β2-glycoprotein I(β2GPI)は抗リン脂質抗体(aPL)の主要抗原であり,また,抗リン脂質抗体症候群(APS)の疾患感受性にHLA class II(HLA-II)遺伝子多型が関与する.しかし,HLA-II分子が疾患感受性を制御する機序については不明である.
最近,MHC-IIがペプチドへの分解を免れたmisfolded蛋白を提示し,B細胞を直接活性化する機構が報告された.今回,この新規抗原提示機構とAPSの病因・病態との関連を解析した.
初めに,β2GPIとHLA-IIを共発現させた293T細胞を用いた免疫沈降により,full-lengthのβ2GPIとHLA-IIが複合体を形成していることを確認した.さらに,ヒトaPLモノクローナル抗体とAPS患者血清中の自己抗体がβ2GPIとAPS疾患感受性アレルであるHLA-II(HLA-DR7, DR4)の複合体に対して高い結合親和性を有することが分かった.また,流産組織を用いた蛍光免疫染色により,APS患者の脱落膜血管内皮細胞にβ2GPIとHLA-DRが共発現していることを明らかにした.APS患者120名の血清中のβ2GPI/HLA-DR7複合体に対する自己抗体の抗体価をFlow cytometry法で測定したところ,APS患者の約80%で陽性で,さらに,抗カルジオリピン抗体や抗β2GPI抗体が陰性であるAPS患者の約半数で本自己抗体が陽性となった.また,ヒトaPLモノクローナル抗体はβ2GPI/HLA-DR7発現細胞に特異的に補体依存性細胞障害を誘導した.
APS患者血清中に,misfolded β2GPI/HLA-II複合体に対する自己抗体が存在することを初めて明らかにした.この自己抗体によって血管内皮細胞が障害され,血栓症や流産を惹起さるというAPSの新しい病態が示された.
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