日本臨床免疫学会会誌
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33 巻, 4 号
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特集:ヒト免疫疾患研究の新展開―From clinic to bench
総説
  • 古川 福実, 吉益 隆, 金澤 伸雄
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 169-173
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      自然発症性SLEモデルマウスは,皮膚の真皮表皮の境界部に免疫グロブリンあるいは補体が沈着する(Lupus band test LBT陽性).しかし,皮疹を自然発症するSLEモデルマウスは少ない.その中で,老齢MRL/nマウスの皮膚病変は,ヒトMCTD(混合性結合織病)の皮疹の所見に酷似し,MRL/lprマウスの皮膚病変はヒトLEに類似している.モデルマウスの研究から,各ストレインにはループス易発症性の遺伝学的背景がまず存在し,その上で独自のLBTに関する遺伝学的な支配様式があること,LBTの成因には坑DNA抗体が関与していることや皮疹発症に至るには複数の遺伝子支配形式が必要であることが明らかとなっている.
  • 椛島 健治
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 174-181
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      樹状細胞は,抗原提示細胞として,免疫応答の惹起・増強に重要な役割を果たしていると従来から考えられてきた.しかし近年,樹状細胞はその分化系列,成熟段階などにより複数のサブセットに分類され,免疫応答の抑制・制御に関与するサブセットも同定されつつある.皮膚においても,定常状態・炎症状態により複数の樹状細胞サブセットが存在し,接触皮膚炎の病態形成,制御に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.接触皮膚炎は皮膚免疫反応のプロトタイプとも言える反応であり,本総論では,近年明らかにされた樹状細胞の接触皮膚炎形成における新たな役割を中心に概説する.
  • 佐藤 準一
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 182-188
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症(multiple sclerosis ; MS)は,中枢神経系白質に炎症性脱髄巣が多発し,様々な神経症状が再発を繰り返す難病である.MSでは,自己反応性Th1細胞やTh17細胞が血液脳関門を通過して脳や脊髄に浸潤し,マクロファージやミクログリアを活性化して,脱髄を惹起する.炎症が遷延化すると軸索傷害を来して不可逆的機能障害が残存する.現在まで,髄鞘や軸索の再生に有効な治療薬は開発されていない.最近,MS脳病巣の網羅的プロテオーム解析データが報告された(Han MH et al. Nature 451 : 1076-1081, 2008).Hanらはステージを確認した病巣からlaser microdissectionで分離したサンプルを質量分析で解析して,4324種類のタンパク質を同定した.彼らは慢性活動性脱髄巣(chronic active plaque ; CAP)における血液凝固系の亢進を見出し,抗凝固薬を用いてMS動物モデル自己免疫性脳脊髄炎の治療に成功した.しかしながら,凝固系以外の多くのタンパク質に関しては,MS脳分子病態における意義は明らかではない.われわれは,Hanらのデータセットを分子ネットワーク解析ツールKEGG, PANTHER, IPA, KeyMolnetを用いて再解析し,MS脳病巣プロテオームの主要分子ネットワークを調べた.その結果,CAPにおけるextracellular matrix (ECM)-integrinネットワークの中心的役割を発見した.すなわちシステム生物学の観点からは,ECM-integrinシグナル伝達系は,MSにおける炎症性脱髄遷延化抑制のための創薬標的パスウェイとなる可能性がある.
  • 長谷川 明洋, 中山 俊憲
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 189-195
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      CD69分子はc-type lectinファミリーに属するII型の膜分子で,早期活性化マーカー分子としてリンパ球の活性化の指標として広く用いられている.機能の詳細はこれまであまり明らかにされていないが,炎症局所に浸潤する炎症細胞のほとんどがCD69を発現していることから,さまざまな炎症反応の誘導・維持に重要な役割を果たしていると考えられる.著者らはこれまでに生体内でのCD69分子の役割を解析する目的でCD69ノックアウトマウスを作製し,疾患との関わりの解析を進めてきた.その結果,CD69ノックアウトマウスでは関節炎やアレルギー性喘息が起きないことを見出した.アレルギー性喘息は抗CD69抗体の投与でも抑制され,治療効果が認められた.CD69分子はその他の炎症性疾患の発症にも関与している可能性が高く,難治性の炎症性疾患に対する新規治療法の開発において新しいターゲット分子になる可能性が示唆された.
  • 大坪 慶輔, 金兼 弘和, 小林 一郎, 宮脇 利男
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 196-206
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞(Treg)とよばれる少数のCD4+CD25+ T細胞サブセットが存在する.この細胞は,自己免疫やアレルギー,炎症といった過剰な免疫反応を抑制して免疫恒常性の維持において非常に重要な役割を果たしている.Tregのマスター遺伝子としてFOXP3遺伝子が機能するという発見により,Tregの生理的意義が明確に証明され,その発生・分化と抑制機能の分子メカニズムを解明するうえで重要な進歩がもたらされた.
      このTregの欠損や機能低下によって生じる疾患がIPEX (immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, and X-linked)症候群である.この疾患は,I 型糖尿病や甲状腺機能低下症などの多発性内分泌異常,難治性下痢などを主症状とし,さらには自己免疫性と考えられる貧血,血小板減少,腎炎など多彩な症状を呈する.
      現在まで報告されているIPEX症候群の臨床像,分子学的異常とヒトTreg細胞の機能に関して概説する.
  • 唐澤 里江, 藤枝 幹也, 遊道 和雄
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 207-213
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      抗血管内皮細胞抗体 (anti-endothelial cell antibodies : AECA) は血管内皮細胞の表面抗原に対する抗体の総称である.AECAは血管炎患者に高頻度に検出され,疾患活動性や血管炎症状に関連していることが報告されている.したがってAECAは川崎病など血管炎の病因・病態形成に関与している可能性が指摘されているが,その詳細は不明である.原因としてAECAの対応抗原が未だ十分に解明されていないことが挙げられる.そこで我々は,プロテオミクスを用いて血管炎患者におけるAECAの対応抗原蛋白の検出を試みた.現在までに血管炎患者において血管内皮細胞に特異的なAECAの対応抗原候補蛋白を約150個検出し,そのうち63個の蛋白を同定した.同定蛋白の1つは抗酸化酵素のperoxiredoxin2 (Prx2)であった.我々は抗Prx2抗体が血管炎患者に高頻度に検出され,炎症性サイトカイン/ケモカインの産生やPrx2の抗酸化作用を阻害することによって血管炎の病態に関与している可能性を見出している.本稿ではプロテオミクスを用いた血管炎におけるAECAの抗原解析について概説し,AECAの対応抗原の1つであるPrx2に対する自己抗体の川崎病における臨床的意義について述べたい.
  • 山田 久方
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 214-221
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      Th17細胞は,その発見からまだ間がないものの,関節リウマチ(RA)を含む,多くの自己免疫疾患,慢性炎症性疾患の病因細胞としての位置づけが確立されていった.そして,ついにRAに対する抗IL-17抗体投与試験も行われ,先日その結果も発表されている.確かに関節炎疾患におけるTh17の重要性はマウスモデルにおいては疑いようもない.しかし,ヒト関節炎疾患におけるTh17やその関連サイトカインの関与については,まだ十分に解析されたとはいい難いのが実情であるが,それについてもあまり知られていない.また,ヒトTh17細胞自体の性質についても不明な点が多く,マウスとヒトの間でも少し異なる可能性も考えられている.本稿ではヒトTh17細胞,およびそれらの関節炎疾患との関係についての,現在までの報告を若干の考察とともに紹介する.
  • 坪井 洋人, 松尾 直美, 飯塚 麻菜, 中村 友美, 松本 功, 住田 孝之
    原稿種別: 総説
    2010 年 33 巻 4 号 p. 222-228
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/31
    ジャーナル フリー
      シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.SSでは,種々の自己抗体が検出されるが,SSに特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグループの研究で,SS患者において,抗M3R抗体はM3Rの細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.またヒト唾液腺(HSG)上皮細胞株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内Ca濃度上昇に対する抗M3R抗体の影響を解析した.抗M3R抗体の細胞内Ca濃度上昇に対する影響は,抗M3R抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.以上の結果より,抗M3R抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性が示された.抗M3R抗体はSSにおける病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる可能性も期待される.
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