本論文では,山岳トンネル前方探査の観点から問題となる地質構造,特に低速度帯をモデル化し,弾性および音響フルウェーブトンネルトモグラフィの再現性について数値実験を行った.弾性フルウェーブインバージョン解析においては,震源からの順伝播波形を計算するためにスペクトル要素法と有限差分法による検討から震源関数(震源の指向性)を得た.この震源関数を利用して,P波速度,S波速度,密度,および5つの弾性定数の分布図を得た.音響フルウェーブインバージョン解析においてはP波速度,密度の分布図を得た.フルウェーブインバージョンは,全体として,課題としている低速度部を中心として,物理モデルを概ね正確に再現しており,走時トモグラフィより優れた再現性を有していることを確認した.
トンネル建設現場では,浮遊粉じんがより少ない良好な施工環境の構築を目指し,多様な換気システムが提案されている.本研究では,一般家庭用空気清浄機向けに開発された光散乱方式の粉じん濃度測定センサを改良し,トンネル坑内を多点かつ多頻度で粉じん濃度測定実施するため,小型で安価な施工環境の観測機器を開発すると同時に計測方法を提案する.そして,模擬トンネル実験によりトンネル坑内での測定器の適用性を検証する.その結果,トンネル粉じん簡易測定器でトンネル建設中に発生する高濃度の粉じん測定が可能であり,かつトンネルでの粉じん測定に用いられているデジタル粉じん計とほぼ同等の測定結果を得ることができた.
軟弱地盤中に建設されたトンネルでは,地盤中の復水に伴うトンネル下部の地盤の膨張によりトンネル設計時の荷重に対して,付加荷重が発生することがある.このため,復水過程にある地盤中のトンネルの維持管理にあたっては,将来の付加荷重を確実に予測することが重要である.本論文では,トンネル内の天端のひび割れの原因をFTAにより特定し,2次元土水連成FEM解析によってトンネル下部の地盤の膨張とそれに起因する付加荷重の発生メカニズムを明らかにした.さらに,将来の地盤の復水状況を双曲線法により予測し,これにより,トンネルのセグメント鉄筋の降伏時期を適切に予測できることを示した.
東京都下水道局により施行されている隅田川幹線整備事業のうち,隅田川幹線の中間部の拡幅を目的とした「隅田川幹線その3工事」の大規模放射状凍結工について,変位データ等をもとに施工結果の分析を行った.その結果,凍土造成時には,凍結領域内の予測凍上量と実測隆起量がおおむね一致するが,地表面においては,未凍結地盤に介在する軟弱粘性土層の圧密等が原因で,実測値の方が小さくなる傾向があることがわかった.また,凍土維持運転時の凍土の成長抑制対策として適用した国内初の全周にわたる放射状温水管や,強制解凍時に行ったセメントベントナイトの凍結領域外への充填に関し,凍上および解凍沈下に対する低減効果の高さを確認することができた.
近年,施工の長期化等で仮設構造物の耐震性を無視できない場合も生じてきているが,これらの構造物の地震時挙動は明らかになっておらず,現時点では適切な設計手法も確立されていない.本論文では,仮設構造物の中で利用頻度の高い切梁式掘削土留め工に着目し,非線形動的解析による地震時挙動の推定結果に基づいて,梁ばねモデルによる簡易評価手法の適用の可能性を検討している.非線形動的解析においては,変位計測を実施している既往の文献を参照して解析モデルを作成しており,掘削解析と計測値との整合性を確認した上で,動的解析を実施している.その結果,切梁式土留め工の耐震設計手法として,応答変位法を用いることで検討できる可能性があることがわかった.
老朽化した管きょの再構築手法では管きょ内面被覆工法が開削工法に比べ,周辺環境に与える影響が少なく,経済性にも優れることから積極的に活用されている.そのうち,製管工法は,既設管と更生材が構造的に一体となって外力に抵抗するものであるため,既設管きょ及び複合構造の両方における評価が必要となっている.また,更生する管きょごとに評価することが基本とされているため,既設管きょの構造評価や構造解析に時間を要している.このことから,老朽化した下水道管が今後増加する中で簡易に耐震性能を照査できる手法が必要となった.本論文は,簡易な耐震性能照査手法の検討について報告するものである.
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