臨床神経生理学
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46 巻, 6 号
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原著
  • 中野 泰伺, 岡崎 慎治
    2018 年 46 巻 6 号 p. 551-560
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    定型発達成人23名を対象に, Go刺激とStop刺激の組み合わせ (クルマ刺激条件と記号刺激条件) の異なるStop-signal課題遂行時の反応制御過程について, 刺激条件の違いが遂行成績やERPに及ぼす影響を検討した。その結果, 遂行成績では, 記号刺激条件に比べてクルマ刺激条件における正反応時の反応時間やSSRTが有意に延長し, 左右エラー率が上昇した。ERPでは, 記号刺激条件に比べてクルマ刺激条件におけるGo刺激呈示後175–225 msまでの区間でのGFPピーク値の有意な上昇, GFP潜時値の有意な延長がみられた。同様に, クルマ刺激条件におけるStop刺激呈示後175–225 msまでの区間でのGFPピーク値の有意な上昇, 230–400 msまでの区間でのGFPピーク値の有意な低下, Stop刺激への抑制成功時におけるP3振幅値の有意な低下が, それぞれみられた。以上より, Go刺激, Stop刺激ともに刺激条件, とりわけ刺激の弁別難易度が注意処理資源の配分に影響を及ぼし, その影響は遂行成績およびERP成分動態に反映されることが示唆された。

  • —つぎの刺激を予測しにくい2秒間隔の同期タッピング運動の検討—
    伊藤 正憲, 高橋 優基, 嘉戸 直樹, 鈴木 俊明
    2018 年 46 巻 6 号 p. 561-566
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    つぎの刺激の予測が難しい間隔の聴覚リズム刺激に運動を同期する能力が, その間隔の中間時点に刺激を1音挿入してリズムを刻む練習をすることで向上するかを検討した。24名の健常成人を練習方法の違いによりA群とB群に割り付けた。A群は2,000 msの間隔の刺激に指タッピングを同期する練習, B群は1,000 msの間隔の刺激に2回に1回の頻度で指タッピングを同期する練習とした。両群とも練習の前後に, 予測が難しいとされる2,000 msの間隔の刺激に指タッピングを同期する課題を実施した。指タッピング間隔の変動係数, 同期誤差の標準偏差, 反応的タッピングの出現率は練習前に有意差はなく, 練習後はA群よりB群が有意に低値を示した。リズムを感じ取りやすい1,000 msの間隔の刺激を手がかりとして運動することで, 2,000 msの間隔の周期的な運動の制御に関わるタイミング調整機構の精度が高まる可能性を推察する。

  • —成人女性を対象として—
    山口 亮祐, 宮本 礼子
    2018 年 46 巻 6 号 p. 567-577
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    共感は, 認知的共感と情動的共感に分類され, それぞれが補足し合って共感機能を担っている。本研究では, 同一刺激だが異なる教示条件を用いて, 認知的共感と情動的共感の神経基盤の相違点を明らかにすることを目的とした。右利きの健常成人女性16名を対象に快感情が喚起される顔写真を見る条件 (情動的共感) と, 提示された人の感情を想像する条件 (認知的共感) を施行中の脳活動を, 機能的磁気共鳴画像法を用いて検討した。その結果, 情動的共感に特有の活動として両側下頭頂小葉が賦活し, 感覚情報を基にした感情面のミラーリングの関与が示唆された。一方, 認知的共感に特有の活動として左下前頭回が賦活し, 表情の意図を推測する活動の関与が示唆された。下頭頂小葉, 下前頭回ともにミラーニューロンシステムの一部であり, それぞれの共感には同システム上の異なる部位が関与し, 共感機能を担っている可能性が示唆された。

特集 「てんかん学と臨床神経生理学との接点―その最新知見と臨床応用―」
  • 川合 謙介
    2018 年 46 巻 6 号 p. 578
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー
  • 白石 秀明
    2018 年 46 巻 6 号 p. 579-584
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    脳磁図検査は, 非侵襲性脳機能解析装置であるために, 繰り返し検査が可能であり, 小児期における脳機能解析において大きな役割を果たす。てんかんの診断においては, 発達に伴う脳活動の変化に対して繰り返し計測が可能であるために, その有用性は高い。従来の解析方法である単一双極子法に加え, Source distribution analysisの一つである, dynamic statistical parametric mappingを用いた解析を用いることにより, 発作時活動などの脳活動の変化を可視化することが可能になった。これらの検討により, 脳磁図検査はてんかん手術の術前検討だけでなく, 全てのてんかん症候群分類のためのツールとして大きな役割を果たすことが出来るようになった。

  • 神 一敬, 加藤 量広, 鈴木 菜摘, 中里 信和
    2018 年 46 巻 6 号 p. 585-590
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    自律神経の最高中枢は大脳にあるため, てんかんと自律神経は密接な関係がある。発作活動が自律神経に関わる領域に及ぶと, 頻脈・徐脈, 上腹部不快感, 流涎など様々な自律神経症状を呈する。発作時頻脈は側頭葉てんかんの約90%でみられる。我々は内側側頭葉てんかん患者において, 右起始の発作時は左起始に比べ有意に早いタイミングで心拍数が増加し始めることを明らかにした。一方, 発作間欠時にも心臓自律神経障害を呈することが報告されている。その評価法として心拍変動解析があり, 低周波成分 (LF) は交感・副交感神経系, 高周波成分 (HF) は副交感神経系の指標と考えられている。てんかん患者ではHF低値を示すことが報告されている。我々は右半球性焦点てんかんのノンレム睡眠時HF, 左半球性のノンレム睡眠時LF・覚醒時HFが異常であることを示した。発作時の心拍変化パターンや発作間欠時の心拍変動異常が焦点発作の側方診断に有用である可能性がある。

  • 渡邊 さつき
    2018 年 46 巻 6 号 p. 591-594
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    てんかん学において「意識」は重要である。2017年に発表された国際抗てんかん連盟による新しいてんかん発作分類では, 意識を表す用語が“consciousness”から“awareness”に変更された。非けいれん性てんかん重積状態は, 患者によって様々な意識障害や認知機能障害がみられ, 幅広い臨床症状を呈する。このことから, 「意識」は様々な脳機能の集合として捉えるべきであると考える。近年EEG-fMRI研究により, Default Mode Network (DMN) と呼ばれる安静時に活動する脳領域が, てんかん性異常波が出現する際には活動が低下していることが明らかになった。DMNの各サブユニットは異なる機能的役割があることから, てんかん発作時の意識にはDMNが関与していることが示唆される。てんかん学は学際的領域であり, 神経生理学的視点を通して脳機能に迫るひとつのきっかけになるかもしれない。

  • 稲次 基希, 橋本 聡華, 樋口 真人, 石井 賢二, 前原 健寿
    2018 年 46 巻 6 号 p. 595-601
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/06
    ジャーナル フリー

    てんかん外科ではてんかん焦点を切除することで根治が期待できるが, その可視化はいまだ困難である。機能画像であるPET, SPECTなどの核医学検査は, MRIなどの形態画像とは異なる観点からのてんかん焦点の可視化が期待される。臨床では糖代謝を評価するFDGPET, 中枢性ベンゾジアゼピン受容体を反映する[11C]flumazenil-PET, Iomazenil-SPECTが主に用いられる。これらはそれぞれ焦点における機能低下, 神経密度の低下を示し, いわゆるfunctional deficit zoneを示す。また, 発作時には脳血流が増加することを利用する発作時SPECTは, 術後の発作残存例などにおいても有効である。現在より本質的なてんかん焦点の描出を目標とした放射性薬剤の開発が進められている。現状ではトリプトファン代謝やTSPO, グルタミン酸受容体などが特に注目されている。これらの研究は焦点診断法の開発のみならず, てんかん原性の機序の解明としての役割も期待される。臨床, 基礎における核医学検査の現状を報告する。

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