ジャスモン酸は病虫害,傷害などの環境ストレス応答におけるシグナル物質として機能するだけでなく,花粉の成熟,塊茎形成,蔓の巻き付きなど植物の生長を制御する重要な植物ホルモンである.ジャスモン酸を介したシグナル伝達経路については,分子遺伝学的な研究から,F-boxタンパク質のCOI1を中心とした経路の存在が複数の植物種において示されており,また,ジャスモン酸応答性遺伝子の発現制御に関わる転写因子も報告されていた.しかしながら,ジャスモン酸の受容から転写制御に至る一連のシグナル伝達の説明に必要な鍵因子が長い間未同定であった.近年,COI1のターゲットであるJAZリプレッサータンパク質ファミリーがシロイヌナズナで同定された.この発見により,植物におけるジャスモン酸の受容機構を含むシグナル伝達に対する理解が大幅に深まった.本稿では,最新の情報を含めその分子機構について解説する.
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