ネムリユスリカの幼虫はアフリカ半乾燥地帯の岩盤の窪みなどにできた小さな水たまりに生息する。乾季になり水たまりが干上がると,幼虫はカラカラに乾燥するが,次の雨で水たまりに再び水が張ると吸水して1時間以内に発育を再開する。実験室内で48時間以上かけてゆっくり乾燥させた幼虫は,水に戻すとすべてが蘇生したが,数時間で急速に乾燥させた幼虫は蘇生しなかった。前者のゆっくり乾燥させた幼虫の身体には,乾燥重量の20%に相当する大量のトレハロースが蓄積しており,さらにそれがガラス化していることがわかった。一方,後者の急速乾燥させた幼虫体内からはわずかなトレハロースしか検出されなかった。脳を除去したネムリユスリカ幼虫をゆっくり乾燥させた後に水に戻したところ,蘇生した。また,幼虫から摘出した組織を培養下で乾燥させ,水に戻したところトレハロース合成能を持つ脂肪体(脊椎動物の肝臓に相当)については蘇生した。このことからトレハロース合成を含む乾燥休眠の誘導に中枢神経が介さないことがわかった。
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