熱測定法により抗微生物薬における薬剤作用を定量的に解析した。抗微生物薬として,パラオキシ安息香酸エステル(パラベン)類を用いた。先に報告した多試料同時計測微生物活性解析装置を用い,パラベン類を種々の濃度で含む増殖培地中での
Klebsiella pneumoniaeならびに
Saccharomyces cerevisiaeの増殖サーモグラムを観測した。パラベン類の影響を増殖の時間遅れの観点から解析することにより,50%増殖抑制濃度(
Kθ)を求め,さらにその薬剤濃度依存性から薬剤作用曲線を描いて,薬剤効果を評価した。薬剤作用曲線から解析して得られた最小発育阻止濃度(MIC)から,メチル,エチル,プロピル,ブチル,ペンチル,ヘキシルの順に薬剤の効果が強くなることが確認された。また50%増殖抑制濃度(
Kθ)より各薬剤の
K.pneumoniaeならびに
S.cerevisiaeの微生物細胞に対する親和力(結合のギブス自由エネルギー変化)を求め,分子の形状と薬剤効果について考察した結果,増殖活性を50%抑制するのに要する薬剤濃度より両微生物に対する薬剤の親和力を求めて比較すると,アルキル鎖の炭素数と親和力との間にきわめて良好な直線関係が成り立つことが認められた。さらに同じ薬剤でも,
K.pneumoniaeよりも
S.cerevisiaeに対する作用が大きく,それが主として膜構造の違いによるものと推測された。これらの結果から,ここで紹介した解析法が抗微生物薬における抗菌作用の定量的解析に有効であると結論した。
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