日本臨床免疫学会会誌
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35 巻, 4 号
第40回日本臨床免疫学会総会抄録集
選択された号の論文の192件中1~50を表示しています
Special Lecture
  • Westley H. Reeves, Haoyang Zhuang, Yuen Xu, Pui Lee
    2012 年 35 巻 4 号 p. 263
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      Perhaps nothing better illustrates the remarkable progress of clinical immunology than the history of the Sm/RNP antigen-autoantibody system. In 1966, serum from Stephanie Smith, a young woman with SLE, revealed autoantibodies against a nuclear antigen termed “Sm”. The antigen is a complex of 11 proteins plus U1 small RNA involved in RNA splicing. Interestingly, most lupus autoantigens are RNA or DNA-protein complexes, a fact that took on added significance with the discovery that TLR7 recognizes U1RNA. Indeed, lupus autoantigens may be targeted because they carry “endogenous adjuvants”, such as U1RNA, which engage TLRs. We have studied lupus in mice treated with pristane, which is characterized by anti-Sm/RNP autoantibodies and nephritis. Both are abolished in mice lacking TLR7 or intermediates in the TLR7 signaling pathway, such IRF5, which promote interferon α (IFNα) production. Consistent with pristane-lupus, SLE is associated with genetic polymorphisms of IRF5 and overproduction of IFNα. Besides stimulating IFNα via IRF5, TLR7 signaling activates NFκB leading to proinflammatory cytokine production. This pathway is involved in the pathogenesis of hematological manifestations of lupus. Thus, the Sm antigen has moved from a serological phenomenon into the realm of molecular and immuno- biology, and back again to the patient. In 2012, the Sm/RNP system is at the cusp of exciting new developments in clinical immunology that may unravel the mysteries of autoimmune disease.
  • 中内 啓光
    2012 年 35 巻 4 号 p. 264
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      21世紀の新しい医療として体性幹細胞や多能性細胞を利用した再生医療が世界的に注目されている.代表的な多能性幹細胞であるES細胞は,試験管内での増殖能でも,また多分化能の点でも最も高いポテンシャルを持つ幹細胞であるが,受精後1週間程度の胚を利用して作製するため患者からES細胞を作ることは難しい.しかし最近,核移植することなく体細胞を初期化してES細胞と同等の能力を持つ幹細胞を誘導するiPS細胞作製技術が確立され,体細胞をES細胞と同等の能力を持つ多能性幹細胞に転換した“患者自身の多能性幹細胞”を利用する道が開けた.これにより遺伝子を修復して遺伝病を根治する遺伝子矯正治療や,iPS細胞技術を利用して抗原特異的なT細胞を若返らせてから免疫療法を行うなど,これまでは考えられなかったような新しい遺伝子・細胞治療が可能になるだろう.また,多能性幹細胞の高い増殖能を利用して血液細胞を産生し,献血に代わる安定した輸血の供給源としての利用も考えられる.
      一方で,現時点で考えられている幹細胞を利用した再生医療の多くは細胞を用いた細胞療法であって,心臓や肝臓といった実質臓器の再生は遠い将来の夢と考えられている.これは臓器の形成過程において必要とされる複雑な細胞間相互作用を試験管内で再現することは不可能と考えられているからである.しかし,臓器を再生してドナー不足を解消するということは再生医療の究極の目標の一つであることは言うまでもない.そこで我々は胚盤胞補完の原理を利用して動物個体内でiPS細胞由来の臓器を作出することを考え,遺伝子改変により膵臓を欠損するマウス(Pdx1−/−マウス)の胚盤胞にGFPでマーキングしたラットiPS細胞を移入したところ,ラットの膵臓を持つマウスが誕生し,正常に成育することを見出した.これらの結果は臓器発生過程の分子機構を理解するための新たな方法論を提供するとともに,将来的に異種動物個体内で実質臓器を再生するといった,全く新しい再生医療技術の開発に大きく貢献するものと期待される.
6学会合同特別シンポジウム
  • 住田 孝之, 坪井 洋人, 飯塚 麻菜, 浅島 弘充, 近藤 裕也, 松本 功
    2012 年 35 巻 4 号 p. 265
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)およびシェーグレン症候群(SS)は,血清中に自己抗体が存在すること,炎症局所に自己反応性T細胞が検出されることから「自己免疫疾患」と考えられている.RAおよびSSの発症機序を明らかにするために,臓器に浸潤した細胞について分子免疫学的解析により,以下の事実が明らかにされてきた.1)RAにおける関節滑膜およびSSの唾液腺にはCD4+T細胞が浸潤しており,多くはポリクローナルなT細胞だが,一部はクローナルに増殖したT細胞であった.2)少数のクローナルなT細胞が自己反応性T細胞として機能し炎症の引き金となっている可能性が推察された.3)RA滑膜局所におけるT細胞の対応自己抗原としてタイプIIコラーゲン(CII)やグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)が明らかにされてきた.一方,SS唾液腺局所においては,ムスカリン作働性アセチルコリン受容体3(M3R)が自己抗原候補として脚光を浴びてきた.4)CII,GPI,M3RのT細胞エピトープおよびアナログペプチド(APL)が判明した.5)コラーゲン誘導関節炎(CIA),GPI誘導関節炎(GPI),M3R誘導唾液腺炎(MIS)において,APLにより自己免疫性関節炎および自己免疫性唾液腺炎の予防,治療効果が認められた.
      本シンポジウムにおいては,RAおよびSSを対象として,自己反応性T細胞,対応自己抗原,T細胞エピトープ,APLを紹介し,将来の自己免疫疾患に対する抗原特異的治療戦略について概説したい.
  • 石井 優
    2012 年 35 巻 4 号 p. 266
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      破骨細胞は単球・マクロファージ系の前駆細胞からできる多核巨細胞で,「骨を貪食することに特化したマクロファージ」である.骨組織では常に,破骨細胞によって古い骨が壊されて,間葉系の骨芽細胞によって新しい骨が作られている.炎症などによりこのバランスが崩れて骨吸収が亢進すると,関節リウマチでの骨破壊につながる.生体内で最も硬質の組織である骨を破壊・吸収することのできる唯一の細胞種である破骨細胞は,これまでに分化・成熟するために必須のサイトカインや,シグナル伝達・転写制御などについて重要な基礎的研究が数多くなされてきたが,破骨細胞のin vivoでの動態・機能については依然として謎が多かった.これは,骨の中は硬い壁に囲まれた金庫の内側のようなもので,破壊せずに内部を観察することが極めて困難であったためである.演者は最近,多光子励起顕微鏡を駆使した特殊な観察系を立ち上げることにより,骨組織・骨髄腔の内部を生きたままの状態で「非破壊検査」することに世界に先駆けて成功した.本講演では,骨組織のライブイメージングの原理と方法論を概説するとともに,骨の内部を見ることができるようになって何が新たに分かったのか,特に破骨細胞の動態と機能・および免疫細胞によるその制御機構にフォーカスを当てて解説する.また,これらライブイメージングを元にした新しい研究トレンドの臨床免疫への応用性についても議論する.
  • 伊東 恭悟
    2012 年 35 巻 4 号 p. 267
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      We conducted personalized peptide vaccination (PPV) for various types of advanced cancers in the past 10 years. A maximum of four HLA-matched peptides, which were selected based on the pre-existing host immunity before vaccination, were subcutaneously administered at PPV trials. Recent study of a randomized phase II trial for patients with castration resistant prostate cancer showed the favorite clinical responses in the PPV group. PPV was also conducted for recurrent or progressive glioblastoma multiforme patients with median overall survival of 10.6 months,resulting in initiation of randomized phase III clinical trial. We also investigated immunological biomarkers in 500 advanced cancer patients who received PPV from October 2000 to October 2008. Both lymphocyte counts prior to the vaccination (P=0.0095) and increased IgG response (P=0.0116) to the vaccinated peptides, along with performance status (P<0.0001), well correlated with overall survival. Collectively, PPV could be a new treatment modality for advanced cancer patients. A randomized phase III trial is essential to prove clinical benefits of PPV.
  • 中村 哲也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 268
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      腸管上皮幹細胞研究が進むとともに,これら幹細胞を体外で培養しヒト疾患の診断・治療へ応用する技術に期待が集まっている.
      最近我々は,マウスおよびヒトの正常大腸上皮細胞の体外培養を可能とする独自の技術を確立した.この方法では,正常な大腸上皮細胞が非上皮細胞なしに,無血清培地で,3次元的に,継代操作を経て,長期にわたり培養できることが明らかとなった.また本法においては,Lgr5発現陽性の大腸上皮幹細胞が数の上で著明に増えることを見いだした.そこで,体外で大量に増やしたマウス培養大腸上皮幹細胞を用いて,上皮傷害を誘導したレシピエントマウス大腸に移植する実験系を構築した.その結果,移植した培養大腸上皮細胞が傷害部位の欠損上皮を補充しつつ粘膜修復に寄与することを明らかにした.さらに,ただ一個の幹細胞から増やしたドナー細胞の移植によって複数のマウスに移植片が生着し,かつ長期にわたってドナー細胞が移植片内で幹細胞として機能することを見いだした.
      本研究成果は,少量の組織幹細胞を体外で大量に増やし,腸管上皮傷害に対する幹細胞移植治療の資源として利用可能であることを示すものと考える.本シンポジウムではこれらの成果を提示し,内視鏡検体を用いるヒト大腸上皮幹細胞培養技術についても議論したい.
  • 相場 節也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 269
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      これまでに,我々は接触皮膚炎における感作メカニズム,また,その結果として生じる湿疹病変形成メカニズムを解析してきた.その結果,接触皮膚炎が,経皮的に侵入してくる求電子物質であるハプテンと求核物質であるペプチド,タンパク質との反応による抗原エピトープの形成と樹状細胞活性化により引き起こされる免疫反応で有ること,その結果として生じる湿疹病変(組織学的海綿状態)が,抗原特異的T細胞(Th1ないしTh2細胞)が産生するIFN-γやIL-4/IL-13に刺激された表皮細胞によるhyaluronan産生誘導とE-cadherin発現抑制を介した経皮侵入してきた有害化学物質の稀釈反応と位置付けられることを明らかにしてきた.
      近年,EUなどを中心に化粧品開発における動物実験が厳しく規制され,2013年からは動物実験を行った化粧品のEU内での販売が全面的に禁止される.我々は,感作メカニズムを解析するなかで,動物を用いずにハプテンとそれ以外の化学物質を識別する方法を開発してきた.また,最近では,それらを応用した化学物質の免疫毒性評価あるいは抗TNF-α製剤の血中濃度モニタリングなどcell based assayの開発も行っている.本シンポジウムでは,接触皮膚炎の機序の解析ならびに,それから派生したcell based assay開発にいたる経緯をお話する.
  • 神田 隆
    2012 年 35 巻 4 号 p. 270
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      神経系はバリアーで守られている.中枢神経系には血液脳関門(BBB, blood-brain barrier)と血液脳脊髄液関門(BCSFB, blood-CSF barrier)が,末梢神経には血液神経関門(BNB, blood-nerve barrier)が存在し,神経系実質への免疫系のefferent armは常にめまぐるしく変化している血流成分からシャットアウトされている.現在では,神経系は決して“immunologically privileged site”ではなく,全身免疫系の到達し得ない場所ではないとするのが一般的な認識であるが,多発性硬化症やギラン・バレー症候群など,中枢神経系・末梢神経系の自己免疫疾患特有の発症メカニズムと治療戦略を考える上で,BBB・BNBに関する知識は極めて重要である.最近の分子細胞学的研究により,BBB・BNBの主座は微小血管内皮細胞にあること,BBBはペリサイトとアストロサイト,BNBはペリサイトからのコントロールを受けており,その分子的基盤の中心はclaudin-5,occludinの2種類の膜タンパクであることが明らかになった.BBB・BNBの破綻は単核球と液性因子の神経実質内流入という2つの独立した病的過程から成っており,その分子過程の制御は今後の神経免疫疾患治療に向けたターゲットの1つである.BBB・BNBの戦略的重要性について,最新の知見を交えて概説する.
  • 田中 宏幸
    2012 年 35 巻 4 号 p. 271
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      精子は女性にとって非自己抗原を含むので,抗精子抗体が誘導され女性生殖器官内で精子を傷害し不妊症を発症する場合がある.しかし不妊症の原因となる抗原の同定はほとんど行われていない.また,抗精子抗体が血中に検出されても不妊症を発症しないこともある.その原因として,精子を傷害する補体の活性化に差がある可能性が考えられる.事実,抗精子抗体検出法のなかで,補体依存性精子不動化(SIT)が,不妊症と相関が高い.最近,ヒト不妊症患者から樹立されたモノクローナル抗体H6-3C4が,mrt-CD52分子に結合し精子を強く傷害することが報告され,mrt-CD52が不妊症の原因抗原のひとつであることが示された.さらに精製mrt-CD52は補体系の古典的経路を阻害することから,本研究では,mrt-CD52の補体制御因子としての機能を検討した.その結果,mrt-CD52はC1qと直接結合することが示された.すなわち,女性にmrt-CD52分子に対する抗体が産生された場合,補体活性制御因子の抑制が起こり,補体活性化が過剰に誘導され精子の傷害に至ると考えられた.このような抗精子抗体が産生される機序については今後の重要な課題である.また,mrt-CD52は精子に特異的な糖鎖を有するGPIアンカー型糖ペプチド分子であることが報告されているので,mrt-CD52のC1q結合部位の詳細な検討結果もあわせて紹介する.
シンポジウム
  • 村上 正晃
    2012 年 35 巻 4 号 p. 272
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症は中枢神経系の自己免疫疾患でその発症には自己反応性CD4+T細胞,特にIL-17を産生するTh17細胞やIFNgを産生するTh1細胞が関与することが示唆されています.私たちは,活性化CD4+T細胞に依存する多発性硬化症モデルやリウマチモデルの解析からこれらの病態形成には非免疫細胞にIL-6とIL-17刺激後に形成されるIL-6のポジティブフィードバックループ:IL-6アンプが重要であることを発見しました(Sawa et al. J.E.M. 2006 & Ogura et al. Immunity 2008).さらに,IL-6アンプは分子生物学的には1型コラーゲン陽性細胞に存在するNFkBとSTAT3の同時活性化で,機能的にはケモカインの局所の過剰産生機構,病理学的には局所炎症の誘導機構であることを示してきました(Murakami et al. J.E.M. 2011 & Murakami and Hirano Frontier Immunol. 2011).最近,中枢神経系の血管内皮細胞にて形成される血液脳関門に形成される自己反応性T細胞を含む免疫細胞の侵入口が過剰な神経刺激にて誘導されるIL-6アンプの過剰な活性化で生じることを発見しました(Arima et al. Cell 2012).本発表では,免疫細胞の中枢神経系への侵入口の形成とその分子メカニズムを自己反応性T細胞の侵入を例に解説します.
  • 三宅 幸子
    2012 年 35 巻 4 号 p. 273
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      自然リンパ球は,自然免疫細胞と獲得免疫細胞の中間的性質を持ち,クローン増殖を介さずに迅速にエフェクター機能を発揮し,自然免疫と獲得免疫の橋渡しを担うユニークな細胞として様々な免疫応答に関与します.これまでよく知られているNK細胞,gdT細胞,iNKT細胞に加え,Mucosal Associated Invariant T(MAIT)細胞,Natural helper(NH)細胞など新規のリンパ球が発見されています.我々は,その中でも特にiNKT細胞,MAIT細胞を中心に研究を行っています.iNKT細胞は,特異的に刺激する自然リガンドや合成リガンドの研究が進んでいます.NKマーカーを発現するT細胞であり第二のNKT細胞ともいえるMAIT細胞は,粘膜に多く存在すると考えられていましたが,ヒトの末梢血に存在するabT細胞の数%を占める大きな細胞集団であることが明らかとなり,注目を集めています.これら自然リンパ球についての基礎的研究とともに,マウス自己免疫モデルにおけるその役割,またヒト自己免疫疾患との関連について最新の知見を紹介します.また,粘膜に多いこれらの細胞は腸内細菌叢との関連も深く,自己免疫疾患における腸内細菌叢の研究についても紹介します.
  • 藤尾 圭志, 岡村 僚久, 住友 秀次, 岩崎 由希子, 岡本 明子, 松本 巧, 山本 一彦
    2012 年 35 巻 4 号 p. 274
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      これまで自己免疫応答を抑制するT細胞サブセットとして,CD4陽性CD25陽性Foxp3陽性T細胞以外の制御性T細胞の存在が推測されてきた.我々は新たにIL-10を高産生するCD4陽性CD25陰性LAG3陽性制御性T細胞を見出した.このCD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞は,アナジーと関連する転写因子Egr2を高発現し,Egr2はCD4陽性T細胞にLAG3発現とIL-10産生の形質を付与する.今回SLEモデルマウスMRL/lprマウスで細胞移入を行うと,MRL/+マウス由来のCD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞は腎炎の進行・自己抗体価の上昇を抑制したが,CD4陽性CD25陽性T細胞は抑制しなかった.さらにB6マウス由来のCD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞は,B細胞とヘルパーT細胞を移入したRAG1欠損マウスの免疫による抗NP-OVA抗体産生,胚中心B細胞の分化を抑制した.CD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞は試験管内の抗NP-OVA抗体産生も有意に抑制した.これらのことからCD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞はB細胞の抗体産生,全身性自己免疫疾患を抑制する活性を持つと考えられた.今後Egr2の発現機構を中心とするCD4陽性CD25陰性LAG3陽性T細胞の分化機構を解明することで,新たな自己免疫疾患治療法の開発につながる可能性があると考えられる.
  • 井田 弘明, 有馬 和彦, 金澤 伸雄, 吉浦 孝一郎
    2012 年 35 巻 4 号 p. 275
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      中條-西村症候群は,昭和14年に本邦で初めて報告された,皮疹,脂肪萎縮(リポジストロフィー),筋萎縮,手指を中心とした関節症状,大脳基底核の石灰化,発熱,高ガンマグロブリン血症などを特徴とする常染色体劣性遺伝形式の自己炎症症候群である.
      私たちは,最初の報告から70年目の平成21年にGeneChipアレイを用いたSNPsによるhomozygosity mappingで遺伝子座(6p21.31-32)と疾患遺伝子(PSMB8)を同定した.アミノ酸置換を伴う点変異(G201V)であり,免疫プロテアソームの一つのコンポーネントの異常でプロテアソーム形成不全をきたし,3種類のプロテアーゼ活性が低下していた.
      次に,多彩な症状を示す本疾患の病態を検討した.患者血清中のサイトカイン・ケモカインは,IL-6, IP-10, MCP-1, G-CSFが有意に上昇,患者線維芽細胞・末梢血の検討では,NF-kB非依存性であり,ユビキチン化蛋白の蓄積,リン酸化p38の蓄積(核内)を認めた.患者線維芽細胞では,LPS刺激で著明に活性酸素種(ROS)の産生・蓄積がみられた.
      近年,欧米から似た疾患(JMP症候群,CANDLE症候群)が報告され,ともにPSMB8の変異に起因するプロテアソーム機能不全症であった.世界に先駆けて本邦で発見されたこの病気の解析から,免疫プロテアソームの新しい役割が解明されつつある.
  • 中面 哲也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 276
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      自ら同定した肝細胞がんに特異的に高発現するがん胎児性抗原glypican-3(GPC3)を標的とするペプチドワクチン療法の臨床第・相試験を実施した.ワクチンの安全性と免疫学的有効性ならびに臨床効果を確認し,免疫学的および予後解析を行って,本療法が生存期間の延長においても,今後十分期待できる可能性を示すことができ,製薬企業への導出も実現した.
      ペプチドワクチン療法単独では進行がんへの効果は決して劇的とは言えないが,薬によって劇的な効果を示してもすぐに再発して生存期間の延長に寄与したかわからない場合もよくある一方,免疫療法によって長生きする患者さんもいる.さらに強力な免疫療法の開発,様々な治療との併用療法の開発も目指してはいるが,なぜこの患者には効いたのか,なぜ効かなかったのか,臨床試験からまた基礎研究のプロセスも大切である.作用機序の追求,有効な患者を予測するバイオマーカーの探索など,やるべきことはまだまだたくさんある.
      副作用のないがん特異的免疫療法は,がん治療を大きく変える可能性がある.最近ペプチドを同定する研究が減ってきたようにも見受けられるが,まだまだたくさんのペプチドを同定してたくさんの臨床試験を実施する意義もあると考える.多くの研究者が質の高い基礎研究と臨床試験を繰り返すことで,免疫療法に飢えている多くの患者さんたちに貢献できると信じている.
  • 竹内 勤
    2012 年 35 巻 4 号 p. 277
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus: SLE)の治療は,副腎皮質ステロイド,シクロフォスファミフォド,アザチオプリン,ミゾリビン,タクロリムスなどの免疫抑制薬によって進歩したものの,中長期的予後は不良であり,その治療成績は到底満足できるものではない.関節リウマチに代表される生物学的製剤治療の成功を受けて,SLEにおいても同様の分子表的探索が進められていた.患者末梢血のmRNA発現解析の結果,1型インターフェロン誘導遺伝子が明らかに亢進している事が明らかになり,それが治療標的となった.その背景や,発現解析研究などの前臨床試験について概説する.その上で,現在,治験が行われているinterferon-αに対する抗体製剤に着目し,IgG1ヒト抗インターフェロンα抗体sifalimumab,IgG1ヒト化抗インターフェロンα抗体rontalizumab,ヒト抗インターフェロン受容体抗体(MEDO-546)について,製剤の特徴,治験デザインなどについて触れたい.
  • 義江 修
    2012 年 35 巻 4 号 p. 278
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      ケモカインとは細胞遊走を誘導するサイトカインの一群で,生体の恒常性維持,炎症反応,免疫応答などで重要な役割をはたしている.ヒトでは50種近くのリガンドと18種のシグナル伝達型受容体が知られている.さらに5種の非シグナル伝達型受容体が存在する.ケモカインにはよく保存された4個のシステイン残基が存在し,1番目と3番目,2番目と4番目の間でジスルフィド結合を形成することによって安定な分子構造を形成している.そしてN端側の2個のシステイン残基の形成するモチーフからCC,CXC,CX3C,XCの4つのサブファミリーに分類される.ケモカイン系は各種の炎症性疾患の病態形成やがんの転移などに密接に関与しており,そのためケモカイン系は治療標的として高い注目を浴びてきた.特に,ケモカインレセプターはすべて細胞膜を7回貫通する3量体Gタンパク質共役型レセプターであり,このグループのレセプターからは多くの有用な薬剤が生み出されている.そのためケモカインレセプターも有望な薬剤標的と考えられ,多くの製薬会社によって薬剤開発が試みられてきた.しかしながら,ケモカインレセプターを阻害する薬剤で実際に臨床応用に至った例は極めて乏しい.本講演では最新の知見も交えてケモカイン系の様々な病態生理における役割について紹介するとともに,ケモカイン系を標的とする薬剤開発の現状と今後の可能性について考察したい.
  • 定 清直
    2012 年 35 巻 4 号 p. 279
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      チロシンキナーゼのみならず,全てのプロテインキナーゼのキナーゼドメインはアミノ酸相同性を有している.このことはあるキナーゼ阻害薬から,構造を少しずつ変化することにより他のキナーゼ阻害薬が開発できることを示しており,例としてプロテインキナーゼCの阻害薬でv-Ablにも阻害効果を持つ化合物からBcr-Ablに阻害効果を持つ化合物が開発され,さらにより特異性を高めたイマチニブ(STI-571)が開発されたことが挙げられる.このことは,in vitroで基質特異性が高い阻害薬を開発しても,in vivoでの投与例では他のキナーゼにも影響を及ぼす可能性を示唆する.近年,Sykのシグナル伝達経路についての理解が進み,細胞内に存在するSyk標的分子(アダプター蛋白質LAT)のリン酸化を指標とした新しいSyk阻害薬(R406,R788/フォスタマチニブ)が開発され,低分子化合物による関節リウマチや特発性血小板減少性紫斑病の治療の新たな展開として注目されている.ほかにも真菌やウイルス感染に対する免疫応答の調節や,乳がん,メラノーマ,急性骨髄性白血病の治療標的因子としてSykが着目されている.さらにごく最近の研究では,Sykが網膜芽細胞腫の癌遺伝子であり,網膜芽細胞腫の新規治療ターゲットであることが報告された.これは遺伝子の変化ではなく,エピジェネティックな変化により,正常組織では発現していないSyk蛋白質が,癌組織にて高発現することによるものである.
  • 山岡 邦宏, 久保 智史, 園本 格士朗, 前島 圭佑, 田中 良哉
    2012 年 35 巻 4 号 p. 280
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      JAK(Janus kinase)阻害薬トファシチニブは関節リウマチ(RA)を対象とした臨床試験において生物学的製剤に匹敵する効果がみられ,新規抗リウマチ薬として現在最も注目されている.当科にて臨床試験に参加した51名の検討では,トファシチニブ投与後より血清IL-6濃度低下,末梢血CD4+ T細胞の増殖抑制とIL-17,IFN-g産生抑制を認め,臨床効果との相関を認めた.さらに,RA患者より採取した軟骨と滑膜を免疫不全マウス皮下に移植した実験では,トファシチニブによりマウス血清中のヒトIL-6, IL-8とMMP-3はいずれも低下傾向を示し,滑膜の軟骨浸潤も濃度依存的に抑制された.滑膜より単離した線維芽細胞とCD14+単球に対する直接作用はみられず,CD4+ T細胞の増殖とIL-17, IFN-g産生を強く抑制した.さらに,CD4+ T細胞の上清を用いた培養では線維芽細胞からのIL-6と単球からのIL-8産生が抑制された.つまり,トファシチニブはCD4+ T細胞に直接作用し,増殖と共にIL-17とIFN-gの産生抑制を介して間接的に単球と線維芽細胞からIL-6とIL-8産生抑制することで抗炎症作用を発揮すると考えられた.加えて,線維芽細胞からのIL-6,CD4+T細胞からのIL-17産生,いわゆるIL-6Ampの病態を有する症例においても有効性を示す可能性が考えられた.
  • 岩倉 洋一郎
    2012 年 35 巻 4 号 p. 281
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      我々はこれまでにHTLV-Iトランスジェニック(Tg)マウスとIL-1レセプターアンタゴニスト欠損(IL-1Ra−/−)マウスの2種類の関節リウマチのモデルを作製した.両者とも,肉芽様組織の浸潤を伴う関節破壊と滑膜および関節周辺の顕著な炎症が認められ,IgGおよび2型コラーゲンに対する自己抗体価の上昇が見られた.また,IL-1およびIL-17は両モデルで関節炎の発症に重要な役割を果たしているが,IL-6およびTNFはそれぞれHTLV-I Tgモデル,およびIL-1Ra−/−モデルで発症に必要であることがわかっている.これらのモデルの関節で遺伝子発現を網羅的に解析し,C1qTNFの発現が亢進していることを見いだした.そこで,関節炎発症に於けるこの遺伝子の役割を知るために,遺伝子欠損マウス,およびTgマウスを作製した.それぞれのマウスを用いてコラーゲン誘導関節炎を誘導したところ,欠損マウスでは症状が悪化し,Tgマウスでは軽症化することがわかった.欠損マウスの血中の補体C3aレベルの亢進が認められたことから,補体系に対する作用を検討したところ,この分子は補体系の活性化を強く阻害することがわかった.また,この分子を投与することにより,コラーゲン誘導関節炎を治療できることがわかった.この結果,C1qTNFは内在性の補体系調節因子であり,抗炎症剤として有用であることがわかった.
スポンサードシンポジウム
  • 渥美 達也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 282
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      抗リン脂質抗体症候群(APS)は,自己免疫血栓症あるいは自己免疫妊娠合併症と理解され,患者血中に存在する一群の抗リン脂質抗体は病原性自己抗体であると認識されている.抗リン脂質抗体は抗原特異性は多様であるが,おもな対応抗原は,リン脂質に結合したβ2-グリコプロテインIとプロトロンビンである.
      抗リン脂質抗体測定の臨床検査はAPSの診断のためにおこなわれる.抗リン脂質抗体は免疫学的にも機能的にも多様な自己抗体群で,どのように抗リン脂質抗体を同定するかはAPSの概念の提唱以来の重大な問題であった.抗リン脂質抗体,とくに凝固アッセイでのループスアンチコアグラントは,検出アッセイの技術上の問題で偽陽性がでやすい.また,感染症や他の疾患でも一過性もしくは低力価の偽陽性をよく経験する.一方,臨床的に抗リン脂質抗体症候群を強く疑っても,現在の手法の範囲では抗リン脂質抗体を検出できないこともある.そのため,我々は抗リン脂質抗体検出の精度を常に検証していかなければならない.さらに,診断のみならず,抗リン脂質抗体のプロフィールから血栓症再発のリスクを予想することも試みられる.
      この演題では,APSの臨床的特徴を論じて,日常の診断に必要な抗リン脂質抗体検査とその解釈,現時点で可能な治療法についての知見に言及する.
  • 中嶋 蘭
    2012 年 35 巻 4 号 p. 283
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    【背景】抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異抗体であり,急速進行性間質性肺炎の頻度が高く予後不良であるなど特徴的な臨床像を示す.血清フェリチン高値・肝胆道系酵素上昇・血球減少・血清IL-6高値などからマクロファージ活性化が本抗体陽性例の病態に関連する可能性が示唆される.そこで本抗体陽性例における血清サイトカインの特徴を調べるとともに,多剤併用免疫抑制療法(新規レジメン)による効果を検討した.【方法】抗MDA5抗体陽性例(n=24)と陰性DM(n=23)の治療前血清サイトカインをELISAで測定した.抗MDA5抗体陽性例に新規レジメン(ステロイド大量・シクロスポリン・シクロホスファミド大量静注(IVCY))併用治療を適応し(n=12),従来治療群(n=14)と生存率を比較した.【結果】抗MDA5抗体陽性例は血清IL-6,IL-10,M-CSFが有意に高値を示し,IL-12,IL-22は低値を示した.同抗体陽性例において,新規レジメン治療群の生存率は従来治療群に比べて有意に高かった(6ヶ月生存率:75.0% vs. 28.6%,p=0.038).新規レジメン治療群ではIVCY後に血清フェリチンが一時的に低下し,生存例は連用により安定して低下した.【結語】抗MDA5抗体陽性例ではマクロファージ活性化病態が示唆され,早期にIVCYを中心とする多剤併用免疫抑制療法を施行するべきである.
  • 坪井 洋人, 飯塚 麻菜, 浅島 弘充, 都築 清歌, 近藤 裕也, 松本 功, 住田 孝之
    2012 年 35 巻 4 号 p. 284
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    【目的】SSにおいて,抗M3R抗体の病態的意義を明らかにする.
    【方法】
      1)M3Rの細胞外領域(N末端,第1,2,3細胞外ループ)のペプチドを抗原としたELISAで,SS42例,健常人(HC)42例の抗M3R抗体を測定した.
      2)ヒト唾液腺上皮(HSG)細胞株を抗M3R抗体陽性SS,陰性SS,HC由来IgGで12時間共培養し,塩酸セビメリン刺激後のCa-influxへの影響を検討した.
      3)M3Rの第2細胞外ループ免疫後のM3R欠損マウス由来脾細胞を骨髄腫細胞株と融合し,抗M3R2ndモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製した.培養上清からモノクローナル抗体を精製し,HSG細胞株を用いてCa-influxへの影響を検討した.
    【結果】
      1)すべてのエピトープに関して,HCと比較してSSでは抗体価,抗体陽性率ともに有意に高値であった.
      2)N末端,第1細胞外ループに対する抗体陽性SSのIgGはCa-influxを増強したが,第2細胞外ループに対する抗体陽性SSのIgGは抑制した.第3細胞外ループに対する抗体陽性SS,抗M3R抗体陰性SS,HCのIgGは影響を与えなかった.
      3)異なるCDR3領域を有する2種のハイブリドーマが作製できた.2種の抗M3R2nd モノクローナル抗体は,第2細胞外ループに対する抗体陽性SSのIgG同様,Ca-influxを抑制した.
    【結論】SSにおいて,第2細胞外ループに対する抗M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された.
  • 鈴木 重明
    2012 年 35 巻 4 号 p. 285
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      辺縁系脳炎には自己抗体が原因となる疾患があり,対応する自己抗原が次々に同定されている.代表的な疾患は2007年に報告されたグルタミン酸受容体であるN-methyl-D-aspartate receptor(NMDAR)に対する自己抗体が原因となる抗NMDAR脳炎である.卵巣奇形腫に合併することが多く,抗体エピトープはNR1と考えられており,cell based assayによる検出が行われている.
      若年女性(女性は81%)が中心で,腫瘍の合併頻度は39%,うち96%が奇形腫である.感冒様症状を前駆症状として,重篤な精神障害,記憶障害,痙攣や意識障害を呈する.しばしば顔面を中心とする不随意運動,人工呼吸管理を必要とする呼吸抑制,自律神経障害を呈する.病初期には精神疾患が疑われ精神科に入院することがあるが,呼吸抑制など全身管理が必要となりICU管理が行われる.無反応期にはcatatonic-like stageとなり,持続的な目を開閉眼させるような顔を中心として不随意運動が認められる.自律神経症状としては血圧変動,心拍数の変動,高体温,唾液過多などを特徴とする.
      無治療であっても自然回復が可能性であるが,早期の免疫治療が予後改善に重要である.ステロイド,血液浄化療法,免疫グロブリンが治療の基本であるが,難治例ではシクロフォスファミドやリツキサンも使用される.腫瘍は可能な限り早期に摘出すべきであり,摘出した奇形腫にはNMDARが発現しており,抗原提示の場になっているものと考えられる.
  • 松本 雅則
    2012 年 35 巻 4 号 p. 286
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害,発熱,精神神経症状の5徴候で有名な疾患である.無治療では致死率90%以上の予後不良な疾患であるが,血漿交換の実施により致死率が20%程度に低下する.長く原因不明であったが,von Willebrand因子(VWF)切断酵素であるADAMTS13の活性著減が病因であることが明らかとなった.ADAMTS13活性著減により,血小板との結合能が非常に強い超高分子量VWFマルチマー(UL-VWFM)が切断されずに血液中に存在し,微小血管で血栓を形成することで,TTPが発症すると考えられている.後天性TTPではADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が産生されることで同活性が著減する.自己抗体の大部分はIgG型のインヒビターであるが,少数例でIgA型やIgM型が確認されている.
      TTPにおいてもADAMTS13活性が著減しない症例が存在するが,本邦での我々の解析では,後天性特発性(ai)TTPの約69%が著減例であった.また,ADAMTS13活性が5%未満のai-TTP186例中182例(98%)でインヒビターを認めた.後天性TTPにおけるADAMTS13インヒビターの臨床的意義として,治療前にインヒビターを検出した症例では再発率が高く,インヒビター力価が高い症例ほど血漿交換への反応が悪く,早期死亡が多いこと,などが報告されている.以上のようにADAMTS13活性と自己抗体は,TTPの診断,治療および予後に関する重要なバイオマーカーとなっている.
分子標的治療薬のエビデンス・レビュー2012
  • 川上 純
    2012 年 35 巻 4 号 p. 287
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      生体の炎症反応や免疫反応の分子機構が明らかとなるに従い,それらをターゲットにした分子標的治療薬が急速にリウマチ・膠原病の分野に入ってきた.それらの多くは生物学的製剤に分類され,サイトカイン,細胞表面分子,細胞内シグナル伝達分子を抑制し臨床効果を発揮する.本レビューでは細胞表面分子,特にT細胞とB細胞に発現する細胞表面分子を標的とした治療薬について解説する.T細胞の細胞表面分子を標的とした薬剤ではabataceptがあげられる.AbataceptはCTLA4−Ig分子で,ヒトCTLA−4の細胞外部分にヒトIgG1Fc部分を結合させた融合タンパク質であり,抗原呈示細胞のCD80/86とT細胞のCD28の相互作用:CD28を介するT細胞活性化を抑制するのが主な作用と考えられている.RAに関してはいくつも臨床治験で有効性が示され,本邦においても全例調査が進行中である.B細胞表面の標的となる分子にはCD20,CD22があり,BAFF/APRILに対する中和抗体や可溶性受容体融合タンパク質もそれらが結合するB細胞の受容体からのシグナル伝達を抑制して作用を発揮する.RituximabはCD20に対するキメラ抗体であり,投与後約6ヶ月は末梢血B細胞は消失し,その後に出現するB細胞は再構築されたナイーブB細胞と報告される.Rituximab投与はCD4+T細胞減少も誘導し,B細胞の再構築とB−T細胞間相互作用の制御により薬理作用を発揮すると考えらている.BAFF/APRILの過剰産生は自己寛容の破綻を誘導し,抗BAFF抗体belimumabが,2011年に米国でSLE治療薬として承認された.現在も数種の薬剤が開発・臨床治験中であり,治療ターゲットとして注目されている.
  • 渥美 達也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 288
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      1998年,TNFの可溶性受容体であるエタネルセプトが米国で抗リウマチ薬として承認された.ほどなくキメラ化抗ヒトTNF抗体であるインフリキシマブも承認され,生物学的抗リウマチ薬の時代がはじまった.いわゆるドラッグギャップの時代を経て,ようやく我が国でも生物学的製剤が使用されるようになり,今年で10年目を迎えた.抗TNF薬の登場により,それまで考えられないような劇的な関節炎の改善効果,予想を大きく上回る関節破壊の抑制効果や骨病変の改善までもが報じられるようになった.そして,現時点で関節リウマチに対して使用可能な生物学的製剤は6剤にまで増えた.これらの薬剤をリウマチ専門医が選択して使用するために必要なのが,世界に積み重ねられたエビデンスの理解である.エビデンスを評価するために必要なのは,そのもとになった研究の背景,目的,参加した患者のプロフィール,統計解析を正しく理解することにある.発表される二次評価項目の一部の図だけを見てそれがエビデンスであると論ずると,ピットフォールに陥る可能性がある.
      このレクチャーでは,おもに2012年に発表された論文,学会発表のなかから,背景の情報が十分に得られて「批判」に耐えられると考えられるエビデンスを紹介し,その真価を議論したい.
  • 田中 栄
    2012 年 35 巻 4 号 p. 289
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      骨粗鬆症とは骨強度の低下によって骨折リスクが高まった状態である.2000年の米国NIHのコンセンサスステートメントでは,骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」であり,骨強度は骨密度と骨質の両者によって規定された.1990年代以降,多くの骨粗鬆症治療薬が登場した.中でもビスホスホネートや選択的エストロゲン受容体モジュレーターなどを代表とする骨吸収抑制薬は,綿密に計画された大規模な臨床試験によって,脆弱性骨折の発生を有意に抑制することが示された.しかしながら既存の骨吸収抑制薬による脆弱性骨折予防効果は40-50%程度と限定的であり,長期間の使用によって顎骨壊死や大腿骨の非定型的骨折などの副作用が生じることが報告されている.このような中で破骨細胞分化因子であるreceptor activator of nuclear factor kappa B ligand(RANKL)に対する完全ヒト型モノクローナル抗体であるdenosumabが開発された.Denosumabは半年に一度の皮下投与によって骨吸収を強力に抑制し,ビスホスホネートに勝る骨密度増加作用,骨折予防効果を示す.また骨形成抑制分子であるSclerostinに対する分子標的薬もあらたな骨形成促進薬として臨床開発が進んでいる.本講演ではこれらの分子標的薬について概説する.
モーニング教育講演
  • 徳久 剛史
    2012 年 35 巻 4 号 p. 290
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      生体がウイルス感染を受けると,獲得免疫系が活性化してウイルスを駆逐する(一次免疫応答).この時同時に活性化したリンパ球の一部が二次リンパ組織の胚中心(Germinal Center)で免疫記憶細胞に分化して,その後長期にわたり維持される.次に同一ウイルスの再感染により,この免疫記憶細胞が素早く活性化して効率良くウイルスを駆逐する(二次免疫応答).最近になり,自己免疫疾患や難治性アレルギー疾患などの慢性炎症性疾患は,自己抗体や高親和性のIgE抗体を産生するB細胞やプラズマ細胞が有害な免疫記憶細胞として長期にわたり生体内に生存することで,その病態が維持されると考えられるようになってきた.さらに自己抗体産生細胞の分化する場が胚中心であることも明らかにされた.私たちの教室では,胚中心における記憶B細胞や長期生存プラズマ細胞の分化と維持の機構について,胚中心形成に必須であるBCL6(転写抑制因子)のトランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作製して,その胚中心形成における機能を分子レベルで解明しようとしている.本講では,胚中心における高親和性記憶B細胞と長期生存プラズマ細胞の分化機構と,それらの長期生存機構に関する最新情報を,私たちの研究成果とともに紹介する.
ランチタイム教育講演
  • 吉村 昭彦
    2012 年 35 巻 4 号 p. 291
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      近年IL-17産生性ヘルパーT細胞Th17が発見され,IL-17を中心とした生体防御や免疫応答に注目が集まっている.IL-17は細胞外細菌や真菌の排除の他に自己免疫疾患との関連も深い.特に多発性硬化症のモデルとされる実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)はIL-23やIL-17が重要な役割を担っておりTh17発見の契機ともなった.我々は同様に脳梗塞後の脳内炎症をモデルにおいて新たな炎症スキームを確立した.脳組織に虚血が起こると,壊死に陥った組織中に血液由来の免疫細胞が多数浸潤しさらに炎症が促進される.ノックアウトマウスの解析より脳梗塞後の炎症と梗塞巣の拡大にIL-23とそれによって誘導されるγδT細胞由来のIL-17が重要な役割を果たしていることがわかった (Nature Med. 2009 15, 946-950).細胞分画の結果,IL-23は主にTLR2/4依存性に浸潤マクロファージより産生されることがわかった.脳組織が虚血によって破壊され,DMAPs(Damage-associated molecular patterns)が放出されてTLR2/4を介してマクロファージを活性化するものと考えられる.そこで脳組織抽出液よりIL-23の産生を指標に新たなDAMPsの同定を試みた結果,Peroxiredoxin(Prx)ファミリータンパク質が有力な候補としてとらえられた.Prxの中和抗体は脳虚血後の炎症と梗巣の拡大を抑制した.これらの結果よりPrxは新たなDAMPsとして機能しIL-23-IL-17軸の活性化に寄与することが明らかとなった(Nature Med 2012 in press).
  • 畠山 鎮次
    2012 年 35 巻 4 号 p. 292
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      多くの細胞内タンパク質の分解にユビキチン-プロテアソーム系が関与している.この分解系により,細胞内シグナル伝達分子や癌関連遺伝子産物などの発現量は厳密に調節されている.ユビキチンはATP依存性にE1,E2,E3という一連の酵素カスケードによって標的タンパク質に結合され,その後ユビキチン化された多くのタンパク質はプロテアソームにより分解される.したがって,特にユビキチンリガーゼE3は標的タンパク質を認識し,最終的にユビキチンを付加するため,重要な酵素サブユニットと認識されている.ヒト遺伝子上にE3と予想されるタンパク質の遺伝子は約数百あることが推測されており,今回紹介するTRIMファミリータンパク質の遺伝子も,ヒトゲノムにおいて大きな遺伝子ファミリーを形成していることが判明している.最近になり,我々はTRIM21,TRIM25,TRIM32,TRIM68及びTRIM40が,癌化や免疫反応の制御に関与することを報告している[Nature Reviews Cancer (2011); Mol Med (2012); Carcinogenesis (2011); Cancer Res (2008); Mol Immunol (2008)].今後,免疫系の制御や癌化に対するTRIMファミリータンパク質の関与が明らかとなることで,免疫疾患や癌の治療法の新規シーズとしての可能性が期待できる.
イブニング教育講演
  • 三宅 健介
    2012 年 35 巻 4 号 p. 293
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      我々の免疫機構は,病原体成分に特異的に応答し,感染防御反応を誘導する病原体センサーを有している.Toll様受容体(Toll-like receptor, TLR)はその代表的なセンサーの一つである.TLRは,その細胞内局在によって2つに大別される.細胞表面に,TLR1, TLR2, TLR4/MD-2, TLR5, TLR6, TLR10が発現し,菌体膜成分や鞭毛タンパクを認識する.一方,細胞内の小胞体やエンドソームにはTLR3,TLR7,TLR8,TLR9が発現しており,病原体由来の核酸に応答する.TLR3は2重鎖RNA,TLR7,TLR8は1重鎖RNA,TLR9は1重鎖DNAを特異的に認識する.TLRは病原体成分に特異的であると考えられてきたが,死細胞由来の成分や代謝産物にも応答し,肥満や動脈硬化など,非感染性炎症疾患に関与していることが明らかとなってきた.エンドトキシンのセンサーであるTLR4/MD-2は脂肪酸にも応答し,肥満の病態に関与していることが報告されている.一方核酸特異的なTLR7,TLR9についても,核酸に対する自己免疫応答への関与が指摘されている.TLR7,TLR9が自己核酸に応答しないように,免疫細胞は,TLR7/9の局在を厳密に制御していることが分かってきた.ここでは,TLRが如何に自己と病原体を識別しているのか,またその識別機構の破綻が,どのような病態をもたらすのか,現在明らかにされた知見を,我々のものも含めて紹介したい.
ランチョンセミナー
  • 上阪 等
    2012 年 35 巻 4 号 p. 294
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      自己免疫による組織傷害は多段階過程である.我々は,多発性筋炎(PM)のマウスモデルを開発して解析し,自己反応性T細胞活性化ばかりではなく筋組織における自然免疫系活性化が筋炎に必須であることを見出した.筋組織反応性T細胞(種seeds)の存在ばかりではなく,筋組織(土壌soil)にseedsを受容する条件付けが必要であることを示し,我々は,これを自己免疫のSeed and Soilモデルと命名した.このモデルは,PM患者で全ての骨格筋に一様に炎症があるわけではないという臨床像と符合する.
      関節リウマチでも,全関節が冒されるわけではなく,自己反応性のT,B細胞活性化に加えて,関節の自然免疫系活性化も重要と考えられる.従来の抗サイトカイン薬,そしておそらくMTX少量間歇投与も関節の自然免疫系活性化を強力に抑制して治療効果を挙げている.近年,治療選択肢に加わったCTLA4-Ig(abatacept)は,強力なT細胞活性化阻害作用で,関節炎を抑制する.その効果は,抗サイトカイン薬に匹敵するが,易感染性を招きにくく,効果が長くにわたって増強する.この治療効果は,関節リウマチではT細胞活性化が究極的には関節の自然免疫系活性化をも支配することを示している.
      自己反応性T細胞は,自己免疫の根本原因であり,その抑制は治療の鍵である.CLTA4−Igによる強力なT細胞活性化阻害は様々な自己免系疾患で効果を発揮しうると考えられる.
  • 渥美 達也
    2012 年 35 巻 4 号 p. 295
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      1998年,TNFの可溶性受容体であるエタネルセプトが米国で抗リウマチ薬として承認され,関節リウマチに対する生物学的製剤の時代が開幕した.この時代の東雲期は,疾患活動性が高い患者に対して最後の手段,「切り札」として抗TNF療法がおこなわれた.我が国での抗TNF療法の初代のガイドラインでは,腫脹・圧痛関節がいずれも6カ所以上,CRPが2.0 mg/dl以上の患者が対象,と明記されていた.しかし,世界から多くのエビデンスが報告され,我々臨床医も生物学的製剤の使用経験を積み重ねて,関節リウマチ治療に関する治療概念が急速に変遷してきた.すなわち,治療の目標は高い疾患活動性を抑えるというよりも,長期の予後を改善することであり,そのためには寛解を導入すること,そしてそれを維持することが重要である,とのコンセンサスに至った.
      最近のエビデンスで注目されるのは,PRESERVE試験である.この試験では,疾患活動性が中等度の関節リウマチ患者に対して,エタネルセプト+MTX併用投与により低疾患活動性を達成した後,エタネルセプト50 mg/週継続,25 mg/週へ減量,中止(MTX単独)の3群における経過を検討した.この試験結果を検証し,中等度活動性の関節リウマチに対する抗TNF薬の意義と適正使用について考察したい.
  • Westley H. Reeves, Shuhong Han, Jason Weinstein, Yi Li
    2012 年 35 巻 4 号 p. 296
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      Autoantibodies against the U1 snRNP (anti-Sm/RNP) are strongly associated with SLE. Interestingly, levels of anti-Sm/RNP are extraordinarily high and remain relatively constant over time. Our research is aimed at understanding how these autoantibodies are induced and why their levels remain elevated. Studies in pristane-induced lupus indicated that these autoantibodies were absent in mice lacking TLR7 or intermediates in the TLR7 signaling pathway (MyD88, IRF5, IRF7) and also in mice lacking the interferon α/β receptor. Ectopic lymphoid tissue (ELT) from mice with pristane-lupus was transplanted to naïve mice to examine development of anti-U1A (RNP) B cells. Plasma cells and/or plasmablasts (PC/PB) capable of transferring autoantibody production to the recipient mice were enriched in ELT whereas U1A-specific memory B cells were present in the spleen and bone marrow. A sensitive luciferase immunoprecipitation system (LIPS) assay was developed to show that U1A-specific memory cells and PC/PB circulate in peripheral blood of SLE patients. By treating with a TLR7 ligand, autoantibody secretion could be induced in memory B cells and enhanced in PB, but not PC or naïve B cells. In SLE patients, U1A-specific cells were mainly PB, whereas total circulating IgG secreting cells were mainly memory B cells, suggesting that there is a chronic and specific activation, possibly TLR7 mediated, of U1A-specific B cells. Consistent with that interpretation, a similar picture was seen in pristane-lupus and total PB numbers were significantly reduced in spleens of TLR7 deficient vs. wild type mice. Together, the data suggest that anti-Sm/RNP antibody levels may be maintained by chronic TLR7-mediated activation of memory B cells.
  • 桑名 正隆
    2012 年 35 巻 4 号 p. 297
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      近年,関節リウマチの治療体系が飛躍的な進歩を遂げた.病態に関わるサイトカインや免疫担当細胞を標的とした生物学的製剤の普及がこの変革の推進力となったことは間違いない.生物学的製剤が日本に登場してから8年が経過し,TNF阻害薬,IL-6阻害薬,T細胞共刺激阻害薬の計6剤の使用が可能になっている.しかし,これら製剤を用いても全ての症例で寛解が得られるわけでない.最大限の効果を得るためには,生物学的製剤の特性を理解するとともに,個々の症例のサイトカイン動態を理解する必要がある.特に投与量,間隔の調整が可能なインフリキシマブについては,病態に基づいた適切な投与調整を行う必要がある.また,生物学的製剤の安全使用のためには感染症を中心とした重篤な副作用に対する十分な管理が必要で,①投与前の結核,B型肝炎,ニューモシスチス・イロヴェチなど潜在的感染のスクリーニング,②重篤感染症のリスク因子評価,③予防投与,ワクチン接種を含めた予防措置,④投与後の定期的なモニタリング,⑤副作用発生時の迅速な対応を徹底する.生物学的製剤治療の最適化には,リスク・ベネフィットバランスを考慮した上でのきめ細やかな診療が求められる.
イブニングセミナー
  • 田中 良哉
    2012 年 35 巻 4 号 p. 298
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)は30-50歳台の女性に好発する滑膜炎を主座とする全身性自己免疫疾患である.関節破壊による変形は発症早期から進行して不可逆的な身体機能障害を齎すため,早期からの適正な診断と治療が必要である.2010年に公表された新分類基準は,破壊性で,遷延化する関節炎を分類するという基本的概念に基づいて策定された.また,関節破壊や機能障害が生じない治療目標として寛解基準が採用された.さらに,寛解という目標達成までの治療指針としてtreat to targetが提言された.日本でもMTXは16 mg/週まで増量が可能となり,通常量が使用できるようになった.日本で実施された生物学的製剤市販後調査では,MTX>8 mg/週の実臨床に於ける安全性と有効性のエビデンスが得られた.TNF阻害薬であるアダリムマブでは,十分量のMTXとの併用により高い治療効果,臨床的寛解導入率が得られ,関節破壊の制御も同様であった.さらに,臨床的寛解を維持することにより,構造的寛解と機能的寛解の長期間達成が可能となり,他の内科疾患と同様に治療のエンドポイントを生命予後に置くことも目標となってきた.さらに,バイオフリー寛解を目指す治療が展開されている.本セミナーでは,アダリムマブを中心に劇的に変化しているRAの新たな治療戦略を概説する.
Workshop
  • 吉村 怜, 磯部 紀子, 松下 拓也, 吉良 潤一
    2012 年 35 巻 4 号 p. 299a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症(MS)発症における遺伝的要因の関与は確実で,欧米白人ではHLA-DRB1*1501などのHLA class・遺伝子がMSの強力な疾患感受性遺伝子であることが以前から知られている.近年,欧米白人MSの全ゲノム関連解析が行われ,50以上のHLA領域以外の遺伝子がOdds比は小さいながらも,疾患感受性に寄与することが報告された.過去4回のMS全国臨床疫学調査により,日本人のMS有病率が30年で4倍に急増し,発症年齢が若年化していることが示された.我々は,日本人脱髄性疾患患者の遺伝的背景を調査し,以下を明らかにした.MSでは,DRB1*0405が疾患感受性遺伝子となっており,その保有者は発症年齢が早く,障害の進行が遅く比較的良性の経過をとる.若い世代ほどDRB1*0405を有するMS患者が増加していたことから,近年の日本人MS患者の増加と発症の若年化は,DRB1*0405保有者群の発症増加による可能性が考えられた.他方,日本人でもDRB1*0405を有さないMSは,DRB1*1501が疾患感受性遺伝子となっていた.IL-7受容体のシグナリングを減少させるIL-7RA rs6897932のCC遺伝子型は,DRB1*0405保有者でのみMSの疾患感受性を高めていた.血管新生を抑制するNOTCH4を不活化する変異(rs422951 Gアリル)は,MSに疾患抵抗性を付与していた.また,NMOでもMSでも共通してDRB1*0901が疾患抵抗性遺伝子となっていた.NMOでは,抗AQP4抗体陽性者でのみDRB1*1602とDPB1*0501が疾患感受性遺伝子となっていた.
  • 水木 信久
    2012 年 35 巻 4 号 p. 299b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      多因子性疾患は特定の環境的要因のもとに,複数の遺伝的要因が複雑に関与して発症すると考えられ,これら要因の詳細な解析は,疾患の分子遺伝学的発症機序の解明に大きく貢献することが期待される.しかしながら,多くの疾患において,その発症を左右する遺伝的要因(疾患感受性遺伝子)は未だ明確には決定されていない.ゲノムワイド相関解析(genome-wide association study: GWAS)とは,全ゲノム領域を網羅するように設定された多型および変異を用いて系統的に遺伝子解析を行うものであり,疾患の遺伝要因の解明に強力な検出力を持つアプローチ法である.現在,100以上の多因子性疾患がGWASにより研究され,1,000本を超えるGWAS研究に関する論文が出版されている.すべてのGWAS研究が必ずしも成功しているとは言えないが,GWASの成果は多因子性疾患の複雑な病態を解明する上で非常に有用な情報を提供し,疾患の新たな予防法および治療法の道を拓くと期待される.
      近年,私たちは,複数の多因子性眼疾患を対象に,疾患感受性遺伝子の網羅的な同定を目指してGWASを行っている.本講演では,私たちのGWASの最新の成果および進捗を述べるとともに,同定された遺伝情報をもとに,現在私たちが行っている,感受性遺伝子のKOマウスや強発現Tgマウスなど,感受性遺伝子の機能解析の戦略と進捗についても併せてお話ししたい.
  • 尾内 善広
    2012 年 35 巻 4 号 p. 300a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      Kawasaki disease (KD) is a systemic vasculitis syndrome predominantly affecting infants younger than 5 years. We have been trying to identify susceptibility genes for KD by a genome-wide approach. A linkage study of affected sib pairs and subsequent association studies using single nucleotide polymorphisms (SNPs) identified SNPs in ITPKC at 19q13.2 and CASP3 at 4q35 which confer risk for KD in the Japanese and Caucasian children. Recently we performed a genome-wide association study (GWAS) and identified 3 additional susceptibility loci for KD (FAM167A-BLK, HLAclassII and CD40). Associations of the SNPs in FAM167A-BLK and CD40 gene regions were also seen in a GWAS independently performed by a Taiwanese research group. A functional SNP of FCGR2A gene was associated with KD in a GWAS for European KD patients and we replicated the finding in our Japanese samples. Interestingly variations in FAM167A-BLK, CD40 and FCGR2A regions have been associated with several autoimmune diseases of adulthood. We believe further investigation of these loci will foster better understanding of the pathogenesis and pathophysiology of the disease.
  • 古川 宏, 島田 浩太, 杉井 章二, 松井 利浩, 池中 達央, 中山 久徳, 橋本 篤, 高岡 宏和, 有沼 良幸, 岡崎 優子, 二見 ...
    2012 年 35 巻 4 号 p. 300b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    【目的】関節リウマチ(RA)にしばしば伴う間質性肺病変(ILD)は関節外病変の一つであり,予後に関わることが知られている.RAとヒト白血球抗原(HLA)との関連についての研究は多いが,RAに伴うILDとの関連に関する報告は極めて少ない.そこで,HLAとRAに伴うILDとの関連解析を行った.
    【方法】ILDの有無が明らかなRA症例のHLAについて,関連解析を行った.
    【結果】HLA-DRB1*04, shared epitope (SE), DQB1*04はILD発症のリスクと負の関連を示し,DRB1*16, DR2 group (DRB1*15, *16), DQB1*06はILD発症と正の関連を示した.
  • 河野 晋也, 天野 浩文, 金子 俊之, 佐藤 綾, 林 青順, 広瀬 幸子, 髙崎 芳成
    2012 年 35 巻 4 号 p. 301a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    (背景)FcγRIIBは,B細胞の活性化を負にフィードバックする重要な免疫制御分子である.このFcγRIIBを野生型C57BL/6(B6)マウスで欠損したB6.FcγRIIB−/−マウスでは,リウマトイド因子(RF)の出現と関節破壊を伴う関節リウマチ(RA)の病態を呈した(Arthritis Rheum 2011).我々はこのマウスにToll様受容体(TLR)7の重複であるYaa遺伝子を導入することで病態の変化が生じるかを確認する目的でB6.FcγRIIB−/−Yaaマウスを作製し解析した.
    (方法)血清中のRF,抗ds-DNA抗体等の自己抗体をELISAで測定,腎臓の免疫組織学的検査,また脾臓細胞についてフローサイトメトリーで解析した.さらに脾臓におけるサイトカインmRNAの発現レベルをリアルタイムPCRを用いて定量解析した.(結果)B6.FcγRIIB−/−YaaマウスはB6.FcγRIIB−/−, B6, B6.Yaaマウスと比較し有意に抗ds-DNA抗体の上昇を認めた.RFはB6マウスと比較して上昇していたが,B6.FcγRIIB−/−, B6.Yaaマウスと同程度であった.6ヶ月齢で半数が蛋白尿を認め,50%生存率は約7カ月であった.腎組織ではSLE様の糸球体腎炎を呈した.脾臓ではCD69陽性B細胞の増加とICOS+PD−1+T細胞の増加を認めた.(考察)RAとSLEでは,共通の遺伝子背景が存在しTLRの刺激など,エピジェネティックな作用が加わることが自己免疫疾患の発症における疾患特異性を決定している可能性がある.
  • 鈴木 勝也, 瀬戸山 由美子, 近藤 恒夫, 吉本 桂子, 亀田 秀人, 天野 宏一, 竹内 勤
    2012 年 35 巻 4 号 p. 301b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    目的)SLE活動期の末梢血の遺伝子発現においてIFN signatureなどの異常が報告されているが,多種の細胞が混在し各細胞群の寄与度が明らかでない.
    方法)未治療活動性SLE患者,健常人の末梢血をCD4+, CD8+, CD19+, CD14+細胞に分離後,DNAマイクロアレイを用いて,網羅的に遺伝子発現量を同定した.クラスター解析,差次的遺伝子発現解析,Gene Ontology解析,パスウエー解析を施行した.
    結果)SLE患者群の遺伝子発現は,健常人と比較してIFN signatureを含め多数の差異が認められた.IFN誘導遺伝子を亜分画別に比較すると,上昇する遺伝子の種類が異なり,SLE活動期において誘導されている経路が,細胞群により異なる可能性が示唆された.Gene Ontology解析では,各亜分画において免疫関連遺伝子群を中心に多数抽出された.統合解析結果の一例としては,CD14+およびCD19+の亜分画では,プロテアソーム関連遺伝子群,HLA クラスI遺伝子群,の有意な発現上昇が認められた.SLE末梢血CD14+およびCD19+細胞では,IFNシグナルの活性化に続き,プロテアソームにより内因性抗原の分解が促進され,HLAクラスI分子による抗原提示の誘導が亢進している可能性が示唆された.亜分画の遺伝子発現の統合解析の情報は,SLEの病態および治療標的を考える上で有用と考えられた.
  • 吉崎 和幸, 谷川 美紀, 伊東 大貴, Teiwari Purapa, 宇野 賀津子
    2012 年 35 巻 4 号 p. 302a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      形質細胞型キャッスルマン病が,肥大したリンパ節から持続的にIL-6を産生する反応性のリンパ節腫大疾患であることを1989年に示した.本疾患にヒト化抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ,アクテムラ)を用いて治療した結果,臨床症状のみならず,ほとんどの検査異常の改善が見られた.このことから,本疾患がIL-6産生異常症であり,IL-6阻害による治療が可能であることを示した.しかしながら,中にはIL-6を阻害しても容易に正常化しない検査異常がみられたり,長期に亘る皮膚改善がみられない症例も存在した.このことは本疾患の病態にIL-6以外の因子の関与が示唆された.
      今回,患者血清中のサイトカインを治療前後で測定し,IL-6以外のサイトカインの産生の有無,及びIL-6に関連するサイトカイン,あるいは関連性の乏しいサイトカインの有無を検討したので報告する.また本疾患の場合,トシリズマブで長期コントロールし,異常所見が改善した症例においても,IL-6値が恒常的に高値を示した.ところで,関節リウマチの場合はアクテムラで治療開始後は上昇を示すが,症状改善と共にしだいに低下し,安定した場合は,減少し20-30 pg/l程度となる.このことは,本疾患が常にIL-6を産生し続けることが特徴で,その原因は現時点では不明である.キャッスルマン病における恒常的IL-6産生機序,ならびに本質的病因を推論する.
  • 尾崎 勝俊
    2012 年 35 巻 4 号 p. 302b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      今年に入ってカナダで正式に小児重症GVHDに対する間葉系幹細胞の使用が認められた.この世界で初めての細胞療法の使用承認を通して,今後の実地臨床での症例蓄積に期待が寄せられている.カナダに期待が集まるのは,これまで米国で少なくとも2つの第3相試験が実施されたものの,プライマリーエンドポイントで明らかな効果を示せず,FDAから承認されるに至っていないためである.試験を実施したOsiris社はこの第3相試験の結果についてサブ解析をおこなうと,肝臓と腸管のGVHDには効果が見られていると主張している.残念ながら論文化されていないため,結果を科学的に検証する術はない.この後,Osiris社は小児症例に的を絞り,カナダでの承認にこぎ着けた.一方,ヨーロッパの多施設共同第2相試験の結果は奏効率70%と良好であったにもかかわらず,その後の進展は発表されていない.この試験でも成人よりも小児で奏効率が高い傾向が見られた.ヨーロッパでの試験を推進してきた中心人物が今年の日本血液学会に招聘されており,何らかのUpdateがなされるものと思われる.日本国内では第1相試験が終了して高い効果が報告され,現在第2相試験に進んでいる.
      今回のワークショップではこれまでの臨床試験の結果を振り返りながら,間葉系幹細胞治療の未来について考える機会にできれば幸いである.
  • 桑名 正隆
    2012 年 35 巻 4 号 p. 303a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      強皮症ではレイノー現象,指尖潰瘍,肺動脈性肺高血圧症,腎クリーゼなど多彩な循環障害をきたし,時に致死的な経過をとる.病理組織学的には多臓器に細動脈~細静脈レベルでの線維性内膜肥厚による内腔狭窄,毛細血管の減少・消失を認める.従来は血管内皮傷害に着目した研究が盛んに行われ,虚血-再還流,抗血管内皮抗体,凝固線溶系アンバランスなどが主な機序と想定されてきた.一方,最近の研究から,傷害血管の修復機転が正常に機能しないことが,強皮症に特徴的な血管病変形成に深く関わっていることが明らかにされた.例えば,病変部局所でエンドスタチン,VEGF165b,MMP12など血管新生阻害因子の高発現が報告されている.我々はこれまで脈管形成や血管修復に必須な骨髄由来の血管内皮前駆細胞(EPC)の強皮症病態における役割を検討し,CD34+CD133+CD309+未分化EPCは強皮症で著明に減少し,成熟血管内皮への分化能も障害されていることを見出した.一方,CD14+CD133の単球系EPCは強皮症でむしろ増加し,血管新生より線維化を促進することを明らかにした.したがって,EPCの数,機能の是正が強皮症の血管病変に対する新たな治療戦略となる.実際,強皮症患者を対象としたオープン試験により,アトルバスタチンが骨髄から未分化EPCを動員することでレイノー症状を軽減し,手指潰瘍を予防する効果を確認した.EPCを標的とした強皮症治療の将来展望について紹介したい.
  • 宮本 正章, 高木 元, 桐木 園子, 久保田 芳明, 水野 博司, 百束 比古, 田畑 泰彦
    2012 年 35 巻 4 号 p. 303b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      再生医療としては初めて2003年6月に高度先進医療(現在は先進医療)に認可された「バージャー病,ASOによる治療抵抗性CLIに対する自己骨髄細胞移植による血管再生療法」を当院でも2002年4月より取り組み,全国3施設目として先進医療承認された(現在全国18施設の認定).当科ではプライマリーエンドポイントを自立歩行による退院としており,厚労省難治性疾患克服研究事業により適応を膠原病・アレルギー疾患(難病認定のPSS,アレルギー性肉芽腫性血管炎等)による治療抵抗性CLIにも適応拡大し,合計60例の分析では達成率88.3%(53例),平均追跡期間7.7年の経過における救肢率は77.7%,生存率は84.4%であった(9/60例下肢切断,8/60例死亡).疾患別では,ASOの予後は65.5%,ASO以外は96%であった.さらに私共は2008年内閣府先端医療開発特区(スーパー特区)採択課題での分担研究として,筋肉内注射のみで血管再生を可能とする「DDS徐放化b-FGFハイドロゲルによる血管再生療法」も現在まで15例実施し,10例での安全性・有効性を報告している(Tissue Eng 2011).特に全身性強皮症(SSc)による難治性潰瘍・壊疽症例に対する自己骨髄細胞移植による血管再生療法は,安全で有効であり,同治療法を実施した11例についての成績を報告する.
  • 佐藤 浩二郎
    2012 年 35 巻 4 号 p. 304a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      破骨細胞は骨基質を吸収するために特殊な分化を遂げた単球系の多核細胞であり,その機能の過剰が骨粗鬆症や炎症性関節炎における骨破壊の原因となると考えられている.長らく探求されていた「破骨細胞分化因子」の本態が活性化T細胞表面に発現するサイトカインRANKLであることが解明された1998年以降,破骨細胞の分化促進に活性化T細胞が関わっているという仮説が提唱された.しかし代表的なT細胞性サイトカイであるインターフェロン(IFN-)γやインターロイキン(IL-)4は強力に破骨細胞分化を抑制する.IFN-γやIL-4を産生しない新規エフェクターT細胞の存在を予想して我々はIL-17産生性細胞であるTh17を同定し報告した.実際Th17細胞は試験管内で破骨細胞の分化を促進したが,これは破骨細胞前駆細胞への直接作用ではなく,骨芽細胞を介しての間接的な作用であった.我々はサイトカインIL-17が関節滑膜細胞に与える影響を明らかにする目的でトランスクリプトーム解析を行い,IL-17がヒト滑膜細胞に各種ケモカインの発現を著明に誘導することを見いだした.一方,予想と異なりIL-17単独の刺激ではRANKLの発現は誘導されなかった.最近関節リウマチや乾癬の治療薬として抗ヒトIL-17抗体の開発が進んでいる.炎症性疾患におけるIL-17の役割を,主として破骨細胞への影響の観点から議論したい.
  • 増田 裕也, 田中 栄
    2012 年 35 巻 4 号 p. 304b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    【目的】Mcl-1はBcl-2 familyに属する蛋白の1つであり,様々な細胞においてアポトーシスを抑制する働きを持つことが知られている.しかしMcl-1の破骨細胞における働きは明らかになっていない.本研究ではMcl-1強制発現やノックダウン,ノックアウトなどの手法を用いることで破骨細胞内でのMcl-1の動態およびその働きについて検討した.
    【方法】野生型マウスから採取・培養した破骨細胞に様々なサイトカイン刺激を行い,Mcl-1タンパクの動態を評価した.Mcl-1発現レトロウイルス,アデノウイルスを用いてMcl-1を強制発現,あるいはsiRNAを用いて発現を抑制し,破骨細胞の細胞生存能・骨吸収能に与える影響を評価した.また,Mcl-1flox/floxマウスから採取・培養した破骨細胞にCre発現アデノウイルスを感染させたMcl-1ノックアウト破骨細胞においても同様の評価を行った.
    【結果および考察】M-CSF, RANKL, TNF- IL-1等の添加によって破骨細胞におけるMcl-1発現の増加がみられ,さまざまな骨代謝疾患や炎症性疾患においてMcl-1が関与している可能性が示唆された.レトロウイルスやアデノウイルスを用いてMcl-1の発現量を増加させた破骨細胞の細胞生存能は亢進したが,骨吸収能は低下した.これとは逆にMcl-1の発現量をノックダウンやノックアウトによって減少させた破骨細胞の細胞生存能は低下し,骨吸収能は亢進した.以上の結果より破骨細胞においてMcl-1は細胞生存能に対しては正の制御を行うが,骨吸収能に対しては逆に負の制御を行う事が明らかになった.
  • 八子 徹, 南家 由紀, 小竹 茂
    2012 年 35 巻 4 号 p. 305a
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
      我々は以前から,関節リウマチ(RA)と破骨細胞(Oc)の関わりについて種々の報告を行ってきた.RA滑膜にはreceptor-activator of NF-κB ligand(RANKL)を発現しているT細胞が存在し,Oc分化を直接促進する(Kotake S. 2001).さらにRANKLとIFN-γを発現しているT細胞はヒトOc分化を促進し(Kotake S. 2005),RA患者関節液中でIL-17濃度が他の関節炎に比し有意に高値であることを報告した(Kotake S. 1999).またIL-17は滑膜細胞がなくとも,ヒト単球単独の培養系から直接Oc形成および活性化を促進することを見出した(Yago T. 2009).そしてIL-17の上流に位置するIL-23も同様にヒトOc形成を促進し,抗IL-23抗体投与が関節炎モデルマウスの炎症および骨破壊を抑制することを報告した(Yago T. 2007).最近では抗リウマチ薬のtacrolimusが,ヒトTh17におけるIL-17およびTNFα発現を抑制すると報告した(Yago T. 2012).併せてT-cell leukemia translocation-associated gene(TCTA)蛋白がOc分化の過程で重要な分子であることや(Kotake S. 2009),単球上のRANK発現とOc形成効果に相関傾向があること(Nanke Y. 2009)も報告しており,これらをRAと骨免疫の視点から述べる.
  • 宇田川 信之, 小出 雅則, 中村 美どり, 高橋 直之
    2012 年 35 巻 4 号 p. 305b
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/28
    ジャーナル フリー
    【目的】歯周病では,破骨細胞が活性化され歯槽骨が吸収される.我々は,OPG遺伝子欠損(OPG-KO)マウスが著しい歯槽骨吸収を起こすことを見出した.また,OPG-KOマウスに抗RANKL抗体を投与し,歯槽骨吸収の抑制効果を検討した.【方法と結果】(1)8週齢OPG-KOマウスに抗RANKL抗体(5 mg/kg,オリエンタル酵母工業・保田尚孝博士より供与,クローンOYC1)を腹腔に1回投与し,4週後(12週齢)に歯槽骨吸収を評価した.歯槽骨をマイクロCTで撮影し,セメントエナメル境から歯槽骨頂までの距離を5点測定した.それらを合計し,歯槽骨吸収量とした.OPG-KOマウスは著しい歯槽骨吸収を起こした.抗RANKL抗体投与により,歯槽骨吸収が強く抑制された.(2)第一臼歯の根分岐部の歯槽骨量を定量した.OPG-KOマウスの歯槽骨量は正常マウスの約50%に減少していた.抗RANKL抗体投与により,歯槽骨量は約95%まで増加した.(3)歯槽骨における破骨細胞の局在を観察した.OPG-KOマウスでは,多数の破骨細胞が存在し,激しい歯槽骨吸収が観察された.抗RANKL抗体投与により,破骨細胞の数と歯槽骨吸収は共に減少した.(4)骨吸収マーカーとして血清TRAP5bを測定した.OPG-KOマウスではTRAP5b値が高値を示し,抗RANKL抗体投与によりそれは低下した.【結論】1回の抗RANKL抗体投与により,OPG-KOマウスの歯槽骨吸収は抑制された.抗RANKL抗体は,歯槽骨吸収抑制薬として歯周病治療薬となりうる.
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