日本臨床免疫学会会誌
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39 巻, 4 号
第44回日本臨床免疫学会総会抄録集
選択された号の論文の209件中1~50を表示しています
会長講演
  • 河上 裕
    2016 年 39 巻 4 号 p. 286
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      私は大学卒業後,なんでもできる内科医を目指したが,実は多くの患者さんを治す方法がないこと,その解決のためには研究が重要性であることを痛感した.当時,魅せられた「がん遺伝子発見によるがんの解明と治療の可能性」と「Flow cytometryを用いたヒト免疫サブセット同定による免疫疾患の解明と治療の可能性」に関わる血液感染リウマチ内科に入局した.その後,ヒト疾患の免疫制御に興味をもち,米国で研究することになった.NCI-NIHでは,Steven Rosenberg博士から,免疫介入臨床試験症例の臨床検体を用いたヒト免疫応答研究,その結果に基づいたマウスモデルを用いたin vivo免疫応答研究,さらに新しい臨床試験の実施と評価,このサイクルをくり返すTranslational Researchの重要性を,またCaltechでは,Leroy Hood博士から,医学・生命科学の重要な問いに答えるためには,新規技術を開発することの重要性を教えられた.実際,Caltechでは,後のヒトゲノム計画の推進を可能にしたfluorescent DNA sequencerが開発されていた.私はヒトがん免疫応答を細胞・分子レベルで解明することに力を注ぎ,ヒト悪性黒色腫では腫瘍抗原特異的なT細胞ががん細胞排除に関与することを明らかにしていったが,この数年,免疫チェックポイント阻害剤,あるいは培養T細胞利用養子免疫療法として,抗腫瘍T細胞を制御するがん免疫療法は実用化された.一方,現在の免疫療法は皆に効くわけではなく,heterogeneityが強いヒトがん免疫病態の解析を通じて,個別化医療を可能にするバイオマーカーの同定や新規治療標的の同定と制御法の開発が期待されている.このためには,今,改めて,免疫介入臨床試験の臨床検体を用いた解析,特に学習型スーパーコンピューターをも用いた多層オミクス解析などの新技術を駆使することの重要性を痛感している.また,免疫病態は,いわゆる免疫疾患(感染症,自己免疫,アレルギー,移植,がん)を超えて,メタボリック症候群や動脈硬化などの代謝疾患・生活習慣病,あるいは神経変性症や痴呆症,さらに老化など,多様なヒト疾患・病態で重要なことが明らかになりつつある.ヒト免疫病態の解明は本当に重要である.

      日本臨床免疫学会は,疾患横断的かつ異分野横断的に,臨床免疫学,すなわちヒト免疫学の理解とその臨床応用を議論する場として,医学・生命科学において益々重要な学会となっている.

シンポジウム
  • 澁谷 彰, 小田 ちぐさ
    2016 年 39 巻 4 号 p. 287
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      腸管,皮膚,気管などのバリア組織は上皮細胞で覆われ,異物や病原体の侵入を防いでいる.一方,これらの上皮には多数の常在細菌叢が棲息し,免疫システムの発達と維持に重要な役割を担い,そのバランスの乱れが種々の疾患にも繋がることが明らかにされつつある.これらのバリア組織では,常に無数の上皮細胞が死に絶えていく一方,新しい上皮細胞が新生される.しかし,上皮の細胞死とそのターンオーバーの制御機構は充分には明らかになっていない.また,死んだ上皮細胞は貪食されずに,便,垢,痰などに排泄されていくが,この様な死細胞に生理的な働きがあることなど考えられてこなかった.

      我々は,自然免疫応答を担う骨髄球系細胞の活性化を正または負に制御する免疫受容体であるCD300ファミリーを同定し,その機能を解析してきた.そのうち,CD300aはアポトーシスに陥った細胞膜上に表出するホスファチジルセリン(PS)をリガンドとして特異的に結合し,骨髄球系細胞の活性化を抑制する.最近我々は,常在細菌がバリア組織の樹状細胞を刺激し,制御性T細胞を増加させる一方,同時に上皮の細胞死を誘導し,樹状細胞に発現するPS受容体であるCD300aを介して,樹状細胞の活性化と制御性T細胞の増殖を抑制する経路を発見した.これら経路は,腸炎,アトピー,喘息などの病態に関与した.これは常在細菌叢によるバリア組織の恒常性維持機構のひとつと言える.

  • 岩倉 洋一郎
    2016 年 39 巻 4 号 p. 288
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      βグルカン(BG)は,真菌の細胞壁の構成成分であり,漢方薬や機能性食品として利用されているにも拘らず,これまで生体での働きはよくわかっていない.今回,我々はBGの受容体であるデクチン1の遺伝子欠損マウスを用いて,潰瘍性大腸炎のモデルであるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎を誘導したところ,大腸炎に耐性である事を見出した.この時,デクチン1シグナルは大腸で抗菌蛋白質(S100A8)の分泌を促し,腸管内のLactobacillus murinusの増殖を抑制するのに対し,デクチン1シグナルが入らなくなると,増殖抑制が解除され菌の増殖が促進されると同時に,Tregの分化が誘導されることを見出した.この乳酸桿菌だけを無菌マウスに移入すると,このマウスでもTreg細胞が増加しDSS誘導大腸炎に耐性となる事から,L. murinusがTreg増加に重要な役割を果たしていることがわかった.ところで,海藻に含まれるラミナリン等の低分子βグルカンは大きな分子量を持つβグルカンの作用を拮抗的に阻害することが知られているが,マウスに低分子グルカンを食べさせると,L. murinusが増殖し,Treg細胞が増える事によって,腸管炎症が抑制されることがわかった.これらの結果から,BGが腸内の細菌叢を変える事によって,腸管の免疫応答性を調節するのに重要な役割を果たしている事が明らかになった.

  • 安藤 朗
    2016 年 39 巻 4 号 p. 289
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に代表に代表される炎症性腸疾患(IBD)は,遺伝的素因と関連した免疫異常が食事抗原や腸内細菌に過剰に応答し引き起こされると考えられている.さまざまな免疫関連遺伝子のノックアウトマウスに自然発症する慢性腸炎が無菌環境下では発症しないこと,炎症性腸疾患の病変が腸内細菌の豊富に存在する回腸末端から大腸に好発することなどから,腸内細菌が炎症性腸疾患の発症に深く関わっていることに疑う余地はない.炎症性腸疾患の腸内細菌叢の構成,機能の変化(dysbiosis)についてさまざまな検討があるが,腸内細菌の多くが難培養菌からなることから,さまざまな分子生物学的解析法が取り入れられて研究が進行してきた.それらの多くが,CD腸内細菌叢におけるClostridiumに代表される酪酸産生菌の減少を示している.嫌気性菌は食物繊維を発酵して酪酸,酢酸,プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を誘導するが,このうち酪酸にはヒストン脱アセチル化酵素阻害など多彩な作用が報告されている.我々の検討では,酪酸は,強力にNF-kBの活性化を阻害して抗炎症作用を発揮する.さらに,酪酸が制御性T細胞の誘導に係わることも明らかにされている.今回の発表では,これまで我々が報告してきたIBD腸内細菌叢における変化を酪酸産生菌の減少と結びつけてお示ししたい.

  • 藤谷 幹浩
    2016 年 39 巻 4 号 p. 290
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      【目的】炎症性腸疾患(IBD)は原因不明の慢性炎症性疾患であり宿主免疫や腸内細菌叢の異常が関与するとされる.本研究は,プロバイオティクス由来の活性物質を用いた新規IBD治療薬の開発を目的とする.【方法】1.乳酸菌SBL88の培養上清を各種カラムで分離しヒト腸上皮由来Caco2/bbe細胞に投与して,heat shock protein(Hsp)27の誘導能を持つ分画を選別した(western blotting).この分画の成分分析を行い菌由来活性物質を同定した.2.薬剤誘発腸炎モデル(DSS,TNBS),IL-10欠損マウス由来T細胞移入モデルに菌由来活性物質を注腸投与して組織所見,炎症・線維化関連分子の発現を検討した.3.32P標識菌由来活性物質を作製し腸上皮による認識機構とその後の細胞内動態を検討した.【成績】1.乳酸菌SBL88の培養上清からHsp27誘導能をもつ物質である長鎖ポリリン酸を同定した.2.長鎖ポリリン酸投与によりDSS慢性腸炎,TNBS腸炎による腸管短縮,組織学的な炎症および線維化が改善した.また,腸管粘膜における炎症性サイトカインIL-1β,TNFα,IFNγおよび線維化促進分子TGFβ1,SMAD4,CTGFの過剰発現が抑制された.3.長鎖ポリリン酸は腸上皮のintegrinβ1と結合し,エンドサイトーシスにより短時間で腸上皮内に取り込まれ腸管保護作用を発揮した.【結論】乳酸菌由来長鎖ポリリン酸は腸炎モデルの腸管障害や線維化を改善することから,IBDの新規治療薬として臨床応用が期待される.

  • 金井 隆典
    2016 年 39 巻 4 号 p. 291
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      近年,炎症性腸疾患の増加が著しい.なぜ20万年前に誕生した新人類の歴史の中で,最近0.04%の50年間の短期間に先進国で増えてきたのか? その原因として,ヒトの共生微生物‘腸内細菌’が注目されている.すなわち人類にとって家来のような存在であった‘腸内細菌’が,実は人類の健康を保持するための司令塔であることがわかってきた.‘腸内細菌’は,ヒト由来の100万個以上の遺伝情報をヒトへ提供する新臓器とまで言われている.先進国でおこなわれている生活様式,抗生物質の過剰使用,過衛生,食事の欧米化(高脂肪低繊維食),発酵食品の衰退化,ストレス,運動不足,家畜や土壌から隔絶などによって大事な腸内細菌を失ったことが炎症性腸疾患を始め,過敏性腸症候群など腸疾患のみならず,肥満,自己免疫疾患,がん,精神神経疾患などを増加させているのであろう.事実,これらの疾患群では“腸内細菌”は単純化し,細菌の構成パターンが乱れていること(ディスバイオーシス)が次世代シークエンサーを用いたメタゲノミクス解析でわかってきた.近年,この腸内細菌の乱れを是正する目的で,健康なヒトの糞便を移植し炎症性腸疾患だけでなく様々な腸管以外の疾患を治療しようと糞便微生物移植治療(Fecal microbiota transplantation; FMT)も始まっている.本講演では,炎症性腸疾患での腸内細菌を利用した様々な治療にまつわる最近の話題を紹介したい.

  • 西川 博嘉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 292
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      免疫チェックポイント分子に対する阻害抗体の開発により,がん免疫療法の臨床応用が進んでいる.しかし,免疫チェックポイント阻害剤単剤で臨床効果が認められる患者は20-30%程度であるため,レスポンダーを識別するバイオマーカーの同定,およびノンレスポンダーで過剰もしくは不足している免疫応答を解明し,より効果的ながん免疫療法の開発が求められている.我々は抗腫瘍免疫応答の本態を明らかにするため,がん細胞の遺伝子変異に伴って生じる抗原(Neoがん抗原)とがん細胞内に存在する自己抗原由来で多くのがん患者で共通してみられる抗原(Sharedがん抗原)に対する免疫抑制機構について検討した.Sharedがん抗原特異的CD8+T細胞は,制御性T細胞により抑制され,不応答(抗原刺激に対してサイトカイン産生や細胞増殖をしない)状態に陥ることが明らかになった.一方でこれらの免疫抑制機構はNeoがん抗原特異的CD8+T細胞に対しては作動せず,十分な活性化が誘導された.以上より,Neoがん抗原が多くみられるがん患者では抗腫瘍免疫応答はready to goの状態にあり,抗PD-1抗体などで局所の免疫抑制を解除することによって十分な臨床効果が認められるが,Sharedがん抗原が多い患者では,免疫抑制ネットワーク,とりわけ制御性T細胞を標的とするような新たながん免疫療法との併用の必要性が示唆された.

  • 安友 康二
    2016 年 39 巻 4 号 p. 293
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      近年のゲノム解析技術の発展とそれに伴うデータベースの充実により,家族性疾患の原因遺伝子変異を同定することは比較的容易になってきた.しかし,一家系しか存在しないような極めて稀な疾患の場合には,見いだされた変異が疾患発症に関与しているかという点について,厳密な機能解析研究が必要になる.我々はこれまで,稀少遺伝性免疫疾患のゲノム解析研究から,数種類の自己炎症性疾患および自己免疫疾患の原因変異を見いだしてきた.本シンポジウムでは,それらの遺伝性免疫疾患のゲノム解析の実際と,主として遺伝子改変マウスを用いた機能解析の例を提示することで,本シンポジウムの主題である「Human Immunologyへの新技術」としてのゲノム解析研究とその問題点について議論したい.

  • 藤尾 圭志, 竹島 雄介, 太田 峰人, 石垣 和慶, 土田 優美, 土屋 遥香, 住友 秀次, 岩崎 由希子, 岡村 僚久, 永渕 泰雄, ...
    2016 年 39 巻 4 号 p. 294
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      自己免疫疾患では免疫寛容の破綻が認められ,患者のリンパ球には細胞数,細胞機能,遺伝子発現など様々なレベルの異常が報告されている.これらの異常の中で病態の本質にかかわるものを同定することは,疾患の層別化,予後予測,新規治療の開発において非常に重要である.近年のフローサイトメーターや次世代シークエンス(NGS)などの技術的進歩により,ヒトリンパ球の大規模データの回収による詳細な解析が可能となってきている.我々はリンパ球のマルチカラー解析を行うとともに,ソーティングにより回収した各リンパ球サブセットのNGSによる発現解析を行い,遺伝子多型と組み合わせることで,自己免疫疾患を特徴づける免疫ネットワークの解析を試みている.この解析は(1)健常人のリンパ球サブセット毎の遺伝子発現と遺伝子多型の関連の解析と,(2)自己免疫疾患患者のリンパ球サブセット毎の遺伝子発現と遺伝子多型の関連の解析から成る.これまでにSLEやRAにおいて,Weighted correlation network analysis(WGCNA)などの新しい解析手法を用いて,変動のある発現遺伝子を同定し,SLEとRAで逆の方向性を示すものも認めている.それらの遺伝子の上流シグナルを解析することで,各リンパ球サブセット毎の免疫経路の亢進または減弱の評価が可能である.本発表では,そのようなアプローチの現状と今後の展望について報告及び考察を行いたい.

  • 北野 宏明
    2016 年 39 巻 4 号 p. 295
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      システムバイオロジーが提唱されてから20年という節目が迫りつつある.その間のこの分野の進展には目を見張るものがある.多くの基礎的な研究に応用され始めたことはもとより,システムバイオロジーの考えを利用した創薬が現実的な可能性として注目され始めている.分子標的創薬をより有効かつ効率的に遂行する上においても,さらにネットワーク創薬へと進む上においても,システム的アプローチは今後の製薬企業にとってはコア・コンピタンスとなる領域である.また,日本,米国,欧州において,大規模モデル構築や共通プラットフォームの開発など,プリコンペティティブな領域での活動も以前にもまして活発化している.

      本講演では,システムバイオロジーの展開を振り返るとともに,その医療への応用,特にシステム創薬の展開をレビューするとともに,今後の展開・問題点やHuman Immunologyへの可能性について,より具体的な展開を議論する.

  • 窪田 規一
    2016 年 39 巻 4 号 p. 296
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      移植医療の成功率を飛躍的に増大させたサイクロスポリンは通常のペプチドとは異なりD-アミノ酸やN-メチルアミノ酸が組み込まれた構造をもった特殊ペプチドであった.特殊ペプチドはその物理的特性から,多岐にわたるターゲットタンパクへのアクセスが可能であり,新しい創薬開発の可能性を示唆させるものであるが,今まで特殊ペプチドを体系的に創薬システムに組み込むことは困難であった.我々はフレキシザイム(Flexizyme)という人口リボザイムを開発する事により無細胞翻訳合成系による特殊ペプチドの大規模ライブラリー創製を可能とした.さらに独自のディスプレイシステムを組み合わせることにより世界で初めて,唯一の特殊ペプチド創薬開発プラットフォームシステム「PDPS(Peptide Discovery Platform System)」を完成させた.PDPSにより創出される特殊ペプチドは分子量1,500程度でありながら抗体に匹敵する特異性と結合力を持っており,細胞内を含めタンパク-タンパク相互作用(PPI)阻害剤などの機能を有することができる.今後,開発が進むことにより多くの次世代医薬品が提供できると確信している.本シンポジウムではPD-1/PDL-1特殊ペプチドなどの実例を踏まえ,特殊ペプチド創薬の可能性に関してその片鱗を紹介できればと考えている.

  • 山村 隆
    2016 年 39 巻 4 号 p. 297
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      医師主導治験は,企業が開発に手を出さないような薬剤の開発を,医師自らの手で行うものであり,これは「道なき道を歩む」に似た作業である.我々は現在,多発性硬化症の動物モデルEAEに薬効を示す糖脂質医薬OCH(Miyamoto, Miyake, Yamamura. Nature 2001)の実用化を目指し,開発研究を医師主導で進めている.企業と共同開発をした時期もあったが,企業は臨床治験へ進める決断が下せなかった.幸運なことに,2012年からNCNP病院内で医師主導のFirst in human試験を進めることが許され,現在に至っている.プロジェクト関係者のほとんどにとって未経験の作業の連続であり,開発責任者,治験責任医師,バイオマーカー研究者,CRC,企業出身アドバイザーの間で,意見が異なることはしばしばある.また安全性検討委員会,規制当局,ファンディング・エージェンシーにも,それぞれの立場がある.異なる背景を持つ関係者から,プロジェクトの崩壊に繋がりかねない的外れの意見が届くこともあれば,行き違いによってプロジェクトの遅れを生じることもある.本シンポジウムでは,後に続く研究者のために,自らの経験を可能な限り紹介したい.現在の医薬品開発が,経済原則に完全に支配され,それが新薬の陳腐化や薬剤費高騰を招いているなかで,医師主導治験の意義についても議論したい.

  • 仲 哲治
    2016 年 39 巻 4 号 p. 298
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      これまで,関節リウマチ(RA)などの炎症性疾患の活動性評価に対する血清バイオマーカーとしてIL-6で発現が誘導されるCRPやESRなどの急性期タンパク質が用いられてきた.しかしながら,近年トシリズマブ等のIL-6を阻害する抗リウマチ薬が臨床応用され非常に良い治療効果を示している.これらIL-6の機能を阻害する抗リウマチ薬の投与下においては,CRPやESRなどのバイオマーカーの変動が直接的に抑止されるため,正確な疾患活動性評価が困難となる.また,潰瘍性大腸炎(UC)や全身性エリテマトーデス(SLE)などIL-6を介さない炎症性疾患も知られている.このような状況下,われわれが免疫疾患の新規マーカー探索を目的として行ったプロテオーム解析により,RA患者血清から同定した機能不明の糖タンパク質LRG(Leucine rich α2 glycoprotein)は,IL-6非依存性に炎症部位から誘導されると言う従来の炎症性バイオマーカーと異なる特性を持つ.この特性から,UCなどの炎症性腸疾患(IBD)において血清LRGは内視鏡的活動性と非常によく相関する(現在,IBDの血清バイオマーカーとしてPMDAへ製造販売承認申請中).今後,RA診療においてトシリズマブ等のIL-6を阻害する抗リウマチ薬投与下におけるバイオマーカーとして開発する予定である.本講演では,LRGのIBDバイオマーカーとしての開発に当たり,直面した問題点なども含めて報告する予定である.

  • 中田 光
    2016 年 39 巻 4 号 p. 299
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      リンパ脈管筋腫症(LAM)は妊娠可能な女性が罹患し,LAM細胞と呼ばれる由来不明の細胞が肺や腎臓に転移して,肺が破壊される難病である.70%が気胸を経験し,36%が在宅酸素療法を受けている.TSC1あるいはTSC2という癌抑制遺伝子の変異によることが解明されて以来,mTOR阻害剤であるシロリムスが治療薬として有望視され,2006-10年に日米加3カ国共同のMILES試験で有効性と安全性が検証された.しかし,製造販売元の米国ファイザー社では,同薬の特許有効期間がほとんど残されていないことから,LAMに対するシロリムスの適用拡大をFDAに申請しなかった.MLLES試験の日本人データで承認を取るという可能性も話しあわれたが,日本人の実薬患者が13名と少なかったため,PMDAは安全性を主要評価項目とする医師主導治験の実施を勧め,我々は,ファイザー株式会社より治験薬の供与を受け,ライセンスアウト先企業のノーベルファーマ社と協力し,医師主導治験を実施した.全国9施設のデータを新潟大学に集め,治験調整事務局を置いた.平成25年10月にノーベルファーマ社より薬事承認申請がなされ,26年2月にPMDAによるGCP適合性調査が新潟大学と近畿中央胸部疾患センターに対して行われた.12ヶ月中間報告書を26年3月にPMDAに提出した.5月26日に厚生労働省医薬品第二部会で承認,同7月4日に薬事承認となった.

  • 石井 健
    2016 年 39 巻 4 号 p. 300
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      末松理事長のリーダーシップのもと,「3つのLIFEを大切にした医療分野の研究成果を一刻も早く実用化し,患者さんやご家族のもとにお届けすること」を目指しAMEDが設立され1年半になろうとしている.

      戦略推進部は,AMEDの9つのプロジェクトのうち,6つのプロジェクトをそれぞれの研究課(医薬品研究課,再生医療研究課,がん研究課,脳と心の研究課,難病研究課,感染症研究課,研究企画課)が担当し,各省の予算で立ち上げられた複数の事業を束ねて運営している.部の職員は文部科学省,厚生労働省,経済産業省に加え,大学や国立の研究機関,医療機関,製薬企業から多様な人材から構成されており,事業の立案から,評価委員の人選,管理・評価の在り方の検討などを行っており,PD,PS,POを中心に関係者の多様な意見を調整しながら進めている.

      戦略推進部のプロジェクトはAMED設立以前から引き継いだものがほとんどを占めるため,既存のシステムを有効に利用しイノベーションを起こすことが重要と考えている.そのためには「異分野交流」「世代交代」「責任をとる覚悟」が重要だと考えている.本発表では私の所属する戦略推進部を中心にAMEDの現状と課題をお伝えしたい.

  • 久米 晃啓
    2016 年 39 巻 4 号 p. 301
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)については,医薬品や医療機器の審査を行なう規制者としてのイメージが定着している一方,開発支援者としても大きな役割を果たしていることは,余り知られていないようである.実際には,薬事法改正に伴い「医薬品」「医療機器」に続いて「再生医療等製品」が第三の製品カテゴリーとして確立したこともあって,開発の早期においてPMDAが実施している「薬事戦略相談」の利用は急激に増えている.本相談の主な目的の一つは,ヒトに投与してもよい(=治験を開始してもよい)と考えられるモノの「品質」や「安全性」について開発者に理解してもらい,製品が世に受け入れられるための要件を早期から念頭において,全体の流れを意識しつつ開発を進めてもらうことである.このような観点から言うと,薬事の常識とアカデミアの認識のギャップはまだ大きく,できるだけ早くそれを埋めることがスムーズな開発につながる.治験デザインについても,PMDAでは,第I相から第II相,第III相へと開発相の進行に合わせて相談を行なっている.ここにおいても重要なのは,開発戦略全体を見据えた上で,それぞれの試験にどのような意味を持たせるか,よく吟味することである.医療製品開発に王道はなく,倫理と科学の裏付けをもって一歩一歩確実に進むしかないが,これは同時に,開発リスクを減らす最良の方策とも言える.

  • 佐藤 功
    2016 年 39 巻 4 号 p. 302
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      製薬企業が直面している問題点として,新薬開発における成功確率の低さによる研究・開発費の高騰や,創薬難易度(対象疾患の希少化や標的分子の減少)の上昇による競争の激化があります.これらの問題を解決する一つの手段として,オープンイノベーションが提唱されています.これまでも,多くの製薬企業が,アカデミアやバイオベンチャーとの共同研究・開発を実施してきていますが,今後はますます活発になると予想されます.一方で,規制当局から創薬に求められる科学的レベルも向上しています.そのため,アカデミアとの連携にあたっても,新規分子や作用機序の発見だけでは,共同開発に踏み切れないことが多くあります.製薬企業が期待するのは,新規性・革新性,作用機序と有効性の関連性,プロダクトのプロファイル,知的財産の排他性,そして競合優位性です.医師主導治験を実施するにあたり,これらの点をご紹介したいと思います.

6学会合同シンポジウム
  • 安藤 朗
    2016 年 39 巻 4 号 p. 303
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      【背景】アザチオプリンなどのチオプリン製剤は,炎症性腸疾患(IBD)をはじめとする免疫疾患の治療において重要な薬剤である.一方,アジア人は欧米人に比べ低容量でも白血球減少を来しやすいことが知られている.我々は,チオプリン関連白血球減少とNUDT15遺伝子多型について,日本人IBD患者を対象に検討した.【方法】健常人103人,チオプリン内服歴のあるIBD患者161人の末梢血単核球よりDNAを採取して,TaqMan PCR法でNUDT15 R139C(rs116855232)多型を検討した.【結果】NUDT15 C/C(wild type),C/T,T/T遺伝子型はそれぞれ80.7%,18.2% and 1.1%であった.45人(27.9%)のIBD患者に白血球減少(WBC < 3,000/μl)を認め,C/TとT/T遺伝子型と白血球減少に有意な相関を認めた(P = 1.7 × 10−5).各遺伝子型間にチオプリンの有効代謝産物6-TGN濃度の差は認めなかった.2週目,4週目の平均白血球数は,C/C遺伝子型と比較して有意にC/T,T/T遺伝子型で低値であった.T/T遺伝子型の2人の患者は,両者とも白血球1000以下となりカツラが必要な重度の脱毛を来した.多変量解析ではNUDT15 R139Cが独立した唯一の白血球減少と関連する因子であった(P = 0.001).【結果】NUDT15 R139Cはアジア人の高チオプリン感受性と関連する因子であり,NUDT15多型に基づいたチオプリン製剤の個別化投与に有用である.

  • 山本 俊幸
    2016 年 39 巻 4 号 p. 304
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      本邦皮膚科領域においても,2010年に乾癬に対してバイオ製剤が導入され,従来難治であった皮疹,爪,関節炎に対して飛躍的な効果がもたらされた.とくに関節症性乾癬は,治療成績の向上とともに俄かに脚光を浴びてきた.抗TNF製剤に加え抗IL-12/23p40抗体,抗IL-17製剤が使用可能になり,さらにIL-17受容体抗体も参入する予定である.どのような症例に対して使い分けていくかは未だ手探りであり,経験,二次無効例,効果不十分例,あるいは副作用が生じた症例に対してバイオスイッチをしているのが現状である.乾癬の皮疹に関しては,局面の大きさや性状により,治療に対する反応性の差異が検討され始めたが,他の因子(発症年齢や家族歴,併存症の有無,爪や関節病変の程度)と,標的分子との関連性に関しては,まだこれからの課題である.乾癬以外では,現在国内では未承認であるが,近い将来使用可能が望まれる皮膚疾患として,掌蹠膿疱症性骨関節炎,SAPHO症候群,壊疽性膿皮症,化膿性汗腺炎,サルコイドーシス,multicentric reticulohistiocytosisなどが候補として挙げられる.とくに,重症例に対しては,他の代替治療薬が望めない場合も多いので期待が高いが,どのような病態を有するものがバイオの適応になるかは今後の検討課題である.本講演では,乾癬,関節症性乾癬,およびその類症において,バイオ製剤使用の現状と将来への期待について,私見を交えて述べる.

  • 大木 伸司
    2016 年 39 巻 4 号 p. 305
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)は,脱髄を主徴とする中枢神経系の自己免疫疾患であるが,その症状は多様であり,病態に応じた治療が求められている.第一にMSには,再発寛解型MS,二次進行型MS,および一次進行型MSなど治療反応性の異なる複数の病型が知られており,とくに進行性の病型では,脱髄に加えて神経変性を認めるなど病態が多様化する.最近私たちは,それぞれの病態に関わる2種類の病原性T細胞の存在を明らかにした.さらに以前はMSの一病型とされていた視神経脊髄炎は,プラズマブラスト由来の抗AQP 4抗体によるアストロサイト障害に起因する別の疾患であることが示された.私たちは,MS患者のなかにもプラズマブラスト陽性例があることを見出し,その多くはMS治療薬であるIFN-βが無効であることを報告している.このように複雑な病態スペクトラムを形成するMSの個別化治療を実現するためには,病態形成に関わる免疫応答の変化を丁寧に調べていく必要がある.私たちは,MS病態の多様性を理解するために,免疫系の司令塔であるヘルパーT細胞に着目し,マウスおよびヒトの両面から解析を進めている.多様なMS病態に関わる複数の病原性T細胞の性状解析と,シーズ探索の試みについて紹介する.

  • 谷村 憲司, 出口 雅士, 蝦名 康彦, 渥美 達也, 山田 秀人, 荒瀬 尚
    2016 年 39 巻 4 号 p. 306
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      β2-glycoprotein I(β2GPI)は抗リン脂質抗体(aPL)の主要抗原であり,また,抗リン脂質抗体症候群(APS)の疾患感受性にHLA class II(HLA-II)遺伝子多型が関与する.しかし,HLA-II分子が疾患感受性を制御する機序については不明である.

      最近,MHC-IIがペプチドへの分解を免れたmisfolded蛋白を提示し,B細胞を直接活性化する機構が報告された.今回,この新規抗原提示機構とAPSの病因・病態との関連を解析した.

      初めに,β2GPIとHLA-IIを共発現させた293T細胞を用いた免疫沈降により,full-lengthのβ2GPIとHLA-IIが複合体を形成していることを確認した.さらに,ヒトaPLモノクローナル抗体とAPS患者血清中の自己抗体がβ2GPIとAPS疾患感受性アレルであるHLA-II(HLA-DR7, DR4)の複合体に対して高い結合親和性を有することが分かった.また,流産組織を用いた蛍光免疫染色により,APS患者の脱落膜血管内皮細胞にβ2GPIとHLA-DRが共発現していることを明らかにした.APS患者120名の血清中のβ2GPI/HLA-DR7複合体に対する自己抗体の抗体価をFlow cytometry法で測定したところ,APS患者の約80%で陽性で,さらに,抗カルジオリピン抗体や抗β2GPI抗体が陰性であるAPS患者の約半数で本自己抗体が陽性となった.また,ヒトaPLモノクローナル抗体はβ2GPI/HLA-DR7発現細胞に特異的に補体依存性細胞障害を誘導した.

      APS患者血清中に,misfolded β2GPI/HLA-II複合体に対する自己抗体が存在することを初めて明らかにした.この自己抗体によって血管内皮細胞が障害され,血栓症や流産を惹起さるというAPSの新しい病態が示された.

  • 田中 良哉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 307
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)は,代表的な全身性自己免疫疾患(膠原病)である.治療には免疫異常を是正して疾患活動性を制御することを目的として免疫抑制薬や生物学的製剤が使用される.これらの薬剤を用いた的確な治療により,RAでは臨床的寛解達成が治療目標となり,関節破壊抑止や身体機能保持が可能となった.また,生物学的製剤の適応は多彩なリウマチ膠原病疾患に拡大している.しかし,SLE等のように疾患や症例間のheterogeneityにより治験が失敗したり,治療に難渋したりしてきた.それを克服するために,遺伝子情報を元に治療法を選択する試みがなされる.一方我々は,治療導入前に8カラーフローサイトメトリーにて解析した末梢血リンパ球のフェノタイプの相違による個別化治療を試みてきた.例えば,SLEや血管炎症候群ではTh活性型と形質細胞分化誘導型に分類されること,乾癬性関節炎のCD4細胞はケモカイン受容体発現により4群に分類されることなどを見いだし,それらを元に治療選択を行ない,個別化治療を目指す研究を行ってきた.リウマチ膠原病疾患において異なる分子標的薬による個別化医療(precision medicine)が可能となれば,RAと同様にステロイドを使用せずとも疾患制御できるような新しい治療体系,戦略の構築に資するものと期待される.

  • 硲 彰一, 玉田 耕治, 奥野 清隆, 間野 博行, 宇高 恵子, 河上 裕, 永野 浩昭
    2016 年 39 巻 4 号 p. 308
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      近年,がん免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤の開発で注目を集めているが効果は未だ十分とは言えず,治療効果向上のためには,有効症例を選択する指標を確立すること,免疫チェックポイントに代表される抑制性免疫病態を同定して制御する薬剤を同定・開発すること,並びに腫瘍抗原由来ペプチドの同定と投与により腫瘍抗原認識を高めることが重要である.我々は約500例のペプチド療法や樹状細胞療法施行症例の臨床成績と検体(腫瘍組織・PBMC・血清)を用い,一般臨床検査結果,サイトカイン,microRNAや蛋白の解析から,治療前に有効症例を選択できる血液・腫瘍組織のバイオマーカーを探索・同定してきた.同時に,制御すべき抑制性免疫について解析を行い,制御すべき負の免疫病態とそれに対応する薬剤を選択し,すでに2つの新規複合がん免疫療法の臨床試験を平成28年に開始した.一方,大腸がん原発巣と転移巣の全エクソン解析とRNAシークエンスにより遺伝子変異を検索したが,各患者に共通した変異は少なく,ネオアンチゲンによる治療は個別化治療となる可能性が高い.従ってHLA高親和性ペプチドを効率よく同定する技術が必須でありネオアンチゲン由来新規ペプチドの同定と投与により特異的免疫誘導を効率よく行うための共同研究を開始した.以上,有効症例の選択,抑制性免疫制御,並びに個別化ネオアンチゲン由来ペプチドを用いた極めて効果の高い複合免疫療法の開発を進める.

Rising Star Symposium
  • 古賀 智裕, 川上 純, 大友 耕太郎, Tsokos George
    2016 年 39 巻 4 号 p. 309
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      免疫の司令塔であるヘルパーT(Th)細胞のサブセットのうち,Th17細胞は関節リウマチ,乾癬性関節炎,全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患への関与が示唆されている.T細胞の活性化において,カルシウムの流入によってリン酸化される各種キナーゼはサイトカインの転写調節やT細胞の分化に重要な役割を有しており,カルシニューリン阻害剤はすでにループス腎炎や間質性肺炎等の自己免疫疾患において実用化されている.一方,カルシウム・カルモジュリン依存性のキナーゼも同様にT細胞による抗原提示によって活性化する酵素であるが,特にCaMK4(Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase IV)はTh17細胞への分化に直接影響を与える可能性が示唆されており,新たな治療ターゲットとして期待されている.だがCaMK4は脳や性腺組織に広く分布するため,臨床応用に際し目的の組織のみに到達するdelivery systemを構築する必要があり,ナノリポジェル(nLG)を用いたCD4陽性T細胞への供給システムの開発を試み,動物モデルでその効果を検討した.本シンポジウムでは,CD4陽性Th細胞の分化シグナルにかかわる分子の自己免疫疾患における重要性と,これらの分子(特にCaMK4)を標的としたドラッグデリバリーシステムを用いた新規治療法の可能性について概説する.

  • 溝口 史高
    2016 年 39 巻 4 号 p. 310
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      線維芽細胞は細胞外基質の産生と分解を行うとともに,様々な細胞と相互作用し組織の恒常性維持を担っている.線維芽細胞の異常は線維化や慢性炎症を伴う病態に関与すると考えられ,新たな治療標的細胞の候補として注目をされている.

      関節リウマチ(RA)の病態において,線維芽細胞は炎症の増幅や関節破壊,他の免疫細胞や血管新生の制御を担っていると考えられている.線維芽細胞がこのような多彩な働きを持つことは,線維芽細胞は均一な細胞種ではなく,異なる機能を持つ複数のサブセットから構成される可能性を示唆する.しかしこれまで,線維芽細胞のサブセットを同定することやヒトの生体内での働きを調べることは様々な技術的制約もあり困難であった.

      今回我々はRAの滑膜組織より線維芽細胞を単離し,細胞表面分子と遺伝子の発現を1細胞レベルで解析し,その発現パターンに基づき細胞を分類することにより,線維芽細胞が異なった機能を持つ複数のサブセットから構成されることを見出した.RAでは特定のサイトカインやプロテアーゼを高発現するサブセットの割合が増加しており,RAの病態に関与するサブセットと考えられた.このRA関連サブセットの制御機構を明らかにすることにより,新たな治療戦略の開発へとつながることが期待される.本手法はこれまで病態の解明が困難であった疾患において,病的な細胞サブセットを同定するために有用と考えられる.

  • 岩田 慈, 菅野 由香, 阪田 圭, 中山田 真吾, O'Shea John J., 田中 良哉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 311
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      IFNは生体防御や免疫調整機構において重要な役割を担うと同時に,SLEなど自己免疫病態にも関与する.我々は,1型IFN(IFN-α, β)及び2型IFN (IFN-γ)がCD4+T細胞のRNA発現に与える影響を網羅的に解析した.2種のIFNはT-betを介してそれぞれの遺伝子特性を発揮しており,特に細胞内代謝関連遺伝子で顕著な相違を示した.つまり,IFN-α, βは解糖系を抑制,IFN-γは促進させた.T-betは,IFN-γシグナルを増幅し,一方IFN-α, IFN-βの自己産生を抑制することで解糖系亢進を促し,迅速なCD4+T細胞の増殖を齎した.次に,SLE患者末梢血CD4+T細胞におけるT-betの役割を検討した.SLEでは,CD4+CD28-CXCR3intT-bethi細胞が増加しており,活性化effector memory細胞であった.T-betを高発現した同細胞では,IFN-γを強力に産生し,解糖系を促進させるmTORC1のリン酸化が亢進していた.同細胞は過去の免疫抑制剤使用数,即ち治療抵抗性と相関した.CD4+CD28-CXCR3intT-bethi細胞は,IFN-γ-mTORC1-T-bet経路による解糖系亢進により活性化し,SLEの治療抵抗性に深く関与している可能性がある.同細胞を標的とした細胞内代謝変容制御は,SLEの新たな治療戦略として期待される.

  • 中津川 宗秀, Butler Marcus O., 鳥越 俊彦, Hirano Naoto
    2016 年 39 巻 4 号 p. 312
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      TCR遺伝子導入養子免疫治療は,実行可能かつ有望ながん免疫治療である.しかしながら胸腺において腫瘍抗原を含む自己抗原に対してネガティブセレクションを受けた末梢血T細胞から高親和性かつ腫瘍を認識するTCRを単離するのは容易ではない.我々は腫瘍認識高親和性TCRを効率よく単離する新規方法を開発した.末梢血T細胞にがん抗原特異的TCRα鎖或いはβ鎖のみ(TCR片鎖)を遺伝子導入すると内因性に発現するTCRとペアリングし,胸腺セレクションを経験しないTCRレパトアが作製される.その胸腺非選択性TCRレパトアには高親和性TCRが含まれ,抗原特異的に増幅することで腫瘍抗原特異的高親和性TCRを単離することが可能となる.この方法によって末梢血CD8+T細胞のみならず,CD4+T細胞からもClass I拘束性高親和性TCRを単離することが可能であった.それら高親和性TCR導入T細胞はCD8分子非依存性に腫瘍を認識した.胸腺セレクションを受けたTCRは,通常ペプチド/MHC複合体に対して親和性は低く,マルチマー化していないペプチド/MHCモノマーでは染色されない.驚くべきことにTCR片鎖導入CD4+T細胞からはペプチド/MHCモノマーで染色可能な極めて高い親和性を有するTCRが単離可能であった.ただしCD4+T細胞から単離されたTCRは標的ペプチドと類似配列のペプチドに対する交差反応性が高い傾向にあり,臨床応用に関しては十分注意してTCRを選択する必要がある.

  • 谷口 智憲, 里見 良輔, 西尾 浩, 早川 妙香, 坪田 欣也, 河上 裕
    2016 年 39 巻 4 号 p. 313
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイントを標的とした治療は,様々ながん種で長期生存を伴う臨床効果を認めたが,その奏功率は未だ数十%である.不応例では,抗腫瘍T細胞応答を減弱する様々な免疫抑制機構が存在しておりその改善法の開発が必要である.我々は,増殖などのがんの悪性形質に関与するシグナル伝達経路が,がん細胞,さらには免疫細胞でも免疫抑制誘導に関与しており,これを標的とする薬剤で,腫瘍の免疫環境を改善できる可能性を検証した.悪性黒色腫ではWnt/β-cateninシグナルの活性化,肺癌ではEGFR(上皮成長因子受容体)の活性化,卵巣明細胞腺癌(OCCC)ではSTAT-3やNF-κBの活性化により,免疫抑制性のサイトカインが産生され,免疫抑制環境が構築されており,各々のシグナルに対する特異的阻害薬で免疫抑制が解除できた.さらに,これらの阻害剤の中で,EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)は,樹状細胞などの免疫細胞にも直接作用し,抗腫瘍T細胞応答を増強させた.また,OCCCのIL6産生を阻害する薬剤を1600種の既存薬から探索したところ,STAT-3阻害活性を有する薬剤を数種同定したが,これらの薬剤も,樹状細胞や制御性T細胞への直接作用を有し,抗腫瘍T細胞応答増強に関与していた.以上より,がん細胞で活性化しているシグナル伝達経路は,がん微小環境の免疫抑制の根本的原因となっている可能性,および,これらのシグナルに対する特異的阻害薬を用いて免疫抑制を解除し,免疫チェックポイント阻害抗体などのがん免疫療法の治療効果を増強できる可能性が示唆された.

専門スタディー
  • 新納 宏昭
    2016 年 39 巻 4 号 p. 314
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      自己免疫疾患の病態におけるB細胞の重要性は,B細胞標的療法の臨床効果によって再認識された.ただここで注目すべき点は,B細胞の抗体産生だけにとどまらない様々なエフェクター機能の存在である.サイトカインは細胞間の機能制御に関わる分泌蛋白であるが,この蛋白の自己免疫疾患における重要性もバイオ製剤の台頭によって証明された.CD4+ヘルパーT(Th)細胞のエフェクター機能は主にサイトカイン産生を介したものであり,この特性をもとに古典的Th1, Th2にはじまり様々なThサブセットも現在まで明らかになった.各種表面マーカーにてこうしたThサブセットはヒト疾患でも解析されている.近年,B細胞のエフェクター機能にもサイトカイン産生が重要なことが明らかになってきた.B細胞のTNFやIL-6産生はよく知られているが,IL-10などの抑制性サイトカインの産生を介した機能制御も着目されている.B細胞にも表面マーカー等に基づいた種々のサブセットが存在することはよく知られているが,こうしたサイトカイン産生は特定のサブセットに特化したものなのか,または全てのサブセットが可塑性をもって産生しうるのか不明な部分が多い.本講演では,自己免疫疾患の病態において主に病原性へ関わるサイトカイン産生性ヒトエフェクターB細胞に着目し,それらの産生メカニズムに加えて自己免疫疾患の病態における機能的な役割について紹介したい.

  • 鎌田 昌洋
    2016 年 39 巻 4 号 p. 315
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      元来,B細胞は抗原特異的な抗体を産生することで病原体や異物を中和し免疫を促進すると考えられてきたが,近年,炎症や自己免疫を抑制するB細胞のサブセットが知られるようになった.そのようなB細胞は制御性B細胞とよばれ,中でも抑制性サイトカインであるIL-10を産生するB細胞が最も広く研究されている.IL-10産生制御性細胞は,IL-10産生を介して抗原特異的T細胞の増殖やTNF-αやIFN-γなどのサイトカイン産生を抑制し,様々な免疫疾患マウスモデルでその発症や病勢の抑制に関わっていることが報告されている.IL-10産生制御性B細胞の制御機能には,IL-10だけでなく,IL-21受容体,CD40,MHCクラスII分子が必要であり,T細胞との密接な相互作用が重要であることが明らかになったが,抗原特異性の必要性については不明な点が多い.既に抗原感作されたマウスから得られたIL-10産生制御性B細胞は,感作されていないマウスから得られたものと比較して強い免疫抑制機能を有していることから,抗原特異性が重要であることは以前より示唆されてきた.IL-10産生制御性B細胞における抗原特異性の必要性を調べるには,その希少性が解明を阻んでいたが,我々はnaiveなB細胞をIL-10産生制御性B細胞に分化させる培養システムを開発した.更には抗原特異的なIL-10産生制御性B細胞を分離することにより,制御性B細胞が機能する上で抗原特異性が必要であるか,接触皮膚炎マウスモデルを用いて検証した.

  • 藤尾 圭志, 駒井 俊彦, 井上 眞璃子, 森田 薫, 岩崎 由希子, 土田 優美, 住友 秀次, 岡村 僚久, 山本 一彦
    2016 年 39 巻 4 号 p. 316
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      自己免疫疾患で産生される自己抗体は,臓器傷害を初めとする病態形成に重要だが,この抗体産生を抑制する生理的なメカニズムは不明である.抗体産生を抑制する活性を持つサイトカインとしてはこれまで,TGF-beta1が知られているが,線維化誘導能があることや,条件により免疫刺激活性を発揮することが治療応用のハードルとなっている.我々はこれまでにIL-10を高産生しアナジーと関連する転写因子Egr2を発現するCD4陽性CD25陰性LAG3陽性制御性T細胞(LAG3Treg)を同定したが,このLAG3TregがTGF-beta3を産生して液性免疫応答を抑制することを見出した.今回TGF-beta3とTGF-beta1のB細胞に対する抑制能を解析したところ,TLR刺激を受けたB細胞に対してはTGF-beta3とTGF-beta1それぞれ単独では抑制できないことが明らかとなった.LAG3TregはTGF-beta3だけでなくIL-10も産生するため,TGF-betaとIL-10を併用してみたところ,TLR刺激を受けたB細胞の試験管内,生体内の機能の抑制が可能であった.最近の解析により,TGF-betaとIL-10によるB細胞抑制に関連する細胞内シグナルが明らかになりつつある.このような解析により自己抗体産生の抑制機構を解明することで,新たな治療戦略の土台になることが期待される.

  • 新中 須亮, 黒崎 知博
    2016 年 39 巻 4 号 p. 317
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      我々の体は,1度出会った細菌やウイルスなどの抗原に再び出会うと,1度目よりも大量の抗体を作り出して抗原を除去する.これは1度目の免疫反応で抗原を記憶したメモリーB細胞が誘導され,2度目の侵入時により素早く反応し,抗体産生細胞に分化するためである.ウイルス,ワクチンなどの抗原が人の体内に入ると2次リンパ組織の中で胚中心が形成される.メモリーB細胞が胚中心に存在する胚中心B細胞から誘導されてくることは知られていたが,その誘導の仕組みはわかっていなかった.そこで我々は新たなマウス作製や実験システムの構築を行いこの疑問の解決に取り組んだ.その結果,メモリーB細胞は親和性成熟が十分に起こる前の胚中心B細胞から誘導されやすいことが明らかとなった.さらに,親和性が低い胚中心細胞群で転写因子Bach2遺伝子の発現レベルが優位に高いことを見出し,メモリーB細胞の分化にはBach2遺伝子が高発現していることが重要であることを明らかにした.今回得られた結果は,メモリーB細胞は胚中心B細胞の中で高い親和性を獲得できた細胞から誘導されるという概念をくつがえす結果であった.この結果から,メモリー細胞は免疫抗原に近い構造を持つ抗原にもある程度反応できる広い反応領域を残している細胞であるという可能性が示唆された.つまり,メモリー細胞には,多少変異を起こした細菌・ウイルスが2度目に侵入してきても,ある程度対応できる能力があると予想された.

  • 岩田 慈, 鳥越 雅隆, 阪田 圭, 元 舞子, 中山田 真吾, 田中 良哉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 318
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      近年,様々な免疫担当細胞の活性化,分化における細胞内代謝変容が注目されているが,ヒトB細胞における関与は不詳である.我々は,健常人末梢血よりB細胞サブセット(IgD+CD27−, IgD+CD27+, IgD−CD27+)を分離し,TLR9およびIFN-αシグナルによる分化や機能への影響,さらに細胞内代謝変容との関連を検討した.IgD+CD27+ B細胞において,TLR9シグナルにより大量のサイトカインや抗体の産生,plasmablast分化が誘導された.これらの免疫応答の際,mTORC1リン酸化(p-mTORC1)や乳酸産生の増加,つまり解糖系亢進が確認され,IFN-αは同細胞内機構および分化や機能を増幅した.またAMPKシグナル増強は,TLR9シグナルにより誘導されたp-mTORC1や乳酸産生,plasmablast分化を抑制し,一方でIgD−CD27− B細胞への分化に寄与した.次に,SLE患者B細胞におけるp-mTORC1を測定したところ,健常人に比し有意に亢進しており,plasmablastの割合や疾患活動性と有意に相関していた.以上より,IgD+CD27+ B細胞における細胞内代謝変容は,迅速かつ強力な機能を発揮するエフェクター細胞,或いはmemoryへの分化偏向決定に重要であり,SLEなどの自己免疫疾患の病態形成において重要である可能性が示唆された.

  • 宮本 健史
    2016 年 39 巻 4 号 p. 319
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      関節リウマチ(RA)に代表される関節炎疾患は,関節炎とともに関節変形や破壊が同時に進行することが知られている.RAは遺伝的要素のほか,喫煙などの生活背景や感染等を背景に発症する多因子疾患であるが,その発症機構の詳細については明らかにされていない.関節炎はTNFαに代表される炎症性サイトカインにより誘導されることが知られている.一方,関節変形や破壊は単球・マクロファージ系細胞由来の骨吸収細胞である破骨細胞により引き起こされることが知られており,関節炎の動物モデルでは,破骨細胞分化が完全に抑制されるマウスや破骨細胞分化を強力に抑制する薬剤の投与条件下では関節破壊が抑制されることが報告されている.一方,関節炎は破骨細胞を抑制しても残存することから,関節炎と関節破壊の発症機構は分けて考えることができる.しかし,関節炎と関節破壊という異なる病態が,一人の患者の中で同時に発症することも考えにくく,両者が関連して発症することが考えられる.我々はシグナル分子で転写因子でもあるStat3を介した炎症性サイトカインによる炎症性サイトカインのポジティブフィードバックが,炎症性サイトカインと破骨細胞分化誘導因子であるRANKLの発現誘導に関与し,このことにより関節炎と関節破壊が同時に起こること,またそれが慢性化することを見出している.本セッションではこれらの知見について考察したい.

  • 小内 伸幸
    2016 年 39 巻 4 号 p. 320
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      単球,マクロファージ及び樹状細胞は単核貪食細胞に属し,病原性微生物への免疫反応のみならず組織発生や代謝など生体恒常性維持に中心的な役割を担っている.これらの単核貪食細胞は免疫表現型や機能が重複するため,その分化起源や生体反応における役割,重要性は長い間議論されてきた.近年,分化誘導システムの樹立,各前駆細胞の同定,多重染色による細胞表面マーカー解析,遺伝子改変マウスを用いた解析,さらに細胞系譜解析から単核貪食細胞の分化起源及び維持機構が明らかになってきた.従来の説では,組織内マクロファージは生体骨髄の血液単球由来であると提唱されていたが,最新の研究成果では定常状態における組織内マクロファージの多くは胎生期幹細胞・前駆細胞由来であり,単球の寄与は少ないことが明らかになった.こうした中,我々のグループは世界に先駆けて樹状細胞のみに分化する共通樹状細胞前駆細胞(common dendritic cell progenitor: CDP)を同定した.この発見は樹状細胞と単球では分化起源が異なることを示唆している.また,ヒト単核貪食細胞の前駆細胞も同定されている.そこで今回の専門スタディではマウス及びヒトの樹状細胞,単球,マクロファージの起源とその分化維持機構について概説する.さらに分化起源,機能,局在,免疫表現型をもとにした新しい統一名称について紹介する.

  • 上羽 悟史, 松島 綱治
    2016 年 39 巻 4 号 p. 321
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      T細胞の活性化を制御する“免疫チェックポイント”の解明は,抗CTLA4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療という,免疫学における一つの到達点をもたらした.腫瘍組織に浸潤する樹状細胞やマクロファージは,腫瘍特異的CD8+ T細胞応答の誘導・維持に中心的な役割を果たす一方,PD-L1などの免疫チェックポイント分子を介してこれを抑制する2面性を持つ.免疫チェックポイント阻害剤により選択的に抑制経路を阻害することが可能になった今日,樹状細胞やマクロファージの動態や機能への介入を併用することで,相乗的に腫瘍特異的CD8+ T細胞応答を増強する強力な抗腫瘍免疫療法に繋がる可能性がある.樹状細胞,マクロファージは,いずれも腫瘍組織では増殖せず,血液循環を介して持続的に骨髄から供給される前駆細胞により維持されている.例えば,マクロファージの前駆細胞である単球は,ケモカイン受容体CCR2依存的に骨髄から末梢血へ移行した後,同じくCCR2依存的に腫瘍組織に浸潤し,マクロファージへと分化する.一方,腫瘍組織で分化・成熟した樹状細胞は,CCR7依存的に所属リンパ節へ遊走し,T細胞へ抗原提示する.本講演では,主にマウスモデルで得られた知見を中心に,マクロファージ・樹状細胞の担がん宿主内動態とケモカインシステムによる制御を概説し,治療への応用可能性について議論する.

  • 久保 智史, 成澤 学, 阪田 圭, 中山田 真吾, 田中 良哉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 322
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      動物モデルでの詳細な検討により,自己免疫疾患の発症や維持における樹状細胞の重要性が明らかになっている.当科では,ヒトを対象とした樹状細胞の病因的役割に関する研究を展開してきた.例えば,シェーグレン症候群患者の小唾液腺組織においては,形質細胞様樹状細胞(pDC)が産生するtype 1 IFNがマクロファージからのCXCL13産生とCXCR5陽性Bリンパ球の浸潤をもたらし組織破壊に寄与すること,全身性エリテマトーデス患者末梢血pDCでは,type 1 IFNで誘導されるTLR7とTLR9の反応性変化により,TLR7誘導性IFN-α産生の亢進とTLR9誘導性IFN-α産生の減弱が齎されることを報告してきた.これらは,pDCとtype 1 IFNを機軸とした自然免疫系と獲得免疫系の相互作用がヒト自己免疫疾患の病態形成に重要であることを示唆している.一方,関節リウマチ患者の炎症性滑膜組織では,樹状細胞から分化する破骨細胞サブセットが存在し,このサブセットが骨吸収能のみならずT細胞刺激能の双方を有することを見出している.さらに,関節リウマチに対して高い治療効果を有するJAK阻害薬がtype 1 IFNのシグナル阻害を介して樹状細胞の抗原提示能を抑制することを報告した.以上のように,ヒト樹状細胞は自己免疫疾患における炎症の維持及び骨関節破壊の双方に関与しており,治療標的としても重要であると考えられる.

  • 松本 満
    2016 年 39 巻 4 号 p. 323
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      自己免疫疾患は胸腺における中枢性トレランス(central tolerance),あるいは末梢性トレランス(peripheral tolerance)の機能不全によってT細胞の免疫寛容が失われる結果,発症すると考えられる.この内,胸腺における中枢性トレランスの破綻モデルとして,胸腺髄質上皮細胞に発現するAIRE遺伝子の欠損症はT細胞免疫寛容の確立における胸腺髄質上皮細胞の役割,ならびにその機能喪失による自己免疫疾患の病態解明に重要な情報をもたらした.また,末梢性トレランス(peripheral tolerance)の破綻モデルについても,FoxP3遺伝子の機能障害によってもたらされる制御性T細胞の異常による自己免疫疾患の研究が重要な知見をもたらした.前者はrecessive tolerance(負の選択),後者はdominant toleranceの破綻によって自己免疫疾患が発症することを明快に示した例である.このように,T細胞免疫寛容の研究には,実際にヒトにおいて自己免疫疾患の発症をもたらす原因遺伝子の同定が鍵となり,それに続く分子生物学的アプローチによって急速な理解がもたらされつつある.すなわち,原因遺伝子の同定と分子生物学アプローチの協調によって,ヒトの病気の研究においても真の「実験医学」が可能になったと言える.

  • 前田 悠一
    2016 年 39 巻 4 号 p. 324
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      我々は,関節リウマチ(RA)発症の環境要因の一つとして,腸内細菌叢の変化に着目して研究を行った.まず,早期RA患者と健常者の腸内細菌叢をパイロシークエンス法にて比較したところ,RA患者の一部にPrevotellaという嫌気性菌の増加を認めた.次に,この腸内細菌叢の変化がどのように関節炎発症に関与するかを調べるため,T細胞に異常のあるSKGマウスを無菌化し,Prevotellaの多いRA患者と,健常者の腸内細菌叢を定着させ,関節炎を誘導すると,RA患者の腸内細菌を定着したマウス(RA-SKGマウス)に重篤な関節炎を認め,所属リンパ節及び大腸のTh17細胞数の増加を認めた.RA-SKGマウスの所属リンパ節及び大腸におけるT細胞と関節炎の抗原(RPL23A)とを共培養したところ,IL-17Aを高産生した.P. copriの死菌を樹状細胞と共培養すると,IL-6,IL-23の産生を認めた.最後に,腸管でできたT細胞が重要かどうかを調べるため,大腸と脾臓のCD4陽性T細胞を抗生剤投与下の免疫不全マウスに移入すると,大腸のT細胞の移入で早期に関節炎を発症した.これらの結果より,SKGマウスのT細胞は,P. copriが優勢となったRA患者特有の腸内細菌叢により腸管において活性化し,Th17細胞を誘導し,そのT細胞が関節局所に遊走する事により,重篤な関節炎の発症に寄与すると考えられた.

  • 鈴木 春巳
    2016 年 39 巻 4 号 p. 325
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      Rhoファミリーに属する非定型低分子GタンパクであるRhoHは,ZAP70, Syk, lckのアダプターとして機能し,TCR初期シグナル伝達に重要な働きをしていることが知られている.RhoHはαβ型T細胞の分化に重要であるが,γδ型T細胞分化への関与はよく知られていない.今回,我々は炎症性疾患に関与するIL-17産生型のγδT細胞(γδ17細胞)の分化にRhoHが必須であることを見出し,炎症応答におけるRhoHの重要性を明らかにした.また,BALB/c背景のRhoH欠損マウスにおいては,乾癬に酷似した慢性皮膚炎を自然発症することを見出した.RhoH欠損マウスではTh17型のエフェクターT細胞が増加しており,このTh17細胞の移入により乾癬症状が再現できたことから,Th17細胞が乾癬発症の原因であると考えられた.さらにRhoH欠損マウスでのTh17細胞の増加は,T細胞内でのRORγtタンパクの増加およびIL-17遺伝子座への結合増強によるIL-17の過剰産生が原因であることを明らかにした.以上の結果より,RhoHは胸腺内におけるαβT細胞やγδ17細胞の分化には必須であるが,末梢におけるエフェクターTh17細胞への分化には抑制的に働くという二面性を持つことが明らかとなった.加えて,乾癬の病態形成にRhoHという新たな分子が関与している可能性が示された.

  • 高取 宏昌, 川島 広捻, 中島 裕史
    2016 年 39 巻 4 号 p. 326
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      【目的】近年,制御性T細胞(Tregs)におけるHeliosの発現亢進や減弱がSLEや重症筋無力症などの自己免疫疾患の発症に関与している可能性が示唆されている.しかしながらHelios+ Tregsの分化調節機構は未だ不明である.そこで本研究では,ヒト及びマウスのCD4+ T細胞におけるHeliosの発現機構やその役割を明らかにすることを目的とした.【方法】1.関節リウマチ(RA)患者の末梢血CD4+ T細胞におけるHelios遺伝子の発現をTocilizumab(TCZ)等の生物製剤投与前後で比較した.2.ヒト及びマウスのCD4+ T細胞のHelios発現に対するIL-6とTGF-βの作用を解析した.3.マウスのiTregsにHeliosを発現させた際の抑制能への影響を検討した.4.Foxp3欠損マウス由来のCD4+ T細胞を用い,Heliosの発現誘導におけるFoxp3の役割を解析した.【成績】1.TCZ治療が有効であったRA患者では,CD4+ T細胞におけるHeliosの発現が投与後に有意に増加した.2.ヒト及びマウスのCD4+ T細胞において,IL-6はTGF-βにより誘導されたHeliosの発現を抑制した.3.マウスiTregsにおけるHeliosの発現誘導にはFoxp3の発現とTGF-βシグナルの両者が必須であった.4.マウスiTregsにHeliosを発現させるとiTregsの抑制能が増強された.5.HeliosによるiTregsの抑制能の増強は,Foxp3欠損CD4+ T細胞では認められなかった.【結論】HeliosはFoxp3と協調して制御性T細胞の機能を増強する.

  • 玉田 耕治
    2016 年 39 巻 4 号 p. 327
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      近年,がんに対する免疫療法は大きな発展を遂げ,外科療法,化学療法,放射線療法に並ぶがんの標準療法としての立場を確立しつつある.その原動力が免疫チェックポイント阻害剤であり,これまでに承認された薬剤として抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体が知られている.免疫チェックポイント阻害剤は,がん微小環境における免疫抑制メカニズムとして作用する分子に対して阻害活性を有する抗体薬であり,内在性の抗腫瘍T細胞応答を増強することで治療効果を発揮する.現在,進行性の悪性黒色腫と非小細胞肺がんの治療薬として承認され,海外では腎細胞がんに対しても承認されている.また,ホジキンリンパ腫や頭頸部腫瘍を含む多くのがん種に対して臨床試験が実施されており,有望なデータも報告されている.このように免疫チェックポイント阻害剤はがん治療に新しい希望をもたらしたが,その一方で未だ多くの課題も含有している.例えば,5-10%程度の症例において重篤な治療関連有害事象が発症し,それらは自己免疫応答の誘導による間質性肺炎や大腸炎,内分泌障害などである.また,単剤での奏効率は20-30%程度であり,効果が得られる症例を見極めるバイオマーカーの探索が必要である.今後,治療効果をさらに高めるためには,他のがん治療法との組み合わせによる複合的がん免疫療法の確立も求められている.本講演では,がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の光と影について概説したい.

学会特別企画 分子標的薬のアニュアルレビュー
  • 北野 滋久
    2016 年 39 巻 4 号 p. 328
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      がん免疫療法のなかで,もっとも成功し世界的な注目を集めているのが免疫チェックポイント阻害剤であり,悪性黒色腫,非小細胞肺がんでの成功を始めとして,各種がんにおい臨床第III相試験がすすめられており,さらには同薬剤同士の併用療法についての開発も積極的に行われている.

      一方,キナーゼ阻害剤についても積極的に開発が進められている.作用機序のひとつとして,とくに抗VEGF効果を含むmulti kinase阻害剤には,制御性T細胞,骨髄由来抑制細胞,腫瘍関連マクロファージなどの免疫抑制細胞の働きを抑制し,腫瘍微小環境においてエフェクター細胞の浸潤を増加させ,抗腫瘍免疫応答を活性化させる効果が非臨床試験のデータから示唆されている.

      今後,各種複合的がん免疫療法がすすめられていくなかで,治療戦略の一つとして,免疫抑制細胞群やそれらの制御に関与する因子の働きを抑えることが,抗腫瘍効果を高める可能性があり,免疫チェックポイント阻害剤とkinase阻害剤の併用療法にも開発の期待が高まっている.しかしながら,併用療法による効果の上乗せが期待される一方で,有害事象についても十分な注意がはらわなければならないと考えられる.

      本レビューではがん治療における免疫チェックポイント阻害剤とキナーゼ阻害薬について総括したい.

  • 齋藤 和義, 田中 良哉
    2016 年 39 巻 4 号 p. 329
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      この10余年の間に関節リウマチ(RA)領域における診断・治療は目覚ましい進歩を遂げた.この成功をもたらした要因の1つが分子標的療法の登場である.現在,RAに対してTNFやIL-6を阻害する生物学的製剤はバイオシミラーも加えて7剤で,さらにT細胞選択性共刺激阻害剤アバタセプト,新たな低分子化合物としてトファシチニブも上市された.これらの分子標的療法は,治療の目標をより高いものへと導くとともに,目標が明確であることにより疾患における標的分子の役割などに関しても重要な情報を齎した.また,炎症性サイトカイン阻害剤は,RA以外のベーチェット病,強直性脊椎炎,炎症性腸疾患などの膠原病に対しても有効であった.海外では既に抗BLyS抗体がSLEに対して承認されたが,本邦でもアバタセプト,抗IFN受容体抗体,抗CD40抗体,抗CD28抗体などの臨床試験が進行中であり,既存のステロイド中心の治療からのパラダイムシフトが期待されている.抗CD20抗体は血管炎症候群に対して,IL-17カスケードに対する抗IL-17抗体,抗p40抗体などは乾癬関連疾患に対して非常に高い有用性を示され保険収載された.しかしながら効果不十分である場合もあり,現在,異なるMOA(抗IL-6,抗GMCSF受容体,抗フラクタルカインなど)による薬剤が開発されて臨床試験中である.

  • 西小森 隆太
    2016 年 39 巻 4 号 p. 330
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      小児免疫疾患として,リウマチ疾患,膠原病疾患,原発性免疫不全症,アレルギー疾患が存在する.小児期特有の疾患も存在するが,小児,成人で病態が類似する疾患も多く,関節リウマチにおける抗TNF-製剤のように,まず成人で承認された後,小児でも追加承認されることをしばしば経験する.一方,小児期で発症する事が多い自己炎症症候群では,クリオピリン関連周期熱症候群におけるカナキヌマブのように,成人・小児と同時に承認され,小児科で比較的多数用いられている分子標的薬も存在する.本総説では現在小児の免疫疾患で使用されている分子標的薬についてできるだけ網羅的に概説する.小児免疫疾患の分子標的薬の検討が,分子標的薬の全体的な理解につながる事を期待する.

  • 久松 理一
    2016 年 39 巻 4 号 p. 331
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)は原因不明の慢性炎症性疾患で20~30歳代に好発し,本邦での患者数は増加傾向にある.炎症性腸疾患の治療に画期的な変革をもたらした抗TNFα抗体製剤の成功以後,多くの分子標的治療薬が開発されている.その中でも最も期待されているのはリンパ球のホーミングを阻害するcell adhesion molecule(CAM)inhibitorである.最初に開発されたα1インテグリンに対する抗体製剤であるnatalizumabはJCウィルスの活性化による進行性白質脳症発症リスクのため限られた国でしか承認されていないが,その後腸管特異的なα4β7インテグリンに対する抗体vedolizumabが開発された.すでに海外では安全性データも蓄積されており日本でも臨床試験が行われている.さらに経口低分子阻害剤の開発も進んでおり,特にα4インテグリン阻害剤,JAK阻害剤の臨床試験が始まっている.ユニークな治療としては経口SMAD7アンチセンスオリゴヌクレオチドのクローン病に対する有効性が報告され注目されている.

ビギナーズセミナー
  • 宮﨑 雄生
    2016 年 39 巻 4 号 p. 332
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)は中枢神経の慢性炎症性脱髄性疾患であり,中枢神経症状の再発と寛解を繰り返す.患者サンプルの解析,実験的自己免疫性脳脊髄炎との類似性,免疫抑制作用を有する薬剤がMSの再発を抑制することなどから,MSの病態において,中枢神経抗原に対する自己免疫反応が大きな役割を果たすことは明らかである.一方で,一部の患者では再発がないにもかかわらず神経障害が進行する病像を呈する.この進行型MSに対して既存の免疫調節薬は無効であり,中枢神経内に隔絶された免疫細胞とグリア細胞による特異な神経炎症が根底に存在することが明らかとなりつつある.近年ではこの神経炎症を標的とした進行型MS治療や,神経保護治療,再髄鞘化治療の開発が急ピッチで進められている.視神経脊髄炎(neuromyelitis optica: NMO)は視神経と脊髄に病変が限局したMSの一亜型であると考えられていたが,近年ではアストログリア抗原(aquaporin 4)に対する自己抗体が関与した,MSとは病態の異なる疾患であると理解されている.現在NMOの治療は血漿交換やステロイド,免疫抑制薬が主体であるが,研究が進むに従ってよりその病態に即した治療法が開発されつつある.本セミナーではMSとNMOの病態を概説し,その相違点に触れつつ現在の治療法と,開発中の治療について解説する.

  • 茂呂 和世
    2016 年 39 巻 4 号 p. 333
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      抗原特異的な受容体を発現し獲得免疫で働くT細胞,B細胞に対し,抗原受容体を持たず自然免疫で働くリンパ球をInnate lymphoid cells(ILC)と呼ぶことが定着してきた.細胞傷害性をもつリンパ球として古くから知られるNK細胞に加えて近年同定されたNK様細胞ILC1はグループ1 ILCに分類され,当研究室で2010年に報告したNatural Helper(NH)細胞やNuocyte, Ih2細胞はグループ2 ILC(ILC2s),リンパ節形成に重要な役割を持つことが知られているLTi細胞と粘膜バリアに働くことが明らかになりつつあるILC3はグループ3 ILCに分類されるようになった.獲得免疫系のリンパ球が抗原を認識し活性化するのに対し,すべての自然免疫系リンパ球の活性化はサイトカインによって誘導される.グループ1 ILCはIL-12やIL-18によって,グループ2 ILCはIL-25やIL-33によって,グループ3 ILCはIL-1βやIL-23によって活性化する.サイトカインによる自然リンパ球の活性化は,活性化までに時間を要する獲得免疫系のリンパ球が立ち上がるまでの生体防御に重要と考えられる.

      グループ2ILCは総じてILC2と呼ばれており,寄生虫感染排除における重要性が報告される一方で様々なアレルギー性疾患における負の働きも明らかになってきた.また,炎症後の組織修復や,代謝疾患への関与も示唆されている.本講演では,ILC2の疾患における動態について最新の知見を交えながらわかりやすく概説する.

  • 森尾 友宏
    2016 年 39 巻 4 号 p. 334
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      原発性免疫不全症は,先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥がある疾患の総称であり,基本的には単一遺伝子異常による単一分子の異常から生じる疾患である.障害される免疫担当細胞(例えば,好中球,T細胞,B細胞)などの種類や病因・病像により,9つのカテゴリー,300近くの疾患に分類されている.当初は原発性免疫不全症の特質として「易感染性」があげられていた.しかし近年は,免疫調節の異常,自己炎症,DNA損傷修復異常などにより,自己免疫疾患,膠原病リウマチ疾患,腫瘍性疾患が前面に出る症候群が数多く知られるようになり,単一遺伝子異常による免疫疾患の総称となっている感がある.多臓器にわたる異常を示す疾患も数多い.臨床的には多くは病歴,身体所見,基本的免疫検査により診断を類推することができる.一方,様々な分子の異常により現れる病像は,疾患の成り立ちを考える上で多くの示唆を与えてくれる.1つの分子を阻害した際の症状・所見のモデルともなる疾患である.このセミナーでは,原発性免疫不全症の概要をつかみ,基本を理解するのための概説を中心とし,トピックスとして診断法や治療法の進歩についても簡単に触れることとしたい.

  • 園田 康平
    2016 年 39 巻 4 号 p. 335
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/03
    ジャーナル フリー

      免疫反応が引き起こす重要な眼疾患にぶどう膜炎がある.ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜の総称である.眼球において中膜をなし,全体として1枚の「被膜」である.眼球内での占有体積は僅かであるが豊富な血流があり,解剖学的特性から眼炎症の起点となりやすい.多くの膠原病・自己免疫疾患・自己炎症疾患で全身血管炎症が生じ,ぶどう膜を介して眼炎症を惹起する.また感染症や癌などが眼に転移するのもぶどう膜である.

      ぶどう膜炎は全身病とつながっている.ぶどう膜炎の多くは再発する可能性のある慢性病であり,姑息的に眼炎症をコントロールするだけでなく,長期的観点から患者のquality of visionを考える必要がある.診療においては,眼科のみならず全身科との協力が不可欠である.感染症以外の内因性ぶどう膜炎は内科治療が基本であり,今後生物製剤など新しい治療の適応拡大が期待される.代表的な原因疾患にはサルコイドーシス,Vogt–小柳–原田病,ベーチェット病などがあり,我が国のぶどう膜炎原因疾患の上位を占める.セミナーではぶどう膜炎に対する現在の治療を概説し,今後益々求められる診療科横断的なマネージメントについて考えてみたい.

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