日本臨床免疫学会会誌
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36 巻, 4 号
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特集:分子標的治療からみた病態へのアプローチ
総説
  • 花岡 洋成, 竹内 勤
    2013 年 36 巻 4 号 p. 181-188
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      Interferon (IFN)はウイルス増殖をInterference (干渉)する物質として発見されたサイトカインである.近年自己免疫疾患,特に全身性エリテマトーデス(SLE)においてその役割が検証されてきた.その関連転写因子であるInterferon regulatory factor 5遺伝子内の一塩基多型がSLEの疾患感受性遺伝子として同定され,IFN誘導遺伝子群がSLEで特異的に高発現する事実など,IFNαがSLEの病態に関与する可能性が示されてきた.これらの知見に基づきIFNαを標的とした生物学的製剤が開発された.現在までにSifalimumab, Rontalizumab, NNC 0152-0000-0001の3種類の製剤が開発され臨床試験を行なっている.いずれも第IからII相試験実施中であり,その安全性を中心に評価中である.SLEの治療成績は未だ十分でなく,ステロイド療法によるダメージの蓄積が総死亡率を増加させる事実より,新たな疾患修飾薬の開発が望まれてきた.このIFNα阻害療法が新たな治療戦略になりうる可能性を秘めておりここで概説する.
  • 義江 修
    2013 年 36 巻 4 号 p. 189-196
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      ケモカインは細胞遊走をおもな作用とするサイトカインの一群で,ヒトでは50種近くのリガンドが存在する.またレセプターはすべて7回膜貫通Gタンパク共役型レセプターであり,シグナル伝達型レセプターとして18種,デコイ/スカベンジャーレセプターとして5種が知られている.またケモカインは機能的に大きくおもに好中球,単球,好酸球などを遊走し,急性炎症に働く炎症性ケモカインとおもにリンパ球や樹状細胞に作用して免疫応答や慢性炎症に働く免疫系ケモカインに分けられる.そのため,ケモカイン系は各種の急性・慢性炎症や免疫疾患に対する有望な治療標的となりうると考えられ,過去20年間にわたり,ケモカインレセプターを標的とする薬剤開発が盛んに進められてきた.しかしながら,実際に臨床応用に達した例は極めて乏しい.そのおもな理由として,ケモカイン系の高度な作用的重複性とヒトとマウスの間でもみられる大きな種差があげられる.特に後者は,個々のケモカインレセプターの疾患適応性を動物実験から見極めることを困難にし,また候補薬物の前臨床試験を動物で行うことを困難にしている.そのため,ケモカインレセプターを標的とした薬剤開発の可能性はいまだ十分に見極められたとは言い難い.本稿では,それぞれのケモカインレセプターの疾患関連性を検討し,さらに実際に現在臨床応用に至っているCCR5阻害薬(Maraviroc),CXCR4阻害薬(Plerixafor),抗CCR4抗体(Mogamulizmab)について紹介したい.
  • 千原 一泰, 木村 幸弘, 本定 千知, 竹内 健司, 定 清直
    2013 年 36 巻 4 号 p. 197-202
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      Spleen tyrosine kinase(Syk)は,福井大学医学部において単離された非受容体型チロシンキナーゼである.SykはIgE受容体活性化を介したマスト細胞のヒスタミン放出やサイトカイン産生,マクロファージのファゴサイトーシス,破骨細胞の活性化,さらにB細胞の分化や活性化に必須の役割を担っている.また,最近の研究からある種の癌や自己免疫疾患,真菌やウイルス感染との関連も明らかになってきた.Sykが細胞機能の根幹に関わる重要な分子であることが次々と明らかとなるにつれ,その阻害薬の開発と種々の疾患に対する臨床応用への期待が高まっている.このような強い要望に応え,これまでに多くのSyk阻害薬が開発されてきた.しかし,そのすべてが臨床治験にまで至らなかった.ところが近年,新たなSyk阻害薬が開発され,アレルギー性鼻炎や関節リウマチへの有効性が脚光を浴びている.特にR788(フォスタマチニブ)は経口Syk阻害薬として開発され,米国において第III層試験が実施されている.本稿ではSykの発見の経緯,構造と生理機能を踏まえた上で,新しいSyk阻害薬について概説したい.
  • 佐藤 浩二郎
    2013 年 36 巻 4 号 p. 203-208
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      ヘルパーT(Th)細胞は周囲の環境に応じて各種のサブセットに分化することが知られている.2005年に報告・命名されたインターロイキン17(IL-17)産生性のTh17細胞サブセットは,炎症性疾患との関連が強く示唆されたことから精力的に解析が進められた.Th17細胞の分化条件,重要な転写因子やマウスとヒトとの異同などが次々に明らかになり,IL-17およびTh17細胞の活性化に重要とされるIL-23は創薬の有力な候補となった.実際にIL-23/IL-17連関を阻害する生物学的製剤が,特に皮膚の炎症性疾患である乾癬の治療薬として高い効果を示すことが報告され,実用化された.本稿では紆余曲折があったTh17細胞の基礎研究と,生物学的製剤開発の現況について概説する.
  • 保田 尚孝
    2013 年 36 巻 4 号 p. 209-216
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      破骨細胞分化因子RANKLの発見から15年が経過し,破骨細胞分化メカニズムの解明が飛躍的に進んだ.この発見は抗体医薬である完全ヒトRANKL中和抗体(デノスマブ)の開発につながり,2010年頃から欧米を始め,多くの国で骨粗鬆症治療薬および癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されている.日本では,2012年から癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されているが,本年3月に骨粗鬆症治療薬としても承認された.破骨細胞分化に必須の絶対的因子であるRANKLを標的にした抗体医薬の切れ味は強力であり,多くの患者にとって福音となろう.本稿ではRANKLの発見により,解明された破骨細胞分化メカニズムを紹介し,抗RANKL抗体による強力な骨量増加をマウスモデルにより解説する.RANKL中和抗体を投与するとわずか数日後には破骨細胞が激減し,骨吸収が抑制されることにより,骨量が増加する.この抗RANKL抗体により,破骨細胞を不活性化し,骨量を簡単に増加させることが可能となった.
原著
  • 松田 朝子, 有村 義宏, 吉原 堅, 駒形 嘉紀, 要 伸也, 山田 明
    2013 年 36 巻 4 号 p. 217-225
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      近年,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Eosinophilic granulomatosis with polyangitis : EGPA[Churg-Strauss症候群])の末梢神経障害に対し,γグロブリン大量療法が有効であることが示されている.しかしその報告のほとんどは急性期のEGPAを対象としており,寛解期EGPAで長期間残存する末梢神経障害へのγグロブリン大量療法の有効性は明らかでない.長期に持続する末梢神経障害の改善は困難で,生活の質の低下を招いている.そこで我々は,寛解期EGPAでも末梢神経障害が持続する症例に対しγグロブリン大量療法を施行し,その効果を検討した.【対象と方法】末梢神経障害を伴った寛解期EGPA6例(男性0例,女性6例,平均年齢:69.2±5.2歳,寛解維持期間:1か月~7年6カ月)に対し,γグロブリン400 mg/kg体重/日を5日間連日投与(点滴静注)し,投与前後で徒手筋力テスト(Manual Muscle Strength Test : MMT), Visual Analog Scale (VAS)を測定し,生活の質(quality of life : QOL),副作用について検討した.【結果】①運動神経系:四肢30箇所のMMT scoreの合計は,7例中4例で改善を認め(57.1%),平均して10.0±7.2改善した.②感覚神経系:しびれ,痛みに対するVASを測定したところ,7例中6例で改善を認めた(85.7%).γグロブリン大量療法施行前後で,VASの平均は61 mmから46 mmに改善した.③副作用:頭痛を1例に認めるのみで,投与中断例はなかった.【結論】EGPAに対するγグロブリン大量療法は,寛解期に持続する末梢神経障害に対しても安全性の高い有効な治療法と思われた.
症例報告
  • 宮前 多佳子, 井崎 桜子, 生田 孝一郎, 横田 俊平, 山中 寿
    2013 年 36 巻 4 号 p. 226-232
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/31
    ジャーナル フリー
      Chédiak-Higashi症候群は原発性免疫不全症候群のひとつに分類され,わが国では約14例の報告があるに過ぎない.臨床的には易感染性,部分白子症(特異な白銀髪,虹彩色素の減少,乳白色で,紫外線により赤味を帯びる皮膚),出血傾向,進行性神経障害を特徴とするが,accelerated phaseと呼ばれる増悪期には,発熱,脾腫,骨髄抑制などを伴う血球貪食性リンパ組織球症を併発する.また,主に顆粒球系細胞に特徴的な巨大顆粒(ライソゾーム),細胞質封入体を認める.一方,本症候群でみられる血球貪食性リンパ組織球症は原発性血球貪食症候群の一つに分類される.診断には本症候群の存在と特徴的血液像を認識することが必要である.自験例は4ヵ月の男児.発熱,哺乳力低下,肛門周囲膿瘍,肝脾腫にて入院,当初は末梢血で異型リンパ球増多(後に本疾患特有の巨大顆粒を有するリンパ球と判明)が検出され,ウイルス関連血球貪食症候群が疑われた.しかし,ASTやLDHなど細胞傷害を示す細胞逸脱酵素の変動は軽微で,血管内皮障害と凝固線溶系の破綻も急速進行性ではなく,EBウイルスなど明らかな起因ウイルスは検出されなかった.末梢血スメアで細胞内巨大顆粒を検出し,特異な白銀髪,部分白子症と,HLH-2004改定案の診断基準に基づき,血球貪食性リンパ組織球症を呈したChédiak-Higashi症候群と診断した.骨髄移植により臨床症状と検査所見の改善を得た.
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