日本臨床免疫学会会誌
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32 巻, 2 号
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特集:免疫疾患の新たな分子標的治療
総説
  • 冨田 哲也, 椚座 康夫, 野村 幸嗣, 森本 大樹, 黒田 将子, 吉川 秀樹
    2009 年32 巻2 号 p. 71-76
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      関節リウマチの臨床的に進行する関節破壊が大きな問題となっている.関節破壊機序は完全には解明されていないが,TNFα,IL-βなどの炎症性サイトカインの産生増加や破骨細胞の活性化などが明らかにされている.これら炎症性サイトカインの遺伝子発現を調節しているのが転写因子NFκBである.関節リウマチ罹患関節局所の増殖滑膜においてNFκBの発現亢進が報告されている.我々は転写因子レベルでの制御を目的としておとり(デコイ)型核酸医薬による治療法を考案した11).これは特定の転写調節因子の結合部位の結合を阻害し,活性化される遺伝子群の発現抑制あるいは発現増強を行うものである.本稿では,関節リウマチの炎症関節局所治療という観点より核酸医薬の可能性について概説する.また夏白菊の主成分parthenolide (PTH)は抗炎症作用が知られている.近年その作用機序として転写因子NFκBの活性化を抑制することが明らかにされた.Parthenolideをコラーゲン関節炎マウスに投与したところ関節破壊進行抑制効果が認められた.NFκBは炎症性関節治療のターゲットとして有望であり,NFκB阻害薬の開発が進むことを期待したい.
  • 亀田 秀人
    2009 年32 巻2 号 p. 77-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      分子標的治療の発展には低分子化合物と高分子の生物学的製剤の2つの潮流がある.臨床免疫学の分野では後者が席巻しているが,この2-3年においては前者への注目も高まりつつある.その多くはチロシンキナーゼ阻害薬であり,イマチニブはその先駆的薬剤である.イマチニブはin vitroの3次元培養において,PDGF刺激による線維芽細胞の形態変化や増殖を薬理学的濃度でほぼ完全に抑制した.動物モデルにおいても,関節炎,間質性肺炎,腎炎,肺高血圧症などの難治性病態に対する有効性が示され,さらに臨床でも強皮症における有効例が近年相次いで報告された.従来有効な治療薬がなかった線維化病変に対して,TGFβとPDGFの双方のシグナル伝達を阻害するイマチニブは有望視されており,強皮症をはじめとした線維化疾患や免疫疾患における有用性の検証が世界中で始まっている.
  • 山岡 邦宏, 田中 良哉
    2009 年32 巻2 号 p. 85-91
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)の治療は生物学的製剤により飛躍的に進歩したが,投与経路や医療経済面の問題のため新たな抗リウマチ薬の開発は必須である.最近,チロシンキナーゼであるJakを標的とした阻害薬の高い有効性が報告されている.JakファミリーにはJak1, Jak2,Jak3とTyk2が存在し炎症性サイトカインのシグナル伝達には必須である.Jak1/2を標的としたINCB18424とJak3を標的としたCP690, 550はRAを対象とした臨床試験が第II相まで進行している.2008年のアメリカリウマチ学会において経口薬としては今までにない高い有効性を有し,副作用が少ないことが明らかとなった.しかし,予測されている程の特異性を有さないことが指摘されていながら,一方ではその非特異性が少ない副作用に寄与している可能性も指摘されている.つまり,その作用機序は単純な一分子阻害ではなく,予想外の作用機序を有する可能性が考えられる.我々はJak3とその下流で活性化される転写因子Stat6の欠損マウス由来樹状細胞の解析を行い,IL-10過剰産生を見出し,Jak3阻害薬の一作用機序と考えている.しかし,阻害薬の特性からその作用機序は複数あると考えられ今後の作用機序解明は長期投与の際の副作用予測にも欠かせないと考える.
  • 千葉 健治
    2009 年32 巻2 号 p. 92-101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      世界初のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であるフィンゴリモド(FTY720)は,冬虫夏草の一種,Isaria sinclairii由来の天然物マイリオシンの構造変換によって得られた化合物で,同種移植モデルや自己免疫性脳脊髄炎,関節炎などの自己免疫疾患モデルにおいて,強力な免疫抑制作用を発揮する.FTY720が免疫抑制作用を発揮する用量範囲では末梢血リンパ球が著しく減少するが,これは循環リンパ球が二次リンパ組織内に隔離されたためである.FTY720は生体内ではスフィンゴシンキナーゼによってFTY720リン酸(FTY720-P)に速やかに変換され,二次リンパ組織からのリンパ球移出に必須の役割を果たすS1P1受容体にアゴニストとして作用し,S1P1受容体の内在化を長時間,強力に誘導することが明らかにされた.したがって,FTY720-Pによってリンパ球上のS1P1受容体の発現が著しく低い状態に維持されるために,二次リンパ組織からのS1P1依存的なリンパ球移出が阻害され,免疫抑制作用が発揮されると考えられる.最近,再発性の多発性硬化症を対象とした臨床試験においてFTY720は優れた治療効果を示すことが明らかにされた.以上から,S1P1受容体調節作用を有するFTY720は,多発性硬化症等の自己免疫疾患への新しい治療法を提供しうると期待される.
原著
  • 宮村 知也, 渡邉 秀之, 高濱 宗一郎, 園本 格士朗, 中村 真隆, 安藤 仁, 南 留美, 山本 政弘, 末松 栄一
    2009 年32 巻2 号 p. 102-109
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      【目的】抗CCP抗体は,関節リウマチ(RA)の血清中に特異的に検出される自己抗体として注目されている.今回われわれは,早期RAにおける抗CCP抗体の有用性の検討を行った.【対象・方法】発症後2年以内の多関節炎を主訴に当科を受診した184例において,抗CCP抗体,IgM-RF,抗ガラクトース欠損IgG抗体,MMP-3を測定し,RAの確定診断,疾患活動性,治療について検討した.【結果】184例中RA確定診断に至った症例は80例であった.抗CCP抗体の感度は60%,特異度は89.4%,診断正確度は76.6%であり,その他のマーカーと比較し,感度は同等,特異度,診断正確度は高かった.また,初診時に診断未確定で経過中RAと診断された38例における抗CCP抗体の陽性率は55.3%であった.一方,抗CCP抗体陽性および陰性患者のDAS28ESRはそれぞれ5.16,5.34であった.【考案】抗CCP抗体は,早期RA患者でIgM-RFと同程度の感度を示し,RAの早期診断に有用であると考えられた.
症例報告
  • 園本 格士朗, 宮村 知也, 渡邉 秀之, 中村 真隆, 高濱 宗一郎, 安藤 仁, 南 留美, 山本 政弘, 末松 栄一
    2009 年32 巻2 号 p. 110-115
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は51歳女性.平成19年8月中旬より黄疸が出現.近医にて抗核抗体陽性を指摘され,24日当科紹介受診.円板状皮疹,光線過敏症,リンパ球減少(128/μl),抗ds-DNA抗体61.8 IU/ml,抗核抗体1280倍より全身性エリテマトーデス(SLE)と診断した.T.bil 19.1 mg/dl, D.bil 15.0 mg/dl, AST 1313 IU/l, ALT 374 IU/l, PT 63%と黄疸,肝機能障害を認め,自己免疫性肝炎(AIH)が疑われた.さらに,血小板減少(9.4万/μl),腎機能障害(Cr 1.7 mg/dl), ADAM-TS13活性36%より血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断した.ステロイドパルス療法,新鮮凍結血漿輸注を施行し,症状,検査所見の改善を見た.治療後に施行した肝生検ではinterface hepatitis,リンパ球優位の細胞浸潤を認め,AIHスコア20点よりAIHと確定診断した.AIH, TTPはSLEの合併症として知られているが,両者を合併した症例は稀と考えられ,文献的考察を含め報告する.
  • 田端 理英, 田端 千春, 北 祥男, 波内 俊三, 寺田 信, 永井 朝子
    2009 年32 巻2 号 p. 116-123
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      78歳,82歳という高齢発症SLE(LO-SLE)が疑われる2症例に合併した血球貪食症候群(HPS)を経験した.2例とも食思不振を主訴とし,SLEに特徴的な症状は無かった.明らかな感染の認められない発熱,血球減少,胸膜炎,心膜炎,肝障害,血液凝固異常などを呈し,骨髄穿刺にて血球貪食組織球を認め,自己抗体の存在よりHPS合併LO-SLEに矛盾しないと判断した.一例は中等量のステロイドに反応し全身状態および検査所見の改善が得られたが,他例は診断時にすでに全身状態が悪化しており,ステロイドパルス療法を施行したにも関わらず,肺炎の併発により死亡した.SLE関連HPSの多くは免疫抑制療法に反応し,その予後は他の原因によるHPSよりも良好であるとされるが,高齢者の場合は診断時すでに全身の衰弱状態にあることが多く,早期の診断と治療が不可欠であるため,LO-SLEの存在とさらにHPSの合併を常に念頭に置いて診断にあたる必要がある.
  • 岡崎 貴裕, 前田 聡彦, 井上 誠, 北薗 貴子, 柴田 朋彦, 尾崎 承一
    2009 年32 巻2 号 p. 124-128
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      移植後に発症する慢性移植片対宿主病の発現病態としては稀とされる多発性筋炎を経験した.症例は55歳,女性.T細胞リンパ腫にて実姉よりHLA一致,血液型一致の同種骨髄移植をうけた約2年後に,脱力感を主訴に近医を受診するも改善せず当院を紹介され入院した.筋力低下,筋痛,CPK値,炎症所見,筋電図より多発性筋炎と診断されたが,徒手筋力テストでの筋力低下は近位筋のみならず遠位にも及んでおり,定型的多発性筋炎の障害様式との相違がみられた.筋生検では筋萎縮や大小不同が見られたが細胞浸潤に極めて乏しい所見が得られた.治療は,プレドニゾロン(1 mg/kg/日)を開始するとともに速やかに自覚症状およびCPK値の改善を認め,原疾患である慢性移植片対宿主病に対してミゾリビン150 mg/日を追加投与することによりステロイドの漸減も可能となった.過去の報告では筋組織所見で強い細胞浸潤を認めるとした報告が多いが,慢性移植片対宿主病の病勢制御のための長期間の免疫抑制剤投与や,ステロイド治療が奏効している結果を考慮すると,細胞浸潤の有無は必ずしも筋炎の診断に決定的な根拠とはなり得ないことが示唆された.
  • 柴田 朋彦, 柴田 俊子, 尾崎 承一, 市川 陽一, 伊藤 彦
    2009 年32 巻2 号 p. 129-134
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
      74歳女性.突然発症の発熱,近位筋痛をきたしリウマチ性多発筋痛症(PMR)と診断された.側頭動脈に圧痛や拡張を認めず,眼底所見も正常であった.18F-FDG-PETを施行したところ,大動脈および両側鎖骨下動脈にFDGの集積を認め大型血管の炎症が強く疑われた.Magnetic resonance angiographyでは,両側鎖骨下動脈の狭窄を認め血管炎の所見に矛盾しなかった.本症例は高齢発症でPMRを合併,さらにHLA DR4陽性で,合併した大型血管炎は大血管型巨細胞性動脈炎(Large-vessel GCA)と考えられた.Prednisolone 20 mg/日の投与を開始し,速やかに解熱.筋痛も改善した.PMRでは側頭動脈の圧痛や拡張等の臨床症状を伴わなければGCAの診断は困難である.FDG-PETは悪性腫瘍の検索だけでなく,PMRに潜在する大型血管炎の評価に有用であると考えられた.
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