法の実橋への適用性を確認した.結果として,提案したノッチ応力推定方法は実務上十分な精度であることが示された.
本論文では,固化処理土の水和反応物量の経時変化をX線分析および熱重量・示差熱同時分析の結果から推定し,養生に伴う固化材の水和反応率および充填率に着目して強度推定を行った.得られた結果は次の通りである.(1)固化材添加率10%の固化処理土における水和生成物の総質量割合は,養生91日において31.6%増加した.(2)養生91日後の固化処理土の水和反応率は,セメントペーストの水和反応率よりも低く,固化材添加率10%と50%でそれぞれ51%と58%となった.(3)固化処理土の空隙を占める水和生成物もしくは固体分の体積割合として定義した各種の充填率を用いて,1MPa以下から15MPa相当の高強度まで幅広く対応できる固化処理土の一軸圧縮強さの推定式を提案した.
過去の地震で転倒被害が発生しているもたれ壁の耐震補強は,複数の補強材を打設する地山補強土工法により多く行われているが,補強材の補強効果として周面摩擦抵抗のみ考慮することが一般的である.これは,壁の傾斜,滑動に伴い補強材の変形による抵抗が発生すると考えられるものの,その発現メカニズムが不明確であることが一因と考えられる.そこで,補強材の変形に着目したもたれ壁の1/10スケール模型による静的載荷実験,振動台実験を実施した.その結果,壁の傾斜に伴い補強材に曲げモーメントが発生し壁に抵抗モーメントとして作用することが分かった.また,補強材の曲げ剛性を変えた振動台実験とNewmark法により,抵抗モーメントが変位量に及ぼす影響を検証するとともに,変位量評価手法を提案し被害事例を対象に試解析を行った.
筆者らは,液状化地盤の密実化および液状化抵抗の向上を目的とした「脈状地盤改良工法」を開発している.本稿では,適用実績のなかった洪積層への適用性を検証するために実施した試験施工について報告する.洪積層への適用にあたっては,沖積層への適用に比べて低注入率での施工を想定し,各孔の注入条件を一定としたうえで打設間隔を変えることで注入率を低下させることを検討した.その結果,洪積層においても本工法の適用によりNd値や静止土圧係数(K0)が増加することが確認されたが,沖積層への適用時ほどの改良効果は得られなかった.一方,低改良効果であっても要求性能を満たす改良が実施可能であること,試験施工により注入率と有効注入率や静止土圧係数の関係性を把握することで合理的な設計注入率の設定が可能であることなどを確認した.
盛土の地震時の実被害では引張クラックを伴う被害が散見されるが,現行のニューマーク法ではせん断破壊のみを考慮した評価が行われている.本研究では,クラックによる影響を考慮する手法の提案を行った.クラックを考慮した場合について,198ケースの条件下で試算を行ったところ,現行ニューマーク法よりも最大残留変位量が大きくなるケースが生じた.この際,クラックを考慮しない現行法では復旧性や安全性の許容値を満たすが,クラックを考慮した解析により残留変位量が許容値を超えるという結果が得られ,現行法では危険側の評価となっていることが確認された.
本研究は,グリーンインフラ(GI)を雨水管理型GIと生態系保全型GIに大別し,河川区域の内外に留意して東京郊外の真間川流域における官民協働による総合治水対策のGIに関する合意形成プロセスとその特徴を明らかにした.すなわち,(1)雨水管理型GIを含めた計画の具体化は河川事業をめぐる対立で一時停滞したが,市民らが提案した水防都市構想が河川区域外の雨水管理型GIの官民協働を促進したこと,(2)河川区域内の生態系保全型GIに関する合意形成は,官民双方が作成した構想と対話を通して整備イメージを共有したこと,(3)水防都市構想は,身近な生活圏の小流域に分けて水害リスクの分散を図った点に特徴があり,流域治水の概念とGIに関する官民協働を促進する上で意義があったことを明らかにした.
本研究は,都市計画分野において重要な役割を果たした佐野利器,笠原敏郎,福田重義による都市計画論に着目し,三名による法定都市計画成立時期における都市計画論の特徴を捉え,人物の比較により,当時の傾向と三者の違いを明らかにした.三名は主に住宅不足,建築物や人の密集,建築物の敷地を都市問題としていた.三者の比較では,佐野は都市の拡大・膨張を都市問題として捉えていない点,笠原は用途地域の制定を重要視している点,福田は交通を重要視している点に違いがみられた.分析結果より,都市の拡大・膨張への認識や解決策のスケールという点で三者の都市計画論は異なるが,建築系の人物は都市施設の配置に主眼を置き,住宅問題や建築規格,交通,財政といった多様な要素を総合的に検討しながら,具体的な都市計画を構想していたといえる.
本研究は,愛知県岡崎市矢作町の矢作川右岸河川敷に埋没している橋脚の遺構と見られるヒノキ木杭4本について,酸素同位体比年輪年代法により年代測定を行い,木杭の原木の伐採年代推定を試みたものである.矢作橋は,1601(慶長6)年頃に初めて架けられたとされ,江戸時代には日本一の長大橋として知られていたが,中世以前にも橋が存在していたと読み取れる記述が『太平記』や『平家物語』などの書物の中に見られる.分析の結果,4本の木杭のうち3本の伐採年代は平安時代末期から鎌倉時代頃,もう1本はそれより100年程度遡る可能性があることが判明し,これまで物語や伝承の中にしか存在していなかった中世以前の矢作橋が少なくとも12~13世紀頃の一時期には実在していたことを示唆する結果が得られた.
本研究では,風水害時の交通途絶による労働者の通勤障害,原材料の調達障害,製品の出荷障害がもたらす経済被害額の時系列的な推移を生産関数アプローチにより計測した.平成30年7月豪雨を対象に,道路および鉄道の時系列的な途絶実績の推移,地域別・産業別の製品の在庫率を考慮することで,地域別・産業別の経済被害額の時系列推移を明確にしている点が特徴である.また,シナリオ分析として,東広島呉自動車道(災害時に途絶無し)が仮に機能しなかった場合および,広島呉道路(災害時に途絶有り)が仮に機能していた場合の経済被害額の違いをそれぞれ計測しインフラへの防災投資効果を計測した.
重力式コンクリートダムの基礎に上下流方向へ分布する低角度の弱層が存在する場合,ダムの滑動に対する安全性に重大な影響を及ぼす可能性がある.基礎岩盤のせん断抵抗力を高めるため,弱層の一部を除去しせん断キーで置換する方法があるが,くさび型安定解析やFEM応力変形解析により岩盤への影響を評価してせん断キーの規模・配置を決定した.次に,プラムラインなどの計測データやボーリングコア観察ならびにCT画像解析などにより,湛水後のダムの挙動や岩盤への影響を把握した.せん断キーの設置により,堤趾部近傍の岩盤における圧縮応力や弱層上下の岩盤の相対変位が低減し,堤趾部近傍の局所安全率が向上することを確認した.湛水後の観測においても,弱層および周辺部にせん断破壊を生じているような変形の痕跡は認められなかった.
本研究は,道路橋点検における熟練技術者の措置方針の決定に関する技術的判断を,仮説演繹法に基づく論理モデルとして形式化し,その適用性を検証したものである.熟練技術者等14名を対象に半構造化インタビュー等を実施し,インタビュー結果の文節を根拠・論拠・結論・措置方針の4命題に分類した.さらに自然言語処理を用いて命題間の意味的類似度等を統計的に解析し,推論構造を定性的・定量的に評価した.その結果,熟練技術者の技術的判断は仮説法に基づく論理モデルとして説明可能であり,また,認知バイアスや知識の差異が論理的思考を阻害する要因となることを実証的に示した.本研究は,暗黙知を含む推論過程を科学的に可視化し,技術継承やAIによる点検・診断支援への展開に資する新たな理論的な枠組みを提示したものである.
環境DNAによって,採捕調査では困難であった流域スケールでのアユの動態把握が可能になった.本研究では,環境DNAの濃度・フラックスを用いて,多摩川水系における2017年度(定着・降下・産卵期)と2018年度(遡上・定着期)のアユ個体群の時空間的な動態を解析した.その結果,環境DNAの縦断分布の時系列変化から,遡上・降下・産卵といった生活史と整合する動態が確認された一方,定着期にもその分布が変化することが明らかになった.本支川の比較から,支川はアユに対する環境容量を拡大するだけでなく,大規模出水時の避難場としても機能する可能性が示された.また,支川におけるアユの降下タイミングが本川より遅れることで,水系全体の産卵期間が延長され,個体群維持に寄与している可能性が示唆された.
本論文は,どのような要因が二地域居住につながるのかを明らかにし,二地域居住に関心を持たない人たちと関心を持つ人たちの間で環境配慮行動に差があるかを検証する.アンケートデータを用いて,回帰分析と統計学的検定を行い,三つの重要な結果を得た.第一に,年齢が高く既婚で,定職を持つ人の方が,二地域居住を考えたり実施したりする.コミュニティ内の人間関係を重要視する人ほど,幼少期の自然体験度が高い人ほど,二地域居住を考えたり実施したりする.第二に,ごみ,エネルギー・資源,自動車利用に関して,二地域居住に興味関心を持っている人たちは二地域居住を考えたことがない人たちよりも環境配慮行動が高くなる.第三に,二地域居住を実施している人たちは環境問題への関心・意識は高いものの,環境配慮行動の程度は必ずしも高くない.
浄化槽の保守点検・法定検査における業務分析を行い,業務所要時間と温室効果ガス排出量低減について検討した.1基当たりの保守点検は41.3分,1日の実施基数は11.6基,法定検査は43.5分で実施基数は11.0基であった.所要時間は走行ルート改善と業務電子化で保守点検は81.9%,法定検査は75.0%に低減されると推定された.保守点検・法定検査の実施率100%達成には合理化の他に,保守点検で11%,法定検査は51%の技術者増員が必要との結果になった.温室効果ガス排出量は走行ルート改善で36.4%削減と算出された.所要時間と排出量をさらに低減するためには,浄化槽老朽化に伴う入替え時に複数の戸建用浄化槽を地域に応じた集合型浄化槽に更新することが有効と考えられた.
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