日本臨床免疫学会会誌
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36 巻, 6 号
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総説
  • 今留 謙一
    2013 年 36 巻 6 号 p. 433-441
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      Epstein-Barr virus (EBV)はヒトヘルペスウイルスに属する腫瘍原性ウイルスとして1964年に世界で初めて報告されたウイルスである.しかし,世界の90%の成人が既に感染しており,死ぬまで何の疾患も引き起こさない場合がほとんどである.EBV感染細胞は多岐にわたり,B, T, NK細胞のいわゆるリンパ球系と上皮細胞系においてEBV感染が報告されている(Figure 1).EBV感染症の治療法・治療薬の研究はほとんどなされてこなかった.これはEBV感染モデル動物が存在していなかったことが大きな原因と言える.EBVはマウス・ラットなどの小動物には感染せず,霊長類にはわずかに感染するもののEBVに類似のサルヘルペスウイルスが既に感染していることで個別の解析が困難であることと高価なため研究に使用することが困難であった.適当なモデル動物が無かったためin vivoでの薬剤評価や感染実験ができず,感染直後のEBV特異的宿主免疫応答,EBV遺伝子発現,感染細胞動態などの研究の進展はゆるやかであった.今回我々はNOGマウスを使用しEBVがT/NK細胞感染モデルを作製し病態解明を試みた.その結果,モデルマウスはサイトカイン,感染細胞増殖,臓器への感染細胞浸潤など様々な患者病態を反映し再現していることが示された.また,これまでEBV感染T/NK細胞は白血病やリンパ腫の細胞と同様に腫瘍細胞であると考えられてきたが,このモデルマウスでの解析の結果感染初期は典型的な腫瘍細胞ではないことが明らかとなった.さらに,その応用として新規治療薬の評価,マイナー分画感染に対する感染細胞同定を紹介する.
  • 高橋 裕樹, 山本 元久, 篠村 泰久, 今井 浩三
    2013 年 36 巻 6 号 p. 442-451
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      IgG4関連疾患はグルココルチコイド(GC)が奏効することから,生命予後は良好であると推測されていたが,長期観察例の増加に伴い,臓器機能の予後に関する臨床情報が集積されてきた.これらをもとに,早期治療の必要について検討した.IgG4関連涙腺・唾液腺炎では発症後2年以内の治療開始,および臨床的寛解の維持が唾液腺分泌能の回復・維持には重要であった.IgG4関連腎臓病では治療前の推算糸球体濾過量が60 ml/分未満の場合,腎機能の回復が不十分であることから,早期の治療介入の有用性が示唆された.自然寛解率が比較的高い自己免疫性膵炎においてもGC治療が有意に再燃を抑制することが示されているが,長期例での膵萎縮,膵石形成などを伴う慢性膵炎への移行が指摘されており,治療方法や治療介入のタイミングについて検討が必要である.IgG4関連疾患は既存の慢性炎症性疾患に比較し,臓器破壊は緩徐であることが想定されるが,病変の持続により線維化の拡大とともに臓器障害が進行することより,GCなどの治療薬の副作用を考慮した上で,可及的早期の治療介入が望ましいと考えられた.
  • 山口 由衣, Carol A. Feghali-BOSTWICK
    2013 年 36 巻 6 号 p. 452-458
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      エンドスタチンは,基底膜を構成する細胞外マトリックスのXVIII型コラーゲンC末端のフラグメントであり,内在性の血管新生抑制因子として発見された.その強力な抗血管新生効果のため,悪性腫瘍に対する新薬として脚光を浴び,多くの臨床試験が行われた.一方,近年の報告において,エンドスタチンが創傷治癒における組織リモデリングや線維化にたいして,抑制的に制御する機能を持つということが言われている.我々は,エンドスタチンC末端由来ペプチドを合成し,これがtransforming growth factor-β(TGF-β)によって刺激された線維芽細胞の細胞外マトリックス産生増強反応を抑制することを見出した.さらに,ヒト皮膚を用いたex vivoモデルや,ブレオマイシンによる皮膚,肺線維化in vivoモデルにおいても線維化を抑制した.エンドスタチン由来ペプチドは,細胞アポトーシスの抑制,線維化に関わる主要な転写因子early growth response protein-1(Egr-1)の抑制,さらにコラーゲンの架橋,硬度に関わる酵素lysyl oxidase(LOX)を抑制した.有効な治療法の少ない線維化疾患において,エンドスタチンが新たな光になりうるかもしれない.本稿では,エンドスタチンに関する最近の知見および抗線維化療法の可能性について紹介する.
  • 浄土 智, 久田 諒
    2013 年 36 巻 6 号 p. 459-466
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      巨細胞性動脈炎(以下,giant cell arteritis : GCA)は50歳以上の高齢者に発症する肉芽腫性動脈炎で,側頭動脈がしばしば障害されることから以前は,側頭動脈炎(temporal arteritis)と呼ばれていた.しかしながら実際には側頭動脈以外の動脈,特に,頸動脈とその分枝,大動脈とその分枝に炎症がみられることより,近年は,その病理所見からGCAという呼称が一般的になっている.本総説の前半では,GCAの臨床病像を包括的に紹介した.一方,GCAの罹患動脈は小,中,大動脈にわたり,障害される動脈の部位もさまざまである.それゆえ,GCAは古典的な臨床像を呈するものの他に,様々な亜型も存在することが知られてきている.最近,我々は,失明以外には,他の臨床症状,陽性検査所見を欠いていたOccult GCA一例と,発熱のみを臨床症状とし,画像検査で大動脈とその分枝の壁肥厚が検出され,浅側頭動脈生検で組織学的に診断されたSilent GCAの一例を経験した.本総説の後半でこの自験例二例も紹介し,GCAの臨床像の多様性についても考案する.
症例報告
  • 上田 洋, 高橋 裕子, 山下 裕之, 狩野 俊和, 三森 明夫
    2013 年 36 巻 6 号 p. 467-472
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
    【症例】33歳女性.2004年(25歳),全身性エリテマトーデス(SLE)と診断.2007年(27歳),SLEに伴う血球貪食症候群を発症したが,免疫抑制治療により軽快した.以降,SLEの病勢は安定し,prednisolone (PSL) 5 mg/日,tacrolimus 0.5 mg/日で維持治療中であった.2012年11月,右上下肢の不随意運動(舞踏様運動,アテトーゼが混在),一時間程度の右同名半盲を自覚し,緊急入院となった.入院時,軽度の血小板減少,抗dsDNA抗体陽転化,抗カルジオリピン抗体IgG弱陽性,髄液検査で,細胞数や蛋白は正常だが,IgG index上昇を認めた.頭部MRIは,発症日は異常なかったが,7日後,左淡蒼球に急性期虚血所見を認め,責任病巣と考えた.NPSLE (Movement disorder)と診断し,ステロイドパルス療法後PSL 1 mg/kg/日,免疫抑制剤(rituximab, cyclophosphamide, mycofenolate mofetil),抗血栓療法(heparin, cilostazol),対症療法(ドパミン拮抗薬)を併用した.舞踏様症状は,部分寛解にとどまった.【考察】NPSLEの稀な一病型であるmovement disorderは,舞踏様症状が多く,抗リン脂質抗体が高率に陽性で,病態との関与が示唆されている.画像異常が稀である点を含め,虚血のみでは説明しがたい点が多く,主に免疫機序が想定されている.本症例では,免疫機序,虚血,両者の関与が示唆された点が,教訓的と考えた.
  • 佐藤 知実, 野澤 智, 金髙 太一, 菊地 雅子, 櫻井 のどか, 山崎 和子, 桃井 貴裕, 生井 良幸, 横田 俊平
    2013 年 36 巻 6 号 p. 473-477
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      血清反応陰性脊椎関節炎はHLA-B27と強い相関が見られる脊椎関節炎で長期の罹患により脊椎関節の運動制限を来たす.小児期の血清反応陰性脊椎関節炎は脊椎関節痛を訴えず四肢の関節痛から発症することが多く診断が難しい.HLA-B27陽性血清反応陰性脊椎関節炎と診断し,アダリムマブ投与により疾患活動性のコントロールを行うことができた2小児例を経験した.症例1は15歳男児.頚部痛で発症し,HLA-B27陽性,MRI検査で仙腸関節炎を認めた.血清反応陰性脊椎炎の診断でステロイドの内服を始め関節痛は消失したが,漸減により再燃しアダリムマブを導入した.症例2は9歳男児.両肩関節,両足関節,両膝関節に疼痛が出現し,多関節型若年性特発性関節炎と診断しステロイド,免疫抑制薬の内服を行ったが関節痛は改善しなかった.トシリズマブを導入し関節痛は消失しが,12歳6か月時に仙腸関節とアキレス腱付着部に疼痛を認め,HLA-B27陽性で,MRI検査で左仙腸関節炎,アキレス腱付着部炎を認めた.血清反応陰性脊椎炎の診断でアダリムマブを導入し疼痛は消失した.小児期に発症した血清反応陰性脊椎炎に対しアダリムマブ投与は有効であった.
  • 小宮 陽仁, 竹中 健智, 長坂 憲治
    2013 年 36 巻 6 号 p. 478-483
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/31
    ジャーナル フリー
      症例は35歳女性.発熱,咽頭痛,頸部リンパ節腫脹,サーモンピンク疹が出現し,白血球増加,炎症反応高値,肝機能障害,高フェリチン血症を認め,抗核抗体陰性,リウマトイド因子陰性であったことから成人発症Still病(AOSD)と診断した.グルココルチコイド(GC)パルス療法後に大量GC+シクロスポリン(CsA)が投与されたが,血球貪食症候群(HPS)を合併し,GCパルス療法を追加するも無効であり当院転院となった.転院後,再度GCパルス療法を行い,CsAをタクロリムス(TAC)に変更,さらに血漿交換療法を併用し病勢は改善した.しかし,血漿交換療法終了1週間後に微熱と炎症反応上昇を認めた.GCとTACのみでは病勢コントロール不可能と判断し,トシリズマブ(TCZ)を併用したところ症状は改善し,GCとTACの減量が可能となった.AOSDに対する生物学的製剤の有効性は多数報告されているが,HPSを合併したAOSDに対する生物学的製剤の使用に関しては,HPSを悪化させる可能性から,意見が分かれている.本症例はHPSを合併した治療抵抗性のAOSDに対するTCZの投与方法を検討するうえで貴重な症例と考えられる.
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