水溶液中におけるタンパク質の構造の安定性は天然状態とランダムにほどけた状態間で記述される変性の自由エネルギーで表される。この変性の自由エネルギーはタンパク質とまわりの溶液分子との相互作用による水和の自由エネルギーと真空中の分子内相互作用からの自由エネルギーの2成分の寄与に分けられる。
水和の自由エネルギーは低分子の熱力学量から決定されたパラメータを使ってタンパク質を構成している原子団と水の接触表面積から計算される。同様に,真空中の分子内相互作用も10個のタンパク質の変性データから決定された真空中の自由エネルギーを使って表面積から計算することができる。我々の方法は変性の熱力学量をタンパク質の立体構造から計算することを可能にした。データベースに含まれていない別の4個のタンパク質に対しても適用できたので,この方法は一般性があるると思われる。変性の自由エネルギーとエンタルピーの温度依存性の予測も行うことができT4リゾチームに対して適用した。この予測された温度依存性は観測された温度依存性と似ており,また計算値は温度を下げることによって生ずる低温変性を予測している。また,この方法をポリ(L-アラニン)のα-ヘリックスに対してヘリックス-コイル転移の熱力学に適用した。予測されたエンタルピー変化は50残基からなるアラニンが主成分のα-ヘリックスに対する最近の熱容量による測定値と似た値になり,α-ヘリックスの形成はエンタルピー駆動型でおこることが実験的に知られているが理論的にも確かめられた。
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