日本臨床免疫学会会誌
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37 巻, 3 号
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総説
  • 中村 英樹
    2014 年37 巻3 号 p. 117-124
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      シェーグレン症候群(SS)唾液腺慢性炎症の原因として,唾液腺上皮細胞の細胞死が挙げられる.Fas/Fas ligandや細胞障害性顆粒の関与が知られているが,TRAILによるミトコンドリア経路を介したアポトーシスの関与もみられ,自然免疫系では,TLR3リガンド刺激によりアポトーシス誘導がおこる.また抗アポトーシス分子発現と唾液腺より分泌されるepidermal growth factorが密接に関与していることも明らかとなった.一方,ウイルス感染とSSとの関与も以前より示唆されているが,疫学的にはHTLV-IとSSとの関連が明らかとなっており,HTLV-I関連脊髄症(HAM)においてはSS合併が高頻度である.また,抗HTLV-I陽性SS群では唾液腺破壊が生じにくく,これに異所性二次濾胞(GC)の陽性率が関与していた.HTLV-I感染細胞株HCT-5と,SS患者由来の唾液腺上皮細胞の共培養を行った.共培養上清のサイトカインアレイでは,細胞接着・遊走に関わる分子の経時的増加が観察された.また,共培養時のライセートのアポトーシスアレイでは,FasやチトクロームCなど細胞死を誘導する分子と共にHSP27など抗アポトーシス分子の発現亢進も観察されたが,この間アポトーシス増加は観察されなかった.現在これらvitroの系でHTLV-IとSS唾液腺の関連を検討中である.
  • 坊垣 暁之, 渥美 達也
    2014 年37 巻3 号 p. 125-132
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      細胞死は,発生,分化,炎症,自己免疫,発癌等,さまざまな現象に関わっている.細胞死の分子レベルの研究は,アポトーシスを中心に行われてきたが,アポトーシス以外にもプログラムされたさまざまな細胞死が哺乳類細胞で認められる.非アポトーシス型細胞死機構の中でオートファジーとネクロプトーシスにおいて分子機構が解明されつつあり注目される.オートファジーは,酵母から哺乳類に至るまで進化的に保存された機構であり生体の恒常性維持に必要である.オートファジーとヒト疾患との関係が示されており,本稿では,オートファジーの自己免疫疾患における位置づけについて概説した.
  • 花房 崇明
    2014 年37 巻3 号 p. 133-138
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      自己反応性T細胞が胸腺において負の選択(negative selection)によって除去されることで,中枢性免疫寛容は維持され自己免疫疾患の発症は回避されている.Aire(autoimmune regulator)は主に胸腺髄質上皮細胞(mTEC)の核内に発現する転写調節因子である.AireがATF7ip-MBD1複合体など他の転写調節因子と協調することで,mTECが末梢特異抗原(TSA)を発現し,TSAが自己反応性T細胞に抗原提示され,negative selectionが成立する.AireはmTECの分化にも関与しており,mTECはAireの発現消失後もpost-Aire expressing stageを持つことがLineage tracingによって,最近明らかになっている.また胸腺外の二次リンパ組織でもAireを発現するeTAC(extra-thymic Aire expressing cell)がヒトとマウスにおいて同定されている.eTACはAire依存性にmTECとは異なる独自のTSAを発現し,mTECによる中枢性免疫寛容と相補的な末梢性免疫寛容を誘導している.骨髄由来であるeTACはmTECや樹状細胞(DC)とは異なる新規の抗原提示細胞と考えられている.
  • 山本 相浩, 川人 豊
    2014 年37 巻3 号 p. 139-145
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      Allograft inflammatory factor-1(AIF-1)は,ラットの異所性心移植モデルにおいて冠動脈周囲の浸潤したマクロファージにおいて発現が認められた蛋白である.主にマクロファージによって産生され,IFN-γにより制御される.AIF-1にはさまざまなsplicing valiantsが存在し,その機能も異なることが示されている.Ca結合に関わるEF handの立体構造を有しており,その構造的特徴によって細胞増殖や遊走などの作用を示す.細胞増殖や遊走の他にも,IL-6やIL-10,IL-12,TGF-βなどの炎症性サイトカイン・ケモカインの分泌,GLUT4やIRS-1の発現低下によるインスリン抵抗性,コラーゲン産生亢進による線維化プロセスなどに関与し,関節リウマチや全身性強皮症,動脈硬化性疾患や糖尿病など様々な疾患の発症を惹起することが明らかになってきた.今後,さらにその作用機序が解明されれば,AIF-1は慢性炎症性疾患の治療ターゲットになる可能性を秘めている.
第41回総会ポスター賞受賞記念論文
  • 林 幼偉, 三宅 幸子, 山村 隆
    2014 年37 巻3 号 p. 146-153
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      免疫システムは複雑で様々な炎症性細胞や制御性細胞が存在してネットワークを形成している.自己免疫疾患は炎症性因子と制御性因子のバランスの破綻により発症するが,疾患ごとで異なるパターンで関与している.多くの自己免疫疾患が慢性に進行するが,そのメカニズムはまだ詳細が明らかになっていない.顕著な抗炎症作用を有する生物学的製剤は特異性が高く画期的だが,万能ではなく,治療手段によっては予想外の反応を示すこともあり,疾患活動性を完全に阻止するわけではない.また抗原特異的な治療は阻止効果が期待できる反面,自己免疫疾患は疾患ごとで抗原が多岐にわたり,汎用性に乏しい.さらに制御性細胞を利用する治療も有望だが,可塑性の点など未解決の部分がある.自己免疫疾患の一つである多発性硬化症(MS)は再発・寛解を繰り返しながらやがて進行するという特徴的な経過をとるが,その代表的モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の研究は,歴史を紐解くと免疫学の発展に深く関与していることが分かる.再発・寛解のメカニズムの解明を通じてMSのモデルとしてのみでなく,上記治療の補完として自己免疫疾患の治療手段の多様化を期待したい.
  • 瀬理 祐, 庄田 宏文, 松本 功, 住田 孝之, 藤尾 圭志, 山本 一彦
    2014 年37 巻3 号 p. 154-159
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は全身の慢性,破壊性の多関節炎を主症状とする代表的な自己免疫疾患である.病態形成において様々な遺伝,環境因子の関与が示唆されているが,依然として詳細な機序は不明である.最近,RAの疾患感受性遺伝子として約100種類が報告されたが,Peptidylarginine deiminase type4PADI4)はRAのgenome-wide association studyによってnon-MHC遺伝子のRA感受性遺伝子として本邦より初めて報告され,様々な疾患の遺伝学的解析と併せてRAとの特異的な関連が示唆されている.現在,PADI4はアジア人や欧米人の一部でもRAとの関連が示され,アジア人ではanti citrullinated peptide antibody(ACPA)の有無に関わらず骨破壊の危険因子となることも報告された.PADI4遺伝子はシトルリン化による翻訳後修飾能を有するPAD4蛋白をコードする.PADI4は骨髄球,顆粒球といった血球系細胞で特異的に発現している.PADI4のRA感受性ハプロタイプではmRNAの安定性が増すことでPAD4蛋白が増加することが示唆されている.従来,RAにおけるACPAの特異性から,PAD4蛋白の増加に伴うシトルリン化蛋白の過剰産生とACPAの誘導といった仮説が注目されてきた.しかし,PADI4は核内移行シグナルを有することで様々な遺伝子発現の制御やneutrophil extracellular trapsの形成に関与し,RAの病態形成において多彩な役割を担う可能性が示唆される.本項ではPADI4の機能とRAにおける役割のまとめ,考察を行う.
  • 佐々木 貴史, 塩濱 愛子, 天谷 雅行
    2014 年37 巻3 号 p. 160-165
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      Flaky tailマウスは,体毛異常(matted: ma)及び角層異常(flaky tail: ft)の2種の常染色体劣性変異(ft, ma)を有し,SPF環境下でも血中IgE高値を伴う皮膚炎を自然発症するマウスである.著者らは,flaky tailマウスが角質層主要構成タンパク質の1つFilaggrin(Flg)の機能喪失変異を有しており,角質層バリア異常を示すことを明らかにした.しかし続いて作出したFlg欠損マウスは皮膚炎を自然発症しなかった.そこでftma変異を分離した結果,flaky tailマウスの自然発症皮膚炎の原因はma変異であり,ma変異は新規皮膚バリア遺伝子Tmem79ナンセンス変異(Tmem79ma)であることを明らかにした.このTmem79は表皮顆粒層最上層細胞に発現し,ma変異マウスでは角質層成熟タンパクの分泌及び角質層形成に異常が見られた.以上の結果から,著者らはTmem79ma/maマウスは皮膚バリア遺伝子欠損が原因となる皮膚炎を自然発症するモデルであるを示した.このマウスの解析により,皮膚バリア異常による自然発症皮膚炎の発症機構の一端が解明されると期待される
  • 寺尾 知可史, 吉藤 元, 三森 経世, 松田 文彦
    2014 年37 巻3 号 p. 166-170
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      高安動脈炎は本邦から報告された大動脈とその第一分枝を炎症の首座とする血管炎であり,若年女性に好発する.高安動脈炎の患者数は本邦で6000-10000人程度と推定されている.症例数の少なさが遺伝子解析の進展を難しくしているが,その遺伝因子としてはHLA領域の関連が最も知られている.HLA領域の中で,HLA-B領域が最も強く高安動脈炎の疾患感受性に関連する.HLA-B52:01は古くから知られた関連アレルである.HLA-B52:01以外の確たるアレルは同定されてこなかったが,近年,比較的まれなアレルであるHLA-B*67:01が疾患感受性に関連することが独立した二施設から報告された.また,疾患感受性に重要なアミノ酸が二カ所報告された.これら171番目と,67番目のアミノ酸はHLA-B分子のペプチド結合部位に存在しており,抗原結合の変化が高安動脈炎疾患感受性に重要であることが示唆される.これらの結果から,67番目のフェニルアラニンを持つHLA-B*51:01が高安動脈炎に関連を示さない理由が説明可能であると思われる.HLA-B領域以外の関連も示唆されており,さらなる解析が期待される.
  • 吉本 桂子, 倉沢 隆彦, 鈴木 勝也, 竹内 勤
    2014 年37 巻3 号 p. 171-175
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      インテグリンファミリーのαEβ7(CD103)はE-カドヘリンをリガンドに持ち,αEサブユニットとβ7サブユニットからなるヘテロダイマーである.αEβ7は腸管リンパ球に多く発現しているが,近年,腸管のみならず扁桃腺のリンパ球,あるいは制御性T細胞や樹状細胞でも発現していることが明らかになり,その免疫制御機構における役割が注目されている.αEβ7はE-カドヘリンとの結合を介し,腸管の免疫機構に大きく寄与していることが知られているが,αEβ7とE-カドヘリンの結合による細胞接着が炎症に伴う上皮組織傷害に関与している可能性が示唆されている.著者らはEC1~EC5ドメインからなるヒトE-カドヘリンにおいて,EC5がαEβ7との結合に必須であることと,αEβ7の発現機構にはtransforming growth factor-β1(TGF-β1)とSmadを介した経路が関与し,全身性エリテマトーデス(SLE)患者の末梢血リンパ球では健常人と比較してPHAによる著しく強いαEβ7の発現誘導が認められることを見出し,炎症性疾患においてはT細胞におけるαEβ7発現機構に異常がある可能性を示した.以上のことから,αEβ7とE-カドヘリンの結合を選択的に阻害する物質やαEβ7発現を抑制する物質が種々の炎症性自己免疫疾患の治療薬の標的分子の一つになりうると考えられる.
症例報告
  • 池川 健, 山崎 和子, 西村 謙一, 金高 太一, 菊地 雅子, 野澤 智, 原 良紀, 佐藤 知実, 櫻井 のどか, 横田 俊平
    2014 年37 巻3 号 p. 176-182
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      症例は14歳男児.1か月以上続く弛張熱,紅斑,関節痛,筋痛を認め,抗菌薬投与では改善せず,全身型若年性特発性関節炎(JIA)を疑われた.メトトレキサートの内服,メチルプレドニゾロン(mPSL)・パルス療法2クールが行われたが,効果不十分であったため当科へ転院となった.骨髄検査で悪性所見なく,positron emission tomography(PET)で椎体骨,骨盤骨,上腕骨近位端など赤色髄への18F-FDG集積を認めた.また弛張熱,発熱時の紅斑,関節痛,筋痛があり,血液検査では白血球増多,顆粒球増多,CRP高値,フェリチン高値,IL-6高値を認めた.以上から全身型JIAと診断した.きわめて強い全身炎症があり,mPSLパルスをさらに2クール追加後,トシリズマブ(TCZ)を導入した.その効果は著しく,症状は改善した.激しい全身炎症を有する全身型JIA重症例には,トシリズマブ導入を早めることで早期に炎症を沈静化でき,ステロイドの副作用を軽減できる可能性がある.トシリズマブ治療のさらなる検討を行い,時期を違えずにトシリズマブを導入する適応の検討が必要であろう.
  • 佐藤 ルブナ, 佐藤 洋志, 西脇 農真, 横江 勇, 鶴田 信慈, 原岡 ひとみ
    2014 年37 巻3 号 p. 183-188
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
      症例は44歳,女性.2012年11月初旬から発熱,咳嗽が増悪し,11月下旬に意識障害を契機に当院搬送となった.初診時Ⅰ型呼吸不全,ショックを呈しており,両側中下肺野の湿性ラ音,右不全片麻痺,頭頚部や四肢に多発する紅斑と紫斑が認められた.肝腎機能障害,炎症反応上昇,凝固線溶系の顕著な異常,脳梗塞,両肺下葉の浸潤影を認め,重症肺炎や劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)に伴う多臓器障害,播種性血管内凝固を疑い加療を開始.シプロフロキサシン,ドリペネム,トロンボモジュリン,アンチトロンビンIIIの投与に加え,メチルプレドニゾロンパルス療法を行った.抗菌薬投与により炎症反応の改善を認め,入院時の抗リン脂質抗体価が正常であったため,CAPSは否定的であると考えプレドニゾロン投与を中止した.しかし,第7病日の検査にて抗カルジオリピンIgM抗体価が上昇しており,その後の再検査で抗カルジオリピンβ2GPI抗体価の一過性の上昇を認めた.さらに,第8病日に凝固線溶系の改善に相応しない血小板減少,肺胞出血が出現.CAPSの診断のもと,メチルプレドニゾロンパルス療法を行った後,プレドニゾロン投与を継続.炎症反応,呼吸不全,血小板減少の改善を認め,第12病日に抜管した.
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