示差走査熱量測定(DSC)とX線回折(XRD)ならびにフーリエ変換赤外分光測定(FTIR)との同時測定法の概要と,高分子の結晶化過程を同時測定で測定した場合どのような情報が得られるかを,ポリエチレンテレフタレート(PET)を例にガラス状態ならびに溶融状態からの結晶化過程について解説した。DSC-XRD同時測定からは,近距離秩序ならびに長距離密度ゆらぎと長周期構造などの空間秩序が,結晶化発熱のどのような段階で形成されるかを,またDSC-FTIR同時測定からは,分子鎖コンホメーションの秩序化が結晶化発熱ならびに空間秩序形成とどのような関係があるかを知ることができる。同時測定からPETの結晶化メカニズムは次の様に考えられる。π電子相互作用によって芳香環のスタックが起こり,分子鎖の配向が始まり,これによって長距離密度ゆらぎが生じる。この過程が結晶核形成過程である。次に結晶化発熱の大部分を占める,エチレン鎖のコンホメーション秩序化と乱れた短距離秩序形成ならびにπ電子相互作用が働く
b軸の秩序化が起こる。この過程が結晶成長過程となる。その後,
a軸方向の秩序化とコンホメーションの整合が起こり,長周期が形成される二次結晶化過程となる。ガラス状態からの結晶化と溶融状態からの結晶化では,核形成過程で形成される長距離密度ゆらぎの大きさと,二次結晶化過程で起こるコンホメーションの整合過程に相違が観察される。
抄録全体を表示