臨床神経生理学
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48 巻, 6 号
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原著
  • 佐野 紘一, 嘉戸 直樹, 高橋 優基, 前田 剛伸, 鈴木 俊明
    2020 年 48 巻 6 号 p. 625-632
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    難しい運動の練習による対側上肢脊髄前角細胞の興奮性の変化について検討した。対象は健常成人16名で, 球回転運動練習群8名と手指屈伸運動練習群8名に無作為に割り付けた。F波は安静時と練習前後の左手での課題実施中に右短母指外転筋から導出した。課題は2個の球を手掌で時計回りに回転させる1分間の運動とした。球回転運動練習群の練習課題は2個の球を回転させる運動とし, 手指屈伸運動練習群の練習課題は1 Hzの頻度での手指の屈伸運動とした。練習課題は1分間を1セッションとして3セッション実施した。分析項目は振幅F/M比と出現頻度とした。振幅F/M比と出現頻度は, 球回転運動練習群では練習前の課題中に比べ練習後の課題中に減少し, 手指屈伸運動練習群では有意な差はなかった。難しい運動中の対側上肢脊髄前角細胞の興奮性は, 練習により運動が習熟すると減弱することが示唆された。

  • 松岡 龍太, 山本 慎司, 池田 紘二, 久我 純弘, 大西 英之
    2020 年 48 巻 6 号 p. 633-638
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    頸椎症性脊髄症手術において筋力が保たれているにも関わらずMEPが導出困難な症例に遭遇する。MRI T2強調像における髄内高信号 (increased signal intensity, ISI) との関連性を検討した。対象は下肢標的筋がMMT 4以上かつNurick scale 4以下の, desfluraneで麻酔管理を行った61例。ISI (−) 群は32例, ISI (+) 群は29例であった。傾向スコア分析で年齢, Nurick scale, JOA scoreを共変量としてcase matchを行い, 22ペアを抽出した。波形導出が両下肢ともに困難であった症例をbaseline MEP failureと定義し, 各群におけるbaseline MEP failureの発生率を比較した。ISI (+) 群で有意にfailureが多く, ISIを認める場合はMEP導出不良に備える必要がある。

  • 黒部 正孝, 松原 広幸, 鈴木 俊明
    2020 年 48 巻 6 号 p. 639-644
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    異なる頻度の周期的な母指対立運動後の脊髄前角細胞の興奮性変化について, F波を用いて検討した。15名の健常者を対象とした。各個人が10秒間で行うことのできる周期的な母指対立運動の回数を記録し, 最大頻度と50%頻度を算出した。各課題 (最大頻度課題と50%頻度課題) の前後に, 安静状態で正中神経を電気刺激し, 母指球の筋腹上からF波を測定した。脊髄前角細胞の興奮性の指標として, 振幅F/M比を分析した。課題前と比較して, 最大頻度課題後の振幅F/M比は変化を認めなかったが, 50%頻度課題後の振幅F/M比は低下した。本研究の結果から, 50%頻度での周期的な母指対立運動後の安静時に脊髄前角細胞の興奮性が低下することが示唆された。

特集 「統合失調症の病態とMMN」
  • 住吉 太幹
    2020 年 48 巻 6 号 p. 645
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー
  • 志賀 哲也, 矢部 博興
    2020 年 48 巻 6 号 p. 646-649
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    ミスマッチ陰性電位 (mismatch negativity; MMN) は聴覚の自動的識別機能を反映し, 生化学的には脳内のNMDA受容体機能を反映する。統合失調症においてはMMN異常の再現性は高く, 精神病ハイリスクにある者の発症予測としても期待されるようになった。統合失調症治療において, 単回の抗精神病薬がMMNに影響を与えないことが知られているが, 非定型抗精神病薬の長期的使用がMMNを改善するという報告もあり, ドパミン系への長期的な作用がMMNに影響を与える可能性はある。統合失調症患者において, ドパミンの最終代謝産物であるHVA (homovanillic acid) とMMNの相関や, COMT (catechol-O-methyltransferase) のVal108/158Met遺伝子多型とMMNとの関連についての我々の研究からは, 特に前頭前野のドパミンレベルがMMNに影響を与える可能性が示唆されている。

  • 樋口 悠子, 住吉 太幹, 立野 貴大, 中島 英, 西山 志満子, 高橋 努, 鈴木 道雄
    2020 年 48 巻 6 号 p. 650-655
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    ミスマッチ陰性電位 (MMN; mismatch negativity) の振幅は統合失調症などの精神病性障害およびその発症リスクが高い状態 (ARMS; at-risk mental state) で低下していることが報告されている。我々は初発, 慢性期統合失調症およびARMSの患者において持続長MMN (duration MMN; dMMN) を測定した。その結果, 初発, 慢性期統合失調症でdMMNおよびそれに引き続いて出現するreorienting negativity (RON) の振幅低下が見られた。更に, ARMSで後に統合失調症に移行した群については, 非移行群に比べdMMN振幅が有意に低かった。近年MMNの機能的転帰を予測するツールとしての応用について検討する報告も増えてきており, MMNはARMSの転帰予測因子としての期待が高まっている。

  • 平河 則明
    2020 年 48 巻 6 号 p. 656-661
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    精神疾患においては, 発症や病態の生物学的メカニズムは長らく難解とされてきた。しかし近年では, コンピューターによる解析技術が進歩したことにより, 神経生理学的な研究が発展し, 新しい知見が集積されつつある。ここでは統合失調症以外で主要な精神疾患の一つを占める, 気分障害の聴覚ミスマッチ陰性電位の所見を概説した。特に双極性障害では, ミスマッチ陰性電位の振幅の低下が指摘され, 統合失調症における知見との同質性も認識されている。本稿の最後ではこれらを踏まえ, 今後の精神疾患研究の展望について考察した。

  • 藤岡 真生, 切原 賢治, 越山 太輔, 多田 真理子, 臼井 香, 荒木 剛, 笠井 清登
    2020 年 48 巻 6 号 p. 662-669
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/14
    ジャーナル フリー

    事象関連電位の一成分であるミスマッチ陰性電位 (MMN, mismatch negativity) の振幅が慢性期の統合失調症で減衰することはよく知られている。その神経基盤はまだ十分に明らかではないが, 統合失調症の早期段階でもMMN振幅が減衰することや, 認知機能および機能的アウトカムとの関係や予後予測における特性が刺激提示条件によって異なることなどがわかってきている。MMNはヒト以外の動物でも測定できるトランスレータブルなバイオマーカーであるため, 統合失調症早期段階におけるMMN研究は, 病態生理の解明と早期支援に寄与すると期待される。そこで本稿では, 精神病発症ハイリスク (UHR, ultra-high risk for psychosis) や初回エピソード精神病/統合失調症といった統合失調症早期段階のMMN研究について, MMNの進行性変化, 認知機能や機能的アウトカムとの関連, 病態生理, UHRの予後予測という視点から, さらには刺激条件の違いに着目して概説した。

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