日本臨床免疫学会会誌
Online ISSN : 1349-7413
Print ISSN : 0911-4300
ISSN-L : 0911-4300
30 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説 特集:創薬から見た免疫疾患の新たな治療ターゲット
  • 田村 直人, 春田 和彦
    2007 年 30 巻 5 号 p. 369-374
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      関節リウマチは全身性の慢性炎症性疾患であり,進行性の関節破壊により関節機能障害をきたす.関節局所では,炎症性細胞浸潤と腫瘍性の滑膜細胞増殖が認められるが,これらは様々な細胞における細胞内シグナル伝達の過剰亢進によるものである.そのなかでも,ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)は,種々の細胞表面レセプターからのシグナルにより活性化し,細胞の活性化や増殖,分化,接着,遊走など誘導する.PI3Kは,関節リウマチにおいても抗原提示によるT細胞・B細胞活性化,好中球やマクロファージなどの炎症細胞浸潤,滑膜細胞増殖,肥満細胞活性化など,病態の各ステップに深く関与していると考えられる.実際に,最近報告された新しいPI3K阻害薬であるAS-605240 (PI3Kγ選択的阻害薬)や我々が用いたZSTK474は,明らかな毒性を示すことなくコラーゲン誘発性関節炎マウスにおいて関節炎抑制作用を示した.これらのことから,PI3K阻害薬は関節リウマチの新たな治療薬となり得る可能性がある.
  • 千葉 健治
    2007 年 30 巻 5 号 p. 375-382
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)ではインターロイキン15 (IL-15)およびIL-17が関節部位で過剰に産生されているが,IL-15はT細胞を活性化してIL-17の産生を誘導し,IL-17は滑膜細胞に作用してIL-6, TNF-α, IL-8, CCL2などの炎症性サイトカインを誘導することから,IL-15およびIL-17はRAの発症および進行に重要な役割を果たしていると考えられている.そこで,我々はRA治療における新たな標的分子としてIL-15およびIL-17に着目して創薬研究を進め,IL-15で活性化したT細胞からのIL-17産生を10 nMのオーダーで抑制する新規低分子化合物Y-320を見出した.DBA/1Jマウスのコラーゲン誘発関節炎(CIA)において,Y-320を0.3~3 mg/kgで治療的に経口投与した場合,関節炎および関節破壊の進行が有意に抑制された.また,Y-320の投与によって関節部位のIL-17 mRNA発現が著明に低下すること,および抗TNF-α抗体との併用で相乗効果を示すことが示唆された.さらに,カニクイザルCIAにおいても,Y-320は0.3 mg/kg以上の経口投与で治療効果を示すことが判明した.以上から,Y-320はIL-17産生抑制作用を有する経口投与可能な新規抗RA薬として有用と考えられる.
  • 岡本 尚, 土屋 篤志
    2007 年 30 巻 5 号 p. 383-389
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      NF-κB (nuclear factor kappa B)は,細胞外シグナルによって活性化される「誘導型」転写因子のひとつであり,その標的遺伝子は炎症免疫応答関連因子,アポトーシス抑制因子,細胞増殖促進因子,一部のウイルスおよびNF-κB自体の制御に関わる因子をコードするものである.そのため,関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫疾患,がんや白血病などの悪性腫瘍,後天性免疫不全症候群(AIDS),など多彩な病態の発現と維持に関与する.他方,RAの治療薬として使われてきた薬剤の中にはNF-κB阻害活性の見つかった化合物もあり,RAとNF-κBとの間には,それと意識する以前から強い関連があると考えられる.ここでは,改めてRAの病態を整理し,NF-κBの関連する部分とそうでない部分をできるだけ明確にし,NF-κBを阻害することによって治療効果が得られると期待される病態と,そうでないものとを分けて考えることを試み,近い将来のNF-κBを分子標的とした新しい治療法の是非を論じる.
  • 西川 昌孝, 名井 陽, 冨田 哲也, 高樋 康一郎, 南平 昭豪, 吉川 秀樹
    2007 年 30 巻 5 号 p. 390-397
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      p38 MAP KinaseはTNF-α, IL-1βなどの炎症性サイトカイン共通細胞内シグナル伝達分子であり,関節リウマチでの関節炎,骨関節破壊に重要な役割を担っていると考えられている.FR167653はp38 MAP Kinase選択的阻害薬であり炎症性細胞からのTNF-α, IL-1βの産生を阻害する.今回,関節リウマチの動物モデルであるCIAラットに対しFR167653を投与しその効果を検討した.CIAラット群では足関節の腫脹,関節破壊,関節周囲の破骨細胞数増加がみられたが,阻害薬投与群では予防投与群のみならず治療投与群においてもすべての点で著しい改善がみられた.また,血清中および組織中の炎症性サイトカイン濃度もCIAラット群と比較して著しく低下していた.骨髄細胞からのin vitro破骨細胞誘導実験においてもFR167653は破骨細胞分化を著しく抑制した.今回の実験モデルにおいてp38MAP Kinase阻害薬であるFR167653は複数の炎症性サイトカインの産生を抑制し,また破骨細胞分化抑制を介して骨関節破壊を直接抑制することがわかった.また骨髄リンパ球に対しても何らかの影響を及ぼしていることも示唆された.これらの結果は,関節リウマチにおいてp38 MAP Kinaseが重要な治療ターゲットになりうる可能性を示している.
  • 庄田 宏文, 藤尾 圭志, 山本 一彦
    2007 年 30 巻 5 号 p. 398-403
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      Interleukin-32 (IL-32)は2005年に報告されたヒトサイトカインである.IL-32は主にリンパ系組織に発現し,活性化したT細胞,NK細胞のみならず上皮系細胞においても分泌がみられる.IL-32の作用に関しては,in vitroにおいては細胞株,末梢血単核細胞に作用してTNF-αを誘導する.IL-32と炎症性関節炎との関連も報告されており,関節リウマチ滑膜組織におけるIL-32発現の強さは関節炎の程度と相関する.我々は,IL-32のin vivoでの作用を検討するため,IL-32β遺伝子をマウス骨髄細胞へ導入し同種骨髄移植を行うことでIL-32βが大量発現しているマウスを作成した.このマウスにおいて血清中TNF-α濃度の上昇,脾臓マクロファージにおけるTNF-α, IL-1β, IL-6の発現増強がみられた.このIL-32β大量発現マウスに対して,II型コラーゲン抗体により関節炎を誘導すると,コントロールと比較して重症の関節炎を発症した.またCD4陽性T細胞にレトロウイルスを用いてIL-32β遺伝子を導入し,II型コラーゲン誘発性関節炎の発症直前に移入すると,IL-32β導入CD4陽性T細胞の移入群で関節炎が有意に増悪した.またエタネルセプトを同時に投与することで,その増悪作用が減衰した.このことより炎症性関節炎においては,IL-32はマクロファージ系の細胞に作用し,TNF-αに代表される炎症性サイトカインを誘導することで関節炎の増悪に関与していると考えられた.このようにIL-32は関節炎の病態に深く関与しており,その阻害薬による関節炎治療の可能性が期待されている.
  • 赤真 秀人
    2007 年 30 巻 5 号 p. 404-407
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      骨芽細胞により発現するタンパクであるNF-κB活性化受容体リガンド(RANKL)は,破骨細胞の分化,活性化及び生存延長の主要なメディエータで,NF-κB活性化受容体(RANK)と結合する.アムジェン社が開発中のdenosumab(AMG162)は,高い親和性と特異性をもってRANKLに結合する完全ヒト型モノクローナル抗体で,RANKLの可溶性デコイ受容体であるosteoprotegerin(OPG)の内因性作用と同様にRANK/RANKLの結合を阻害する.海外と日本において閉経後骨粗鬆症や骨転移を伴う悪性腫瘍に対する国際共同臨床試験が施行されている.さらに海外では関節リウマチ(RA)で臨床試験が進行中であり,関節破壊抑制効果が期待される.
原著
  • 下山 久美子, 小川 法良, 坂井 知之, 澤木 俊興, 河南 崇典, 唐澤 博美, 正木 康史, 田中 真生, 福島 俊洋, 廣瀬 優子, ...
    2007 年 30 巻 5 号 p. 408-413
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      目的:近年,関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)の診療において,抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody:抗CCP抗体)は感度,特異度が高く注目されている.我々は抗CCP抗体のRA診療における有用性について検討した.対象と方法:多発関節痛症例115例(女性89例,男性26例)に関して抗CCP抗体,ESR, CRP, IgM-RF, IgG-RF, RAPA, CARF, MMP-3, C1q-IC, Stage, Class, Joint score, Sharp score, KL-6, SP-D,胸部CTを検討した.結果:抗CCP抗体は,特異度(93.5%)に優れていた.またRA群(45例)において,抗CCP抗体陽性群のSharp score (10.9±22.4)は,抗CCP抗体陰性群(1.7±1.8)と比べて有意に高値であり(P<0.05),関節破壊の指標となる可能性が示唆された.間質性肺炎併発例における抗CCP抗体値(84.5±36.4 U/mL)は間質性肺炎非合併例(52.6±44.7 U/mL)に比べ,有意に高値であった(P<0.05).総括:抗CCP抗体は特異度が高く,骨関節破壊のマーカーとなる可能性がある.特定の臓器障害や病勢との関連性に関しては,今後さらなる検討が必要であると考えられる.
症例報告
  • 平野 亨, 萩原 圭祐, 河合 麻理, 桑原 裕祐, 山鳥 大材, 嶋 良仁, 緒方 篤, 田中 敏郎, 吉崎 和幸, 川瀬 一郎
    2007 年 30 巻 5 号 p. 414-418
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/02
    ジャーナル フリー
      症例は33歳女性,2001年,全身性エリテマトーデスと診断され,ステロイド剤とciclosporinの投与にて治療されていた.2006年5月頃より,両下肢の脱力を自覚し,徐々に自立歩行が困難となった.7月より全身倦怠感,発熱,食欲不振,見当識障害を認め,入院となった.入院後まもなく,全身性痙攣が出現し不穏状態となった.さらに同時期より尿閉,便失禁,下肢末端の強いしびれが出現した.MRI上,脳に異常所見はなく,胸髄の萎縮所見が認められた.血中の抗リボソームP抗体の上昇と髄液の蛋白およびIL-6の増加所見をあわせ,中枢神経性ループス,ループス脊髄炎と診断した.ステロイドパルス療法および経口ステロイド療法を行い,痙攣,意識障害の改善を認めた.その後も尿閉,下肢の感覚運動障害は遷延したが,cyclophosphamideパルス療法の併用により,10月頃より自尿の再開,下肢の脱力としびれの改善を認めた.自立歩行が可能となり11月退院となった.本症例は,中枢神経性ループスによる意識障害,痙攣,膀胱直腸障害,下肢の運動,感覚障害等の多彩な症状と血中抗リボソームP抗体の高値を認め,ステロイドパルス療法およびcyclophosphamideパルス療法が著効した症例である.
feedback
Top