日本臨床免疫学会総会抄録集
Online ISSN : 1880-3296
ISSN-L : 1880-3296
第37回日本臨床免疫学会総会抄録集
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特別講演
  • 谷口 克
    セッションID: SL-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    NKT細胞はCD1d分子に結合した糖脂質を認識し、免疫系を制御するリンパ球である。NKT細胞はただ一種類のVα14受容体を発現するが、通常のT細胞には使われていない。NKT細胞を欠損したNKT細胞欠損マウスを作成し,リガンドである α-カラクトシルセラミド(&alpha-GalCer)糖脂質を同定したことで、NKT細胞の機能解析が可能となった。NKT細胞は自然免疫系と獲得免疫系の橋渡しをするシステムで、アジュバント作用を担う重要な細胞である。NKT細胞から産生されるIFNγがアジュバント機能を発現し,NK,CD4Th1, CD8T細胞を増殖・活性化するからである。したがってワクチン効果を期待するためには不可欠の細胞である。 ペプチド技術の進歩は「がんペプチドワクチン」とキラーT細胞療法という実用化への道を開いたが、効率的にがん患者体内でキラーT細胞を誘導する事に成功していない。それは,アジュバントを併用していないからである。さらに、キラーT細胞療法は、活性化からがん細胞の攻撃に至まで自己MHC分子を標的にしているため、MHC分子を失ったがん細胞を殺す事はできない。NKT細胞療法は、このキラーT細胞療法の欠点を補うもので、NKT細胞のアジュバント効果により、NK細胞やCD8キラー細胞の抗腫瘍活性を増強し、あらゆる種類のがんに対して抗腫瘍効果が期待できる。 NKT細胞を活性化するいわゆるNKT細胞標的アジュバント療法の第2相臨床試験を、進行肺がん17症例を対象に行なった。その結果、インターフェロン・ガンマを多く作る群(10症例)は、初回の治療だけで3年以上生存しし、平均生存期間は31.9ヶ月で、化学療法の4.6ヶ月と比較して極めて効果があることが判明した。 臨床研究は千葉大学中山俊憲教授、本橋新一郎準教授との共同研究である。
  • 小池 隆夫
    セッションID: SL-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    抗リン脂質抗体症候群(APS)は、動静脈血栓症や習慣流産/胎児発育不全などの妊娠合併症といった特徴的な臨床症状を呈する自己免疫疾患である。抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントさらには抗プロトロンビン抗体)が引き起こす自己免疫血栓症であり、SLEに合併することがもっとも多い。抗リン脂質抗体は直接リン脂質に反応するのではなく、β2グリコプロテインIやプロトロンビンなどのリン脂質結合蛋白に結合するという大変ユニークな生物活性を有している。
    1999年には「サッポロクライテリア」とよばれるAPSの分類基準がコンセンサスに至り、臨床研究や診断にひろく用いられるようになった。サッポロクライテリアは、2006年に「シドニー改変」がおこなわれ、現在に至る。APSの症状は容易に再発することが問題点であり、その管理には十分な注意を要する。
     抗リン脂質抗体、特にβ2グリコプロテインI依存性抗カルジオリピン抗体の病態形成に関する研究から、リン脂質膜上での凝固因子を介した作用機序以外にも向血栓細胞(単球など)の活性化にp38MAPK経路が重要であることを明らかにしてきた。β2グリコプロテインIは血漿蛋白であり、そのような蛋白を介してなぜ単球に活性シグナルが伝わるかをプロテオミクスの手法を用いて解析したところ、新たなβ2グリコプロテインI結合分子が同定され、さらにインテグリンを介して単球内にシグナルを伝達し、組織因子を中心に向凝固因子が単球から産生されることが明らかになった。これらの細胞表面分子ならびにシグナル伝達分子はいずれもAPS治療の分子標的となる可能性がある。最近、APSの発症に補体の活性化が関与することも明らかになり注目されている。またβ2グリコプロテインIの様々な分子活性も明らかになってきた。
  • 岡野 栄之
    セッションID: SL-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは、非常に再生しにくいとされる中枢神経系の再生研究に取り組んできた。脊髄損傷を例にとれば、急性期はIL-6などの炎症性サイトカインのブロックあるいはHGFによる細胞保護、亜急性期以降はSema3Aのブロックによる軸索再生誘導、コンドイチナーゼABCによるグリア瘢痕の分解、あるいは幹細胞移植が有効であることを前臨床研究により示してきた。これらのいくつかのものについては、ヒトを対象にした治験に向けて準備を進めているが、次世代の再生医療として注目しているのがiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell,人工多能性幹細胞)を用いた細胞治療である。iPS細胞は、皮膚の繊維芽細胞などの体細胞にSox2, Oct3/4, Klf4, (c-Myc)などの少数の遺伝子を導入するだけで、試験管内で誘導される。iPS細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)と同等の多能性を有する幹細胞であり、患者さん自身の体細胞から誘導することができる。このため、初期胚を用いるという生命倫理的な問題や、他家移植に伴う免疫抑制の回避という二重の意味で、iPS 細胞技術は、多いに注目されるようになった。しかしながらiPS細胞を実際の臨床へ応用する際の鬼門が腫瘍化の問題であり、我々は京大の山中教授と共同して腫瘍化に伴うiPS細胞の安全性と品質管理について新知見を得たのでここに報告したい。また、iPS細胞技術は、単に再生医療応用のみではなく、稀少な臓器内の体性幹細胞を試験管内で大量に調整する事が可能になるため、メタボローム解析、プロテオーム解析等の網羅的解析を可能にし、細胞の分化能と遺伝子のリプログラミングの研究や、ヒト疾患モデル細胞の提供により、疾患の原因の解明や創薬研究(開発研究、毒性の検討)に大きく貢献し、医学研究の大きなパラダイムシフトを産む出すものと期待される。本講演では、iPS細胞をもちいた神経再生研究および神経疾患研究についての最新の成果を紹介したい。
シンポジウム
シンポジウム1 ゲノム医科学と自己免疫疾患
  • 能勢 眞人
    セッションID: S1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    膠原病は、結合組織疾患、リウマチ性疾患、自己免疫疾患の3つのカテゴリーを満足する疾患とされる。しかし、膠原病の病態・病理像の多様性は、膠原病が独立した疾患の寄せ集めである為なのか、それとも何らかの生物学的必然性の結果なのか、という問題は、Klemperer による膠原病の提唱以来未解決で重要な課題である。従来、疾病の原因を究明する方法として、疾病個体の特定の物質を正常個体へ移入することによる疾病の再構築が、実験医学のセントラルドグマであった。この原理は、自己免疫病においても、血清やリンパ球の正常個体への移入による疾病の再構築が、Witebsky & Milgromにより自己免疫疾患の条件として挙げられ、さらにゲノムでは胚工学の発展に支えられ、特定の遺伝子の強制発現や削除による単一遺伝子モデルも報告されてきた。
     腎炎のみならず血管炎、関節炎、唾液腺炎などの一連の膠原病を同一個体に発症するMRL/lprマウスにおいても、突然変異遺伝子Faslprによる単一遺伝子疾患とされていたが、個々の病変の感受性遺伝子座をマッピングし、位置的候補遺伝子を解析して得た我々の結論からは、膠原病の病像多様性はMatherが提唱した「ポリジーン系遺伝」の概念に従うものであった。即ち、ある閾値に規定された量的形質は単一の遺伝子(ポリジーン)のみでは発現しがたく、複数の遺伝子の組み合わせにより相補的にはじめて発現する、ポリジーンにおこる突然変異は、その作用が小さいため潜在的に変異を集団に伝え適応性の幅を広げる効果をもつ、というものである。従って、膠原病の病像の多様性は、膠原病が独立した疾患の寄せ集めであるためではなく、同義遺伝子として集団内に潜在的に分布するポリジーンの組み合わせにより必然的に生み出されるものと考えられた。膠原病のこのシステムを膠原病のポリジーンネットワークと呼ぶ。
  • 高地 雄太
    セッションID: S1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    関節リウマチ(RA)は代表的な自己免疫疾患で、環境因子と遺伝因子が複雑に関与することにより発症する多因子疾患である。ゲノム全体を対象としたゲノムワイド関連解析による疾患感受性遺伝子の探索が可能となり、ここ数年でRAの遺伝因子が急速に明らかになりつつある。これらの遺伝因子は、RAの病態の各ステージで重要な役割を果たしているものと考えられる。RA特異的な自己抗体として抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)が知られるが、この抗体の出現はなんらかの自己タンパクにたいする免疫寛容の破綻が起きた結果であると考えられる。日本人RAの感受性遺伝子として同定されたPADI4は、ペプチドのアルギニン残基をシトルリン化する酵素をコードする遺伝子であることから、シトルリン化という翻訳語修飾を介して、自己抗原の産生に寄与していると考えられる。また、RAの最大の遺伝因子として知られるHLA-DRB1遺伝子多型は、その疾患感受性アレル(日本人では主に*0405)がACPAの出現との相関が強いことが報告されていることから、シトルリン化ペプチドの抗原提示に関与しているものと考えられる。一方で、RA感受性遺伝子として同定されたPTPN22、FCRL3、CD244などは、リンパ球に発現する分子をコードし、リンパ球の応答性に影響をあたえると考えられている。これらの遺伝子多型はRA以外にも複数の自己免疫疾患の感受性に関連するため、自己抗原とは無関係に、リンパ球の自己応答性を規定する多型であると考えられる。このように、RAを含む自己免疫疾患では、1)自己抗原の産生、2)抗原提示、3)リンパ球の応答、といった免疫応答の各フェーズにおいて働く遺伝因子の組み合わせによって免疫寛容の破綻をきたし、疾患発症へつながっていくものと考えられる。
  • 土屋 尚之
    セッションID: S1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    全身性エリテマトーデス(SLE)においては、1990年代から、HLA, C4, Fcγ受容体遺伝子群などの関連が確立されてきた。これに加え、2005年以降、ヨーロッパ系集団を中心とした大規模関連研究により、IRF5, STAT4, BLK, TNFAIP3など、多くの新たな感受性遺伝子が報告されてきた。
     われわれは、これらの遺伝子について、日本人集団における関連を検討し、以下の知見を得た。
    1) IRF5, STAT4, BLK, TNFAIP3のいずれにおいても、日本人集団においてSLEとの関連が検出され、これらは集団を超えて共通のSLE感受性遺伝子であると考えられた。
    2) STAT4BLKのSLE発症における遺伝学的な寄与は、日本人集団において、ヨーロッパ系集団よりも顕著に大きいと考えられた。
    3) IRF5, STAT4, BLKのいずれもが、全身性強皮症とも関連することを見出した。これらについては、関節リウマチをはじめ、各種自己免疫疾患との関連が知られており、自己免疫に共通の遺伝的背景に関与するものと推測された。
     SLEのような多因子疾患では、個々の疾患感受性多型による遺伝的寄与は、臨床あるいは予防医学に応用する上で、十分大きくない。そこで、日本人集団において確立したSLE感受性遺伝子であるHLA-DRB1, FCGR2B, STAT4, BLK, IRF5の5個につき、それぞれの個体が持つリスクアリル数の総和とリスクとの関連を検討した。健常対照群における平均リスクアリル数である4個を有する群と比較して、リスクアリル6個を有する群ではリスクが2.69倍、7個以上を有する群では5.71倍に有意に上昇し、逆に3個以下の群ではリスクが0.50倍に有意に減少していた。このように、複数の疾患感受性遺伝子の組み合わせが、個体の遺伝的リスクの評価に有用であることが示唆された。
  • 白澤 専二, 中林 一彦
    セッションID: S1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    自己免疫性甲状腺疾患(Autoimmune Thyroid Disease: AITD)は甲状腺機能亢進症であるバセドウ病と機能低下症である橋本病に代表される最も頻度の高い自己免疫疾患であり、他の自己免疫疾患と同様に複数の遺伝要因と複数の環境要因が相互に作用し発症する多因子疾患である。国際HapMap計画の進展とSNPタイピング技術の急速な進歩により可能となった全ゲノム関連解析法(GWAS)により、2006年以降、関節リウマチ、SLE, クローン病などの自己免疫疾患で同定された感受性遺伝子の数は急増しつつあるのに対し、AITDに関する新規に同定された感受性遺伝子の数はそれほど増えていない状況にある。ここでは、AITDの遺伝要因を、1)主要組織適合遺伝子複合体(HLA)領域、2)CTLA4, FCRL3等のHLA領域外の免疫関連遺伝子、および、3)TSHR等の甲状腺特異的遺伝子の三群に大別し、各群についての関連遺伝子探索の現状を紹介する。また、我々が理化学研究所と共同で行ったAITDのGWASの結果についても新たに紹介し、AITDの遺伝要因について考察を加える。
    一方、AITD感受性候補遺伝子の一つとして、これまでに転写制御分子と考えられるZFATを報告してきたが、その後の分子細胞生物学解析から得られたZFATに関する免疫学的・細胞生物学的知見を紹介する。ZFATは魚類からヒトに至るまで高度に保存された遺伝子であり、胸腺、リンパ節、脾臓、末梢血のT細胞、B細胞に特異的に発現し、免疫応答遺伝子群の発現制御に関与すること、さらには、T細胞白血病細胞株の系等においてアポトーシスを制御する分子であることを明らかにした。さらに、ChIP-chip解析、DNA-蛋白結合解析等によりZFATの転写ネットワークの描出がなされつつあり、ZFATが制御すると推定される興味深い細胞・生命プログラムについても紹介する。
  • 尾内 善広
    セッションID: S1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    川崎病(Kawasaki disease)は乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患である。症例の多くは自然軽快するが、無治療で経過した川崎病患児の約20~25%に冠動脈瘤や拡張に代表される冠動脈病変が生じ先進国における小児の後天性心疾患の最大の原因となっている。川崎病は東アジア、特に日本人に多く発症すること、同胞間の再発危険率が高いことなどから遺伝的要因が原因の一端を担っていると考えられており、我々はその解明が川崎病の謎を解く鍵になると考え、同定に取り組んだ。まず日本全国から川崎病同胞罹患例を募り、罹患同胞対解析により10箇所の染色体領域を候補として特定した。その後、各候補領域に関しSNPによる連鎖不平衡マッピングを日本人及び米国人川崎病検体を用い体系的に行った。その結果19q13.2に存在するinositol 1,4,5-trisphosphate 3-kinase-C (ITPKC)が人種を越えた川崎病のリスクファクターであることを発見した。ITPKCはイノシトール3リン酸(IP3)をIP4へと変換するリン酸化酵素である。ITPKCの発現が刺激時にT細胞内で誘導され、NFATを介したサイトカイン産生に抑制的に働くこと、イントロン1に位置する機能的多型がスプライシング効率を変化させることによりITPKC産物が減少することも判り、川崎病の病態にCa2+ /NFAT経路が重要であることが示唆された。現在Ca2+/NFAT経路を抑制するシクロスポリンA (CsA)やFK506が知られているが、これらがエヴィデンスに基づく川崎病の治療薬となる可能性を検討中である。今後はさらに検討の幅を広げ、さらなる感受性遺伝子の同定を通じ川崎病の臨床へ貢献したいと考えている。
シンポジウム2 ヒト免疫疾患研究の新展開-from clinic to bench
  • 古川 福実
    セッションID: S2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    自己免疫疾患とりわけ全身性エリテマトーデス(SLE)において自然発症性モデルマウスの果たしてきた役割は大きい。古くは、たまたまNew Zealandで黒毛のマウスを解析するうちに、抗核抗体、自己免疫性貧血や腎炎の発症が見つかり、New Zealand BlackマウスとしてSLEの発症の理解に多いに役立った。さらに、白い毛のNewZealand マウスと交配させた雑種第一代は親系よりも早く重症型の病態を出現する事が判明するにつれ、退交配マウスの作成等が展開される事とあいまって、いわゆる遺伝的な背景が徐々に明らかとなってきた。一方で、関節疾患モデルを意図して作成されたマウスが、免疫学的に大きなインパクトを与えた事もある。MRLマウスである。二系統のうち、MRL/nマウス(MRL/Mp-+/+)には,Fas遺伝子欠損(異常)はないが、老齢MRL/nマウスには、紅斑と脱毛を主体とする皮膚病変が自然発生し、ヒトMCTD(混合性結合織病)の皮疹の所見に酷似する。そして,MRL/nマウスにlpr遺伝子が加わることで,軽から中等度の自己免疫病態(皮膚を含めた全身性病変)が重症の病態に変化あるいは進行する。このマウスの興味深い点は、自然発症性のLE様皮膚病変を伴う点である。
     このような自然発症性のモデルマウスの研究から、各ストレインにはループス易発症性の遺伝学的背景がまず存在し、その上で独自のLBTに関する遺伝学的な支配様式があること、LBTの成因には坑DNA抗体が関与していることや皮疹発症に至るには複数の遺伝子支配形式が必要であることが明らかとなっている。
  • 椛島 健治
    セッションID: S2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    接触皮膚炎は、皮膚免疫学を捉える上で最も基本的なモデルの一つである。発症機序は感作相と惹起相の二相に分類されるが、樹状細胞の接触皮膚炎の感作相における新たな役割が明らかになりつつある。
    皮膚樹状細胞には、表皮に存在するランゲルハンス細胞と真皮に存在するLangerin陽性真皮樹状細胞とLangerin陰性真皮樹状細胞の三種類存在する。感作相では、抗原曝露後に、表皮角化細胞よりTNF-alphaやIL-1などの前炎症性サイトカインが産生され、皮膚樹状細胞を活性化させる。活性化した樹状細胞は抗原を取り込んだ後、共刺激分子であるCD80, CD86などの発現し、さらにケモカイン受容体の発現を上昇させてリンパ節内のT細胞領域に遊走することが知られる。ところがリンパ節における各樹状細胞サブセットの役割は現在のところ混沌としており、役割分担は未解明の点が多く残されている。
    本シンポジウムでは、各樹状細胞サブセットの役割、ケモカイン受容体発現による遊走メカニズム、制御性樹状細胞の誘導機序などにおける近年明らかにされた最新知見を我々の実験結果も交えながらご紹介させていただきたい。
  • 天谷 雅行
    セッションID: S2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    アトピー性皮膚炎ならびに気管支喘息を含むアトピー性疾患の病態は未解明な部分が多い。本講演では、皮膚バリア機能障害による経皮的慢性抗原刺激が、発症要因となっているという仮説の元に、皮膚バリアに関する新展開について述べる。
     欧米およびアジアにおいて、多くの患者がフィラグリン遺伝子に変異を持つことが明らかにされ、アトピー性皮膚炎および気管支喘息の遺伝的発症素因として、角層の主要構成蛋白であるフィラグリンの重要性が注目されている。flaky tail(ft)マウスは、Jacksonラボにおいて1958年に確認された自然発生マウスで、乾燥したフレーク状(flaky)の皮膚を有する。ヒトと同様にマウスフィラグリン遺伝子(C57BL/6)は解析困難であり、イントロンレスの第3エクソンに、250アミノ酸からなるフィラグリンリピートを16回タンデムに繰り返す構造を有していた。FLG-shotgun法、Tn5トランスポゾン法を駆使することにより、ftマウスは、6番目のフィラグリンリピートに5303delAを有し、フレームシフトの結果、154コドン下流に終止コドンが出現し、205kDaの短いプロフィラグリンが生成され、フィラグリン蛋白発現が著明に減弱することが明らかとなった。また、マウスフィラグリン遺伝子座を含むBAC clonesよりtargeting vectorを構築し、フィラグリンノックアウト(KO)マウスを作製した。KOマウスでは、皮膚は乾燥し、皮溝が深く、皮丘が大きくなる傾向があり、角層のフリーアミノ酸、天然保湿因子(NMF)の著明な減少が認められた。さらに、バリアとして重要なタイトジャンクション(TJ)を皮膚において3次元に可視化することに成功した。ftマウス、KOマウスを用いてフィラグリンが角層バリアに果たす役割を分子レベルで解明するとともに、角層バリアとTJとの相互作用を明らかにすることにより、アトピー性疾患病態解明に新たな展開が生み出されることが期待される。
  • 佐藤 準一
    セッションID: S2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的・方法】最近、MS脳病巣の網羅的プロテオーム解析が報告された(Nature 451:1076-81, 2008)。彼らは、ステージを確認した病巣からLCMで分離したサンプルを質量分析で解析、4324のタンパク質を同定、chronic active plaques(CAP)における血液凝固系5因子の発現亢進を見出し、抗凝固薬でEAEの治療に成功した。しかし、残り4319タンパク質のMS脳分子病態における意義は不明である。生体ではタンパク質は複雑なシステムを構築しており、分子ネットワークの解明が肝要である。本研究では上記データを再解析し、acute plaques(AP), CAP, chronic inactive plaques(CP)特異的158, 416, 236タンパク質に対応するEntrez Gene IDを、KEGG(www.kegg.jp), Panther(www.pantherdb.org), KeyMolnet(www.immd.co.jp), Ingenuity Pathway Analysis (IPA; www.ingenuity.com)に入力、MS脳病巣プロテオームの分子ネットワークを解明した。【結果・結論】CAP, CPにおいて、KEGG, Pantherではextracellular matrix(ECM), integrinシグナル伝達系、KeyMolnetではIL-4, IL-6, integrinシグナル伝達系、IPAではECMの関与が示唆され、慢性病巣の創薬標的分子としてfocal adhesion kinaseが抽出された。ECM-integrin結合阻害薬は、炎症性脱髄遷延化を抑制し得る可能性がある(Satoh et al. Mult Scler 15:531-41, 2009)。
  • 荒浪 利昌, 佐藤 和貴郎, 山村 隆
    セッションID: S2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    熱ショック蛋白(HSP)は、温熱のみならず、生体に対する様々なストレスの際に誘導され、ストレス蛋白とも呼ばれる。その役割はストレスにより障害された蛋白を修復し、蛋白、細胞の恒常性を保つことにある。多発性硬化症(MS)は原因不明の中枢神経系慢性炎症性疾患であるが、Th1やTh17細胞が病態成立に重要な役割を果たす自己免疫疾患であると考えられている。近年MS病巣のマイクロアレイ解析において最も高発現する遺伝子としてaB-crystallin (CRYAB)が報告された。CRYABは、HSPファミリー蛋白であるが、通常は中枢神経系に発現は認められず、MS、アルツハイマー病、パーキンソン病などでその発現が誘導されると報告されていたが、詳細な機能は不明であった。今回我々はMS患者末梢血に認められるCD28陰性T細胞がCRYAB反応性T細胞を多く含むことを見出した。HSPの中にはToll-like receptors (TLR)に結合し、抗原提示細胞(APC)を活性化させる機能を有するものが報告されていたが、CRYABもAPCを刺激し、IL-6、TNF-a、IL-10、IL-12といった種々のサイトカイン産生を、MYD88非依存性に誘導することが判明した。CRYABはまた、T細胞からのIFN-γ産生を増加させた。CRYABによるIFN-γ産生促進機能に関与するサイトカインを解析したところ、IL-12ではなく、IL-27であることが判明した。IL-27はTh17細胞反応や過剰な慢性炎症を抑制する働きが報告されている。しかし、CD28陰性T細胞がCRYAB反応性にIFN-γを産生した場合、CRYABの免疫修飾作用が障害され、慢性炎症に繋がる可能性が考えられる。このようなCRYABの免疫修飾作用とCRYAB自己免疫が、MS病態形成に重要な役割を果たしていると考えられる。
  • 中山 俊憲
    セッションID: S2-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    アレルギー疾患の発症に関してTh2細胞が重要な役割を果たすことはよく知られているが、たとえば、スギの花粉症患者では、患者の体内にあるスギ花粉特異的なメモリーTh2細胞が反応し、アレルギー性炎症が上気道に起こる。このメモリーTh2細胞の寿命はかなり長く、半減期は1年半にも及ぶことが分かっている。従って、メモリーTh2細胞の形成や維持の分子機構の解明と制御法の開発なしには、根治治療の確立は望めない。私たちは、メモリーTh2細胞の形成、維持に関わる分子機構の解析を行ってきた(Nakayama et al. Curr.Opin.Immunol. 2008, Nakayama et al. Seminars in Immunol. 2009)。転写記憶に関与するといわれている、トライソラックス分子やポリコーム分子の関与を明らかにしてきた。トライソラックス分子のmllはメモリーTh2細胞の機能の維持に必須であること、ポリコーム分子のbmi1はメモリーT細胞の生存に必須であることなどを報告してきた。このシンポジウムでは、これらの制御機構の巧妙さをご紹介したい。
シンポジウム3 免疫難病における新しいターゲット分子と制御
  • 渡辺 守
    セッションID: S3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    炎症性腸疾患は、遺伝的素因を持った個体に複数の環境因子が加わった結果として引き起こされる、腸管粘膜免疫の過剰応答が病態の主体である事が示されてきた。この考えに基づき、免疫異常をターゲットとする分子標的治療が臨床の場に登場し、炎症性腸疾患においても驚くべき治療成績を示した事から、過剰免疫応答を制御する生物製剤が次々と開発されている。しかしながら治療の目標が「炎症の制御」から「粘膜治癒」にステップアップしつつある現在、我々は炎症性腸疾患の難治化が単に粘膜免疫異常による炎症に起因するのではなく、腸上皮に内在する再生・組織修復機構の異常もまた重要な因子として存在し、「粘膜治癒」の達成には同機構の解明・是正が必要であることを明らかとしてきた。ヒト腸管粘膜の免疫応答調節と上皮組織修復の両者に腸管杯細胞が重要な役割を担っている事、同細胞の分化・成熟過程がNotchシグナルとその下流の転写因子群に制御されている事、腸管上皮細胞におけるNotchシグナルはWntシグナル経路と直接的に結びつき、協調的に機能する事により、粘膜再生応答における増殖・分化調節を実行するのみならず、古典的な大腸発癌過程における形質制御にも関わっている事、など我々独自の研究から得られた炎症性腸疾患における粘膜修復過程の分子機序について、最新の知見を紹介したい。さらにNotchシグナルの機能が炎症性サイトカインにより制御される可能性、などの新しい知見も加え、炎症性腸疾患においては「粘膜免疫異常」と「上皮分化・再生障害」が一つのシグナルを接点に炎症、潰瘍、癌といった種々の病態を起こしている可能性を議論したい。またNotchシグナルが炎症性腸疾患の各病態において如何なる役割を担い、如何なる制御を受けているか、を明らかとすることにより展望される、分子標的としての可能性、及び新規治療への道程と未来像を考えてみたい。
  • 住田 孝之
    セッションID: S3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    (要旨) シェーグレン症候群(SS)はドライマウス、ドライアイ、関節痛を主症状とする膠原病の一つである。血清中には、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体などの自己抗体が出現し、唾液腺、涙腺などの腺組織にはCD4+T細胞を中心として炎症を惹起している。自己抗体と自己反応性T細胞の存在から、自己免疫応答がSSの病態形成に重要な役割を果たしている。  近年、SSの発症機構が分子レベルで明らかにされ、以下の事実が判明してきた。1)唾液、涙腺、腎間質に浸潤したT細胞の抗原受容体(T細胞レセプター、TCR)の遺伝子レベルでの解析により、SSの臓器浸潤T細胞は、抗原を認識して増加していること。2)抗原の候補は、臓器非特異的な自己抗原として、SS-A52kD蛋白、熱ショック蛋白、α-フォドリンなどが、唾液腺特異的な自己抗原としてα-アミラーゼやムスカリン作働性アセチルコリン受容体3 (M3R)などが機能していること。3)SS患者の約50%においてM3Rに対する自己抗体が存在していること。4)44%のSS患者末梢血においてM3Rに反応してIFN-γを産生するCD4+T細胞が存在していること、5)M3Rペプチドを免疫したM3Rノックアウトマウスの脾細胞をRag2ノックアウトマウスに細胞移入することにより、SS様の唾液腺炎を誘導すること、6)HLA-DR B1*0901陽性SS患者においては、T細胞が認識するM3R領域(T細胞エピトープ)が、VPPGECFIQFLSEPT(AA215-229)であること、そのアナログペプチドがAA222I→K、AA223Q→Aであること、などである。  本シンポジウムでは、M3Rを分子ターゲットとした自己免疫応答がSS発症に重要な役割を担っていることを紹介する。さらに、M3R反応性T細胞をM3Rのアナログペプチドを用いて抗原特異的に制御する治療戦略についても議論する。  
  • 竹内 勤
    セッションID: S3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    関節リウマチの病態形成に関与する1)血管新生、2)リンパ球活性化、3)滑膜増殖、4)破骨細胞活性化、5)軟骨破壊に関わる、細胞•分子が探索され、それを標的とした治療薬の有効性•安全性がヒト関節リウマチにおいて明らかにされている。最近、相次いで報告された新たな標的分子、IL-12/23 (p40), IL-17, BAFF, GM-CSF,などのサイトカイン/造血因子に対する生物学的製剤の最新成績について紹介したい。炎症性サイトカインのシグナル伝達分子、JAK, SYKを標的とする小分子化合物に関する報告について概説する。一方、細胞表面分子を標的とする生物学的製剤、特にCD20, CTLA-4, TACIを標的とした製剤の現状について報告し、分子標的治療薬の選択とその個別化に向けた検討を紹介する。
  • 千葉 健治
    セッションID: S3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    多発性硬化症 (Multiple sclerosis, MS) は,大脳,脊髄,視神経などに炎症性脱髄病変が多発する,中枢神経系の代表的な自己免疫疾患である.MSの病因に関しては,中枢神経の髄鞘を標的とする細胞性免疫が主役を演じており,特に中枢神経髄鞘タンパク質抗原に特異的なT細胞が脳炎症の引き金を引く重要な役割を果たしていると考えられている.最近,リン脂質メディエーターであるスフィンゴシン 1-リン酸 (S1P) の受容体を標的とする世界初のS1P受容体調節薬,フィンゴリモド (FTY720) が,MS患者を対象とした臨床試験において優れた治療効果を発揮することが明らかにされ,注目を集めている.再発性のMS患者にFTY720の1.25 mgおよび5 mgを1日1回,12ヵ月間経口投与した群では,再発率がプラセボ投与群の50%以下に有意に減少し,MRIによって認められる脳の炎症病変の数もプラセボ投与群と比べて有意に低下することが判明した.これらの結果から,FTY720は,MSの標準的な治療薬であるinterferon-β (非経口投与) を上回る治療効果を示すことが示唆され,経口投与が可能な新しいMS治療薬となりうることが期待される.FTY720 はS1P受容体の1サブタイプであるS1P1受容体の内在化を誘導し,リンパ球の体内循環を阻止することによって髄鞘タンパク抗原特異的なT細胞の中枢神経組織への浸潤を減少させ,治療効果を発揮すると考えられているが,一方で,中枢神経系細胞上のS1P受容体にも作用し,髄鞘の破壊などの中枢神経系組織の障害を軽減している可能性も示唆されている.本シンポジウムでは,FTY720の最近の知見を紹介し,MSの新しい標的分子としてのS1P受容体の可能性について概説する.
  • 清水 宏
    セッションID: S3-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    水疱性類天疱瘡(BP: bullous pemphigoid)は最も頻度の高い自己免疫性皮膚疾患である。患者は表皮基底膜のヘミデスモゾームに存在するXVII型コラーゲンに対する自己抗体を有している。しかし、患者自己抗体をマウスに投与しても、XVII型コラーゲンのアミノ酸配列の違いにより、マウスの皮膚基底膜に沈着せず、病変も生じない。
    そこで私どもは自己抗原のノックアウトマウスを作製し、次に欠損タンパクを完全にヒト化し、そのタンパクを自己抗原として発症する自己免疫性疾患の患者血清を投与し、発症機序の解明、自己抗体の病原性の解明を行う、「自己抗原のヒト化」という臨床研究手法を確立した (Humanization of autoantigen. Nishie et al. Nat Med 13:378-383, 2007)。
    まずXVII型コラーゲンのノックアウトマウスを作製に成功した。次にノックアウトマウスのXVII型コラーゲンをヒト化(マウスのXVII型コラーゲンが欠損しているが、ヒトのXVII型コラーゲンを発現している)して、自己抗原ヒト化(XVII型コラーゲンヒト化)マウスを作成した。XVII型コラーゲンヒト化マウスにBP血清(自己抗体)を投与したところ、見事なBPの皮膚病変が形成された。このマウスモデルを用いて、自己抗原に対するモノクローナルFab抗体療法、ペプチド療法などの独創的な生物製剤による新規治療法を開発した。さらに免疫不全マウスと交配し、active BP mouse modelの作成にも成功したので紹介する。
  • 千葉 勉, 丸澤 宏之
    セッションID: S3-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    [背景]H.pylori胃炎、HCV肝炎など、炎症を基盤として癌が発症することが知られているが、その機序は良く分かっていない。一方、発癌には遺伝子変異、欠損などのgenetic changeが重要な役割をはたしている。実際最近のゲノムワイドな研究から、1個のがん細胞には60−90個の遺伝子変異が存在することが報告されている。しかし炎症からの発癌過程で、遺伝子変異が導入される機序は不明である。[目的]そこで私達は、通常B細胞にのみ存在し免疫グロブリンのsomatic hypermutationに必須の遺伝子、AIDに注目し検討をおこなった。[結果] 1) AID-TGマウスでは、全身に様々な癌(胃癌、肺癌、肝癌、胆管癌)が発症した。2)さらにH.pylori胃炎粘膜、HCV肝炎肝細胞、胃癌、肝癌細胞で強いAIDの異所性発現が見られた。また胃粘膜のAID発現はH.pylori除菌により減弱した。3)さらに培養胃粘膜細胞へのH.pylori感染、肝細胞へのHCV core蛋白発現によって、AIDの発現が生じた。4)これらのAID発現はNFκB活性化を介していた。5)H.pylori、HCV感染によって様々な遺伝子変異が導入されたが、これらはAIDをブロックすることにより抑制された。6)AIDの導入は、様々な遺伝子の増幅、欠失を誘発した。[結論] H.pylori、HCV感染などによる炎症の場では、H.pylori, HCV自体、さらにそれによって活性化されるサイトカインがNFκB依存性にAID発現を誘導し、その結果遺伝子変異が導入されることによって発癌が促進するもの考えられる。したがってAIDさらにNFκBが、炎症発癌を防止する際のターゲットとなりうると考えられた。
シンポジウム4 再生医学と免疫疾患
  • 松崎 有未, 升田 博隆, 吉村 泰典
    セッションID: S4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ヒト子宮内膜は,極めて高い再生能力から組織幹細胞の存在が強く示唆される.我々はヒト内膜からside population(SP)細胞を分離し,その幹細胞特性の解明を目的とした.
    【方法】同意を得た患者の摘出子宮から採取した内膜をsingle cellまで分散し,SP分離法を施行した.内膜SP細胞(ESP)のフローサイトメトリー解析や培養系を用いた分化アッセイおよび免疫不全マウスへの移植を施行した.また,ESPをCD31/CD45の発現により+/-,-/+,-/-の3つの分画に分け,+/-の群を中心に分化能を検討した.
    【結果】ESP出現率は月経周期により異なっていた.一般的にSP細胞は培養困難だが,ESPの単独培養に成功し腺上皮細胞,間質細胞,血管内皮細胞への分化が認められた.ESPから脂肪細胞,骨細胞への分化誘導にも成功した.内膜main population細胞(EMP)の培養で確認されたのは間質細胞のみであった.移植実験ではEMPと比べ,ESPではより多くの組織系構築への貢献を認めた.またCD31+/CD45- ESPは,内膜の毛細血管に存在し,間質細胞,血管内皮細胞,平滑筋細胞への分化が確認された.
    【結論】培養および移植実験より,ESPの幹細胞特性が証明された.また, CD31+/CD45- ESPは内膜の毛細血管に存在し,間質細胞増成および血管新生へ貢献している可能性が示された.
  • 須波 玲
    セッションID: S4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】母体の血液中および骨髄中には多分化能を有する胎児由来細胞 (pregnancy associated progenitor cells: PAPCs)が存在し、母体の免疫学的排除を受けることなく長期にわたって生存することで fetal cell microchimerism が形成される。PAPCs の生理的意義について明らかにするために母体の臓器傷害との関連について以下の検討を行った。【方法】 Enhanced green fluorecent protein の細胞で発現する transgenic mouse オスと wild type mouse メスとを交配させ、妊娠 7 日目に妊娠子宮を摘出した。摘出後 60 日目に streptozotocin (以下 STZ) 投与による薬物性臓器傷害モデル、冠動脈結紮による虚血性臓器傷害モデルを作成し、傷害臓器における胎仔細胞の有無ならびに、その形態について定量的 PCR 法および蛍光顕微鏡を用いて解析した。【成績】 子宮摘出後60日目の時点では母獣骨髄以外の諸臓器からは胎仔細胞は検出されなかった。臓器傷害モデルでは骨髄のみならず、STZ 投与群では肝臓、腎臓および膵臓において、冠動脈結紮群では心臓においてのみ EGFP 遺伝子が検出され、組織学的には EGFP 陽性の腎尿細管上皮細胞、膵腺房細胞ならびに心筋細胞の形態を有する単核細胞が検出された。【結論】PAPCs の由来となる胎仔細胞は妊娠初期から母獣に移行して fetal cell microchimeris を形成しており、母獣の傷害臓器に特異的な集積を示すことから、これを修復すべく機能している可能性がある。
  • 佐村 修
    セッションID: S4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Fetal cell microchimerism(Fcm)とは、妊娠を契機として、胎児細胞が母体血液や組織に永続的に生着する状態と定義される。 Fcmは1977年に、マウスにおいて最初に報告され、その後、ヒトにおいても妊娠中の母体血液から胎児細胞の存在が報告された。1990年代に分子生物学領域の進歩にともない、多数の細胞の中から少数の標的細胞を検出する技術の発達(PCR法、FISH法など)により、母体の中に極少数しか存在しない胎児由来の細胞やDNAを検出できるようになった。
    妊娠中の母体血液から、無侵襲的に胎児の性別判定や、胎児の染色体異常を検出するといった出生前診断の領域からFcmの研究が発展してきた。しかしながら未だに、妊娠中にどのくらいの量の胎児細胞やDNAが母体血液中に流入し、それがどの程度母体の組織に生着しFcmが成立するかはわかっていない。2000年ごろより、Fcmとヒトの疾患との関連が報告されるようになってきた。特に産後の女性に多く発症する免疫疾患である全身性強皮症患者の末梢血や皮膚組織中の男児由来DNAの量が有意に高値であること、母体とHLA-DR抗原を共有する児を出産した女性が罹患する危険性が健常婦人に比べ約7倍高いことなどが報告され、Fcmが発症要因として重要であることが指摘されている。また、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病やバセドー病)などにおいても、胎児細胞や胎児DNAが罹患女性の血液や組織から多くみつかるようになってきた。これらの免疫疾患におけるFcmの役割は、allo-immune reactionのeffectorとしての可能性があげられる。また、炎症によって傷害された組織の修復過程において外因性のallogeneticな前駆細胞として働いているという可能性がある。現在までわかっているFcmと免疫疾患の関連について概説する。
  • 石川 文彦
    セッションID: S4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    免疫学、幹細胞生物学など多くの生物学が、実験動物であるマウスを用いて、大きな発展を遂げてきた。特に、遺伝子組換えマウスの作製は、さまざまな遺伝子が生体内でどのような役割を担っているかを明らかにすることに大きく貢献した。マウスの細胞、組織を用いて得られた研究の知見が医療へと応用されるため、実験動物のマウスで得られた知見をヒトにおいても検証することが必要である。しかし、ヒトの造血・免疫システムを直接解析しようとした場合、骨髄、脾臓、胸腺など免疫組織は、体の奥深くに存在するため、それらを取り出して評価することがきわめて難しい。さらに、正常の造血幹細胞システムの理解に加えて、造血・免疫系の疾患がどのように成立しているかを理解することは、新しい医療の出発点とも言える。このような課題に取り組むためにわれわれは、純化したヒト造血幹細胞を免疫不全マウスの新生仔期に移植することで、ヒトの造血・免疫系をマウスに構築する「免疫系ヒト化マウス」システムを作成し、このシステムを用いてヒト造血幹細胞の生着や分化、また成熟した免疫細胞の機能について解析を進めてきた。ヒト幹細胞を新生仔免疫不全マウスに注入する異種移植システムを、予後不良な造血器悪性疾患のひとつである急性骨髄性白血病 (AML)に応用することで、本疾患のヒト化モデル動物の作製を目指すとともに、近年明らかになりつつある白血病幹細胞の存在とその動態(ホーミング、細胞周期、化学療法抵抗性)をあきらかとすることを目的として研究を実施している。また、感染症においても、ヒト化マウスシステムが病態再現、感染免疫の解析、治療開発に還元できる分野である。本シンポジウムにおいては、ヒト免疫と疾患について、ヒト化マウス研究におけるあたらしい知見を紹介したい。
  • 大津 真
    セッションID: S4-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    先天性免疫不全症は、遺伝子異常に起因して免疫能に欠陥を生じる疾患群の総称である。患者細胞を造血幹細胞レベルで正常細胞と置換することによる疾患の根治を期待して造血幹細胞移植が行われるが、非血縁ドナーからの移植成績は必ずしも一定しておらず、移植片対宿主病などの副反応の問題も依然解決されていない。
    こうした背景のもと、患者造血幹細胞に正常遺伝子を補完する治療法、すなわち遺伝子治療の研究が進められ、実際に数多くの臨床試験が施行されている。なかでも、X連鎖重症複合免疫不全症(XSCID)、ADA欠損症、慢性肉芽腫症(CGD)の3疾患に関しての臨床研究が最も盛んであり、造血幹細胞を標的とする遺伝子治療の有効性、解決すべき課題等が明らかにされつつある。
    これらの遺伝子治療では現在、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法が使用されている。しかしながら、レトロウイルスベクターを用いた臨床研究の結果、XSCID患児においてT細胞性白血病が、CGD患者において骨髄球系細胞の異常増殖が観察された。いずれも、ウイルスベクターのゲノムへの挿入に起因する近傍遺伝子の発現誘導が上記細胞クローンの異常増殖を引き起こしたと考えられており、治療法の改良、安全性の強化を目指した研究が行われている。
    近年の山中教授らによる誘導多能性幹細胞(iPS細胞)の発見は、先天性免疫不全症における治療法に関して新たな可能性を提供するものである。すなわち、患児由来のiPS細胞を誘導し遺伝子修復を行った後、造血幹細胞へと分化誘導して移植する、という次世代遺伝子細胞治療である。本研究室においても既にマウスモデルを用いたproof of principle studyおよび疾患患児からのiPS細胞樹立を開始しているが、本講においてはiPS細胞を用いた新規治療法における現時点での克服すべき問題点、今後の展望等について、他の治療法との比較から論じてみたい。
ワークショップ
ワークショップ1 ヒト免疫病におけるTh17細胞とTreg細胞
  • 山田 久方
    セッションID: W1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    近年、関節リウマチ(RA)の病態にIL-17および、その主な産生細胞であるTh17細胞が、中心的な役割を果たしていると考えられるようになった。しかし昨年度の本学会でも報告したように、我々が細胞内サイトカイン染色法で解析したところ、末梢血中のTh17細胞数はRA患者と健常人の間に有意差を認めず、RA疾患活動性との相関も認めなかった。さらにRA患者の関節滑膜あるいは関節液中にはTh17細胞がほとんど認められない一方で、多数のTh1細胞の存在が明らかになったことから、Th17をヒトRAの病因細胞と確定するのは時期尚早ではないかと考えた。これはCD4T細胞上のケモカインレセプターの発現パターンを調べることによっても確認された。すなわち、マウス、ヒトを問わずTh17細胞はCCR6を発現することが報告されているが、関節内ではCCR6陽性細胞は末梢血に比べて著しく減少しており、逆に末梢血中ではわずかにみとめられるCCR5陽性細胞が、関節内では大量に存在していた。興味深いことに、変形性関節症(OA)の関節内に少数ながら存在するCD4T 細胞も、RAと類似したケモカインレセプターの発現パターンを示した。実際に細胞内サイトカイン染色法で調べても、OAの関節内CD4T細胞の大多数はTh1細胞で、Th17細胞はほとんど認めないことから、Th1優位な細胞浸潤はRAに特異的な所見ではないことが明らかとなった。さらに驚くべきことに、関節内CD4T細胞上のMHC class IIやCD69等の活性化マーカーの発現レベルもRAとOAの間にほとんど差を認めなかった。これらの知見が何を意味するのか、RAの病因解明への何らかの糸口にならないか、さらに詳細な検討を重ね、考察してみたい。
  • 久松 理一, 日比 紀文
    セッションID: W1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Th17細胞が新しいエフェクターT細胞として同定されて以来、多くの自己免疫性疾患や慢性炎症性疾患においてTh17細胞の病態への関与が示唆されるようになり、これまでTh1病と考えられていた疾患でもTh17の関与を示唆するデータが報告されている。しかし、多くの報告はマウス疾患モデルを用いたものであり、ヒト疾患において明らかにTh17の関与が同定されたものは少ない。炎症性腸疾患においても各種腸炎モデルマウスにおいてTh17細胞の病態への関与が示唆されているもののヒト局所で検討した報告は少ない。我々はこれまでにクローン病の腸管局所では機能異常をきたしたCD14+マクロファージが腸内細菌に対して過剰なIL-23を産生し病態に関与することを報告してきた。このCD14+マクロファージから産生されるIL-23は粘膜局所のT細胞やNK細胞からのIFN-g産生を促すが、IL-17の産生には影響しない。実際、クローン病の粘膜局所の環境はIFN-g産生が高いTh1にシフトしていると考えられる。しかしながら、クローン病粘膜固有層内のCD4+T細胞分画にはIL-17を有するTh17細胞が存在しているのも事実である。IL-17自体の産生は認められないものの他のTh17サイトカインであるCCL20などが病態に関与している可能性は否定できない。さらにTh17細胞からのIFN-g産生の可能性も否定はできずTh17-Th1のplasticityという概念も含めて局所でのTh1とTh17の制御の解明は今後の課題である。少なくともこれまでの我々の検討からはクローン病腸管局所においてIL-17の重要性を示すデータは得られておらず、IL-23 – IFN-g axisが病態形成の中心にあると思われる。
  • 佐藤 和貴郎, 荒浪 利昌, 冨田 敦子, 山村 隆
    セッションID: W1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Chemokine and Th17 cells are thought to play roles in multiple sclerosis (MS). Th17 cells are enriched in CCR4+CCR6+ or CCR2+CCR5- subset. By simultaneous staining of CCR2, CCR4, CCR5 and CCR6 on CD4+ T cells in the blood and in the cerebrospinal fluid (CSF) of relapsing MS patients and non inflammatory neurological disease patients (NIND), we analyzed the frequency of each subset with or without expressing each chemokine receptor. We found that the frequency of Th17-enriched subset (CCR4+CCR6+ and CCR2+CCR5-) were less in the CSF than in the blood of both MS and NIND patients, whereas the frequency of Th1-enriched subset (CCR2-CCR5+) were greater in the CSF than in the blood of both kinds of patients. Notably, the frequency of CCR2+CCR5+ subset, which were enriched in both Th1 and Th17 cells were greater in the CSF than in the blood of MS, but not of NIND patients. This subset includes IFN-g and IL-17 double producers most and expresses the highest level of matrix matalloproteinases 9 (MMP9) among memory CD4+T cells, suggesting an important role in MS. This finding implicates the need to consider multiple chemokine receptors in performing the receptor blocking therapy.
  • 渡邉 幹夫, 林 文明, 南波 崇, 井上 直哉, 赤水 尚史, 岩谷 良則
    セッションID: W1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】我々は、末梢血のTh17細胞比率が自己免疫性甲状腺疾患(AITD)患者で増加しており、寛解導入できない難治性バセドウ病患者の末梢血ではTh17細胞比率がさらに増加していることをすでに報告し、Th17細胞がAITD、特にバセドウ病の病態に関与している可能性を示唆した。Interleukin (IL)-1βはヒトにおいてTh17細胞の分化増殖に関わっているとされ、IL-1βをコードする遺伝子に存在する-31C/T多型がT alleleの時にIL-1βが高産生であることが知られているため、この多型とAITDの病態やTh17細胞比率との関連を調べた。
    【対象と方法】寛解導入できないバセドウ病難治群64名、バセドウ病寛解群28名、甲状腺破壊が高度な橋本病重症群49名、破壊が軽度な橋本病軽症群28名、健常群59名のゲノム遺伝子を用い、PCR-RFLP法によりIL1B-31C/T多型をタイピングした。末梢血Th17細胞比率はフローサイトメトリーで解析した。
    【結果】
    (1) IL-1β高産生に関連しているT alleleはバセドウ病難治群において寛解群よりも高頻度であった(p<0.005)
    (2) T alleleをもつ患者のTh17細胞比率は、CC genotypeの患者より有意に高かった(p<0.05)
    【結語】遺伝的にIL-1βの産生能が高い患者ではTh17細胞比率が高く、バセドウ病が難治化しやすい可能性がある。
  • 金兼 弘和
    セッションID: W1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    IPEX(immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked)症候群は、免疫調節障害、1型糖尿病(IDDM)や甲状腺機能低下症などの多発性内分泌異常、難治性下痢などの症状を呈し、乳幼児期に致死的となるきわめてまれな疾患である。近年、その責任遺伝子としてFOXP3遺伝子が同定された。FOXP3遺伝子はforkhead familyに属する転写因子であり、制御性T細胞(Treg)の発生・分化を司る。IPEX症候群ではTregの機能障害のため、さまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患を発症すると考えられる。近年、Tregが免疫応答において重要な働きをすることがマウスを中心に解明されてきているが、ヒトTregの機能について十分理解されているとは言えない。今回わが国のIPEX症候群患者の臨床的、免疫学特徴を報告するので、ヒトTregの機能を理解する助けになれば幸いである。
    わが国における4家系5名のIPEX患者について解析する機会を得た。発症年齢は生後5日から4か月であり、家族歴は3家系で認められた。FOXP3遺伝子変異は227delT、A384T、F373V、748delAAGであった。初発症状は甲状腺炎が1名、下痢が3名、IDDMが1名であり、経過中にさまざまな自己免疫疾患を合併し、うち1例ではネフローゼ症候群を合併した。治療は無治療の患者もいれば、免疫抑制療法を受けている患者もおり、うち2名は造血幹細胞移植を受けた。
    IPEX症候群において抗FOXP3抗体を用いたフローサイトメトリーによる診断が可能かどうかを検討した。健常人では末梢血においてCD4+CD25+FOXP3+T細胞を約5%認めるが、IPEX患者では全例とも1%以下に低下しており、フローサイトメトリーによるスクリーニングは有用であると思われる。
  • 山野 嘉久
    セッションID: W1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    HTLV-1は主にT細胞に感染し、感染者の一部にHTLV-1関連脊髄症(HAM)、別の一部に成人T細胞白血病(ATL)を発症する。しかし、HAM(炎症)とATL(白血病)といった対照的な疾患の発症を選別する機序に関しては不明である。
    HAMの獲得免疫系は他の自己免疫疾患と同様に異常に活性化している。HAM患者ではHTLV-1特異的CTLの異常な増加が知られており、我々はCD4+CD25+T細胞が主感染細胞で、CTLの増殖を促進していることを示した。ところが、CD4+CD25+T細胞は、免疫抑制作用を有する制御性T細胞(Treg)を含んでいるため、HTLV-1とTregとの関係について調べたところ、HTLV-1taxによるTreg特異的マーカーFoxp3の発現抑制作用と、HAM患者のCD4+CD25+T細胞におけるTregの量的機能的な減少が明らかとなった。
    一方、ATLの獲得免疫系はHAMとは対称的で、HTLV-1特異的CTLは極端に少ない。興味深いことに、ATL患者におけるCD4+CD25+T細胞ではTregが腫瘍性に増殖しており、本来の制御性機能を発揮して宿主に低免疫応答状態を来している。
    最近我々は、両疾患においてCD4+CD25+T細胞の中でもケモカイン受容体CCR4陽性細胞(CD4+CD25+CCR4+T細胞)が共通の感染細胞であることを示した。健常者ではCCR4陽性T細胞はTh2、Treg、Th17細胞から構成されているが、ATL患者ではTregが多く、一方、HAM患者では健常者に滅多に存在しないIFN-γ陽性Foxp3lowT細胞が極めて異常増加していた。
    以上の結果は、HTLV-1がTregの増殖や分化に作用し、感染T細胞をHAMでは免疫促進的に、ATLでは免疫抑制的な細胞に変化させ、両疾患の対称的な病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆する。
ワークショップ2 自己抗体研究の新たな展開
  • 坪井 洋人, 松本 功, 飯塚 麻菜, 中村 友美, 若松 英, 林 太智, 後藤 大輔, 伊藤 聡, 住田 孝之
    セッションID: W2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】シェーグレン症候群(SS)患者において、抗M3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)抗体のエピトープと機能を明らかにする。 【方法】1)ヒトM3Rの4つの細胞外領域(N末端、第1、2、3細胞外ループ)の合成ペプチドを抗原として、SS42例、健常人(HC)42例の血清中抗M3R抗体価をELISAで測定した。2)ヒト唾液腺上皮(HSG)細胞株を抗M3R抗体陽性SS、陰性SS、HCのIgGと12時間共培養後,塩酸セビメリンで刺激し、HSG細胞内Ca濃度変化を測定した。 【結果】1)N末端を認識する抗M3R抗体はSSの42.9%(18/42)、HCの4.8%(2/42)で陽性であった。第1細胞外ループはそれぞれ47.6%(20/42)、7.1%(3/42)、第2はそれぞれ54.8%(23/42)、2.4%(1/42)、第3はそれぞれ45.2%(19/42)、2.4%(1/42)であった。 2)第2細胞外ループに対する抗M3R抗体陽性SSのIgGは、HCのIgGと比較して、セビメリン刺激後のCa濃度上昇を有意に抑制した。N末端および第1細胞外ループはCa濃度上昇を増強、第3細胞外ループはCa濃度上昇に影響しなかった。 【結論】抗M3R抗体は複数のエピトープを有し、M3Rを介する唾液分泌に影響する可能性が示唆された。唾液分泌への影響は、B細胞エピトープにより異なる可能性が示された。
  • 保田 晋助
    セッションID: W2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    抗リン脂質抗体のおもな対応抗原であるβ2-グリコプロテインI (β2-GPI) は疎水性ループと陽性荷電アミノ酸の作用で陰性荷電リン脂質などに結合し、凝固線溶系の制御, 脂質代謝, アポトーシス細胞の処理などの機能を発揮する。この疎水性ループはプラスミン等によって分解され、β2-GPIはリン脂質結合能を失うが(nicked β2-GPI)、他方プラスミノゲンと結合して線溶系のフィードバック機構を担う。nicked β2-GPIは、抗リン脂質抗体症候群, 白血病, DICや脳梗塞の安定期でも血漿中に検出される。近年、β2-GPIおよびnicked β2-GPIがVEGF存在下に血管新生を抑制することが報告された。血栓形成部位における nicked β2-GPIの生理作用を解明する目的で、プラスミノゲンの自己分解産物であり、血管新生抑制作用をもつアンジオスタチン(AS)のうち、ヒト血漿中に検出されるAS4.5との相互作用を検討した。結果、nicked β2-GPIはAS4.5に結合したが、β2-GPIはAS4.5に結合しなかった。次に、nicked β2-GPIがAS4.5の機能に及ぼす影響について、血管内皮細胞を用いた細胞増殖アッセイ・細胞浸潤アッセイ・血管形成アッセイを用いて検討したところ、nicked β2-GPIは一定の濃度でAS4.5のもつ血管新生抑制作用を阻害し、血管新生を促進した。また、高濃度域ではnicked β2-GPIの血管新生抑制作用が確認された。nicked β2-GPIのAS4.5に対する阻害作用は、細胞外基質プラグを用いたin vivoの系でも確認された。nicked β2-GPIは、線溶系が活性化された局所でAS4.5とともに高濃度となることが予想されるが、血栓形成部位で血AS4.5の働きを阻害することで側副血行路の形成に関わる可能性が示された。
  • 神崎 健仁, 川畑 仁人, 赤平 理沙, 道下 和也, 山本 一彦
    セッションID: W2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    目的】全身性自己免疫性疾患では抗核抗体(ANA)産生が主要な特徴の一つである。その機序検討に動物モデルの解析が有用だが、抗体産生まで長期にわたり、遺伝的背景の調整を要する事も多く、その有用性は限られる。そのため早期にANAが誘導でき種々の条件で検討可能な系が望まれる。我々は臓器特異的自己免疫応答解析モデルがANAも産生する事に着目し、ANA制御機構研究への有用性を検討した。
    【方法】BALB/cマウスや、ニワトリ卵白アルブミンを認識する単一T細胞受容体(TCR)を発現するRag2(-/-)DO11.10トランスジェニックマウスのCD4+T細胞サブセットをBALB/cヌードマウスへ移入し、種々の方法でANA産生を検討した。また、これらの諸条件が腸疾患に及ぼす影響も検討した。またTLR7/9阻害DNAを投与し、抗体産生への影響も検討した。
    【結果】ANAは3-4週目には高率に誘導され、CD4+CD25-T細胞移入群では高抗体価が長期間持続した上で腸炎発症を認めた。Rag2(-/-)DO11.10のCD4+CD25-T細胞を移入すると同様にANAを産生したが、腸炎は発症しなかった。TLR阻害DNAの効果は、抗Sm抗体ではTLR7阻害が、抗ds-DNA抗体ではTLR7またはTLR9阻害が、抗Nucleosome抗体ではTLR阻害よりTregの存在が、抗体産生抑制効果を示した。
    【結論】本系は容易に早期に高率に高抗体価でANA産生を誘導でき、種々の誘導条件下で関連細胞や分子を検討できる有用な系と考える。今回はCD4+T細胞サブセットやTCR、TLRのANA産生への関与を検討した。
    Tregは、ANA産生、腸炎発症の両方に抑制的に関与した。一方、TCRの特異性や多様性は腸炎発症には重要だがANA産生では必要なく、本系の全身性および臓器特異性自己免疫の誘導機構は同一でないと考えられた。
  • 村上 孝作, 廣瀬 正和, 田中 真生, 湯川 尚一郎, 川端 大介, 大村 浩一郎, 野島 崇樹, 藤井 隆夫, 臼井 崇, 三森 経世
    セッションID: W2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    背景:抗FRP(Follistatin related antibody)は関節リウマチ(RA)の滑液中より同定された自己抗体として報告されたが,その特異性は確定しておらず,また抗体価とRAにおける臨床的有用性も明らかとなっていない.方法:患者血清はRA (n = 90),全身性エリテマトーデス(SLE,n = 44),多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM, n = 10),全身性硬化症(SSc, n = 10)を用いた.抗体価はrecombinant human FRP (GENWAY) を用いて,Enzyme-Linked Immunosorbent Assay (ELISA)法により吸光度を測定し,標準血清を100 AU/Lとして抗体価を測定した.結果:10AU/L以上をcut off 値とした場合,RAで18% (16例),SLEで5% (2例),PM/DMで10% (1例),SScで10% (1例)が抗体価陽性であった.また,抗体価を測定し得たRA患者血清22例の抗体価はリウマトイド因子と有意な正の相関(p = 0.027, r = 0.47)を認めたが,抗CCP抗体とは相関を認めなかった.その他の血清マーカーや疾患活動性の指標との相関性も認められなかった.結論:抗FRP抗体は他のリウマチ性疾患と比較しRAに特異性の高い自己抗体である.
  • 中嶋 蘭, 井村 嘉孝, 湯川 尚一郎, 野島 崇樹, 川端 大介, 大村 浩一郎, 臼井 崇, 藤井 隆夫, 大川 克也, 三森 経世
    セッションID: W2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    皮膚筋炎 (DM) の典型的な皮疹を呈するが筋症状を認めないclinically amyopathic dermatomyositis (C-ADM)に特異的な自己抗体として近年慶大佐藤らが抗CADM-140抗体を報告した。我々は重篤な間質性肺炎を併発した多発性筋炎・皮膚筋炎症例における自己抗体を探究する中で、135kD蛋白を認識する自己抗体を認め、それが抗CADM-140抗体と同一であることを確認した。そこで当科を受診した膠原病とその疑い患者192例および健常人21例の血清を対象とし、35Sメチオニン標識HeLa細胞を抗原に用いた免疫沈降法を施行したところ、抗CADM-140抗体は13例で陽性であり、うち11例がCADM、2例がDMであった 。同抗体陽性13例中12例が間質性肺炎を合併しており、7例が急速進行型を呈し、うち6例が呼吸不全で死亡した。抗CADM-140抗体の対応抗原を探るため、患者IgGを結合させたアフィニティクロマトグラフィーを用いて抗原を精製し、peptide mass fingerprintingにより抗原がIFIH1 (interferon-induced helicase C domain-containing protein 1) /MDA5 であることを見出した。2008年ACRで佐藤らは我々と異なる方法 (SELEX法) により同一の蛋白を抗CADM-140抗体の対応抗原として発表しており、我々の成績と一致する。同抗体陽性DMにおける特徴的な病態を示唆する所見として、有意に高フェリチン血症が存在し(同抗体陰性DMに比して)、血清フェリチン値は病勢の悪化と共に上昇した。また、初診時における血清IL-6と IL-18も同抗体陽性例では陰性例に比し有意に高値を示した。抗CADM-140抗体陽性DMの病態にマクロファージ活性化が関与するのではないかと考えられた。
  • 花岡 洋成
    セッションID: W2-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    抗二本鎖DNA(dsDNA)抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)患者の約70%に検出される疾患標識抗体で、ループス腎炎の発症、末期腎病変への移行との関連が知られている。また、高親和性の抗dsDNA抗体はSLEの疾患活動性を反映し、病的モデルにおいてその病原性が示されている。抗dsDNA抗体が病原性を発揮する機序として、陽性に帯電したヌクレオソーム-抗dsDNA抗体複合体の陰性に帯電した糸球体基底膜への結合や、抗dsDNA抗体と糸球体αアクチニンとの交差反応を介してループス腎炎が惹起されることが報告されているが、いまだ不明な点が多い。このような病原性を有する抗dsDNA抗体の正確な測定は診断および疾患活動性の評価にきわめて有用である。しかし、その測定においてdsDNAに強固に結合するヒストンなどの蛋白成分や一本鎖DNA(ssDNA)の混入、固相化によるdsDNAの変性が問題となる。dsDNAのみを持つCrithidia luciliaeを用いた免疫蛍光抗体法は特異性の面で優れているが、定量性が困難である。そのため、RadioimmunoassayとELISAが広く用いられているが、病原性の低い抗dsDNA抗体を捉えてしまう欠点がある。
    そこで、我々は末梢血中に存在するIgG抗dsDNA抗体を産生する細胞(B細胞、形質細胞)を検出するアッセイ法を考案した。その結果、末梢血抗dsDNA抗体産生細胞数は感度は低いもののELISAによる抗dsDNA抗体価よりも正確に疾患活動性を反映し、SLEの疾患活動性の評価に有用な新たなマーカーとなることを見出した。また、活動期SLEで末梢血中に抗dsDNA抗体産生細胞が動員される機序の追究はSLE病態の解析や新たな治療の開発にも有用と考えられた。
ワークショップ3 自然免疫と免疫病
  • 香城 諭, ELLY Chris, 原田 陽介, LANGDON Wallace Y, KRONENBERG Mitchell, LIU Y ...
    セッションID: W3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Repeated injection of α-galactosylceramide, a ligand for iNKT cells, results in long-term unresponsiveness of iNKT cells, which severely limits its clinical application for cancer therapy. However, the molecular mechanisms leading to iNKT cells anergy induction remain unclear. We show here that the decreased IFN-γ production and failed tumor rejection observed in anergized iNKT cells are rescued by deficiency of Cbl-b. Cbl-b was highly expressed in anerzied iNKT cells and its E3 ligase activity was critical for the down-regulation of IFN-γ.
     To clarify how does Cbl-b regulate iNKT cells’ IFN-γ production, we used human iNKT cell line and ionomycin treatment as an anergy induction. siRNA experiment indicated that IFN-γ production is also regulated by Cbl-b in ionomycin-induced human iNKT cell anergy. And NFκB pathway signaling was strongly inhibited in anergized iNKT cells.
     In the search for the substrate of Cbl-b in NFκB pathway signaling molecules, we found that Cbl-b can bind CARMA1 and promote mono-ubiquitination of it. Down-regulation of CARMA1 and Bcl10 complex formation after CD3/28 cross-linking was observed in anergized human iNKT cells.
     This study suggests that Cbl-b-mediated CARMA1 mono-ubiquitination can regulate NFκB pathway signaling and IFN-γ production of iNKT cells in anergized condition.
  • 改正 恒康
    セッションID: W3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Toll様受容体(TLR)の中のTLR7,TLR9は核酸系免疫アジュバントの応答に関与し、それぞれ1本鎖RNA, CpG DNAを認識する。これらの核酸成分は、病原体ばかりでなく、宿主にも存在していることから、TLR7/9は自己免疫応答を惹起するポテンシャルを有していると考えられる。実際、TLR7/9シグナルにより誘導される、樹状細胞からのI型IFNが自己免疫疾患の病態形成に重要であることが明らかにされつつある。このようなI型IFN産生誘導機構の解明は、抗ウイルス防御免疫としてばかりでなく、自己免疫制御剤の開発という観点からもきわめて重要と考えられる。
    樹状細胞は、種々のサブセットから成る不均一な細胞集団であり、サブセット特有の生物機能を示す。形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC,pDC)と呼ばれる樹状細胞サブセットは、TLR7,TLR9を選択的に発現しており、このシグナルにより大量のI型IFN、特にIFN-αを産生する。我々は、遺伝子欠損マウスを用いて、このTLR7/9刺激PDCからのI型IFN産生において、IκBキナーゼ(IKK)ファミリーメンバーであるIKKαが必須の役割を果たしていること、および、その機序として、IKKαは、PDCにおいて構成的に高い発現を示す転写因子IRF-7の活性化に関与していることを明らかにしている。一方、PDC以外の樹状細胞(conventional DC,cDC)は、TLR7/9刺激によりIFN-αは産生しないが、IFN-βは産生する。IKKαはこのIFN-β産生にも必須である。本講演では、pDCを中心に、核酸系免疫アジュバントによる樹状細胞サブセット活性化の制御機構について我々の最近の知見を紹介したい。
  • 田村 保明, 鳥越 俊彦, 佐藤 昇志
    セッションID: W3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    SLEを含む自己免疫疾患では、患者血清中にストレス蛋白質Hsp90および抗Hsp90抗体が存在することが示されている。しかしこれらの病因・病態への関与は明らかではない。最近、SLEの患者血清中に存在する抗DNA抗体が自己ゲノムDNAと抗原抗体複合体を形成すると、Fc受容体を介して形質細胞様樹状細胞 (pDC) に取り込まれ、TLR9依存性にI型インターフェロン (IFN)をはじめとするサイトカイン産生を誘導し、免疫系を強く活性化し、病態の増悪を惹起することが示されている。一方CpG DNAはTLR9のリガンドとして知られているが、CpG DNAのなかでもCpG-AはpDCのエンドソームに存在するTLR9に結合することにより、大量のIFN-αを産生する。一方、古典的DC (cDC) は同様にCpG-Aを取り込むが、IFN-αの産生は弱い。我々はHsp90がCpG DNAを結合し、このCpG DNAをDCのエンドソームに標的し、かつ貯留させる機能を持つことを明らかにした。すなわちin vitroにおいて作製したHsp90-CpG複合体をpDCにパルスすると、CpG単独に比較して、約2倍のIFN-αの産生を認めた。さらにcDCにパルスした場合、CpG-A単独ではIFN-αの産生は認められないが、Hsp90-CpG-A複合体では、大量のIFN-αの産生を認めた。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いて、Hsp90にシャペロンされたCpG DNAはcDCの初期エンドソームに入り、長時間貯留することを示した。この結果はSLE患者血清中に存在するHsp90は自己のDNAを結合している可能性があり、Hsp90-自己DNA複合体はpDCに取り込まれ、強力にIFN-αを産生誘導している可能性を示唆する。本シンポジウムでは、Hsp90阻害によるSLEの治療の可能性を含め、我々の研究を紹介したい。
  • 沖山 奈緒子, 杉原 毅彦, 横関 博雄, 宮坂 信之, 上阪 等
    セッションID: W3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    我々は自己免疫性筋炎の1つ、多発性筋炎(Polymyositis ;PM)の新規モデルマウス、C蛋白誘導性筋炎(C-protein induced myositis ;CIM)を確立した。本モデルでは、ミオシン架橋蛋白C蛋白を、complete Freund’s adjuvant (CFA)とともに投与することで、CIMを発症させることができる。 CIMは自然治癒するが、CD25陽性調節性T細胞の除去でも、抑制性サイトカインIL-10のノックアウトマウスでも、治癒は遷延しなかった。治癒後に再度C蛋白を免疫するとCIMは再発することから、C蛋白に対する免疫寛容は誘導されておらず、さらにCFA処理のみでも再発する。CIMは、免疫部位近傍である後肢にのみ発症し、前肢には発症しないが、CIM誘導後には前肢にCFA処理するだけで前肢の筋炎を誘導できた。また、CIMマウスT細胞による養子移入は、レシピエントマウスのCFA処理した肢のみで成立した。以上より、CIM発症には、筋特異的T細胞とCFAによる筋局所自然免疫活性化の両者の協調が必須であることが推測された。 なお、CFA処理によって、処理肢筋にIL-1、TNF-alphaなどの炎症性サイトカインを発現するマクロファージの浸潤がみられたが、両サイトカイン阻害薬を予めレシピエントに投与しておくことによりCIM養子移入を阻止できた。以上より、筋局所自然免疫活性化阻害もPMの新たな治療手段となると考えられた。
  • 小田 ちぐさ
    セッションID: W3-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    我々は近年自然免疫系を担当する細胞に発現する新たなレセプター分子群、MAIR (myeloid associated Ig like receptors, CD300)を同定した。MAIR分子群は9つの遺伝子から成り、その細胞外領域は互いに高度に保存されているが細胞内領域により活性化と抑制性のレセプターに分けられる。このうちMAIR-Iはマクロファージ、肥満細胞、好中球、樹状細胞に発現し細胞内領域のITIM(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)配列を介して抑制性シグナルを伝達するレセプターであることを明らかにしている。更に我々はMAIR-I遺伝子欠損マウスを作製し、盲腸を結紮穿孔し腹膜炎を起こすことによる (Cecum Ligation and Puncture model, CLP) 敗血症を誘導したところ、野生型マウスに比較して生存率が亢進した。また、MAIR-I遺伝子欠損マウスではCLPの際の腹腔の好中球の浸潤や細菌の排除が亢進しており、一方で、肥満細胞でのMCP1、MIP1a、IL-13の産生も亢進していた。肥満細胞の移入及びマクロファージと好中球を欠損させることにより、肥満細胞上のMAIR-Iの欠損によるケモカインやサイトカインの産生亢進が好中球の浸潤や細菌排除の亢進につながり、ひいては生存率の改善に寄与していることを明らかとした。更に野生型マウスに抗MAIR-I及びコントロール抗体を投与してCLPから敗血症を誘導したところ、抗MAIR-I抗体を投与したマウスにおいて生存率が改善した。これらのことからMAIR-Iは自然免疫応答を介して炎症反応を制御している可能性が示唆され、更に未だ死亡率が高い敗血症性腹膜炎におけるMAIR-Iを介した新たな治療の可能性を示した。
ワークショップ4 Midwinter Seminar―臨床免疫学の未来
  • 中野 和久, 山岡 邦宏, 齋藤 和義, 松下 祥, 田中 良哉
    セッションID: W4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    Although the central nervous system and the neurotransmitters is well known to control the immune system, their pathological relevance to autoimmune disorders remains unclear. Dopamine is a major neurotransmitter and is abundantly present in the brain. Herein, we document that dopamine plays an important role in the induction of IL-6-Th17 axis and subsequent joint destruction in rheumatoid arthritis (RA). Dendritic cells (DCs) were the major source of dopamine in the synovial tissue of RA and was stored and secreted in large amount. T cells expressed D1-like and D2-like receptors for dopamine which negatively regulate each other. During antigen-specific interaction with naive T-cells, dopamine released by DCs bounded to D1-like dopamine receptors, increased intracellular cAMP and induced Th17 differentiation via IL-6 production from T cells. D2-like receptor-antagonists significantly induced accumulation of IL-6- and IL-17-positive T cells with exacerbated cartilage destruction in humanized model mice of RA, whereas antagonizing D1-like-receptor suppressed these responses. Taken together, dopamine released by DCs induces IL-6-Th17 axis and causes aggravation of synovial inflammation of RA, which is the first time and actual evidence to show the pathological relevance of neurotransmitter with autoimmune diseases.
  • 常見 幸, 岩崎 剛, 北野 幸恵, 神田 ちえり, 関口 昌弘, 北野 将康, 佐野 統
    セッションID: W4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 SKGマウスにS1P1アンタゴニストであるFTY720 (FTY) を投与し、関節炎の抑制効果を検討した。また、FTYの関節炎抑制機序をin vitroにて解析した。 【方法】 SKGマウスにFTYを投与し、経時的に関節腫脹スコアを測定した。また末梢血中リンパ球および胸腺・脾臓の細胞数、胸腺・脾臓のCD4+T細胞およびCD8+T細胞数、腫脹関節のX線および病理組織像を対照群と比較して検討した。さらに滑膜細胞株(MH7A)のPGE2産生やアロ抗原刺激CD4+T細胞のIL-4,IFN-γ産生に及ぼすFTYの効果を検討した。 【結果】FTY投与群では、対照群と比較して関節腫脹・骨破壊が抑制された。また、末梢血中リンパ球数、脾細胞数、脾臓のCD4+T細胞およびCD8+T細胞の比率が低下した。病理組織では、炎症性細胞や滑膜細胞におけるIL-1、TNF-αの発現が低下した。In vitroの解析では、FTY添加によりMH7A培養上清中のPGE2産生が減少し、アロ抗原刺激CD4+T細胞のIL-4産生が増加した。 【結論】FTY投与により関節炎や骨破壊が抑制されることが明らかになった。この抑制機序として、循環T細胞減少作用、Th2免疫応答誘導作用、滑膜細胞のPGE2産性抑制作用など多彩なFTYの作用が関与していることが示唆された。
  • 熊田 朗子, 濱口 儒人, 長谷川 稔, 藤本 学, 竹原 和彦
    セッションID: W4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    CD22とCD72はどちらもB細胞に特異的に発現し、B細胞受容体を介してシグナル伝達を負に制御する。しかし、両者が独立してB細胞シグナルを抑制しているのか、あるいは協調して制御しているのかはわかっていない。そこで、今回我々はCD22/CD72共欠損マウスを作成し、この二つの共受容体の同時欠損がB細胞のシグナル伝達に及ぼす影響を検討した。  CD22欠損マウスでは、B細胞上のCD72発現量が野生型マウスより上昇していたが、CD72欠損マウスのB細胞上のCD22発現量は野生型マウスと同等だった。一方、B220発現量はCD22欠損マウスで野生型マウスより上昇し、CD72欠損マウスとCD22/CD72共欠損マウスでは更に上昇していた。末梢血B細胞数は、CD22欠損マウスとCD72欠損マウス、CD22/CD72共欠損マウスにおいて、野生型マウスよりも減少しており、また三者ともB細胞の分化障害を認めた。CD22/CD72共欠損マウスでは、胸腺依存性抗原、胸腺非依存性抗原に対する抗体産生能は野生型マウスと差はなかったが、抗核抗体が高率に陽性だった。  CD22/CD72共欠損マウスでは、CD22、CD72両者の単独欠損マウスを凌ぐ免疫学的異常は見られず、CD22とCD72は一部の機能は互いに補完しているものの、それぞれ固有の働きをもつことが示唆された。
  • 高橋 令子, 中川 竜介, 吉村 昭彦
    セッションID: W4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    SOCS1はJAK/STAT経路のサイトカイン産生抑制分子であり、SOCS1をマウスT細胞で欠損させると、皮膚炎、自己抗体産生の上昇などのSLE様病態の出現に加え、胸腺中の制御性T細胞 (Treg) が上昇する。その機序にはSOCS1欠損TregのIL-2シグナルの亢進が考えられ、抗IL-2抗体を投与するとFoxp3陽性Tregは正常マウスと同等まで低下する。SOCS1のTregにおける役割を解明するために、in vitro、in vivoでその抑制能を検討した。in vitroでは、SOCS1欠損Tregとwild typeのTreg (WT Treg) の抑制力は同等であった。しかし、RAG2欠損マウスへのnaïve T細胞とそれぞれのTregの移入実験では、SOCS1欠損Tregを移入した方が腸炎の抑制効力が劣った。そこで、RAG2欠損マウスへそれぞれのTregのみを移入して、Tregの運命を検討した。CD4+CD25bright 細胞 (2 x 105 個, >95% Foxp3 陽性) を移入した所、3週後にリンパ節を解析するとWT Tregは57% Foxp3 陽性を維持しているのに対して、SOCS1欠損Tregは4%までFoxp3陽性率が低下した。これらの結果から、SOCS1がFoxp3の安定性に寄与すると考え、その機序について解析中である。
  • 塚原 智英, 木村 重治, 一宮 慎吾, 川口 哲, 鳥越 俊彦, 嘉野 真允, 和田 卓郎, 山下 敏彦, 佐藤 昇志
    セッションID: W4-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は骨肉腫に対するペプチドがんワクチン療法を目指して新規骨肉腫抗原PBFおよびHLA-B55拘束性エピトープをcDNAライブラリ発現クローニング法により同定した.そしてreversed approachによりHLA-A24およびHLA-A2拘束性CTLエピトープを決定し,これらのペプチドを用いたがんワクチン療法の第1相臨床試験を開始した.PBFは骨肉腫組織の90%で核に発現しPBF陽性症例の予後は不良である.しかし骨肉腫の生存増殖におけるPBFの役割はいまだ不明である.我々はPBFの関連分子を検索し,骨肉腫抗原PBFの機能を解析したので報告する.
    【結果と考察】PBFの過剰発現により293細胞および骨肉腫細胞株OS2000の細胞死が誘導された.同時にcaspase-3の活性化が検出されたがcaspase-8,-9の活性化は見られなかった.続いてPBFの細胞死を制御する分子を検索するためにyeast two-hybridでOS2000 cDNA libraryをscreeningして,PBF関連分子Scythe/BAT3を同定した.Scytheはアポトーシス制御機能を持ちapoptosis inducing factor(AIF)に結合する.Scythe mRNAは骨肉腫組織の56%に,正常組織ではubiquitousに発現していた.また正常組織では細胞質に局在したが骨肉腫組織では核にも局在していた.OS2000においてScytheはPBFと核で共局在し,PBFによる細胞死はScytheにより抑制された.そしてPBFによる細胞死はcaspase-3阻害剤,AIF siRNAにより抑制された.以上より骨肉腫のPBFによる細胞死はScythe/BAT3に制御され,またAIFとcaspase-3を介して起こると考えられた.
  • 中津川 宗秀, 吉川 聡明, 酒村 智子, 菊池 大和, 廣橋 良彦, 鳥越 俊彦, 佐藤 昇志, 中面 哲也
    セッションID: W4-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    肺癌は癌死の中でもっとも多い疾患で、特に進行癌においては各治療法に抵抗性であり、新たな治療法の確立が期待される。近年MAGE-A3やSurvivin2Bなどの腫瘍抗原を標的とした癌免疫療法が臨床試験において一定の効果を上げている。我々は、肺癌に高発現し、正常組織にほぼ発現のない、新規肺癌抗原Lengsinが肺癌免疫療法の標的抗原になりうることを報告した。今回、ペプチドワクチン療法に応用可能なLengsin由来のHLA-A*0201拘束性CTLエピトープの同定を試みた。マウスの配列と一致するLengsin由来HLA-A*0201結合性ペプチドを4種類合成し、HLA-A2.1トランスジェニックマウスに免疫したところ、2つのペプチドでCTLの誘導が可能であった。これらのペプチドで健常人の末梢血単核球からCTLを誘導したところ、ひとつのペプチドで、ペプチド特異的反応性CTLを誘導できた。現在このエピトープペプチドが、癌細胞で内在性ペプチドとして提示されるかどうか詳細に解析している。
  • 唐澤 里江, 加藤 智啓, 遊道 和雄
    セッションID: W4-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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    【目的】プロテオミクスを用いて血管炎患者における抗血管内皮細胞抗体(AECA)の対応抗原の同定を行い、個々の対応抗原から血管炎病態にアプローチした。 【方法】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびHeLa細胞からの抽出蛋白を2次元電気泳動で分離し、血管炎患者血清でWestern blotting(WB)を行い、HUVECのみに染まったスポットを内皮細胞特異的自己抗原の候補蛋白として検出・同定し、臨床的意義について検討した。 【結果】同定し得た63個の蛋白のうちの1つは抗酸化酵素であるPeroxiredoxin2(Prx2)であり、Prx2に対する自己抗体陽性率は川崎病患者で60%(18/30)、健常人ではすべて陰性であった。また冠動脈病変を有した3症例すべてで抗Prx2抗体は陽性であった。Prx2が冠状動脈血管内皮細胞を含め各種血管内皮細胞に発現し、HUVEC膜表面に存在していることをWBおよび間接蛍光抗体法にて確認した。抗体アレイを用いた検索では、抗Prx2抗体刺激によりHUVEC培養上清中に各種の炎症性サイトカイン、とりわけIL-6が分泌されることが示唆された。更にH2O2で内皮細胞に酸化ストレスを加えると、Prx2の発現が増強されることが内皮細胞抽出蛋白を用いたWBで示された。 【結語】Prx2に対する自己抗体は、川崎病患者において有用な疾患マーカーの1つとなり得る可能性が示唆された。
  • 中川 紀子, 今井 耕輔, 大嶋 宏一, 小原 收, 野々山 恵章
    セッションID: W4-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/21
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     平成20年1月より、厚労省研究班会議、理化学研究所、かずさDNA研究所の共同研究として、PIDJ プロジェクトが始まった( http://pidj.rcai.riken.jp)。当科は相談窓口の一つであり、開始から1年半で112例(国内66例、国外48例)の紹介を受けた(平均6.3例/月)。うち複合型免疫不全症18例、抗体不全65例、その他明確に定義された免疫不全症10例、免疫制御異常症2例、食細胞異常症8例、自然免疫不全1例、その他10例だった。15歳以上の症例は30例(27%)で、うち23例が抗体不全であった。
     当科にて4カラー25種類の抗体によるFACS 90例、T細胞の新生能の解析111例、刺激試験10例(クラススイッチ 5例、CD40L発現7例)を行った。また47例で原因遺伝子検索を行い、16例(JAK3 1例、CD40L 4例、AICDA 3例、WASP 3例、BTK 4例、ATM 1例)で遺伝子変異を同定した。うち15歳以上の抗体不全患者23例中4例(AICDA 3例、BTK 1例) で遺伝子変異を同定した。
     成人のなかにも診断されていない免疫不全症患者、とくにCVIDに分類されている患者が多くいることが示唆された。適切に診断・治療するためにPIDJプロジェクトの枠組みが有用であることが示唆された。
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