日本臨床免疫学会会誌
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40 巻, 4 号
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特別講演
  • 本庶 佑
    2017 年 40 巻 4 号 p. 252
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      PD-1は,1992年に京大医学部の石田らによる偶然に発見された分子である.その後の1998年までの遺伝子欠失マウスを使った研究で免疫応答にブレーキをかける受容体であることが証明された.2000年には京大とGenetic Instituteとの共同研究でPD-1のリガンドも発見された.2002年岩井らはマウスモデルでPD-1とリガンドの会合を阻害し,免疫活性を増強することによって抗がん能力が著しく高まることを発見した.この知見をもとにヒト型PD-1抗体を作り,がん研究に応用することを提案し,2006年ヒト型PD-1抗体の作製が行われた.その後治験が進みPD-1抗体はメラノーマの治療薬として2014年6月にPMDAによって承認された.現在,世界中では200件近くのPD-1抗体による各種がん腫治療への治験が進行中であり,有効性が確認されつつある.PD-1が発見されてから20年以上の歳月を経て今日,がん治療のペニシリンとも称される新しい画期的な治療法として結実した.ペニシリンに続いて発見された多くの抗生物質により人類が感染症の脅威から解放されたように,今後はがん免疫療法が改良され,がんによる死を恐れなくてなくても済むようになるだろう.

会長講演
  • 渡辺 守
    2017 年 40 巻 4 号 p. 253
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      1990年代後半のH. pylori感染/胃潰瘍・胃がん,2000年代後半のウイルス性肝炎/肝がんの時代を過ぎ,2010年代後半は「腸」の時代になると予想されている.腸の特殊性が解明されるに伴い,腸は最も外界に曝され,100兆個の腸内細菌と常に応答し,「単なる管」ではない事が明らかとされた.腸がヒト生体内最大のリンパ組織,末梢神経組織,微小血管系,ホルモン系を含有する事が示され,「第2の脳」と呼ばれる程複雑な組織であり,消化器のみならず全身を制御する事を示す研究が報告されている.炎症性腸疾患では,病態解明が直接的に治療に結びついた結果として生物製剤が登場し,治療の考え方を大きく変えた.これまでの免疫統御療法による炎症抑制に加えて,「粘膜治癒」即ち,潰瘍を修復する事が再燃を防ぐために重要であるという,劇的な治療目標の変化が起きたのである.我々は最近,画期的な大腸上皮幹細胞の体外培養技術確立に成功し,培養細胞は障害された腸管に移植可能である事を証明した.既に同様の技術を用いて,ヒト内視鏡で得る微小生検検体から大腸上皮細胞を培養する手法も確立しており,傷害腸管への自己細胞移植の技術基盤として,本来の組織に固有の幹細胞を増やし移植に利用する再生医療Adult Tissue Stem Cell Therapyにより,炎症性腸疾患の根治療法を目指す試みを開始した.また,我々の腸上皮幹細胞培養技術は,異なる個人から得る内視鏡検体から培養した細胞により,腸が持つ吸収,排泄,分化,ホルモン産生などの解析をし,腸疾患のみならず生活習慣病,老化などに対する新しい個別化診断・治療法へ応用できる可能性をもつ.腸に関する研究は,臨床医が特殊な内視鏡検体を手に入れる事により大きなアドバンテージを持って施行可能となった研究が多く,今後は腸からヒト全身を繙く新しい時代になる事を期待している.

教育セミナー
  • 岡野 栄之
    2017 年 40 巻 4 号 p. 254
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      ヒトの精神・神経疾患の研究が困難である理由として,1.疾患モデルマウスが必ずしもヒトの病態を反映しない,2.ゲノムでの遺伝子変異と表現型の因果関係を証明することが難しいことがある,3.剖検脳の解析だけでは,疾患のonsetにおいてin vivoで何が起きているかを知ることが困難である,4.疾患感受性細胞(脳の細胞)へのaccessibilityが低い,5.病態の中核を構成する神経回路が,同定されていない事が多いなどの事が挙げられる.我々は,これらの点を克服するために,iPS細胞技術と遺伝子改変霊長類(マーモセット)を用いた解決を試みた.我々の共同研究グループは,ゲノム編集技術を用いて,世界に先駆けて目的の形質を示す霊長類のモデル動物の作製に成功した.本研究グループは2009年に小型で繁殖力の高い霊長類であるコモンマーモセットを用いて,世界初のトランスジェニックマーモセットの作製に成功し,以降パーキンソン病モデル動物の作出など,ヒト疾患モデル動物の開発・研究を大きく進展させてきたが,多くのヒト疾患モデルマウスが作製されてきた標的遺伝子ノックアウト技術はマーモセットを含む霊長類には適用できなかった.一方,近年開発されたゲノム編集技術により,様々な動物種で受精卵の遺伝子を直接改変できるようになり,本研究によって霊長類であるマーモセットでもゲノム編集を用いてヒト病態モデルの作成が可能である事を示した.

  • 烏山 一
    2017 年 40 巻 4 号 p. 255
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      好塩基球は顆粒球の一種で,1879年にPaul Ehrlichによって初めてその存在が記載されたが,その後長い間,生体内での役割・存在意義に関してほとんど解明が進んでいなかった.好塩基球は,末梢血白血球のわずか0.5%を占めるに過ぎない極少血球細胞集団であり,また好塩基性分泌顆粒,高親和性IgE受容体FceRIの発現,ヒスタミンを含むケミカル・メディエーターの分泌などマスト細胞との類似点が多いことから,マスト細胞のバックアップ的存在あるいは前駆細胞と見なされ,マスト細胞に比べきわめて影の薄い存在であった.一方,解剖学的観点からすると,マスト細胞が末梢組織中に定住しているのに対し,好塩基球は末梢血中を循環するといった局在の違いは明らかで,好塩基球が生体内でマスト細胞とは異なるユニークな役割を担っている可能性が示唆されていた.事実,この数年の間に立て続けに,生体内におけるアレルギー反応や免疫制御において好塩基球が極めて重要な役割を果たしていることが報告されて,これまで日陰者扱いされていた好塩基球が,にわかに注目を集めるようになった.本講演では,私たちが最近見いだした,好塩基球による「慢性アレルギー炎症誘導」と「寄生虫感染防御」を中心にして,生体内における好塩基球のユニークな役割について討議したい.

合同シンポジウム1 細菌叢と免疫疾患
  • 竹田 潔, 前田 悠一
    2017 年 40 巻 4 号 p. 256a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      近年,腸内細菌叢の割合の変化(dysbiosis)が様々な疾患で報告されるようになってきている.その中には,dysbiosisが疾患の原因になるものもあることが報告されている.関節リウマチ(RA)は,遺伝的素因だけでなく,様々な環境因子がその病態に関与していることが知られている.マウスモデルを用いた解析では,腸内細菌の無いgerm-freeマウスが関節炎を発症しないことから,腸内細菌の関節炎の病態への関与が示唆されている.我々は,腸内細菌叢のRAの病態への関与を解析した.発症初期のRA患者と健常人の腸内細菌叢を解析すると,一部のRA患者で健常人にはない,Prevotella copriが著明に増加している腸内細菌叢を有していた.RAで認められる腸内細菌叢の変化が,RAの結果なのか,原因となるのかを解析するために,関節炎を発症するSKGマウスを用いた.SKGマウスに抗生物質を経口投与し,腸内細菌叢を排除すると関節炎を発症しなくなることから,SKGマウスの関節炎の病態には腸内細菌が関与していることが示唆された.そこで,SKGマウスをgerm-free化し,健常人(HC)型,RA型の腸内細菌叢を定着させ,HC-SKGマウス,RA-SKGマウスを作成した.そして,RA-SKGマウスは,HC-SKGマウスに比べて重症の関節炎を発症した.この結果から,関節リウマチ患者で認められる腸内細菌叢の変化は,RAの発症に深く関わっていることが示唆された.

  • 西塔 拓郎, 西川 博嘉, 和田 尚, 本田 賢也, 森 正樹, 土岐 祐一郎, 坂口 志文
    2017 年 40 巻 4 号 p. 256b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      FOXP3+CD4+制御性T細胞(Treg)は抗腫瘍免疫を抑制する.ヒトではFOXP3はT細胞活性化に伴い発現誘導され,FOXP3とCD45RAにより3つの亜分画に分類され,FOXP3loCD45RA- T細胞は抑制機能を持たないnon-Tregである.大腸直腸癌より抽出した腫瘍浸潤リンパ球を評価すると,約半数の腫瘍においてFOXP3loCD45RA- T細胞が多数浸潤していた.これらのFOXP3loCD45RA- non-Tregの浸潤程度で大腸直腸癌は2つのタイプに分類できた.FOXP3lo T細胞が多く浸潤するタイプの腫瘍では,IL12A,TGFB1 mRNAの発現が有意に高値で,腫瘍内炎症が亢進していた.大腸癌に付着する腸内細菌叢を,FFPE組織を用いたFISH法と,切除新鮮標本の腫瘍表面より抽出した16S bacterial DNAを用いた16S sequencing法で評価した.腫瘍内炎症のある腫瘍(FOXP3loCD45RA- non-Tregが高頻度)では,腸内細菌,とりわけFusobacterium nucleatumが多く腫瘍内に浸潤していた.さらに,腫瘍内炎症のある腫瘍では無い腫瘍に比し予後良好であった.腸内細菌浸潤が腫瘍内炎症を介してFOXP3lo T細胞誘導に働き,抗腫瘍免疫応答を亢進する可能性があることが示され,大腸癌治療への応用が期待された.

  • 松岡 悠美
    2017 年 40 巻 4 号 p. 257a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      皮膚は,物理的,免疫的に外界から宿主を区別し防御する.近年,解析技術の革新的な進歩の中で,腸管の細菌叢と疾患との関わりが明らかになるのに引き続き,皮膚の細菌叢と疾患との関わりも注目されるようになった.実際,皮膚表面には,宿主の構成細胞を遥かに凌駕する数の細菌,真菌,ウイルスなどの微生物が共存し,これらの微生物が宿主免疫の成り立ちにも非常に重要な役割を果たしていることが解析により明らかとなってきている.しかし,普段害なく存在している微生物の中には,特定の条件下で病原性を発現する微生物が存在し,代表的な細菌のStaphylococcus aureusや真菌のCandida albicansなどは最近では“Pathobiont(病原性片(偏)利共生菌)”と称され,いわゆる善玉菌と区別されている.最近,このような概念に基づいた最近の研究成果から,皮膚常在微生物を適切なバランスで保つことができれば,皮膚感染症のみならずアトピー性皮膚炎などの発症や増悪を,ある程度防ぐことができるのではないかと考えられている.今回は,特に研究が進んでいるアトピー性皮膚炎とPathobiontであるS. aureus,常在細菌の関わりについて,これまでの研究の進捗と,我々が行っている最新の研究成果について概説する.

  • 服部 正平
    2017 年 40 巻 4 号 p. 257b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      人体には数百種・数百兆個の常在菌が生息している.常在菌の住処は口腔,腸,皮膚など全身にいたるが,その種類や組成比は生息部位によって異なり,それぞれ固有の細菌叢が形成されている.しかし,その全体像の解明は長く困難となっていた.ところが,ヒト腸内細菌叢のメタゲノム解析技術の開発(2006年),大型プロジェクト(HMPとMetaHIT)や国際コンソーシアムIHMCの立上げ(2008年),次世代シークエンス技術を用いた大規模解析技術の開発(2010年)などを経て,今日では,人体の様々な部位の常在菌叢を構成する細菌種や遺伝子情報を大量に収集し,常在菌叢の生態及び機能の全貌を俯瞰することが可能となった.これらの研究から,常在(腸内)菌叢が個人間,国・集団間できわめて高い多様性をもつこと,種々の病態の常在(腸内)菌叢が健常者細菌叢から大きく変容(dysbiosis)していることなど,これまでの想像を超えてヒト常在菌叢がヒトの病態や生理機能と多様かつ密接に関係することが明らかになってきた.すなわち,常在菌叢の宿主へのsymbiosis(共生)とdysbiosisが宿主の生理状態を決定すると言う新たな健康と病気のコンセプトが認識されつつある.本講演では,日本人の腸内細菌叢の特徴など,疾患を含めたヒト常在(腸内)菌叢の生態・機能について,演者のグループが進めている研究の一部を紹介する.

  • 大野 博司
    2017 年 40 巻 4 号 p. 258a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      ヒトを含む動物の腸内には膨大な数の細菌が棲息しており,腸内細菌叢と総称される.特にヒト大腸に共生する細菌数は40兆個以上と,ヒトのからだを形成する体細胞数約30兆個よりも多い.さらに,その遺伝子は集団として約60万とヒトの約2万を悠に凌駕し,複雑な代謝系を構築して様々な代謝物を産生し,われわれ宿主の生理・病理に多大な影響を及ぼしている.近年のメタゲノム解析をはじめとする解析技術の進歩と共に,炎症性腸疾患などの消化器疾患に限らず,糖尿病や動脈硬化症などの代謝・循環器疾患,アレルギーや自己免疫疾患などの免疫疾患,さらには自閉症スペクトラムなどの脳神経疾患で腸内細菌叢の正常からの逸脱(dysbiosis)が見られること,さらに,dysbiosisは単に疾患の結果ではなく疾患の発症要因となり得ることや,dysbiosisの是正が疾患の治療・予防効果をもたらすことも明らかとなりつつある.演者らは宿主–腸内細菌相互作用を分子レベルで理解するために,網羅的遺伝子解析手法である(メタ)ゲノムに加え,網羅的遺伝子発現調節解析であるエピゲノム,網羅的遺伝子発現解析である(メタ)トランスクリプトーム,網羅的代謝物定量解析であるメタボロームといった,異なる階層の網羅的解析を組み合わせた「統合オミクス手法」を提唱してきた.

合同シンポジウム2 免疫疾患の新たな治療開発への方向性
  • 岡本 隆一
    2017 年 40 巻 4 号 p. 258b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      「免疫応答の異常」は炎症性腸疾患の主たる発症要因の1つであり,実際これまで免疫応答の是正を標的としたさまざまな治療の有効性が示されてきた.例えば抗TNF-α抗体に代表される生物学的製剤は免疫応答の是正を通じてこれまでにない高い治療効果を発揮している.従って今日の治療においては免疫応答の異常に治療介入するための複数の選択肢があり,かつ一定の有効性があるものの,これらの治療だけでは長期の寛解維持が困難な難治例が未だ存在する.このような背景の中で,炎症性腸疾患の治療目標として「粘膜治癒」という概念が広まり,定着している.「粘膜治癒」とは生体内外の調和を取り持つ腸粘膜を構造・機能両面から再生・回復させることを指し,これを達成することにより長期に渡る疾患予後の改善・寛解維持が得られるものと考えられている.従来治療では「粘膜治癒」が得られない患者に対し,さまざまな新しい治療法の開発が試みられているが,治療効果を有する細胞の移入・移植を用いた「再生医療」もその1つである.炎症性腸疾患の治療においては骨髄移植・間葉系幹細胞移植等が既に試みられているが,近年本邦研究者らにより確立された体外培養・移植技術を用いた「腸上皮幹細胞移植」も新たに試みられようとしている.本演題では我々が取り組んでいる「自己腸上皮幹細胞移植」を含む炎症性腸疾患に対する再生医療の現状について紹介したい.

  • 茶本 健司
    2017 年 40 巻 4 号 p. 259a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      Immunotherapy by PD-1 blockade dramatically improved the survival rate of cancer patients, but unfortunately a significant fraction of patients remains less sensitive to this therapy. To overcome this issue, we developed a novel strategy to modulate T cell energy metabolism. We firstly compared the mitochondrial activity of tumor-reactive cytotoxic T lymphocytes (TR CTLs) before and after the PD-1 blockade therapy in mouse model. It was shown that the mitochondria of TR CTLs in draining lymph nodes were activated with increased reactive oxygen species (ROS). Increase of ROS in T cells by ROS precursors treatment synergized the tumoricidal activity of PD-1 blockade. Perturbation of mitochondrial activity by uncouplers enhanced the efficacy of PD-1 blockade therapy in a ROS-dependent manner. This enhancement effect involved mTOR/AMPK-related energy signaling pathway. When PGC-1α, a common downstream signaling factor of mTOR and AMPK, was activated by a PPAR ligand Bezafibrate, the PD-1 blockade efficacy was improved. These findings indicate the importance of PGC-1α-associated pathway in T cells for enhancement effect, which bridge energy metabolism and T cell immunity.

  • 森信 暁雄
    2017 年 40 巻 4 号 p. 259b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      細胞は解糖系,脂肪酸β酸化などの代謝経路によりエネルギーを産生しているが,免疫細胞の代謝と機能は密接に関連していることが知られている.例えば,Th17細胞やM1マクロファージなどの炎症性細胞は解糖系を中心とした代謝であるが,Treg細胞やM2マクロファージなどの抑制性細胞はβ酸化を中心とした代謝となっている.一方で,RAを中心としたリウマチ性疾患における代謝状態の研究が進展し,病態との関連が注目されている.私たちは,炎症性疾患を代謝を制御することにより制御できるか否かを検討するために,代謝制御剤の関節炎モデルマウスに対する効果を検討した.解糖系制御剤の投与によりSKGマウスの関節炎は軽減した.治療剤投与により脾臓のTreg細胞は増加し,活性化樹状細胞は減少していた.すなわち解糖系阻害は免疫抑制細胞を増加させ,関節炎を抑制した.関節炎においては滑膜線維芽細胞が重要な役割を果たしているため,次にRA患者滑膜細胞における代謝を検討した.滑膜線維芽細胞の増殖はブドウ糖,およびグルタミンに依存していた.グルタミン代謝の阻害剤は滑膜細胞の増殖を抑制し,SKGマウス関節炎を軽減したことより,グルタミン代謝は関節炎に関与していることが示された.代謝制御によるリウマチ性疾患の可能性は示したが,多くの問題があることも事実である.代謝制御剤の今後の可能性について考察する.

  • 大木 伸司
    2017 年 40 巻 4 号 p. 260a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      多発性硬化症(MS)には,Th17細胞などに依存する自己免疫病態を呈する再発寛解型MSに加えて,二次進行型MSなどの持続進行型病態が存在する.私たちはそれぞれの病態の形成に関わるヘルパーT細胞として,NR4A2依存性Th細胞とEomes陽性Th細胞の機能解析を進めた.さらに,いまだ有効な治療法がない二次進行型MSに対する新規治療法開発に向けた治療標的分子の探索から,Eomes陽性Th細胞が示す細胞障害性T細胞様の表現系に関連する複数の候補分子を同定した.またEomes陽性Th細胞の表面分子を標的とした抗体治療の有効性を明らかにし,現在さらなる治療標的分子の探索を進めている.再発寛解型病態から進行型病態への移行を抑制する新たな予防的治療法開発を目指した取り組みとして,中枢神経内でのEomes陽性Th細胞の生成過程を詳細に解析し,慢性炎症環境下の抗原提示細胞が選択的に産生するプロラクチンが,Eomes誘導因子として機能することを見出した.プロラクチン阻害剤のin vivo投与により病態が有意に改善したことから,進行型病態への移行を予防するための新たな戦略として,プロラクチン阻害の有用性を明らかにした.自己免疫疾患の病態形成とNR4A2の関係はいまだ不明な点が多いため,引き続き解析を進めている.最近,NR4A2が自己免疫応答の選択的な制御分子であることを示唆するデータを得たので,あわせて紹介したいと考えている.

  • 毛塚 剛司, 石川 均, 後関 利明, 敷島 敬悟, 山上 明子, 三村 治, 吉富 健志, 平岡 美紀, 中馬 秀樹, 中村 誠, 田中 ...
    2017 年 40 巻 4 号 p. 260b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      特発性視神経炎と分類される疾患群には,血清中に神経グリア細胞に対する特異抗体である抗アクアポリン4(AQP4)抗体や抗ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG)抗体がみられることがある.AQP4はアストロサイト上に存在する膜タンパク質であり,その抗体は視神経や脊髄などを標的にして炎症を引き起こす.MOGは中枢神経髄鞘上に存在する分子であり,やはり視神経や脳脊髄に炎症を引き起こす.現在,日本神経眼科学会主導で,自己抗体陽性視神経炎の全国調査が行われており,特発性視神経炎が350例以上エントリーしている.その結果によると,抗AQP4抗体陽性視神経炎は特発性視神経炎の14%前後であり,中年後半の女性に多い.ステロイド治療による視力回復に乏しく,65%以上が矯正視力0.3未満である.多彩な視野障害のパターンをとり,視神経乳頭腫脹,眼球運動時痛が20%前後でみられる.抗AQP4抗体陽性視神経炎は再発することがある.一方,抗MOG抗体陽性視神経炎は,壮年男性にやや多く,ステロイド治療に速やかに反応し,良好な視力回復がえられる.視神経乳頭腫脹や眼球運動時痛が50%以上にみられる.抗MOG抗体陽性視神経炎は,抗AQP4抗体陽性視神経炎より再発しやすい傾向にある.これらの結果から,視神経炎の型を特異抗体で分類することは,予後の推定や長期の治療方針決定に有用と考えられる.

シンポジウム Human Immunology 解析から治療へ
  • 齋藤 潤
    2017 年 40 巻 4 号 p. 261a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      近年,ヒトES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療への応用研究が急速に進展している.一方,iPS細胞は疾患を持つ患者さんから樹立可能であり,患者さんの病態をin vitroで再現することにより,様々な疾患の解析や創薬研究への応用が進められている.我々は,主として先天性の血液免疫疾患を対象に,iPS細胞を用いた研究を進めている.これらの疾患は,1)まれな単一遺伝子疾患が多いこと,2)責任細胞である血球細胞,血球前駆細胞のヒトiPS細胞からの分化誘導系がある程度確立されていること,3)病態解析や治療法開発に課題が残っていること,などから,iPS細胞を用いた解析に適していると考えられる.我々は,ヒトiPS細胞から血球細胞を分化誘導し,様々な機能解析を行う系を開発している.この系においては,血球前駆細胞を経て赤芽球,骨髄球,単球マクロファージ系などへの分化が可能である.本発表では,我々が行っている先天性免疫不全症の病態解析・創薬研究について報告したい.

  • 仲 哲治
    2017 年 40 巻 4 号 p. 261b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      近年トシリズマブ等のIL-6の機能を阻害する生物学的製剤が臨床に応用され非常に良い治療効果を示している.しかしながら,IL-6の機能を阻害する生物学的製剤による治療下においては,IL-6で発現が誘導されるCRP,SAAなどの急性期タンパク質やESRなどの血清バイオマーカーの変動が直接的および間接的に抑止されるため,正確な疾患活動性評価が困難となる.また,潰瘍性大腸炎(UC)や全身性エリテマトーデス(SLE)などIL-6を介さない炎症性疾患の存在も知られている.このような状況下,われわれはIL-6非依存性に誘導される新たな急性期タンパク質としてLRG(Leucine rich α2 glycoprotein)をプロテオーム解析により,RA患者血清から同定した.LRGは約50KDの機能不明の糖タンパク質で,CRPとは異なり,IL-6非依存性に炎症部位からも誘導される.この特性から,UCなどの炎症性腸疾患(IBD)において血清LRGは内視鏡的活動性と非常によく相関する.また,RAにおいてもトシリズマブ使用下におけるRA疾患活動性と相関する.興味ある事にLRGはTGF-βのシグナル伝達を増強する作用を持ち,LRG KOマウスにおいては,DSS誘導性腸炎やコラーゲン誘導性関節炎などの炎症が生じにくい.本講演では,LRGの炎症性腸疾患およびトシリズマブ投与下におけるRAのバイオマーカーとしての臨床的意義と炎症の病態形成における機能について報告する予定である.

  • 南木 敏宏
    2017 年 40 巻 4 号 p. 262a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      ケモカインは細胞遊走を誘導するサイトカイン様の分子であり,自己免疫疾患においては,病変局所への細胞遊走を誘導することにより病態形成に関与すると考えられる.ケモカインには血管新生,細胞刺激によるサイトカイン産生,細胞増殖,破骨細胞誘導等の作用もある.そのため,病変部位でのケモカイン発現の解析が広く行われ,ケモカイン阻害による新規治療薬開発が進められている.

      関節リウマチ(RA)においては,滑膜組織において多数のケモカイン産生が報告され,また関節炎のモデル動物において,いくつかケモカイン阻害薬による関節炎抑制効果が認められている.RAに対するケモカイン阻害薬による臨床試験も行われており,C-C chemokine receptor type 1に対する経口の阻害薬や,抗C-X-C motif chemokine 10抗体による関節炎抑制効果が示された.さらに,C-X3-C motif chemokine 1(fractalkine)に対する抗体製剤は本邦で開発され,第I/II相臨床試験で忍容性と関節炎抑制効果が示唆され,現在第II相臨床試験が施行されている.

      また,全身性エリテマトーデス,炎症性筋疾患,強皮症においてもケモカイン発現が解析され,モデル動物においてケモカイン阻害による疾患抑制効果が報告されている.

    このように,自己免疫疾患に対するケモカイン阻害薬による臨床応用開発が進められており,将来の新規治療薬となることが期待される.

  • 小川 誠司
    2017 年 40 巻 4 号 p. 262b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      Successful treatment of many advanced cancer patients using antibodies against PD-1 and its ligand (PD-L1) is highlighting a critical importance of immune escape in cancer development. Cancer cells are thought to circumvent immune surveillance through PD-1/PD-L1 signaling. However, the genetic basis for PD-L1-PD-L1-mediated immune escape has not been fully understood. In this seminar, I present a unique genetic mechanism of immune escape caused by structural variations (SVs) commonly disrupting the 3' part of the PD-L1 gene. Widely affecting multiple common cancer types, these SVs invariably lead to a marked elevation of aberrant PD-L1 transcripts that are stabilized by truncation of the 3'-untranslated region (UTR). PD-L1-involving SVs are especially frequent in virally induced cancers. The critical role of the 3'-UTR disruption in cancer immune evasion will be discussed, particularly with regard to viral infection.

ワークショップ1 がん免疫のチェックポイント
  • 北野 滋久
    2017 年 40 巻 4 号 p. 263a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      がん免疫療法のなかで,もっとも成功し世界的な注目を集めているのが免疫チェックポイント阻害剤である.本剤はT細胞に抑制のシグナルを入れる受容体である免疫チェックポイント分子を抗体でブロックして,抗原提示細胞や腫瘍細胞に発現するリガンドからの免疫抑制のシグナルが入らないようにしてT細胞の活性化を持続させて癌を攻撃させる薬剤である.近年,進行悪性黒色腫をはじめ,非小細胞肺癌,腎細胞癌,ホジキンリンパ腫,頭頸部癌など承認を得て注目を集めている.免疫チェックポイント阻害剤によって特有の免疫関連有害事象を生じることがある.同剤によって自己抗原を認識するT細胞が誤って活性化されることや自己抗体が産生されることによって自己の臓器(細胞)が障害を受けることが主たる機序と考えられている.各々のirAEの頻度は高くないものの,有害事象は全身性に多岐にわたり,ときに重篤化するため,使用に際しては診療科横断的かつ各職種のスタッフによるチーム医療体制を構築することが推奨される.免疫チェックポイント阻害剤の作用機序と免疫関連有害事象(irAE)の病態,問題点および,今後の課題について概説する.

  • 鈴木 重明
    2017 年 40 巻 4 号 p. 263b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/23
    ジャーナル フリー

      免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)の中で,神経・筋疾患は多彩な症状を呈する.代表的な疾患は重症筋無力症(myasthenia gravis, MG)である.MGは神経筋接合部のアセチルコリン受容体あるいはmuscle-specific tyrosine kinaseに対する自己抗体が原因となる臓器特異的な自己免疫疾患である.MGの臨床症状の特徴は,運動の反復,持続に伴い骨格筋の筋力が低下し(易疲労性),休息により改善すること,夕方に症状が悪化すること(日内変動)である.2014年9月から2016年8月まで,ニボルマブが投与された9,869例の中でMGは12例(0.12%,M:F = 6:6,平均年齢73.5歳)で発症した(Suzuki S et al. Neurology 2017, in press).ニボルマブ投与開始の早期(多くが2回目の投与まで)にMGは発症し,その後,数日で急速に進行した.ニボルマブに関連したMGは4例がMGFA class 2までの軽症で,残り8例はclass 3以上の重症であった.特に,半数の6例はクリーゼを呈し,薬剤と関係のないMGに比べて重篤であった.また血清クレアチニンキナーゼの平均は4,799 IU/Lと著明な高値を示し,4例で筋炎,3例で心筋炎(うち1例は両者)を合併していた.irAEとして発症するMGは重篤な場合が多く,死亡例もあり,入院を含めた慎重な経過観察が必要である.MGと筋炎は基本的には異なる疾患であるが,irAEの場合にはしばしば両者が合併する点に注意が必要である.

  • 岩間 信太郎, 有馬 寛
    2017 年 40 巻 4 号 p. 264a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      免疫チェックポイント阻害薬で認められる免疫関連有害事象(immune-related adverse events; irAEs)は全身の臓器で認められ,大腸炎,肝炎,間質性肺炎,皮膚炎,神経・筋障害,内分泌障害などが報告されている.死亡に至る重篤例もあることから適切な対応が重要である.irAEsとして障害される内分泌器官は下垂体,甲状腺,副腎皮質,膵,副甲状腺が挙げられ,それぞれ異なる対応を要する.下垂体障害の頻度は細胞傷害性T細胞抗原(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen; CTLA)-4に対する抗体であるイピリムマブで4-10%程度,programmed cell death(PD)-1に対する抗体で1%未満と報告されている.下垂体前葉機能障害および下垂体腫大を呈する症例は臨床的に下垂体炎と考えられる.内分泌学的には副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の障害が最も高頻度で認められ,診断が遅れると副腎クリーゼとなり得る重篤な副作用である.これまでに報告された抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体による下垂体障害・下垂体炎の症例を検討した結果,両者の臨床的特徴には相違点があることが解ってきた.本講演では,抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体による下垂体障害・下垂体炎について臨床的特徴をそれぞれ解説し,両者の相違点について考察する.

  • 阿比留 教生
    2017 年 40 巻 4 号 p. 264b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      チェックポイント阻害療法による有害事象(irAE)は,全身臓器にみられるが,抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体で,その疾患スペクトラムが異なる点が注目されている.内分泌障害においては,甲状腺障害と1型糖尿病は抗PD-1抗体優位,下垂体炎は抗CTLA-4抗体優位に認め,特に1型糖尿病では,抗CTLA-4抗体単独投与後の発症の報告はこれまでのところ1例もない.膵β細胞は,PD-L1が高発現していることが確認されており,PD-1/PD-L1シグナルを介した末梢性の免疫寛容維持が不可欠な,ある意味“危険な現場”であると考えられる.近年のNODマウス研究では,β細胞での中枢性免疫寛容破綻のメカニズムの一つとして,分泌顆粒内でプロインスリンと分泌顆粒由来タンパクの断端が結合したhybrid-insulin peptideが発見され “neo-self” 抗原の一つとして注目されている.インスリン分泌顆粒では,プロインスリンからインスリンへと翻訳後修飾が生理的に進行しており,ある種の環境因子により不適切な翻訳後修飾が起こると,胸腺では発現されない “neo-self” が生成され,MHCとのcomplexを形成することで,中枢性免疫寛容が容易に破綻するのではないかと考えられるようになってきた.今回は,このように近年明らかにされつつあるβ細胞の分泌顆粒という危険な殺害現場での,“真犯人とそのトリック”解明の研究に焦点をあて,抗PD-1抗体による自己免疫が,なぜβ細胞を標的にするのかについて考察する.

ワークショップ2 低分子化合物と生物学的製剤の長所と短所
  • 川尻 真也, 川上 純
    2017 年 40 巻 4 号 p. 265a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      関節リウマチ(RA)治療に1998年に海外,2003年に日本で生物学的製剤が導入されて以来,RAの予後は著明に改善した.現在,5つのTNF阻害薬,1つのIL-6阻害薬(トシリズマブ),1つのT細胞選択的共刺激調節薬(アバタセプト)が承認され,最近ではバイオシミラーも登場した.さらに,2013年には生物学的製剤と同等の有効性のある経口薬剤である低分子化合物JAK阻害薬が承認された.これまで各薬剤のエビデンスが確立されてきたが,RA治療は多様化する一方で有効性においてはいずれの薬剤においても同等であることが示された.そのエビデンスをもとに,2010年欧州リウマチ学会が発表した「RA治療リコメンデーション」ではFirst BioとしてTNF阻害薬が推奨されていたが,2013年改定ではトシリズマブ,アバタセプトが同等に推奨され,日本リウマチ学会の「RA診療ガイドライン2014」においても準拠されている.さらに,2106年改定ではJAK阻害薬が同等に推奨された.しかし,各製剤には特有の長所と短所を熟知することで,個々の患者において使い分ける必要があり,その点に関してエビデンスと経験をもとに考察する.

  • 佐田 憲映
    2017 年 40 巻 4 号 p. 265b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      全身性エリテマトーデス(SLE)患者は様々な臓器障害を伴う不均一な集団であり,均質な対象集団の設定や適切なアウトカムの定義が困難であったため,新たな薬剤の有効性を評価するための臨床試験の施行が困難な時代が続いた.特に主要な障害であるループス腎炎では,免疫複合体の沈着部位により多様な活動性病変を呈することに加え,再燃を繰り返せば慢性病変が加わるため,それら多様な病変を尿蛋白と血清クレアチニンをアウトカムとして有効性を評価するには限界があり,種々の免疫抑制薬に加え,リツキシマブやアバタセプトなどの生物学的製剤の有効性を評価するための臨床試験で,期待されるような成果が得られて来なかった.ベリムマブを用いた臨床研究では,複合的なアウトカムの設定とループス腎炎を対象から除外することで有効性を証明することに成功し,本邦の患者に対しても使用な可能となる予定である.本シンポジウムではこれまでに行われた生物学的製剤,低分子化合物を用いた臨床試験のデザインおよび結果をレビューし,それらの薬剤のSLE治療における可能性について議論したい.また現在行われている生物学的製剤,低分子化合物を用いた臨床試験も取り上げて,そのデザインや期待される結果についても議論したい.

  • 濱口 儒人
    2017 年 40 巻 4 号 p. 266a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      尋常性乾癬は表皮の角化異常を特徴とする炎症性角化症で,その病因は不明ながら免疫系の関与が考えられている.蕁麻疹は組織学的に真皮の浮腫がみられ,肥満細胞からヒスタミンが放出される過程でIgEの関与が指摘されている.尋常性乾癬の治療には外用療法(ステロイド外用薬,ビタミンD3外用薬),光線療法,内服療法(レチノイド,シクロスポリン)などがあり,これらを組み合わせて治療を行う.蕁麻疹に対しては抗ヒスタミン薬の内服が主体である.近年,どちらの疾患に対しても生物学的製剤あるいは低分子化合物が開発され,特に重症例を中心に臨床に応用されている.尋常性乾癬では,TNF-αを標的としたインフリキシマブとアダリムマブ,IL-12/23p40を標的としたウステキヌマブ,IL-17を標的としたセクキヌマブ,イキセキズマブ,ブロダルマブが保険承認を取得した.低分子化合物では,PDE4阻害薬であるアプレミラストが臨床応用された.蕁麻疹に対しては,既存治療に難治な症例を対象にオマリズマブが保険承認を取得した.本講演では,尋常性乾癬と蕁麻疹に対して臨床応用されたこれらの薬剤の現状について,有効性のみならず課題も含めて解説する.

  • 長沼 誠, 水野 慎大, 筋野 智久, 金井 隆典
    2017 年 40 巻 4 号 p. 266b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      潰瘍性大腸炎およびクローン病は若年に発症し,再燃と寛解を繰り返す炎症性腸疾患(IBD)である.以前は病因・病態が不明で治療に難渋する症例が多かったが,原因となる免疫学的機序や環境因子の研究が進み,以前より治療により病勢がコントロールされる例が増えてきている.ステロイドは中等症以上の活動性を有する症例の中心的な治療法であるが,寛解維持効果がない点,ステロイド抵抗例や依存例が存在することが以前の治療法の問題点であった.2001年に生物学的製剤であるinfiliximabがクローン病に使用可能となり,その治療効果の確実性・即効性より,難治例のみならず,長期予後の観点から診断早期にEarly intervention therapyとして使用される症例も増えている.現在IBDに対して使用可能な生物学的製剤・低分子化合物は抗TNF抗体製剤(infliximab, adalimumab, golimumab)および抗IL-12抗体(ustekinumab)であり,今後接着分子阻害薬であるvedolizumabやJAK阻害剤であるtofacitinibが使用可能となると考えられ,またいくつかの生物学的製剤・低分子化合物が治験中である.IBDの治療選択肢が増えていくことは望ましいことであるが,中長期的に約30-40%の効果減弱例に対する対応,医療費の観点から治療開始と中止のタイミング,感染症を中心とした副作用への対応などの課題も存在する.本発表ではIBD診療における生物学的製剤の有用性と問題点について概説したい.

ワークショップ3 新たなターゲット分子に対する生物学的製剤の開発
  • 金子 祐子
    2017 年 40 巻 4 号 p. 267a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      近年,関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)の治療は,メソトレキセート(methotrexate; MTX)間歇療法と,特定のサイトカインや細胞表面分子を標的とする生物学的製剤の登場によって,飛躍的に成績が向上し,パラダイムシフトを迎えた.生物学的製剤が標的とするサイトカインのひとつとしてinterleukin(IL)-6があり,すでに承認されているヒト化抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブ以外に,完全ヒト型抗体であるサリルマブやIL-6に対する抗体シルクマブが承認申請中にある.IL-6阻害薬は,TNF阻害薬治療後のセカンドラインとして位置づけられていたが,EULAR recommendationsでは2013年以降,TNF阻害薬と並んでMTX効果不十分例に対するファーストラインの生物学的製剤のひとつとされた.その背景には,世界中で多数の大規模臨床研究で,トシリズマブの臨床的効果や関節破壊抑制が証明されてきたことがある.ヒト化抗IL-6受容体抗体と完全ヒト型IL-6受容体抗体,および抗IL-6抗体との違いは,現時点では明確ではないが,IL-6の多様な生物活性を抑制することによる多面的な効果が模索されている.本演題ではIL-6/IL-6受容体阻害薬に関する最近の臨床試験,臨床研究結果について解説する.

  • 田中 良哉
    2017 年 40 巻 4 号 p. 267b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      全身性エリテマトーデス(SLE)は,妊娠可能年齢の女性に好発する全身性自己免疫疾患で,皮膚,関節,心,腎,漿膜,神経,血管など全身の多臓器を侵し,多彩な臨床症候を呈する.副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬に依存した非特異的治療が中心であったが,病態の解明により治療標的が明らかになってきた.SLEではIFN関連遺伝子の高発現が明らかになり,病態形成においてもIFNの役割が注目されている.B細胞や樹状細胞ではToll様受容体が高発現して細菌,DNA,RNAなどの刺激を受容し,抗体やIFNα等のサイトカインの産生を介してリンパ球の活性化や自己抗体産生を誘導する.一方,抗IFNα抗体シファリムマブ,抗IFN I型受容体抗体アニフロルマブの投与は,IFN関連遺伝子の転写を抑制し,疾患制御効果が期待される.殊にIFN関連遺伝子の高い患者に有効性が高く,斯様な患者に対してアニフロルマブを用いた国際共同試験第III相試験を実施中である.SLEはheterogeneityの高い疾患であり,患者のグルーピングによる治療の選別法(precision medicine)が重要な課題である.SLEにおいてもベッドサイドとベンチ間の双方向のトランスレーションこそが治療応用にブレークスルーを齎すものと期待する.

  • 古江 増隆
    2017 年 40 巻 4 号 p. 268a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      アトピー性皮膚炎は,慢性再発性の湿疹を主体とする疾患で,強い痒みを有するのが特徴です.特徴的な皮疹の分布,形態,経過を示せば,高IgE血症を伴わなくてもアトピー性皮膚炎と診断します.強い痒みは睡眠を妨げ,就学や就業や影響を与え,精神的社会的QOLは著しく障害されます.標準治療であるステロイド外用,タクロリムス外用,抗ヒスタミン剤内服は痒みを軽減しますが,患者の満足度を上げるには十分ではありませんでした.インターロイキン31(IL-31)が,マウス,イヌ,サル,ヒトで痒みを誘導することがわかり,IL-31 receptor(IL-31R)に対する抗体療法(nemolizumab)が注目され,臨床試験が行われ,有効であることが示されました.本講演では,IL-31の機能,前臨床試験そして臨床試験の成績について概説したいと思います.

ワークショップ4 in vivo イメージングによる炎症解析
  • 菊田 順一
    2017 年 40 巻 4 号 p. 268b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      関節リウマチ(RA)は,炎症性骨破壊を来す難治性の自己免疫疾患である.近年,生物学的製剤の登場により,従来の治療法では疾患活動性をコントロールできなかった症例においても,関節破壊の進行を強力に阻止し,病状を寛解に持ち込むことが可能となった.現在,様々な生物学的製剤(抗TNFα抗体,抗IL-6受容体抗体,T細胞選択的共刺激調節剤)が本邦のRA治療において臨床応用され,その骨破壊抑制効果が示されているが,生体内における各種薬剤の破骨細胞に対する作用機序の差異については不明な点が多い.

      本演者らは,二光子励起顕微鏡を駆使して,個体を生かしたまま生体骨・関節組織内部をリアルタイムで観察するイメージング系を確立した.本技術を用いて,骨表面上での生きた破骨細胞の動態を可視化することに成功し,その制御機構を解明するとともに,各種生物学的製剤が炎症によって誘導された破骨細胞に及ぼす効果を解析し,薬剤間の薬効の差異を明らかにした.

      骨の生体イメージング技術は,生体骨組織内の様々な細胞の時空間的な挙動や機能をリアルタイムで解析することができるため,今後,骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨吸収性疾患の病態解明,さらに薬剤のスクリーニングや新規治療薬の開発において強力な手段となり得ると考えられる.

  • 高橋 苑子, 石田 梓, 川崎 洋, 久保 亮治, 天谷 雅行, 岡田 峰陽
    2017 年 40 巻 4 号 p. 269a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      アトピー性皮膚炎において,慢性的な痒みは症状の悪化に大きく関与している.近年,角質やタイトジャンクションなどの皮膚バリアの機能不全が,痒みの発生に関与していると考えられている.しかしながら,痒みを担う皮膚神経の活性化がどこでどのように起こっているかは明らかにされていない.本研究では,新たに確立した三次元ホールマウント免疫染色法を用いて,正常マウス及びアトピー性皮膚炎モデルマウスの,表皮タイトジャンクションと神経の構造の解析を行った.その結果,正常皮膚では表皮神経はタイトジャンクションの内側にしか存在しないのに対して,アトピー性皮膚炎モデルにおいては,タイトジャンクションの形成異常が起こり,表皮神経がより外界に暴露されていることが示唆された.また,二光子レーザー顕微鏡を用いた皮膚感覚神経のCa2+イメージングを行った.その結果,皮膚炎が発症する直前から,異常なタイトジャンクションの近傍において感覚神経が活性化していることが示唆された.これらのことから,アトピー性皮膚炎の発症においては,表皮タイトジャンクションの異常により,表皮神経が外界からの刺激に長期間暴露されることによって,掻痒が引き起こされる可能性が考えられた.

  • 永石 宇司, 渡部 太郎, 細谷 明徳, Jose Nisha, 津川 直也, 小島 裕大, 安達 貴弘, 渡辺 守
    2017 年 40 巻 4 号 p. 269b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      我々の腸管粘膜には独特なリンパ組織gut-associated lymphoid tissues(GALT)が形成され,免疫寛容と賦活の適切なバランスが巧みに調節されている.一方,この腸管粘膜における免疫恒常性の破綻は過剰で病的な免疫応答の誘導を来たし,クローン病や潰瘍性大腸炎など本邦でも急増傾向にある炎症性腸疾患(IBD)の病態を誘導する.これまでに,クローン病をはじめとする腸管の慢性炎症性疾患は回盲部に好発すること,また潰瘍性大腸炎は虫垂切除術によって発症リスクが低下することなどが知られている.こうした事実は回盲部周辺における免疫応答がIBDの病態に深く関与することを暗示している.しかしその特殊な免疫調節機構の詳細,あるいは疾患における病態的意義はこれまで明らかにされていない.そこで我々は5D生体イメージングやFLET技術を応用しつつ,IBDモデル誘発時の回盲部周辺における免疫応答の解析を試みた.IBDにおけるB細胞機能の病態的意義としては,分化した形質細胞から分泌される異常な免疫グロブリン産生のみがこれまで注目されてきた.ところが我々の解析結果から見えてきたものは,特定のGALTにおけるB細胞の新たな機能であった.本講演では,生体イメージングによる解析から浮き彫りにされた,この腸管粘膜における新たな免疫調節機構について紹介したい.

ワークショップ5 慢性炎症と免疫不全
  • 今井 耕輔
    2017 年 40 巻 4 号 p. 270a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      原発性免疫不全症は,単一遺伝子異常による免疫異常症であり,古典的には,易感染性を示し,機能「喪失」型の遺伝子変異による疾患である.歴史的には,X連鎖劣性,常染色体劣性の疾患の原因遺伝子が明らかになってきたが,近年,次世代シークエンサーの普及により,トリオエクソーム解析(罹患者,両親のトリオで全エクソンの解析を行う方法)が可能となり,突然変異による疾患も発見されるようになってきた.その中で,慢性炎症・自己免疫疾患を呈する疾患もいくつか見つかってきている.特に,獲得免疫系および自然免疫系の両方に関わる転写因子,およびその上流のキナーゼなどで,こうした機能「獲得」型ヘテロ変異による慢性炎症・自己免疫疾患を呈する例が報告されており,日本においても経験しているところである.例として,3つの経路の異常について概説する.すなわち,1.PI3K-AKT-mTOR-S6経路の活性化による,活性化PI3Kδ症候群(APDS),2.JAK-STAT経路の活性化による自己免疫・自己炎症性疾患(STAT1,STAT3,JAK1),3.CTLA4表出障害による免疫不全,自己免疫・自己炎症性疾患であるCHAI病(CTLA4遺伝子変異,LRBA遺伝子変異による)である.これらの疾患は,浸透率も100%ではなく,同じ遺伝子変異でも異なる表現型を呈していることが観察されており,自己免疫・自己炎症性疾患を診療する上では注意が必要である.

  • 金兼 弘和
    2017 年 40 巻 4 号 p. 270b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      免疫不全症とは自己と非自己を区別することができなくなる病態であり,外来からの病原体を攻撃できなくなるために易感染性を示すことを主たる特徴とするが,その他にも悪性腫瘍,アレルギー,自己炎症,自己免疫を高頻度に合併する.原発性免疫不全症は免疫に関わる分子の異常によって生じるが,300以上の疾患が知られ,分子病態に応じて8つあるいは9つに分類されている.そのうち自己炎症性疾患は2000年以降に明らかになった疾患概念であり,全身性炎症が間欠的あるいは持続的にみられる.そのほとんどで原因遺伝子が同定されているが,裏を返せば原因遺伝子が明らかとなった炎症性疾患が自己炎症性疾患に分類されているといってもよいかもしれない.また自己炎症性疾患に分類されていない原発性免疫不全症においても時に自己炎症性疾患様の病態を合併することがある.ここでは家族性ベーチェット病として同定されたA20ハプロ不全がベーチェット病に限らずさまざまな自己炎症性疾患を合併し,時に自己免疫疾患を発症することを紹介する.またEBウイルスに対する易感受性を示し,免疫制御異常に分類されるX連鎖リンパ増殖症候群2型であるXIAP欠損症は高頻度に炎症性腸疾患を合併しうる.その病態と治療戦略についても紹介する.自己炎症性疾患は免疫制御に関わる分子の異常によって生じる疾患であり,原因遺伝子の同定ならびに分子病態の理解は難治性炎症の制御に役立つと考えられる.

  • 新井 文子
    2017 年 40 巻 4 号 p. 271a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      慢性活動性Epstein-Barrウイルス感染症,chronic active EBV infection(CAEBV)は1978年に,遷延化した伝染性単核球症として,初めて報告された.しかし,その後の解析により,EBVに感染したTもしくはNK細胞の腫瘍性増殖を伴い,進行し,致死的経過を取りうる疾患であることが明らかになった.2016年に改定されたWHO造血器腫瘍分類は,CAEBVを,重症蚊アレルギー,種痘様水疱症様リンパ増殖症と合わせた疾患単位として新たに定義し,末梢性T, NK細胞腫瘍に位置づけている.

      CAEBVは以下の特徴を持つ.患者の報告は,本邦を中心とする東アジアに集中している.多彩な炎症症状で発症するが,経過中進行し,最終的には治療抵抗性T,NK細胞リンパ腫や,「炎症の暴走」である,血球貪食性リンパ組織球症を発症する.まさに,炎症と腫瘍,2つの顔を持っている.

      近年,CAEBVの病態が徐々に明らかになってきた.東アジアへの局在は,何らかの遺伝的背景因子の存在を示唆するが,それを支持する知見が報告されている.また,私たちは2015年に設定した診断基準の下で,CAEBVの全国調査を昨年行い,発症と治療の実態および予後を解析した.さらに,これまでの基礎研究の成果に立脚した治療法の開発を開始している.

      本日の発表では,以上を中心に,発症機構の解明,治療法の開発の現状を述べる.

  • 沢田 哲治, 太原 恒一郎
    2017 年 40 巻 4 号 p. 271b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      全身性エリテマトーデス(SLE)は遺伝要因を有する個体に環境要因が作用して発症する慢性炎症性疾患であり,自己抗体や免疫複合体の出現,I型インターフェロン産生異常などを特徴とする自己免疫疾患である.SLEを含む自己免疫疾患と免疫不全は相互に関連するが,その関連性は多様である.原発性免疫不全症は免疫関連遺伝子異常を原因とする遺伝性疾患でその主要症状は感染症であるが,しばしば自己免疫異常を合併する.例えば,先天性補体欠損症(C1q欠損症など)では,生体防御能や免疫複合体除去能力の低下による易感染性に加えてSLE様など自己免疫異常を高頻度に合併する.一方,SLEの主要な病態は自己免疫であるが,疾患感受性遺伝子の多くは免疫関連遺伝子であり,SLE自体で免疫不全状態をきたしうる.稀であるが,免疫グロブリン異常としてSLE診断時あるいは治療開始後に分類不能型免疫不全症(CVID)を呈した症例が報告されており,SLE自体あるいは免疫抑制療法によるものと考えられる.B細胞以外にも他の獲得免疫系や自然免疫系の異常も影響を受ける可能性がある.さらに,実臨床ではステロイドや免疫抑制薬の投与が細菌やウイルス,日和見感染症の発生要因となることが多い.本演題ではSLEと免疫不全との関連,SLE患者に生じる易感染とその機序について概説する.

ビギナーズセミナー
  • 佐藤 和貴郎
    2017 年 40 巻 4 号 p. 272a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      神経免疫学は,中枢神経系・末梢神経系・自律神経系・筋肉における免疫現象の解明を目的とする,学際的色彩の濃い学問領域である.神経系と免疫系は共に生命の本質である「自己を守る」働きを担うが,分子レベルから臓器レベルまで,複雑な相互作用がある.ともに周囲の環境─情報や異物─が発達期に大きな影響を与える.歴史的に多発性硬化症やギランバレー症候群,重症筋無力症,筋炎,傍腫瘍性神経症候群などが研究対象となり学問の進歩を引っ張ってきた.最近は,神経免疫学の裾野が広がり,認知症や脳卒中,てんかん,精神疾患なども神経免疫学の守備範囲となってきた.血液脳関門などの「バリア」の問題,中枢神経系を場とする組織マクロファージであるミクログリア研究,マイクロバイオームの神経系への関与などの最近の話題も含め,本セミナーでは,神経免疫学の深まりと広がりを紹介できればと考えている.

  • 多田 弥生
    2017 年 40 巻 4 号 p. 272b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      皮膚疾患の中でも乾癬の治療は生物学的製剤の登場によって劇的に変わり,その一方で,それら新薬の効果が免疫学的病態の解明に寄与し,新規の乾癬治療薬の開発を促すという,少なくとも病態の理解においては好循環を生んでいる.本講演においては,まず,臨床面での皮膚免疫学のトピックとして,期待される新規治療薬とその効果,さらにそこからみえて来た各疾患の背景にある免疫学的病態を最近の知見をもとに紹介したい.とりあげる皮膚疾患は,乾癬,アトピー性皮膚炎,白斑,脱毛症である.このほか,基礎領域からは大気汚染やマイクロビオームとアトピー性皮膚炎,ウルシによる接触皮膚炎でのランゲルハンス細胞上に発現するCD1aのかかわりについて,最近興味深い知見がいくつか報告されているので,簡単に紹介する.

  • 樗木 俊聡
    2017 年 40 巻 4 号 p. 273a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      1892年,Metchnikoffは,ヒトデの幼生ビピンナリアをはじめとする無脊椎動物さらには脊椎動物の組織に異物を食べて消化する大型の細胞(貪食細胞)を発見しマクロファージと名付けた.1968年,FurthやCohnにより単核球系貪食細胞システム(Mononuclear phagocyte system, MPS)が提唱され,単球とマクロファージをまとめて単核球系貪食細胞と命名,すべての組織常在性マクロファージの起源は骨髄単球であると主張した.1989年,高橋潔・内藤眞博士らは,単球が発生する前の卵黄嚢・胎児肝にマクロファージが出現・存在することを報告し,MPSの矛盾を指摘した.21世紀に入り,組織マクロファージの大部分が,実は胎生期(卵黄嚢あるいは胎児肝)由来であることがfate-tracing技術を駆使して示された.機能的にも,胎生期由来マクロファージは自己複製能を有し長寿命で定常状態における組織恒常性の維持を担うこと,一方,骨髄単球を起源とするマクロファージは短寿命で,さまざまな炎症反応に積極的に関与すると言われている.本講演では,マクロファージ研究の歴史を紹介し,さらに,最近ヒトで報告が相次いでいる樹状細胞やマクロファージの前駆細胞に関する知見を,我々の研究成果を中心に紹介したい.

  • 中嶋 蘭
    2017 年 40 巻 4 号 p. 273b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      多発性筋炎(PM)/皮膚筋炎(DM)では様々な自己抗体が検出され,特に筋炎特異的自己抗体(MSA)が数多く存在することが特徴的である.PM/DMでは各々のMSAに対応するような臨床的意義が報告されており,MSAによって筋炎を分類する考え方が広まりつつある.また,予後もMSAによって異なるため,治療方針にも大きく影響を及ぼしうる臨床指標となりつつある.PM/DMにおいて最も高頻度(約30%)に認められる自己抗体は抗ARS(アミノアシルtRNA合成酵素)抗体であり,主に6種類(抗Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, OJ, KS抗体)存在する.その他には抗MDA5(melanoma differentiation-associated gene 5)抗体,抗TIF1-γ抗体,抗SRP抗体,抗Mi-2抗体,抗NXP2抗体,抗HMGCR抗体などが存在する.抗ARS抗体,抗MDA5抗体は間質性肺炎と強い相関があり,それぞれ慢性型,急性/亜急性型と関連する.抗TIF1-γ抗体は悪性腫瘍と,抗SRP抗体は難治性重症筋炎と,抗HMGCR抗体はスタチン関連筋炎とそれぞれ関連が指摘されている.本セミナーでは各MSAの意義とともに,個々の症例の治療方針やマネジメントにおいてそれをどのように生かすかについて概説する.

  • 中島 秀明
    2017 年 40 巻 4 号 p. 274a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      次世代シーケンスの発展によってゲノムの塩基配列が簡便かつ高速に手に入る時代になった.腫瘍性疾患や先天性疾患を中心に様々な疾患のゲノム情報が解析され,原因となる遺伝子変異が次々と明らかにされている.しかしこのようなジェネティック(genetic)な情報,すなわちDNAの塩基配列だけでは生命現象を理解することはできない.それらの情報が細胞の中でいかに使われるのか,それを決めるエピジェネティックス(epigenetics)とよばれる調節機構が極めて重要であり,今大きな注目を集めている.エピジェネティックスとは,メチル化・アセチル化などのヒストン修飾やDNAメチル化を制御する仕組みのことである.このようなヒストン修飾・DNAメチル化のことをエピゲノム修飾とよび,これらは周辺のクロマチン構造やDNAの状態に影響を与えることで遺伝子の転写を間接的に制御している.すなわちエピゲノム修飾は遺伝子発現を制御するゲノム上の目印として働いており,個体発生や細胞の分化・増殖など生命現象の根幹を担っているといっても過言ではない.近年,様々な腫瘍でエピゲノム制御因子の変異が高頻度に認められることが発見され,腫瘍発生にエピゲノム異常が深く関与していることが明らかとなってきた.本セミナーでは,臨床家が覚えておくべきエピジェネティックスの基本と,疾患状態におけるエピジェネティックスの異常について概説する.

  • 西川 恵三
    2017 年 40 巻 4 号 p. 274b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      骨吸収機能を介して骨の恒常性維持にかかわる破骨細胞は,単球・マクロファージ系前駆細胞から分化するマクロファージサブセットのひとつである.破骨細胞の形態学的特徴のひとつとして,酸化的代謝の中心オルガネラであるミトコンドリアを豊富にもつことが古くから知られているが,この生理的意義については十分に理解がすすんでいない.近年,我々は,破骨細胞で亢進する酸化的代謝が,細胞分化の重要な制御基盤となることを見出した.即ち,酸化的代謝に依存してメチル基供与体である代謝物S-アデノシルメチオニン(SAM)が増加し,これに伴ってDNAメチル化制御が亢進することで破骨細胞分化が促進することを明らかにした.そこで,本発表では,破骨細胞における細胞内代謝の新たな意義と「破骨細胞分化」と「細胞内代謝様式の改変」を結びつける分子実体としてのエピジェネティック制御の重要性について議論したい.さらに,今回新たに見出した破骨細胞制御機構が,破骨細胞の異常が原因となる骨代謝疾患に対して有効な創薬標的となる知見についても解説したい.

  • 清水 重臣
    2017 年 40 巻 4 号 p. 275
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      オートファジーは,リソソームを利用し,自己構成成分を分解する細胞機能です.この細胞機能は,栄養飢餓などの様々なストレスによって活性化し,新陳代謝,細胞のストレス応答,細胞浄化などに貢献しています.この機能は,生体の営みの基盤となっていますので,その破綻は炎症性腸疾患や神経変性疾患などの発症原因となる可能性があります.これまでに,オートファジーの実行には,Atg5やLC3などの分子が決定的な役割を果たしているものと考えられてきました.しかしながら,私たちは,これらの分子に依存しない新たなオートファジー機構の存在を発見しました.また,このオートファジーの生理的役割や疾患への影響も解明しつつ有ります.本講演では,従来型オートファジー研究並びに新たなオートファジー研究の展開を解説するとともに,最新の知見を紹介します.

専門スタディー1 ヒトマクロファージ・ヒト樹状細胞(DC 関連)
  • 佐藤 克明
    2017 年 40 巻 4 号 p. 276a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      樹状細胞(dendritic cells; DCs)は樹状突起を有する系統マーカー陰性,主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex; MHC)クラスII陽性の抗原提示細胞(antigen-presenting cells; APCs)であり,通常型樹状細胞(conventional DCs; cDCs)と形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DCs; pDCs)に大別される複数のサブセットから構成される.樹状細胞は炎症状態では自然免疫と適応免疫を繋ぐ最も強力な抗原提示細胞として免疫系を賦活し,定常状態では免疫寛容を誘導する制御細胞として免疫学的恒常性の維持に重要であると考えられている.樹状細胞サブセットの特徴的な機能は様々な内的要因や異なる外的刺激などの環境要因によって修飾・影響を受けて,免疫応答を多彩に調節する.さらに,免疫疾患の発症や増悪への樹状細胞サブセットの関与が明らかになりつつある.本講演では樹状細胞の機能特性を概説し,ヒトの樹状細胞サブセットの性状についてマウスの機能的相同性サブセットと比較した最近の知見を交えて紹介する.

  • 宮下 梓
    2017 年 40 巻 4 号 p. 276b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      いうまでもなく免疫応答の制御において,樹状細胞やマクロファージは其々に重要な役割を担っている.腫瘍免疫においても,マクロファージは以前より,種々の癌組織の周囲に浸潤する性質を持つことが知られており,癌の増殖を促進するTAM(tumor-associated-macrophages)の存在が報告されている.一方,マクロファージの抗腫瘍効果についての報告もあり,IFN-γで刺激したマクロファージの投与がpreclinical studyで試みられたが良い効果は得られていない.ここでは,免疫細胞療法におけるマクロファージの免疫細胞としての可能性を,我々が行っているヒトiPS細胞由来マクロファージ様細胞による研究を中心に述べたい.腫瘍組織に浸潤するマクロファージの性質を活かし,かつ腫瘍組織局所で強力な抗腫瘍効果を発揮できる免疫細胞療法の開発を目指し,iPS細胞から分化誘導したマクロファージ様細胞に遺伝子改変によりI型インターフェロンを遺伝子導入してインターフェロン産生能を持たせ,腫瘍局所で抗腫瘍効果を発揮できる細胞を作製し,この細胞を用いた種々の癌に対する腫瘍抑制効果についてこれまで報告してきたが,悪性黒色腫を中心にそれらについて概説し,今後の展望について述べたい.

  • 佐藤 荘
    2017 年 40 巻 4 号 p. 277a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      最近の免疫学のトピックの1つとして,M1・M2マクロファージが挙げられる.しかし,私たちはマクロファージはM1・M2ではなく更に詳細なサブタイプに分かれると仮定して研究を行った.その結果,アレルギーに関わるサブタイプはJmjd3により分化する事(Satoh T. et al., Nature Immunology 2010),またメタボリックシンドロームに関与するサブタイプはTrib1より分化する事を突き止めた(Satoh T. et al., Nature 2013).これらの研究から,現在私たちは病気ごとの“疾患特異的マクロファージ”が存在している可能性を考えている.新たな疾患特異的マクロファージを探索するために,線維症に着目した.線維化初期に患部で増えるマクロファージについて解析を行い,Ly6C−Mac1+分画の一部の細胞が線維症の発症に必須である事を突き止めた.この細胞の形態的特徴を解析したところ,2核様の形態をとっていたので,Segregated nucleus Atypical Monocyte(SatM)と名付けた(Satoh T. et al., Nature 2017).このように,私たちの体には未だ見つかっていない“疾患特異的マクロファージ”が存在しており,各々が対応する疾患が存在していると考えられる.これらの疾患特異的な細胞を標的とした創薬は,その疾患特異性の高さから,副作用の少ない創薬応用につながることが期待される.

  • 中田 光, 竹内 志穂, 橋本 淳史
    2017 年 40 巻 4 号 p. 277b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      前世紀末,我々は,特発性肺胞蛋白症の血液及び肺に大量のGM-CSF自己抗体が存在することを発見した(J. Exp. Med, 1999).GM-CSFあるいは受容体欠損マウスが同症を発症することから,同抗体が本症の病因であると唱えた(N. Engl. J. Med, 2003).その後,米国で患者自己抗体をサルに投与した疾患モデルができ,仮説が証明された.その後の検討で,本GM-CSF自己抗体は,GM-CSFに対して非常に強い親和性をもつこと,また,エピトープはGM-CSF分子の複数箇所にまたがり,ポリクローナル抗体であることが分かった.この抗体の多様性の起源として,1)複数のgermline alleleをもつnaiive B cellに由来するという考え方と,2)リンパ濾胞における体細胞超変異に由来するという考え方がある.そのどちらが正しいのかを明らかにするため,自己抗体陽性B細胞の軽鎖/重鎖可変部配列を次世代シークエンスと情報処理技術により大規模解析した.これにより,本症の発症機序解明に寄与したい.

専門スタディー2 ヒトB細胞
  • 高橋 裕樹, 山本 元久
    2017 年 40 巻 4 号 p. 278a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      IgG4関連疾患(IgG4-related disease: IgG4-RD)は血清IgG4高値と,IgG4陽性形質細胞の浸潤と線維化による臓器病変を特徴とする新たな疾患概念である.罹患臓器は涙腺・唾液腺と膵臓を主体に,ほぼ全身に渡り,それに起因する多彩な臨床スペクトラムを有するが,高ガンマグロブリン血症や低補体血症が発見の契機になることが多く,当初から過剰なB細胞の活性化を含む何らかの免疫異常の関与が示唆されていた.実際,IgG4-RDの病態としてB細胞でのIgG4へのクラススイッチの促進・形質細胞でのIgG4産生増加は確認されたものの,自己抗体の同定には至らなかった.また,補体結合性を有さないIgG4の生理機能などからIgG4が組織障害を惹起することは困難であり,IgG4-RDの病因とB細胞の関連は限定的と考えられていた.しかしながら,最近,患者血中に形質芽細胞のoligoclonalな拡大が確認され,また患者由来のIgGがマウスに膵病変をきたすことが報告され,病原性を有する自己抗体の存在が注目されている.さらに,自験例を含め,ステロイド抵抗性のIgG4-RD症例で抗CD20モノクローナル抗体であるrituximabが有効であることも報告され,B細胞の抗体産生能に加え,エフェクター機能の異常がIgG4-RDの病因に関連する可能性が想定されている.

  • 吉本 桂子, 鈴木 勝也, 関 則靖, 菅原 邦夫, 千葉 健治, 竹内 勤
    2017 年 40 巻 4 号 p. 278b
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      BAFFはB細胞の分化や生存に深く関与する分子として知られ,B細胞の活性化が病因の一つと考えられている全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群(SS)などの自己免疫疾患では治療標的の一つとして注目されている.またBAFFの受容体であるBR3(BAFF-receptor)はBAFFと特異的に結合して細胞の活性化を誘導することからBAFFはBR3を介してB細胞の分化増殖を促進すると考えられている.このことからBAFFのみならずBR3も治療標的の一つと考えられる.我々はこれまでSS患者の末梢血単球ではBR3発現亢進が起因となるBAFFによるIL-6産生が促進され,これがB細胞のIgG産生を誘導することを示してきた.そこでBAFFとBR3の結合を阻害することが単球やB細胞でのBAFFの作用を抑制し新規治療薬創製へつながると考え,独自に開発したハイスループットスクリーニングを用いてBAFFとBR3の結合阻害作用を有する低分子化合物の探索を実施した.その結果得られた候補化合物は末梢血単球からのIL-6産生やB細胞からのIgG産生を抑制することが明らかになった.さらに自己抗体産生モデルマウスに候補化合物を投与したところ,自己抗体や炎症性サイトカイン産生に対して抑制作用を示したことから,獲得した候補化合物は自己免疫疾患治療薬のリード化合物として期待できると考えている.

  • 石津 明洋
    2017 年 40 巻 4 号 p. 279a
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/25
    ジャーナル フリー

      自己抗体には病変形成の結果として産生されるものもあるが,血管炎症候群では病原性自己抗体が出現する特徴がある.そのような自己抗体のひとつがANCA関連血管炎におけるMPO-ANCAである.我々は,抗甲状腺薬であるPTUを投与された患者の約30%にMPO-ANCAが産生されることに着目し,MPO-ANCAの産生に好中球細胞外トラップ(NETs)の制御異常が関与していることを明らかにした.NETsは本来,感染防御に不可欠な自然免疫機構であるが,自己損傷の恐れもあるため,役割を果たした後は血清中のDNase Iにより速やかに分解される.我々は,ヒト好中球をPMAで刺激してNETsを誘導する際に,PTUを添加すると,DNase Iに対して抵抗性のNETsが形成されることを見出した.さらに,PTUの存在下で形成させたDNase I抵抗性のNETsをWKYラットに免疫すること,または,PTUの経口投与下で腹腔内にPMAを注射して,生体内でDNase I抵抗性のNETsを形成させることにより,MPO-ANCAが産生され,そのラットに小型血管炎が発症することを報告した.また,PTUとPMAを用いて作製したMPO-ANCA産生モデルマウスに,NETs形成阻害作用を持つPAD阻害剤を投与することにより,MPO-ANCAの産生が抑制されることも確認した.分解されず,生体内に残存するNETsに含まれるMPOが,何らかの理由によりCD4 T細胞に自己抗原として認識され,B細胞を刺激して病原性自己抗体であるMPO-ANCAが産生される可能性が考えられる.

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