日本臨床免疫学会会誌
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28 巻, 2 号
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総説 特集:遺伝子チップを用いた臨床免疫研究の最前線
  • 山本 一彦
    2005 年 28 巻 2 号 p. 63-66
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      DNAを基盤上に固定し,標識したcDNAやcRNAなどをこれにハイブリダイゼーションさせることで,細胞内のmRNAの網羅的解析が可能となってきた.これらの方法を指して,DNAチップとかDNAマイクロアレイなどという.これらの技術は急速に進歩しているが,現在のところ大きく合成型DNAチップと貼り付け型DNAマイクロアレイに分けることができる.ハイブリダイゼーションの後にはデータ解析をする必要があり,クラスター解析,発現パターン相同性検索などを行う.免疫応答での種々の免疫担当細胞での遺伝子の動きや免疫疾患での遺伝子の動きを解析可能であり,今後臨床免疫領域での応用が期待される.本稿は2004年の臨床免疫学会のシンポジウムでのオーバービューをまとめた.
  • 斎藤 博久
    2005 年 28 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      ゲノム科学の成果を基盤に,コンピュータサイエンスなどの手段を利用・開発し,システムレベルでの生命の原理を研究すると共に,創薬などに応用しようという研究分野である「システム・バイオロジー」が急速に発展している.人類の進化の過程において細菌やウィルスの侵入など日常的な擾乱に対して発達した免疫システムは,想定していない擾乱,すなわち抗生物質による無菌状態下における大量の花粉飛散などの状態に対して極めて脆弱である.したがって,増加し続けるアレルギー疾患病態を理解し,適切な予防治療方法を開発するためには,システムとしての理解が求められている.また,システムを理解することにより,今までは予期できなかった薬剤の副作用をあらかじめ予測できる様になる等の画期的なメリットが期待されている.本稿では,アレルギー炎症細胞特異的に発現し,副作用が少ないと予想される創薬標的遺伝子の発見を含めて遺伝子チップ(マイクロアレイ)をもちいたアレルギー疾患病態システム解析のいくつかの試みについて概説する.
  • 松井 郁一, 斎浦 明夫, 菅原 寧彦, 児玉 龍彦, 幕内 雅敏
    2005 年 28 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      免疫抑制剤の進歩により臓器移植は対象臓器の非可逆的臓器不全に対する確立した治療法の一つとなっている.しかし種々の合併症を併発する危険性も内包しており,急性・慢性拒絶反応もその一つである.臓器移植における拒絶反応ではアロ主要組織抗原(MHC)抗原に対しての特異的免疫反応が主たる原因であるが,現在用いられているステロイド,サイクロスポリンA,タクロリムスなどの薬剤はすべて抗原非特異的に作用する.そのため長期服用による発癌率の増加,ウイルス・真菌などへの易感染性など多くの問題を抱えている.現在の移植医療の問題点の一つはこのような抗原非特異的な免疫抑制であり,グラフト抗原特異的な免疫寛容の誘導は移植免疫における究極の目標である.近年,分子生物学の進歩により全遺伝子を網羅的に解析できるDNAマイクロアレイ技術が普及した.我々はこれまで,DNAマイクロアレイを用いてマウス心移植モデルにおける急性拒絶や免疫寛容の網羅的遺伝子発現を解析してきた.本稿では,これらのマイクロアレイ技術と今後の移植医療との融合に向けての課題を検討した.
  • 高柳 広
    2005 年 28 巻 2 号 p. 79-85
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      骨破壊を伴う炎症性疾患や免疫系遺伝子欠損マウスの骨異常などから,骨と免疫の密接な関係が注目を集め,骨免疫学と呼ばれる新しい分野が発展しつつある.骨免疫学のような学際領域では,ゲノムワイドなスクリーニングを多用して,従来の枠組みに縛られずに広い範囲の遺伝子群を解析対象とすることが特に重要である.破骨細胞分化因子(RANKL)は,炎症性骨破壊において中心的な役割を果たし,骨と免疫をつなげる重要な分子である.われわれは,遺伝子チップを用いたRANKL誘導遺伝子の解析から,破骨細胞分化のマスター転写因子NFATc1の同定に成功した.また,RANKLの共刺激シグナルの発見や,抗リウマチ薬の作用標的の解析などにおいても遺伝子チップのデータを活用して新しい遺伝子の機能解析へと結実させてきた.ここでは,遺伝子チップを用いた骨免疫学研究について概説する.
  • 山口 亜希, 富樫 祐二, 幸田 敏明, 西村 孝司
    2005 年 28 巻 2 号 p. 86-91
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      DNAアレイは一度に多数の遺伝子の発現レベルを解析することができる強力な手段であり,様々な分野で応用されてきた.我々はこの方法を生体内のTh1/Th2バランスの解析に応用することを試みたので,その概要について述べる.生体内の免疫応答は2種類のヘルパーT細胞サブセット,Th1およびTh2のバランスによって調節されており,これらのバランスが崩れると様々な免疫疾患をひきおこすと考えられている.従って,生体内のTh1/Th2バランス状態を把握することは,免疫病の診断,治療,予防等に非常に重要である.我々は,Th1細胞およびTh2細胞に特異的に発現する遺伝子を多数同定し,これらの遺伝子を結合させたDNAアレイフィルターを開発した.これを用いた解析により,生体内の免疫バランス状態を客観的に判定できることが可能となり,今後この方法を臨床応用することにより,免疫バランス状態に合わせたテーラーメイド治療の実現が期待できる.
症例報告
  • 冠木 智之, 大宜見 力, 田中 理砂, 池松 かおり, 城 宏輔, 鍵本 聖一, 大石 勉
    2005 年 28 巻 2 号 p. 92-98
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      生直後より頻回に感染を繰り返し,家族歴からも原発性免疫不全症を疑ったが,生後6ヵ月時に大腸内視鏡検査所見よりクローン病と診断した1男児例を経験した.本症例はステロイドを含む各種薬物治療に抵抗したため,抗TNF-α療法としてインフリキシマブ,サリドマイドによる治療を行った.インフリキシマブは皮疹出現のため,1クール3回の投与を終了できず,症状の若干の改善(PCDAI 47.5→30)を得ただけであった.一方サリドマイドは各症状(下痢,腹痛,発熱,瘻孔)の著しい改善(PCDAI 45→15)を認めた.副作用(浮腫,皮疹,末梢神経障害)のためサリドマイド投与は4.5ヵ月で中止したが,瘻孔閉鎖効果は長期持続した.出現した副作用は投与中止により漸次消退した.サリドマイドはその投与量については再考の必要があるが,通常の治療に抵抗性のクローン病患児に対して試みて良い治療法と考えられた.乳児クローン病は極めてまれであり,その診断治療に苦慮することが多い.その病態解明,治療の進歩には今後更に詳細なデータの蓄積が必要である.クローン病を含めた炎症性腸疾患は今後小児科領域でも増加することが予想され,嘔吐,下痢症といった消化器症状に加え,肛門周囲に裂創,膿瘍,瘻孔を認めた場合は,乳児であっても炎症性腸疾患を疑う必要があると考えられた.
  • 末松 栄一, 宮村 知也, 井筒 拳策, 南 留美, 山本 政弘
    2005 年 28 巻 2 号 p. 99-103
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は68歳,女性.平成10年頃よりレイノー症状,手指のしびれ感が出現.Limited cutaneous systemic sclerosis (lcSSc),橋本病,原発性胆汁性肝硬変症の診断を受け,D-ペニシラミン200 mg/日の内服療法を開始した.平成14年11月25日頃より,鼻出血,皮下出血出現.当科受診,白血球数2300/μl,血色素8.2 g/dl,血小板数0.3×104/μlと汎血球減少を認めた.骨髄検査では著明な低形成を認め,再生不良性貧血と診断した.原因としてD-ペニシラミンによる薬剤性が疑われた.D-ペニシラミンを中止すると共に,メチルプレドニンパルス療法,シクロスポリンおよびG-CSF併用療法を開始した.しかし造血の回復は認められないため,Anti-thymocyte globulin (ATG) 450 mg/日5日間の投与をメチルプレドニンパルス療法およびシクロスポリン療法と平行して行った.MAP血輸血および血小板輸血の頻度は徐々に減少し,ATG投与後約4カ月経過した時点で,輸血を必要としない状態にまで回復した.さらに造血の回復と共に手指の腫脹および皮膚硬化の改善や,抗セントロメア抗体価の低下が認められ,ATG-シクロスポリン併用療法はlcSSc対しても有効であったと考えられた.
  • 小川 祥江, 西 英子, 亀田 秀人, 天野 宏一, 竹内 勤
    2005 年 28 巻 2 号 p. 104-108
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/30
    ジャーナル フリー
      顕微鏡的多発血管炎(MPA)は,肺や腎臓などの全身の小血管に原因不明の炎症を来たす難治性疾患である.
      72歳の女性が再発性多発軟骨炎の疑いにて入院.結膜炎,聴力障害,間質性肺炎,糸球体腎炎および多発性単神経炎が認められ,血清学的検査では抗好中球細胞質抗体(PR3-ANCA)が陽性であった.左耳介軟骨生検の結果,軟骨の炎症と小血管の壊死性血管炎が認められた.MPAの診断のもと,シクロホスファミド及び経口ステロイド治療を開始し,症状は改善した.鼻及び気管支の軟骨の炎症がなく,耳介生検で血管炎所見が認められたことより,多発性軟骨炎様の所見は,MPAの全身症状の1つとして出現したものと考えられた.
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