日本臨床免疫学会会誌
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33 巻, 2 号
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特集:ゲノム医科学と自己免疫疾患
総説
  • 能勢 眞人
    2010 年 33 巻 2 号 p. 43-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      膠原病の病態・病理像の多様性は,膠原病が独立した疾患の寄せ集めである為なのか否かは,Klempererによる膠原病の提唱以来未解決で重要な課題である.腎炎のみならず血管炎,関節炎,唾液腺炎などの一連の膠原病を同一個体に発症するMRL/lprマウスにおいては,突然変異遺伝子Faslprによる単一遺伝子疾患とされていたが,個々の病変の感受性遺伝子座をマッピングし,位置的候補遺伝子を解析して得た我々の結論から,膠原病の病像多様性はMatherが提唱した「ポリジーン系遺伝」の概念に従うものであった.即ち,ある閾値に規定された量的形質は単一の遺伝子(ポリジーン)のみでは発現しがたく,複数の遺伝子の組み合わせにより相補的にはじめて発現し,ポリジーンにおこる突然変異は,その作用が小さいため潜在的に変異を集団に伝え適応性の幅を広げる効果をもつ,というものである.従って,膠原病の病像の多様性は,膠原病が独立した疾患の寄せ集めであるためではなく,同義遺伝子として集団内に潜在的に分布するポリジーンの組み合わせにより必然的に生み出されるものと考えられた.膠原病のこのシステムを膠原病のポリジーンネットワークと呼ぶ.
  • 高地 雄太
    2010 年 33 巻 2 号 p. 48-56
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)は,環境因子と遺伝因子が関与する多因子疾患である.RAに特異性の高い自己抗体として抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)が知られるが,その出現の背景にはシトルリン化された自己蛋白に対する免疫寛容の破綻が起きていると考えられる.ここ数年に行われたゲノムワイド関連解析により,複数のRAの遺伝因子が明らかになったが,これらの遺伝因子のいくつかはこの免疫寛容の破綻に関与しているものと考えられる.例えば,PADI4は蛋白をシトルリン化する酵素であり,RAにおける自己抗原の産生に関わると考えられる.また,ACPAの出現とHLA-DRB1遺伝子の特定のアレルが関連することは,シトルリン化ペプチドがHLA-DRによって抗原提示されていることを示唆する.一方で,T細胞やB細胞に発現するPTPN22, FCRL3, CD244, BLK, CTLA4などの遺伝子の多型と疾患感受性の関連が報告されているが,これらの多型はRA以外にも複数の自己免疫疾患に関連し,リンパ球の自己応答性に影響を与える因子であると考えられる.このように,RAでは免疫応答の各フェーズで働く遺伝因子が積み重なることによって,免疫寛容の破綻をきたし,疾患発症へつながっていくものと考えられる.
  • 土屋 尚之, 伊東 郁恵, 川﨑 綾
    2010 年 33 巻 2 号 p. 57-65
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus, SLE)においては,1990年代から,HLA, C4, Fcγ受容体遺伝子群などの関連が確立されてきた.これに加え,2005年以降,ヨーロッパ系集団を中心とした大規模関連研究により,IRF5, STAT4, BLKなど,多くの新たな感受性遺伝子が報告されてきた.われわれは,これらの遺伝子について,日本人集団における関連を検討し,これらのいずれもが,日本人集団においてもSLEと有意に関連することから,これらは集団を超えて共通のSLE感受性遺伝子であることを明らかにした.また,同時に,IRF5は,集団におけるハプロタイプ構成の違いにより,ヨーロッパ系集団とは関連するハプロタイプが異なること,BLKSTAT4においては,一般集団中におけるリスク遺伝子型頻度が,日本人集団においてヨーロッパ系集団におけるよりも高く,集団としての遺伝的寄与度が大きいことなどの集団差が存在することも明らかになった.2009年末に,初のアジア系集団におけるSLEのゲノムワイド関連研究の成果が中国から報告されたが,これからも,集団を超えて共通の疾患感受性遺伝子と,集団特異的な疾患感受性遺伝子が存在することが確認された.
      また,IRF5, STAT4, BLKのいずれもが,全身性強皮症,関節リウマチとも関連することが見出され,複数の自己免疫疾患に共通の遺伝素因が多数存在することが明らかになった.
  • 中林 一彦, 白澤 専二
    2010 年 33 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      自己免疫性甲状腺疾患(AITD)は甲状腺機能亢進症であるバセドウ病と機能低下症である橋本病に代表される,最も頻度の高い自己免疫疾患の一つである.AITDは複数の遺伝要因と環境要因が相互作用し発症に至る多因子疾患であると考えられる.これまでに同定されたAITD関連遺伝子群は,①ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域のHLA遺伝子,②MHC領域外の免疫関連遺伝子,③甲状腺特異的遺伝子,の三群に大別できる.ゲノム関連研究により主要なAITD関連遺伝子群を網羅的に同定することは,AITD発症機構の解明のための極めて有用な基盤情報となる.近年,複数の自己免疫疾患についてゲノムワイド関連研究が実施され,多数の疾患関連遺伝子多型が新規に同定されている.本稿では,バセドウ病を対象としたゲノムワイド解析の現状,ならびに筆者らが日本人AITD症例群を対象とした連鎖・関連解析により同定したAITD関連遺伝子ZFATの分子機能について概説する.
  • 尾内 善広
    2010 年 33 巻 2 号 p. 73-80
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      川崎病(Kawasaki disease)は乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患である.症例の多くは自然軽快するが,無治療で経過した川崎病患児の約20~25%に冠動脈瘤や拡張に代表される冠動脈病変が生じ先進国における小児の後天性心疾患の最大の原因となっている.川崎病は東アジア,特に日本人に多く発症すること,同胞間の再発危険率が高いことなどから遺伝的要因が原因の一端を担っていると考えられ,その解明に向けた研究が国内外で進んでいる.我々は罹患同胞対解析と連鎖不平衡マッピングを組み合わせたゲノムワイドアプローチによりinositol 1,4,5-trisphosphate 3-kinase-C(ITPKC)が人種間に共通した川崎病の感受性遺伝子であることを発見した.ITPKCがT細胞内におけるNFATを介したサイトカイン産生に抑制的に働くこと,イントロン1に位置する機能的多型によりITPKC産物が減少するメカニズムも判り,川崎病の病態にCa2+/NFAT経路が重要であることが示唆された.Ca2+/NFAT経路を抑制するシクロスポリンA(CsA)やFK506がエヴィデンスに基づく川崎病の治療薬となる可能性を検討中である.今後はさらに検討の幅を広げ,さらなる感受性遺伝子の同定を通じ川崎病の臨床へ貢献したいと考えている.
第37回総会ポスター賞受賞記念論文
総説
  • 湯川 宗之助, 山岡 邦宏, 澤向 範文, 島尻 正平, 齋藤 和義, 田中 良哉
    2010 年 33 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      強皮症は皮膚および内臓諸臓器の線維化と末梢循環障害を主徴とする結合織疾患である.原因は依然不明で,既存のステロイドや免疫抑制剤に抵抗性であり,皮膚線維化だけでなく臓器病変も含めた治療法の確立は急務である.
      一方,マスト細胞は寄生虫に対する防御機構やアレルギー性疾患などとの関与は良く知られているが,最近になり自然免疫から獲得免疫の移行に重要である事や関節リウマチの病態にも関与し治療標的の可能性が示唆される様になっている.本稿では,マスト細胞の強皮症病態への関与について我々の知見も踏まえて概説し,マスト細胞を標的とした強皮症治療の可能性について述べる.
  • 飯塚 麻菜, 若松 英, 松本 功, 坪井 洋人, 中村 友美, 松井 稔, 住田 孝之
    2010 年 33 巻 2 号 p. 87-91
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      シェーグレン症候群(SS)は,慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とする自己免疫疾患の一つである.病理学的には,唾液腺や涙腺などの導管,腺房周囲に著しいCD4+ T細胞を主体とする細胞浸潤が認められ,腺組織の破壊と機能障害をもたらすと考えられている.SSの自己抗原の一つとしてM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)が報告されている.これまでに,SS患者において抗M3R抗体,およびM3R反応性T細胞が検出されており,M3Rに対する自己免疫応答がSSの病態に関与していることが示唆されている.
      今回我々は,マウスM3RペプチドをM3R欠損(M3R−/−)マウスに免疫し,その脾細胞をRag1欠損(Rag1−/−)マウスに移入することでSS類似の唾液腺炎を誘導した.さらに,マウスM3Rペプチドを免疫したM3R−/−マウス由来のCD3+細胞のみを移入しても,同様に唾液腺炎が誘導された.
      以上の結果より,M3Rに対する免疫応答が,SS類似の唾液腺炎を誘導することが示され,特にM3R反応性T細胞がその発症に重要であることが示唆された.
  • 住友 秀次, 山本 一彦
    2010 年 33 巻 2 号 p. 92-98
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      我々は最近,マウスにおける新規制御性T細胞群として,CD4+CD25LAG-3+制御性T細胞(LAG-3陽性制御性T細胞)を報告した.マイクロアレイ解析では,LAG-3陽性制御性T細胞は,CD4+CD25+制御性T細胞とは異なる発現パターンを示し,またアナジーの誘導に関連する遺伝子early growth response gene 2 (Egr-2) を特徴的に発現していた.また,この細胞群はTCR刺激に反応して高用量のIL-10を産生し,in vitro・in vivoでも制御性活性を示した.Egr2を遺伝子導入したCD4陽性T細胞は,IL-10を産生し,LAG-3を強く発現し,in vivoにおいて抗原特異的な免疫反応を抑制した.
      我々は,マウスのLAG-3陽性制御性T細胞に相当する細胞集団の同定をヒトのリンパ球で試みた.フローサイトメーターの解析では,CD4+CD25LAG-3+ T細胞は,ヒトでも,マウスと類似したパターンで認められた.マイクロアレイ解析と定量的PCRでは,ヒトとマウスのCD4+CD25LAG-3+ T細胞の間に多くの類似性を認めた.また,サイトカイン産生もマウスと共通していた.したがって,ヒトにおけるCD4+CD25LAG-3+ T細胞は,マウスのLAG-3陽性制御性T細胞と相同しているという可能性が考えられた.
症例報告
  • 東 直人, 神田 ちえり, 西岡 亜紀, 田中 順平, 三代 康雄, 竹原 樹里, 澤田 悠, 北野 将康, 岡部 みか, 森本 麻衣, 関 ...
    2010 年 33 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      56歳,女性.2007年1月左難聴を自覚.近医で中耳炎と診断され,局所療法と抗菌療法がなされたが症状持続.同年10月には発熱,耳漏,眩暈も加わり,当院耳鼻咽喉科を受診.耳漏よりMethicillin-Resistant Staphylococcus Aureus (MRSA)が検出され,抗菌療法が開始されたが症状は増悪したため同科入院.純音聴力検査で両側混合性難聴,CTで両側中耳,乳突蜂巣に浸出液貯留を認めた.myeloperoxidase anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody (MPO-ANCA)が高値(133EU)で,ANCA関連血管炎による病態が疑われ当科紹介.乳突洞削開術および生検を行うも有意な所見は得られなかった.感染症,中耳の構造変化,腫瘍性病変など中耳炎の原因病態は除外でき,明らかな肺・腎病変などの臓器病変は認めなかったが,MPO-ANCA高値陽性が関連した中耳炎と判断し,methylprednisoloneおよびazathioprineによる治療で,発熱,耳症状,聴力は改善し,CRPとMPO-ANCAも陰性化した.また,これら症状および所見の改善後も時に認める耳漏からは引き続きMRSAが検出されており,このことからもMRSAが主病因とは考え難かった.ANCA関連血管炎で難治性中耳炎を伴うことは稀である.本例は肺・腎病変を伴わなかったが,多彩な臓器病変を伴う全身性の病態に発展する可能性があり,また治療開始の遅れは不可逆性の耳障害を来す可能性もあるため,早期に適切な治療を開始すべきである.病理組織学的所見を得難い部位であり,中耳炎の原因としてANCA関連血管炎を念頭に置くことが早期診断に必要であると考えられた.
  • 寶來 吉朗, 宮村 知也, 平田 明恵, 中村 真隆, 高濱 宗一郎, 安藤 仁, 南 留美, 山本 政弘, 末松 栄一
    2010 年 33 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は63歳男性.2002年3月に両下腿痛,間質性肺炎及びMPO-ANCA陽性(27 EU/ml)よりANCA関連血管炎と診断.プレドニゾロン,シクロフォスファミドにて加療されたが症状は増悪寛解を繰り返し,副鼻腔炎,肥厚性硬膜炎を合併した.2006年6月38℃の発熱,全身倦怠感,両下肢,顔面の痺れ感,CRP上昇が出現.血管炎の増悪と考えステロイドパルス療法を施行.一旦軽快したものの,同年9月CRP 5.18 mg/dlと再び炎症反応の上昇を認めた.また左肺に結節影の出現を認め,先行症状と併せWegener肉芽腫症と診断.同年11月よりリツキシマブの投与を開始.以後症状,炎症反応は軽快しプレドニゾロン減量後も再燃は認めなかった.以後約1年間隔でリツキシマブの維持療法を施行中で,現在まで病勢のコントロールは良好である.本症例のような再発性,難治性のANCA関連血管炎にはリツキシマブ療法が非常に有用であると考えられた.
  • 礒田 健太郎, 塗 香子, 庄田 武司, 小谷 卓矢, 佐藤 智彦, 石田 志門, 武内 徹, 槇野 茂樹, 花房 俊昭
    2010 年 33 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は72歳,男性.2008年4月,右放線冠に脳梗塞を発症し,当院神経内科に入院となった.入院時WBC 11960/μl, CRP 12.9 mg/dlと高値であり,四肢の多発性単神経炎,腎障害を認めた.腹部CTで腎実質内に動脈瘤を認め,MPO-ANCA 330 EUと高値であり,顕微鏡的多発血管炎(Microscopic polyangiitis:以下MPA)と診断し,膠原病内科に転科となった.入院第8病日,右視床に新たな脳出血を合併したため,シクロフォスファミド200 mgの点滴静注を行い,後療法としてプレドニゾロン1 mg/kg/日の投与を開始した.治療抵抗性であったため,ステロイドパルス療法に加え血漿交換を併用したところ,MPAの改善を得た.脳血管病変はMPAに合併する重篤な症候である.MPAに脳梗塞と脳出血を同時に合併した症例は珍しく,文献的考察を加え報告する.
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