日本臨床プロテオーム研究会要旨集
第3回日本臨床プロテオーム研究会
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
要旨集表紙
プログラム
教育講演
  • 近藤 格
    p. 13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    国立がんセンター研究所では、個別化医療実現のために治療奏効性、生存・再発・転移を予測可能にするバイオマーカーを手術検体を用いて開発している。プロテオームはゲノムの機能的翻訳産物でありがんの臨床病理学的特性を直接決定している。したがって、プロテオーム情報と臨床病理情報を統合的に解析することにより、がんの個性を精度高く診断できるバイオマーカーが開発できると考えている。本プロジェクトでは、手術検体を用いたバイオマーカー開発のために、1)超高感度の蛍光色素を用いたレーザーマイクロダイセクション法、2)蛍光二次元電気泳動法による発現解析システム、3)プロテオーム解析のためのソフトウェア、4)ゲル中の超微量タンパク質を同定するための質量分析法、5)定量的プロテオーム情報のためのデータベースなどを考案し、日々の実験に使用している。現在、肺がん、肝がん、骨軟部腫瘍、食道がん、大腸がん、中皮腫を対象に、中央病院および各地の大学から派遣された若手医師が中心となって研究を進めている。バイオマーカー開発の最終ゴールは開発されたバイオマーカーが実用化され、実際に治療成績が向上することである。実際にはプロテオミクスの技術でバイオマーカーを開発した論文は多いが、実用化されたものはない。本講演では、バイオマーカー開発は一般になぜ難しいのか、そしてその難しさをどのように克服しようとしているのかについて述べる。
シンポジウム
  • 中村 和行
    セッションID: S-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    C型肝炎ウィルス(HCV)の慢性感染による肝細胞癌(HCC)発症の分子病態解明とHCCの新規バイオマーカーの探索を目的として、B型肝炎ウィルス(HBV)感染やアルコール性肝炎の既往が無いHCV感染を伴うHCC患者から治癒切除した組織の癌部と非癌部を用いて、二次元電気泳動法(2DE)、多重質量分析法(MS/MS)、イムノブロット法および免役組織学的手法によるプロテオーム解析を行った。癌部では非癌部に比べて2倍以上に増加している蛋白が11種類同定され、HSP70に属するGRP78, HSC70, GRP75およびHSP70.1は、一緒に増加していた。Glutamine synthetase(GS)は高分化癌に増加傾向を示した。Phosphoglycerate mutase 1, triosephosphate isomerase, α-enolase(ENOA)およびATP synthase beta chainの増加が顕著であった。特にENOAは低分化癌で有意に増加し、その量は腫瘍の大きさや脈管浸潤と正の相関が認められた。一方、癌部で1/2以下に減少している蛋白が8種類同定され、albuminやferritin light chainが顕著に減少していた。窒素代謝酵素のarginase-1、解糖系酵素のaldolase B、脂肪酸代謝に重要なketohexokinaseやenoyl-CoA hydrataseが顕著に減少していた。さらに、HCC患者血清に含まれる癌抗原蛋白特異的な自己抗体を用いて2DEイムノブロット法とMS/MSによるHCC抗原蛋白の同定を試みたところ、HSP70, peroxiredoxin, MnSODがHCC抗原蛋白候補として同定された。これらの結果から、HCV感染を伴うHCCの分子病態を考察するとともに、HSP70, GS, ENOAおよびMnSODについてHCCの早期診断マーカーや癌ワクチン療法の標的蛋白として臨床応用の可能性を述べる。
  • 朝長 毅, 小寺 義男, 梅村 啓史, 根津 雅彦, 野村 文夫
    セッションID: S-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    血清中のタンパク質はアルブミンやグロブリンなどのメジャータンパク質と言われるものが99%を占め、残りの1%に有望な疾患マーカー候補のタンパク質やペプチドが含まれていると考えられる。これまで血清や血漿を用いたプロテオーム解析で同定されてきたタンパク質はほとんどがこれらのメジャータンパク質およびその分解産物と言われるものであり、病態を直接反映するようなタンパク質は同定されていない。従って、現在の血清プロテオーム解析の大きな課題はこの1%しか存在しないといわれている微量なタンパク質やペプチドをどのように検出・同定するかという点にある。この問題を解決するために、我々はそれらの微量なタンパク質やペプチドを感度よく検出する方法を開発し、現在種々の疾患の血清を用いて有用な疾患マーカーとなりうるタンパク質・ペプチドの同定を試みている。血清プロテオーム解析のもう一つの問題点はいかに検体間のバラツキを少なくし、再現性のよいデータを取るかという点にある。同じ血清とはいっても、その処理方法や保存方法は施設によってまちまちであり、どこで取られた検体であっても同じような結果が出なければ臨床応用は困難である。我々はBruker ClinProt Systemを用いて、検体の処理および保存方法がMSの結果にどのような影響を及ぼすか詳細に検討を行った。本シンポジウムでは上記の血清プロテオーム解析の問題点を解決するための我々の最近の知見について述べたいと思う。
  • 中西 豊文
    セッションID: S-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    癌(腫瘍)マーカーとは、癌(腫瘍)細胞の異常増殖によって直接分泌される癌特異抗原(癌特異的マーカー:α-フェトプロテインや癌胎児性抗原など)あるいは体液中に発現される癌増殖関連抗原(癌増殖関連マーカー)などが知られている。それらマーカーは、癌(腫瘍)の存在の有無やその進行度を診断するだけでなく、原発臓器と悪性度の鑑別に有用である。また、癌治療の経過観察や予後判定のマーカーなど非常に重要な検査項目である。しかし、癌(腫瘍)抗原を直接検出し、早期診断あるいはスクリーニング検査に応用する際、微小な早期癌あるいは前癌段階では、組織内で産生される抗原量は極めて少量で血中レベルとなると更に微量となり、測定上非常に制約を受ける。そこで、癌(腫瘍)抗原以外にも「宿主側が癌の存在によって防御的に産生する物」=自己抗体も癌マーカーとして知られている。Hanash教授らのグループは、プロテオーム手法を用い、肺癌患者血清中に存在する自己抗体を標的に肺癌マーカー候補の検索した結果、肺Adennocarcinoma患者血清中に37~40%の頻度でAnnexin-I&IIに対する自己抗体の存在を明らかにした。この報告を契機に本手法を用いて癌(腫瘍)マーカー候補が数多く発見・同定されている。癌(腫瘍)抗原に対する自己抗体の検出は、分子生物学的手法と比較して、検体(血清)の入手が容易であり、測定手法も比較的簡便であり、同定された癌マーカーが臨床医学の現場で応用が期待される。 本シンポジウムでは、これまでの我々の成果(肺癌、食道癌、非ホジキンリンパ腫)を交え、自己抗体を標的にした癌診断マーカー検索法(Autoantibodiomics)の有用性について報告する。
  • 尾野 雅哉, 根岸 綾子, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    臨床検体を対象としたプロテオミクス解析では、単なる個人差によるタンパク質発現の変動を全くの偶然で統計学的に有意なバイオマーカーと判定してしまうことがある。特に小数例の群間比較や、多数の変数を組み合わせて行うマルチマーカー解析ではこの危険性が高い。臨床的に意義のある安定な結果を得るには充分な症例数の解析と独立した検体での検証が必要である。例えば1000個の変数(蛋白質)が観測される系で10例と10例を比較す ることを仮定した計算機シミュレーションを行うと、偶然に90%以上の判別率のバイオマーカーを誤発見する期待値は1を超えるが、40例と40例の比較では1.6x10E -10に抑えることが出来る。。
    我々が開発してきた2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of LC-MS)法はnanoLC-MSから得られるデータを直接比較定量解析できるためスループットが高く、1時間で10万を超えるペプチドの定量解析が可能である(Ono et al., Mol Cell Proteomics 2006, 5:1338)。また煩雑で、再現性を下げ、検体の損失を伴う可能性の高いタンパク質標識が不要で、感度・網羅性が高く、100 fmolレベルのタンパク質が検出可能である。今回さらに2DICAL法を多数例の臨床サンプルの解析に用いるため、液体クロマトグラフィーや質量分析器などのハード面を検討し、再現性と感度を向上させたことに加え、多数症例間の液体クロマトグラフィーの時間補正、群間比較とスペクトラムの可視化が可能なソフトウエアの開発、有意なピークのMS/MSによるタンパク同定の精度の向上を行った。
    本法により検討された膵がん症例38例と対照者39症例の比較定量血漿プロテオーム解析の結果を例示し、その是非について解説する。
  • 大石 正道, 二井 祥仁, 大草 洋, 藤田 哲夫, 岩村 正嗣, 馬場 志郎, 小寺 義男, 前田 忠計
    セッションID: S-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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     疾患プロテオーム解析においては、ヒトの疾患臓器に含まれる全タンパク質が解析対象となるが、どの手法を用いた場合でも、高分子量タンパク質、微量タンパク質、膜タンパク質は解析が難しい。この問題を解決するために、さまざまなサンプル調製法や解析法が工夫されてきたが、すべての臓器に対応した共通の実験プロトコールは存在しない。我々の研究グループは、一次元目にアガロースゲルを用いる二次元電気泳動法(アガロース2-DE)で、主に分子量10万以上の高分子量タンパク質をターゲットに解析を行ってきた。ところが、ヒト腎細胞癌の手術検体を研究材料に、ラット腎臓と同一の実験プロトコールを試したところ、抽出できたタンパク質の種類とタンパク量はともに少なく、タンパク質成分を十分に可溶化できていなかった。そこで、本研究では、ヒト腎臓組織の破砕方法とタンパク質成分の抽出条件について以下の4種類の方法(1)~(4)を比較し、ヒト腎臓組織のプロテオーム解析に最適な条件を決定した。その結果、テフロン-ガラスホモジナイザー中でホモジナイズ後に、(1)超音波破砕を行う方法、または(2)Glass Beads を加えてVortexで攪拌する方法は、(3)テフロン-ガラスホモジナイザーでホモジナイズしただけの場合よりも、大幅にスポット数とタンパク量を増やすことができた。一方、(4)市販のホールクルード抽出キット(C-PEK)を用いたタンパク質抽出法は、(2)の方法に比べて、タンパク質成分のスポットが少ないだけでなく、高分子量(60-300kDa)で塩基性(pH7-9)のスポットがほとんど検出されなかった。以上の結果から、アガロース2-DEを基盤としたプロテオミクスでは、できるだけ多くの種類の高分子量タンパク質を検出し、個々のスポットに関してはLC-MS/MSによる同定に必要なタンパク量を確保できるかが重要であるため、解析対象の臓器に適したサンプル調製法の検討が新規腫瘍マーカー探索には不可欠である。
  • 平野 久, 荒川 憲昭, 川崎 博史, 高橋 枝里, 増石 有佑, 岩船 裕子, 岡山 明子, 井野 洋子, 山中 結子
    セッションID: S-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    質量分析装置(MS)を用いて疾患関連タンパク質を高感度、高精度かつハイスループットで検出・同定できる方法や、検出された疾患関連タンパク質の動態、機能や機能ネットワークを解析し、バイオマーカーや創薬ターゲットとしての有効性を評価する方法の開発研究が発展してきた。特に、トリプルステージ四重極MSや四重極リニアイオントラップ(LIT)MSを用いてバイオマーカーや翻訳後修飾を受けたペプチドを選択的に検出できる Multiple Reaction Monitoring(MRM)法、LIT MSを用いてペプチドのN-Cα結合を切断できる電子移動解離(ETD)法、MSと組み合わせてタンパク質の定量的ショットガン分析を行うことができるiTRAQ法の発達などには注目すべきものがある。また、翻訳後修飾を受けたタンパク質を網羅的に検出するためのプロテインチップはかなり実用的なものになってきた。演者らが開発したDLC基板を利用したプロテインチップに電気泳動で分離されたタンパク質を固定化することにより、チップ上で修飾タンパク質の検出、MSによる同定が可能になった。演者らは、iTRAQやプロテインチップなどの技術の導入を図りながら卵巣癌や川崎病などに関連するタンパク質の解析を行っている。卵巣癌については、癌組織や培養細胞で特異的に存在量が変動するタンパク質を検出・同定することができた。そして、mRNAやタンパク質の発現解析によって同定されたタンパク質と卵巣癌との関連を確証した。これまでに中空繊維膜を用いて試料を前処理した後、ショットガン質量分析を行うことによって3千種類ほどの血漿タンパク質を検出・同定できることを示したが、この方法を用いて卵巣癌組織で特異的に検出されたタンパク質を血液中で同定することができた。また、iTRAQ法によっても血液中の卵巣癌関連タンパク質を定量的に分析できることがわかった。
一般演題
  • 瀬尾 宜嗣, 岡野 哲也, 阿部 信二, 斉藤 好信, 臼杵 二郎, 吾妻 安良太, 工藤 翔二
    セッションID: 1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    <背景> 間質性肺炎は予後不良の疾患であり、時に急性増悪と呼ばれる致死的な病態が出現する。急性増悪に明らかに有効といえる薬物療法は確立されていないが、一般的にステロイド大量療法が用いられ、免疫抑制剤も併用される。さらに我々はARDSに対して効果を認めるエンドトキシン吸着療法(PMX療法)を行い、一定の効果を認めている。 <目的> 間質性肺炎の急性増悪症例の血清のプロテオーム解析を行い、急性増悪に関連するタンパク質を同定する。またPMX療法の効果に関連するタンパク質を同定する。 <方法> PMX施行開始後30日以上の生存を認めた症例(奏効例)と認めなかった症例(無効例)の2群間でPMX施行前後の血清タンパク質発現の異常を解析した。、間質性肺炎急性増悪症例6例の全血清75㎕からアルブミンなど比較的量の多い血清タンパク質とそれ以外のタンパク質をアフィニティースピンカラムで分画し、分画されたタンパク質をさらに蛍光二次元電気泳動法を用いてタンパク質発現プロファイルを作成した。 <結果> 奏効例:3症例、無効例:3症例の解析では、2群間で、約1215タンパク質スポットの中から44タンパク質スポットの有意な発現差を認めた(p<0.01)。奏効例の解析ではPMX療法前後で発現が有意に変化したものは27タンパク質で、これに対して無奏効例で有意に変化したものは10タンパク質であった。奏効例においてはPMX施行により約50倍もタンパク質発現が低下を認めたスポットも存在した。 今回の解析で発現異常を認めたタンパク質は、間質性肺炎急性増悪の予後のbiomarkerやその病態に解明に役立つと考えられる。
  • 水谷 英明, 弦間 昭彦, 峯岸 裕司, 宮永 晃彦, 須藤 淳子, 小斉平 聖治, 野呂 林太郎, 奈良 道哉, 岡野 哲也, 吉村 明修 ...
    セッションID: 2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    【背景】間質性肺炎には高頻度に肺癌が合併することが知られており、その発癌機序、生物学特徴を明らかにすることが予防、治療の上で不可欠と考えられる。TGFβは本症において恒常的に発現が亢進しており、癌化と密接に関わっている可能性がある。また、TGFβによるEpithelial to mesenchymal transition (EMT)は浸潤、転移にも深く関わっている。 【目的】肺癌細胞株を用いてTGFβ曝露下での細胞シグナルの変化から間質性肺炎合併肺癌の癌化、浸潤・転移のメカニズムを明らかにする。 【方法】我々は、肺癌細胞株A549,Calu-6,SK-Lu 1,VMRC-LCD,IP-LKM(当科樹立間質性肺炎合併肺癌細胞株)をhTGFβ1曝露下における細胞形態変化、細胞増殖能変化(MTT assay)でスクリーニングし、TGFβ感受性株について、TGFβによるその発現プロファイルの変化をcDNAアレイ、抗体アレイ、二次元電気泳動(2D-DIGE)にて確認した。 【結果】肺腺癌細胞株A549は、hTGFβ1添加により著明に細胞増殖が抑制され、細胞形態的にEMTを示した。ウエスタンブロットにて上皮系マーカーの低下、間葉系マーカーの上昇を認め、EMTを確認した。抗体アレイの解析では、TGFβ添加により4タンパク質の発現亢進と4タンパク質の発現低下が認められた。また、2D-DIGEによる約2000のタンパク質スポットの発現解析では53のタンパク質の優位な発現変化を認めた。今後、これらの情報を基に機能解析を施行する予定である。
  • 吉田 浩一, 西村 俊秀, 中野 智世, 西山 隆太郎, 海老沢 舞子, 矢倉 久仁子, 板東 泰彦, 平野 隆, 加藤 治文
    セッションID: 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    臨床プロテオーム研究の探索的段階において、研究計画から適切な試料採取までに多大の時間が掛かり、研究スピードを遅くしているひとつの要因である。医学部病院など研究機関には,ホルマリン固定組織が臨床データ(経緯,薬物応答,毒性等)や患者背景とともに保管されている。このような保管試料を用いることができれば癌プロテオーム研究を加速できる。筆者らは、ホルマリン固定組織切片からのタンパク質解析を可能とする新規抽出技術を適用し、レトロスペクティブな探索的プロテオーム解析を実施している。このような探索的研究から見出されたマーカー候補群は、別のグループの試料により特異性を検証したのち、その有用性をさらに大きな規模の群で証明することにより新規治療法の開発に役立てたいと考えている。 本研究では、肺癌患者由来組織切片を用いて3群の比較解析を行った。内訳は次の通りである。転移(+)では、原発癌組織および転移先の癌組織(患者数6)において、また転移(-)では原発癌組織(患者数7)。なお、インフォームドコンセントの承諾を得られた試料を本研究に用いた。ホルマリン固定された組織試料から蛋白質をペプチドとして抽出する技術はLiquid Tissue®がと名付けられる。特殊コートされたスライド(Director™)上に乗せた組織からマイクロダイセクション (laser micro-dissection: LMD) (Leica社製LMD6000システム) を用いて癌細胞群を収集した。Liquid Tissue®からなる抽出システム(ExCellerator™)により可溶化し、プロテオーム解析に用いた。なお、本抽出法は膜蛋白質も効率よくペプチドとして抽出する利点がある。 本発表では、上記の新しい戦略に基づくプロテオーム解析技術の検討、およびこれを用いた肺癌転移因子に関する解析結果につき報告する。
  • 林 正周, 山縣 彰, 大房 健, 高田 俊範, 別役 智子, 西村 正治, 中田 光
    セッションID: 4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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     慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は2020年に世界の死因の第3位にのぼると予想されており、その予防及び治療は極めて重要である。COPDの最大の原因は喫煙であるが、臨床的にCOPDが顕在化するのは喫煙者の20%以下にとどまっている。個体感受性に関わる因子が存在すると考えられるが、不明な点が多い。今回我々は、喫煙者のうち胸部CT上で軽度の気腫病変が存在する群、存在しない群及び非喫煙者の3群の気管支肺胞洗浄液(BALF)のプロテオーム相違解析を行った。BALFは検体取得の点からはやや困難ではあるが、そのタンパク質組成は肺内の環境をよく反映していると考えられる。解析方法として、得意とする分子量の範囲が互いに相補的と考えられる二次元電気泳動及びSELDI-MS法を用いた。二次元電気泳動では、各群の検体をプールし、アセトンで沈殿させlysis bufferに溶解し、泳動後SYPROルビー染色を行った。二次元電気泳動解析ソフトウエアによって、気腫病変が存在する群、存在しない群で発現量が異なる複数のスポットが見つかった。これらの発現量の異なるスポットを既存のBALFデータベースから推定すると、気腫病変が存在する群でSP-A、transferrinは減少し、immunoglobulin、hemoglobin β chain、α-2 macroglobulinは増加することが示された。SELDI-MS法では、陰イオン交換チップ及び陽イオン交換チップを用い相違解析を行った。その結果、気腫病変が存在する群において15850Daのピークが有意に低下していた。今回の解析で我々が発見したスポット及びピークはCOPDの発症に関与する因子である可能性が考えられ、現在同定作業を進めている。
  • 津留 美智代, 永田 見生, 佐田 通夫, 松岡 啓, 山名 秀明, 田中 眞紀, 竹内 正弘, 角間 辰之, 前田 忠計, 山口 岳彦, ...
    セッションID: 5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    我々は、骨転移特異的タンパク質を発見し、昨年より臨床試験を開始した。 【目的】現在、骨シンチによる骨転移後の確定診断方法しかない (1)がんの骨転移を骨シンチよりも早期に発見できるものが必要、(2)血液、尿からの検出可能な骨転移特異的タンパク質の検索が必要、(3)がん患者のQOLを高める必要がある【対象】消化器癌、前立腺癌、乳癌、他 ヒト血液【臨床試験】医師研究者主導型臨床試験【経過報告】(1)骨シンチの確定診断より、6ヶ月~1年前血液から測定可能である、(2)臨床検査末梢血からの測定が可能である、(3)骨転移の増悪とタンパク質の容量依存性が見られる、(4)原発部位切除後も血液中に存在している、(5)原発完治患者の定期的検査により、転移による精神的不安を解消し、がん治療に前向きなケアが可能である。
  • 田伏 洋子, 武内 徹, 中西 豊文, 田窪 孝行
    セッションID: 6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    【目的】関節リウマチ(以下RA)は関節破壊・変形を起こす疾患であるが、未だその機序は明らかにされていない。1998年、SchellekensらがRAに対して非常に特異的な抗体として抗CCP(cyclic citrullinated peptide)抗体を報告し注目されている。この抗原となるシトルリン化タンパクの同定はRAの病態解明に有用だと考えられており、現在迄に主に滑膜の免疫染色を用いて幾つかのタンパクが証明されている。また、関節破壊の炎症を直接反映していると考えられる関節液中のシトルリン化タンパクを解析する事はRAの病態解明に有用であると考えられる。今回我々はRAの関節液中シトルリン化タンパクをプロテオミクスの手法を用いて同定した。 【方法】RA関節液(10検体)をヒアルロニダーゼ処理後、可溶化緩衝液にて処理し、50μgタンパク量をSDS-PAGEした後、PVDF膜に転写した。ブロッキング後一次抗体に抗シトルリン抗体を用い、ECLplusにて陽性スポットを検出した。 併行してRA関節液をSDS-PAGEしたものを銀染色し、抗シトルリン抗体に反応した部位のバンドを切り出し、ゲル内トリプシン消化行った。MALDI/TOFMSを用いトリプシン消化物のタンパクの同定を行なった。 【結果】RA関節液中に、3種類のシトルリン化タンパクを見い出した。 【結語】プロテオミクス手法を用い、関節液中のシトルリン化タンパクを同定する事ができた。本法はシトルリン化タンパクの検出に有用であり、今後他の候補タンパクを同定し、RAの病態解明や検査に役立つ可能性が示唆された。
  • 赤津 裕康, 小川 倫弘, 水上 勝義, 石井 俊, 鈴木 秀昭, 片桐 拓也, 山本 孝之, 小阪 憲司, 内田 和彦, 朝田 隆
    セッションID: 7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    目的:アルツハイマー病(AD)はアミロイドβ(Aβ)の蓄積が原因であると考えられている。Aβワクチン療法はヒトの剖検脳所見でAβ沈着が抑制されていた現象が認められた。これはAβが免疫作用で排出・分解されている事を示している。脈絡叢は脳脊髄液産生を担っていると同時に、脈絡叢上皮細胞は血液脳脊髄液関門の実体である。脈絡叢にAβが存在することも免疫染色法により示され、AD患者脈絡叢では形態異常が報告されている。脳脊髄液中Aβ42の濃度がADで減少する知見は、Aβの排出機構と脈絡叢との関係を示唆し、脈絡叢タンパク質が新たな創薬ターゲットとなる可能性がある。 方法:Aβ排出での脈絡叢システムに注目し脈絡叢とADの関係をタンパク質レベルで解明するため、複数例のAD患者と性・年齢を一致させたコントロール(CN)との差異解析を行った。神経病理学的にADと診断された症例及びNCの剖検脳脈絡叢からタンパク質を抽出し、二次元電気泳動ディファレンシャル解析(2D-DIGE)を行った。2D-DIGEには、タンパク質を蛍光色素CyDyesで多重標識するEttanDIGE法を用いた。 症例は全て書面にて遺伝子・蛋白解析等の研究に凍結脳を用いる事が明記された承諾書を遺族より得ており、福祉村病院倫理委員会の承認を得ている。 結果:解析ソフトによる統計解析の結果、AD群とNC群間で蛋白質発現量の変化が認められる複数のスポットを検出した。 考察:AD脈絡叢で正常群と比べて発現蛋白の違いを認めた。今後、髄液成分・血液成分の解析とその混入の可能性を否定できれば脈絡叢が病態に関与している可能性が示唆される。これらの蛋白質について、ペプチドマスフィンガープリント法を用いて同定し、ADとの関連およびAβ排出機構における脈絡叢システムの役割を検討する予定である。
  • 中田 光, 林 正周, 山縣 彰, 大房 健, トラップネル ブルース
    セッションID: 8
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、肺胞マクロファージの終末分化を促し、肺末梢気道のホメオスターシス維持に役立っているが、肺におけるGM-CSFの究極的な役割については不明なままである。このことを明らかにするために、我々は、GM-CSF欠損マウス(GM-/-mice)とGM-CSF過剰産生マウス(SPC-GM+/+/GM-/- mice)のBALFの二次元電気泳動解析をおこなった。GM-/-miceは肺胞蛋白症、SPC-GM+/+/GM-/- miceはDIP様の病像を呈する。GM-/-miceBALFではcontrol miceに比べて3.3倍の蛋白量が回収されたが、二次元電気泳動上のスポット数では、control mice 407 個に対して365個と減少していた。スポットの相違解析では、ヒト肺胞蛋白症で肺胞内貯留が知られているSP-Aに加えて5~6スポットの異常増加が認められた。一方、SPC-GM+/+/GM-/- miceでは蛋白量はcontrol miceの2.2 分の1と著減していたが、二次元電気泳動上確認されたスポットは477個と増加していた。また、controlとの相異解析で異常増加が認められた蛋白には、マクロファージ由来と思われるcithinase, Glutathion S transferase, SP-B precursorと相同性が高いSulfated 50kDa glycoprotein precursorなどが含まれていた。今後、この網羅的相違解析を進め、肺におけるGM-CSFの機能を明らかにしていきたい。
  • 阿部 康人
    セッションID: 9
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    腫瘍マーカー検索は吸収法を用いた異種液性免疫系による新規血中抗原物質同定法からモノクローナル抗体作製法に基づく腫瘍関連抗原同定法へと変化し、さらに近年、プロテオーム解析技術向上に基づいて蛋白質の網羅的差異表出法による新規腫瘍関連抗原同定法へと主軸が移り、現在多くの施設において新規腫瘍マーカーの検索が盛んである。そういった状況の下、自己の液性免疫系による抗原認識すなわち自己抗体産生に基づいて、その自己抗体の認識する抗原同定法に端を発し、抗原ではなく自己抗体そのものを標的とした新しいタイプの腫瘍マーカーが検索されている。教室では口腔扁平上皮癌および膵癌について、患者血清中に存在する自己抗体に着目し、プロテオーム解析技術を用いて腫瘍関連自己抗原の認識する抗原の同定を行ってきた。一連の研究によって、口腔扁平上皮癌においては血清中抗sideroflexin3自己抗体、膵癌においては血清中抗PGAM1ならびに抗TPI1自己抗体を同定し、患者血清での測定結果、感度、特異性ともにすぐれた新規腫瘍マーカーを同定した。前者は早期口腔癌での進行度非相応的な上昇を特徴とし、免疫組織学的検討において正常の扁平上皮基底層に発現が高く認められることから、早期浸潤癌での自己抗体上昇が支持され、早期スクリーニングマーカーとしての可能性が示されている。後2者では、膵癌に特化したスクリーニングならびに膵癌鑑別診断能を有することが示され、免疫組織学的検討によって腫瘍組織で高発現していることからそれらが支持され、膵癌の予後改善という危急的課題解決の一歩となる可能性が示されている。これら血清中自己抗体は、原理的に0.1μlという超微量血清で測定可能であることもあって、新しいタイプの腫瘍マーカーとして今後の展開を計画している。
  • 小谷 博子, 比企 能之, 岩瀬 仁勇, 下郷 紗智子, 高橋 和男, 杉山 敏
    セッションID: 10
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
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    【目的】ヒトのIgA1のヒンジ部の糖ペプチドは、Pro,Ser,Thrで 構成され、糖鎖構造的に微小不均一性にとんだO-結合型糖鎖を持つ。  我々は、これまでIgA腎症、慢性糸球体腎炎、健常人各10名ずつのプール血清を用い、IgA1を高純度に精製し、ESI/LC/MSで各糖鎖の,GalNAc, Gal, Sialic acid の構成を明示し、IgA腎症では糖鎖不全の糖ペプチドが増加していることを示した(BBRC, 2000,271:268)。しかし分子量のみでのピークの同定であった為、糖ペプチドとしての正確な組成を同定していなかった。今回、個々のヒト血清由来のIgA1ヒンジ部O結合型糖ペプチドを精製し、同定されたピークにつき、それらの糖鎖構造のGalNAc、Gal、Sialic acidの組成及び結合位置を確認する目的でESI/Ion-Trap/MS/MS解析を行った。さらに、GalNAcの結合位置を明らかにする目的で合成ヒンジ部コアペプチドを用いてMS/MS解析を行った。 方法 ヒト血清より抗IgAカラムで分離したIgA1をトリプシン消化し、ジャカリンレクチンアフィニテイカラムでO-結合型糖ペプチドとしたものを分取し、HPLCで脱塩濃縮後、ESI/LC/ION-TRAP/mass spectrometry にて、CID-ms/ms 測定を行った。また、糖鎖のペプチド上の結合位置を検討するため、合成ヒンジ糖ペプチドも用いて同様の検討を行った。 結果 1.分子量のみでの同定ピークについて、それらの糖鎖構造のGalNAc, Gal、Sialic acidの構成を確認し、糖ペプチドであることを明らかにした。 2. 合成ヒンジペプチドを用いたms・ms解析から、糖鎖の結合位置を確認した。 3. CID-MS/MS解析により、IgA1ヒンジ部O-結合型糖鎖のいわゆるhypoglycosylatedな糖ペプチドが観察された。
  • 菊池 哲, 本田 一文, 半田 康, 加藤 秀則, 山下 幸紀, 土田 明彦, 青木 達哉, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: 11
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】子宮体癌は年々増加傾向にあり、子宮癌に占める割合は2000年では約40%に達している。危険因子としては未婚、不妊、また、高血圧、肥満、糖尿病などの既往症が挙げられている。また、近年増加している、乳癌術後のホルモン療法として用いられるタモキシフェンを内服している患者では、子宮体癌が発生する頻度が通常より2~7倍高いと報告されている。このように現代の生活習慣との関係が指摘されるほかに、これから高齢化社会を迎える我が国において、子宮体癌患者を非侵襲的に診断する方法の開発が必要である。 【方法】2001年から2004年9月までに北海道がんセンター婦人科にて子宮体癌と診断され外科治療を受けた子宮体癌患者92例と対照者33例(悪性腫瘍の罹患歴がなく、子宮脱にて外科治療を受けた16例の術前採血された血清、および正常者17例)の血清のアルブミン結合ペプチドを四重極搭載高分解能MALDI質量分析装置をつかってペプチドプロファイルを取得するという方法にて解析を行った。 【結果】2,000から30,000 m/zで507本のピークを検出した。そのうち、ROC曲線下面積が0.8以上、Mann-Whitney検定のP値が0.000001となるピークを3本選択し、スペクトルの目視で確認した。対照者の平均値+(標準偏差の2倍値)をカットオフとすると、3本のピークの組み合わせにおいて感度65%(60/92)、特異度93.9%(31/33)で子宮体癌患者を検出することが可能であった。さらに手術病期が0期や_I_期の早期症例でも、それぞれ感度67% (4/6)、60% (38/63)で検出可能であった。 【考察】これらのマーカーは単独で診断に応用するのは難しいものの、既存のマーカーであるCA125より優れており、内膜細胞診などの補助検査として臨床応用可能性があると考えられた。
  • 川上 隆雄, 荻原 淳, 加藤 治文
    セッションID: 12
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    演者らのグループでは、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC-MS/MS)によって各臨床検体から取得されるペプチドプロファイルを比較するアプローチを採用し、これまでにいくつかのバイオマーカー候補蛋白質を同定してきた。この手法の利点のひとつは、ペプチド由来の生成イオンスペクトルと蛋白質配列データベースとの照合から効率良くペプチドの同定結果が得られることである。しかしながらその結果は一般に多くの偽陽性ヒットを含むため、同定のグレーゾーン付近における正確な評価が必要である。 そこで、同定結果を多面的かつ客観的に評価するための基準をあらたに設け、あらかじめ設定した基準値から外れたペプチド同定を偽陽性ヒットとして除く手順を採った。簡便な評価法として最近考案したのは、逆相LCにおけるペプチド溶出時間の実測値と予測値との相関を見出す方法である。この両者の相関は古くから知られているが、確率スコアにしたがって各ペプチド同定に相関への寄与に対する重みを付け、回帰式を容易に算出することを可能にした。また、軽水素/重水素(H/D)交換反応によるペプチド分子の質量シフト値を同定の評価に用いるための検討も進めている。 網羅的な解析手法を用いた探索段階では、候補分子の列挙に続く検証実験を成功裏に進める上でも、結果に対して可能な限りの信頼性を確保しておくことが重要である。
  • 岡野 哲也, 弦間 昭彦, 武村 明, 渋谷 昌彦, 松田 久仁子, 奈良 道哉, 野呂 林太郎, 峯岸 裕司, 吉村 明修, 工藤 翔二
    セッションID: 13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肺癌治療の成績向上に化学療法の果たす役割が期待されているが、効果は十分なものとは言えず、その原因として抗癌剤耐性化や不応症例の問題が考えられる。今回、肺癌細胞株を用いたプロテオーム解析にて、新規抗癌剤の一つであるジェムシタビンについて感受性因子の検索を試みた。【方法と結果】ジェムシタビン感受性である肺腺癌細胞株PC9と当科で樹立したジェムシタビン耐性を有する高転移株PC9/f14の2つの株で、224の抗体を用いたAntibody arrayによりタンパク質発現プロファイルを作成し、薬剤感受性因子のスクリーニングを行った。Antibody array 解析において、ジェムシタビン暴露後に感受性株ではCalponinの発現上昇を認め、一方、耐性株においてはBcl-Xタンパク質の発現亢進が認められた。次にジェムシタビン暴露後のapoptosis誘導についてFlow CytometryとTunnel法を用いて解析を行った。感受性株のPC9と比べて耐性株のPC9/f14においては、Flow CytometryとTunnel法のいずれにおいても明らかにapoptosis誘導が抑えられていた。さらに耐性株においてBcl-X遺伝子発現をsiRNAにて抑制することでapoptosis誘導がなされ、ジェムシタビン感受性の改善が示されるかについて検討した。その結果、耐性株PC9/f14でBcl-X発現を抑制すると明らかにジェムシタビンの感受性が改善を示した。【結語】今回の解析でBcl-Xタンパク質の発現異常が、ジェムシタビン感受性に関わる因子一つである可能性が示唆された。
  • 原 智彦, 本田 一文, 下重 美紀, 尾野 雅哉, 松山 豪泰, 内藤 克輔, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: 14
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】Actinin-4は細胞運動、がん転移、浸潤に関与するとされているが、細胞運動以外の機能も示唆されている。本研究では前立腺がんにおけるactinin-4の発現と機能を解析した。【方法と結果】前立腺がん細胞株(22RV1、PC-3、LNCaP)は正常ヒト前立腺上皮細胞(PrEC)よりもactinin-4の発現量が低下していることをWestern blot法で確認した。前立腺がん29症例の免疫組織学的検討で、正常前立腺管でactinin-4はbasal cellに高い染色率を示し、luminal cellでは低い染色率であった。前立腺がん高分化、および低分化腺がんではbasal cellと比して有意に低い染色率であった。次に22RV1、PC-3において、actinin-4が増殖に与える影響をcolony formation assayで検討すると、actinin-4の過剰発現は細胞増殖を抑制した。Actinin-4の増殖抑制効果について詳細なメカニズムを検索する目的で、22RV1の内因性actinin-4と結合する蛋白を免疫沈降法、質量分析、Western blot法にて同定および確認すると既知結合タンパクであるβ/γ-actinの他にclathrinやclathrin以外のendocytosis関連分子と複合体を形成していた。免疫蛍光染色法でdynamin、clathrinはmembrane rufflingのdorsal sitesでactinin-4との局在が一致した。以上よりactinin-4はendocytosisに影響すると推測された。Transferrinはendocytosis により局在が変化することが知られており、actinin-4の強制発現下でtransferrinの取り込みを観察すると、transferrinのperi-nuclear endosomesへの輸送が引き起こされた。また細胞小器官分画法およびICAT-MS法を用いて、actinin-4の過剰発現が与える細胞内タンパクの変化を網羅的に検討したところ、22RV1のactinin-4の過剰発現はタンパク質の局在変化に影響を与えていた。【結論】Actinin-4は物質の細胞内輸送に関与し、actinin-4の発現低下が前立腺の発がん、増殖過程に関与している可能性が考えられた。
  • 日和佐 隆樹, 島田 英昭, 加賀谷 暁子, 瀧口 正樹, 落合 武徳
    セッションID: 15
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    SEREX(serological identification of antigens by recombinant cDNA expression cloning)法は癌細胞由来の cDNA 発現ライブラリーの中から患者血清中の IgG 抗体が認識する抗原遺伝子を同定する方法であり、癌抗原のスクリーニング法として優れている。我々は SEREX 法により食道扁平上皮癌患者血清を用いてスクリーニングを行ない、計 450 クローン、325 種類の SEREX 抗原を同定した。この中には ferritin や keratin19 等の既存の腫瘍マーカーが含まれており、SEREX 法が適切に施行されたことが確認された。得られたクローンについて、ウエスタン法により、複数の食道癌患者血清中において抗体の存在が確認された抗原クローンを選別した。次に、得られた cDNA を GST-融合タンパク質発現ベクター pGEX に組換え、合成された融合タンパク質を精製して ELISA 法により血清抗体のレベルを測定した。その結果、SLC2A1、TRIM21 等の抗原に対する抗体価は健常者血清に比べ、患者血清において有意に高いことが判明した。また、血清 TRIM21 抗体の存在は予後と、血清 TROP2 抗体の存在は腫瘍のサイズと関係していることがわかった。次に、これらの血清抗体を既存の腫瘍マーカーと組み合わせて陽性率を調べた結果、血清 TROP2 抗体は SCC-Ag と組み合わせると 60_%_、血清 SLC2A1 抗体は CEA と組み合わせると 47_%_、血清 TRIM21 抗体は SCC-Ag と CEA を組み合わせると 60_%_近い確率で診断できることが判明した。従って、これらの SEREX 抗原は新規の腫瘍マーカーとなり、その血清抗体の解析は食道扁平上皮癌の診断に有効であると考えられた。
  • 松本 和子, 横手 秀行, 前川 麻里, 田中 薫, 藤田 至彦, 荒尾 徳三, 小泉 史明, 藤原 康弘, 西尾 和人
    セッションID: 16
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    抗体薬の抗腫瘍効果を示すメカニズムとして、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)、補体依存性細胞傷害活性(CDC)が重要視されている。ADCC活性は、Fc受容体をもつNK細胞による免疫応答に起因する抗体薬の主要な抗腫瘍効果発現機序である。近年の研究より、抗体に付加される糖鎖の構造の違いがADCC活性に大きく影響することが示されている。すなわち糖鎖におけるフコース含有量の低い低フコース型抗体は、高フコース型抗体に比べ著しくADCC活性が高まることが報告されている。今回、我々は、Trastuzumab投与を受けた乳癌患者血清を用いて、抗体の糖鎖修飾においてその修飾酵素であるα1-6フコシルトランスフェラーゼ及びフコシダーゼの血清内における活性の測定系を確立し、酵素活性と抗体の糖鎖修飾について検討した。フコシダーゼ活性は合成基質である4-nitrophenyl-α-L-fucopyranosideを用い、酵素反応の結果生ずる生成物、4-nitrophenolを分光光度計により測定した。α1-6フコシルトランスフェラーゼ活性は蛍光基質を用いて生成物を、逆層高速液体クロマトグラフィーにより分離、定量した。本酵素活性測定系は、少量の血清を用いて測定可能であり、今後、臨床効果との相関を調べ、抗体薬のバイオマーカーとしての有用性を検討する予定である。
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